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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1134202 |
審判番号 | 不服2002-62 |
総通号数 | 77 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1998-10-13 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-01-04 |
確定日 | 2006-04-07 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第501254号「高いキラル純度のホスホロチオエート結合を有するオリゴヌクレオチド」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年12月12日国際公開、WO96/39154、平成10年10月13日国内公表、特表平10-510433〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.出願の経緯及び本願発明 本願は,1996年 6月 5日(パリ条約による優先権主張,1995年 6月 6日,米国)を国際出願日とする出願であって,その請求項1ないし6に係る発明は,平成12年 8月31日付けで提出された手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ,その請求項1ないし6に係る発明(以下,これらを各々「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】配列番号8により表され、ヌクレオシドユニットの少なくとも75%は、Spホスホロチオエート3’-5’結合により一緒に結合されているオリゴヌクレオチド。 【請求項2】ヌクレオシドユニットのすべてがSpホスホロチオエート3’-5’結合により一緒に結合されている、請求項1記載のオリゴヌクレオチド。 【請求項3】請求項1記載のオリゴヌクレオチドおよび許容しうる担体を含む組成物。 【請求項4】配列番号8により表され、ヌクレオシドユニットの少なくとも75%は、Rpホスホロチオエート3’-5’結合により一緒に結合されているオリゴヌクレオチド。 【請求項5】ヌクレオシドユニットのすべてがRpホスホロチオエート3’-5’結合により一緒に結合されている、請求項4記載のオリゴヌクレオチド。 【請求項6】請求項4記載のオリゴヌクレオチドおよび許容しうる担体を含む組成物。」 2.引用刊行物に記載された発明 これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先日前である平成 7年 4月27日に頒布された「特表平 7-503856号公報 」(以下「引用例1」という。)及び本願の優先日前である平成 6年12月22日に頒布された「特表平 6-511492号公報 」(以下「引用例2」という。)には,それぞれ次の事項が記載されている。 (1)引用例1 ア.「PKCの発現を調節する方法であって、前記遺伝子を含む組織または細胞をPKC遺伝子由来の選択されたDNAまたはRNAと特異的にハイブリダイズ可能な5から50のヌクレオチド単位を含むオリゴヌクレオチドと接触させることからなる方法。」(請求項7) イ.「前記DNAまたはRNAが,下記の酵素:PKC-α、・・・をコードする請求項第9項に記載の方法。」(請求項10) ウ.「前記オリゴヌクレオチドが・・・、配列ID番号:2、を含む請求項第7項に記載の方法。」(請求項12) エ.「配列ID番号:2を含むオリゴヌクレオチド。」(請求項34) オ.「請求項第34項に記載のオリゴヌクレオチドおよび薬学的に受容可能な担体を含む医薬組成物。」(請求項35) カ.「別の好適な実施態様に従うと、オリゴヌクレオチドは,オリゴヌクレオチド単位間の連結基の少なくとも一つがホスホロチオエート部分のような硫黄含有種を含むように形成される。」(第4頁右上欄第12行〜第14行) キ.「アンチセンスオリゴヌクレオチドは多くのヒト疾患の治療のための治療剤として非常に有望である。」(第4頁左下欄第2行〜第3行) ク.「本発明のオリゴヌクレオチドは診断薬、治療薬、予防薬および研究用試薬およびキットとして使用することができる。」(第5頁右上欄第21行〜第22行) ケ.「実施例1 オリゴヌクレオチド合成」,「非修飾DNAオリゴヌクレオチドはヨウ素により酸化する標準ホスホロアミダイトの化学を使用する自動DNAシンセサイザー(・・・)にて合成された。」