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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1134105
審判番号 不服2004-1817  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-05-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-26 
確定日 2006-04-03 
事件の表示 平成11年特許願第342329号「サーマルディマンドプリンタ及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月 9日出願公開、特開2000-127563〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は、平成5年9月30日を国際出願日とする(パリ条約による優先権主張,1992年10月2日,米国)特願平6-509317号の一部を特許法44条1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成15年10月21日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成16年1月26日付けで本件審判請求がされるとともに、同年2月23日付けで明細書についての手続補正がされた(同年4月1日付けで方式補正がされた。)ものである。
したがって、本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年4月1日付けで方式補正された同年2月23日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項2】に記載されたとおりの次のものと認める。
「チケット、タッグ、感圧ラベルその他の媒体に印刷をするためのディマンドプリンタであって、様々なコンポーネントにより構成されており、該ディマンドプリンタはさらに、
前記コンポーネントを支持するための支持構造と、
電力を外部電源より受け、これを前記ディマンドプリンタの動作に適合するよう調整する電力供給回路と、
該ディマンドプリンタの動作に関係するコマンド信号を受け取るための入力手段と、
前記支持構造に取り付けられ、且つ、前記コマンド信号を処理し、これに対応して該ディマンドプリンタの動作を制御するための制御信号を生成するため前記入力手段と前記電力供給回路とに接続された制御回路手段と、
前記制御回路手段から前記制御信号を受け取り、前記媒体に印字をするためのプリントヘッド手段と、
前記プリントヘッド手段に連結され、且つ、前記制御信号に応じて、前記媒体を前記プリントヘッド手段に対して相対的に移動させるため前記制御回路手段に接続された媒体配給手段とを備え、
前記プリントヘッド手段は、複数の加熱要素を備えたサーマルプリントヘッドと、印刷されるべき一行分の情報に対応する一連の印字行データを受け取るプリントヘッドシフトレジスタと、前記プリントヘッドシフトレジスタ内の一連の印字行データに基づいて、所定の方法で複数の加熱要素の一部を活性化すべくストロボ信号に応じて作動する加熱制御回路手段とからなり、
前記ディマンドプリンタはさらに、
前記プリントヘッドシフトレジスタから印刷された最終情報行に対応する前記プリントヘッドシフトレジスタの一連の印字行データをシリアルにシフトアウトするために、前記プリントヘッドシフトレジスタに接続されたクロック手段と、補正ロードを形成するため、前記プリントヘッドシフトレジスタからシフトアウトされた前記データと次の情報行に対応する次の印字行データとを結合させるための論理回路手段とを備え、
前記論理回路手段は、以下の規則に基づいて前記補正ロードから成るシリアルデータを生成・構築する手段であり、前記規則とは、
あるビット位置の前記シフトレジスタデータのビットが、ストロボ信号の付与に応じて加熱要素を活性化しないビットからなり、且つ、前記シフトレジスタの前記あるビット位置に対応するビット位置にある前記次の印字行データのビットがストロボ信号に応じて加熱要素を活性化させるビットである場合にのみ、ストロボ信号の付与により加熱要素を活性化させるデータビットが作り出されるという規則であり、
