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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B01D
管理番号 1134211
審判番号 無効2005-80060  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-08-12 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-02-24 
確定日 2006-04-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第3601007号発明「回転型ガス吸着機におけるシール装置及びシール方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3601007号に係る出願は、平成12年3月30日に出願した特願2000-94867号の一部を平成16年4月27日に新たな特許出願としたものであって、平成16年10月1日にその発明についての特許の設定登録がされ、その後、平成17年2月24日に請求人株式会社西部技研より本件特許の特許無効の審判の請求がなされ、その後被請求人より平成17年6月27日に審判事件答弁書が提出され、平成18年1月24日に口頭審理が行われ、同日付けで請求人及び被請求人から口頭審理陳述要領書が提出されたものである。

2.本件特許発明
本件請求項1,6に係る特許発明(以下「本件特許発明1,6」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1,6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 少なくとも吸着ゾーンと再生ゾーンとに画成されたロータ端面を有する回転型ガス吸着機に取着されるシール装置であって、ロータを回転可能に納めるケースに固定されたロッド部材と、前記ロッド部材を囲繞するコイルばねと、不燃材料から成るシール材と、を備え、前記シール材が、前記コイルばねの弾性力を受けて前記ロッド部材に沿って移動可能に該ロッド部材に取着されてロータ端面に向けて摺動可能に配置されていることを特徴とする回転型ガス吸着機におけるシール装置。」
「【請求項6】 回転可能なロータの端面に少なくとも吸着ゾーンと再生ゾーンとを設けた回転型ガス吸着機における前記ゾーン間にシール材を配置して気体相互間の干渉を防止するためのシール方法であって、前記シール材を、前記ロータを回転可能に納めるケースに固定され且つコイルばねに囲繞されたロッド部材に沿って移動可能に該ロッド部材に取着け、前記コイルばねの緩衝力及び復元力を受けて前記シール材をロータ端面に向け摺動可能とすることを特徴とする回転型ガス吸着機におけるシール方法。」

3.当事者の主張及び証拠方法
3-1.請求人の主張
請求人は、本件特許発明1,6は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明1,6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたと主張し、証拠方法として、甲第1号証を提出し、その全文訳を甲第1-1号証として添付している。

3-2.請求人の証拠方法
甲第1号証:米国特許第4296937号明細書(1981年10月27日)

3-3.被請求人の主張
被請求人は、本件特許発明1,6は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないと主張して、口頭審理陳述要領書と共に参考資料1を提出した。

3-4.被請求人の証拠方法
参考資料1:実公昭57-298号公報(甲第1号証の優先基礎出願である実願昭53-1000631の公告公報)

4.甲第1号証及び参考資料1の記載
甲第1号証には、請求人の添付した全文訳によれば以下の事項が記載されている。
なお、摘示箇所は、前記米国特許公報の箇所を示し、該公報に付された行数を示すと解される数字ではなく、文字が記載された行を数えて示す。

