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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01G |
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管理番号 | 1133687 |
審判番号 | 不服2001-11786 |
総通号数 | 77 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-07-06 |
確定日 | 2006-03-31 |
事件の表示 | 平成9年特許願第330968号「農業用合成樹脂製フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月25日出願公開、特開平11-137097〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 この出願は、平成9年11月14日の出願であって、その請求項1〜請求項5に係る発明は、平成13年5月22日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜請求項5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 合成樹脂からなるベースフィルムの少なくとも片面に塗料を塗工してなる農業用合成樹脂製フィルムであって、 ベースフィルムに塗工する塗料が、水性塗料、平均粒径1〜200nmのコロイド状シリカ及びヒンダードアミン系化合物のエマルジョンを混合してなり、かつ、シリコン系界面活性剤を添加した塗料である農業用合成樹脂製フィルム。 【請求項2】 水性塗料が、ウレタン系樹脂エマルジョンからなる塗料である請求項1記載の農業用合成樹脂製フィルム。 【請求項3】 塗料中に含まれる水性塗料の有効成分とコロイド状シリカの有効成分の比率が重量比で1:10〜10:1、ヒンダードアミン系化合物のエマルジョンの有効成分が水性塗料の有効成分100重量部当たり0.01〜3重量部である請求項1又は2記載の農業用合成樹脂製フィルム。 【請求項4】 塗料に添加されるシリコン系界面活性剤の添加量が、塗料100重量部当たり0.01〜0.3重量部である請求項1〜3いずれか1項記載の農業用合成樹脂製フィルム。 【請求項5】 ベースフィルムが、合成樹脂100重量部当たりポリオキシエチレン3〜10モル付加ノニルフェニルエーテルを0.01〜0.7重量部添加した合成樹脂組成物からなる請求項1〜4いずれか1項記載の農業用合成樹脂製フィルム。」 2.引用例 これに対して、当審における、平成17年10月3日付けで通知した拒絶の理由に引用した、この出願の出願前に頒布された刊行物である 引用例1:特開平9-226077号公報 引用例2:特開昭57-168934号公報 引用例3:特開平3-88882号公報 引用例4:特開平8-53559号公報 引用例5:特公平1-33492号公報 引用例6:特開平8-225671号公報 引用例7:特開昭61-83038号公報 には、それぞれ以下の事項が記載されている。 引用例1 1-ア.「本発明は、製膜性に優れ、防曇性、透明性、柔軟性、基材密着性、耐水接着性に優れた防曇膜を有する多層フィルムの製造方法に関する。さらに詳しくは、長期にわたって高度の防曇性を持続できる農業用フィルムの製造に好適な方法に関する。」(第1欄第22〜26行。) 1-イ.「図1において、この防曇性多層フィルムは、基体フィルム1と、防曇性コート層2とから成る。基体フィルム1は、塗布面となるオレフィン重合体(A)の層3と、このオレフィン重合体より高融点の重合体(B)の層4とを備えており、オレフィン重合体層3と、高融点重合体層4との間には他の重合体の中間層5が設けられている場合もある。」(第2欄第43〜49行。) 1-ウ.「防曇性コート層2は、無機質コロイド(C)とポリウレタン(D)とを含有するコート層から成っており、このコート層は、無機質コロイド(C)と実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(B)の水性分散液をオレフィン重合体層3の上に塗布し、オレフィン重合体(A)の融点以上、高融点の重合体(B)の融点よりも低い温度で乾燥することにより形成される。」(第3欄第2〜9行。) 1-エ.「本発明では、無機質コロイド(C)に対するバインダーとして、実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(D)を選択したことにより、水性分散液の形でのコートが可能となる」(第3欄第15〜18行。) 1-オ.「本発明においては、上記多層フィルムに、無機質コロイド(C)と実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(D)からなる水性分散液を塗布する。ここで使用される無機質コロイド(C)としては、コロイド状シリカ、コロイド状アルミナ、合成スメクタイト、これらの混合物などを例示することができる。具体的には、水又は親水性溶媒に分散されたゾル状の無機質コロイドを用いるのが好ましいが、(D)成分の水性分散液に配合してコロイド状を呈するものであれば、ゾル状以外のものでも使用することができる。」(第5欄第15〜24行。) 1-カ.「コロイドとしては、平均粒径が5〜100nm程度のものが好ましく、これにより本発明の水性分散液を基材に塗布した場合に、透明な塗布膜を得ることができる。」(第5欄第24〜27行。) 1-キ.「本発明においては、無機質コロイド(C)とともに、実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(D)が用いられる。」(第5欄第28〜30行。) 1-ク.「水分散されているポリウレタンの平均粒径としては、5〜1000nm、とくに10〜100nm程度のものが好ましい。」(第5欄第48〜50行。) 1-ケ.「無機質コロイド(C)とポリウレタン(D)の混合比率は、目的とする塗布膜の性能要求レベルによっても異なるが、通常、固形分比率(重量比)で、(C)/(D)が20/80〜80/20、好ましくは30/70〜70/30、一層好ましくは40/60〜60/40の割合とするのがよい。無機質コロイドの割合が少なすぎると、製膜した場合に、充分な防曇性能が発現できないおそれがあり、またポリウレタンの割合が少なすぎると、柔軟な塗布膜が得られない。」(第6欄第4〜12行。) 1-コ.「上記水性分散液には、種々の添加剤を配合することができる。かかる添加剤として、架橋剤、通常の界面活性剤型の防曇剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、着色剤、無機質コロイド以外の無機フィラーなどを挙げることができる。」(第6欄第18〜22行。) 引用例2 2-ア.「本発明は、農業用塩化ビニル系樹脂フイルムに関するものであり、更に詳しくは、屋外での展張によつて引き起こされる変色や脆化などの好ましくない劣化現象に対して、耐久性の改良された農業用塩化ビニル系樹脂フイルムに関するものである。」(第2頁左上欄第11〜16行。) 2-イ.