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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60N
管理番号 1133536
審判番号 不服2003-1182  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-03-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-01-20 
確定日 2006-03-22 
事件の表示 平成10年特許願第189055号「背後からの衝撃時に頸部を保護する装置が備えられた車両用座席」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 3月16日出願公開、特開平11- 70828号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成10年7月3日(パリ条約による優先権主張1997年7月3日、仏国)の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成14年7月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)
「ヘッドレスト(5)が上に取り付けられ、パッド(4a)を支持する強度部材(9)を備えた背もたれ(4)を有し、前記背もたれは搭乗者の背中を支えるよう作られた正面(6)を有し、前記背もたれの強度部材(9)は、互いに関して移動可能な2つの部分、すなわち下側部分(10)と、前記ヘッドレスト(5)を支持する上側部分(11)を有し、前記上側部分は、該上側部分が下側部分(10)に対して動くだけそれぞれ後方および前方に傾斜している第1および第2の角度位置の間で回転軸(X’)のまわりをピボット運動するように、前記下側部分上にピボット運動するように取り付けられており、背もたれ自体の前記正面(6)は2つの重なった領域、すなわちそれぞれ背もたれ強度部材の下側部分(10)および上側部分(11)に固定されている下側領域(7)と上側領域(8)を持ち、背もたれ強度部材の前記上側部分(11)は、車両に背後から衝撃が加わった場合に、搭乗者の背中が、背もたれの前記パッド(4a)に押し込まれながら、後方にスラスト部材に対してもたれかかることによって、背もたれの強度部材の上側部分(11)をその第2の角度位置の方に押しやるように前記上側部分(11)の回転軸(X’)の高さより下で前記背もたれ(4)内に配置されたスラスト部材(22)を有しており、背もたれ強度部材の上側部分と下側部分(11,10)は、通常は前記上側部分(11)が不意にピボット運動するのを防止する保持装置(14,23,35,41)によって互いに連結されており、前記保持装置は、背後からの衝撃があった場合に、背もたれの上側部分(11)がその第2の角度位置になく、前記スラスト部材(22)が所定の値を超える後向きの力を受けた時に、壊れるような大きさになっており、前記ヘッドレスト(5)は背後からの衝撃があった場合に前記上側部分(11)と同じ運動をするように、前記背もたれの上側部分(11)に取り付けられている車両用座席において、
前記保持装置(14、23、35、41)が、背後から衝撃が加わった場合、前記背もたれ強度部材の上側部分(11)がその第2の角度位置へと移動している間に、前記上側部分(11)の角度行程全体にわたる動きを抑えるエネルギー吸収手段(29、30、42)をさらに有することを特徴とする車両用座席。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用した、本願優先権主張の日前に頒布された国際公開第97/10117号パンフレット(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載され、また、図示されている。
(ア)「The seat is provided with ……the axis of the guide rail 4. (座席には、背もたれ集合体2が備わっている。
背もたれ集合体2は、背もたれの角度を調節するリクライニング機構3を介してクッションに結合している。
リクライニング機構3は、クッション1に結合され、クッション1の上にガイドレール4が直立して延びるように支持している。座席のクッションのそれぞれの側にリクライニング機構とガイドレールが備えられている。それぞれのガイドレール4には2つのスロット5,6が設けられている。それぞれのスロットは、パッドを備えた背もたれ要素9の側面に取り付けられ、左右外方に延びる金属のロッド又はピン7,8のそれぞれを受け入れる。背もたれ要素9からガイドレール4に設けられた孔を通って延びる壊れやすいピン10が、備えられている。
最下方のスロット5は、座席との関係で、斜め上方に傾斜づけられ、上方のスロット6は背もたれ要素9及びガイドレール4の軸線とほぼ平行である。)」{9頁7〜26行(括弧内は当審による仮訳、以下同様)}