(1-A)「本発明は、自動車のような陸上運送乗用車のための原動機として、例えばガスタービンで使用される例えば回転式、対向流熱再生式熱交換機に組み入れられた回転可能な熱再生コアを備えたもの向けの摩擦接触の流体シール構造に関する。」(第1欄第4行-第10行)
(1-B)「本発明によると、熱再生コアの前記面と摩擦接触する内部端部面を有する主シール要素と、前記主シール要素と前記ハウジング構造間で密閉して連動し、少なくとも部分的に、熱再生コアの前記面の方向へまたは離れて弾力的に変形可能である弾性のある実質的に押圧部材を備え、この押圧部材が、押圧部材の両側間、すなわち低圧流体室と高圧流体室間に異なる流体圧がない状態で、少なくとも部分的に前記液体空間にさらされ、横方向に熱再生コアの前記面と実質的に平行に伸びる外面を有しており、熱再生コアの1面と隣接する対向流関係で配置された高圧・低圧流体室と、熱再生コアを取り囲み高圧流体室と通じ合っている高圧空間とを有する静止しているハウジング構造内で回転可能な熱再生コアのための摩擦接触シール構造を提供する。」(第1欄第12行-第33行)
(1-C)「図1に示される配置では、低温側のシール構造40は、例として熱再生コア24の断面構成の概して半円または扇形の半分に大方一致する概して半円または扇形であり、再生のコア24の低温側面24aと冷却された排気ガス出口室32の間に配置される。」(第5欄第46行-第54行)
(1-D)「セラミックやセラミック相当の構造物で形成され、長方形の断面をもつ主シール要素60は、実質的に平面外面を有するシール保持部材62に形成される浅い溝へ部分的に密接して受け取られる。突起した縦方向の端部あるいはリブ部分64aを有し、例えばゴムから形成された弾力のある補助シール要素64は、シール要素64の実質平面部分を介し、シール保持部材62へねじ留めされている複数のボルト66のような適切な固定手段によって、シール保持部材62平面外面へ密接に取り付けられている」(第7欄第34行-第46行)
(1-E)「図1に示す低温側のシール構造56はさらに主シール要素60と、シール保持部材62と、ハウジング構造22と熱再生コア24に関する補助シール要素62の回転可能な組立て部品の軸位置を手動で調節するために改良した調整手段を備える。こうした調整手段は、ハウジング構造で形成された釘うちされた穴を介しナット76によりハウジング構造22へ取り付けられた複数の鋲74を備えて示される。鋲74は、シール保持部材62の平面外面へそれぞれの先導端付近で、シール要素60と64およびシール保持部材62の回転可能な組立て部品の交換を制限するための補助シール要素64の平面部分に対し、熱再生コア24の低温側の面24aから遠ざけて実質的に垂直に伸びる。
各支承部材58、主シール要素60、シール保持部材62、補助シール要素64、押圧部材68及びクランプ部材72は、概して半円の扇形の形態を持つとされ、熱再生コア24の低温側の面24aとハウジング構造22で形成された冷却された排気ガス出口室32間の流出流体の通路を決める。」(第8欄第5行-第29行)
(1-F)「熱交換機に組み込まれるシール構造56と78を有するガスタービンが動作中である場合、熱再生コア24を取り囲む環状空間36には、比較的高圧の圧縮空気と、熱再生コア24から冷却された排気ガス出口室32へ出る比較的低圧の排気ガスとによって生じる異なる流体圧がある。異なる流体圧は補助シール要素64と押圧部材68に作用し、押圧部材68が補助シール要素64のリブ部分64aに対して弾力で押圧され、その結果、作用する圧力差によりシール保持部材62の外面へ押され、その押圧が押圧部材68からシール要素64へ伝わる。そのため主シール要素60は、回転する熱再生コア24の低温側の面24aと押圧、摩擦接触を維持され、従って異なる流体圧がハウジング構造22の冷却された排気ガス出口室32と空間36で維持される限り、熱再生コア24は、高温側のシール構造78のシール要素80に押し込まれる。低温側と高温側のシール構造56と78のシール要素60と80の摩擦する接触面で摩滅がそれぞれ進むと、押圧部材68は、熱再生コア24の低温側面24aの方向へ巻きつくようになり、シール要素60と80の摩耗を自動的に保護する。」(第8欄第37行-第29行)
(1-G)FIG.4として上記摘示事項(1-D)〜(1-F)のシール構造が示されている。
(1-H)「このように主シール要素60、シール保持部材62、補助シール要素64、ベースプレート86から構成されている回転可能な組立て部品は、ハウジング構造22の釘打ちされた穴を通ってハウジング構造22へ固定され、押圧部材68´の外部の金属切片68eに対し、それぞれの先導先に隣接するよう垂直に配置されているボルト90のような多数のねじ切りした部材を備える調節手段によりハウジング構造22と熱再生コア24に関して調整された位置である。」(第10欄第12行-第22行)
(1-I)「図7は、図4に例示されるシール構造56のもう1つの改良したものを示す。ここに示す実施の形態は、シャンク部の先導先で開いている環状のフランジ92aと軸穴92bで形成される穴があいたシャンク部をそれぞれ有する複数の鋲92を備える調整手段によって特に特徴づけられる。各鋲92は、シャンク部のフランジ92aがハウジング構造22の内面22aと、シール保持部材62の平面の外面に取り付けられている補助シール要素64の間で位置するように、またシャンク部の軸穴92aが、図示するように、補助シール要素64の平面部分へ垂直に開くように、ハウジング構造22の縦壁部を介してねじ留めされている。鋲92は、ナット92によってハウジング構造22に固定されている。円盤部96aで収容する伸びたロッド部分を有するバネシート要素96は、バネシート要素96の円盤部96aが、補助シール要素64の平面部と鋲92のフランジ92aの内面の間で軸方向に移動可能なように、軸方向に滑って部分的に各鋲92のシャンク部の一部分軸の穴92bに挿入されるロッド部分を備える。あらかじめ取り付けられた螺旋形の圧縮バネ98は、各鋲92のフランジ92aとバネシート要素96の円盤部96aの片端に据え付けられ、バネシート要素96の円盤部96aが補助シール要素64の平面部分に対し押印されるように、バネシート要素96がシール要素64の方向へ移動するよう促す。補助シール要素64とそれによる主シール要素60は、そのため個々の鋲92と関連してそれぞれ提供される圧縮バネ98の力によって、熱再生コア24(図4)の低温側の面24aの方へ絶えず押しやられ、熱再生コアが主シール要素60によって押印されることによる圧力を自動的に調節する。各バネ98の力は、鋲92のフランジ92aが、補助シール要素64上へ押印されたバネシート要素96の円盤部96aの方向へ、または離れて動くように、ハウジング構造22上で鋲92を回すことにより手動で調節することができる。」(第10欄第28行-第11欄第2行)
(1-J)FIG.7として、(1-I)に摘示した調整手段が示されている。