「厚さ0.03〜0.3mmの塩化ビニル系樹脂フイルムの片面又は両面に、‥‥‥ヒンダードアミン系化合物が配合されてなり、かつ、厚さが基体の塩化ビニル系樹脂フイルムの1/10以下のアクリル酸エステル系樹脂の皮膜が形成されてなることを特徴とする農業用塩化ビニル系樹脂フイルムに存する。」(第2頁右下欄第10行〜第3頁左上欄第5行。) 2-ウ.「本発明に係る農業用塩化ビニル系樹脂フイルムの基体フイルムには、上記塩化ビニル系樹脂に可塑剤のほか、必要に応じ他の樹脂添加物、例えば滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、紫外線吸収剤等を配合することができる。」(第3頁左上欄第18行〜第3頁右上欄第3行。) 2-エ.「上記アクリル酸エステル系樹脂の皮膜には、‥‥‥ヒンダードアミン系化合物が配合される。」(第5頁左下欄第5〜15行。) 2-オ.「皮膜に配合される〔A〕ヒンダードアミン系化合物の量は、0.01〜5重量部の範囲とする。〔A〕の配合量が上記範囲より少ないときは、農業用塩化ビニル系樹脂フイルムの耐候性が、充分優れたものとならないので好ましくなく、逆に上記範囲より多いと、配合量を多くしても耐候性の向上が少なく、好ましくない。上記範囲のうち0.1〜3重量部が、特に好ましい。」(第9頁左上欄第19行〜第9頁右上欄第6行。) 2-カ.「基体フイルムの表面に、アクリル酸エステル系樹脂の皮膜を形成するには、前記アクリル酸エステル系樹脂を溶媒に溶解させ、スプレイコート法、ロールコート法、グラビアコート法、リバースコート法、デイツプコート法等の公知の塗布手段のほか、スクリーン印刷、フレキソ印刷などの手段を利用して塗布し、乾燥するのがよい。」(第9頁左下欄第12〜18行。) 引用例3 3-ア.「本発明は水分散系塗料組成物に関するものである。」(第1頁右下欄第1、2行。) 3-イ.「含フッ素重合体、光安定剤および水性媒体からなることを特徴とする水性塗料用組成物を提供するものである。」(第2頁左上欄第19行〜第2頁右上欄第1行。) 3-ウ.「光安定化剤としては、紫外線吸収剤、消光剤、光安定剤などが例示される。」(第8頁左上欄第1〜3行。) 3-エ.「光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物(特に、2,2,6,6-テトラアルキルビベリジン残基を有する化合物)、シアノアクリレート系化合物、オキザリックアシッドアニリド系化合物などが挙げられる。特に2,2,6,6-テトラメチルビベリジン残基を有するヒンダードアミン系化合物が好ましい。」(第8頁右上欄第10〜16行。) 3-オ.「また、これら光安定化剤は、単独の使用であっても良いし、複数組み合わせて(例えば、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系化合物を組み合わせて)使用しても良い。光安定化剤を複数組み合わせて使用すると相乗効果が得られることがある。」(第8頁右上欄第17行〜第8頁左下欄第2行。) 3-カ.「さらに、光安定化剤は、水に分散または溶解せしめて前述の含フッ素重合体と混合すると、均一混合が容易となり、少量使用で十分な効果が得られるため好ましい。光安定化剤の水分散液化または水溶液化にあたっては、水分散性または水溶性でない光安定剤の場合には、乳化剤を用いることが好ましい。かかる乳化剤としては、アニオン、ノニオン、カチオン系あるいはそれらの混合物を配合時、塗装時の安定性を考えて選択して用いる。」(第8頁左下欄第3〜12行。) 3-キ.「本発明の組成物において、各成分の配合量は適宜選定することが可能である。通常は、含フッ素重合体100重量部当たり、光安定化剤が0.01〜50重量部程度の量が採用される。」(第8頁右下欄第6〜9行。) 引用例4 4-ア.「本発明は、農業用合成樹脂フィルムに関し、詳しくは表面に均一な防滴性被膜を有する農業用合成樹脂フィルムに関する。また、本発明は、防滴性被膜を形成する防滴処理剤に関する。」(第1欄第23〜26行。) 4-イ.「本発明の農業用合成樹脂フィルムは、合成樹脂フィルム表面にシリコン系界面活性剤を含有する水系防滴処理剤による防滴性被膜を形成してなることを特徴とするものである。」(第2欄第16〜19行。) 4-ウ.「本発明の防滴処理剤は、水系防滴処理剤100重量部にシリコン系界面活性剤を0.1重量部以上を添加したことを特徴とする。」(第2欄第19〜22行。) 4-エ.「本発明に使用される水系防滴処理剤としては、アクリル系樹脂やセルロース系樹脂のエマルジョンや水溶液等の水系型塗料や、必要に応じてシランカップリング剤で処理したコロイダルシリカやコロイダルアルミナ等を含有するものなど、従来より農業用合成樹脂フィルム表面に塗膜を形成するために使用されていた水系防滴処理剤であれば特に限定はされない。」(第6欄第32〜38行。) 4-オ.「水系型塗料としては、樹脂を水やアルコールに乳化、分散または溶解させたもので、樹脂として具体的にはアクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、セロース系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、或いはこれらの共重合樹脂などが挙げられる。また、上記の塗料を混合して用いることもできる。」(第6欄頁第39〜46行。) 4-カ.「コロイダルシリカやコロイダルアルミナは、必要に応じて上記の水系型塗料等のバインダーが添加される。また、上記のコロイダルシリカやコロイダルアルミナは、平均粒径が1nm〜100nmの範囲のものが好ましい。平均粒径が100nmを超えると形成された塗膜が白く失透することがあり、また1nm未満では、コロイダルシリカやコロイダルアルミナとバインダーからなる組成物の安定性に欠けることがある。」(第6欄第47行〜第7欄第4行。) 4-キ.「本発明に使用されるシリコン系界面活性剤としては、下記化2に示す一般式で表される非加水分解性シロキサン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体型、または化3に示す一般式で表される加水分解性シロキサン-ポリオキシアルキレンブロック共重合体型に代表されるものが主に使用される。」(第7欄第5、6行。第8欄第1〜4行。) 4-ク.「上記シリコン系界面活性剤の配合量は、使用する水系防滴処理剤の種類によって適宜選択されるが、水系防滴処理剤100重量部に対し、0.1重量部以上であればよい。シリコン系界面活性剤の配合量が少ないと、防滴処理剤を合成樹脂フィルム表面に均一に塗布することが困難となり、また多過ぎるとコストが高くなる。」(第7欄第25〜30行。) 4-ケ.「防滴処理剤の塗布方法としては、スプレーコート、ロールコート、グラビアコート、リバースロールコート、ディップコート等や、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の公知の方法を採用することができる。」(第7欄第31〜35行。) 4-コ.「得られた上記フィルムの他面にアクリル系エマルジョン(NeoCryl A614、楠本化成社製)3重量部、コロイダルシリカ(カタロイドSI-30、触媒化成社製)4重量部、水93重量部からなる水系防滴処理剤に、シリコン系界面活性剤(SILWET L-77、日本ユニカー社製)を0.2重量部添加した防滴処理剤をスプレーコートにより塗布し」(第9欄第18〜24行。) 引用例5 5-ア.「本発明は、耐久性の優れた農業用軟質塩化ビニル系樹脂フイルムに関する。