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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B |
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管理番号 | 1133720 |
審判番号 | 不服2003-7812 |
総通号数 | 77 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-08-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-05-06 |
確定日 | 2006-03-29 |
事件の表示 | 平成10年特許願第544242号「デジタルシグナルプロセッサを用いた超音波ベースの3Dトラッキングシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月22日国際公開、WO98/46140、平成12年 8月29日国内公表、特表2000-511289〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【1】手続の経緯 本願は、1998年4月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年4月17日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成15年1月24日付け(発送日;同年2月4日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年5月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月5日付けで手続補正がなされたものである。 【2】平成15年6月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成15年6月5日付けの手続補正を却下する。 [理由] [1]補正の内容 1.補正前の特許請求の範囲の請求項1を次のように補正する。 「【請求項1】対応する送信手段によって発信され、対応する受信手段によって受信される送信波形の伝搬遅延時間を決定するシステムであって、前記受信手段は、前記送信波形の受信に応答して出力波形の形で出力を生成し、 特徴的な出力波形を表したテンプレート波形データを格納するテンプレート格納手段と、 対応する送信手段によって送信波形が発信される時に受信手段の出力をサンプリングし始め、所定のサンプリング速度で前記受信手段の出力をサンプリングし、その出力波形をデジタル出力波形データに変換し、該デジタル出力波形データを、該デジタル出力波形データの各項目に対して個々の場所を有するメモリアレイに格納するサンプリング手段と、 該デジタル出力波形データと前記テンプレート波形データの畳込みを行うことによって、このデジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと比較し、前記送信波形に対応するデジタル出力波形データを決定する比較手段と、 この前記送信波形に対応するデジタル出力波形データに従って、伝搬遅延時間を計算する計算手段と、 を有するシステム。」(以下、「本願補正発明」という。)。 2.補正前の特許請求の範囲の請求項2、11を削除する。 3.補正前の特許請求の範囲の請求項3、4を、それぞれ、請求項2、3と補正する。 4.補正前の特許請求の範囲の請求項5を次のように補正する。 「【請求項4】 前記特徴的な出力波形が圧電結晶の振動に固有のものである、請求の範囲第3項に記載のシステム。」 5.補正前の特許請求の範囲の請求項6を、次のように補正する。 「【請求項5】 前記計算手段は、(1)前記メモリアレイ内における、出力波形の始点に対応するデジタル出力波形データの位置と、(2)所定のサンプリング間隔との積を計算する手段とを含み、この積は伝搬遅延時間を示している、請求の範囲第1項に記載のシステム。」 6.補正前の特許請求の範囲の請求項7を請求項6と補正する。 7.補正前の特許請求の範囲の請求項8を次のように補正する。 「【請求項7】 前記計算手段は、(1)メモリアレイ内における、出力波形の始点に対応するデジタル出力波形データの位置と、(2)所定のサンプリング間隔との積を計算する手段と、この積を前記待機時間に加算する手段とを含み、この加算された和が伝搬遅延時間を示している、請求の範囲第6項に記載のシステム。」 8.補正前の特許請求の範囲の請求項9を次のように補正する。 「【請求項8】 前記タイマー手段はカウンタ手段を含む、請求の範囲第7項に記載のシステム。」 9.補正前の特許請求の範囲の請求項10を次のように補正する。 「【請求項9】 対応する送信手段によって発信され、対応する受信手段によって受信される送信波形の伝搬遅延時間を決定する方法であって、前記受信手段は、前記送信波形の受信に応答して出力波形の形で出力を生成し、 特徴的な出力波形を表したテンプレート波形データを取得する工程と、 対応する送信手段によって送信波形が発信される時に受信手段の出力をサンプリングし始め、所定のサンプリング速度で前記受信手段の出力をサンプリングし、その出力波形をデジタル出力波形データに変換し、該デジタル出力波形データを、該デジタル出力波形データの各項目に対して個々の場所を有するメモリアレイに格納する工程と、 該デジタル出力波形データと前記テンプレート波形データの畳込みを行うことによって、このデジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと比較し、前記送信波形に対応するデジタル出力波形データを決定する工程と、 この前記送信波形に対応するデジタル出力波形データに従って、前記伝搬遅延時間を計算する工程と、 を有する方法。」 