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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1132370 |
審判番号 | 不服2003-16706 |
総通号数 | 76 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-01-21 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-08-28 |
確定日 | 2006-03-09 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第172622号「インクジェットヘッドおよびその製造方法およびそれを搭載した印刷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月21日出願公開、特開平 9- 20008〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成7年7月7日に出願したものであって、平成15年7月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月19日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成15年9月19日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成15年9月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「ノズルと、該ノズルに連通するインク流路と、該流路の一部に設けられた略長方形の振動板と、該振動板が形成された第1基板と、略長方形の個別電極が形成された第2基板とを有し、 前記第1の基板と第2の基板を積層することにより、所定の空隙をもって対向する前記個別電極と前記振動板の間に駆動電圧を印加し、前記振動板を静電気力により変形させることにより、前記ノズルからインク液滴を吐出するインクジェットヘッドにおいて、 前記第1の基板上における振動板の面積が、前記第2の基板上における個別電極の面積より小さく形成され、かつ、 前記第1の基板と第2の基板を接合したときに、前記個別電極上に、前記所定の空隙を介して垂直投影された前記振動板の輪郭が、前記個別電極の輪郭に包含されるように、前記振動板、前記個別電極が、前記振動板の輪郭の一辺aと対応する前記個別電極の輪郭の一辺bに関する比(b-a)/bが4%以上、15%以下に定められて、前記第1、第2の基板に、夫々配設されていることを特徴とするインクジェットヘッド。」 と補正された。 上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「振動板」と「個別電極」について、「略長方形の」と限定し、個別電極上に垂直投影された振動板の輪郭と個別電極の輪郭の関係について、「前記振動板の輪郭の一辺aと対応する前記個別電極の輪郭の一辺bに関する比(b-a)/bが4%以上、15%以下に定められて」と限定したものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用刊行物 (a)原査定の拒絶の理由に引用された特開平07-125196号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 イ.【0013】図1は本発明の実施例におけるインクジェットヘッドの分解斜視図で、一部断面図で示してある。・・・本実施例におけるインクジェットヘッド10は、下記に詳述する構造を持つ3枚の基板1、2、3を重ねて接合した積層構造となっている。 ロ.【0014】中間の第1の基板1は、シリコン基板であり、複数のノズル孔4を構成するように、基板1の表面に一端より平行に等間隔で形成された複数のノズル溝11と、各々のノズル溝11に連通し、底壁を振動板5とする吐出室6を構成することになる凹部12と、凹部12の後部に設けられたオリフィス7を構成することになるインク流入口のための細溝13と、各々の吐出室6にインクを供給するための共通のインクキャビティ8を構成することになる凹部14を有する。また、振動板5の下部には後述する電極を装着するため振動室9を構成することになる凹部15が設けられている。 ハ.【0015】本実施例においては、振動板5とこれに対向して配置される電極との対向間隔、すなわちギャップ部16の長さG(図2参照、以下「ギャップ長」と記す。)が、凹部15の深さと電極の厚さとの差になるように、間隔保持手段を第1の基板1の下面に形成した振動室用の凹部15により構成したものである。また、別の例として凹部の形成は第2の基板2の上面でもよい。 ニ.【0017】第1の基板1の下面に接合される下側の第2の基板2にはホウ珪酸系ガラスを使用し、この第2の基板2の接合によって振動室9を構成するとともに、第2の基板2上の前記振動板5に対応する各々の位置に、金を0.1μmスパッタし、ほぼ振動板5と同じ形状に金パターンを形成して個別電極21としている。個別電極21はリード部22および端子部23を持つ。さらに電極端子部23を除きパイレックススパッタ膜を全面に0.2μm被覆して絶縁層24とし、インクジェットヘッド駆動時の絶縁破壊、ショートを防止するための膜を形成している。 ホ.【0018】第1の基板1の上面に接合される上側の第3の基板3は、第2の基板2と同じくホウ珪酸系ガラスを用いている。この第3の基板3の接合によって、前記ノズル孔4、吐出室6、オリフィス7及びインクキャビティ8が構成される。そして、第3の基板3にはインクキャビティ8に連通するインク供給口31を設ける。インク供給口31は接続パイプ32およびチューブ33を介して図示しないインクタンクに接続される。 