更に詳しくは、展張作業がやり易く、展張後は防塵性、防曇性が優れ、これらの優れた性質が長期間持続する耐久性の優れた農業用軟質塩化ビニル系樹脂フイルムに関するものである。」(第2欄第7〜12行。) 5-イ.「しかして本発明の要旨とするところは、塩化ビニル系樹脂100重量部当り、界面活性剤を0〜2重量部配合してフイルム化し、このフイルムの片面に防塵用塗料にもとづく被膜を形成し、フイルムの残りの面に防曇用塗料にもとづく被膜を形成したことを特徴とする、耐久性の優れた農業用軟質塩化ビニル系樹脂フイルムに存する。」(第4欄第18〜24行。) 5-ウ.「本発明に係る農業用軟質塩化ビニルフイルムには、界面活性剤(防曇剤とも呼称される)を少量配合することができる。界面活性剤を配合すると、防塵性能が著しく低下するので、配合しない方が好ましが、基体フイルムの表裏に被膜を形成する際に被膜形成用塗料の塗付性を改良する目的で、基体フイルムに少量配合することができる。添加する場合は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、2重量部までとする。特に好ましいのは、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0〜0.5重量部である。」(第5欄第13〜23行。) 5-エ.「基体の塩化ビニル系樹脂に配合しうる界面活性剤としては、‥‥‥ポリオキシエチレンノニルフエニルエーテル類、‥‥‥などがあげられる。これら界面活性剤は、一種でも二種類以上を混合して用いてもよい。」(第5欄第24〜38行。) 5-オ.「本発明に係る農業用軟質塩化ビニル系樹脂フイルムの基体フイルムには、必要に応じ他の樹脂添加物、例えば紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、顔料、染料等を合することができる。」(第5欄第39〜43行。) 5-カ.「本発明に係る耐久性の優れた農業用軟質塩化ビニル系樹脂フイルムは、フイルムの残りの面に防曇用塗料にもとづく被膜が形成されている。この防曇用塗料にもとづく被膜は、フイルムをハウス等に展張して使用する際に内側表面とし、この内側表面に水滴が付着するのを抑制する機能を果すものである。」(第16欄第35〜41行。) 5-キ.「防曇用塗料としては、次のようなものがあげられる。 (ニ)有効成分として、親水性アクリル系化合物を15重量%以上含むアクリル系重合体を含むもの。 (ホ)有効成分として、コロイダルシリカ及び/又はアルミナゾルを含むもの。 (ヘ)有効成分として、一分子内に疎水性分子鎖ブロツクと親水性分子鎖ブロツクとを含むブロツク共重合体を含むもの。」(第16欄第42行〜第17欄第7行。) 5-ク.「上記(ホ)の有効成分を構成するコロイダルシリカ及び/又はアルミナゾルは、平均粒子径が200ミリミクロン以下のものをいう。これらは、それぞれ単独で使用してもよいし、両者を組み合せて使用してもよい。」(第17欄第37〜41行。) 5-ケ.「上記コロイダルシリカ及び/又はアルミナゾルは、水、界面活性剤と組み合せて、固形分として0.05〜10重量%(防曇用塗料全体として100重量%とする。)として使用するのがよい。」(第18欄第1〜4行。) 5-コ.「上記(ホ)のコロイダルシリカ及び/又はアルミナゾルを有効成分とする塗料と併用される界面活性剤は、非イオン系界面活性剤が好ましく、具体例としては、‥‥‥ポリオキシエチレンアルキルフエノールエーテル類、‥‥‥などがあげられる。」(第18欄第26〜35行。) 引用例6 6-ア.「本発明は、ハウス、トンネル栽培に用いる農業用フィルムに関するものである。」(第1欄第26、27行。) 6-イ.「本発明は、エチレン系樹脂に、グリシジル基含有モノマーをグラフト反応させて得たグリシジル変性エチレン系樹脂、またはエチレン80〜99.9重量%とグリシジル基含有モノマー20〜0.1重量%とを共重合させて得たグリシジル基含有エチレン共重合体、またはエチレン60〜99.8重量%とグリシジル基含有モノマー20〜0.1重量%と、これらと共重合可能なビニル単量体0.1〜20重量%とを共重合させて得たグリシジル基含有エチレン共重合体を基材とする単層または多層のフィルムの表面に、親水性無機コロイド物質と親水性有機高分子化合物を含有する流滴剤を塗布、乾燥してフィルムに流滴性を付与した農業用フィルムを提供するものである。」(第2欄第20〜32行。) 6-ウ.「流滴剤としては、親水性無機コロイド物質(イ)と親水性有機高分子化合物(ロ)を含有する塗布型の流滴剤が使用できる。」(第4欄第11〜13行。) 6-エ.「(イ)の親水性無機コロイドとしては、例えばコロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、‥‥‥好ましくはコロイダルシリカ、コロイダルアルミナである。」(第4欄第13〜18行。) 6-オ.「親水性無機コロイド物質は、親水性有機高分子化合物100重量部当り、20〜150重量部、好ましくは40〜100重量部の割合で用いられる(いずれも固形分比)。」(第5欄第2〜5行。) 6-カ.「必要により界面活性剤を親水性無機コロイド物質100重量部当り、10〜50重量部の割合で配合してもよい。かかる界面活性剤は非イオン系でもアニオン系でもよい。」(第5欄第5〜8行。) 6-キ.「非イオン性界面活性剤としては、たとえば下記のようなものが挙げられる。」(第5欄第8、9行。) 6-ク.「(i)エーテル型のもの:これにはポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル等がある。そのアルキルフェニル基又はアルキル基は炭素数8〜22のものが好ましい。また、付加されるアルキレンオキサイドは炭素数2〜4のもの、またその付加モル数は2〜30が好ましい。アルキレンオキサイドの付加は、1種類の単独付加であっても、2種以上の混合付加であってもよく、さらに混合付加の場合には、付加形態がブロック付加でも、ランダム付加でもよい。」(第5欄第10〜19行。) 引用例7 7-ア.「本発明は防曇効果を奏すると共に製袋機械適性、包装機械適性、印刷適性を備えた包装用共押出多層フィルムに関する。」(第1頁左下欄第18〜20行。) 7-イ.「第1図は本発明のポリオレフィン系包装用共押出多層フィルムの1例を示す断面図である。この包装用共押出多層フィルム(3)は防曇効果を有する界面活性剤を混練したポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂よりなる袋内側層(1)と防曇効果を有する界面活性剤を混練してない前記袋内側層の樹脂とは密度が異なるポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂よりなる袋外側層(2)を共押出し成膜装置により共押出してなるものである。」(第2頁左下欄第2〜12行。) 7-ウ.「上記において袋内側層に用いられる界面活性剤としては各種のものが考えられるが、本発明において適用できるものとしては非イオン系界面活性剤である、‥‥‥ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル等が考えられる。」(第2頁右下欄第17行〜第3頁左上欄第5行。) 7-エ.「また、エーテルについては一般にエチレンオキサイドの付加モル数によって防曇効果が調節できるが、通常は4〜10の付加モル数のものが用いられる。」