• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1133218
審判番号 不服2005-14022  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2006-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-21 
確定日 2006-03-16 
事件の表示 平成 9年特許願第536052号「インクジェットプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月16日国際公開、WO97/37854〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1997年4月4日(優先権主張1996年4月4日、日本国)を国際出願日とする出願であって、原審において平成16年12月10日付けで通知された拒絶理由通知書に対して、平成17年2月18日付けで手続補正書が提出された後、同年6月15日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成17年7月21日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月19日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年8月19日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年8月19日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、請求項1は以下のとおり補正された。
「被記録部材に対して相対的に主走査方向と上記主走査方向と直交する副走査方向に移動され、それぞれN個のノズルを有し、上記N個のノズルは上記副走査方向に所定の解像度におけるK画素間隔でK/Nが既約分数となる値で配された複数のプリントヘッドが、吐出するインクの色に応じて上記主走査方向に上記ノズルが沿うように配されるとともに、互いに上記副走査方向にL画素ずれて配され、上記プリントヘッドを上記主走査方向に1回相対的に移動させる毎に上記被記録部材を上記副走査方向へ相対的に移動させ、被記録部材上の同一画素に色インクを重ね合わせることにより多色の画像を印刷するヘッド装置と、
ライン単位の画像データを上記副走査方向に並べ替えて出力する信号処理手段と、
上記信号処理手段から出力される画像データに対して、上記ヘッド装置による被記録部材上に描画される画像を構成する各ラインの記録の際に、上記信号処理手段から出力される画像データが取りうる最大の記録順序の組み合わせに基づいて画像データの色補正を行う色補正手段とを備えているインクジェットプリンタ。」
上記補正は、「被記録部材上の同一画素に色インクを重ね合わせることにより多色の画像を印刷する」という技術的な事項を、「上記プリントヘッドを上記主走査方向に1回相対的に移動させる毎に上記被記録部材を上記副走査方向へ相対的に移動させ」て行う、と限定する補正であり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定による特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特公平4-19029号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の(a)-(m)の事項が記載されている。

(a)「本発明はサーマルプリンタ、インクジエツトプリンタ等の記録ドツトによる画素マトリクスによつて被記録部材上に画像を形成する記録装置に関する。」(第1頁第2欄2-5行)
(b)「即ち本発明は、複数色の画像信号に基づいて、被記録部材と記録要素が取り付けられた支持体との間でほぼ直交する2つの方向に主走査及び副走査しながら記録画像を形成する記録装置において、前記副走査方向にK解像度要素間隔でN個の前記記録要素が配列された記録要素群を前記主走査方向に対して所定の間隔で複数列有し、各記録要素群の記録色を互いに異ならしめるとともに、前記複数の記録要素群の列を前記副走査方向にl解像度要素間隔ずらして階段状に配列し、前記l解像度要素間隔ずれた位置に対応した各色の画像信号を前記所定の間隔に応じて遅延させて各色の記録要素群に供給して各色の主走査を行い、前記複数の記録要素群の列の主走査毎にN解像度要素間隔分副走査を行つて被記録部材上にカラー画像記録を行うとともに、前記K及びNの値はK/Nが既約分数となる値であることを特徴とする記録装置を提供するものである。」(第2頁第3欄14-31行)