前記ディマンドプリンタはさらに、
前記プリントヘッドシフトレジスタから前記一連の印字行データをシフトアウトするのと同時に、前記補正ロードを前記プリントヘッドシフトレジスタへシフトすべく、前記補正ロードを前記プリントヘッドシフトレジスタの入力へ移送するための第1状態と、前記プリントヘッドシフトレジスタから前記一連の印字行データをシフトアウトするのと同時に、前記次の印字行データからなるプリントロードを前記プリントヘッドシフトレジスタへシフトすべく、前記プリントロードを前記プリントヘッドシフトレジスタの入力に供給するための第2状態とを有するスイッチ手段を備えることを特徴とするディマンドプリンタ。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-67179号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜オの記載が図示とともにある。
ア.「(1)複数の発熱抵抗体が配列されたサーマルヘッドと、画像の各ラインの記録が行われる直前に、同ラインで記録用電流が流れる発熱抵抗体にのみ予備加熱用電流を流す制御手段とを設けたことを特徴とする予備加熱装置。
(2)制御手段として記録用電流が流れる発熱抵抗体のうち、それまで所定時間以上にわたり記録用電流が流されなかった発熱抵抗体を識別し、その抵抗体にのみ予備加熱用電流を流す手段を用いることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の予備加熱装置。」(1頁左下欄特許請求の範囲)
イ.「本発明は・・・、画質劣化を起こすことなく十分かつ安定な予備加熱効果を達成でき、さらに予備加熱のための電力消費を減らすことができる感熱記録装置の予備加熱装置を提供することを目的とする。」(2頁右下欄2〜6行)
ウ.「第3図は本発明の一実施例による感熱記録装置の概略ブロツク図である。この図において、サーマルヘッド(図中省略)上に配列された各発熱抵抗体1は記録電源2と駆動回路3に接続され、駆動回路3により通電を制御される。シフトレジスタ4は発熱抵抗体1の個数つまり1ラインの画素数に等しいビット数を有し、その出力信号は駆動回路3に入力される。駆動回路3にはまた、パルス発生回路6から出力される通電パルスENBが入力される。モータ6は感熱記録媒体(図中省略)を移動させるための機構(図中省略)の動力源として働くものである。制御回路7は装置各部の制御を行うもので、パルス発生トリガ信号TRG、パルス幅選択信号PW、ステツプ信号STP、変換モード選択信号MOD、書込み許可信号WE、読出し書込み切替信号SWを出力する。
サイクルメモリ8、ラインメモリ9a、ラインメモリ9b、ラインメモリ9cは1ラインの画素数と同じワード数を有するメモリである。サイクルメモリ8とラインメモリ9aの書き込みは書込み許可信号WEがオンしている時に行われる。加算回路10には、サイクルメモリ8の出力信号CMとラインメモリ9aの出力画信号LMが入力される。加算回路10の出力信号ADDはサイクルメモリ8に入力される。ラインメモリ9bとラインメモリ9cは、読出し書込み切替信号SWとその論理反転信号であるインバータ11の出力信号により、一方が読出し動作を行つている時に、他方が書込み動作を行うように制御される。切替回路12aはインバータ11の出力信号に従つて、外部から画信号PIXが入力される端子13をラインメモリ9bまたはラインメモリ9cに選択的に接続するものである。切替回路12bは読出し書込み切替信号SWに従つて、ラインメモリ9bまたはラインメモリ9cの出力を選択する。
切替回路12bの出力画信号LMXはラインメモリ9aと変換回路14に入力される。変換回路14にはまた、サイクルメモリ8の出力信号CM、ラインメモリ9aの出力画信号LMおよび変換モード選択信号MODが入力される。変換回路14の出力信号DTはシフトレジスタ4に入力される。変換回路14は変換動作モードは変換モード選択信号MODによつて切り替えられる。」(2頁右下欄15行〜3頁右上欄17行)