(第3頁左上欄第10〜13行。) 7-オ.「上記非イオン性界面活性剤の全体に対する混合割合は、0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。非イオン界面活性剤が5重量%より多いと防曇性は良好であるがフィルムにべと付きが生じ、成膜後の製袋時におけるヒートシール性等に悪影響を及ぼす。また、0.1重量%より少ないと所望の防曇性を発現させることができない。」(第3頁右上欄第5〜12行。) 3.対比・判断 A.請求項1に係る発明について 「1-ア.」〜「1-コ.」の摘記事項及び引用例1の【図1】から判断して引用例1には、 「基体フィルム1と、防曇性コート層2とから成り、基体フィルム1は、オレフィン重合体(A)の層3と、このオレフィン重合体より高融点の重合体(B)の層4とを備え、防曇性コート層2は、無機質コロイド(C)と実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(D)からなる水性分散液をオレフィン重合体層3の上に塗布してなり、無機質コロイド(C)とポリウレタン(D)の混合比率は、固形分比率(重量比)で、(C)/(D)が20/80〜80/20の割合とし、無機質コロイド(C)としてコロイド状シリカが使用され、平均粒径が5〜100nm程度のものとし、水性分散液には、界面活性剤型の防曇剤、光安定剤などの添加剤を配合する、農業用フィルム。」 が記載されている。(「1-ウ.」の「実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(B)」は、他の「実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(D)」の記載から判断して、「実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(D)」の誤記と考えられる。) そして、引用例1に記載されたものの「オレフィン重合体(A)の層3と、このオレフィン重合体より高融点の重合体(B)の層4」とを備えたものは、「多層の合成樹脂」と把握できるから、引用例1に記載されたものの「基体フィルム1」は、請求項1に係る発明(以下、本願発明1という。)の「ベースフィルム」に相当し、また、引用例1に記載されたものの「コロイド状シリカ」は、本願発明1の「コロイド状シリカ」に相当し、引用例1に記載されたものの「実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(D)」は、本願発明1の「水性塗料」を満足するから、引用例1に記載されたものの「防曇性コート層2」は、本願発明1の塗工した「塗料」に、「水性分散液」は「塗料」に、「農業用フィルム」は「農業用合成樹脂製フィルム」に相当する。 また、引用例1に記載されたものの「無機質コロイド(C)としてコロイド状シリカが使用され、平均粒径が5〜100nm程度」は、本願発明1の「コロイド状シリカの平均粒径1〜200nm」を満足する。 また、本願発明1の「ヒンダードアミン系化合物のエマルジョン」は「光安定剤」として、「シリコン系界面活性剤」は「防曇剤」として、「塗料」に混合、添加しているものと判断されるから、引用例1に記載されたものの「光安定剤」は、本願発明1の「ヒンダードアミン系化合物のエマルジョン」を包含し、「界面活性剤型の防曇剤」は「シリコン系界面活性剤」を包含する。 そこで、本願発明1と、引用例1に記載されたものを対比すると、本願発明1と、引用例1に記載されたものとは、 「合成樹脂からなるベースフィルムの片面に塗料を塗工してなる農業用合成樹脂製フィルムであって、 ベースフィルムに塗工する塗料が、水性塗料、平均粒径5〜100nmのコロイド状シリカ及び光安定剤を混合してなり、かつ、界面活性剤型の防曇剤を添加した塗料である農業用合成樹脂製フィルム。」の点で一致し、下記1-a、1-bの点で相違する。 相違点1-a 本願発明1が、「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物のエマルジョン」と特定しているのに対し、引用例1に記載されたものは、「光安定剤」をさらに具体化していない点。 相違点1-b 本願発明1が、「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」と特定しているのに対し、引用例1に記載されたものは、「界面活性剤型の防曇剤」をさらに具体化していない点。 以下、上記相違点1-a、1-bについて検討する。 相違点1-aについて 引用例2には、「塩化ビニル系樹脂の基体フイルムの表面に、アクリル酸エステル系樹脂を溶媒に溶解させて塗布し皮膜を形成し、アクリル酸エステル系樹脂の皮膜には、ヒンダードアミン系化合物が0.01〜5重量部の範囲で配合された農業用塩化ビニル系樹脂フイルム。」が記載されている。 引用例3には、「含フッ素重合体、水に分散または溶解せしめた光安定化剤(紫外線吸収剤、消光剤、及び/又は光安定剤)、及び水性媒体からなり、含フッ素重合体100重量部当たり、光安定化剤を0.01〜50重量部程度混合し、光安定化剤の水分散液化または水溶液化にあたっては、水分散性または水溶性でない光安定化剤の場合には乳化剤を用い、光安定化剤のうちの光安定剤として、ヒンダードアミン系化合物を使用する水分散系塗料。」が記載されている。 そして、引用例2に記載されたものの「アクリル酸エステル系樹脂の皮膜」は、引用例1に記載されたものの「防曇性コート層2」を満足し、「ヒンダードアミン系化合物」は「光安定剤」を満足する。また、引用例3に記載されたものの「水分散系塗料」は、引用例1に記載されたものの「水性分散液」に相当し、「光安定剤」は「光安定剤」に相当する。 そうすると、本願発明1が、「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物のエマルジョン」とした点は、引用例2に記載されたものの「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物」とする構成と、引用例3に記載されたものの「光安定剤」を「水分散性」にする構成に倣い、引用例1に記載されたものの「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物」に特定し、且つ「水分散性」のものに特定することにより、当業者が容易に想到し得たものである。 相違点1-bについて 引用例4には、「水系防滴処理剤100重量部にシリコン系界面活性剤を0.1重量部以上を、特に具体的には0.2重量部を添加した、水系防滴処理剤による防滴性被膜を有する農業用合成樹脂フィルム」が記載されている。 そして、引用例4に記載されたものの「防滴性被膜」は、引用例1に記載されたものの「防曇性コート層2」に相当し、「水系防滴処理剤」は「水性分散液」に相当し、引用例4に記載されたものの「シリコン系界面活性剤」は、引用例1に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を満足する。 