(c)「 第2図は本発明を適用した多色インクジエツトプリンタの一例を示し、ここで、11は記録紙、12は記録紙11をY方向に送る紙送りローラ、13は紙送りローラ12を駆動する紙送りパルスモータ、14は記録紙2を案内する紙ガイドローラである。15は対向する記録紙1に平行に移動するマルチノズルインクジエツトヘツドユニツトであり、イエロー(Y)用ノズルヘツド15Y、マゼンタ(M)用ノズルヘツド15M、シアン(C)用ノズルヘツド15Cおよびブラツク(BK)用ノズルヘツド15BKの4色の記録ヘツドからなる。」(第2頁第3欄34-第4欄1行)
(d)「ここで、本発明装置においては、副走査方向にKドツト間隔でN個の記録要素を配列した記録要素群を主走査方向にLドツト間隔でM列配置すると共に、各記録要素群を副走査方向にlドツト間隔づつ順次ずらして配置することによつて記録ヘツドを構成する。また、これらK,l,MおよびNの値を、
lM≦K ……(1)
lM>K
K(N-1)+1>l
K/N:既約分数 ……(2)
(1)または(2)式のいずれか一方の関係を満すように定めるものとする。」(第2頁第4欄2-14行)
(e)「本実施例における記録ヘツド15の構成例を第3図に示し、各ノズルヘツド15Y〜15BKは副走査方向(図示の上下方向)にK=4ドツト間隔毎に配列したN=3個のノズルを有する。これら各ノズルヘツド15Y〜15BKは、主走査方向(図面の左右方向)にL=2ドツト間隔毎にヘツド15Y,15M,15Cおよび15BKの順に平行配置する。更に、第3図示のように、ヘツド15BKから順に主走査方向にl=1ドツト間隔毎にセツトバツクした状態で各ノズルヘツド15Y〜15BKを配置する。このように本実施例においては、K=4、l=1、M=4およびN=3であり
lM=4=K
となり、前述の(1)式を満たすものである。」(第2頁第4欄15-29行)
(f)「ここで、記録ヘツド15の記録動作を説明すると、主走査方向についてはパルスモータ17により駆動されて1ドツト間隔で往動または復動して記録を行う。すなわち、各ノズルヘツド15Y〜15BKの各ノズルを第3図示のようにY1,Y2,Y3、M1,M2,M3、C1,C2,C3およびBK1,BK2,BK3とし、ノズルヘツド15BKのノズルBK1が記録紙11の主走査線SL上の位置にあるものとすると、往動または復動走査によりそれぞれ主走査線SL,SL+4,SL+8にはブラツク、主走査線SL+1,SL+5,SL+9にはシアン、主走査線SL+2,SL+6,SL+10にはマゼンタ、主走査線SL+3,SL+7,SL+11にはイエローの各色インクが吐出される。
往動または復動走査が終了した後は、パルスモータ13により記録紙11が各ヘツド15Y〜15BKのノズル数に対応するドツト間隔、すなわち3ドツト間隔分紙送り出される。これにより、記録ヘツド15は記録紙11に対して3ドツト間隔飛越し走査することとなり、主走査線SL上のノズルBK/は主走査線(SL+3)上に移る。他のノズルも同様に移動し、以後の往動または復動走査により各ノズルの対応する位置に各色の印字が行なわれる。」(第3頁第5欄13-37行)
(g)「この結果、第3図示のヘツド15BKに着目すると、副走査方向への3ドツト間隔の飛越し走査により、各主走査線には各ノズルBK1〜BK3によつて第4図に示すように印字がなされ、同一部位への二重打ちや印字抜けは生じない。一般に、N個のノズルが夫々副走査方向にKドツト間隔で一列に配列されている場合、N個のそれぞれのノズルが△t時間毎に同一時刻に印字される場合には、二重打ちおよび印字抜けしないための条件はK/Nが既約分数となることである。本例ではN=3,K=4でK/N=4/3となり、上記要件を満すものである。」(第3頁第5欄38-第6欄5行)
(h)「次に上述のようにして主走査、副走査を繰り返すことにより記録を行なう訳であるが、多色画像が形成されるためには各主走査線はそれぞれ異なる色インクを吐出するヘツドにより走査されなければならない。本例ではヘツド15Y〜15BKによりそれぞれ1回づつ計4回の走査が必要となる。」(第3頁第6欄6-12行)
(i)「本例では、例えば第3図示の主走査線SL+11においては、ノズルY3,BK3,C2,M1の順にこの主走査線SL+11が走査されて、イエロー、ブラツク、シアン、マゼンタの順に色インクが重ね合わされて多色画像が形成される。他の主走査線についても同様であり、各ヘツド15Y〜15BKそれぞれのノズルの位置する空間座標をZY,ZM,ZC,ZBKとおくと、各主走査線について
