• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  B29C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
管理番号 1132564
異議申立番号 異議2003-73787  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-01-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-12-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3454639号「ポリスチレン系樹脂積層発泡シート及び成形品」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3454639号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3454639号は、平成8年6月28日に特許出願され、平成15年7月25日に、その特許権が設定登録され(請求項の数2)、その後、株式会社ジェイエスピー(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがされ、平成17年2月10日付けで取消理由が通知されて、その指定期間内である平成17年4月25日付けで特許異議意見書が提出され、さらに、平成17年7月1日付けで取消理由が通知されて、その指定期間内である平成17年9月9日付けで特許異議意見書が提出されるとともに、同日付けで訂正請求(平成17年10月13日付けで方式補正された。)がされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正請求の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下の訂正事項a〜cであると認める。
(1)訂正事項a
明細書の特許請求の範囲の請求項2について、
「ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されたポリスチレン系樹脂積層発泡シートを成形して得られ、ポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とする成形品。」を、
「ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されたポリスチレン系樹脂積層発泡シートを丼容器状に成形して得られ、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とする成形品。」と訂正する。

(2)訂正事項b
明細書の段落0009について、
「更に本発明によれば、ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されたポリスチレン系樹脂積層発泡シートを成形して得られ、ポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とする成形品が提供される。」を、
「更に本発明によれば、ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されたポリスチレン系樹脂積層発泡シートを丼容器状に成形して得られ、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とする成形品が提供される。」と訂正する。

(3)訂正事項c
明細書の段落0027について、
「以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下において示す部は重量部である。また、平均気泡数は、次のように測定した。即ち、押出方向及び押出方向と直交する幅方向の積層発泡シート若しくは成形品の垂直縦断面の顕微鏡写真を、日本電子製の走査型電子顕微鏡JSM T-300型を用い、倍率を100倍とし撮影した(n=5)。この写真を用いて非発泡フィルムと発泡シートとの界面より発泡シート側の厚さ200μmとそれに直交する方向に1000μm、即ち200μm×1000μmの範囲に存在する気泡数を全て測定し(気泡の一部でも含まれている場合もカウントする)、この両者の平均を算出し、更にmm2あたりの気泡数に換算した値を平均気泡数(個/mm2)とした。」を、
「以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下において示す部は重量部である。また、以下の実施例のみならず、明細書全体に記載されている平均気泡数は、次のように測定した値を意味する。即ち、押出方向及び押出方向と直交する幅方向の積層発泡シート若しくは成形品の垂直縦断面の顕微鏡写真を、日本電子製の走査型電子顕微鏡JSM T-300型を用い、倍率を100倍とし撮影した(n=5)。この写真を用いて非発泡フィルムと発泡シートとの界面より発泡シート側の厚さ200μmとそれに直交する方向に1000μm、即ち200μm×1000μmの範囲に存在する気泡数を全て測定し(気泡の一部でも含まれている場合もカウントする)、押出方向及び押出方向と直交する幅方向の両者の平均を算出し、更にmm2あたりの気泡数に換算した値を平均気泡数(個/mm2)とした。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、
願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)の段落0030の「これら積層発泡シートを用いて、非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムが外表面側になるように、開口部の内径140mm、底部の内径100mm、深さ80mmの丼状容器の成形を行った。得られた容器の上端10mmより50mmの側面部における気泡数を測定したところ、非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は660個/mm2、またそれ以外の部分については80個/mm2であった。容器成形1時間後に、得られた容器の上端10mmより50mmについて側面部に曲面印刷を施したところ、これら容器は曲面印刷性に優れていた。なお、判定の基準、方法及び結果等を表1に示す。」との記載に基づいて、
特許明細書の請求項2に記載された「成形品」を、「丼容器状」のものに形状を限定するとともに、
ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲における410〜5000個/mm2の平均気泡数の計測対象箇所を、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シートに限定するものであるから、
特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、訂正事項aによる特許請求の範囲の減縮に伴って、発明の詳細な説明の記載について、訂正後の請求項1の記載と整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであると認められ、特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、
特許明細書において「平均気泡数」に関する説明が記載されている唯一の箇所である段落0027に記載された平均気泡数の測定及び算出方法が、特許明細書全体に適用されるものであることを字句上も明確にするとともに、
段落0027に、平均気泡数を算出するための気泡数の測定を「押出方向及び押出方向と直交する幅方向の積層発泡シート若しくは成形品の垂直縦断面の顕微鏡写真」を用いて行うことが記載されているところから、「この両者」を「押出方向及び押出方向と直交する幅方向の両者」と訂正して、「両者」の内容を字句上も明確にするものであるから、
明りょうでない記載の釈明を目的とするものであると認められ、特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項並びに同条第3項において準用する同法第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
「2.訂正の適否についての判断」で述べたとおり、訂正が認められるので、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、それぞれ、訂正後の明細書特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のものである。
「【請求項1】 ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されてなり、ポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とするポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
【請求項2】 ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されたポリスチレン系樹脂積層発泡シートを丼容器状に成形して得られ、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とする成形品。」