,「ホスホロチオエート オリゴヌクレオチドに対しては、ホスファイト結合の段階的チオ化のために標準酸化ボトルを3H―1,2-ベンゾジチオール-3-オン 1,1,-ジオキシドの0.2Mアセトニトリル溶液に置き換えた。チオ化サイクル待ち時間は68秒に増加し、続いてキャッピング工程を実施した。」(第5頁右下欄第1行〜第14行の「実施例1」) コ.「実施例2 細胞培養およびホルボールエステルおよびPKC-αを標的とするオリゴヌクレオチドによる処理」,「ホスホロチオエート オリゴヌクレオチドを1μMの濃度まで添加し、細胞を37℃でさらに4時間インキュベートした。」,「ホスホロチオエート オリゴヌクレオチド(1μM)を加えて細胞を37℃で24時間インキュベートした。」,「PKC-αタンパク質の細胞内レベルはイムノブロッティングにより決定した。」,「本アッセイで試験されたオリゴヌクレオチドは表1に示されている。」(第5頁右下欄第15行〜第6頁左下欄第16行の「実施例2」) サ.「 表1 ヒトPKC-αを標的とするオリゴヌクレオチド 配列ID 配列 標的 ・・・ 2 GTT CTC GCT GGT GAG TTT CA 3’非翻訳 2063 2044 ・・・ 」(表1) シ.「実施例3 PKC発現のイムノブロットアッセイ」,「実験の結果はオリゴヌクレオチドで処理されていない細胞と比較して、存在するタンパク質のパーセントに対して標準化されている(図1)。・・・次に最も有効なオリゴヌクレオチドはRNA3’非翻訳領域を標的としている(オリゴ2、5、14)。」(第6頁左下欄第17行〜右上欄第6行の「実施例3」) ス.「実施例5 PKCのオリゴヌクレオチド阻害の用量依存性」,「PKC-αに対して活性である図1の4つのオリゴヌクレオチドをさらに検討した。実施例3に記載したイムノブロッティングアッセイを用いたISIS 3520(配列ID番号:1)、3521(配列ID番号:2)、・・・の用量応答研究により、全てのものがPKC-αタンパク質発現に対して用量応答活性を有することが示された。ISIS 3521、3522および3527は・・・すべてが500nMで最高にPKC発現を阻害した。」(第8頁左上欄第1行〜第10行の「実施例5」) セ.「実施例8 PKC-α mRNA発現に対するオリゴヌクレオチドの影響」,「A549細胞をDOTMA存在下、500nMのアンチセンスオリゴヌクレオチドで4時間処理し,続いてさらに20時間インキュベートすると、両方の転写体のレベルが減少した。このことは図4に示されている。最大の減少はオリゴヌクレオチドISIS 3521(配列ID番号:2)および・・・で観察された(両方とも3’-非翻訳領域に特異的にハイブリダイズ可能である)。」(第8頁左上欄下から第4行〜左下欄第2行の「実施例8」) ソ.「実施例9 アンチセンスオリゴヌクレオチドによるPKC-αの特異的阻害」,「PKC-αイソ酵素を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドによるこれらの細胞中におけるPKC-αの阻害の特異性が、ISIS 3521(配列ID番号:2)、・・・処理後のイムノブロッティングにより示された。」(第8頁左下欄第3行〜末行の「実施例9」) タ.PKC-αとハイブリダイズ可能なアンチセンスオリゴヌクレオチドであるISIS 3521(配列ID番号:2)が,PKCタンパク質及びmRNAの発現を減少させること。(図1b,図4) これらの記載からみて,引用例1には,配列ID番号:2を含むホスホロチオエート オリゴヌクレオチド,並びに,該オリゴヌクレオチド及び薬学的に受容可能な担体を含む医薬組成物が記載され,該オリゴヌクレオチドは,PKC―αタンパク質及びmRNA発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドであり,診断薬,治療薬等として用いることが記載されていると認められる。 (2)引用例2 ア.「実質的にすべてのSpのホスフェート結合または実質的にすべてのRpのホスフェート結合により互いに結合した少なくとも3つのヌクレオシッドユニットを有するオリゴヌクレオチドであって、標的RNAまたはDNAの配列の少なくとも1部分に相補的である、オリゴヌクレオチド。」(請求項40) イ.「前記ホスフェート結合が、キラルSpホスホロチオエート、キラルRpホスホロチオエート、・・・からなる群より選択される、請求項40記載のオリゴヌクレオチド。」(請求項41) ウ.「本発明のさらに他の目的は、DNA配列およびRNA配列に対するアンチセンスのハイブリッド形成能を有するホスホロチオエートオリゴヌクレオチド、・・・を提供することにある。」