ZY=ZM=ZC=ZBKなる関係が成立する。すなわち、記録紙11上にはイエロー、マゼンタ、シアン、イエローの色インクの重ね合わせによる多色画像が形成される。」(第3頁第6欄19-31行)
(j)「次に、本例において原稿画像を読取る不図示の読取ヘツドが単一センサで構成されているものとし、第5図に、かかる場合に第3図示の記録ヘツド15で記録する際の制御回路の一例を示す。
図において、BS,CS,MSおよびYSは不図示の読取ヘツドを介して読み取られた原稿画像に対応したブラツク、シアン、マゼンタおよびイエローの色信号である。51〜60は遅延回路、61〜64はスイツチング回路であり、記録ヘツド15の往動時には図示の実線位置にセツトされ、復動時には図示の破線位置にセツトされる。65〜72は遅延回路、Y1〜Y3,M1〜M3,C1〜C3およびBK1〜BK3はそれぞれ前述したノズルヘツド15Y,15M,15Cおよび15BKの各ノズルである。本例を遅延回路51〜60では、供給された色信号を2ドツト間隔分遅延させるものとし、また遅延回路66〜72においては4主走査線分遅延させるものとする。この結果、イエロー信号YSは往動時にはスイツチング回路64を介してノズルY3に供給され、ノズルY2には遅延回路71を介して4主走査線分遅延された信号YSが、また、ノズルY1には遅延回路71,72を介して8主走査線分遅延した信号YSがそれぞれ同時刻に供給される。一方、マゼンタ信号MSは、往動時にはスイツチング回路63を介して遅延回路56に供給されて2ドツト間隔分遅延された後にノズルM3に供給される。ノズルM2およびM1には前述したノズルY2,Y1における場合と同様にして、それぞれ4および8主走査線分遅延されてマゼンダ信号MSが供給される。シアン信号CSは遅延回路54,55により4ドツト間隔分遅延されてそれぞれ各ノズルC3〜C1に供給され、ブラツク信号BSは遅延回路51,52,53により6ドツト間隔分遅延されて各ノズルBK3〜BK1に供給される。
この結果、各ノズルには同時刻に各ノズルY1〜Y3,M1〜M3,C1〜C3およびBK1〜BK3の位置する部位に対応した原稿画像の信号が供給されることになる。ヘツド15の往動に同期して、供給された色信号に従つてインク吐出を行えば、記録紙11上に原稿画像が再生される。なお、復動時にはスイツチング回路61〜64が切換わり図示の破線位置にセツトされ、往動時とは逆の遅延動作が行なわれて原稿画像が記録紙11上に再生される。」(第3頁6欄39-第4頁7欄39行)
(k)「第3図は第2図示の装置の記録ヘツドユニツトの構成例を示す線図」(第5頁第9欄4-5行)
(l)「15……ヘッドユニット」(第5頁第9欄13-第10欄1行)
(m)第2図から、ノズルヘツド15Y,15M,15Cおよび15BKからなるヘッドユニット15を有する多色インクジェットプリンタが見てとれる。

そして、上記(a)-(m)の記載事項から、以下(イ)-(チ)の事項が認められる。
(イ)上記(a)及び(c)に摘記のとおり、引用例1に記載された発明は「記録ドツトによる画素マトリクスによつて被記録部材上に画像を形成する記録装置」に関する発明であり、記録装置として「インクジェットプリンタ」が記載されている。
(ロ)上記(b)には「前記副走査方向にK解像度要素間隔でN個の前記記録要素が配列された記録要素群」と記載され、当該構成を多色インクジェットプリンタに適用した一例として、上記(c)及び(e)に「15は対向する記録紙1に平行に移動するマルチノズルインクジエツトヘツドユニツトであり、イエロー(Y)用ノズルヘツド15Y、マゼンタ(M)用ノズルヘツド15M、シアン(C)用ノズルヘツド15Cおよびブラツク(BK)用ノズルヘツド15BKの4色の記録ヘツドからなる。」、「本実施例における記録ヘツド15の構成例を第3図に示し、各ノズルヘツド15Y〜15BKは副走査方向(図示の上下方向)にK=4ドツト間隔毎に配列したN=3個のノズルを有する。」と記載されている。
よって、上記「記録要素」及び「記録要素群」は、多色インクジェットプリンタにおける「ノズル」及び各色毎の「ノズルヘッド」に相当するものである。
(ハ)上記(b)に記載のとおり、引用例1に記載された「記録装置」は、「被記録部材と記録要素が取り付けられた支持体との間でほぼ直交する2つの方向に主走査及び副走査しながら記録画像を形成する」ものであり、上記(c),(l)及び(m)の記載から「記録要素が取り付けられた支持体」は具体的には「ヘッドユニット」に相当するものと認められる。
