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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1133595
審判番号 不服2003-23638  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-10-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-05 
確定日 2006-03-24 
事件の表示 特願2000-102279「磁気ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月19日出願公開、特開2001-291207〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成12年4月4日の出願であって、平成15年10月31日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成15年12月5日に審判請求がされるとともに、平成15年12月26日付けで手続補正がなされたものである。
平成15年12月26日付け手続補正は、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項3を独立形式で記載したものを請求項1として項番号を繰り上げるものであるので、特許法第17条の2第4項第1号に規定する特許請求の範囲の請求項の削除を目的とするものに該当する。
本願の請求項1乃至3に係る発明は、平成15年12月26日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、それぞれ本願特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】磁気記録媒体と摺動し、摺動側部分に形成した複数個の孔に、作動ギャップを有した記録密度の異なる複数個の磁気コアをそれぞれ収納保持するスライダーと、
前記磁気コアに接合して閉磁路を形成すると共に、前記スライダーを保持し、かつ前記複数個の磁気コアにそれぞれ対応して設けた複数本の脚部にそれぞれコイルを装着したバックヨークとを備え、
該バックヨークは、前記脚部を垂設し、前記スライダーに沿う略板状のバックヨーク本体と、
該バックヨーク本体の外周部に垂設されて前記スライダーに接合される外周壁部とを備えて軟磁性材料で一体成形され、
前記外周壁部に、少なくとも前記複数個のコイルの引出し線の数の切欠を形成したことを特徴とする磁気ヘッド。」

2 引用例
(1) 原査定の拒絶の理由で引用された特開平10-40526号公報(以下「引用例1」という。)には、磁気ヘッドに関して次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付加したものである。)
(ア)「【請求項1】 作動ギャップを有する略板状のコア前部体と、該コア前部体との一体化により一面側が磁気記録媒体に摺動するフロントコアを構成するスライダーと、前記フロントコアの他面側に接合されるバックヨークとを備え、
前記バックヨークは、前記コア前部体と共に前記作動ギャップに対応した磁気回路を形成するバックコアと、該バックコアと一体化される磁性材料製のシールド部とからなり、
前記バックコアは、先端側が前記コア前部体に接合して前記磁気回路の磁路の一部を形成し、かつコイルが嵌装される脚部と、該脚部を垂設するように該脚部の基端側に連接された平板状の基板とからなり、
前記シールド部は、基板の周縁部に沿うように基板に垂設された、前記コイルを取り囲む略環状の側壁部を有し、
前記基板の前記脚部の近傍に、前記脚部に接合された前記コア前部体と平行して延びるスリットを形成したことを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項2】 コイルのリード線をスリットから引き出すことを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。」(特許請求の範囲の請求項1、2)
(イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、フロッピーディスクドライブ(FDD)等に用いられる磁気ヘッドに関する。」(段落1)
(ウ)「【0020】 (前略)フロントコア2Aは、略矩形をなし、一面側が磁気記録媒体に摺動し該一面側に凹溝18を有するコア本体(スライダー)30と、凹溝18に沿うようにコア本体30に形成された孔(符号省略)に嵌合してコア本体30と一体化される複合コア8とから大略構成されている。(後略)」(発明の実施の形態の項、段落20)
(エ)「【0025】 基板23における第1、第2、第3の脚部19,20,21の両側部分には、図5及び図4に示すように、第1、第2、第3の脚部19,20,21の配列方向(ひいては第1、第2、第3の脚部19,20,21に接合された複合コア8)と平行して延びるスリット31,31が形成されていると共に、第3、第4の側壁部22c,22dにはスリット31,31に連接して深溝32,32が形成されている。」(発明の実施の形態の項、段落25)
(オ)第1の実施の形態の磁気ヘッドの組み立て状態を示す斜視図である図2には、スリット31に連接して形成されている深溝32から、コイルのリード線が引き出されている状態が図示されている。