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議の申立ての理由の概要及び当審が通知した取消理由の概要
4-1-1.申立人が主張する取消理由の概要
申立人は、以下の甲第1〜6号証及び参考資料1〜3を提出して、以下の理由1〜3により、訂正前の請求項1、2に係る特許を取り消すべき旨を主張している。
理由1: 訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1〜第6号証のいずれかに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
理由2: 訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1及び第2号証に記載された発明に基いて、又は、甲第1及び3〜5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、これについては特許を受けることができないものである。
理由3: 訂正前の特許明細書には、以下のI-1.〜I-3.の点で記載不備があるから、訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(なお、申立人は、発明の詳細な説明の記載が不備であるとして、明細書の記載に係る取消理由を、特許法第36条第4項違反と主張しているが、以下のI-1.〜I-3.の内容に照らして、上記のとおり、申立人の主張を認定した。)
I-1.急冷手段が不明である。
I-2.特許査定時の請求項1、2に係る発明において、平均気泡数の値が同じであることは、現実の技術を無視した表現である。
I-3.気泡径を無視して気泡数だけを発明を特定するための事項としても発明の目的を達成できないはずである。

甲第1号証: 特開平5-96673号公報
甲第2号証: 特開平6-335988号公報
甲第3号証: 特開平6-39926号公報
甲第4号証: 特公平7-121553号公報
甲第5号証: 特開平5-38752号公報
甲第6号証: 特開平9-29851号公報
参考資料1: 特公平5-3820号公報
参考資料2: 実願平4-7089号(実開平5-10434号)のCD-ROM
参考資料3: 特開昭56-40528号公報

4-1-2.平成17年2月10日付けで通知した取消理由の概要
特許明細書の発明の詳細な説明は、以下のII-1.、II-2.の点で記載不備があり、当業者が訂正前の請求項1、2に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、これを取り消すべきものである。
II-1.急冷を行う方法が、不明である。
II-2.平均気泡数のみの特定では、計数対象の気泡が不明であるから、当業者が再現可能な方法で請求項1、2に係る発明を実施することができない。

4-1-3.平成17年7月1日付けで通知した取消理由の概要
以下のIII-1.〜III-3.の点で、訂正前の請求項1、2に係る発明は明確でないから、訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、これを取り消すべきものである。
III-1.訂正前の請求項1、2について、「平均気泡数」が不明である。
III-2.訂正前の請求項2について、「平均気泡数」に係る特定が、成形品におけるポリスチレン系樹脂発泡シートの特性であるのか、又は、成形品を得るために使用した成形前のポリスチレン系樹脂発泡シートの特性であるのか、が不明である。
III-3.訂正前の請求項2について、「平均気泡数」が不明であるから、成形品における「410〜5000個/mm2の平均気泡数」の意味するところが明確ではない。

5.明細書の記載に関する当審の判断
5-1.平成17年7月1日付けで通知した取消理由についての検討
III-1.について
「2.訂正の適否についての判断」で述べたとおり、平成17年9月9日付けの訂正請求(平成17年10月13日付けで方式補正された。以下、「本件訂正」という。)によって、「平均気泡数」が、「明細書全体に記載されている平均気泡数は、次のように測定した値を意味する。即ち、押出方向及び押出方向と直交する幅方向の積層発泡シート若しくは成形品の垂直縦断面の顕微鏡写真を、日本電子製の走査型電子顕微鏡JSM T-300型を用い、倍率を100倍とし撮影した(n=5)。この写真を用いて非発泡フィルムと発泡シートとの界面より発泡シート側の厚さ200μmとそれに直交する方向に1000μm、即ち200μm×1000μmの範囲に存在する気泡数を全て測定し(気泡の一部でも含まれている場合もカウントする)、押出方向及び押出方向と直交する幅方向の両者の平均を算出し、更にmm2あたりの気泡数に換算した値を平均気泡数(個/mm2)とした。」と特定された。この結果、「平均気泡数」の測定方法は明確であり、「平均気泡数」は明確である。
したがって、III-1.の記載不備は解消した。

III-2.、III-3.について
同じく本件訂正によって、請求項2が訂正され、平均気泡数が、「丼容器状に成形して得られ、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シート」についての値であることが明確となった。
この結果、請求項2に係る発明における平均気泡数とは、成形品におけるポリスチレン系樹脂発泡シートの特性であって、かつ、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シートについて計測したものであることが明りょうとなった。
したがって、III-2.、III-3.の記載不備はもはや存しない。

5-2.平成17年2月10日付けで通知した取消理由についての検討
II-1.について
特許権者は、平成17年4月25日付けの意見書において、冷却媒体は、25℃前後の常温の空気が当業者において慣用されているものである旨、及び、冷却空気の流量は圧力差の平方根と比例関係がある旨を述べて、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなく、所期の平均気泡数となるように冷却空気の温度や流量を設定することが可能であると主張している。
そして、この主張は、技術的に矛盾や不合理があるものではないと認められる。
したがって、本件特許明細書に、II-1.の不備があるということはできない。

II-2.について
本件訂正によって、平均気泡数の測定方法が、利用する顕微鏡写真の倍率やサンプル及びサンプル数を含めて明確となった。この結果、当業者であれば、本件特許明細書の記載に基いて、平均気泡数を測定することは格別不可能なことではないと認められる。
したがって、本件特許明細書に、II-2.の不備があるということはできない。