したがって、引用例1には「被記録部材に対して相対的に主走査方向と主走査方向と直交する副走査方向に移動されるヘッドユニット」が記載されている。
(ニ)上記(d)に記載のとおり「記録ヘッド」は「副走査方向にKドツト間隔でN個の記録要素を配列した記録要素群を主走査方向にLドツト間隔でM列配置すると共に、各記録要素群を副走査方向にlドツト間隔づつ順次ずらして配置する」構成であって、上記(e)に記載のとおり「各ノズルヘツド15Y〜15BKは、主走査方向(図面の左右方向)にL=2ドツト間隔毎にヘツド15Y,15M,15Cおよび15BKの順に平行配置する」構成である。
そして、上記K及びNの関係は、上記(b)に摘記のとおり「K及びNの値はK/Nが既約分数となる値である」と規定されている。
また、上記(e)には「記録ヘツド15の構成例を第3図に示し」と記載され、上記(k),(l)に摘記のとおり、第3図は第2図に示される装置の記録ヘッドユニットの構成例を示す線図であって、図番15はヘッドユニットを示していることから、引用例1において「記録ヘッド」は「ヘッドユニット」と同義に用いられている。
よって、引用例1には「それぞれN個の記録要素を有し、N個の記録要素は副走査方向にKドツト間隔でK/Nが既約分数となる値で配された複数の記録要素群が、吐出するインクの色に応じて主走査方向にノズルが沿うように配されるとともに、互いに副走査方向にlドツト間隔づつ順次ずらして配されたヘッドユニット」が記載されている。
(ホ)上記(f)には「記録ヘッド15の記録動作」について、「往動または復動走査が終了した後は、パルスモータ13により記録紙11が各ヘツド15Y〜15BKのノズル数に対応するドツト間隔、すなわち3ドツト間隔分紙送り出される」と記載され、「記録ヘッド」は複数の「ノズルヘッド」からなるものであるから、引用例1には「ノズルヘッドを主走査方向に1回相対的に移動させる毎に被記録部材を副走査方向へ相対的に移動させる」構成が記載されていることとなる。
(へ)上記(h)及び(i)の記載から、引用例1に記載された「ヘッドユニット」が「被記録部材上の同一画素に色インクを重ね合わせることにより多色の画像を印刷する」ものであることは明らかである。
(ト)上記(h)に「多色画像が形成されるためには各主走査線はそれぞれ異なる色インクを吐出するヘツドにより走査されなければならない。本例ではヘツド15Y〜15BKによりそれぞれ1回づつ計4回の走査が必要となる」と記載され、上記(j)には「記録ヘッド15で記録する際の制御回路」として「イエロー信号YSは往動時にはスイツチング回路64を介してノズルY3に供給され、ノズルY2には遅延回路71を介して4主走査線分遅延された信号YSが、また、ノズルY1には遅延回路71,72を介して8主走査線分遅延した信号YSがそれぞれ同時刻に供給される」、「この結果、各ノズルには同時刻に各ノズルY1〜Y3,M1〜M3,C1〜C3およびBK1〜BK3の位置する部位に対応した原稿画像の信号が供給されることになる」と記載されている。
ここで、一つの主走査線上の記録動作に着目すると、ある主走査時に例えばイエローが吐出され、次に副走査方向への移動が行われ、次の主走査時に例えばマゼンダが吐出される。そして、この動作がノズルヘッドの数だけ繰り返されている。
そして、この記録動作は、一つの主走査線上の記録を副走査動作を挟みながら行っていることから、一つの主走査線の画像信号を副走査方向に並べ替えて記録する動作に他ならず、該記録動作を行うために、引用例1に記載された制御回路は、K解像度要素間隔(引用例1の実施例ではK=4)の整数倍遅延された画像信号が同時刻に吐出されるように、画像信号を遅延する遅延回路を有している。
したがって、引用例1に記載された「制御回路」は「主走査線単位の画像信号を副走査方向に並べ替えて出力する」構成を有するものである。
(チ)上記(イ)-(ト)に記載のとおり、引用例1に記載された記録装置が、制御回路から出力される画像信号に対して、ヘッドユニットによる被記録部材上に描画される画像を構成する各主走査線上の記録を行っていることは明らかである。
したがって、上記(イ)-(チ)より、引用例1には以下の発明が記載されていると認められる。