10.補正前の特許請求の範囲の請求項12を次のように補正する。 「【請求項10】 前記比較工程は、前記デジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと相関させる工程を含む、請求の範囲第9項に記載の方法。」 11.補正前の特許請求の範囲の請求項13を次のように補正する。 「【請求項11】 前記送信手段および受信手段が圧電変換器手段である、請求の範囲第9項に記載の方法。」 12.補正前の特許請求の範囲の請求項14を次のように補正する。 「【請求項12】 前記特徴的な出力波形が圧電結晶の振動に固有のものである、請求の範囲第11項に記載の方法。」 13.補正前の特許請求の範囲の請求項15を次のように補正する。 「【請求項13】 前記計算工程は、(1)メモリアレイ内における、出力波形の始点に対応するデジタル出力波形データの位置と、(2)所定のサンプリング間隔との積を計算する工程を含み、この積は伝搬遅延時間を示している、請求の範囲第9項に記載の方法。」 14.補正前の特許請求の範囲の請求項16を次のように補正する。 「【請求項14】 前記方法は、送信波形の発信によって始まり、前記出力波形が生成される前に終了する待機時間を決定する工程をさらに有する、請求の範囲第9項に記載の方法。」 15.補正前の特許請求の範囲の請求項17を次のように補正する。 「【請求項15】 前記計算工程は、 (a)(1)メモリアレイ内における、出力波形の始点に対応するデジタル出力波形データの位置と、(2)所定のサンプリング間隔との積を計算する工程と、 (b)この積を前記待機時間に加算し、この加算された和が前記伝搬遅延時間を示す工程とを含む、請求の範囲第14項に記載の方法。」 16.補正前の特許請求の範囲の請求項18を次のように補正する。 「【請求項16】 媒質中を伝搬する信号の遅延時間を決定する方法であって、 第1地点から送信波形を発信する工程と、 第2地点において、対応する送信手段によって前記送信波形が発信される時に受信手段の出力をサンプリングし始め、所定のサンプリング速度で前記受信手段の出力をサンプリングする工程と、 標準的な出力波形を表すテンプレート波形データを格納する工程と、 前記出力波形をデジタル出力波形データにデジタル化し、該デジタル出力波形データを、該デジタル出力波形データの各項目に対して個々の場所を有するメモリアレイに格納する工程と、 該デジタル出力波形データと前記テンプレート波形データの畳込みを行うことによって、このデジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと比較して、前記送信波形の発信から前記出力波形の生成までの遅延時間を決定する工程と、 を有する方法。」 [2]補正の適否についての判断 1.新規事項の有無 前記補正1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1において、 (1)「サンプリング手段」を「該デジタル出力波形データを、該デジタル出力波形データの各項目に対して個々の場所を有するメモリアレイに格納するサンプリング手段」と限定し、かつ、 (2)「デジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと比較」する「比較手段」を、「該デジタル出力波形データと前記テンプレート波形データの畳込みを行うことによってこのデジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと比較」する「比較手段」と限定するものであるが、前記補正(1)は、本願明細書中の以下の記載 ・「DSPでは、t0の時点で出力信号波形40が受信されるまでは、(受信側変換器からの)ノイズをサンプリングし、デジタル化する。デジタル化されたデータの各項目が、メモリアレイ内の別々のメモリ位置に保存される。」(公報9頁18行〜20行)からみて、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであることは明らかである。 また、前記補正(2)は、本願明細書中の以下の記載「その後、(デジタル形式の)出力信号波形40は、テンプレート波形20に畳込みされる。」(9頁1行〜2行)からみて、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであることは明らかである。 同様に、前記補正3〜15は、いずれも願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであることは明らかである。 2.補正の目的の適否 次に、前記補正1〜15の目的の適否について検討する。 ・前記補正1における補正(1)、(2)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1において、それぞれ、「サンプリング手段」、及び「比較手段」を限定的に減縮するものであって、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。 ・前記補正2は、特許請求の範囲の請求項の削除に該当する。 ・前記補正3〜8は、いずれも前記補正2に伴い生じる不明瞭な記載の釈明、及び請求項1の限定的減縮に伴う特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。 ・前記補正9は、特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。 ・前記補正10〜15は、前記補正2に伴い生じる不明瞭な記載の釈明、及び特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。 ・前記補正16は、特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。 したがって、前記補正1〜16は、特許請求の範囲の削除、特許請求の範囲の限定的減縮又は明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的としたものである。 3.独立特許要件 そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。 3-1.刊行物に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用された、特開平3-277987号公報(以下、「刊行物」という。)は、超音波距離計(「発明の名称」)に関し、図面とともに、以下の記載がある。 a.「(産業上の利用分野) 本発明は、ディジタル相関器を使用して、送信時刻と受信時刻との差を正確に計測し、送信点から反射点または受信点までの距離を計測する超音波距離計に関するものである。」(公報1頁右下欄1行〜5行) b.「第1図において、lは送信機、2は受信機、3は参照波を得る手段、4は受信波をA/D変換し格納する手段、5はディジタル相関器、6は演算回路、7は反射点を示す。 送信された超音波が反射点7から反射されて受信されたとき、時間差により送信点から反射点までの距離を計測する超音波距離計において、本発明は下記の構成としている。すなわち、送信波形に対応する参照波を得る手段3と、受信波をA/D変換して格納する手段4と、格納する手段4に格納したデータを読出し、前記参照波とを比較するディジタル相関器5と、最大相関値が得られた参照波の発生時刻を受信時刻と判定し、送信時刻との時間差を演算する演算回路6とで構成し、送信点から受信点までの距離を計測することである。」(2頁右上欄2行〜下から4行) c.「(作用) 第1図において、送信機1から超音波を送信し、反射点7において反射された信号は受信機2により受信される。受信機2は受信信号をA/D変換して記憶装置など4に格納する。一方、参照波を得る手段3において、送信する超音波の波形に対応する参照波を設定し、メモリに格納しておく。」(2頁右上欄下から3行〜左下欄5行) 前記記載b.c.における「時間差」は、送信機1から受信機2までに超音波が伝搬するのに要する時間のことであるから、「伝搬時間差」と呼び得るものであることに留意すると、前記記載b.c.から、 ・送信機1によって発信され、受信機2によって受信される送信波形の伝搬時間差を計測する装置であって、前記受信機2は、送信波形の受信に応答して受信信号の形で出力を生成すること、 ・送信する超音波の波形に対応する参照波を格納する参照波を得る手段3、 ・受信信号をA/D変換して格納する手段4、が読みとれる。 d.「つぎにディジタル相関器5は参照波を得る手段3と受信波を格納する手段4の当初のものを読出して、両者の相関値を求める。第2図Aは参照波で時間軸方向に32個の時系列値で形成したもの、第2図Bは受信波形を示す。 参照波がたとえば32個の時系列値で形成した波形であるとき、受信波データも格納を開始した時刻T0から同じ個数のデータを読出して相関値を求め、ディジタル相関器内の相関値の記憶装置のアドレスT0に格納する。」(2頁左下欄5行〜14行) e.「次に、受信波データを1個遅くした時刻T1から前記と同個数読み出して相関値を求め、前記の記憶装置の次のアドレスT1に格納する。 このようにして相関値を求めることを受信波の終わりまで繰り返せば、相関値の時系列が得られる。ついでこの時系列の内で最大の値を有する受信波データの発生時刻Txを求めて演算装置6に送る。この場合、当初の相関値は低く、Txで相関値が最大になっている。演算回路6では時系列データのサンプリング時間間隔と受信波データの相関値最大値発生までの繰り返し回数を積算して、メモリ開始から相関値最大になる時間を求め、さらに発信から受信データのメモリ開始までの時間を加算した値を求める。この値が発信から受信までに要した正確な時間である。ついでこの値と音速とから、送信点から受信点までの距離を計算できる。」(2頁左下欄16行〜右下欄12行) 前記記載d.e.から、 ・受信信号をA/D変換して格納する手段4の出力(すなわち受信波データ)と参照波を得る手段3の出力との相関をとることによって、受信波データと参照波を得る手段3の出力との相関値の時系列を得、最大の相関値を有する受信波データを決定するデジタル相関器5、 ・最大の相関値を有する受信波データに従って、送信波形の伝搬時間差を求める演算回路6、が読みとれる。 以上の記載事項を勘案すると、刊行物には次の発明が記載されているものと認められる。 (刊行物に記載された発明) 「送信機1によって発信され、受信機2によって受信される送信波形の伝搬時間差を計測する装置であって、前記受信機2は、前記送信波形の受信に応答して受信信号の形で出力を生成し、 送信する超音波の波形に対応する参照波を格納する参照波を得る手段3と、 受信信号をA/D変換して格納する手段4と、 該受信信号をA/D変換して格納する手段4の受信波データと参照波を得る手段3の出力との相関をとることによって、受信波データと参照波を得る手段3の出力との相関値の時系列を得、最大の相関値を有する受信波データを決定するデジタル相関器5と、該最大の相関値を有する受信波データに従って、送信波形の伝搬時間差を求める演算回路6と、 を有する装置」(以下、「刊行物に記載された発明」という。)