5-3.申立人の主張についての検討
I-1.について
5-2.の「II-1.について」で述べたと同様の理由により、急冷手段が特段不明であるということはできない。

I-2.について
本件明細書の段落0011及び0018には、成形前後のポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいて平均気泡数を特定する技術的意義が記載されており、さらに、実施例1〜5、比較例1〜3として、成形前後のポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいて平均気泡数を特定することにより奏される効果が具体的に示されているものと認められるから、成形前後のポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおける平均気泡数の特定が同じ数値範囲であることが現実の技術を無視したものであるということはできない。

I-3.について
5-2.の「II-2.について」で述べた理由により、平均気泡数の測定方法は明確となった。そして、「I-2.について」で述べたとおり、本件明細書には、成形前後のポリスチレン系樹脂積層発泡シートにおいて平均気泡数を特定することにより奏される効果が具体的に示されている。
したがって、申立人のI-3.の主張には根拠がないから、採用しない。

6.新規性進歩性に関する当審の判断
6-1.甲号各証の記載
(1)甲第1号証には以下の記載がある。
ア: 「【請求項1】 厚さが1.0〜3.5mmで発泡倍率が5〜15倍のポリスチレン系樹脂高発泡シート層と厚さが20〜70μmのポリスチレン系樹脂非発泡フイルムとが 、厚さが50〜300μmで発泡倍率が1.1〜2.5倍のハイインパクトポリスチレン樹脂低発泡層を介して積層して成る3層構造であることを特徴とするポリスチレン系樹脂積層シート。
【請求項2】 ハイインパクトポリスチレン樹脂を発泡剤と共に押出機内で溶融混練した後、該ハイインパクトポリスチレン樹脂組成物をTダイから大気中に重力方向に押出すと共にポリスチレン系樹脂高発泡シート層とポリスチレン系樹脂非発泡フイルムとの間に導き、次いでポリスチレン系樹脂非発泡フイルム面から冷却することを特徴とするポリスチレン系樹脂積層シートの製造法。
【請求項3】 ハイインパクトポリスチレン樹脂に使用される発泡剤が熱分解型発泡剤であることを特徴とする請求項2に記載のポリスチレン系樹脂積層シートの製造法。」(特許請求の範囲)
イ: 「本発明の第1の目的は深絞り加工性、容器の天地強度やリブ強度などの性能及び曲面印刷性にも優れ、且つ省資源化や環境保護にも貢献するポリスチレン系樹脂積層シートを提供することに在る。本発明の第2の目的は深絞り加工性、容器の天地強度やリブ強度などの性能及び曲面印刷性にも優れ、且つ省資源化や環境保護にも貢献するポリスチレン系樹脂積層シートを製造するための方法を提供することに在る。」(段落0006)

(2)甲第2号証には以下の記載がある。
ウ: 「【請求項1】ビニル芳香族重合体よりなる発泡シ-ト層の少なくとも一方の面に熱可塑性フィルムを積層した熱可塑性積層発泡シ-トであって、該熱可塑性積層発泡シ-トは成形機内の成形直前の加熱状態において、積層発泡シ-トの加熱前の単位面積に対して1〜11%増加する性質を有し、且つ、前記熱可塑性フィルムは0.01〜3重量%のシリコン油を含有した厚さ5〜550μmであることを特徴とする熱可塑性積層発泡シ-ト。
【請求項2】熱可塑性積層発泡シ-トにおけるフィルムの剥離強度が少なくとも100g/25mmである請求項1記載の熱可塑性積層発泡シ-ト。
【請求項3】熱可塑性フィルムがガスバリヤ-性である請求項1記載の熱可塑性積層発泡シ-ト。
【請求項4】シリコン油が25℃で10〜15万センチスト-クスの動粘性率を有する請求項1記載の熱可塑性積層発泡シ-ト。」(特許請求の範囲)
エ: 「本発明は、食品のトレ-や容器の製造に適した熱可塑性フィルムを積層したビニル芳香族重合体の熱可塑性積層発泡シ-トに関し、特に、該発泡シ-トで製造したトレ-又は容器は印刷むらを生じないような熱可塑性積層発泡シ-トに関する。」(段落0001)

(3)甲第3号証には以下の記載がある。
オ: 「【請求項1】 熱可塑性樹脂シートと熱可塑性樹脂フィルムとを両者間に押出バインダを介在させることにより積層する方法において、熱可塑性フィルムは100μ以下であって、当該フィルムが押出バインダにタッチする前に熱ロールに沿わせてフィルムを熱ロールでアニールさせておくことを特徴とする積層シートの製造方法。
【請求項2】 熱可塑性樹脂シートとして発泡ポリスチレン系シートを用い、熱可塑性樹脂フィルムとしてポリスチレン系フィルムを用いる上記特許請求の範囲1記載の積層シートの製造方法。」(特許請求の範囲)
カ: 「本発明方法によると、熱可塑性樹脂フィルムが押出バインダにタッチする前に熱ロールとタッチすることになり、熱ロールにてフィルムは収縮し、アニールされることになり、事後の押出バインダによる影響を事前のアニールによって防ぎ、フィルムの積層時におけるシワ発生を防ぐことになる。なお、フィルムが100μ以上であると、熱ロールとタッチさせてもアニールが難しくシワ取りは難しい。」(段落0006)

