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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1133365
審判番号 不服2004-10920  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-11-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-26 
確定日 2006-03-16 
事件の表示 平成 8年特許願第132734号「耐熱性固体表面に対する着色画像の形成方法、静電荷像現像用無機質トナー及び着色画像を有する転写媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月18日出願公開、特開平 9-295453〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年4月30日の出願であるが、平成16年3月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成16年5月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであって、平成16年6月28日付け手続補正がなされたけれども、この手続補正は平成16年10月13日に手続却下されたため、本願の請求項23に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項23に記載された次のとおりのものであると認める。
「熱消失性材料及び/又は熱溶融性無機物質を基材とするフィルムからなる画像形成面を有する転写媒体のその画像形成用フィルム上に、1つ又は複数の着色トナー画像層と1つ又は複数の熱溶融性トナー画像層からなるトナー画像層を形成したことを特徴とする着色トナー画像層を有する転写媒体。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前である昭和64年3月6日に頒布された特開昭64-58582号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
ア.「4 感光体を露光して静電潜像を形成し、焼成により発色する窯業用顔料とフラックスとを熱結着性樹脂で結合した陶磁器加飾用トナーを静電吸引力により前記静電潜像に付着させて粉末像を現像し、該粉末像を、吸水性台紙に形成した水溶性糊層の上に転写して加熱することにより結着し、さらにその上に不水溶性樹脂膜を形成することを特徴とする陶磁器加飾用トナーを用いた陶磁器用転写紙の製造方法。」(第1頁左下欄第16行〜同右下欄第4行)
イ.「3 発明の詳細な説明
産業上の利用分野
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法を用いた複写機により陶磁器用転写紙や陶磁器自体に文字や図形等の絵柄を形成する陶磁器加飾用トナー、そのトナーを用いた陶磁器用転写紙の製造方法及びそのトナーを用いた陶磁器の絵柄印刷方法に関する。」(第2頁左上欄第7行〜同第14行)
ウ.「本発明の陶磁器加飾用トナーを用いて転写紙を製造する方法には、感光体上の粉末像を、吸水性台紙上に形成した水溶性糊層の上に転写して加熱することにより結着し、さらにその上に不水溶性樹脂膜を形成する方法と、その粉末像を、吸水性台紙上に水溶性糊層を介して形成した不水溶性樹脂膜の上に転写して加熱することにより結着する方法とがあり、前者は粉末像を転写、結着後に不水溶性樹脂膜を形成するため、複写機の他に、スクリーン印刷機等を必要とするが、絵柄が不水溶性樹脂膜に覆われて保護される利点があり、後者は、予め、水溶性糊層の上に不水溶性樹脂膜を形成した台紙を用いることにより、複写機で粉末像を転写し、結着するだけで転写紙が完成する利点がある。」(第3頁左上欄第11行〜同右上欄第5行)
エ.「II 陶磁器用転写紙の製造方法
吸水性を有する台紙上にデキストリン等の水溶性の糊層を形成し、さらにその上に、メタアクリル、エチルセルロース、ブチラール、スチレン、ポリエステル等の不水溶性樹脂膜をスクリーン印刷、ローラーコーター、ナイフコーター等により5〜40μの厚さに形成した転写原紙を電子複写機の給紙台上に供給し、前記実施例Iのトナーを用いて原稿の絵柄を複写した。一成分系現像トナーはキヤノンNP-150Z型複写機を、二成分系現像トナーは鉄粉キヤリアと混合し、東芝3705型複写機を、夫々、用いて転写紙を製造し、その転写紙を水に浸して糊剤を溶かすことにより絵柄を陶磁器に転写し、焼成したところ所望の絵柄が焼き付けられた。上記複写機は単色用であるが多色用を用いることによって多色の絵柄の転写紙を製造することができる。」(第4頁左上欄第11行〜同右上欄第7行)