そうすると、本願発明1が、「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」とした点は、引用例4に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」とする構成に倣い、引用例1に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」に特定することにより、当業者が容易に想到し得たものである。 以上のとおり、本願発明1は、引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本願発明1の奏する作用効果についてみても、引用例1〜引用例4に記載された発明から予測し得る範囲のものである。 B.請求項2に係る発明について 請求項2に係る発明(以下、本願発明2という。)は、本願発明1の「水性塗料」を、「ウレタン系樹脂エマルジョン」に特定したものである。 ところが、引用例1に記載されたものの「水性塗料」は、「実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(D)」であり、「実質的に水不溶性でかつ水分散性のポリウレタン(D)」は、「ウレタン系樹脂エマルジョン」に相当する。 そうすると、本願発明2と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点は、本願発明1と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点(相違点1-a、1-b)に等しい。 そして、相違点1-a、1-bについての判断は、「A.請求項1に係る発明について」で示したとおりである。 したがって、本願発明2は、引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本願発明2の奏する作用効果についてみても、引用例1〜引用例4に記載された発明から予測し得る範囲のものである。 C.請求項3に係る発明について 請求項3に係る発明(以下、本願発明3という。)は、本願発明1又は本願発明2の「水性塗料の有効成分とコロイド状シリカの有効成分の比率が重量比で1:10〜10:1である」と特定し、「ヒンダードアミン系化合物のエマルジョンの有効成分が水性塗料の有効成分100重量部当たり0.01〜3重量部である」と特定したものである。 ところが、引用例1に記載されたものの「無機質コロイド(C)とポリウレタン(D)の混合比率は、固形分比率(重量比)で、(C)/(D)が20/80〜80/20の割合とし、無機質コロイド(C)としてコロイド状シリカを使用」は、本願発明3の「水性塗料の有効成分とコロイド状シリカの有効成分の比率が重量比で1:10〜10:1である」を満足している。 そうすると、本願発明3と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点は、本願発明1又は本願発明2と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点1-bに加え、下記3-aの点で相違する。 相違点3-a 本願発明3が、「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物のエマルジョンとし、ヒンダードアミン系化合物のエマルジョンの有効成分が水性塗料の有効成分100重量部当たり0.01〜3重量部である」と特定しているのに対し、引用例1に記載されたものは、「光安定剤」をさらに具体化していない点。 そして、相違点1-bについての判断は、「A.請求項1に係る発明について」で示したとおりであるから、以下、相違点3-aについて検討する。 相違点3-aについて 引用例2には、「塩化ビニル系樹脂の基体フイルムの表面に、アクリル酸エステル系樹脂を溶媒に溶解させて塗布し皮膜を形成し、アクリル酸エステル系樹脂の皮膜には、ヒンダードアミン系化合物が0.01〜5重量部の範囲で配合された農業用塩化ビニル系樹脂フイルム。」が記載されている。 引用例3には、「含フッ素重合体、水に分散または溶解せしめた光安定化剤(紫外線吸収剤、消光剤、及び/又は光安定剤)、及び水性媒体からなり、含フッ素重合体100重量部当たり、光安定化剤を0.01〜50重量部程度混合し、光安定化剤の水分散液化または水溶液化にあたっては、水分散性または水溶性でない光安定化剤の場合には乳化剤を用い、光安定化剤のうちの光安定剤として、ヒンダードアミン系化合を使用する水分散系塗料。」が記載されている。 そして、引用例2に記載されたものの「アクリル酸エステル系樹脂の皮膜」は、引用例1に記載されたものの「防曇性コート層2」を満足し、「ヒンダードアミン系化合物」は「光安定剤」を満足する。また、引用例3に記載されたものの「水分散系塗料」は、引用例1に記載されたものの「水性分散液」に相当し、「光安定剤」は「光安定剤」に相当する。 また、引用例2に記載されたものの「ヒンダードアミン系化合物が0.01〜5重量部」とは、「アクリル酸エステル系樹脂100重量部に対する混合比」と解される。 そうすると、本願発明3が、「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物のエマルジョン」とした点は、引用例2に記載されたものの「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物」とする構成と、引用例3に記載されたものの「光安定剤」を「水分散性」にする構成に倣い、引用例1に記載されたものの「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物」に特定し、且つ「水分散性」のものに特定することにより、当業者が容易に想到し得たものである。 また、引用例1に記載されたものの「光安定剤」を、引用例2に記載されたものの「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物」とする構成に倣い、「ヒンダードアミン系化合物」に特定するときに、引用例2に記載されたものの「アクリル酸エステル系樹脂100重量部に対し、ヒンダードアミン系化合物が0.01〜5重量部の範囲で配合された」構成に倣い、「ヒンダードアミン系化合物がポリウレタン(D)100重量部当たり0.01〜5重量部である」と特定することは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、「ヒンダードアミン系化合物がポリウレタン(D)100重量部当たり0.01〜5重量部である」ことは、本願発明3の「ヒンダードアミン系化合物のエマルジョンの有効成分が水性塗料の有効成分100重量部当たり0.01〜3重量部である」ことを包含している。 効果が認められる範囲と、その中で特に好ましい範囲とでは、効果の要求水準に応じて包含関係で数値が変動するものであり、本願発明3が、ヒンダードアミン系化合物の混合比を、「0.01〜5重量部」の範囲内で「0.01〜3重量部」に特定したことに格別の技術的意義があるとは考えられない。 以上のとおり、本願発明3は、引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本願発明3の奏する作用効果についてみても、引用例1〜引用例4に記載された発明から予測し得る範囲のものである。 D.請求項4に係る発明について 請求項4に係る発明(以下、本願発明4という。)は、本願発明1〜本願発明3のいずれかの「シリコン系界面活性剤の添加量が、塗料100重量部当たり0.01〜0.3重量部である」と特定したものである。 