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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B31D
管理番号 1133879
審判番号 不服2003-21878  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-11 
確定日 2006-03-30 
事件の表示 平成11年特許願第183255号「三次元造形機用の感熱接着紙、及び三次元造形物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月21日出願公開、特開2000- 79648〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年6月29日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成15年5月13日付け手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項1】裏面に感熱接着剤層を設けた感熱接着紙を、上下動可能な台の上面に順次供給し、この供給された感熱接着紙の表面を押圧しながら加熱して上記台または既に供給された感熱接着紙の表面に接着するとともに、これらの感熱接着紙に所定形状の切断線を設けて複数の層から成る積層体を形成し、この積層体から不要部分を除去することにより三次元造形物を得る三次元造形機に使用する感熱接着紙において、溶融温度が50〜150℃でホットタック値が30mm以下の感熱接着剤層を、坪量40〜200g/m2 の基紙の裏面に5〜30g/m2 設けたことを特徴とする三次元造形機用の感熱接着紙。」

2.引用例の記載事項
拒絶査定に引用された本願出願前に頒布された「特開平10-16088公報」(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。
(2-1)「【0026】
・・(省略)・・10は造形中の積層体であり、テーブル11上に載置されている。テーブル11はテーブル昇降用モータ12の駆動によりベルト13、ボールねじ14、ナット15を介して上下動される。16はロール状の紙であり、予め裏面に接着剤層3が設けられており、シート送りモータ17、18およびシート巻取りモータ19により積層体10上を移動するようになっている。・・(省略)・・」
(2-2)「【0027】
上記の高速3次元造形システムによる積層体10の造形は、図5から図8に示される工程を繰り返すことによって行なわれる。
まず、図5に示すようにロール紙16をシート送りモータ17、18およびシート巻取りモータ19により積層体10上に移動させる。続いて図6に示すように、テーブル11がモータ12によりリミットスイッチ21がONとなるまで上昇される。所定の高さまでテーブル11が上昇したら、図7に示すように、モータ22により加熱圧着用ローラ20を移動させて積層体10にロール紙16を接着させる。そして、図8に示すように、レーザ照射ヘッド25を移動させて、積層体10の最上部のロール紙16を造形すべき立体モデルの断面形状に切断する。
上記の工程を繰り返し、全ての断面形状について積層が終わるとレーザ光によって切断された不要部分を除去して立体モデル10の造形が完了する。この高速3次元造形システムによれば、従来の木型、金型に比べて遙に短期間でしかも低コストで立体モデルを製作することが可能である。」
(2-3)「【0013】
次に、上記により得られ基紙の少なくとも片面に接着層を付与して原紙を作成する。・・(中略)・・接着剤は従来公知の材料の使用が可能であり、・・(中略)・・これらの中でも特にホットメルト性を有するものが原紙の層間の接着強度が向上するため好適に使用され、その例としては、エチレン-醋酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体およびポリエチレン系が特に好ましい。・・(中略)・・ここで接着層の塗布量としては5〜50g/m2が好ましく、特に10〜20g/m2が好ましい。・・(省略)・・」
(2-4)「【0016】
実施例1
NBKP50部とLBKP50部とからなるカナディアン・フリーネス100mlに叩解されたパルプスラリー中に、絶乾パルプに対して、サイズ剤としてロジンサイズ剤(荒川工業社製 商品名:サイズパインE)0.4部、硫酸バンド2.0部を添加し、定着させた後、長網抄紙機で抄紙し、サイズプレスにてポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製 商品名:ゴーセノールN-300)の5%溶液を塗布量が1.2g/m2となるように塗工して、坪量100g/m2の基紙を得た。」
(2-5)「【0017】
この基紙を、金属ロールと弾性ロールとからなる多段式カレンダーを用いて、スーパーカレンダー掛けを行なった。これにより、紙層間剥離強さ105g/15mm、密度1.20g/cm3 の基紙を得た。
この基紙の片面に、ポリエチレン系樹脂のホットメルト型接着剤(三井石油化学社製 商品名:ケミパール100)をバーコーターにて、塗布量17.0g/m2となるように塗工し、本発明の積層立体モデル用原紙を得た。」
(2-6)「【0005】【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記の従来の技術における問題点を解決するためになされたもので、特に薄肉部分でも十分な機械的強度を有し、かつ、圧力による寸法変化の少ない積層式立体モデル造形方法および積層式立体モデル用原紙を提供するものである。」

上記(2-1)乃至(2-6)および【図5】乃至【図8】より、引用例には、
「裏面にホットメルト性接着剤の接着層を設けた原紙を、昇降可能なテーブルの上面に順次供給し、この供給された原紙の表面を押圧しながら加熱して上記テーブルまたは既に供給された原紙の表面に接着するとともに、これらの原紙に所定形状の切断線を設けて複数の層から成る積層体を形成し、この積層体から不要部分を除去することにより積層立体モデルを得る【図5】乃至【図8】の装置に使用する原紙において、上記接着層を、坪量が例えば100g/m2 の基紙の裏面に例えば17.0g/m2 設けたことを特徴とする【図5】乃至【図8】の装置用の原紙。」が開示されているものと認める。