ヘ.【0019】次に、第1の基板1と第2の基板2を温度300℃、電圧500Vの印加で陽極接合し、また同条件で第1の基板1と第3の基板3を接合し、図2のようにインクジェットヘッドを組み立てる。 ト.【0023】図4は本実施例における振動板と個別電極の部分拡大詳細図であり、電荷の様子を模式化して示したものである。第1の基板1にP形シリコンを用い、第1の基板1(振動板5)側、すなわち共通電極17をプラス極性、個別電極21側をマイナス極性にし、共通電極17と個別電極21に駆動回路102によりパルス電圧を印加した場合である。P形シリコンはボロンをドープしており、電子がドープ量だけ不足するので、ドープ量と等しい正孔を持っていることが知られている。P形シリコン中の正孔19は共通電極17のプラス電界により、絶縁層26側へ反発させられる。この正孔19の移動により生じたボロンのマイナス電荷は、基板電極17から電荷の供給を受けるので、第1の基板1はプラス電界となり、空間電荷層を発生せず導体とみなすことができる。また個別電極21側はマイナス電界であり、この結果、印加したパルス電圧が振動板5を撓ませるに充分な静電気による吸引力を発生する。したがって、振動板5は個別電極21側へ撓むことになる。 チ.【図3】から振動板5と個別電極21が略長方形であることが看取できる。 リ.図面から吐出室6は、底壁から上方に向かうに従って末広がりに広がっていることが看取できる。 上記記載及び図面を含む刊行物1全体の記載から、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。 「ノズル孔4と、該ノズル孔4に連通し、底壁から上方に向かうに従って末広がりに広がる吐出室6、オリフィス7、インクキャビティ8及びインク供給口31と、該吐出室6の一部に設けられ、吐出室6の底壁でもある略長方形の振動板5と、該振動板5が形成された第1の基板1と、略長方形の個別電極21が形成された第2の基板2とを有し、 前記第1の基板1と第2の基板2を積層することにより、所定のギャップ部16をもって対向する前記個別電極21と前記振動板5の間に駆動電圧を印加し、前記振動板5を静電気力により変形させることにより、前記ノズル孔4からインク液滴を吐出するインクジェットヘッド10において、 前記第1の基板1上における振動板5とほぼ同じ形状に金パターンを形成して個別電極21としたインクジェットヘッド10。」 (b)原査定の拒絶の理由に引用された特開昭57-093160号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載が図示とともにある。 ヌ.「電気-機械変換振動子の幅をその微少高さの突出面の幅よりも広くして粗な電気-機械変換素子の位置決めであっても正しい接合位置が得られるようにした。」(第2頁右下欄第4〜7行) ル.「各圧力室43に対応する壁50の外側には微少高さhの突出部49が形成される。突出部49の幅baは電気-機械変換効率を最大もしくはそれに近いba/bi比を満足する幅となるような大きさに形成される。」(第3頁左上欄第12〜16行) ヲ.「圧電振動子は突出部49に接する面積部分だけが基板41に対し接合され、両端付近のa1部およびa2部は接合されない。だから、電気-機械変換効率は突出部の幅baと圧力室の幅biとの比ba/biで決まり、振動子の幅bpに影響されない。」(第3頁右上欄第13〜18行) 上記記載及び図面を含む刊行物2全体の記載から、刊行物2には、以下の事項が開示されていると認められる。 「電気-機械変換振動子と圧力室43の壁50の位置決めのために、圧力室43の壁50の突出部49の幅を振動子の幅より小さくすること」 (3)対比 本願補正発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、刊行物1記載の発明の「ノズル孔4」、「吐出室6、オリフィス7、インクキャビティ8及びインク供給口31」及び「ギャップ部16」は、それぞれ本願補正発明の「ノズル」、「インク流路」及び「空隙」に相当するから、両者は、 「ノズルと、該ノズルに連通するインク流路と、該流路の一部に設けられた略長方形の振動板と、該振動板が形成された第1基板と、略長方形の個別電極が形成された第2基板とを有し、 前記第1の基板と第2の基板を積層することにより、所定の空隙をもって対向する前記個別電極と前記振動板の間に駆動電圧を印加し、前記振動板を静電気力により変形させることにより、前記ノズルからインク液滴を吐出するインクジェットヘッド。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点]本願補正発明は、第1の基板上における振動板の面積が、第2の基板上における個別電極の面積より小さく形成され、かつ、前記第1の基板と第2の基板を接合したときに、前記個別電極上に、所定の空隙を介して垂直投影された前記振動板の輪郭が、前記個別電極の輪郭に包含されるように、前記振動板、前記個別電極が、前記振動板の輪郭の一辺aと対応する前記個別電極の輪郭の一辺bに関する比(b-a)/bが4%以上、15%以下に定められて、前記第1、第2の基板に、夫々配設されているのに対し、刊行物1記載の発明は、第1の基板上における振動板と第2の基板上における個別電極は、ほぼ同じ形状であって、第1の基板と第2の基板を接合したときに、個別電極上に、所定の空隙を介して垂直投影された振動板の輪郭の関係が本願補正発明のようなものでない点。 (4)判断 上記相違点について検討する。 刊行物1記載の発明は、振動板5が形成された第1の基板1と個別電極21が形成された第2の基板2を積層するものであるから、製作する際に、振動板5と個別電極21に位置決め誤差が生じることは明らかである。一方、静電気力は、振動板5と個別電極21の位置関係で決まり、一方が他方に内包される位置関係なら多少の位置決め誤差は静電気力に影響を与えないことは明らかであり、ノズル孔4からインク滴を突出するのに必要な一定の振動力(以下、「設計振動力」という。)