(4)甲第4号証には以下の記載がある。
キ: 「厚み0.5〜5.0mmの発泡ポリスチレン系シートと厚み0.020〜0.050mmの非発泡ポリスチレン系フィルムを加熱溶着する工程において、発泡ポリスチレン系シートが押出機より吐出してから非発泡ポリスチレン系フィルムと加熱溶着するまでの間で、発泡ポリスチレン系シートの接着の対象となる表面を表面温度80〜250℃の予熱ロールで線圧1〜20kg/cm、処理速度5〜30mm/minで接触予備加熱し、次いで加熱溶着するすることを特徴とする発泡ポリスチレン系シートの表面処理物の製造方法。」(特許請求の範囲)
ク: 「この発明は発泡ポリスチレン系シートと非発泡ポリスチレン系フィルムの加熱溶着工程において、発泡ポリスチレン系シートと非発泡ポリスチレン系フィルム間でのバブル等、溶着不良の発生を防ぐ為の、発泡ポリスチレン系シート表層の改質に係るものである。」(段落0001)

(5)甲第5号証には以下の記載がある。
ケ: 「【請求項1】 ポリスチレン系樹脂押出し発泡シートの両面を加熱ロールにより熱処理した後、その直後にこの発泡シートと印刷図柄を有するポリスチレン系樹脂フィルムとを別のロール間に導くと共に図柄フィルム側に接触するロールを加熱することにより両者が接着した積層シートを得、次いでこの積層シートを加熱炉に通すことにより加熱した後成形することを特徴とする印刷図柄を有する発泡シート成形品の製造方法。」(特許請求の範囲)
コ: 「本発明は、加熱炉内での積層シートの収縮を抑え、これによって成形品中の図柄ずれの発生を防止する発泡シート成形品の製造方法に関する。」(段落0001)

(6)甲第6号証には以下の記載がある。
サ: 「【請求項1】 内層部に比して高密度の表層部を有するスチレン系樹脂発泡シートを、近赤外線による加熱帯域を通過させることを特徴とするスチレン系樹脂発泡シートの製造方法。
【請求項2】 近赤外線発生源として照射される近赤外線のエネルギー分布のピークにおける波長が3μm以下となるように近赤外線を照射する光源を用いる請求項1記載のスチレン系樹脂発泡シートの製造方法。」(特許請求の範囲)
シ: 「近赤外線加熱処理を施すスチレン系樹脂発泡シートは少なくとも片面に、内層部に比して高密度の表層部を有するが、この高密度の表層部においてシート表面から厚み方向に200μmの範囲の部分は平均密度が0.8〜0.08g/cm3であるとともに、この範囲に含まれる部分の密度がシート全体の密度の1.2倍以上であることが好ましい。」(段落0011)

(7)参考資料1、2には、押出成形されたポリスチレン系樹脂発泡シートを熱ローラー又は加熱板を用いて直接接触加熱することにより片面の表層部分のみを二次発泡する方法が記載され、参考資料3には、加熱に際し、未発泡層内に微細(10〜20mμ)な気泡を発生させた発泡ポリスチレンシートが記載されている。

6-2.本件発明1と、甲第1〜5号証に記載された発明との対比
摘示ア、イ、オ〜コから、甲第1、3〜5号証には、発泡ポリスチレン系シートと非発泡ポリスチレン系フィルムとの積層発泡シートに係る発明が記載され、摘示ウ、エから、甲第2号証には、発泡ポリスチレン系シートと熱可塑性フィルムとの積層発泡シートに係る発明が記載されている。
本件発明1と、甲第1〜5号証に記載された発明とを対比すると、甲第1〜5号証に記載された発明のいずれにおいても、本件発明1を特定するために必要な事項である「ポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有する」かどうかが不明である点で、少なくとも相違がある。
そして、甲第1〜5号証のいずれにも、「ポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有する」ことについての示唆は認められない。
したがって、参考資料1〜3を参酌しても、本件発明1が、甲第1〜5号証のいずれかに記載された発明であるとも、甲第1〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、いうことはできない。

6-3.本件発明1と、甲第6号証の当初明細書に記載された発明との対比
甲第6号証は、本件特許出願後の平成9年2月4日に出願公開された刊行物であるから、申立人の主張する理由1の根拠とはなり得ない。
念のために、本件発明1と、甲第6号証の当初明細書に記載された発明とを対比すると、甲第6号証の当初明細書に記載された発明においては、本件発明1を特定するために必要な事項である「ポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有する」かどうかが不明である点で、少なくとも相違がある。
したがって、本件発明1が、甲第6号証の当初明細書に記載された発明と同一であるということもできない。

