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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B41M
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B41M
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41M
管理番号 1132566
異議申立番号 異議2003-72568  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-21 
確定日 2005-12-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3398477号「記録シート用アルミナゾル塗工液および記録シート」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3398477号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3398477号の請求項1ないし3に係る発明は、平成6年7月14日(優先日、平成5年7月14日)に出願され、平成15年2月14日に特許の設定登録がなされ、その後、山口雅行より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年3月24日に訂正請求がなされ、これに対して異議申立人から回答書が提出され、更に取消理由通知がなされ、意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、訂正の内容は次のとおりである。
(a)特許請求の範囲の請求項3における「・・・該アルミナ水和物層中に、アルミナ水和物に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールと、」の記載を、「・・・該アルミナ水和物層中に、アルミナ水和物からなるコロイド粒子に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールと、」と訂正する。
(b)明細書の段落【0015】における「アルミナ水和物に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールと・・・」の記載を、「アルミナ水和物からなるコロイド粒子に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールと・・・」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正(a)は、状態の限定がない「アルミナ水和物」を「アルミナ水和物からなるコロイド粒子」に限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正(b)は、訂正(a)による特許請求の範囲の減縮に伴ない、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との間に生じた不整合を正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正(a)は、願書に添付した明細書、段落【0006】における「本発明において、アルミナゾル塗工液は上記アルミナ水和物からなるコロイド粒子が溶媒中に分散したゾル状態をとる。」という記載に基づくものであるので、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議申立について
1.本件特許発明
上記のように訂正が認められるから、本件の請求項1ないし3に係る発明は、上記訂正明細書の特許請求の範囲、請求項1ないし3に記載された次のとおりものである。
「【請求項1】 アルミナ水和物および、該アルミナ水和物に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールを含有し、さらにホウ酸またはホウ酸塩を含有した記録シート用アルミナゾル塗工液。
【請求項2】 前記ホウ酸またはホウ酸塩が、ポリビニルアルコールに対してH3BO3換算で0.1〜10重量%配合されている請求項1に記載の記録シート用アルミナゾル塗工液。
【請求項3】 基材上にアルミナ水和物層が形成された記録シートであって、該アルミナ水和物層中に、アルミナ水和物からなるコロイド粒子に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールと、ポリビニルアルコールに対してH3BO3換算で0.1〜10重量%のホウ酸またはホウ酸塩とが含有されている記録シート。」
なお、上記請求項1ないし3に係る発明を、以下「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」という。

2.特許異議申立の理由及び取消理由の概要
(1)異議申立人は、下記の甲第1号証ないし甲第6号証を提出して、本件請求項1ないし3に係る特許は、以下の理由により取り消されるべきものである旨主張している。
ア.訂正前の本件請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
イ.訂正前の本件明細書の記載が不備であるから特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしてないものであり、本件請求項1ないし3に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:米国特許第5、141、797号明細書(以下「刊行物2」という。)
甲第2号証:特開平4-223190号公報(以下「刊行物3」という。)
甲第3号証:特開昭48-93709号公報(以下「刊行物4」という。)
甲第4号証:特開平3-143678号公報(以下「刊行物5」という。)
甲第5号証:特開平4-67986号公報(以下「刊行物1」という。)
甲第6号証:特開昭61-199979号公報(以下「刊行物6」という。)

(2)異議申立人は、さらに回答書とともに下記の参考資料1ないし3を提出し、訂正後の本件請求項1ないし3に係る特許は、依然として甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨主張している。

参考資料1:「化学大辞典」、共立出版株式会社、第34版、1993年6月1日発行 18頁「すいさんかアルミニウム」の項
参考資料2:「最新コロイド化学」、講談社サイエンティフィク、第4刷、1994年11月1日発行、1頁及び13頁
参考資料3:米国特許第4、877、686号明細書(以下「刊行物7」という。)
(3)当審においては、訂正前の本件請求項1ないし3に係る特許に対し、上記アと同様の趣旨の1回目の取消理由を通知した。
その後、刊行物1及び刊行物7を示して、訂正後の本件の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前日本国及び米国内において頒布された刊行物1、7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、という趣旨の2回目の取消理由を通知した。

3.刊行物の記載事項
本件出願前に頒布された刊行物である刊行物1(特開平4-67986号公報)には、次の事項が記載されている。
(1a)「アルミナゾルに重合度1000以下のポリビニルアルコールを添加した塗工液。」(特許請求の範囲1)、
(1b)「本発明は、塗工液、特に記録用シートを製造するための塗工液に関するものである。」(1頁左下欄9〜10行)、
(1c)「本発明者らは、基材上にアルミナ水和物からなる吸着層を設けた記録シートが、上記の問題点を解決できることを見出して、既に特願平1-121414号などとして提案した。
・・・しかしながら、アルミナゾルにポリビニルアルコールを加えた場合、塗工液の粘度が経時的に増加して次第に塗布操作が困難になるという問題点があった。」(1頁右下欄5〜18行)、
(1d)「ポリビニルアルコールの使用量は、少ないと塗膜の強度が不十分になり、逆に多すぎると吸収性および定着性が阻害され適当ではなく、アルミナゾル固形分の5〜50重量%程度を採用するのが好ましい。」(2頁右上欄3〜7行)、
(1e)「アルミナゾルとしては、記録用シートとしたとき良好なインクの吸収性、吸着性が得られることなどから、ベーマイト(AlO(OH))ゾルが好ましい。」(2頁左下欄18行〜右下欄1行)、
(1f)「本発明の塗工液は、基材上に、ロールコータ、・・・などを用いて塗布し、乾燥することにより記録用シートに適した吸着層を得ることができる。」(2頁右下欄2〜6行)、
(1g)「[実施例]
市販のアルミナゾル(触媒化成社製:AS-2)とイオン交換水を用いて固形分濃度が、8、10、12重量%の3種類のゾルをそれぞれ300gずつ調整し、それぞれのゾルにたいして重合度500のポリビニルアルコール(クラレ社製:PVA105)10重量%水溶液を(PVA/アルミナゾル)=0.15(固形分換算重量比)の割合で添加して塗工液とした。
・・・これらの塗工液を脱泡した後、ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人社製;OCタイプ、厚さ100μm)上にバーコーターを用いて乾燥後の厚さが5μmになるように塗布し、乾燥した。・・・3種の塗工液の全てについて、いずれも良好な塗膜が得られた。」(2頁右下欄20行〜3頁左上欄19行)。
「基材上にアルミナ水和物からなる吸着層を設けた記録シートであって、アルミナ水和物からなる吸着層中に、アルミナゾル固形分に対して5〜50重量%の重合度1000以下のポリビニルアルコールが含有されている記録シート。」(以下「刊行物1発明a」という。)