エ.「変換モード選択信号MODは“0”であるため、変換回路14は出力画信号LMをそのまま出力信号DTとして送出する。この出力信号DTはシフトレジスタ4に順次取り込まれ、蓄積される。ラインメモリ9aの1ライン分の読出しが終了すると、制御回路7はパルス発生トリガ信号TRGを出力する。パルス発生回路5はパルス幅選択信号PWが“0”であるため、パルス発生トリガ信号TRGを契機として記録用パルスと同じパルス幅の通電パルスENBを出力する。駆動回路3は通電パルスENBがオンしている期間、シフトレジスタ4の“1”出力信号に対応する発熱抵抗体1、すなわち黒画素に対応する発熱抵抗体1の電流路を閉じ、記録用パルスを流す。このようにして、1ライン分の記録が行われる。」(3頁左下欄13行〜右下欄8行)
オ.「1ラインの記録が終了すると、制御回路7は書込み許可信号WEをオンし、変換モード選択信号MODとパルス幅選択信号PWを“1”に切り替える。この場合、サイクルメモリ8の読出しと書込み、ラインメモリ9aの読出しと書込み、およびラインメモリ9bの読出しが同時に行われる。加算回路10は出力画信号LMが“0”(白)であれば、サイクルメモリ8の出力信号CMの値に1を加算した値を出力信号ADDとして出力し、出力画信号LMが“1”(黒)ならば0を出力信号ADDとして出力する。したがつて、サイクルメモリ8の各ワードには対応する発熱抵抗体1に記録用パルスが連続して流されなかった記録サイクル数を示すことになる。この記録サイクル数は、記録動作が連続的に行われる場合であれば、各発熱抵抗体1に記録用パルスが流されなかった時間に相当する。
一方、変換回路14は出力画信号LM、即ち直前に記録されたラインの画信号が“0”(白)、出力画信号LMXが“1”(黒)、出力信号CMの値が所定値以上の場合にのみ、出力信号DTを“1”にする。これが変換モード選択信号MODが“1”の時の変換動作である。出力画信号LMXはラインメモリ9aに順次書き込まれる。ラインメモリ9aの1ライン分の読出し動作が終了すると、制御回路7はパルス発生トリガ信号TRGを出力する。このパルス発生トリガ信号TRGの出力により、パルス発生回路5は通電パルスENBを出力するが、この時はパルス幅選択信号PWが“1”であるため、予備加熱用パルスと同じパルス幅の通電パルスENBを出力する。駆動回路3はシフトレジスタ4の“1”出力信号に対応する発熱抵抗体1の電流路を閉じ、その発熱抵抗体1に予備加熱用パルスを流させる。」(3頁右下欄9行〜4頁右上欄2行)

2.引用例記載の発明の認定
引用例は「感熱記録装置等における予備加熱装置」について記載した文献であるが、当然予備加熱装置を有する感熱記録装置の発明を把握することができ、記載ア〜オを含む引用例の全記載及び図示によれば、それは次のようなものである。なお、下記認定における「変換モード選択信号がオン(“1”)の場合」が予備加熱に該当する。
「複数の発熱抵抗体を配列したサーマルヘッド、シフトレジスタ、駆動回路、記録電源、パルス発生回路、制御回路等を有し、前記駆動回路には前記シフトレジスタの出力信号と及び前記パルス発生回路から出力される通電パルスENBが入力され、前記駆動回路は前記通電パルスENBがオンしている期間、シフトレジスタの“1”出力信号に対応する前記発熱抵抗体の電流路を閉じ記録用パルスを流すことにより1ライン分の記録を行うよう構成された感熱記録装置であって、
さらに、サイクルメモリ、ラインメモリ9a、ラインメモリ9b、ラインメモリ9c、加算回路及び変換回路を備え、前記変換回路の出力信号DTが前記シフトレジスタに順次取り込まれるように構成されており、
前記制御回路の出力の1つである変換モード選択信号がオン(“1”)の場合には、サイクルメモリの読出しと書込み、ラインメモリ9aの読出しと書込み、及びラインメモリ9b若しくは9cの読出しが同時に行われ、前記加算回路はラインメモリ9aの出力画信号LMが“0”(白)であれば、サイクルメモリの出力信号CMの値に1を加算した値を出力信号ADDとして出力し、出力画信号LMが“1”(黒)ならば0を出力信号ADDとして出力し、前記変換回路はラインメモリ9aの出力画信号LMの画信号が“0”(白)、ラインメモリ9b若しくは9cの出力画信号LMXが“1”(黒)、かつサイクルメモリの出力信号CMの値が所定値以上の場合にのみ出力信号DTを“1”として送出し、
変換モード選択信号がオフ(“0”)の場合には、前記変換回路はラインメモリ9aの出力画信号LMをそのまま出力信号DTとして送出し、
変換モード選択信号がオフで1ライン記録を行うと前記制御回路は変換モード選択信号をオンとし、変換モード選択信号がオンで1ライン記録を行うと前記制御回路は変換モード選択信号をオフとするように構成されている感熱記録装置。」(以下「引用発明」という。)