。 3-2.対比 そこで、本願補正発明と刊行物に記載された発明とを対比する。 刊行物に記載された発明における 「送信機1」、「受信機2」、「伝搬時間差を計測する装置」、「受信信号」、「受信波データ」、「参照波を得る手段3」、「受信波データと参照波を得る手段3の出力との相関値の時系列を得」、「最大の相関値を有する受信波データ」、「デジタル相関器5」、「送信波形の伝搬時間差を求める演算回路6」、「装置」、 は、それぞれ、本願補正発明における 「対応する送信手段」、「対応する受信手段」、「伝搬遅延時間を決定するシステム」、「出力波形」、「デジタル出力波形データ」、「テンプレート格納手段」、「デジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと比較し」、「送信波形に対応するデジタル出力波形データ」、「比較手段」、「伝搬遅延時間を計算する計算手段」、「システム」、 に相当する。 また、 ・本願補正発明における「特徴的な出力波形を表したテンプレート波形データ」も、刊行物に記載された発明における「送信する超音波の波形に対応する参照波」も、共に「テンプレート波形データ」であること、 ・刊行物に記載された発明において、「受信信号をA/D変換」する際、所定のサンプリング速度で受信信号をサンプリングし、その出力波形をデジタル出力波形データに変換する操作を行うことは、A/D変換技術において普通に採用されている構成であることを考慮すると、本願補正発明における「所定のサンプリング速度で前記受信手段の出力をサンプリングし、その出力波形をデジタル出力波形データに変換し、該デジタル出力波形データを、該デジタル出力波形データの各項目に対して個々の場所を有するメモリアレイに格納するサンプリング手段」と、刊行物に記載された発明における「受信信号をA/D変換して格納する手段4」とは、共に「所定のサンプリング速度で前記受信手段の出力をサンプリングし、その出力波形をデジタル出力波形データに変換し、該デジタル出力波形データを格納するサンプリング手段」であること、 ・本願補正発明における「畳込みを行う」ことも、刊行物に記載された発明における「相関をとる」ことも、共に「相関演算を行う」こと、 と言えるから、両者は、 (一致点) 「対応する送信手段によって発信され、対応する受信手段によって受信される送信波形の伝搬遅延時間を決定するシステムであって、前記受信手段は、前記送信波形の受信に応答して出力波形の形で出力を生成し、テンプレート波形データを格納するテンプレート格納手段と、 所定のサンプリング速度で前記受信手段の出力をサンプリングし、その出力波形をデジタル出力波形データに変換し、該デジタル出力波形データを格納するサンプリング手段と、 該デジタル出力波形データと前記テンプレート波形データの相関演算を行うことによって、このデジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと比較し、前記送信波形に対応するデジタル出力波形データを決定する比較手段と、 この前記送信波形に対応するデジタル出力波形データに従って、伝搬遅延時間を計算する計算手段と、 を有するシステム。」 で一致し、以下の点で相違している。 (相違点) 相違点1:テンプレート波形データについて、 本願補正発明では、(受信手段の生成する)「特徴的な出力波形を表した」ものであるのに対し、刊行物に記載された発明では、送信波形に対応するものであって、「特徴的な出力波形を表した」ものであるとは明記されていない点。 相違点2:サンプリング開始時点について、 本願補正発明では、「対応する送信手段によって送信波形が発信される時に受信手段の出力をサンプリングし始め」るのに対し、刊行物に記載された発明では、そのような構成を有しない点。 相違点3:サンプリング手段について、 本願補正発明では、デジタル出力波形データを「デジタル出力波形データの各項目に対して個々の場所を有するメモリアレイに格納する」のに対し、刊行物に記載された発明では、その点明記されていない点。 相違点4:相関演算について、 本願補正発明では、相関演算はデジタル出力波形データと前記テンプレート波形データの「畳込み」を行うことによって実行しているのに対し、刊行物に記載された発明では、デジタル出力波形データとテンプレート波形データの相関をとる構成は備えているものの、相関演算の具体的内容については明記されていない点。 3-3.当審の判断 相違点1.について、 超音波による距離測定技術分野において、受信波と相関演算を行う参照波形として、受信波の波形を採用することは、普通に行われていることである(例えば、特開平5-273335号公報参照)。その際、テンプレート波形データとして参照波である受信波の特徴をよく表した波形を採用することは、受信波と参照波との比較を円滑に行う上で当然配慮すべき技術的事項に過ぎない。 そうしてみると、刊行物に記載された発明において、特徴的な受信手段の出力波形を表したものをテンプレート波形データとすることに、格別の創意を要したものとは言えない。 相違点2.について、 対象物体に向けて超音波信号を発射し、その反射信号を受信して対象物体までの距離を検出する超音波距離測定装置において、超音波信号が発射された直後から受信信号を、所定のサンプリング周期でA/D変換してメモリに記憶させ、対象物体までの距離の算出に供することは、従来から採用されている周知の構成である(例えば、特開昭59-111078号公報、2頁左上欄6行〜14行の記載参照)。 そうしてみると、刊行物に記載された発明において、前記周知の構成を採用し、本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るところと言えるものである。 