同じく刊行物2(米国特許第5、141、797号明細書、甲第1号証に添付の抄訳参照)には、次の事項が記載されている。
(2a)「架橋されたバインダーを有するインクジェット用紙
技術分野
本発明はインクジェット記録シートに関する。特には、本発明は水溶性バインダーと無機填料とチタニウムキレート架橋剤を含む被覆剤で被覆された支持体を有するインクジェット記録シートに関する。」(1欄1〜11行)、
(2b)「インクジェット記録シートは一般的にポリメリック有機バインダーと顔料の被覆を含む。高解像度および高彩度はインクジェット記録シートに対して望まれる特性である。これらの特性を満たすために、インクジェット記録シートは、薄い受容層と顔料に対する小さいバインダー比を有する。・・・顔料に対してバインダー比が小さい場合の問題は、多くの一般的なポリメリックバインダーが適当なバインダー強度を持たないことである。小さいバインダー強度は、被覆層において顔料が支持体から粉落ちする結果を生ずる。今日まで、ホウ酸塩で架橋されたポリビニルアルコールは、インクジェット記録シートに対して良好な被覆を与えてきた。」(1欄19〜31行)、
(2c)「薄い受容層を有し、填料または顔料に対する相対的に小さいバインダー比を有する記録シートにおいて高彩度とともに高い解像度を与え、顔料が粉落ちすることのないままでいるような強度であるバインダーに改良されたインクジェット記録シートを調整することが望まれる。」(1欄41行〜46行)、
(2d)バインダーに関し「好ましいものはポリビニルアルコール」(2欄38〜39行)、
(2e)填料に関し「填料、成分(c)は、一般的に、無機顔料、例えば、シリカ、各種シリケート、ゼオライト、焼成カオリン、珪藻土、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等である。」(3欄15〜20行)、
(2f)量に関し「填料成分(c)のポリメリックバインダー(a)に対する相対的な比率は約7対1から0.5対1である。填料のバインダーに対する比率は用いる充填剤の種類に大変依存する。好ましい範囲は5対1から3対1である。」(3欄30〜34行)。
(2g)「工業的応用
本発明のコーティング溶液は単一の溶液からシート支持体に塗工される。本発明のコーティング溶液は填料に対して相対的に小さいバインダー比を有し、乾燥工程で填料の粉落ちが殆ど生じない。本発明のインクジェット記録シートは高解像と高彩度を有する。そのため、優れたインクジェット印刷表面が提供される。」(4欄14〜22行)。

刊行物3(特開平4-223190号公報)には、次の事項が記載されている。
(3a)「少なくとも片面に、ほう砂又はほう酸を片面あたり0.1g/m2以上塗布してなる基紙及び該基紙の被塗工面の一方の面に5〜20g/m2の塗布量で設けられたインクジェット記録層から成るインクジェット記録紙であって、前記インクジェット記録層が、合成シリカを主成分とする顔料100重量部並びにポリビニルアルコールを主成分とするバインダー10〜35重量部から成ることを特徴とするインクジェット記録紙。」(特許請求の範囲、請求項1)、
(3b)「上記の如く、ほう砂又はほう酸処理層を設けることにより、インクジェット記録層中のポリビニルアルコールが塗工時にゲル化し、紙中へ浸透し難くなるためにバインダーの表面歩留まりが向上する。このため、バインダーを増量することなく、インクジェット記録層の強度を向上することができる。又、ほう砂又はほう酸とポリビニルアルコールとが架橋反応を起こすため、バインダーを減量しても強度を維持することができる。」(段落【0012】)、
(3c)「上記主成分の合成シリカと共に副成分として用いることができる顔料は、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、・・・等の公知の材料の中から適宜選択して使用することができる。」(段落【0014】)、
(3d)「【実施例1】 坪量64g/m2の一般上質紙に、ほう砂1%水溶液を両面塗工量で0.4g/m2 (片面当たり0.2g/m2 )となるようにサイズプレスコートした。一方、合成シリカ(ファインシールX-37:徳山曹達株式会社製商品名)100重量部を水350重量部に分散した後、ポリビニルアルコール(PVA117:クラレ株式会社製商品名)30重量部を水270重量部に別途溶解した液と混合しインクジェット記録層用の塗工液とした。この液を、前記したほう砂処理紙に塗工量が15g/m2となるようにバーコートし、乾燥してンクジェット記録紙とした。・・・。
【実施例2】 坪量75g/m2の一般上質紙に、ほう酸5%水溶液を両面塗工量で1.0g/m2 (片面あたり0.5g/m2 )となるようにサイズプレスコートし、実施例1で使用したインクジェット記録層用の塗工液を塗工量が10g/m2となるようにバーコートし、乾燥してンクジェット記録紙とした。・・・」(3頁右欄40行〜4頁左欄12行)。