オ.「なお、台紙上に水溶性の糊層を形成し、その上に前記実施例Iのトナーを用いて原稿の絵柄を複写し、さらにその上に不水溶性樹脂膜を印刷により形成した転写紙も、陶磁器に転写し、絵柄を焼き付けることができた。」(第4頁右上欄第8行〜同第12行)
ここで、摘記オにおける「水溶性の糊層」及び「不水溶性樹脂膜」について如何なる構成成分を使用するかは明記されていないけれども、摘記エと摘記オの関係を見ると、層構成の異なる場合を記載したに過ぎないことが明らかであることから(摘記エでは「台紙/水溶性の糊層/不水溶性樹脂膜/絵柄」の順に積層した層構成、摘記オでは「台紙/水溶性の糊層/絵柄/不水溶性樹脂膜」の順に積層した層構成)、同じ用語で記載された層の構成成分については同様のものを使用していると見るのが自然であって、この点を踏まえると、上記ア〜オの記載及び引用例の明細書及び図面全体から、引用例には、
「吸水性台紙上に、デキストリン等の水溶性糊層を設け、その水溶性糊層の上に単色用又は多色用いずれかの複写機を用いて複写された、トナーによる原稿の絵柄を有し、その上にメタアクリル、ブチラール、スチレン、ポリエステル等の不水溶性樹脂膜を順に形成してなる転写紙。」(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較する。
(1)引用発明における「転写紙」及び本願発明の「転写媒体」は、画像を支持し、対象物へ画像を転写するために用いられるものであるから、実質的に同義のものである。
(2)通常、単色用又は多色用いずれかの複写機により形成された絵柄は多数のトナー同士が複写機の定着機構で加熱加圧されてできるものであることを考慮すれば、絵柄は多数の押しつぶされたトナーにより形成された層と見なせるから、引用発明における「単色用又は多色用いずれかの複写機を用いて複写された、トナーによる原稿の絵柄」は、本願発明の「1つ又は複数の着色トナー画像層」に相当する。
(3)引用発明における「不水溶性樹脂膜」を構成している樹脂は、メタアクリル、ブチラール、スチレン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂であることから、当然に熱溶融性を有する樹脂であって、そのような樹脂からなる膜は熱溶融性の層であると認められるから、引用発明における「不水溶性樹脂膜」は、本願発明の「熱溶融性」の「層」に等しいものと解することができる。
(4)引用発明における、画像形成面である「デキストリン等の水溶性糊層」を設けた「吸水性台紙」と、本願発明における、画像形成面である「画像形成用フィルム」を有する「熱消失性材料及び/又は熱溶融性無機物質を基材とするフィルムからなる画像形成面を有する転写媒体」とは画像を支持する支持体という点で共通する。
してみれば、両者は、
「支持体上に、一つ又は複数の着色トナー画像層と熱溶融性の層を有する転写媒体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
転写媒体の支持体と着色トナー画像層と熱溶融性の層を形成する面(画像形成面)について、本願発明が「熱消失性材料及び/又は熱溶融性無機物質を基材とするフィルムからなる画像形成面を有する転写媒体」を用い、その画像形成面である「画像形成用フィルム」に画像を形成しているのに対し、引用発明が吸水性台紙上に水溶性糊層を設けたものを用い、その水溶性糊層の上に画像を形成している点。
[相違点2]
転写媒体の熱溶融性の層として、本願発明が「1つ又は複数の熱溶融性トナー画像層」であるのに対し、引用発明がメタアクリル、ブチラール、スチレン、ポリエステル等の不水溶性樹脂膜である点。

4.判断
本件明細書には、上記[相違点1]及び[相違点2]に関連して、以下の記載が認められる。
a:「図3(a)に示した転写媒体は、台紙4と、その台紙上に形成された剥離剤層3と、その上に形成された粘接着剤層2とからなり、粘接着剤層2がトナー画像形成面に形成されたものである。また、この粘接着剤層2は、画像形成用フィルム層を形成する。この場合の台紙及び剥離剤としては、図2の転写媒体に関して示した各種のものが用いられる。トナー画像形成面として用いられる粘接着剤層2は、水賦活型粘接着剤や、有機溶剤賦活型粘接着剤からなる。この粘接着剤層2は、乾燥状態を示し、この状態では粘接着性を有しないが、水や有機溶剤と接触させることにより、粘接着性を付与することができる。また、この粘接着剤層2は、水や有機溶剤と接触させることにより、容易に剥離剤層3の表面から剥離させることができる。」(段落【0019】抜粋)