が要求されることも明らかである。また、2つの部材を位置決めして製作する際、位置決め誤差を吸収するために一方を大きく、他方を小さくすることは周知技術(原査定の拒絶の理由に引用された特開平07-148921号公報、刊行物2参照。)であるから、要求される設計振動力を効率良く製作するには、振動板5と個別電極21の内、一方を設計振動力を発生するのに必要な面積とし、他方を大きく作成すれば良いことは当業者が容易に想到し得ることである。 ここで、振動板5と個別電極21の内いずれの面積で設計振動力を得るか(つまり、どちらを小さい面積とするか)を検討すると、刊行物1記載の発明の振動板5は、底壁から上方に向かうに従って末広がりに広がる吐出室6の底壁であるから、底壁の短辺方向の長さを長くすると吐出室6の上方で隣接する吐出室と緩衝しやすい。それに引き換え、個別電極21は、底壁である振動板とほぼ同じ形状とするものであるから、隣接する個別電極21との緩衝には余裕がある。そうすると、底壁である振動板の短辺方向の長さを個別電極21より短くすることは設計上当然のことであり、短辺方向についてそのようにすると、底壁である振動板の長辺方向の長さについても同様にしないと、一方が他方を内包したことにならないから、振動板の長短辺両方向について振動板の長さを個別電極より短くし、個別電極上に、所定の空隙を介して垂直投影された振動板の輪郭が、前記個別電極の輪郭に包含されるようにすることは、当業者が容易に想到することである。 また、上記刊行物2には、電気-機械変換振動子と圧力室43の壁50(本願補正発明の「振動板」に相当する。)の位置決めのために、圧力室43の壁50の突出部49の幅を振動子の幅より小さくすることが記載され、突出部49はそのまま設計振動力を決定するものであるから、結局のところ、刊行物2には、振動板側の面積で振動を決定することが記載されており、刊行物1記載の発明の第1の基板と第2の基板を積層する際(つまり、振動板と個別電極の位置決めの際)に、振動板側の面積で決定、つまり、振動板の方を個別電極より小さくし、個別電極上に、所定の空隙を介して垂直投影された振動板の輪郭が、前記個別電極の輪郭に包含されるようにすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。 振動板の輪郭の一辺と対応する個別電極の輪郭の一辺の数値限定について検討すると、製造時の位置決め能力が高いほど両者の数値は近付けることができることは明らかであり、位置決め誤差を吸収し得る程度に両者の数値を近付ける、つまり、比(b-a)/bの下限を決定し、製造時の位置決め能力に合わせ、本願補正発明のような下限値とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。また、刊行物1記載の発明の個別電極は、金パターンで形成されているから、無駄に個別電極を大きくすることは不経済であるし、隣接する個別電極の緩衝をさけるには自ずと上限が決まるものであるから、比(b-a)/bの上限を決定し、本願補正発明のような上限値とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。 そして、本願補正発明の作用効果も、刊行物1、2記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について 平成15年9月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成14年10月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「ノズルと、該ノズルに連通するインク流路と、該流路の一部に設けられた振動板と、該振動板が形成された第1基板と、個別電極が形成された第2基板とを有し、 前記第1の基板と第2の基板を積層することにより、所定の空隙をもって対向する前記個別電極と前記振動板の間に駆動電圧を印加し、前記振動板を静電気力により変形させることにより、前記ノズルからインク液滴を吐出するインクジェットヘッドにおいて、 前記第1の基板上における振動板の面積が、前記第2の基板上における個別電極の面積より小さく形成され、かつ、 前記第1の基板と第2の基板を接合したときに、前記個別電極上に、前記所定の空隙を介して垂直投影された前記振動板の輪郭が、前記個別電極の輪郭に包含されるように、前記振動板及び前記個別電極が、前記第1、第2の基板に、夫々配設されていることを特徴とするインクジェットヘッド。」 (1)引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「振動板」と「個別電極」についての限定事項である「略長方形の」との構成を省き、個別電極上に垂直投影された振動板の輪郭と個別電極の輪郭の関係についての限定事項である「前記振動板の輪郭の一辺aと対応する前記個別電極の輪郭の一辺bに関する比(b-a)/bが4%以上、15%以下に定められて」との構成を省いたものである。 そうすると、実質的に本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-12-21 |
結審通知日 | 2006-01-10 |
審決日 | 2006-01-23 |
出願番号 | 特願平7-172622 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 立澤 正樹 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
國田 正久 長島 和子 |
発明の名称 | インクジェットヘッドおよびその製造方法およびそれを搭載した印刷装置 |
代理人 | 須澤 修 |
代理人 | 藤綱 英吉 |
代理人 | 上柳 雅誉 |