同じく刊行物4(特開平48-93709号公報)には、次の事項が記載されている。
(4a)「ポリビニルアルコールとオルトリン酸のモノ又はジアルキルエステルあるいはそれらの塩とを含有することを特徴とする紙用コーティング組成物。」(特許請求の範囲)、
(4b)「従来、ポリビニルアルコール(以下PVAと略記する)は紙の表面強度、平滑度、光沢等の表面特性を改善するためのクリアーコーティング剤として又、・・・広く使用されている。
しかしながら、PVAを含む紙用コーティング液を紙に塗被する場合、PVA自身が紙層内に浸透し易く・・・その結果表面強度等の表面特性の改善効果が充分に発揮されなくなり、・・・欠点がある。その対策としてPVAコーテイング液にホウ砂、ホウ酸等のPVAのゲル化剤を添加したり、あるいは・・・PVAの浸透を防止する方法が行なわれているが、前者の方法ではコーテイング液の粘度が上昇して塗工紙製造工程中にPVAがドライヤーやカレンダーロールに付着して紙切れを起したりドライヤーやロールを汚損する欠点があり、・・・難点がある。」(1頁左下欄10行〜右下欄14行)。

同じく刊行物5(特開平3-143678号公報)には、次の事項が記載されている。
(5a)「透明基材上に表面の十点平均粗さが0.05μ以下であるインクの受容層を設けたことを特徴とする記録用材料。」(特許請求の範囲第1項)、
(5b)「吸着能20〜100mg/gを有する物質が擬ベーマイトである請求項(2)の記録用材料。」(同第3項)、
(5c)「そしてかかる擬ベーマイトとしては、・・・アルミナ水和物の集合体を形成するようなアルミナゾルを用いることにより、とりわけ高画質を得ることができる。」(3頁左上欄6〜15行)、
(5d)「バインダーとしては、・・・PVAやその変性物、・・・を用いることができる。又、その使用量は、あまり少ないと受容層の強度が不十分となり、逆にあまり多すぎるとインクの吸収性を阻害するので好ましくなく、一般に擬ベーマイトの10〜50重量%程度を採用するのが適当である。」(3頁右下欄1〜10行)、
(5e)実施例1には、アルミナゾル100(日産化学社製)5部(固型分)、ポリビニルアルコールPVA117(クラレ社製)1部(同)、および水からなる固型分約10%のコート液を調整し、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、塗布、乾燥し記録用シートを得たこと(3頁右下欄15行〜4頁左上欄4行)。

同じく刊行物6(特開昭61-199979号公報)には、次の事項が記載されている。
(6a)「発明の目的は・・・被記録材のカールの問題や指紋の付着等の問題を生ぜず、更に高湿度条件下でも優れたインク受容性を保持したまま、プリンター内でトラブルを生ぜず、且つ記録後には、耐水性、耐湿性に優れ、且つ保存安定性に優れた記録画像を与えるインクジェット記録方法を提供することである。」(2頁右下欄7〜14行)、
(6b)「本発明の第1の特徴は、インクジェット記録方法における被記録材として、該被記録材のインク受容層が多価アルコールとホウ酸および/またはホウ酸塩との反応生成物から形成されている点であり、」(3頁左上欄11〜15行)、
(6c)「本発明者の詳細な研究によれば、インク受容層を多価アルコールとホウ酸および/またはホウ酸塩との反応物から形成することによって、得られる被記録材は、周囲条件の変化、特に湿度が変化しても被記録材がカールを生ぜず、また高湿度条件下においても・・・優れたインク受容性を保持したまま、その表面が粘着化することがなく、その結果、前述の如き従来技術の問題点が解消されたものである。」(3頁左上欄19行〜右上欄8行)、
(6d)「本発明において、上記の如き多価アルコールと反応させるホウ酸および/またはホウ酸塩としては、ホウ酸、ホウ酸のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩・・・等のアルカリ土類金属塩であり、これらのホウ酸塩等は上記多価アルコール100重量部あたり、一般的には0.01〜50重量部の割合で使用するが、これらの使用量は、使用する多価アルコールの種類や分子量に従って適当に変更して使用する。」(4頁右上欄10〜19行)、
(6e)「本発明で使用する被記録材のインク受容層は、上記の如き多価アルコールとホウ酸および/またはホウ酸塩との反応生成物によって形成されるが、このような反応生成物は、インク受容層を形成する前に製造してもよい。この場合には、反応生成物が過度にゲル化しないようにすることが好ましく、過度にゲル化すると基材上でのインク受容層の形成が困難になる。また、好ましい方法としては、多価アルコールの水溶液とホウ酸および/またはホウ酸塩の水溶液を混合してインク受容層を形成し、次いで乾燥と同時に両者を反応させる方法であり、」(4頁左下欄14行〜右下欄5行)、
(6f)「インク受容層のインク吸収性を高めるために、インク受容層中に各種の充填剤、例えばシリカ、・・・アルミナ、・・・等の充填剤をインク受容層中に分散させることもできる。」(5頁左上欄12〜18行)、
(6g)「実施例1(被記録材の調製)
透光性基材として厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製)を使用し、このフィルム上に、下記の塗工液を、乾燥後の膜厚が8μmとなるようにバーコーター法により塗工し、80℃で10分間の条件で乾燥し、本発明で使用する透光性被記録材を得た。
塗工液組成
ポリビニルアルコ-ル
(PVA-217、クラレ製) 10部
ホウ酸 0.2部
水酸化ナトリウム 0.07部
水 90部
このようにして得られた本発明の被記録材は、無色透明なものであった。」(8頁右上欄7行〜左下欄1行)。