3.対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
後者の「ホットメルト性接着剤の接着層」、「昇降可能」、「テーブル」、「積層立体モデル」は、前者の「感熱接着剤層」、「上下動可能」、「台」、「三次元造形物」にそれぞれ相当し、
後者の「原紙」と前者の「感熱接着紙」は、共に、「積層立体モデル(三次元造形物)」の形成に用いられると共に「ホットメルト性接着剤の接着層(感熱接着剤層)」を有するものであるので、後者の「原紙」は、前者の「感熱接着紙」に相当し、
後者の「【図5】乃至【図8】の装置」と前者の「三次元造形機」は、共に、「積層立体モデル(三次元造形物)」を形成する装置であるので、後者の「【図5】乃至【図8】の装置」は、前者の「三次元造形機」に相当している。
上記より、両者は、
「裏面に感熱接着剤層を設けた感熱接着紙を、上下動可能な台の上面に順次供給し、この供給された感熱接着紙の表面を押圧しながら加熱して上記台または既に供給された感熱接着紙の表面に接着するとともに、これらの感熱接着紙に所定形状の切断線を設けて複数の層から成る積層体を形成し、この積層体から不要部分を除去することにより三次元造形物を得る三次元造形機に使用する感熱接着紙において、感熱接着剤層を、坪坪量が例えば100g/m2 の基紙の裏面に例えば17.0g/m2 設けたことを特徴とする三次元造形機用の感熱接着紙。」という点で一致し、
前者は、「溶融温度が50〜150℃でホットタック値が30mm以下の感熱接着剤層」を構成にしているのに対して、後者には、「感熱接着剤層」を構成にすることの開示はあるものの、上記事項が記載されていない点で相違しているものと認める。(以下、「相違点」という。)

上記相違点について検討する。
引用例記載の発明の感熱接着剤は、上記(2-3)からすると、例えば「エチレン-醋酸ビニル共重合体」であり、そして、「エチレン-醋酸ビニル共重合体」の溶融温度が数十℃であること自体、本件出願前周知の事項(例えば、工業材料「プラスチック成形材料データブック」、50〔11〕2002年10月別冊(平成14-10-20)、日刊工業新聞社、p.50、特開昭55-144077号公報参照)であるので、引用例には、溶融温度が数十℃ほどの感熱接着剤を用いる場合も含まれていると認められる。
また、引用例には、
「特に薄肉部分でも十分な機械的強度を有し、かつ、圧力による寸法変化の少ない積層式立体モデル造形方法および積層式立体モデル用原紙を提供する」(上記(2-6)参照)、
「図7に示すように、モータ22により加熱圧着用ローラ20を移動させて積層体10にロール紙16を接着させる。そして、図8に示すように、レーザ照射ヘッド25を移動させて、積層体10の最上部のロール紙16を造形すべき立体モデルの断面形状に切断する。上記の工程を繰り返し、」(上記(2-2)参照)との記載があり、
これらの記載からすると、引用例には、十分な機械的強度を有し、かつ、圧力による寸法変化の少ない積層式立体モデル(感熱接着紙の積層体)を得るために、感熱接着紙同士の接着の程度を考慮する、更にいうと、感熱接着紙の接着と切断とが順次連続して行われている製造工程中(感熱接着剤がまだ凝固していない状態)の感熱接着紙同士の接着の程度を考慮することが示唆されていると認められる。
ここで、一般に、感熱接着剤を用いたシート同士の接着直後(感熱接着剤がまだ凝固していない状態)のシート同士の接着の程度を示す指標として、ホットタック値を用いること自体、本願出願前周知の事項(例えば、特開昭61-266420号公報参照)であるので、引用例記載の発明において、製造工程中(感熱接着剤がまだ凝固していない状態)のシート(感熱接着紙)同士の接着の程度を考慮する際、これを示す指標として本願出願前周知のホットタック値を用いることは、当業者であれば普通に行うことであると認められ、そして、その数値をどれくらい(例えば30mm以下)にするかは、当業者が適宜決定する設計事項であると認める。
上記より、引用例記載の発明において、「感熱接着剤層」の構成として、「溶融温度が数十℃ほどでホットタック値が例えば30mm以下の感熱接着剤層」を採用する、即ち、上記相違点で示した本願発明の事項を構成することに、格別の困難性があるとはいえない。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2乃至14に係る発明について、検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-04 
結審通知日 2006-01-10 
審決日 2006-02-14 
出願番号 特願平11-183255
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B31D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平城 俊雅大町 真義  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 豊永 茂弘
石田 宏之
発明の名称 三次元造形機用の感熱接着紙、及び三次元造形物  
代理人 清水 千春  

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