,「本発明のさらに他の目的は、アンチセンス診断法およびアンチセンス治療法に使用するためのホスホロチオエートオリゴヌクレオチド、・・・を提供することにある。」,「本発明のさらに他の目的は、DNAとRNAの活性を調節することにより疾病を処置するための研究・治療法とその材料を提供することにある。」(第7頁左上欄第7行〜第18行) エ.「本発明のオリゴヌクレオチドは、標的RNAや標的DNAがもつヘテロ二重鎖の熱力学的安定性を高めるのに有用である。・・・本発明の他の特定のオリゴヌクレオチドは,耐ヌクレアーゼ性を高めるのに有用である。」(第8頁右下欄第11行〜第15行) オ.「本発明によれば、実質的に純粋なキラルホスフェート結合(ホスホロチオエート結合、・・・)を含んだ配列特異的なオリゴヌクレオチドが提供される。・・・本発明によれば、オリゴヌクレオチド中に存在するキラルホスフェート結合の少なくともあるものは、約75%以上のキラル純度を有していなければならない。このような結合は、好ましくは約90%以上(さらに好ましくは約95%以上、さらに好ましくは約100%)のキラル純度を有する。」(第9頁右上欄第11行〜第25行) カ.「実質上キラル的に純粋な糖間結合を有するオリゴヌクレオチドが相補的なストランドに結び付くことができる相対的能力は、実質上キラル的に純粋な糖間結合を有するオリゴヌクレオチドとその相補的ストランドとのハイブリッド形成複合体(hybridization complex)の融点を調べることによって比較することができる。融点(Tm)(二重鎖らせんの特徴的な物理的性質)は、らせん形とコイル巻き形(ハイブリッド形成されていない)が50%ずつ存在するときの摂氏温度を示している。・・・Tmが高くなるほど、ストランドの結合の強さは大きくなる。」(第11頁左下欄第23行〜右上欄第8行) キ.「実施例57」,「熱変性」,「オリゴヌクレオチド(本発明のホスホロチオエート オリゴヌクレオチドまたはその他のものでも)は、相補的DNAかまたはRNAオリゴヌクレオチドとともに、各々のオリゴヌクレオチドに対し・・・インキュベートした。」,「次に試料を除々に15℃まで冷却し、熱変性過程の間260nmで吸光度の変化をモニターした。」,「これらの試験の結果は表1に示されている。」(第21頁右下欄第3行〜第15行の「実施例57」) ク.「表1 熱変性 配列 配列番号ID 補体 Tm ・・・ ラセミ体糖間結合を持つホスホロチオエート CGA CTA TGC AAG TAC 9 DNA 46.0 CGA CTA TGC AAG TAC 9 RNA 36.5 キラル的に純粋な糖間結合を持つホスホロチオエート CGA CTA TGC AAG TAC 9 DNA 45.5 CGA CTA TGC AAG TAC 9 RNA 41.5 ・・・ 」 ケ.キラル的に純粋な糖間結合を持つホスホロチオエート オリゴヌクレオチドとそれに相補的なRNAとのヘテロ二重鎖のTmは、ラセミ体糖間結合を持つホスホロチオエート オリゴヌクレオチドとそれに相補的なRNAとのヘテロ二重鎖のTmと比べて高いこと。(表1) コ.「表2から明らかなように、実質的にキラル的に純粋な糖間結合を持つホスホロチオエート オリゴヌクレオチドは、ラセミ体糖間結合を持つホスホロチオエート オリゴヌクレオチドよりもより強いヌクレアーゼ消化耐性を示した。」(第22頁右上欄第12行〜左下欄第19行の「実施例59」) これらの記載からみて,引用例2には,約75%以上のキラル純度を有する実質的にすべてのSpのホスフェート結合又は実質的にすべてのRpのホスフェート結合により互いに結合したホスホロチオエート オリゴヌクレオチドが記載され,該オリゴヌクレオチドは,アンチセンス診断法及びアンチセンス治療法に使用するためのものであることが記載されている。また,該オリゴヌクレオチドは,同じ塩基配列からなるラセミ体糖間結合を持つホスホロチオエート オリゴヌクレオチドと比べて,耐ヌクレアーゼ性が高いこと,並びに,標的RNAとのヘテロ二重鎖の熱力学的安定性が高いことが記載されていると認められる。 3.対比 上述のとおり,引用例1には塩基配列が配列ID番号:2のホスホロチオエート オリゴヌクレオチドが記載されている。 そこで,本願発明1と引用例1に記載された発明を対比すると,本願発明の配列番号8により表されるオリゴヌクレオチドの塩基配列は,引用例1に記載された配列ID番号:2の塩基配列と同一である。また,引用例1の実施例で用いられている配列ID番号:2のオリゴヌクレオチドのホスファイト結合はチオ化されていることから,該オリゴヌクレオチドにおけるヌクレオシドユニットはホスホロチオエート結合により結合している。