3.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「発熱抵抗体」、「サーマルヘッド」及び「通電パルスENB」は、本願発明の「加熱要素」、「サーマルプリントヘッド」及び「ストロボ信号」にそれぞれ相当し、引用発明の「サーマルヘッド」、「シフトレジスタ」(本願発明の「プリントヘッドシフトレジスタ」と異ならない。)及び「駆動回路」を併せたものが本願発明の「プリントヘッド手段」に相当する。当然、引用発明(の「駆動回路」)は「プリントヘッドシフトレジスタ内の一連の印字行データに基づいて、所定の方法で複数の加熱要素の一部を活性化すべくストロボ信号に応じて作動する加熱制御回路手段」を有している。
引用発明は「シフトレジスタの“1”出力信号に対応する前記発熱抵抗体の電流路を閉じ記録用パルスを流すことにより1ライン分の記録を行うよう構成された感熱記録装置」であるから「ディマンドプリンタ」ということができ、
「チケット、タッグ、感圧ラベルその他の媒体に印刷をするためのディマンドプリンタであって、様々なコンポーネントにより構成されており、該ディマンドプリンタはさらに、
前記コンポーネントを支持するための支持構造と、
電力を外部電源より受け、これを前記ディマンドプリンタの動作に適合するよう調整する電力供給回路と、
該ディマンドプリンタの動作に関係するコマンド信号を受け取るための入力手段と、
前記支持構造に取り付けられ、且つ、前記コマンド信号を処理し、これに対応して該ディマンドプリンタの動作を制御するための制御信号を生成するため前記入力手段と前記電力供給回路とに接続された制御回路手段と、
前記制御回路手段から前記制御信号を受け取り、前記媒体に印字をするためのプリントヘッド手段と、
前記プリントヘッド手段に連結され、且つ、前記制御信号に応じて、前記媒体を前記プリントヘッド手段に対して相対的に移動させるため前記制御回路手段に接続された媒体配給手段とを備え、
前記プリントヘッド手段は、複数の加熱要素を備えたサーマルプリントヘッドと、印刷されるべき一行分の情報に対応する一連の印字行データを受け取るプリントヘッドシフトレジスタと、前記プリントヘッドシフトレジスタ内の一連の印字行データに基づいて、所定の方法で複数の加熱要素の一部を活性化すべくストロボ信号に応じて作動する加熱制御回路手段とからなり」との本願発明の構成は、引用発明と共通する。
引用例には、シフトレジスタにシフトクロックを入力することは明記されていないが、シフトさせる以上入力されていると解すべきである(仮に、これを相違点としても、シフトレジスタにシフトクロックを入力することは周知技術である(後記周知例参照。)から、設計事項程度の微差でしかない。)。そして、1ラインの記録(変換モード選択信号がオン,オフに共通)が終了すれば、新たなデータを順次シフトレジスタに取り込むのであるから、シフトレジスタからシフトアウトしなければならない(これも、仮に相違点としても設計事項程度の微差でしかない。)。
引用発明において、変換モード選択信号がオンの場合には、変換回路の出力信号DTは、ラインメモリ9aの出力画信号LM、ラインメモリ9b若しくは9cの出力画信号LMX及びサイクルメモリの出力信号CMの値で定まり、前回変換モード選択信号オンと今回変換モード選択信号オンの間に、1回変換モード選択信号オフ時があり、前回変換モード選択信号オン時にラインメモリ9c若しくは9bから入力された信号がラインメモリ9aに残っており、その信号が変換モード選択信号オフ時にシフトレジスタに順次取り込まれ記録されている。それゆえ、変換モード選択信号オン時の「ラインメモリ9aの出力画信号LM」は、シフトレジスタ内のデータと一致し、本願発明の「プリントヘッドシフトレジスタから印刷された最終情報行に対応する前記プリントヘッドシフトレジスタの一連の印字行データ」とデータ内容において異ならない。そして、引用発明の変換回路は、ラインメモリ9aの出力画信号LMの画信号が“0”(白)、ラインメモリ9b若しくは9cの出力画信号LMXが“1”(黒)、かつ出力信号CMの値が所定値以上の場合にのみ出力信号DTを“1”として送出するのであり、「ラインメモリ9b若しくは9cの出力画信号LMX」は本願発明の「次の情報行に対応する次の印字行データ」に相当するから、「プリントヘッドシフトレジスタから印刷された最終情報行に対応する一連の印字行データと次の情報行に対応する次の印字行データとを結合させるための論理回路手段」及び「補正ロードから成るシリアルデータを生成・構築する手段」である点で、引用発明の「変換回路」と本願発明の「論理回路手段」は一致する。