同じく刊行物7(米国特許第4、877、686号明細書、参考資料3に添付の抄訳参照)には、次の事項が記載されている。
(7a)「本発明によると、インクジェット印刷のための記録シートは、cis位に水酸基を有し、ホウ酸又はホウ酸誘導体によってコーティング中にゲル化又は凝集される多価アルコール高分子バインダー、及び高吸収容量を有する充填材をその被覆中に含有する。」(1頁、アブストラクト)、
(7b)「層の組成や塗工方法を変更することも可能である。すなわち、バインダーの比率を大きくすることによって、ヘアークラックを減少させることが可能であるが、このことにより、乾燥にかかわる困難性、組成物コストの上昇、色濃度の低下、といった問題が現れる。温度及び乾燥速度を低下させることによってヘアークラックを減少させることができるが、これは実質的な経済上の限界を強いるものとなる。・・・
本発明の目的は、ここで記載される方法を適用することによって生じる不利な結果、困難性及びコストを課することなく、上記の欠点を低減することにある。」(2欄19行〜33行)、
(7c)「この発明で用いられる高吸収容量の充填材は、その高比表面積により知られている材料であり、以下の製品からなる群から選択することができる:シリカ、各種のケイ酸塩、水酸化アルミニウム、・・・尿素/ホルムアルデヒド顔料。」(4欄13行〜19行)、
(7d)「第1の工程においては、ゲル化剤の基体材料自体への混ぜ合わせによるか、又は被覆される基体材料表面へのゲル化剤の堆積により、ゲル化剤が上記基体材料によって導入される。後者の場合、多価アルコール高分子バインダーと充填剤を含むスリップは、ゲル化剤を有する基体材料上に塗るだけで堆積し、バインダーのゲル化が塗工操作中に起こる。
第2の工程においては、ゲル化剤は塗料に混ぜ合わされるが、このゲル化剤は予め(一時的に)不活性化され、塗工が行われる際に再度活性化されなければならない。例えば、不活性化されたゲル化剤を、ポリビニルアルコールを含む水性媒体の粘度上昇を起こすが、このアルコールの全ゲル化を生じないホウ酸とすることができる。この場合、ゲル化は、塗料調製物と、pHが好ましくは中性付近とされる基体材料との接触によって生じる。・・・
全ての場合において、この工程によって、シート面中の500μ未満の点の間での薄さの変化がわずかであり、更に、測定値できる影響のない、なめらかで欠点のない層が生産される。層は、更になめらかであり、クラックを有さず、基体材料に関してその個々により良く合致させることができ、浸透領域は低減される。」(4欄40行〜5欄2行)
(7e)「実施例1
2つの異なる基体材料が用いられた。
(a)低平滑性を有する比較的多孔質で、吸収性であり、以下の試験値を有する紙。
空気中でのAFNOR多孔性 2.1
・・・
(b)同じ基紙で、固形分での0.4g/m2のホウ砂被覆量となるホウ砂5%水溶液が塗工されたもの。
第2工程において、これらの2つの基体材料には、同1条件下で以下のスリップが塗工された。
粉体1g当たりの吸油量が250gであることで特徴付けられる、微粒子としての合成シリカ70重量部・・・、
平均粒子直径が2.5μであり、10μ未満の直径の粒子が95%を越える粉体ケイ酸アルミニウムの30重量部、
中程度の粘度(4%溶液で約7〜11cps)を有し、加水分解率が98であるポリビニルアルコールの30重量部、及び
固形分が10%である最終調製物を与えるのに十分な量の水。」(5欄42行〜6欄2行)、
(7f)「1.不透明な基体シートと、該基体シートの表面コート層とを有し、該表面コート層は、cis位に水酸基を有し、その実質的な部位がホウ酸、ホウ酸誘導体及びこれらの混合物から選択されたゲル化剤でゲル化されている多価アルコール高分子バインダーと、高吸収容量を有する充填材成分とを含み、該バインダーは、該充填材の重量の約10〜100%の量で存在し、該充填材は、前記インクジェット記録におけるインク受容体として最初に作用し、該記録シートに適用された際のドットの形、大きさ及び均一性が実質的にそれにより改善され得るインクジェット記録に関連した使用のための記録シート。」(7欄22行〜8欄8行)、
(7g)「2.多価アルコール高分子バインダーが、ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール共重合体からなる群から選択される請求項1の記録シート。」(8欄9〜12行)。

参考資料1には、「すいさんかアルミニウム」の項に「水酸化アルミニウムとよぶものは一般に水和した酸化アルミニウムとしてAl2O3・xH2Oで示すべきものである。」と記載されている。
参考資料2には、「コロイド分散系とは直径が10nmから1000nm(1μm)の範囲の微粒子が媒質中に分散した系と定義されている。しかし、実際にはこの範囲をいくぶん広げて用いられることがある。」と記載されている。