(2) 同じく引用された実願平2-28393号(実開平3-121507号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(カ)「強磁性体の複数のコアを接合一体化して、その上面に磁気ギャップを形成した薄板状で、記録密度が異なる複数のコアチップと、所定間隔で平行に対向配置された前記複数のコアチップを挟んで一体化する複数の非磁性体のスライダと、複数のコアチップのコアの下面に接合一体化されて、コアとで複数の閉磁路を形成する複数の強磁性体のバックコアと、この複数のバックコアのそれぞれに挿入された複数のコイルとを具えたものであつて、(後略)。」(明細書1頁5行〜20行、実用新案登録請求の範囲)
(キ)「第1図乃至第3図に示す磁気ヘッドは、1〜2メガバイトの低記録密度用の第1コアチップ(10)と、10〜12メガバイトの高記録密度用の第2コアチップ(11)と、両コアチップ(10)(11)の側面に接合一体化された3つの非磁性体のスライダ(12)(13)(14)と(中略)とを有し、以下、各部分の具体例を説明する。」(明細書9頁末行〜10頁13行)

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1には、上記2(ア)(ウ)(エ)(下線部参照)に摘示した記載事項によれば、
「作動ギャップを有する略板状のコア前部体と、該コア前部体との一体化により一面側が磁気記録媒体に摺動するフロントコアを構成するスライダーと、前記フロントコアの他面側に接合されるバックヨークとを備え、
前記バックヨークは、前記コア前部体と共に前記作動ギャップに対応した磁気回路を形成するバックコアと、該バックコアと一体化される磁性材料製のシールド部とからなり、
前記バックコアは、先端側が前記コア前部体に接合して前記磁気回路の磁路の一部を形成し、かつコイルが嵌装される脚部と、該脚部を垂設するように該脚部の基端側に連接された平板状の基板とからなり、
前記シールド部は、基板の周縁部に沿うように基板に垂設された、前記コイルを取り囲む略環状の側壁部を有した磁気ヘッドであって、
前記コア前部体は、スライダーに形成された孔に嵌合してスライダーと一体化され、
前記基板にスリットが形成され、
側壁部に、スリットに連接して深溝が形成されている磁気ヘッド。」
の発明が記載されている。

引用例1の「コア前部体」「側壁部」は、それぞれ本願発明の「磁気コア」「外周壁部」に相当している。
引用例1に記載された発明の「スライダー」は、「作動ギャップを有する略板状のコア前部体と、該コア前部体との一体化により一面側が磁気記録媒体に摺動するフロントコアを構成する」もので、「前記コア前部体は、スライダーに形成された孔に嵌合してスライダーと一体化され」ているので、「磁気記録媒体と摺動し、摺動側部分に形成した孔に、作動ギャップを有した磁気コアを収納保持するスライダー」であるといえる。
引用例1に記載された発明の「バックヨーク」は、「フロントコアの他面側に接合される」もので、「コア前部体と共に作動ギャップに対応した磁気回路を形成するバックコア」を備え、「バックコア」は、「先端側が前記コア前部体に接合して前記磁気回路の磁路の一部を形成し、かつコイルが嵌装される脚部」と、「該脚部を垂設するように該脚部の基端側に連接された平板状の基板」とからなるものであるから、「磁気コアに接合して閉磁路を形成すると共に、スライダーを保持し、かつ磁気コアに対応して設けた複数本の脚部にコイルを装着したバックヨーク」であるといえる。
引用例1に記載された発明の「バックヨーク」は、「バックコア」と「該バックコアと一体化される磁性材料製のシールド部」とからなり、「バックコア」が「コイルが嵌装される脚部」と「該脚部を垂設するように該脚部の基端側に連接された平板状の基板」とからなり、該「シールド部」が「基板の周縁部に沿うように基板に垂設された、前記コイルを取り囲む略環状の側壁部を有し」ているので、引用例1に記載された発明の「バックヨーク」は、本願発明の「バックヨークは、脚部を垂設し、スライダーに沿う略板状のバックヨーク本体と、該バックヨーク本体の外周部に垂設されて前記スライダーに接合される外周壁部とを備えて軟磁性材料で一体成形され、」に相当する構成を備えている。
引用例1に記載された発明において、側壁部にスリットに連接して形成されている深溝は、一種の「切欠」であるといえる。
してみると、本願発明と引用例1に記載された発明は、
「磁気記録媒体と摺動し、摺動側部分に形成した孔に、作動ギャップを有した磁気コアを収納保持するスライダーと、
前記磁気コアに接合して閉磁路を形成すると共に、前記スライダーを保持し、かつ磁気コアに対応して設けた複数本の脚部にコイルを装着したバックヨークとを備え、
該バックヨークは、前記脚部を垂設し、前記スライダーに沿う略板状のバックヨーク本体と、
該バックヨーク本体の外周部に垂設されて前記スライダーに接合される外周壁部とを備えて軟磁性材料で一体成形され、
前記外周壁部に、切欠を形成した磁気ヘッド。」
である点で一致しており、以下の点で相違している。
(相違点1) 本願発明では、「記録密度の異なる複数個の」磁気コアを備え、該磁気コアを「複数個の」孔に「それぞれ」収納保持し、「複数個の」磁気コアに「それぞれ」対応して設けた複数本の脚部に「それぞれ」コイルを装着することを特定しているのに対し、引用例1に記載された発明では、磁気コアが1個のものについて記載されている点。
(相違点2) 切欠の数について、本願発明では、「少なくとも前記複数個のコイルの引出し線の数」と特定しているのに対し、引用例1に記載された発明では、そのような特定がない点。