そうすると、本願発明4と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点は、本願発明1又は本願発明2と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点1-a、又は本願発明3と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点3-aに加え、下記4-bの点で相違する。 相違点4-b 本願発明4が、「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤とし、シリコン系界面活性剤の添加量が、塗料100重量部当たり0.01〜0.3重量部である」と特定しているのに対し、引用例1に記載されたものは、「界面活性剤型の防曇剤」をさらに具体化していない点。 そして、相違点1-aについての判断は、「A.請求項1に係る発明について」で示したとおりであり、相違点3-aについての判断は、「C.請求項3に係る発明について」で示したとおりであるから、以下、相違点4-bについて検討する。 相違点4-bについて 引用例4には、「水系防滴処理剤100重量部にシリコン系界面活性剤を0.1重量部以上を、特に具体的には0.2重量部を添加した、水系防滴処理剤による防滴性被膜を有する農業用合成樹脂フィルム」が記載されている。 そして、引用例4に記載されたものの「防滴性被膜」は、引用例1に記載されたものの「防曇性コート層2」に相当し、「水系防滴処理剤」は「水性分散液」に相当し、引用例4に記載されたものの「シリコン系界面活性剤」は、引用例1に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を満足する。 また、引用例4に記載されたものの、シリコン系界面活性剤の添加量の下限値が「0.1重量部」であり、シリコン系界面活性剤の添加量の具体例が「0.2重量部」であれば、「0.2重量部」は上限値であるか、又は上限値に満たない中間値である。そうすると、少なくともシリコン系界面活性剤の添加量は、「0.1〜0.2重量部」の範囲で添加される。 そうすると、本願発明4が、「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」とした点は、引用例4に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」とする構成に倣い、引用例1に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」に特定することにより、当業者が容易に想到し得たものである。 また、引用例1に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を、引用例4に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」とする構成に倣い、「シリコン系界面活性剤」に特定するときに、引用例4に記載されたものの「水系防滴処理剤100重量部にシリコン系界面活性剤を0.1重量部以上を、特に具体的には0.2重量部を添加した」構成に倣い、「シリコン系界面活性剤の添加量が、水性分散液100重量部当たり0.1〜0.2重量部である」と特定することは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、「シリコン系界面活性剤の添加量が、水性分散液100重量部当たり0.1〜0.2重量部である」ことは、本願発明4の「シリコン系界面活性剤の添加量が、塗料100重量部当たり0.01〜0.3重量部である」ことを満足している。 以上のとおり、本願発明4は、引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本願発明4の奏する作用効果についてみても、引用例1〜引用例4に記載された発明から予測し得る範囲のものである。 E.請求項5に係る発明について 請求項5に係る発明(以下、本願発明5という。)は、本願発明1〜本願発明4のいずれかの「ベースフィルム」を、「合成樹脂100重量部当たりポリオキシエチレン3〜10モル付加ノニルフェニルエーテルを0.01〜0.7重量部添加した合成樹脂組成物」と特定したものである。 そうすると、本願発明5と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点は、本願発明1又は本願発明2と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点(相違点1-a、1-b)、本願発明3と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点(相違点3-a、1-b)、又は本願発明4と、引用例1に記載されたものを対比したときの相違点(相違点1-a又は3-a、及び4-b)に加え、下記5-cの点で相違する。 相違点5-c 本願発明5が、「ベースフィルム」を「合成樹脂100重量部当たりポリオキシエチレン3〜10モル付加ノニルフェニルエーテルを0.01〜0.7重量部添加した合成樹脂組成物」と特定しているのに対し、引用例1に記載されたものは、「基体フィルム1」の合成樹脂の添加剤を具体化していない点。 そして、相違点1-a、1-bについての判断は、「A.請求項1に係る発明について」で示したとおりであり、相違点3-aについての判断は、「C.請求項3に係る発明について」で示したとおりであり、相違点4-bについての判断は、「D.請求項4に係る発明について」で示したとおりでるから、以下、相違点5-cについて検討する。 相違点5-cについて 引用例5には、「塩化ビニル系樹脂100重量部当り、界面活性剤を0〜2重量部配合して、特に好ましくは、0〜0.5重量部配合して、フイルム化して基体フイルムとし、界面活性剤としてポリオキシエチレンノニルフエニルエーテルを使用し、この基体フイルムの片面に防塵用塗料にもとづく被膜を形成し、基体フイルムの残りの面に防曇用塗料にもとづく被膜を形成した農業用軟質塩化ビニル系樹脂フイルム。」が記載されている。 引用例6には、「単層または多層のフィルムの表面に、親水性無機コロイド物質と親水性有機高分子化合物を含有する流滴剤を塗布、乾燥してフィルムに流滴性を付与し、親水性無機コロイド物質100重量部当り、10〜50重量部の割合で界面活性剤を配合し、界面活性剤として、そのアルキルフェニル基を炭素数8〜22とし、付加されるアルキレンオキサイドを炭素数2〜4とし、またその付加モル数を2〜30としたポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルを使用した農業用フィルム。」が記載されている。 引用例7には、「防曇効果を有する界面活性剤を混練したポリオレフィン系樹脂よりなる袋内側層(1)と防曇効果を有する界面活性剤を混練してないポリオレフィン系樹脂よりなる袋外側層(2)を共押出し成膜装置により共押出してなり、袋内側層に用いられる界面活性剤として、4〜10の付加モル数のポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルを使用する包装用共押出多層フィルム。」が記載されている。