「被記録部材に対して相対的に主走査方向と主走査方向と直交する副走査方向に移動され、それぞれN個のノズルを有し、N個のノズルは副走査方向にKドツト間隔でK/Nが既約分数となる値で配された複数のノズルヘッドが、吐出するインクの色に応じて主走査方向にノズルが沿うように配されるとともに、互いに副走査方向にlドツト間隔づつ順次ずらして配され、ノズルヘッドを主走査方向に1回相対的に移動させる毎に被記録部材を副走査方向へ相対的に移動させ、被記録部材上の同一画素に色インクを重ね合わせることにより多色の画像を印刷するヘッドユニットと、
主走査線単位の画像信号を副走査方向に並べ替えて出力する制御回路と、
制御回路から出力される画像信号に対して、ヘッドユニットによる被記録部材上に描画される画像を構成する各主走査線の記録を行うインクジェットプリンタ。」(以下、引用例1発明という。)
なお、上記(e)のとおり、引用例1には、具体的な実施例として、K=4、l=1、M=4およびN=3であるヘッドユニットが記載されている。

(3)対比
次に、本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、
(イ)引用例1発明における「ノズルヘッド」,「ヘッドユニット」,「主走査線」,「画像信号」及び「制御回路」は、本願補正発明における「プリントヘッド」,「ヘッド装置」,「ライン」,「画像データ」及び「信号処理手段」に相当する。
(ロ)引用例1発明における「Kドット間隔」とは上記「(2)(b)」に記載のとおり「K解像度要素間隔」の意味であり、本願補正発明における「所定の解像度におけるK画素間隔」に相当することは明らかである。
(ハ)引用例1発明における「lドツト間隔づつ順次ずらして配され」た構成は「l画素ずれて配され」た構成と単に表現が異なるに過ぎず、本願補正発明における「L画素ずれて配され」た構成に相当する。

以上のことから、本願補正発明と引用例1発明とは、
「被記録部材に対して相対的に主走査方向と上記主走査方向と直交する副走査方向に移動され、それぞれN個のノズルを有し、上記N個のノズルは上記副走査方向に所定の解像度におけるK画素間隔でK/Nが既約分数となる値で配された複数のプリントヘッドが、吐出するインクの色に応じて上記主走査方向に上記ノズルが沿うように配されるとともに、互いに上記副走査方向にL画素ずれて配され、上記プリントヘッドを上記主走査方向に1回相対的に移動させる毎に上記被記録部材を上記副走査方向へ相対的に移動させ、被記録部材上の同一画素に色インクを重ね合わせることにより多色の画像を印刷するヘッド装置と、
ライン単位の画像データを上記副走査方向に並べ替えて出力する信号処理手段を備え、
上記信号処理手段から出力される画像データに対して、上記ヘッド装置による被記録部材上に描画される画像を構成する各ラインの記録を行うインクジェットプリンタ。」である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点]
本願補正発明は「信号処理手段から出力される画像データが取りうる最大の記録順序の組み合わせに基づいて画像データの色補正を行う色補正手段」を備えているのに対して、引用例1発明はそのような「色補正手段」を備えていない点。

(4)判断
以下、上記相違点について検討する。
上記相違点である「信号処理手段から出力される画像データが取りうる最大の記録順序の組み合わせに基づいて画像データの色補正を行う色補正手段」とは、本願明細書の第14頁3-19行に記載された「上述したように、プリントヘッド1B〜1Yの各インクの吐出順序がライン毎に異なり、このライン毎に色インクの重なり順序が異なることに起因したライン毎の画質の差が、記録紙2上に再現された画像を目視したときに、認識される場合、例えば利用者の操作に応じて、印画順色補正処理部17は、バンド化処理部16から供給される各成分のデータに、それぞれのラインのインク重なり順序に適した色補正処理を施す。1種類乃至、例えばヘッド数をNとしたときに順列NPNで算出されるプリントヘッド1による実際の印画で取り得る最大の記録順序の種類、あるいは予め定まった記録順序の種類に対する各色インクの記録順序に最適な色補正処理方法を、例えば後述の図6に示すEE-PROM34に記憶しておく。そして、印画順色補正処理部17は、記録紙2に印画される画像の位置によってどのような順序で各色インクが記録されるかを判定し、その記録順序に応じた色補正処理方法をEE-PROM34から読み出し、この色補正処理方法を用いて各成分のデータを補正し、印画データとしてプリンタ10に供給する。なお、これらの色補正処理方法は、予め実験によって求められ、EE-PROM34に記憶されている。」及びFig.2A-2Cを参酌して解釈すると、「信号処理手段から出力される画像データの記録順序に基づいて画像データの色補正を行う色補正手段」であって、「記録順序」とはプリントヘッド数及びヘッド装置の構造により定まるものであり、それが2以上であるため、各記録順序に基づいて補正を行うとの趣旨に解される。