4.当審の判断
4-1.特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
(a)刊行物1には、上記(1a)ないし(1g)の記載からみて、「アルミナゾルに、アルミナゾル固形分に対して5〜50重量%の重合度1000以下のポリビニルアルコールを添加した記録シート用アルミナゾル塗工液。」の発明が記載されている(以下「刊行物1発明a」という。)。
そこで、本件発明1と「刊行物1発明a」を対比すると、「刊行物1発明a」のアルミナゾルはアルミナ水和物を分散させてゾル状態としたものであるから、両者は、「アルミナ水和物及びアルミナ水和物に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールを含有する記録シート用アルミナゾル塗工液。」である点で一致するが、本件発明1では、アルミナゾル塗工液がホウ酸又はホウ酸塩を含有するのに対し、「刊行物1発明a」ではそのことが示されていない点で相違する。
上記相違点について検討すると、「刊行物1発明a」は、アルミナゾルにポリビニルアルコールを加えた時に起こる塗工液粘度の経時的増加の問題に着目し、この問題をポリビニルアルコールの重合度を限定することで解決しようとするものであり、更に他の成分を含有させることは示されていない。しかも、刊行物4に記載されているように(4b)、ポリビニルアルコールにホウ砂、ホウ酸等を添加すると粘度が上昇することが知られており、「刊行物1発明a」の塗工液に対してホウ酸又はホウ酸塩を含有させることが当業者が容易になしうることとすることはできない。
(b)刊行物2は、インクジェット印刷用記録シートの関するものであり、従来技術として、顔料に対してバインダー比が小さい場合の問題は、多くの一般的なポリメリックバインダーが適当なバインダー強度を持たないこと、ホウ酸塩で架橋されたポリビニルアルコールは、インクジェット記録シートに対して良好な被覆を与えてきたことが記載されており(2b)、刊行物4には、「紙用コーテイング組成物」に関する従来技術として、PVAコーテイング液にホウ砂、ホウ酸等のPVAのゲル化剤を添加する例が閉示され、従来技術について粘度上昇等の問題があったことが述べられている(4b)。しかし、刊行物2、4には、塗工液に含まれる顔料(填料)の種類、大きさ、状態の記載は一切なく、塗工液をアルミナゾルとすることは示されていない。
さらに、刊行物6には、基材上に、多価アルコールとホウ酸又はその塩との反応物からなるインク受容層を設けた被記録材が記載され、インク受容層にアルミナ等の充填剤を添加できることが記載されているが、塗工液を特にアルミナゾルとすることは記載されているない。しかも、刊行物6には、塗工液は過度にゲル化しないようにすることが必要であることが記載されているところ(6e)、アルミナゾルは刊行物1の記載によれば塗工液の粘度を増加しやすいものであるから(1c)、刊行物2、4、6にポリビニルアルコールを含有する記録用シートの塗工液に、ホウ砂、ホウ酸等を添加することが記載されているとしても、塗工液をアルミナゾル塗工液とすることが当業者が容易になしうるとすることはできない。
また、これらの刊行物2、4、6には、塗工液中のホウ酸塩と塗膜上に乾燥時に発生する微小クラックの抑制との関係についても全く記載がない。
(c)刊行物3には、基紙上に、インクジェット記録層とは別にほう砂又はほう酸の塗工層を形成することが記載されているが(3a、3d)、塗工液にホウ酸又はその塩を含有させることは示唆されていない。
(d)刊行物5には、上記(5a)ないし(1g)の記載からみて、「アルミナゾルに、アルミナゾル固形分に対して10〜50重量%のポリビニルアルコールを添加した記録シート用アルミナゾル塗工液。」の発明が記載されているが、更に他の成分を含有させることは示されていない。
(e)刊行物7には、インクジェット記録シートのヘアークラックを減少させようという課題が示され、この様な欠点のないインクジェット記録シートを形成するための塗工液として、充填材と多価アルコール高分子バインダーを含有する塗工液が記載され、多価アルコール高分子バインダーの例としてポリビニルアルコールが、充填材の例として、シリカ粉末、水酸化アルミニウム等が挙げられている(7a、7c、7d、7e)。
上記参考資料1に示されるように水酸化アルミニウムにはアルミナ水和物も含まれるが、刊行物7には、特にアルミナ水和物からなるコロイド粒子の分散液であるアルミナゾル塗工液を選択して用いることは記載されていない。
また、刊行物7において、塗工工程に関する「第1の工程においては、・・・、又は被覆される基体材料表面へのゲル化剤の堆積により、ゲル化剤は上記基体材料によって導入される。後者の場合、多価アルコール高分子バインダーと充填剤を含むスリップは、ゲル化剤を有する基体材料上に塗るだけで堆積し、バインダーのゲル化が塗工操作中に起こる。」(7d)、「第2の工程においては、・・・例えば、不活性化されたゲル化剤を、・・・ホウ酸とすることができる。この場合、ゲル化は、塗料調製物と、pHが好ましくは中性付近とされる基体材料との接触によって生じる。」(7d)という記載は、ホウ酸等のゲル化剤を塗布した後、バインダーと充填剤を塗布することを示している。
また、実施例1もゲル化剤の塗布と、充填材及びポリビニルアルコールを含有する塗工液の塗布工程が別であり(7e)、刊行物7には、ゲル化剤を多価アルコール高分子バインダーと混合し塗工液とすることは記載されていない。
したがって、刊行物7に、アルミナゾル塗工液にホウ酸またはその塩を含有させることが示されているということはできない。
(f)そして、本件発明1においては、アルミナゾル塗工液に、アルミナ水和物に対して5〜50重量%のポリビニルアルコール、及びホウ酸またはホウ酸塩を含有させることにより、塗工し乾燥した時の微小クラック(長さ1mm程度)の発生が抑制され、吸収性の良好なアルミナ層が得られ、しかも塗布乾燥して得られる塗工層は透明性に優れたものであるという効果が奏されるものである。
(g)したがって、本件発明1は、刊行物1ないし7に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成をすべて引用した上で、更に技術的に限定を付したものであるから、上記(1)で述べたのと同様な理由により、本件発明2は、刊行物1ないし7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。