また、「エーテルについては一般にエチレンオキサイドの付加モル数によって防曇効果が調節できる」(「7-エ.」参照。)ことが記載されている。 ところで、本願発明5において、ベースフイルムの合成樹脂にポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを添加するのは、「塗膜とベースフィルムとの密着性を向上させるため、ベースフィルムに、ポリオキシエチレン3〜10モル付加ノニルフェニルエーテルを添加しておくのが望ましい」(本願明細書の【0034】参照。)という理由からである。 一方、引用例5に記載されたものが、界面活性剤を基体フイルムの合成樹脂に配合するのは、「基体フイルムの表裏に被膜を形成する際に被膜形成用塗料の塗付性を改良する目的で」(「5-ウ.」参照。)ある。この、「被膜形成用塗料の塗付性」には、「塗工の難易」も含まれるが、「塗膜の良否」つまりは、「塗膜とベースフィルムとの密着性」も含まれるものと考えられる。 したがって、本願発明5が、「合成樹脂にポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを添加」した理由と、引用例5に記載されたものが、「界面活性剤を基体フイルムの合成樹脂に配合する」理由とは、「塗膜とベースフィルムとの密着性の向上」を企図した点で共通している。 上記のように、引用例5に記載されたものでは、界面活性剤は「被膜形成用塗料の塗付性を改良する目的で」配合されるものであるが、この界面活性剤は、一般には「防曇剤」と認識されているものである(「5-ウ.」参照。)。したがって、引用例5に記載されたものでは、「基体フイルム」に被膜を形成する「防曇用塗料」にも、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを含む「ポリオキシエチレンアルキルフエノールエーテル」が配合されている(「5-コ.」参照。)。このような、防曇剤として使用される、ポリオキシエチレンノニルフエニルエーテルを含む、「ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル」又は「ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル」の付加モル数については、引用例6に記載されたものでは、「ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル」の「アルキレンオキサイド」の付加モル数を「2〜30モル」とし、引用例7に記載されたものでは、「ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル」の「エチレンオキサイド」の付加モル数を「4〜10モル」としている。この引用例6に記載されたものの付加モル数「2〜30モル」は、引用例7に記載されたものの付加モル数「4〜10モル」を包含しており、これらは、「ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル」又は「ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル」を防曇効果を有する界面活性剤として使用する場合の付加モル数として、慣用の値と考えられる。 そして、引用例5に記載されたものの「基体フイルム」は、引用例1に記載されたものの「基体フィルム1」に相当し、「防曇用塗料にもとづく被膜」は「防曇性コート層2」に相当する。 そうすると、本願発明5が、「ベースフィルム」を「合成樹脂にポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを添加した合成樹脂組成物」とした点は、引用例5に記載されたものの「塩化ビニル系樹脂に界面活性剤を配合してフイルム化して基体フイルムとし、界面活性剤としてポリオキシエチレンノニルフエニルエーテルを使用し」た構成に倣って、引用例1に記載されたものの「基体フィルム1」を「合成樹脂にポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを添加した合成樹脂組成物」と特定することにより、当業者が容易に想到し得たものである。 また、引用例1に記載されたものの「基体フィルム1」を、引用例5に記載されたものの「塩化ビニル系樹脂に界面活性剤を配合してフイルム化して基体フイルムとし、界面活性剤としてポリオキシエチレンノニルフエニルエーテルを使用し」た構成に倣い、「合成樹脂にポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを添加した合成樹脂組成物」と特定するときに、引用例5に記載されたものの「塩化ビニル系樹脂100重量部当り、界面活性剤を0〜2重量部配合して、特に好ましくは、0〜0.5重量部配合」した構成に倣い、「合成樹脂100重量部当たりポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを0〜0.5重量部添加」と特定することは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、「合成樹脂100重量部当たりポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを0〜0.5重量部添加」することは、本願発明5の「合成樹脂100重量部当たりポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを0.01〜0.7重量部添加」することと、「0.01〜0.5重量部」の範囲で重複している。 また、引用例1に記載されたものの「基体フィルム1」を、引用例5に記載されたものの「塩化ビニル系樹脂に界面活性剤を配合してフイルム化して基体フイルムとし、界面活性剤としてポリオキシエチレンノニルフエニルエーテルを使用し」た構成に倣い、「合成樹脂にポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを添加した合成樹脂組成物」と特定するときに、引用例5に記載されたものの「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル」と同じ「防曇剤」である、引用例6に記載されたものの「ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルの付加モル数を2〜30モル」とする構成に包含される、引用例7に記載されたものの「ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルの付加モル数を4〜10モル」とする構成に倣い、「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの付加モル数を4〜10モル」と特定することは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの付加モル数を4〜10モル」とすることは、本願発明5の「ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの付加モル数を3〜10モル」とすることを満足している。 以上のとおり、本願発明5は、引用例1〜引用例7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本願発明5の奏する作用効果についてみても、引用例1〜引用例7に記載された発明から予測し得る範囲のものである。 