しかしながら、多色の画像を印刷する際のインク吐出順序の違いにより生じる色調差という課題は、インクジェットプリンタにおいて周知な課題(引用例2、或いは特開平6-106736号公報、特開昭64-53852号公報参照)であり、上記「(2)(e)」に摘記したとおり、引用例2には、被記録部材上の同一画素に色インクを重ね合わせることにより多色の画像を印刷する際のインク吐出順序の違いにより生じる色調差を解消するために色調差補正手段を備えるインクジェットプリンタが記載されている。
この「色調差補正手段」は上記「(2)(f)」に摘記のとおり、往時と副時におけるインク吐出順序の違いによる色調差に基づく色調差補正テーブルを用いて、インク吐出順序の違いにより生じる色調差を解消するものであるから、画像データの記録順序に基づいて画像データの色補正を行っていることは明らかである。
そして、引用例1に記載されているインクジェットプリンタの各主走査線における色インクの吐出順序について、第3図を参酌して考察すると、
ヘッドユニットの副走査方向への相対的な移動の向きを図面下向きとした場合、ヘッドユニットを構成する各ノズルヘッドの副走査移動方向先端に位置する各ノズルは、ノズルBK3,C3,M3,Y3となる。
これら各ノズルに着目して、その記録動作を見るに、
ノズルBK3が主走査を行う際に、それ以前にその主走査線を走査し得るノズルは、ノズルBK3より副走査移動方向に位置する各ノズルC3,M3,Y3であり、同様に、ノズルC3においてはノズルM3,Y3、ノズルM3においてはノズルY3、であることは明らかである。
よって、ヘッドユニットにおいて最も副走査移動方向先端に位置するノズルであるノズルY3が走査する主走査線においては、被記録部材に最初に色インクを吐出するノズルは常にノズルY3となる。
次に、ノズルM3が走査する主走査線において、先に走査し得るノズルであるノズルY3により走査されているか否かは、両者の位置関係と副走査の間隔により決定されることは明らかである。
即ち、両者の副走査方向のずれ量が副走査の間隔の正の整数倍(l=nN:nは正の整数)である時は、ノズルM3が走査する主走査線は常にノズルY3により走査されていることとなり、そうでない場合は、ノズルM3が走査する走査線とノズルY3が走査する走査線とは常に重ならなず、よって、ノズルM3が走査する主走査線において、被記録部材に最初に色インクを吐出するノズルは常にノズルM3となる。
同様に、ノズルC3については、先に走査し得るノズルはノズルM3,Y3であるから、l=nN:nは正の整数の場合、ノズルC3が走査する主走査線は常にノズルM3により走査されており、2l(ノズルC3とノズルY3とのずれ量)=nN:nは正の整数の場合、ノズルC3が走査する主走査線は常にノズルY3により走査されていることとなる。
そして、それ以外の場合は、ノズルC3が走査する主走査線において、被記録部材に最初に色インクを吐出するノズルは常にノズルC3となる。
ノズルBK3と各ノズルC3〜Y3とについても同様の関係があることは明らかであり、l=nN:nは正の整数、2l=nN:nは正の整数、3l=nN:nは正の整数、の関係を満たさない場合は、ノズルBK3が走査する主走査線において、被記録部材に最初に色インクを吐出するノズルは常にノズルBK3となる。
例えば、第3図に記載されたヘッドユニットにおいては、ノズルBK3とノズルY3との副走査方向のずれ量が3であり、副走査間隔Nは3であることから、ノズルBK3が走査する主走査線は常にノズルY3により走査されていることとなる。
そして、他のノズルであるBK2〜Y2,BK1〜Y1についても同様の記録動作が行われることは、上記のとおり考察したノズルBK3〜Y3と同じ配置関係を有していることからみて明らかであり、また、前述ではヘッドユニットの副走査方向への相対的な移動の向きを図面下向きとした場合について考察したが、逆向き(図面上向き)であっても、ヘッドユニットが点対称の構造であることから、同様の記録動作が行われることは明らかである。
よって、隣り合うノズルヘッドの副走査方向のずれ量が副走査の間隔の正の整数倍、即ち「l=nN:nは正の整数」である関係が満たされていない場合には、被記録部材に最初に吐出される色インクの種類が少なくとも2以上となることは、上記のとおり、ヘッドユニットの構造及び記録動作から当業者がなんら困難なく導き出せる事項であって、具体的な実施例のヘッドユニットの構造及びその記録動作をみても、l=1,N=3となっており、上記の関係が満たされていないことから、被記録部材に最初に吐出される色インクの種類は少なくとも2以上となっている。