(3)本件発明3について
(a)刊行物1には、上記(1a)ないし(1g)の記載からみて、「基材上にアルミナ水和物からなる吸着層を設けた記録シートであって、アルミナ水和物からなる吸着層中に、アルミナゾル固形分に対して5〜50重量%の重合度1000以下のポリビニルアルコールが含有されている記録シート。」の発明が記載されている(以下「刊行物1発明b」という。)。
そこで、本件発明3と「刊行物1発明b」を対比すると、「刊行物1発明b」において「アルミナ水和物からなる吸着層」は、本件発明3の「アルミナ水和物層」に相当し、「刊行物1発明b」において塗工液が含むアルミナゾルは、アルミナ水和物からなるコロイド粒子が溶媒中に分散したものであり、アルミナゾル固形分は、本件発明3の「アルミナ水和物からなるコロイド粒子」に相当する。
したがって、両者は、「基材上にアルミナ水和物層が形成された記録シートであって、該アルミナ水和物層中に、アルミナ水和物からなるコロイド粒子に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールが含有されている記録シート。」である点で一致し、本件発明3では、アルミナ水和物層がホウ酸又はホウ酸塩を含有するのに対し、「刊行物1発明b」ではそのことが示されていない点で相違する。
上記相違点について検討すると、上記(1)(a)で述べたように、刊行物1には、アルミナ水和物層を形成する塗工液中にホウ酸またはホウ酸塩を更に含有させることは記載も示唆もなく、塗工液を塗布乾燥させて得られるアルミナ水和物層にホウ酸またはホウ酸塩を含有させることが当業者が容易になしうることとすることはできない。
(b)上記(1)(b)で述べたように、刊行物2、4、6には、ポリビニルアルコールを含有する記録用シートの塗工液に、ホウ砂、ホウ酸等を添加することによりバインダー強度を向上させることが示され、刊行物6には、吸着層(インク受容層)にアルミナを添加できることが記載されているが、塗工液をアルミナゾルとすることは示されておらず、刊行物2、4、6の記載から発明において、吸着層をアルミナ水和物からなる層とすることが当業者が容易になしうるとすることもできない。
(c)刊行物3には、ほう砂又はほう酸の塗工層をインクジェット記録層とは別に設けることが記載されているが(3a)、塗工層をアルミナ水和物層とし、それにホウ酸またはホウ酸塩を更に含有させることは示されていない。
(d)刊行物5には、インク受容層がアルミナゾルである記録用材料が記載されているが(5a〜5c)、アルミナゾルのインク受容層にホウ酸又はその塩を含有させるという記載は全くなく示唆もない。
(e)刊行物7には、上記(1)(e)で述べたように、インクジェット記録シートのヘアークラックを減少させようという課題が示され、この様な欠点のないインクジェット記録シートとして、充填材と多価アルコール高分子バインダーを含有する塗工層を有するものが記載されているが(7a、7c、7d、7e)、塗工層を特にアルミナ水和物層とすることは記載も示唆もない。
(f)そして、本件発明3においては、アルミナ水和物層にホウ酸又はホウ酸塩を含有させることにより、微小クラックの発生が抑制できるという明細書記載の特有の効果が奏されるものである。
(g)したがって、本件発明3は、刊行物1ないし7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、上記(1)ないし(3)の判断は、参考資料2によっても左右されない。

4-2.特許法第36条違反について
(1)異議申立人が、訂正前の本件出願に係る明細書の記載が特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていないとした理由は概略次のようなものである。
(ア)実施例1、2及び比較例では塗膜に所望とする特性を得るために重要である塗膜の乾燥時間についての記載はなく、またヘイズの測定方法についての記載もないので、本件各特許発明の効果を追試することは不可能である。すなわち、本件各特許発明が目的とする効果を奏するかは不明であり、更に本件明細書は、当業者が本件特許発明を容易に実施することができる程度に記載されていない。
(イ)甲第4号証では、アルミナ水和物とポリビニルアルコールの組合せだけで本件特許発明と同程度のヘイズが得られており、甲第5号証においてもホウ酸又はホウ酸塩を添加しないアルミナゾル塗工液を用いて良好な塗膜が得られている。そうすると、本件の各請求項にはホウ酸またはホウ酸塩を添加しても本件特許発明が目的とする効果が得られない範囲を包含する。したがって、本件明細書には発明の効果を得るための構成が記載されていない。
(ウ)本件明細書の実施例1では「アルミニウムアルコキシドの加水分解・解膠法で合成したベーマイトゾル」とあるが、該ベーマイトゾルがどのような「アルミニウムアルコキシド」を用いてどのような処理によって得られたものか不明である。
(エ)本件の請求項3において、ホウ酸またはホウ酸塩の添加量の意味が不明である。
記録シート中でホウ酸またはホウ酸塩はポリビニルアルコールと架橋されている。