6-4.本件発明2と、甲第1〜5号証及び甲第6号証の当初明細書に記載された発明との対比
甲第1〜5号証のいずれにも、「容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有する」ことについて記載も示唆も認められない。
甲第6号証の当初明細書にも、「容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有する」ことについて記載はない。
したがって、本件発明2が、甲第1〜5号証のいずれかに記載された発明であるとも、甲第1〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、いうことはできない。また、本件発明2が、甲第6号証の当初明細書に記載された発明と同一であるということもできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリスチレン系樹脂積層発泡シート及び成形品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されてなり、ポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とするポリスチレン系樹脂積層発泡シート。
【請求項2】ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されたポリスチレン系樹脂積層発泡シートを丼容器状に成形して得られ、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とする成形品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリスチレン系樹脂積層発泡シート及び成形品に関する。更に詳しくは、本発明は、曲面印刷特性に優れたポリスチレン系樹脂積層発泡シート及び成形品に関する。本発明のポリスチレン系樹脂積層発泡シートは、主に即席麺容器等の深物ドンブリ容器に適している。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来より発泡ポリスチレン系樹脂は、食品容器、包装容器として広く使用されている。しかしながら、ポリスチレン系樹脂発泡シートより得られる容器等は、硬質で剛性がある反面、脆いという欠点を有し、また、容器表面の硬度が低いため容器表面に傷が付きやすく、容器の外観を損ないやすいとともに、表面の光沢性に乏しく、外観美麗なものではなかった。
【0003】
上記の欠点を解消するものとしては、ポリスチレン系樹脂発泡シートに非発泡フィルムを積層した、ポリスチレン系樹脂積層発泡シート等が提案され(特公昭63-20702号)、食品容器等に広く使用されるに至っている。これら積層発泡シートは、強度や外観美麗性に優れる利点をいかし、即席麺等の深物ドンブリ容器として、数多く使用されている。
【0004】
これら即席麺等に使用されるドンブリ型容器は、主に非発泡フィルムを外側とした外観美麗な容器であり、それら容器の非発泡フィルム面には印刷を施したフィルムをさらに積層したものや、曲面印刷機により非発泡フィルム面に文字や模様等の印刷を施したもの、またそれらを組み合わせたもの等、カラフルで表面光沢性に優れた容器として使用されるのが一般的である。
【0005】
しかしながら、曲面印刷用途に使用される容器は、その性状により曲面印刷特性が左右されやすく、ベタ印刷部分に斑点ができたり、凹凸が目立ったり、また、文字や模様がにじんだり、かすれたり等の問題が生じやすい。
これら問題が生じた際の印刷性を改善する方法として、曲面印刷のスピードを遅くする等して対処する方法が行われている。即ち、一分間当たりの容器印刷の出来高を少なくしてやれば、印刷性は改善される。しかし、この方法では、生産性の低下を伴う。また、他の方法として、容器と印刷ロールとの印圧を上げる方法があり、この方法によれば印刷性は改善される。しかし、過度に印圧を上げすぎると容器にシワが発生しやすい。また、容器が発泡体なので容器厚みや重量のバラツキが発生しやすく、印圧の煩雑な微調整が必要である。
【0006】
また、容器の印刷性を改善する方法としては、発泡シート及び非発泡フィルムの樹脂比率を変更する、非発泡フィルムの厚みを増やす又は発泡シートの気泡を微細化する等、特に非発泡フィルムの表面平滑性を向上させる方法が挙げられる。しかし、これら方法では、非発泡フィルムの厚みが増すので、シート目付が増え、またシート目付を同じにするためには発泡シートの倍率が上昇することとなるため容器強度が低下してしまう。また、発泡シートの気泡を微細化することで平滑性向上には効果はあるものの、気泡微細化は気泡膜の薄膜化を伴うため、気泡が破れ連続気泡率の増大につながり、2次発泡性が低下する等の問題がある。
【0007】
さらに、容器の曲面印刷特性は、容器成形後の経日によって異なり、成形直後が最も悪く、経日がたつにつれ良くなっていき、約5日程でそれら特性は一定となる。この理由は定かではないが、恐らく成形直後の容器の気泡内は負圧状態となっているため膜強度が弱く、全体として容器強度が低下しているためであると考えられる。よって、時間経過とともに空気の侵入が始まり、約5日で平衡になると考えられる。しかしながら、容器成形後に時間をおくことで、印刷特性は向上しても、それら容器の保管する場所が必要となるため、できるだけ早い時点での印刷が要望される。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されてなり、ポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とするポリスチレン系樹脂積層発泡シートが提供される。
【0009】
更に本発明によれば、ポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムとが積層されたポリスチレン系樹脂積層発泡シートを丼容器状に成形して得られ、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部のポリスチレン系樹脂発泡シートがポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有することを特徴とする成形品が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
