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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1133284
審判番号 不服2003-15390  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-07-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-08 
確定日 2006-03-17 
事件の表示 平成 9年特許願第215988号「インクジェット式記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 7月 7日出願公開、特開平10-181044〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成9年7月25日の出願(優先権主張 平成8年11月11日)であって、平成15年7月4日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年8月8日付けで本件審判請求がされるとともに、同年9月8日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年9月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
本件補正は、補正前【請求項4】の「印字開始前」との記載を「印字開始する以前」と補正し、補正前【請求項5】の「フラッシング処理の実行前」との記載を「フラッシング処理の実行する以前」と補正するものである。
これら補正事項が、「請求項の削除」(特許法17条の2第4項1号)、「特許請求の範囲の減縮」(同項2号)又は「誤記の訂正」(同項3号)のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。また、補正前の「印字開始前」及び「フラッシング処理の実行前」との記載が明りようでないとか、補正後の記載が補正前よりも明りようであると認めることもできない(特に、「フラッシング処理の実行する以前」は「フラッシング処理を実行する以前」の誤記であろうから、かえって不明りようとなっている。)。そればかりか、特許法17条の2第4項4号は、明りようでない記載の釈明を目的とする補正を無条件に認めているのではなく、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」との条件を付しているところ、補正前の記載が明りようでない旨の拒絶理由は通知されていない。したがって、本件補正は、特許法17条の2第4項4号の規定にも該当しない。
以上のとおりであるから、本件補正は特許法17条の2第4項に規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反しているから、特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成14年12月20日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項3】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「印刷データに対応してインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドと、該記録ヘッドにインクを供給するインクをインク吸収体に収容したインクカートリッジと、前記記録ヘッドを封止するとともに、吸引ポンプからの負圧を受けるキャッピング手段と、前記吸引ポンプにより前記記録ヘッドの吸引によりインクを排出させる吸引処理を制御する吸引制御手段と、前記インクカートリッジのインク残量を判定するインク残量判定手段を備え、前記インク残量が所定値以下の場合には前記吸引制御手段がインク吸引速度を制限するインクジェット式記録装置。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-80613号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜エの記載が図示とともにある。
ア.「駆動周波数に応じた吐出信号によりインクタンクから供給されるインクを吐出して記録を行う記録手段を有し、
前記インクタンク内のインク残量を検知するインク残量検知手段と、
該インク残量検知手段からのインク残量にかかわる情報に基づいてインクの吐出が可能な最大の駆動周波数を演算する情報処理部と、
該情報処理部により求められた前記最大の駆動周波数に従って前記記録手段を駆動し、記録を行うように制御する制御手段とを具備したことを特徴とするインクジェット記録装置。」(【請求項1】)
イ.「本発明の目的は、このような従来の技術的問題に着目し、インクジェット記録ヘッドによりその時点での最適インク吐出駆動周波数で記録が可能であり、高速記録可能な状態では高速で記録し、また、逆にインクが少なくなったような場合には、低速記録することでインクの使用効率や品位を向上させることが可能なインクジェット記録装置を提供することにある。」(段落【0009】)
ウ.「記録領域を外れた位置(例えばホームポジション)には、インクジェットヘッド17の吐出口面(吐出口が配列された前面)を密閉(キャッピング)するためのキャップ部材20が配設されている。このキャップ部材20は、支持部材21によって支持され、さらに吸引手段22を備え、キャップ内開口23を介してインクジェットヘッド17の吸引回復を行うように構成されている。」(段落【0015】)
エ.「インクタンク19は、基本的にカートリッジ本体66とインク吸収体67と蓋部材68とから成り、インク吸収体67を上記インクジェットユニット18とは反対側からカートリッジ本体66に挿入した後、蓋部材68でこれを封止することにより組み立てられる。インク吸収体67は、インクを含浸して保持するためのものであり、カートリッジ本体66内に配置される。」(段落【0030】)

3.引用例記載の発明の認定
引用例の記載イの「インクジェット記録ヘッド」及び記載ウの「インクジェットヘッド」は、いずれも記載アの「記録手段」のことであり、以下では「インクジェット記録ヘッド」ということにする。
引用例には、記載アの「インクタンク」として記載エの「インク吸収体」を有するものを用い、記載ウの「キャップ部材」及び「吸引手段」を備えたインクジェット記録装置が記載されており、それは次のようなものである。
「駆動周波数に応じた吐出信号によりインクタンクから供給されるインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッド、前記インクタンク内のインク残量を検知するインク残量検知手段、キャップ部材、及び吸引手段を備えたインクジェット記録装置であって、
前記インクタンクは、インク吸収体にインクを含浸保持させたものであり、
前記インク残量検知手段からのインク残量にかかわる情報に基づいてインクの吐出が可能な最大の駆動周波数を演算する情報処理部と、該情報処理部により求められた前記最大の駆動周波数に従って前記記録ヘッドを駆動し、記録を行うように制御する制御手段とを具備したインクジェット記録装置。」(以下「引用発明」という。)

