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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1133184
審判番号 不服2003-10948  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-03-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-13 
確定日 2006-03-13 
事件の表示 平成 8年特許願第226437号「インクジェットヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月10日出願公開、特開平10- 67103〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年8月28日の出願であって、平成15年5月12日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として同年6月13日に審判請求がなされるとともに、同年7月3日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成15年7月3日付けの手続補正についての却下の決定

[補正却下の決定]
平成15年7月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.補正事項及びその目的
平成15年7月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における
「前記基板と圧電素子とを接合する接合部材は、前記基板と圧電素子とを接合する絶縁性接着剤部と、前記外部電極と電極パターンの導通を得る導電性接着剤部とを一体化したフィルム状接着剤である」を
「前記接合部材は、前記基板と圧電素子とを接合する絶縁性接着剤部と、前記外部電極と電極パターンとを電気的に接続する導電性接着剤部とを有し、前記接合部材は、前記絶縁性接着剤部と、前記絶縁性接着剤部の両側に設けられた前記導電性接着剤部とを一体化したフィルム状接着剤であって、前記接合部材の全幅は、前記圧電素子の全幅より大きい」と補正する補正事項を含むものである。
そして、当該補正事項は、本件補正前の請求項1に記載されていた接合部材における絶縁性接着剤部と導電性接着剤部の配置を「絶縁性接着剤部の両側に設けられた前記導電性接着剤部」と限定し、その全幅を「圧電素子の全幅より大きい」と限定するものであり、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、当該補正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされた訂正であり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。

2.独立特許要件
前述のとおり、上記補正事項は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】基板上に圧電素子を接合し、この圧電素子の両側に形成された外部電極と前記基板上に形成した電極パターンとを接続する接合部材を有するインクジェットヘッドにおいて、
前記接合部材は、
前記基板と圧電素子とを接合する絶縁性接着剤部と、
前記外部電極と電極パターンとを電気的に接続する導電性接着剤部とを有し、
前記接合部材は、前記絶縁性接着剤部と、前記絶縁性接着剤部の両側に設けられた前記導電性接着剤部とを一体化したフィルム状接着剤であって、
前記接合部材の全幅は、前記圧電素子の全幅より大きい
ことを特徴とするインクジェットヘッド。」

(2)引用例の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平8-156272号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。
(ア)「【請求項2】列状に配置された複数の圧電素子で各加圧液室を加圧することによって各加圧液室に連通する各ノズルからインク滴を噴射するインクジェットヘッドにおいて、このインクジェットヘッドはアクチュエータユニット上に液室ユニットを積層接合してなり、前記アクチュエータユニットは、絶縁性基板上に設けた電極用パターンと積層型圧電素子が、この積層型圧電素子及び前記基板表面部に一体的にスリット加工を施されて複数の積層型圧電素子及び各積層型圧電素子に対応する個別電極に分割されていると共に、前記基板上に前記複数の積層型圧電素子の列設方向と直交する方向の少なくとも一方側に前記積層型圧電素子と略同一高さのフレーム部材が接合されてなり、前記液室ユニットは、前記アクチュエータユニットの各積層型圧電素子の変位で変形される変形部を有する振動板と、この振動板の変形部に対応する加圧液室及び加圧液室に連通する共通インク流路を形成する液室流路形成部材と、前記加圧液室に連通する前記ノズルを形成したノズルプレートとを積層接合してなることを特徴とするインクジェットヘッド。」
(イ)「図7に示すように基板3上の前記圧電素子接合領域54,55に積層型圧電素子をプレート状(板状に限らず、四角柱状等の形状を含む意味で用いる。)に形成してなる圧電素子プレート56,56を接着剤6(図3参照)を用いて接着接合する。そして、このとき、圧電素子プレート56,56と個別電極用パターン51,52及び共通電極用パターン53との位置関係は、圧電素子プレート56,56が個別電極用パターン51,52及び共通電極用パターン53に僅かに載る程度か、好ましくは僅かに隙間をあけて接合するようにする。」(【0040】)
(ウ)「この圧電素子プレート56の基板3への接合に用いる接着剤6としては加熱硬化タイプのエポキシ系接着剤を使用しているが、中でも高ヤング率のものが適している。接着剤の形態としては、1液タイプ、2液混合タイプ、フィルムタイプ等のいずれでも使用可能である。」(【0041】)
(エ)「これらの圧電素子プレート56,56の長辺部端面には予め前記端面電極(外部電極)28,29を形成するための端面電極57,58を形成しておき、基板3上への接着接合後、これらの2枚の圧電素子プレート56,56の対向する側の端面電極57,57を基板3上の共通電極用パターン53に導電性材料31にて電気的に接続すると共に、2枚の圧電素子プレート56,56の対向しない端面電極58,58を基板3上の各個別電極用パターン51,51に導電性材料32にて電気的に接続する。導電性材料31,32としては例えば導電性接着剤を用いてこれを塗布硬化させる。」(【0042】)
(オ)「圧電素子プレート56と各電極用パターン51,52を切断加工するときに、小さなピッチで切断加工(スリット加工)するために電極用パターンの密着強度が加工時の剥離力に耐えられなくなって基板3から剥離することもある。」(【0063】)