(2)上記の点について検討する。
(ア)について
実施例1、2及び比較例には、塗膜の乾燥時間の記載がないが、好ましい乾燥時間は従来例の条件を参考にして実験すれば容易に理解できることである。「ヘイズ値」もよく知られた公定法があるので、どのような測定法を用いたかの記載がなくてもヘイズを測定することは可能であると言える。したがって、実施例及び比較例が実施できず、本件発明の効果が確認できないとすることはできない。
(イ)について
甲第4号証(上記刊行物5)、甲第5号証(上記刊行物1)においてホウ酸又はホウ酸塩を添加しない塗工液を用いて本件発明と同程度のヘイズ度が得られていること、良好な塗膜が得られているは、本件発明が効果を奏さない範囲を包含しているとする根拠とはならない。そして、本件発明は、ホウ酸又はホウ酸塩を添加することにより、微小クラックの発生を抑制できるという、甲第4、5号証には示されていない特有の効果を奏するものであり特許請求の範囲には目的とする効果を得るために必要な構成が記載されている。
(ウ)について
実施例1には「ベーマイトゾル」をどのような「アルミニウムアルコキシド」を用いてどのようにして得たかの記載がないが、「アルミニウムアルコキシド」を用いてベーマイトゾルを製造する方法は周知であり、また、特定のアルミニウムアルコキシドを用いたベーマイトゾルでなければ、本件発明の作用効果を奏さないとする理由もないから、「アルミニウムアルコキシド」の種類等の記載がないという理由だけで本件明細書の記載が不備であるとすることはできない。
(エ)について
アルミナ水和物層を形成する塗工液の調製において、ホウ酸またはホウ酸塩とポリビニルアルコールは原料として配合される。したがって、それらの量比(即ち、ポリビニルアルコールに対するホウ酸またはホウ酸塩の量)は正確に規定することができる。そして、アルミナ水和物層には、架橋されているものがあるとしても、原料として配合したホウ酸又はホウ酸塩に由来する物質が存在することは明らかであり、H3BO3に換算して求められるその量は、原料として配合した量と同じであることも明らかである。
また、ポリビニルアルコールに対するホウ酸またはその塩の量を限定したことの技術的意義は本件明細書の段落【0012】に具体的に記載されている。
したがって、請求項3において、アルミナ水和物層におけるホウ酸またはホウ酸塩の添加量の意味が不明であるとすることはできない。
以上のとおりであるから、本件出願は、明細書に記載上の不備があるため、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