まず、本発明において、ポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、発泡シートと称する)及び非発泡ポリスチレン系樹脂フィルム(以下、非発泡フィルムと称する)を構成する基材樹脂であるポリスチレン系樹脂は、同一でもよく、異なっていてもよい。ここで、発泡シート及び非発泡フィルムを構成する基材樹脂であるポリスチレン系樹脂としては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等のスチレン単量体の単独重合体、又はアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル(例えばメチル、エチル等のエステル)、メタクリル酸(例えばメチル、エチル等のエステル)、無水マレイン酸、ブタジエン等のビニル単量体との共重合体が挙げられる。具体的には、ポリスチレン樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン三元共重合体等の耐熱性、耐衝撃性に優れた樹脂が挙げられる。
【0011】
本発明のポリスチレン系樹脂積層発泡シート(以下、積層発泡シートと称する)を構成する発泡シートは、発泡シートと非発泡フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡径を有する。この範囲の平均気泡径を有することにより、発泡シート表面部の平滑性が向上し、曲面印刷特性に優れた積層発泡シートを得ることができる。ここで、平均気泡数が410個/mm2未満の場合は、発泡シート表面部の平滑性向上に十分な効果を表すことができないので好ましくない。また、5000個/mm2を超える場合には、それら気泡を生成させること自体困難である。平均気泡数は、450〜3000個/mm2が好ましく、500〜2000個/mm2が更に好ましい。
【0012】
【0013】
更に本発明においては、発泡シートの上記以外の部分の平均気泡数を、10〜400個/mm2とすることが望ましい。平均気泡数が10個/mm2未満では、積層発泡シートの表面の平滑性が悪くなり、外観、曲面印刷特性も劣ることとなる。更に、非発泡フィルムが形成されていない側の発泡シート表面の気泡粗が目立ち、外観が著しく悪くなるので好ましくない。一方、平均気泡数が400個/mm2を越える場合には、気泡膜の厚みが薄くなるために、押出発泡時に気泡破れの原因となる。そのため、連続気泡率が増加し、2次発泡不良を引き起こすので好ましくない。なお、発泡シートの上記以外の部分というのは、積層発泡シートの発泡シート厚みをtmmとしたとき、(2t/5)〜(3t/5)mmまでの範囲のことを意味している。
【0014】
更に、非発泡フィルムと発泡シートとの界面部分に非常に微細な気泡(100μm以下)を有することがより好ましい。特に、それら微細な気泡が厚み方向に3個以上あることが望ましく、好ましくは5個以上、更に好ましく7個以上あることが好ましい。これら微細な気泡の存在が好ましいのは、比較的大きい発泡シートの内部気泡による凹凸を埋めるような形で微細な気泡が配列するので、結果として発泡シートの表面平滑性を向上さすことができるからである。これら微細な気泡の平均気泡径としては5〜100μmが望ましく、好ましくは10〜80μm、更に好ましくは20〜60μmである。
【0015】
また、発泡シートの発泡倍率2〜20倍であることが好ましい。発泡倍率が2倍より小さい場合、積層発泡シートから成形された成形品の断熱性や剛性が劣るので好ましくない。一方、20倍より大きい場合、積層発泡シートの成形性が低下すると共に得られる成形品にシワが入ったりするので好ましくない。
また、発泡シートの厚さは、1.0〜3.0mmであることが好ましい。厚さが1.0mmより薄い場合、積層発泡シートから成形された成形品の断熱性や剛性が劣るので好ましくない。一方、3.0mmより厚い場合、積層発泡シートの成形性が低下すると共に得られる成形品にシワが入ったりするので好ましくない。
【0016】
更に、非発泡フィルムの厚さは、10〜500μmであることが好ましい。厚さが10μmより薄い場合、表面の光沢性や強度が不足するので好ましくない。一方、500μmより厚い場合、シート目付が重くなりすぎるので好ましくない。なお、非発泡フィルムの厚さは、15〜400μmがより好ましく、20〜300μmが特に好ましい。
【0017】
ここで、本発明の積層発泡シートは、発泡シートの少なくとも片面に非発泡フィルムが積層されてなる。また、非発泡フィルムは、発泡シートの両面に積層されていてもよい。更に、非発泡フィルム上には樹脂フィルムを積層してもよく、この樹脂フィルムは表面及び/又は裏面に印刷が施されていてもよい。この場合は、非発泡フィルム下の気泡が微細であるために、それら樹脂フィルム面の下地は白度に優れているため、樹脂フィルムの色がより鮮やかになる効果も備えている。なお、樹脂フィルムを構成する基材樹脂は、上記発泡シート及び非発泡フィルムを構成する基材樹脂と同一の樹脂を使用でき、またその厚さは、10〜500μmであることが好ましい。
【0018】
次に、本発明によれば、上記積層発泡シートを成形して得られた成形品も提供される。本発明による成形品は、その成形品を構成するポリスチレン系樹脂発泡シートにおいてもポリスチレン系樹脂発泡シートと非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムの界面から200μmまでの範囲において410〜5000個/mm2の平均気泡数を有している。成形品が上記範囲の平均気泡数を有していることにより、例えば曲面印刷時においても良好な印刷性を維持することができる。成形方法は、公知の方法をいずれも使用することができる。本発明の成形品は、表面光沢性、表面平滑性に優れ、割れにくいという利点を有している。また、成形品の形状は、特に限定されず、浅絞り成形品、深絞り成形品のいずれにも使用することができる。具体的には、食品容器、トレー、皿、丼、コップ、発泡蓋材等に使用できる。なお、本発明は、深絞り成形品に適用することが好ましい。深絞り成形品は、成形品の口径/深さ≦2の関係を有するものをいう。
【0019】
次に、上記積層発泡シートの製造方法について説明する。
まず、発泡シートは公知の押出発泡法により製造することができる。この押出発泡法は、所望の密度となるように、押出機に基材樹脂、発泡剤及び発泡に必要な添加剤を入れ、溶融及び混線した後、押出金型から押し出すことにより行われる。なお、予め基材樹脂、発泡剤及び添加剤を均一に溶融及び混合した後、押出機に送ってもよい。
【0020】
発泡シートを形成するために使用される発泡剤は、公知のものをいずれも使用することができ、分解型発泡剤、気体又は揮発性の発泡剤が使用できる。なお、発泡剤はブタンが好ましい。
発泡に必要な添加剤としては、例えば造核剤等が挙げられる。更に、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤等を添加してもよい。