被請求人が提出した参考資料1には以下の事項が記載されている。
(2-A)「即ち、本考案にあっては第4図に例示する如く、・・・(略)・・・17は、ハウジング1に螺装されて先端が前記シート部12のベース部12aに当接するセットネジで、第2シール材6の組込時、該第2シール材6を所定のトルクで押圧して該第2シール材6と蓄熱体4の摺接間隔および第1シール材5と蓄熱体4との摺接間隔を予め調整することにより押え板14が組付時に大きく変形するのを防止する。又、ガスタービン運転中において蓄熱体の回転時の心振れがあってもセットネジ17は圧縮空気の圧力導入部9の内圧との協働により押え板14の下方への大きな変形を防止する。」(第3欄第28行-第4欄第3行)
(2-B)「この実施例構造によれば、低温側の圧縮空気通路2の内圧は押え板14の背面に作用して該押え板14をシート部12に圧接させて第2シール材6を蓄熱体4側に押圧させる。この結果、・・・(略)・・・第1,第2シール材5,6と蓄熱体4との摺接部のシールを行うのである。ここで、特に本考案にあっては前述のように押え板14が平板状に形成されてしかも該押え板14が第2シール材6の背部に略平行に圧接するように装着されているため、該押え板14の圧縮空気通路2内圧を受けて該第2シール材6を押圧するスプリング作用を十分に発揮でき、従って、従来の如く押え板14の自由端にスリットを格別に設けなくても済むため該押え板14当接部のシール性を十分に確保できるのである。」(第4欄第4行-第21行)
(2-C)「第7図はセツトネジ17の変形例を示すもので、これはアジャストボルト17aにより第2シール材6背面を押圧するロツド17bのセツトスプリング17cのセツト荷重を任意に調整し得るようにしたものである。」(第5欄第3行-第7行)