(3)引用例1記載の発明
以上の記載(ア)〜(オ)を含む引用例の全記載及び図示からみて、引用例1には以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明」という。)。
「基板3上に圧電素子プレート56を接着接合し、圧電素子プレート56の長辺部端面に形成された端面電極(外部電極)28,29を形成するための端面電極57,58と基板3上の共通電極用パターン53及び各個別電極用パターン51,52とを電気的に接続するインクジェットヘッドにおいて、
圧電素子プレート56と基板3との接合に加熱硬化タイプのエポキシ系接着剤を使用し、
端面電極(外部電極)28,29と基板3上の共通電極用パターン53及び各個別電極用パターン51,52とを電気的に接続する導電性材料31,32として導電性接着剤を使用したインクジェットヘッド。」

(4)対比 ・判断
(4-1)一致点及び相違点
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「圧電素子プレート56」を、所定のピッチでスリット加工し、分離したものが、本願補正発明の「圧電素子」に相当し、スリット加工の前後いずれにおいても基板上に接合していることに変わりはない。
引用発明の「端面電極(外部電極)28,29」が、本願補正発明における「外部電極」に相当し、引用発明では、端面電極28は圧電素子の一側に、端面電極29は圧電素子の他側に形成されているから、「端面電極28、29」は、圧電素子の両側に形成されているといえ、引用発明には、本願補正発明の「圧電素子の両側に形成された外部電極」に相当する構成が記載されている。
引用発明における「共通電極用パターン53及び各個別電極用パターン51,52」は、本願補正発明における「電極パターン」に相当する。
引用発明の「加熱硬化タイプのエポキシ系接着剤」が、絶縁性接着剤であることは自明である。
してみれば、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「基板上に絶縁性接着剤で圧電素子を接合し、この圧電素子の両側に形成された外部電極と前記基板上に形成した電極パターンとを導電性接着剤で接続するインクジェットヘッド。」
<相違点>
外部電極と電極パターンとの接続形態に、本願補正発明は、接合部材を採用したものであるが、引用発明は、本願補正発明のように接合部材としての形態を採用したものとはいえない点。<相違点1>
本願補正発明では、接合部材は「基板と圧電素子を接合する絶縁性接着剤部と、外部電極と電極パターンとを電気的に接続する導電性接着剤部とを有し、前記絶縁性接着剤部と前記絶縁性接着剤部の両側に設けられた前記導電性接着剤部とを一体化したフィルム状接着剤であって、全幅は、前記圧電素子の全幅より大きい」なる特定がされているが、引用発明は、接合部材に関する上記特定を有していない点。<相違点2>

(4-2)相違点についての検討
<相違点1>に対して
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内でおいて頒布された刊行物である特開昭59-89164号公報(以下、「引用例2」という。)には、マルチノズルインクジェットヘッドユニットに関し次の事項が記載又は図示されている。
2-(ア)「ピエゾ素子とFPCとの間に導電性両面接着テープを介在させて両者の電気的、機械的接続を図ることによって、非常に単純な構造で確実、安定な接続をはかる...第1図は本発明の実施例に用いたFPC1を示す。FPC1は基板フィルム2上に所定の形状にエッチングされた銅箔3で構成され、この銅箔3の端部4はインクジェットヘッドのピエゾ素子に対応しているとともに、この端部には両面導電性テ-プ5が貼付されている。又FPC1は銅箔3の端部4以外は絶縁のためのオーバーレイ6がコーティングされている。第2図は...ピエゾ素子8に対応して前記FPC1の銅箔3の端部4が対応するように重ねて押圧することによって導電性両面接着テ-プがピエゾ素子8と端部4との電気的接続が行われるとともに、機械的にも接着されてヘツド7とFPC1とが一体となる。」(第2頁左上欄11行〜右上欄16行)
以上の記載2-(ア)及び第1、2図によれば、引用例2には「ピエゾ素子とFPCの基板フィルム上に所定の形状にエッチングされた銅箔端部の電気的接続及び機械的接着を行う導電性両面接着テープ」が記載されている。引用例2のピエゾ素子、FPC、所定の形状にエッチングされた銅箔、導電性両面接着テープは、それぞれ圧電素子、基板、電極パターン、接合部材といえ、FPCの銅箔端部との電気的接続を行うのはピエゾ素子の外部電極であることが自明であるから、引用例2には、基板の電極パターンと圧電素子の外部電極を電気的に接続する接続形態に、接合部材を採用したインクジェットヘッドが記載されている。
したがって、引用例2に記載された外部電極と電極パターンとの接続形態に接合部材を用いる技術を、引用発明に適用して、外部電極と電極パターンとの接着作業性の向上を図ろうとすることは当業者が容易に想到できたものと認められる。