F.平成17年12月1日付の意見書について 出願人は、平成17年12月1日付の意見書で、 ア.「引例2の有機溶媒に分散しているヒンダードアミン化合物を引例3に記載の水分散性ヒンダードアミン系化合物とすることは通常行わないことであり、したがって引例1の水性分散液に添加する光安定剤を、ヒンダードアミン系化合物のエマルジョンと特定することは、たとえ当業者と言えども容易に想到し得るものではない。」、 イ.「引例4の【0011】に記載されているように、防滴剤として使用されるものは、通常、非イオン系界面活性剤全体であり、シリコン系界面活性剤に限定される物ではなく、引例1に記載の通常の界面活性剤型の防曇剤をシリコン系界面活性剤と特定することは当業者としても容易に想到し得るものではない。」、 ウ.「引例4のシリコン系界面活性剤は、塗膜の塗布性向上に使用されている物であり、本願で使用するシリコン系界面活性剤の添加目的は防曇剤の機能よりも、本願の実施例1と比較例1〜3を比較することで、防滴性だけでなく、塗膜の密着性、耐候性の向上にも寄与していることは明確である。発明の効果としても、実施例と比較例を対比しても明確なように、コロイド状シリカ、ヒンダードアミン系化合物のエマルジョン、シリコン系界面活性剤との相乗効果により、塗膜の密着性、防滴性、塗膜の耐候性の向上である本願の発明の効果が得られるものである。」旨主張しているので以下に検討する。 ア.について 引用例2は、「農業用」に用いられる塩化ビニル系樹脂フイルムの、「基体フイルム」の表面に形成した「樹脂の皮膜」に、「ヒンダードアミン系化合物」を配合する点で引用しており、塗膜を形成する過程での塗料の剤形についてまで引用し、本願発明と対照しているわけではない。 引用例3は、「水分散系塗料」に「光安定剤」を混合する場合に、「光安定剤」を「水分散系塗料」に均一に混合するため「光安定剤」を「水分散性」にする点で引用しており、「水分散系塗料」に「光安定剤」を均一に混合するような技術は、塗料一般の技術に属し、その塗料を農業用フィルムの表面塗布に使用することまで必要とするものではない。 したがって、本願発明1が、「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物のエマルジョン」とした点は、引用例2に記載されたものの「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物」とする構成と、引用例3に記載されたものの「光安定剤」を「水分散性」にする構成に倣い、引用例1に記載されたものの「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物」に特定し、且つ「水分散性」のものに特定することにより、当業者が容易に想到し得たものである。 イ.について 引用例1に記載されたものの「水性分散液」自体「塗布型防曇剤(組成物)」であり、「塗布型防曇剤(組成物)」には、一般に「界面活性剤」が配合される(特公昭63-45432号公報、及び特開平7-165952号公報参照。)。 引用例1では、その「界面活性剤」を、「防曇剤」である「界面活性剤」としたうえで、「塗布型防曇剤(組成物)」と対照する意味で、さらに「通常の界面活性剤型の防曇剤」と特定している。 「シリコン系界面活性剤」が、ほぼ界面活性剤単独で「流滴剤(防曇剤に相当する。)」として使用されることは、周知(特開平2-49050号公報、及び特開平2-281060号公報参照。)であり、引用例4の「シリコン系界面活性剤」は、引用例1の「界面活性剤型の防曇剤」に含まれるものである。 したがって、本願発明1が、「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」とした点は、引用例4に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」とする構成に倣い、引用例1に記載されたものの「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」に特定することにより、当業者が容易に想到し得たものである。 ウ.について 引用例4に記載されたものの「水系防滴処理剤」に「シリコン系界面活性剤」を添加したことの作用効果は、合成樹脂フィルム表面への「水系防滴処理剤」の“塗布時にフィルム表面で塗布液がはじかれることなく均一な塗膜を形成することができ、その結果として均一な防滴性能が得られる”(引用例4の第2欄第11〜13行。)一方、“シリコン系界面活性剤の配合量が少ないと、防滴処理剤を合成樹脂フィルム表面に均一に塗布することが困難となり、また多すぎるとコストが高くなる”(引用例4の第7欄第28〜30行。)ものであって、結局“本発明の農業用合成樹脂フィルムは、シリコン系界面活性剤を含有する水系防滴処理剤を用いているので、防滴性塗膜が均一に形成され、従って、均一な防滴性能を有する農業用合成樹脂フィルムを得ることができる”(引用例4の第8欄第28〜32行。)というものである。 塗布時に塗布液が、「はじかれることがない」ということは、フィルムに「付着する」ということであり、これは、塗膜形成後の塗膜の「密着性」の前提となる事項である。引用例4に記載されたものは、この塗膜の「密着性」の前提となる事項を備えている。 「均一な塗膜を形成することができる」ということは、部分による塗膜の質の良し悪しの差が無いということであり、部分による塗膜の厚い薄いの差が無いということである。塗膜の質の悪い部分、塗膜の薄い部分は、弱点となり、そこから亀裂・剥離が発生し、進行するおそれがあるが、均一な塗膜を形成することができて、そのような弱点が無いということは、光安定剤が発揮する塗膜の「耐候性」の前提となる事項である。引用例4に記載されたものは、この塗膜の「耐候性」の前提となる事項を備えている。 引用例1に記載されたものの「水性分散液」に配合する「光安定剤」を「ヒンダードアミン系化合物」で、かつ「水分散性」のものに特定し、「界面活性剤型の防曇剤」を「シリコン系界面活性剤」に特定すると、コロイド状シリカ、ヒンダードアミン系化合物のエマルジョン、シリコン系界面活性剤との組み合わせとなり、上述のシリコン系界面活性剤が引用例4に記載されたもので奏する作用も含め、これらの成分の相乗効果が期待できると判断され、塗膜の「密着性」、及び塗膜の「耐候性」が、本願発明1に特有で格別の効果であるとは考えられない。 よって、出願人の「ア.」、「イ.」、及び「ウ.」の主張は採用できない。 4.むすび 以上のとおり、請求項1〜請求項5に係る発明は、引用例1〜引用例7に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-01-04 |
結審通知日 | 2006-01-17 |
審決日 | 2006-01-30 |
出願番号 | 特願平9-330968 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A01G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 坂田 誠 |
特許庁審判長 |
伊波 猛 |
特許庁審判官 |
前田 建男 渡部 葉子 |
発明の名称 | 農業用合成樹脂製フィルム |