5.当審の判断

5-1.甲第1号証の記載について
請求人の添付した甲第1号証の全文訳による、上記摘示事項(1-B)には「実質的に押圧部材」とあるが、該訳は甲第1号証第1欄第22行-23行における「substantially flat pressing member」に対応するものであって、「実質的に平板の押圧部材」が適当であるといえるから、甲第1号証の第1欄第12行-第33行には、「本発明によると、・・・(略)・・・熱再生コアの前記面の方向へまたは離れて弾力的に変形可能である弾性のある実質的に平板の押圧部材を備え、・・・(略)・・・摩擦接触シール構造を提供する。」と記載されているとする。
また、全文訳による摘示事項(1-E)における「図1」について検討すると、甲第1号証第8欄第5行にも「FIG.1」と記載されているが、該記載はその前後の記載、及び「sealing structure 56」「studs 74」等の符号が「FIG.4」に用いられている符号であることからみて、「FIG.4」のの誤記であると解されるから、甲第1号証の第8欄第5行-第29行には、「図4に示す低温側のシール構造56はさらに主シール要素60と、シール保持部材62と、・・・(略)・・・排気ガス出口室32間の流出流体の通路を決める。」と記載されているとする。
その他の甲第1号証の記載については、請求人の添付した甲第1号証の全文訳によるとおり記載されているとする。