第4 むすび
以上のとおり、特許異議申立の理由及び証拠、取消理由通知の理由によっては本件の請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
記録シート用アルミナゾル塗工液および記録シート
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ水和物および、該アルミナ水和物に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールを含有し、さらにホウ酸またはホウ酸塩を含有した記録シート用アルミナゾル塗工液。
【請求項2】
前記ホウ酸またはホウ酸塩が、ポリビニルアルコールに対してH3BO3換算で0.1〜10重量%配合されている請求項1に記載の記録シート用アルミナゾル塗工液。
【請求項3】
基材上にアルミナ水和物層が形成された記録シートであって、該アルミナ水和物層中に、アルミナ水和物からなるコロイド粒子に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールと、ポリビニルアルコールに対してH3BO3換算で0.1〜10重量%のホウ酸またはホウ酸塩とが含有されている記録シート。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、記録シート用アルミナゾル塗工液(以下、アルミナゾル塗工液または単に塗工液という)、特に記録シートのインク受理層を形成するためのアルミナゾル塗工液、および記録シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種学会、会議等のプレゼンテーション用として、従来のスライドプロジェクターに代わり、オーバーヘッドプロジェクターが用いられる機会が多くなっている。また、印刷の分野でも、各種の出版物や、包装等の用途で、透明な印刷物が求められるようになっている。これらの透明なフィルムへの印字、印刷は、基材であるフィルムそれ自体に吸収性が無いため、一般の紙面上に行う印刷に比べ、印刷の速度や乾燥の面で特別な配慮が必要である。また、不透明な基材においても、吸収性に乏しく、同様な配慮が必要な場合が多い。
【0003】
一方、特開平2-276670号などには、透明で、吸収性を有さない基材上に、アルミナ水和物からなる吸着層を設けた記録シートが、上記の問題点を解決でき、記録媒体として好適に使用できることが報告されている。この記録シートは、ポリエチレンテレフタレートなどの透明な基材上に、主としてインク中の色素を吸収定着する、多孔性アルミナ水和物層を設けたものである。この多孔性アルミナ水和物層は、ベーマイト結晶粒子からなるアルミナゾルとポリビニルアルコール系のバインダーとからなる塗工液を、基材に塗布し、乾燥することにより形成される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、アルミナゾルとポリビニルアルコール系バインダーとからなる塗工液は、経時的に粘度が上昇する傾向がある。これは、適当な物性を有するバインダーの種類の選定によりある程度対処できるものの、特に、吸収性の良好な塗工層を得ようとすると、乾燥時に微小なクラックが発生する場合があった。本発明は、吸収性の良好なアルミナ塗工層を製造する場合において、乾燥時の微小クラックの発生を抑制することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アルミナ水和物および、該アルミナ水和物に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールを含有し、さらにホウ酸またはホウ酸塩を含有したアルミナゾル塗工液を提供するものである。
【0006】
アルミナ水和物は、基材の表面に塗布して多孔質層を形成したとき、インク中の溶媒等を効果的に吸収できるものであればいずれのものを用いてもよいが、ベーマイト(Al2O3・nH2O、n=1〜1.5)が特に好ましく使用できる。本発明において、アルミナゾル塗工液は上記アルミナ水和物からなるコロイド粒子が溶媒中に分散したゾル状態をとる。
【0007】
本発明のアルミナゾル塗工液を基材上に塗布して得られるアルミナ水和物層は、記録シートのインク受理層として好適であり、その細孔構造が実質的に半径が1〜15nmの細孔からなり、細孔容積が0.3〜1.0cc/gである場合は、十分な吸収性を有し、かつ、アルミナ水和物層も透明性があるので好ましい。このとき、基材が透明シートであれば、塗工後のシートも透明なものが得られる。基材が不透明である場合にも、基材の質感を損なわないで、表面にアルミナ水和物層を形成することができ、塗工後のシートには高品質の画像を形成することができる。
【0008】
望ましくは、これらの物性に加え、アルミナ水和物層の平均細孔半径が1.5〜8nmであり、かつ、その平均細孔半径の±1nmの半径を有する細孔の容積が全細孔容積の45%以上である場合は、特に定着性と透明性の両立の観点から好ましい。平均細孔半径が4.5〜7nmであり、かつ、その平均細孔半径の±1nmの半径を有する細孔の容積が全細孔容積の55%以上である場合はさらに好ましい。なお、本発明における細孔半径分布の測定は、窒素吸脱着法による。
【0009】
本発明においては、塗工液中のアルミナ水和物の含有量は、10〜30重量%が好ましい。溶媒としては、水が好ましく使用される。
【0010】
本発明の塗工液は、バインダーとしてポリビニルアルコールを含む。また、ポリビニルアルコールの使用量は、アルミナ水和物に対してポリビニルアルコールが5〜50重量%になるようにするのが好ましい。バインダーの使用量が上記範囲に満たない場合は、アルミナ水和物層の機械的強度が不十分となり、逆に上記範囲を超える場合には、アルミナ水和物層のインク吸収性を阻害するおそれがあるので好ましくない。
【0011】
バインダーのポリビニルアルコールは、ケン化度90%以上、重合度500以上が好ましい。
【0012】
本発明の塗工液は、バインダーであるポリビニルアルコール固形分に対してH3BO3換算で0.1〜10重量%のホウ酸またはホウ酸塩を含有する。H3BO3換算の含有量が0.1重量%に満たない場合は、本発明の効果が十分発現せず、塗工乾燥時の微小クラックの発生防止、吸収量増大などの効果が期待できないので好ましくない。逆に、H3BO3換算の含有量が10重量%を超える場合は、塗工液の粘度の経時変化が大きくなり、塗工の安定性が悪くなるので好ましくない。より好ましいホウ酸またはホウ酸塩の含有量は、H3BO3換算で1〜5重量%である。
【0013】
ホウ酸としては、オルトホウ酸(H3BO3)だけでなくメタホウ酸、次ホウ酸なども使用できる。ホウ酸塩は、これらのホウ酸の可溶性塩が好ましく使用でき、具体的には、Na2B4O7・10H2O、NaBO2・4H2O、K2B4O7・5H2O、KBO2、NH4HB4O7・3H2O、NH4BO2などが挙げられる。
【0014】
塗工液の塗布方法は、各種の基材上に、ダイコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーターなどを用いて塗布するのが好ましい。塗膜の厚さは、各プリンター等の仕様、記録に用いられるインクやその溶剤の種類、インク量などによって適宜選択することができる。
【0015】
本発明のアルミナゾル塗工液を基材上に塗布し乾燥することにより、基材上にアルミナ水和物層が形成された記録シートであって、該アルミナ水和物層中に、ポリビニルアルコールと、ホウ酸またはホウ酸塩とが含有されている記録シートが得られる。アルミナ水和物からなるコロイド粒子に対して5〜50重量%のポリビニルアルコールとポリビニルアルコールに対してH3BO3換算で0.1〜10重量%のホウ酸またはホウ酸塩とが含有されていることが好ましい。
【0016】
この記録シートは、吸収性が良好で、色素の定着性も良好である。特にインクジェットプリンター用の記録媒体として好ましく使用することができる。
【0017】
【作用】
本発明の塗工液において、ホウ酸またはホウ酸塩の添加による微小クラック発生の抑制機構は明かではないが、バインダーのポリビニルアルコールに作用してそのゲル化速度が促進され、塗工層の強度、均一性が向上するためであると考えられる。また、このために乾燥時のポリビニルアルコールのマイグレーションが抑制され、吸収性が向上すると考えられる。
【0018】
【実施例】
実施例1
アルミニウムアルコキシドの加水分解・解膠法で合成した固形分18.35重量%のベーマイトゾル100gに、H3BO3の5重量%水溶液2gを加えて40℃に加温し、ポリビニルアルコール(ケン化度97%、重合度2300)の10重量%水溶液を20.2g混合して、固形分16重量%の塗工液とした。
【0019】
この塗工液を透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ125μm)上に、乾燥後の塗工量が23g/m2になるようにバーコーターにより塗正し、65℃のオーブン中で乾燥した後、140℃で熱処理を行った。この結果得られたベーマイトからなる多孔質塗工層は微小クラックの発生はみられず、塗工フィルムのヘイズ値は4.2であった。また、この多孔質層の平均細孔半径は5.6nm、細孔容積は0.5cc/gであり、インクジェットプリンターで記録するのに十分な吸収性を有していた。
【0020】
実施例2
H3BO3の5重量%水溶液の添加量が1gである以外は、実施例1と同様にして記録シートを得た。微小クラックの発生はみられず、ヘイズ値は5.0であった。また、この層の多孔質層の平均細孔半径は5.5nm、細孔容積は0.5cc/gであり、実施例1の記録シートと同様の吸収性を有していた。
【0021】
比較例
実施例1と同じアルミナゾルおよびポリビニルアルコール溶液を用いて、H3BO3添加なしの塗工液を調製し、実施例と同様にして塗工フィルムを得た。得られた塗下フィルムは、A4判の面積の中に無数の微小クラック(長さ1mm程度)があり、ヘイズ値は5.6であった。また、この多孔質層の平均細孔半径は5.6nm、細孔容積は0.5cc/gであった。
【0022】
【発明の効果】
本発明のアルミナゾル塗工液は、塗工乾燥時の微小クラックの発生が抑制され、吸収性の良好な欠点のないアルミナ層が得られる。この塗工液を塗布乾燥して得られる塗工層はヘイズが低く透明性に優れるのでヘイズの抑制に効果を有する。吸収性も良好である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-11-30 
出願番号 特願平6-162500
審決分類 P 1 651・ 534- YA (B41M)
P 1 651・ 121- YA (B41M)
P 1 651・ 531- YA (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 阿久津 弘
秋月 美紀子
登録日 2003-02-14 
登録番号 特許第3398477号(P3398477)
権利者 旭硝子株式会社
発明の名称 記録シート用アルミナゾル塗工液および記録シート  

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