相違点3.について、 刊行物中に「参照波がたとえば32個の時系列値で形成した波形であるとき、受信波データも格納を開始した時刻T0から同じ個数のデータを読出して相関値を求め」(3-1.記載d.)と記載されているように、刊行物に記載された発明では、相関値の演算にあたって受信波データは時系列値、即ち、サンプリング値単位で取り扱われるのであるから、メモリに記憶するに際しても、サンプリング値(「項目」に相当する)毎に扱い、各項目に対してメモリ内の異なる場所に整列、格納することは、データ管理を円滑に行う上で当然配慮するはずの技術的事項に過ぎない。 相違点4.について、 相関演算をいわゆる畳込み演算によって行うことは、極めてよく知られた演算手法であり(例えば、特開平8-122308号公報参照)、刊行物に記載された発明において、相関演算を行うにあたり、その演算手法として周知の畳込み演算を採用することは、当業者が容易になし得るところと言えるものである。 そして、本願補正発明の作用効果も、刊行物に記載された発明、及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3-4.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 【3】本願発明 平成15年6月5日付けの手続補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜18に係る発明は、平成14年7月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜18に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1には次のとおりに記載されている。 「1.対応する送信手段によって発信され、対応する受信手段によって受信される送信波形の伝搬遅延時間を決定するシステムであって、前記受信手段は、前記送信波形の受信に応答して出力波形の形で出力を生成し、 特徴的な出力波形を表したテンプレート波形データを格納するテンプレート格納手段と、 対応する送信手段によって送信波形が発信される時に受信手段の出力をサンプリングし始め、所定のサンプリング速度で前記受信手段の出力をサンプリングし、その出力波形をデジタル出力波形データに変換するサンプリング手段と、 このデジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと比較し、前記送信波形に対応するデジタル出力波形データを決定する比較手段と、 この前記送信波形に対応するデジタル出力波形データに従って、伝搬遅延時間を計算する計算手段と、 を有するシステム。」(以下、「本願発明」という。) 【4】対比 本願発明と刊行物に記載された発明とは次の点で一致する。 (一致点) 「対応する送信手段によって発信され、対応する受信手段によって受信される送信波形の伝搬遅延時間を決定するシステムであって、前記受信手段は、前記送信波形の受信に応答して出力波形の形で出力を生成し、 テンプレート波形データを格納するテンプレート格納手段と、 所定のサンプリング速度で前記受信手段の出力をサンプリングし、その出力波形をデジタル出力波形データに変換するサンプリング手段と、 このデジタル出力波形データを前記テンプレート波形データと比較し、前記送信波形に対応するデジタル出力波形データを決定する比較手段と、 この前記送信波形に対応するデジタル出力波形データに従って、伝搬遅延時間を計算する計算手段と、 を有するシステム。」 また、本願発明と刊行物に記載された発明とは次の点で相違する。 (相違点) 相違点5:テンプレート波形データについて、 本願発明では、(受信手段の生成する)「特徴的な出力波形を表した」ものであるのに対し、刊行物に記載された発明では、送信波形に対応するものであって、「特徴的な出力波形を表した」ものであるとは明記されていない点。 相違点6:サンプリング開始時点について、 本願発明では、「対応する送信手段によって送信波形が発信される時に受信手段の出力をサンプリングし始め」るのに対し、刊行物に記載された発明ではそのような構成を有しない点。 【5】当審の判断 相違点5、6に対する判断は、それぞれ、前記【2】3-3.における相違点1、2に対する判断と同様である。 【6】むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物に記載された発明、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 前記のとおり、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について審究するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-10-26 |
結審通知日 | 2005-11-01 |
審決日 | 2005-11-15 |
出願番号 | 特願平10-544242 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G01B)
P 1 8・ 121- Z (G01B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岡田 卓弥、大和田 有軌、福田 裕司 |
特許庁審判長 |
上田 忠 |
特許庁審判官 |
山口 敦司 後藤 時男 |
発明の名称 | デジタルシグナルプロセッサを用いた超音波ベースの3Dトラッキングシステム |
代理人 | 一色 健輔 |
代理人 | 原島 典孝 |