【0021】
また、発泡シートを製造する場合、使用する樹脂の種類等により異なるが、押出機内の樹脂温度は85〜260℃程度が好ましい。発泡剤は、基材樹脂100重量部に対して0.5〜20重量部添加することが好ましい。
一方、非発泡フィルムは、公知の押出法により製造することができる。また、押出機内の樹脂温度は、180〜330℃が好ましい。
【0022】
溶融及び混練された樹脂は、ダイから直接シート状、又は一旦円筒状に押し出された後、任意のラインで切断することによりシート及び/又はフィルムにされる。
上記発泡シート及び非発泡フィルムは、共押出法、接着剤を用いた貼り合わせ法又は熱を用いた融着法等の公知の方法により積層してもよい。
【0023】
共押出法は、押し出された樹脂を合流ダイに通して融着し、積層発泡シートを形成する方法である。
また、貼り合わせ法に使用できる接着剤は、公知のものをいずれも使用することができる。
熱を用いた融着法は、例えば、熱ロール及び/又は熱風により発泡シート又は非発泡フィルムに熱を加えた後、非発泡フィルム又は発泡シートに積層する方法である。特に、押出機により発泡シートを製造し、或いは熟成期間をおいて、別の押出機により非発泡フィルムを押し出して直ちに融着して積層する方法が多く採用される。
【0024】
また、樹脂フィルムは、上記と同じ共押出法、接着剤を用いた貼り合わせ法又は熱を用いた融着法等の公知の方法により積層することができる。
ここで、非発泡フィルム下の気泡を微細化する方法としては、幾つかの方法が考えられる。例えば、発泡シートを製造する際に、後に非発泡フィルムを積層する発泡シート表面部を、空冷や水冷等により急冷し、発泡シート表面にスキン層を多く存在させる方法が挙げられる。非発泡フィルムを積層する発泡シートのスキン層には残存ガスが封じ込められており、積層時又はそれらの成形時においてフィルムの熱量又はヒーター加熱により、残存ガスが新たな微細気泡(2次気泡)を発生させる。
【0025】
また、他の方法として、発泡シート製造時又は非発泡フィルムを積層する前に、発泡シートの非発泡フィルム積層面側に加熱ロール等により熱を加え、微細気泡を発生させる方法も挙げられる。なお、微細気泡は、非発泡フィルム積層時の熱により発生したり、またその後成形品製造時のヒーター等による加熱により新たに発生することもある。
【0026】
上記微細気泡は、非発泡フィルム側の発泡シート表面を被うか、又は比較的大きい気泡の隙間を埋めることで、発泡シートの表面平滑性が向上し、結果として曲面印刷性に優れた成形品を提供することができる。
微細気泡は、その後の熱成形においてその気泡サイズは大きくなるが、気泡サイズの増加は特に印刷特性を大きく左右するほどのものではない。要は積層発泡シート又は成形品が上記平均気泡数の要件を備えていれば、曲面印刷特性に優れた成形品を提供することができるものである。
【0027】
以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下において示す部は重量部である。また、以下の実施例のみならず、明細書全体に記載されている平均気泡数は、次のように測定した値を意味する。即ち、押出方向及び押出方向と直交する幅方向の積層発泡シート若しくは成形品の垂直縦断面の顕微鏡写真を、日本電子製の走査型電子顕微鏡JSM T-300型を用い、倍率を100倍とし撮影した(n=5)。この写真を用いて非発泡フィルムと発泡シートとの界面より発泡シート側の厚さ200μmとそれに直交する方向に1000μm、即ち200μm×1000μmの範囲に存在する気泡数を全て測定し(気泡の一部でも含まれている場合もカウントする)、押出方向及び押出方向と直交する幅方向の両者の平均を算出し、更にmm2あたりの気泡数に換算した値を平均気泡数(個/mm2)とした。
【0028】
実施例1
ポリスチレン樹脂と造核剤としてタルク1.0部をブレンドし、第1押出機に投入して溶融及び混線した。この後、発泡剤としてブタンを3.0部の割合で押出機に圧入して、樹脂と発泡剤を混合した。次に接続された第2押出機にて樹脂温度を150℃に下げ、サーキュラーダイを通して押出発泡した。押し出された発泡シートの外表面は、ダイに近接した空冷装置により急冷された。なお、この時の冷却空気の圧力は1600mmAqであった。このようにして、厚みが2.2mm、坪量が240g/m2の発泡シートを得た。
【0029】
一定の熟成期間をおいた発泡シートの外表面側に、Tダイを備えた押出機に、耐衝撃性ポリスチレンを投入し、次いで溶融押出した厚さ150μmの非発泡フィルムを積層した。得られた積層発泡シートの非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は、420個/mm2であった。またその他の部分の平均気泡数は60個/mm2であった。
【0030】
ついで、これら積層発泡シートを用いて、非発泡ポリスチレン系樹脂フィルムが外表面側になるように、開口部の内径140mm、底部の内径100mm、深さ80mmの丼状容器の成形を行った。得られた容器の上端10mmより50mmの側面部における気泡数を測定したところ、非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は660個/mm2、またそれ以外の部分については80個/mm2であった。容器成形1時間後に、得られた容器の上端10mmより50mmについて側面部に曲面印刷を施したところ、これら容器は曲面印刷性に優れていた。なお、判定の基準、方法及び結果等を表1に示す。
【0031】
実施例2
冷却空気の圧力を2000mmAqとした以外は、実施例1と同様にして実験を行った。得られた積層発泡シートの非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は、470個/mm2であった。また、その他の部分の平均気泡数は60個/mm2であった。さらに積層発泡シートを成形して得られた容器について、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部における気泡数を測定したところ、非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は740個/mm2、またそれ以外の部分については95個/mm2であった。容器成形1時間後に、得られた容器について側面部に曲面印刷を施したところ、これら容器は曲面印刷性に優れていた。なお判定の基準、方法及び結果等を表1に示す。
【0032】
実施例3