5-2.請求人の主張する無効理由について

5-2-1.本件特許発明1について
(1)証拠との対比
甲第1号証には、摘示事項(1-A)から「回転式、対向流式熱交換機に組み入れられた回転可能な熱再生コア」向けのシール構造であって、該シール構造は、摘示事項(1-B)から「熱再生コアの1面と隣接する対向流関係で配置された高圧・低圧流体室と、熱再生コアを取り囲み高圧流体室と通じ合っている高圧空間とを有する静止しているハウジング構造内」に「主シール要素」と「実質的に平板の押圧部材」を有し、摘示事項(1-D)〜(1-G)から、図4に示される態様では、主シール要素は「セラミックやセラミック相当の構成物で形成」され、さらに、主シール要素は、平面外面に補助シール要素が固定されているシール保持部材に保持され、シール構造は、「熱再生コア24を取り囲む環状空間36には、比較的高圧の圧縮空気と、熱再生コア24から冷却された排気ガス出口室32へ出る比較的低圧の排気ガスとによって生じる異なる流体圧」によって、「補助シール要素64のリブ部分64aに対して弾力で押圧され、その結果、作用する圧力差によりシール保持部材62の外面へ押され」る押圧部材68を有し、さらに「調整手段」を備えることが記載されているといえる。ここで、「押圧部材68」は上記摘示事項(1-B)における「実質的に平板の押圧部材」に相当し、「環状空間」、「排気ガス出口室」は、それぞれ上記摘示事項(1-B)における「高圧空間」、「低圧流体室」と同じものを指していると認められる。
さらに、摘示事項(1-I)における「環状のフランジ92aと軸穴92bで形成される穴があいたシャンク部をそれぞれ有する複数の鋲92」を備え、該鋲は、「ハウジング構造22の縦壁部を介してねじ留めされ」、「円盤部96aで終了する伸びたロッド部分を有するバネシート要素96は、バネシート要素96の円盤部96aが、補助シール要素64の平面部と鋲92のフランジ92aの内面の間で軸方向に移動可能なように、軸方向に滑って部分的に各鋲92のシャンク部の一部分軸の穴92bに挿入され」、「あらかじめ取り付けられた螺旋形の圧縮バネ98は、各鋲92のフランジ92aとバネシート要素96の円盤部96aの片端に据え付けられ、バネシート要素96の円盤部96aが補助シール要素64の平面部分に対し押印されるように、バネシート要素96がシール要素64の方向へ移動するよう促」し、「補助シール要素64とそれによる主シール要素60は、そのため個々の鋲92と関連してそれぞれ提供される圧縮バネ98の力によって、熱再生コア24(図4)の低温側の面24aの方へ絶えず押しやられ、熱再生コアが主シール要素60によって押印されることによる圧力を自動的に調節する」という記載から、図7の態様のシール構造は、環状のフランジと軸穴を有するシャンク部を有する鋲が、ハウジング構造にねじ留めされ、円盤部で終了する伸びたロッド部分を有するバネシート要素が軸穴に挿入され、螺旋形の圧縮バネが鋲の環状フランジとバネシート要素の円盤部の片端に据え付けられた調整手段を有し、圧縮バネの力によって、バネシート要素の円盤部が補助シール要素の平面部分に押印され、主シール要素が熱再生コアの低温側の面へ押印される、ことが記載されているといえる。
ここで、図7に示される態様のシール構造は、図4に示される態様の調整手段を改良したものであり、該調整手段の他は、図4に示される態様と同じ構造及び材料であると解されるから、図7に示される態様のシール構造においても、押圧部材68は、高圧流体室と通じ合っている高圧空間と、低圧流体室に生じる異なる流体圧によって、補助シール要素のリブ部分に対して弾力で押圧され、その結果、作用する圧力差によりシール保持部材の外面へ押され、そのため主シール要素は、回転する熱再生コアの低温側の面と押圧、摩擦接触を維持しているといえる。
これらを、本件特許発明1の記載振りに則して整理すると、甲第1号証には、「回転式、対向流式熱交換機に組み入れられた回転可能な熱再生コア向けのシール構造であって、回転可能な熱再生コアの1面と隣接する対向流関係で配置された高圧・低圧流体室と、熱再生コアを取り囲み高圧流体室と通じ合っている高圧空間とを有する静止しているハウジング構造、実質的に平板の押圧部材と、環状のフランジと軸穴を有するシャンク部を有する鋲が、ハウジング構造にねじ留めされ、円盤部で終了する伸びたロッド部分を有するバネシート要素が軸穴に挿入され、螺旋形の圧縮バネが鋲の環状フランジとバネシート要素の円盤部の片端に据え付けられた調整手段と、セラミックやセラミック相当の構造物で形成された主シール要素と、該主シール要素が保持される、平面外面に補助シール要素が固定されているシール保持部材と、を備え、主シール要素は、螺旋状の圧縮バネによってバネシート要素の円盤部が補助シール要素の平面部分に押印されること、および、高圧空間と低圧流体室に生じる異なる流体圧によって押圧される実質的に平板の押圧部材が補助シール要素に押圧されることによって、熱再生コアの低温側面に押圧される、シール構造」の発明(以下「引用1発明」という。)が記載されているといえる。
本件特許発明1と引用1発明とを対比すると、後者における「回転可能な熱再生コア」及び「熱再生コア」、「シール構造」、「ハウジング構造」、「螺旋形の圧縮バネ」、「主シール要素」は、それぞれ前者における「ロータ」、「シール装置」、「ケース」、「コイルばね」、「シール材」に相当し、後者における「セラミックやセラミックに相当する構造物」は不燃材料であること、後者における「ハウジング構造」が熱再生コアを回転可能に納めていることは明らかである。
また、後者における「環状のフランジと軸穴を有するシャンク部を有する鋲」、「螺旋状の圧縮バネ」は、鋲はハウジング構造に固定されており、摘示事項(1-J)からみて、棒状の部材であって、螺旋状の圧縮バネは該鋲92の少なくとも一部分を囲繞しているといえるから、それぞれ、前者における「ケースに固定されたロッド部材」、「ロッド部材を囲繞するコイルばね」に相当するといえる。
さらに、後者において、主シール要素は、螺旋状の圧縮バネによってバネシート要素の円盤部が補助シール要素の平面部分に押印されることによって、熱再生コアの低温側面に押圧されているから、前者における、「シール材」が「コイルばねの弾性力を受けて」「ロータ端面に向けて摺動可能に配置」されることに相当するといえる。
してみれば、両者は、「シール装置であって、ロータを回転可能に納めるケースに固定されたロッド部材と、該ロッド部材を囲繞するコイルばねと、不燃材料から成るシール材と、を備え、該シール材が、前記コイルばねの弾性力を受けて、ロータ端面に向けて摺動可能に配置されている、シール装置」である点で一致しているが、以下の点で相違している。