引用発明において、変換モード選択信号オン時の「ラインメモリ9aの出力画信号LM」はシフトレジスタ内のデータと一致するから、「変換モード選択信号がオンの場合、ラインメモリ9aの出力画信号LMの画信号が“0”(白)」であることと、本願発明において「あるビット位置の前記シフトレジスタデータのビットが、ストロボ信号の付与に応じて加熱要素を活性化しないビットからな」ることに相違はなく、「ラインメモリ9b若しくは9cの出力画信号LMXが“1”(黒)」であることと、本願発明において「次の印字行データのビットがストロボ信号に応じて加熱要素を活性化させるビットである」ことに相違はない。それゆえ、論理回路手段の規則について、「あるビット位置のシフトレジスタデータのビットが、ストロボ信号の付与に応じて加熱要素を活性化しないビットからなり、且つ、前記シフトレジスタの前記あるビット位置に対応するビット位置にある前記次の印字行データのビットがストロボ信号に応じて加熱要素を活性化させるビットである」ことを条件として、ストロボ信号の付与により加熱要素を活性化させるデータビットが作り出される点で引用発明と本願発明に相違はない。ただし、本願発明では上記条件のみでストロボ信号の付与により加熱要素を活性化させるデータビットが作り出されるのに対し、引用発明では他の条件も必要であり、そのことは本願発明と引用発明の相違点(後記相違点2)となる。
そして、引用発明において「変換モード選択信号がオン(“1”)の場合」は本願発明の「補正ロードを前記プリントヘッドシフトレジスタへシフトすべく、前記補正ロードを前記プリントヘッドシフトレジスタの入力へ移送するための第1状態」に相当し、補正ロードをプリントヘッドシフトレジスタの入力へ移送する以上、それと同時にプリントヘッドシフトレジスタから一連の印字行データをシフトアウトすると解すべきである(仮に、同解釈以外の解釈があるとしても、設計事項程度の微差でしかない。)。同じく、「変換モード選択信号がオフ(“0”)の場合」は本願発明の「プリントヘッドシフトレジスタから前記一連の印字行データをシフトアウトするのと同時に、前記次の印字行データからなるプリントロードを前記プリントヘッドシフトレジスタへシフトすべく、前記プリントロードを前記プリントヘッドシフトレジスタの入力に供給するための第2状態」に相当するといえ(シフトレジスタから一連の印字行データをシフトアウトしなければ、次の印字行データからなるプリントロードを供給できないことは自明である。)、そうである以上引用発明が「スイッチ手段を備える」ということもできる(仮に、変換モード選択信号の有無によって論理回路的に2つの状態を切り換えることが、スイッチ手段と認定できないとしても、軽微な設計事項程度の微差でしかない。)。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「チケット、タッグ、感圧ラベルその他の媒体に印刷をするためのディマンドプリンタであって、様々なコンポーネントにより構成されており、該ディマンドプリンタはさらに、
前記コンポーネントを支持するための支持構造と、
電力を外部電源より受け、これを前記ディマンドプリンタの動作に適合するよう調整する電力供給回路と、
該ディマンドプリンタの動作に関係するコマンド信号を受け取るための入力手段と、
前記支持構造に取り付けられ、且つ、前記コマンド信号を処理し、これに対応して該ディマンドプリンタの動作を制御するための制御信号を生成するため前記入力手段と前記電力供給回路とに接続された制御回路手段と、
前記制御回路手段から前記制御信号を受け取り、前記媒体に印字をするためのプリントヘッド手段と、
前記プリントヘッド手段に連結され、且つ、前記制御信号に応じて、前記媒体を前記プリントヘッド手段に対して相対的に移動させるため前記制御回路手段に接続された媒体配給手段とを備え、
前記プリントヘッド手段は、複数の加熱要素を備えたサーマルプリントヘッドと、印刷されるべき一行分の情報に対応する一連の印字行データを受け取るプリントヘッドシフトレジスタと、前記プリントヘッドシフトレジスタ内の一連の印字行データに基づいて、所定の方法で複数の加熱要素の一部を活性化すべくストロボ信号に応じて作動する加熱制御回路手段とからなり、