(イ)「As the base of the occupant’s spine is pressed ……the head 14 of the occupant 12.(搭乗者の背中の下部が背もたれ9の下方部分15に押し付けられ、背もたれ9の下方部分15に与えられた力が設定された閾値を超えると、壊れやすいピン10が壊れる。これにより、座席の背もたれ9に加えられるエネルギーの一部が吸収されるが、同時に背もたれが解放され、動けるようになる。背もたれ9は、ピン7と8がスロット5と6に沿ってスライドするにつれ、後方にまた、上方に動く。こうして、背もたれ9は、仮想の枢軸回りに回転するのと同等の動きをする。…(中略)…
背もたれ9の下方部分15の後方への動きに伴い、ヘッドレスト17が一体となった上方部分16は実際、矢印22で示すように前方に移動し、搭乗者12の後頭部に接触するようになる。)」(11頁9〜33行)
(ウ)「If the rear impact is a substantial rear impact,……sufficient to extend the spring 11.(背後からの衝撃が、非常に大きな加速度を与えるに充分なほどの衝撃であると、搭乗者の頭部及び胴部は、下方部分15だけでなく、上方部分16及びヘッドレスト17も含めて背もたれ要素全体を押す。このため、背もたれ要素9に加えられる力が、ばね11を引き延ばすのに充分なものであると、背もたれ全体は軸回りに後方に移動し(3図の矢印23で示すように。)、リクライニング機構3で規定される軸回りに回転する。)」(12頁14〜23行)
(エ)その1図には、ピン7,8が、それぞれスロット5,6の下端に位置し、背もたれ9が、後傾した角度位置にある状態が、2図には、ピン7,8がそれぞれスロット5,6の上端に位置し、背もたれ9が、前傾した角度位置にある状態が図示されている。
上記記載事項及び図示内容から引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「背もたれ集合体2であって、座席のクッションのそれぞれの側にガイドレール4が備えられ、ガイドレール4には2つのスロット5,6が設けられ、それぞれのスロットは、パッドを備えた背もたれ要素9の側面から延びる金属のロッド又はピン7,8のそれぞれを受け入れており、背もたれ要素9からガイドレール4に設けられた孔を通って延びる壊れやすいピン10が備えられていて、背後からの衝撃により、搭乗者の背中の下部が背もたれ9の下方部分15に押し付けられ、背もたれ9の下方部分15に与えられた力が設定された閾値を超えると、ピン10が壊れてエネルギーの一部を吸収するとともに、背もたれ9が解放されて、後方にまた、上方に動いて、仮想の枢軸回りに回転し、背もたれ9が、後傾した角度位置から前傾した角度位置に移動し、背もたれ9の上方部分及びそれと一体のヘッドレスト17が前方に移動する、背もたれ集合体2を備えた搭乗者のための座席。」

同じく、原査定の拒絶の理由に引用した、米国特許第3,578,376号明細書(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(オ)「According to the present invention, ……thus reducing the impact applied to the passengers.(本発明によれば、座席集合体は、床と、座席と、床に対して移動するのを許容する移動可能な支持部材と、固定手段、例えば、床に対して座席が移動しないように固定するピンのような固定手段からなり、該固定手段は、解放箇所又は弱い結合部と、床と座席の間に配置された衝撃吸収手段とを備えている。所定の値を超える衝撃が固定手段を介して座席に前向きに加えられると、この固定手段は座席と搭乗者の慣性により、座席が床に対して後方に移動するのを許容し、同時にエネルギー吸収手段が変形され搭乗者への衝撃が減じられる。)」(1欄44〜57行)
(カ)「As apparent from FIG.15a,……deform the wedge-shaped slits 132 of the guides 130.(図15aから明らかなように、ガイド130のサイドプレート131と、座部のフレーム120のサイドプレートに空けられた、楔形のスリット132,123は、その一端が、枢軸ピン140,170がそれぞれ挿入されるのに適した大きさとなっており、他端に向かって狭くなり、他端では、ピン140,170の大きさよりも小さくなるように構成されている。特に楔形のスリット132の長さは、スリット123の長さより少し長くなっており、回転運動においてエネルギーを吸収するのに寄与する。…(中略)…
座席200に加えられる慣性力が、剪断ピン180の剪断力よりも大きくなると、剪断ピン180は破壊され、座席のフレーム120は、支持部160への固定から解放される。
それに応じて、座席200は後方へ直線的に移動し、座部のフレーム120に固定された枢軸ピン140は、ガイド130の楔形スリット132を漸次変形させながら移動する。)」(6欄28〜50行)
上記記載事項から、引用例2には、車両用座席において、座席の固定手段即ち保持装置が衝撃吸収手段を備え、座席に背後から所定の値を超える力が加えられ、座席に所定の値を超える後向きの力が加わったとき、楔形のスリット即ち所定の大きさの保持装置が、壊れてエネルギーを吸収するとともに、座席の構成部材が移動する全行程に亘りエネルギーを吸収する技術手段が記載されていると認められる。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「背もたれ集合体2」、「ガイドレール4」、「背もたれ9」「仮想の枢軸」、「後傾した角度位置」、「前傾した角度位置」、「搭乗者のための座席」は、その機能ないし構造からみて、それぞれ、前者の「パッド(4a)を支持する強度部材(9)を備えた背もたれ(4)」、「強度部材(9)」の「下側部分(10)」、「強度部材(9)」の「上側部分(11)」、「回転軸(X’)」、「第1の角度位置」、「第2の角度位置」、「車両用座席」に相当する。