そして、被記録部材に最初に吐出される色インクが異なるという事項の意味するところは、その主走査線上の色インクの吐出順序が異なっていることに他ならず、引用例1発明がインクの吐出順序の違いにより生じる色調差という課題を内在するものであることは当業者には明らかである。
よって、引用例1発明に「信号処理手段から出力される画像データが取りうる最大の記録順序の組み合わせに基づいて画像データの色補正を行う色補正手段」を配して、本願補正発明の如き構成を得ることは当業者であれば容易に想到し得るものであり、その効果は引用例1発明及び引用例2に記載された事項並びに周知技術から当業者が容易に予測し得る程度のものである。

したがって、本願補正発明は引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は平成17年8月19日付けの審判請求書を補正対象とする手続補正書において、引用例2に記載されているプリンタはシングルスキャン方式のシリアルスキャン型のカラープリンタであり、マルチスキャン方式のシリアルスキャン型のカラープリンタである本願発明とは前提が異なる旨を主張し、方式の異なるプリンタにおける技術の適用は容易ではないと述べているが、インクの吐出順序の違いにより生じる色調差という点で、方式の如何に関わらず課題の認識は共通であり、また、本願明細書中で従来例として提示されている、引用例1と同日であり同一出願人の出願である特公平3-76226号公報(特に、第4頁第7欄5-13行参照)において、マルチスキャン方式のシリアルスキャン型のカラープリンタにおける色インクの重なり順序が変わることによる色調差が課題として認識されていることに鑑みても、審判請求人の主張は採用できない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成17年8月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成17年2月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は、以下のものである。
「被記録部材に対して相対的に主走査方向と上記主走査方向と直交する副走査方向に移動され、それぞれN個のノズルを有し、上記N個のノズルは上記副走査方向に所定の解像度におけるK画素間隔でK/Nが既約分数となる値で配された複数のプリントヘッドが、吐出するインクの色に応じて上記主走査方向に上記ノズルが沿うように配されるとともに、互いに上記副走査方向にL画素ずれて配され、被記録部材上の同一画素に色インクを重ね合わせることにより多色の画像を印刷するヘッド装置と、
ライン単位の画像データを上記副走査方向に並べ替えて出力する信号処理手段と、
上記信号処理手段から出力される画像データに対して、上記ヘッド装置による被記録部材上に描画される画像を構成する各ラインの記録の際に、上記信号処理手段から出力される画像データが取りうる最大の記録順序の組み合わせに基づいて画像データの色補正を行う色補正手段とを備えているインクジェットプリンタ。」(以下、「本願発明」という。)

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明から「被記録部材上の同一画素に色インクを重ね合わせることにより多色の画像を印刷する」という構成の限定事項である「上記プリントヘッドを上記主走査方向に1回相対的に移動させる毎に上記被記録部材を副走査方向へ相対的に移動させて行う」との規定を省いたものである。
したがって、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-24 
結審通知日 2005-11-29 
審決日 2006-02-02 
出願番号 特願平9-536052
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 吉野 三寛
津田 俊明
発明の名称 インクジェットプリンタ  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 小池 晃  
代理人 田村 榮一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