前記ディマンドプリンタはさらに、
前記プリントヘッドシフトレジスタに接続されたクロック手段を有し、前記クロック手段は前記プリントヘッドシフトレジスタから印刷された最終情報行に対応する前記プリントヘッドシフトレジスタの一連の印字行データをシリアルにシフトアウトするものであり、
補正ロードを形成するため、前記プリントヘッドシフトレジスタから印刷された最終情報行に対応する一連の印字行データと次の情報行に対応する次の印字行データとを結合させるための論理回路手段とを備え、
前記論理回路手段は、以下の規則に基づいて前記補正ロードから成るシリアルデータを生成・構築する手段であり、前記規則とは、
あるビット位置の前記シフトレジスタデータのビットが、ストロボ信号の付与に応じて加熱要素を活性化しないビットからなり、且つ、前記シフトレジスタの前記あるビット位置に対応するビット位置にある前記次の印字行データのビットがストロボ信号に応じて加熱要素を活性化させるビットであることを条件として、ストロボ信号の付与により加熱要素を活性化させるデータビットが作り出されるという規則であり、
前記ディマンドプリンタはさらに、
前記プリントヘッドシフトレジスタから前記一連の印字行データをシフトアウトするのと同時に、前記補正ロードを前記プリントヘッドシフトレジスタへシフトすべく、前記補正ロードを前記プリントヘッドシフトレジスタの入力へ移送するための第1状態と、前記プリントヘッドシフトレジスタから前記一連の印字行データをシフトアウトするのと同時に、前記次の印字行データからなるプリントロードを前記プリントヘッドシフトレジスタへシフトすべく、前記プリントロードを前記プリントヘッドシフトレジスタの入力に供給するための第2状態とを有するスイッチ手段を備えるディマンドプリンタ。」である点で一致し、以下の各点で相違する。ひらたくいうと、相違点2は規則自体の相違であり、相違点1は規則を実現する手段の相違である。
〈相違点1〉補正ロードを形成するための「プリントヘッドシフトレジスタから印刷された最終情報行に対応する一連の印字行データ」につき、本願発明では「プリントヘッドシフトレジスタからシフトアウトされた」データとしているのに対し、引用発明では「ラインメモリ9aの出力画信号LM」としている点。
〈相違点2〉論理回路手段の規則について、本願発明では「あるビット位置の前記シフトレジスタデータのビットが、ストロボ信号の付与に応じて加熱要素を活性化しないビットからなり、且つ、前記シフトレジスタの前記あるビット位置に対応するビット位置にある前記次の印字行データのビットがストロボ信号に応じて加熱要素を活性化させるビットであること」のみを条件としているのに対し、引用発明では上記条件に加えて、サイクルメモリの出力信号CMの値が所定値以上であることをも条件としている点。

4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
引用発明では、「変換モード選択信号がオン(“1”)の場合」、すなわち「第1状態」の始期において、「ラインメモリ9aの出力画信号LM」がシフトレジスタ内のデータと一致することは前項で述べたとおりである。
他方、原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-172764号公報、特開平1-249368号公報及び特開昭58-155975号公報(以下、これら文献を周知例という。)には、プリントヘッドシフトレジスタから印刷された最終情報行に対応するプリントヘッドシフトレジスタの一連の印字行データをシリアルにシフトアウトし、シフトアウトされたデータを利用して(より具体的には、シフトアウトされたデータの反転データを再びプリントヘッドシフトレジスタに入力することにより)予備加熱を行うことが記載されているから、シフトレジスタからシフトアウトされたデータを予備加熱用のデータとすることは周知というべきである。
そうである以上、引用発明において、「変換モード選択信号がオン(“1”)の場合」に変換回路に入力する信号である「ラインメモリ9aの出力画信号LM」を、それと同一データであるシフトレジスタからシフトアウトされたデータに変更することは、特段の支障がない限り、当業者にとって想到容易というべきである。