そして、後者の「パッドを備えた背もたれ構成要素9」は、ピン10が壊れることによりガイドレール4に対して動けるようになるのであるから、側面に設けたピン7,8及び10により、通常はピボット運動するのを防止された状態で、ガイドレール4に固定されていることは明らかであり、ピン7,8,10とガイドレールのスロット5,6及び孔により保持装置が構成されているといえる。
また、後者の「背もたれ構成要素9」はヘッドレストを一体に備え、「搭乗者の背中の下部が背もたれ9の下方部分15に押し付けられ、背もたれ9の下方部分15に与えられた力が設定された閾値を超えるとピン10が壊れてエネルギーの一部を吸収する」のであるから、背もたれ9の仮想の軸より下方部分に荷重を受けるスラスト部材を備えているのは明らかであり、ピン7,8,10とガイドレールのスロット5,6及び孔により構成された保持装置がエネルギーを吸収するといえる。
したがって、両者は、
「ヘッドレストが上に取り付けられ、パッドを支持する強度部材を備えた背もたれを有し、前記背もたれは搭乗者の背中を支えるよう作られた正面を有し、前記背もたれの強度部材は、互いに関して移動可能な2つの部分、すなわち下側部分と、前記ヘッドレストを支持する上側部分を有し、前記上側部分は、該上側部分が下側部分に対して動くだけそれぞれ後方および前方に傾斜している第1および第2の角度位置の間で回転軸のまわりをピボット運動するように、前記下側部分上にピボット運動するように取り付けられており、背もたれ自体の前記正面は2つの重なった領域、すなわちそれぞれ背もたれ強度部材の下側部分および上側部分に固定されている下側領域と上側領域を持ち、背もたれ強度部材の前記上側部分は、車両に背後から衝撃が加わった場合に、搭乗者の背中が、背もたれの前記パッドに押し込まれながら、後方にスラスト部材に対してもたれかかることによって、背もたれの強度部材の上側部分をその第2の角度位置の方に押しやるように前記上側部分の回転軸の高さより下で前記背もたれ内に配置されたスラスト部材を有しており、背もたれ強度部材の上側部分と下側部分は、通常は前記上側部分が不意にピボット運動するのを防止する保持装置によって互いに連結されており、前記保持装置は、背後からの衝撃があった場合に、背もたれの上側部分がその第2の角度位置になく、前記スラスト部材が所定の値を超える後向きの力を受けた時に、壊れるようになっており、前記ヘッドレストは背後からの衝撃があった場合に前記上側部分と同じ運動をするように、前記背もたれの上側部分に取り付けられている車両用座席において、
前記保持装置が、背後から衝撃が加わった場合、エネルギーを吸収する手段をさらに有する車両用座席。」である点で一致しており、次の点で相違する。
相違点1:本願発明においては、「背もたれ強度部材の上側部分(11)がその第2の角度位置へと移動している間に、前記上側部分(11)の角度行程全体にわたる動きを抑える」エネルギーを吸収する手段を有しているのに対し、引用発明では、保持装置を構成するピン10の破壊によりエネルギーを吸収するものである点。
相違点2:「保持装置」が、本願発明においては、所定の値を超える後向きの力を受けた時に、「壊れるような大きさになって」いるのに対し、引用発明においては、壊れる条件として「大きさ」が特定されていない点。

まず、相違点1について検討すると、車両用座席において、保持装置が衝撃吸収手段を備え、車両における座席が所定の値を超える力を受けたとき、所定の大きさの保持装置が、壊れてエネルギーを吸収するとともに、座席の構成部材が移動する全行程に亘りエネルギーを吸収する技術手段は引用例2に記載されているように公知であり、この技術手段を引用発明に適用することを妨げる理由もないから、これを引用発明に適用して相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
また、上記技術手段は、同時に、車両における座席が所定の値を超える後向きの力を受けたとき、所定の大きさの保持装置が、壊れてエネルギーを吸収するようになっているから、上記技術手段を適用すれば、相違点2に係る構成も同時に得ることができるものである。
そして、上記技術手段を引用発明に適用することによる効果も当業者が予測し得る範囲のものである。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-25 
結審通知日 2005-10-26 
審決日 2005-11-08 
出願番号 特願平10-189055
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水谷 万司阿部 寛  
特許庁審判長 山崎 豊
特許庁審判官 一色 貞好
稲村 正義
発明の名称 背後からの衝撃時に頸部を保護する装置が備えられた車両用座席  
代理人 石橋 政幸  
代理人 伊藤 克博  
代理人 金田 暢之  

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