<相違点2>に対して
2部材を電気的及び機械的に接合する接合部材として、絶縁性接着剤部と導電性接着剤部を一体化したフィルム状接着剤は従来から周知である(特開平6-25623号公報の図3、【0015】、特開平4-301382号公報の図2(f)、【0031】)から、接合部材を、基板と圧電素子を接合する絶縁性接着剤部と、外部電極と電極パターンとを電気的に接続する導電性接着剤部とを一体化したフィルム状接着剤とし、圧電素子の基板への接合と、外部電極と電極パターンとの電気的接続を一工程で行なえるようにすることは当業者にとって格別困難ではない。そして、前記接合部材を、絶縁性接着剤部と導電性接着剤部とを一体化したフィルム状接着剤とするにあたり、絶縁性接着剤部と導電性接着剤部の配置を、引用発明の絶縁性接着剤と導電性接着剤の配列の如く、絶縁性接着剤部と絶縁性接着剤部の両側に設けられた導電性接着剤部とした点は、引用発明のように外部電極が両側に形成された圧電素子と、基板を電気的、機械的に接続する接合部材であれば、必然的にそのような配置にならざるを得ないから、単なる設計事項である。
また、接合部材の全幅を圧電素子の全幅より大きくした点は、引用発明における導電性接着剤(31,32)が、基板から上方に延在していることからも窺える(第3図)ように、外部電極を両側に形成した圧電素子と基板を、両端側が導電性接着剤部からなる接合部材で確実に接合しようとすれば、導電性接着が上方に延在して十分な接合力を得られるように接合部材の全幅を圧電素子の全幅より大きくすればよいことは自明である。
したがって、相違点2は引用発明に引用例2記載の外部電極と電極パターンとの接続形態を採用すべく構成することで当業者であれば容易に発明をすることができたものと認められる。

(4-3)むすび
本願補正発明と引用発明との各相違点は、引用例2記載の発明、周知技術から当業者であれば容易に想到することができたものと認められ、これら各相違点に係る構成を備えた本願補正発明の作用効果も引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術から当業者であれば容易に推察可能なものでしかない。
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定で準用する同法第126条第4項に規定される独立特許要件を満たしていないものであり、特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定によって却下すべきものである。

第3 本願発明
平成15年7月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成15年4月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】基板上に圧電素子を接合し、この圧電素子の外部電極と前記基板上に形成した電極パターンとを接続するインクジェットヘッドにおいて、
前記基板と圧電素子とを接合する接合部材は、前記基板と圧電素子とを接合する絶縁性接着剤部と、前記外部電極と電極パターンの導通を得る導電性接着剤部とを一体化したフィルム状接着剤であることを特徴とするインクジェットヘッド。」

1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記第2の2.(2)及び(3)に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、本願補正発明における「前記絶縁性接着剤部と、前記絶縁性接着剤部の両側に設けられた前記導電性接着剤部」という絶縁性接着剤部と導電性接着剤部の配置に係る限定、「前記接合部材の全幅は、前記圧電素子の全幅より大きい」という接合部材の全幅に係る限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに接合部材における絶縁性接着剤部と導電性接着剤部の配置及び全幅を限定したものに相当する本願補正発明が、前記第2の2.(4)に記載したとおり、引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
本願発明は、引用発明、引用例2記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-19 
結審通知日 2006-01-20 
審決日 2006-01-31 
出願番号 特願平8-226437
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 勲
藤井 靖子
発明の名称 インクジェットヘッド  
代理人 稲元 富保  

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