そこで、上記特段の支障があるかどうか検討する。引用発明に上記変更を加えるに当たり、ラインメモリ9aを残しておいたのでは、上記変更を行うことの利点がないから、ラインメモリ9aを省略すると考えるべきであろう。ところで、ラインメモリ9aの機能をみるに、この出力画信号LMは、変換モード選択信号オン時に変換回路に入力されるだけでなく、同時期にサイクルメモリにも入力され、変換モード選択信号オフ時にも変換回路に入力されている。変換モード選択信号オン時にサイクルメモリに入力される信号が、シフトレジスタからシフトアウトされたデータで代替できることは明らかである(そればかりか、後記(2)で判断するとおり、サイクルメモリを省略することが容易であるから、検討するまでもない。)。変換モード選択信号オフ時には、シフトアウトされたデータで代替できないけれども、「ラインメモリ9aの出力画信号LM」と「ラインメモリ9b若しくは9cの出力画信号LMX」は同一信号である(直前の変換モード選択信号オン時に、出力画信号LMXがラインメモリ9aに書き込まれたから)。引用発明において、変換モード選択信号オフ時の変換回路からの出力信号DTを出力画信号LMXではなく出力画信号LMとした理由は定かではないが、出力画信号LMXとして不都合な理由は考えられない。そうである以上、変換モード選択信号オフ時に変換回路に入力される信号は「ラインメモリ9b若しくは9cの出力画信号LMX」で代替できることが明らかであるから、ラインメモリ9aを省略することに支障はない。他に、上記変更を加えるに当たって支障となるものを認めることもできない。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成は、引用発明に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到できた構成といわなければならない。

(2)相違点2について
引用発明において、「サイクルメモリの出力信号CMの値」は、前々回までの“0”(白)データの連続回数(ビットごとである。)を意味する。また、「ラインメモリ9aの出力画信号LMの画信号」は前回のデータであるから、「ラインメモリ9aの出力画信号LMの画信号が“0”(白)」であることと「サイクルメモリの出力信号CMの値が所定値以上」の両方を条件とすることは、“0”(白)データが2回以上連続していることを条件としている。ところで、予備加熱は温度が低下した発熱抵抗体(加熱要素)に対して行うものであるが、“0”(白)データの連続回数が何回であれば予備加熱を必要とする程度になるかは、加熱温度や放熱状況に依存することがらであり、“0”(白)データの連続回数が1回の場合も想定される。そればかりか、前掲周知例では、“0”(白)データの連続回数が1回で予備加熱を行っているのであるから、“0”(白)データの連続回数を1回とすることは設計事項というべきである。そして、引用発明を出発点として“0”(白)データの連続回数を1回とすることは、とりもなおさず、「サイクルメモリの出力信号CMの値が所定値以上」を規則に加えないことである。
また、「サイクルメモリの出力信号CMの値が所定値以上」を規則に加えないことは、サイクルメモリ及び加算回路を不要とする(省略できる)ことでもあるから、簡素化の観点からみても、本願発明の規則を採用することには十分な動機があるというべきである。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成も、当業者が容易に想到できた構成といわなければならない。

(3)本願発明の進歩性の判断
相違点1,2に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願の請求項1に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-26 
結審通知日 2005-11-01 
審決日 2005-11-14 
出願番号 特願平11-342329
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 酒井 進
藤本 義仁
発明の名称 サーマルディマンドプリンタ及びその使用方法  
代理人 絹谷 信雄  

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