そして,その結合は3’-5’結合により一緒に結合していることは出願時における技術常識である。 したがって,両発明は,「配列番号8により表され,ヌクレオシドユニットが,ホスホロチオエート3’-5’結合により一緒に結合されているオリゴヌクレオチド」である点で一致し,本願発明1が,ヌクレオシドユニットの少なくとも75%は,Spホスホロチオエート3’-5’結合により一緒に結合されているのに対し,引用例1に記載された発明では,そのような特定がされていない点で相違する。 4.当審の判断 (1)本願発明1について 上記相違点について検討すると,上記2.(2)ウ.,エ.,カ.〜コ.で指摘したとおり,引用例2には,アンチセンス診断法及びアンチセンス治療法に使用するためのオリゴヌクレオチドについて,オリゴヌクレオチドの耐ヌクレアーゼ性を高めるため,また,その際に,アンチセンスオリゴヌクレオチドと標的RNAとから構成されるヘテロ二重鎖の熱力学的安定性を高めるために,ヌクレオシドユニット相互の結合を約75%以上のキラル純度を有する実質的にすべてSpのホスホロチオエート3’-5’結合とすることが記載されている。 引用例1に記載された発明は,PKC―αタンパク質及びmRNAの発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドに係るものであり,当該オリゴヌクレオチドを診断薬,治療薬等として用いるものであるから,同じくアンチセンス診断法及びアンチセンス治療法に係る引用例2に記載された技術的事項を引用例1に記載された発明に適用し,引用例2に記載の上述の効果を得ることを期待して,ヌクレオシドユニットの少なくとも75%をSpホスホロチオエート3’-5’結合により一緒に結合するようにすることは,当業者にとって容易に想到し得たことと認められる。また,それにより得られた効果も,本願明細書をみても,引用例1及び引用例2に記載された事項から当業者が予測し得る範囲を超えるものとはいえない。 (2)本願発明2〜6について 引用例2には,上記2.(2)ア.及びオ.で指摘したように,アンチセンスオリゴヌクレオチドのSp又はRpのホスホロチオエート3’-5’結合を,約75%以上,好ましくは約100%のキラル純度とすることが記載されている。 また,引用例1には,上記2.(1)オ.で指摘したように,本願発明の配列番号8の塩基配列を有するホスホロチオエート オリゴヌクレオチドと薬学的に受容可能な担体を含む医薬組成物が記載されている。 本願発明4〜6は,Rpホスホロチオエート3’-5’結合により一緒に結合されているオリゴヌクレオチドに係る発明であり,本願発明2及び5は,ヌクレオシドユニットのすべてがSp又はRpホスホロチオエート3’-5’結合により一緒に結合されたものであり,また,本願発明3及び6はオリゴヌクレオチド及び許容しうる担体を含む組成物であるから,本願発明2〜6は,本願発明1と同様に,引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たことと認められ,また,その効果は当業者の予測の範囲内のものと認められる。 (3)審判請求書における請求人の主張について 請求人は,「本願優先日当時の当業者が,刊行物1に記載の発明および刊行物2に記載の発明を組み合わせる合理的理由も動機付けも存在せず,したがって,これらの刊行物1および2の記載を参照したとしても,当業者は本願発明を容易になしえるものではなく,本願発明は特許に値する進歩性を有する発明」である旨、主張する。 しかしながら,4.(1)で上述したように,引用例1に記載の発明及び引用例2に記載の発明は,ともにアンチセンス診断法及びアンチセンス治療法に用いるためのホスホロチオエートオリゴヌクレオチドに係る発明であるから,両発明の属する技術分野は極めて類似しており,両発明を組合わせる動機付けが存在しないとは認められない。 よって,請求人のこの主張を採用することはできない。 5.むすび したがって,本願発明1ないし6は,引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-11-04 |
結審通知日 | 2005-11-08 |
審決日 | 2005-11-25 |
出願番号 | 特願平9-501254 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 平田 和男 |
特許庁審判長 |
種村 慈樹 |
特許庁審判官 |
阪野 誠司 佐伯 裕子 |
発明の名称 | 高いキラル純度のホスホロチオエート結合を有するオリゴヌクレオチド |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 江尻 ひろ子 |