4.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点
引用発明の「インクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッド」、「インクタンク」、「キャップ部材」及び「インク残量検知手段」は、本願発明の「インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッド」、「インクカートリッジ」、「キャッピング手段」及び「インク残量判定手段」にそれぞれ相当し、引用発明のインクジェット記録ヘッドが「印刷データに対応してインク滴を吐出する」こと、「インク吸収体にインクを含浸保持」と「インクをインク吸収体に収容」が同義であること、並びに引用発明のキャップ部材が記録ヘッドを封止するとともに、吸引手段からの負圧を受けることは自明である。
本願発明の「吸引ポンプ」は、引用発明の「吸引手段」に含まれ、引用発明においても「吸引手段により記録ヘッドの吸引によりインクを排出させる吸引処理を制御する吸引制御手段」が備わっていることは自明である(記載ウのとおり、ホームポジション等で吸引処理を行う以上、タイミング等を制御する手段が必要である。)。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「印刷データに対応してインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドと、該記録ヘッドにインクを供給するインクをインク吸収体に収容したインクカートリッジと、前記記録ヘッドを封止するとともに、吸引手段からの負圧を受けるキャッピング手段と、前記吸引手段により前記記録ヘッドの吸引によりインクを排出させる吸引処理を制御する吸引制御手段と、前記インクカートリッジのインク残量を判定するインク残量判定手段を備えたインクジェット式記録装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉吸引手段につき、本願発明が「吸引ポンプ」と限定しているのに対し、引用発明は同限定を有さない点。
〈相違点2〉本願発明が「インク残量が所定値以下の場合には前記吸引制御手段がインク吸引速度を制限する」との限定を有するのに対し、引用発明は同限定を有さない点。

5.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
引用例の記載ウにあるとおり、引用発明の吸引手段は、吐出口面とキャップ部材間の空気を外部へ排出するものであり、かかる機能を有する手段は一般に「ポンプ」と称される。すなわち、相違点1は実質的な相違点ではない。
仮に、「ポンプ」と称することができない吸引手段があるとしても、最もありふれた吸引手段はポンプであるから、設計事項程度の微差でしかない。

(2)相違点2について
インクタンクから記録ヘッドにインクを供給するに当たっては、空気・気泡が混入しないように努めなければならないことはいうまでもない。そして、インク残量が減少した場合、インク吸収体(通常多孔質状である)を有する場合には特に、インクとともに空気・気泡を記録ヘッドに引き込むおそれがあることは、例えば特開平8-58108号公報に「インクタンクのインク残量が減ってくるにつれてインクタンクがインクを保持してる負圧(毛管力)が高くなるために吸引負圧力とのバランスが崩れインクと共に泡を引き込み易くなり、記録ヘッド内に泡が取り込まれる。」(段落【0006】)との記載及び【図10】があるように当業者には周知であり、そのため、インク残量が極端に少ない場合には吸引を行わないことも特開平5-169668号公報にみられるように周知である。
また、吸引動作は電源オン時等、これから記録を行おうとする際に実施される(電源オン時には、目詰まりが生じている可能性が高いからであり、記録を行わないときに吸引することは無駄である。)ものであるから、インク残量が減少したとしても、まだ記録できる場合には、吸引後のインク残量をできるだけ多くする必要があり、そのためには吸引量を少なくすることが望ましいことは当然である。さらに、インク残量の多寡に応じて、吸引態様(吸引速度・吸引量・吸引回数等)を制御することも周知である(例えば、特開平2-198863号公報、特開平6-262772号公報、特開平7-214794号公報又は特開平8-25651号公報参照。)。
そして、インク吐出であろうと吸引であろうと、吐出口からインクが外部へ排出される以上、排出分に見合ったインクをインクタンク(インクカートリッジ)から記録ヘッドに供給しなければならない事情に変わりはなく、引用発明では、インク残量に基づいて演算された最大の駆動周波数に従って記録ヘッドを駆動、より具体的には記載イのとおり、インク残量が少ない場合に低速記録している。これは、インク残量が少なくなると、インクタンクから記録ヘッドへのインクの供給が素早く行えないからである。
このように、インク吐出と吸引に共通して、インク残量が少なくなれば、インク吐出や吸引の態様を通常時(インク充満時)とは異なるように制御しており、そのようにすることの直接的な理由又は目的は若干異なるかもしれないが、インク残量検知手段(インク残量判定手段)を有する引用発明において、インク残量が少なくなった場合(インク残量が所定値以下の場合)に、通常時とは異なる吸引態様とすることは設計事項というべきである。その場合、通常時とは異なる吸引態様を、吸引速度を通常時よりも小さくする(インク吸引速度を制限する)ことは、気泡を記録ヘッドに引き込まない(前掲特開平8-58108号公報を参照。)との要請から、当業者にとって想到容易というべきである。
すなわち、相違点2に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、周知技術にかんがみ当業者にとって想到容易である。

(3)本願発明の進歩性の判断
相違点1及び相違点2は、実質的相違点でないか、又はこれら相違点に係る本願発明の発明特定事項を採用することが設計事項若しくは当業者にとって想到容易であり、これら発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-16 
結審通知日 2006-01-18 
審決日 2006-01-31 
出願番号 特願平9-215988
審決分類 P 1 8・ 56- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 酒井 進
藤本 義仁
発明の名称 インクジェット式記録装置  
代理人 木村 勝彦  

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