(2)相違点についての判断
(相違点1について)
引用例1に記載された発明の磁気ヘッドのようなフロッピーディスクドライブ(FDD)等に用いられる磁気ヘッドの技術分野において、1つのスライダーに記録密度が異なる複数のコアを一体化して設けることが引用例2に記載され公知であるから、引用例1に記載された発明の磁気ヘッドにおいて、記録密度が異なる複数のコアを複数の孔に収納保持して一体化させ、複数化に伴ってバックヨークの脚部及びコイルをそれぞれ対応して備えるようにすることは、当業者が容易になし得ることである。
(相違点2について)
配線と、これを案内する溝や凹部や隙間等の数を一致させて、1つの溝や凹部や隙間等に1本の配線を行うことにより配線の作業性をよくすることは、周知の事項である。例えば、特公昭61-55169号公報(第9図、第13図の案内溝14)、特開昭61-198407号公報(第7図の溝20g21g)、特開昭61-90309号公報、特開昭62-36707号公報にも示されている。
引用例1に記載された発明の磁気ヘッドにおいて、その切欠は、コイルの引出し線を引出す役割も備えているところ、切欠の数を少なくとも前記複数個のコイルの引出し線の数とすることは、上記周知の事項に基づき当業者が必要に応じ適宜なし得ることである。
そして、上記相違点1及び2を総合的に検討しても、本願発明の効果は、引用例1、2に記載された発明及び周知の事項から当業者であれば予測される範囲内であり、格別顕著なものではない。
なお、請求人は、引用例1に記載されたスリットは、リード線をスリットに挿通させる際、周囲の干渉を受けないように注意を払うことが必要となるのに対し、本願発明のように外周壁に切欠を設けるのであれば、コイルのバックコアへの装着時にリード線を切欠に置くようにして配置することができ周囲の干渉が少なくてリード線の配置を行えるので、生産性が良い旨の主張をしているが、引用例1に記載されたスリットに連接する深溝は、本願発明の外周壁部に形成した切欠である点で一致しており、請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。また、本願の図1のような切欠(外周壁部の、スライダーと接合される端部から切り欠いたもの)の形状は、周知であって、本願の第9図、第10図に従来例としても図示され、同様のものが特開平10-40525号公報、特開平10-154319号公報、特開平11-316930号公報に図示されているほか、上記特開昭61-90309号公報、上記特開昭62-36707号公報にも、同様の切欠の形状が示されている。よって、請求人の主張は採用することができない。

4 むすび
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1、2に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-25 
結審通知日 2006-01-25 
審決日 2006-02-09 
出願番号 特願2000-102279(P2000-102279)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富澤 哲生  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 相馬 多美子
山澤 宏
発明の名称 磁気ヘッド  
代理人 萼 経夫  
代理人 小野塚 薫  
代理人 中村 壽夫  
代理人 宮崎 嘉夫  

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