非発泡フィルムを積層する直前に、積層される側の発泡シート表面を加熱処理すること以外は実施例1と同様に実験を行った。ただし、加熱ロールの表面温度は215℃とした。得られた積層発泡シートの非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は、725個/mm2であった。また、その他の部分の平均気泡数は60個/mm2であった。さらに積層発泡シートを成形して得られた容器について、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部における気泡数を測定したところ、非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は1025個/mm2、またそれ以外の部分については90個/mm2であった。容器成形1時間後に、得られた容器について側面部に曲面印刷を施したところ、これら容器は曲面印刷性に優れていた。なお、判定の基準、方法及び結果等を表1に示す。
【0033】
実施例4
発泡シート及び非発泡フィルムのポリスチレン系樹脂をスチレン-アクリル酸共重合体とした以外は実施例1と同様に実験を行った。得られた積層発泡シートの非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は、460個/mm2であった。また、その他の部分の平均気泡数は55個/mm2であった。さらに積層発泡シートを成形して得られた容器について、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部における気泡数を測定したところ、非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は660個/mm2、またそれ以外の部分については90個/mm2であった。容器成形1時間後に、得られた容器について側面部に曲面印刷を施したところ、これら容器は曲面印刷性に優れていた。なお、判定の基準、方法及び結果等を表1に示す。
【0034】
比較例1
冷却空気の圧力を1000mmAq、とした以外は実施例1と同様にして実験を行い、厚みが2.20mm、坪量が240g/m2の発泡シートを得た。その後、非発泡フィルムを積層し、得られた積層発泡シートの非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は、120個/mm2であった。また、その他の部分の平均気泡数は60個/mm2であった。さらに積層発泡シートを成形して得られた容器について、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部における気泡数を測定したところ、非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は140個/mm2、またそれ以外の部分については65個/mm2であった。容器成形1時間後に、容器側面部に曲面印刷を施したところ、斑点、文字のかすれ等が発生したため、曲面印刷性に劣る成形品と判定した。なお、判定の基準、方法及び結果等を表1に示す。
【0035】
比較例2
非発泡フィルムを積層する直前に、積層する側の発泡シート表面を加熱処理すること以外は、比較例1と同様に実験を行った。得られた積層発泡シートの非発泡フィルムとの界面から200μmまでの発泡シートの平均気泡数は、280個/mm2であった。また、その他の部分の平均気泡数は65個/mm2であった。さらに積層発泡シートを成形して得られた容器について、得られた容器の上端10mmより50mmの側面部における気泡数を測定したところ、非発泡フィルムとの界面から200μmまでの平均気泡数は400個/mm2、またそれ以外の部分については60個/mm2であった。容器成形1時間後に、容器側面部に曲面印刷を施したところ、斑点、文字のかすれ等が発生したため、曲面印刷性に劣る成形品と判定した。なお、判定の基準、方法及び結果等を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例5
非発泡フィルムを積層する際に、厚みが25μmの赤色の印刷を施したポリスチレン非発泡フィルムを同時に非発泡フィルム外表面に積層して、3層のシートとした以外は実施例1と同様に実験を行った。ただし、中間層の非発泡フィルムの厚みは100μmとした。容器形成1時間後に、得られた容器について側面部に曲面印刷を施したところ、これら容器は曲面印刷性に優れるものと判定した。また、容器各部分での色差を測定したところ、色のバラツキも少なく、鮮やかなものであることが判明した。なお、判定の基準、方法及び結果等を表2に示す。表2中、色度及び彩度の測定は、日本電色工業(株)製 測色色差計ND-300Aを使用した。表中の色度a*、b*はそれぞれ色の方向性を示しており、+a*は赤、-a*は緑方向を示し、+b*は黄、-b*は青方向を表している。また、彩度c*は下記式により表され、鮮やかさの度合いを示している。
【0038】
c*=[(a*)2+(b*)2]
比較例3
比較例1で使用した発泡シートを使用した以外は、実施例5と同様に実験を行った。容器形成1時間後に、得られた容器について上端10mmより50mmの幅で側面部に曲面印刷を施したところ、斑点、文字のかすれ等が発生したため、曲面印刷性に劣る成形品と判定した。また、容器各部分での色差を測定したところ、色のバラツキがあり、鮮やかさの少ないものであることが判明した。なお、判定の基準、方法及び結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、成形条件や成形後の経日差による曲面印刷特性に影響を受けにくく、曲面印刷特性に優れたポリスチレン系樹脂積層発泡シートを製造することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-11-25 
出願番号 特願平8-170197
審決分類 P 1 651・ 537- YA (B29C)
P 1 651・ 121- YA (B29C)
P 1 651・ 161- YA (B29C)
P 1 651・ 536- YA (B29C)
P 1 651・ 113- YA (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 野村 康秀
石井 克彦
登録日 2003-07-25 
登録番号 特許第3454639号(P3454639)
権利者 積水化成品工業株式会社
発明の名称 ポリスチレン系樹脂積層発泡シート及び成形品  
代理人 野河 信太郎  
代理人 野河 信太郎  
代理人 福村 直樹  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