b:「トナー画像Aの上に熱溶融性トナー層を形成する方法としては、熱溶融性トナーを内蔵する乾式複写機を用い、そのコピー用紙としてそのトナー画像Aを有する転写媒体を用いて複写操作を行い、その転写媒体のトナー画像の上に、熱溶融性ベタ画像を形成する方法や、トナー画像の上に熱溶融性トナーを層状に載せ、そのトナー中に含まれる結着樹脂の溶融温度で熱圧着する方法等が挙げられる。」(段落【0020】抜粋)
c:「図3に示した転写媒体は、剥離剤層3を有するものであるが、この剥離剤層3は必ずしも必要とされず、必要に応じ省略することができる。」(段落【0022】)
本件明細書に係る上記摘記aによれば、支持体として「台紙上に水賦活性粘着剤等の粘着剤層を設けた転写媒体」が想定されており(審決注:摘記cより摘記aの剥離剤層は省略して記載している)、さらに該粘接着剤層が画像形成面となる画像形成用フィルム層を兼ねるから、本願発明における画像形成面となる「画像形成用フィルム」を有する「熱消失性材料及び/又は熱溶融性無機物質を基材とするフィルムからなる画像形成面を有する転写媒体」には「台紙上に画像形成面である水賦活性粘着剤等の粘着剤層を設けた転写媒体」が包含されるものである。
ここで、転写媒体に用いられる台紙として紙を用いることが一般的であるから、引用発明の「吸水性台紙」は紙であると解するのが自然であって、該「吸水性台紙」は熱により燃焼して失くなりうるものであることに加えて、本件明細書に係る摘記aに記載された「台紙」に一致する。
また、本件明細書に係る摘記aに記載された「水賦活性粘着剤等の粘着剤層」と引用発明の「水溶性糊層」が一致することは明らかである。
してみると、上記「台紙上に画像形成面である水賦活性粘着剤等の粘着剤層を設けた転写媒体」は引用発明における吸水性台紙上に画像形成面である水溶性糊層を設けた転写媒体と実質的に差異がないから、引用発明の吸水性台紙上に画像形成面である水溶性糊層を設けた転写媒体は本願発明における画像形成面となる「画像形成用フィルム」を有する「熱消失性材料及び/又は熱溶融性無機物質を基材とするフィルムからなる画像形成面を有する転写媒体」に含まれ、[相違点1]は実質的な相違点とはなり得ないものである。
また、摘記bから熱溶融性トナー画像層は熱溶融性トナーを用いて形成されるベタ画像であって、このベタ画像は複写機(審決注:特に複写機の定着機構)により、或いは熱圧着により形成されるものであることが把握できるから、形成された熱溶融性トナー層自体は均一な層、すなわちトナー同士は熱溶融(熱融着)した層として存在するものと解するのが相当である。すると、摘記ウ乃至オから引用発明の「不水溶性樹脂膜」は、メタアクリル、ブチラール、スチレン、ポリエステル等の熱溶融性である熱可塑性樹脂をスクリーン印刷等により形成したものであり、形成された該不水溶性樹脂膜は熱可塑性樹脂の均一な膜、すなわち熱溶融性の層であることから、引用発明の「不水溶性樹脂膜」は本願発明の「熱溶融性トナー画像層」と実質的な差異はないものとなり、それゆえ[相違点2]は実質的な相違点とは認められない。
なお、複写機を用いて単層又は複数層の熱溶融性トナー層を形成することは従来から周知の技術的事項であるから(必要であれば、特開昭63-123055号公報、特開平4-362960号公報、特開平5-127437号公報等参照)、単なる設計事項であると言わざるを得ず、また熱溶融性トナー層の形成方法の差異によって、形成された熱溶融性トナー層、ひいては転写媒体において格段の差異があると認めることもできない。
したがって、本願発明と引用発明とは上記[相違点1]及び[相違点2]におけるような一応の相違点は存在するものの、実質的な相違点とはなり得ないものであり、転写媒体としては同一である。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
そして、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-10 
結審通知日 2006-01-17 
審決日 2006-01-30 
出願番号 特願平8-132734
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 長島 和子
藤井 勲
発明の名称 耐熱性固体表面に対する着色画像の形成方法、静電荷像現像用無機質トナー及び着色画像を有する転写媒体  
代理人 廣田 浩一  

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