相違点1:本件特許発明1は、シール材がロッド部材に沿って移動可能にロッド部材に取着されているのに対し、引用1発明は、主シール要素は、平面外面に補助シール要素が固定されているシール保持部材に保持されていて、鋲には取着されていない点

相違点2:本件特許発明1は、吸着ゾーンと再生ゾーンとに画成されたロータ端面を有する回転型ガス吸着機に取着されるシール装置であるのに対して、引用1発明は、回転式、対向流式熱交換機に組み入れられた回転可能な熱再生コア向けのシール構造である点

(2)相違点についての判断
(a)相違点1について
引用1発明における、鋲、バネシート要素、螺旋形の圧縮バネは、いずれも調整手段を構成する部材である。
この調整手段の役割を検討すると、摘示事項(1-E)には、図4に示される態様の調整手段に関して「主シール要素60と、シール保持部材62と、ハウジング構造22と熱再生コア24に関する補助シール要素62の回転可能な組立て部品の軸位置を手動で調節するために改良した調整手段」、「鋲74は、シール保持部材62の平面外面へそれぞれの先導端付近で、シール要素60と64及びシール保持部材62の回転可能な組立て部品の交換を制限する」と記載されており、摘示事項(1-H)には、図6に示された態様の調整手段に関して「このように主シール要素60、シール保持部材62、補助シール要素64、ベースプレート86から構成されている回転可能な組立て部品は、・・・(略)・・・調節手段によりハウジング構造22と熱再生コア24に関して調整された位置である。」という記載されており、さらに、被請求人が提出した参考資料1の摘示事項(2-A)には、甲第1号証における図4の態様における調整手段に相当する「セットネジ」に関して「第2シール材6の組込時、該第2シール材6を所定のトルクで押圧して該第2シール材6と蓄熱体4の摺接間隔および第1シール材5と蓄熱体4との摺接間隔を予め調整することにより押え板14が組付時に大きく変形するのを防止する。又、ガスタービン運転中において蓄熱体の回転時の心振れがあってもセットネジ17は圧縮空気の圧力導入部9の内圧との協働により押え板14の下方への大きな変形を防止する。」と記載されている。
また、実質的に平板の押圧部材、及び、それに相当するといえる「押え板」については、摘示事項(1-F)に「異なる流体圧は補助シール要素64と押圧部材68に作用し、押圧部材68が補助シール要素64のリブ部分64aに対して弾力で押圧され、その結果、作用する圧力差によりシール保持部材62の外面へ押され、その押圧が押圧部材68からシール要素64へ伝わる。そのため主シール要素60は、回転する熱再生コア24の低温側の面24aと押圧、摩擦接触を維持され」ると記載されており、摘示事項(2-B)には、「この実施例構造によれば、低温側の圧縮空気通路2の内圧は押え板14の背面に作用して該押え板14をシート部12に圧接させて第2シール材6を蓄熱体4側に押圧させる。・・・(略)・・・該押え板14の圧縮空気通路2内圧を受けて該第2シール材6を押圧するスプリング作用を十分に発揮でき、従って、従来の如く押え板14の自由端にスリットを格別に設けなくても済むため該押え板14当接部のシール性を十分に確保できるのである。」と記載されている。
これらの記載を総合すると、甲第1号証の図4,図6における態様のシール構造において、調整手段は、主シール要素と、シール保持部材と、補助シール要素からなる回転可能な組立部品の軸位置、つまりハウジングと熱再生コアの間隔を調整し、該回転可能な組立部品の交換を制限し、さらには、主シール要素と熱再生コアの摺接間隔を調節して、組付時又はガスタービンの運転中に、実質的に平板状の押圧部材が下方へ大きく変形するのを防止する役割のものであり、甲第1号証に記載されたシール構造において必要とされるシール性を発揮しているのは実質的に平板状の押圧部材であるといえる。
そして、図7の態様における、鋲、バネシート要素、螺旋形の圧縮バネを有する調整手段も、その役割において図4,6の態様のものと変わるところはないと解されるから、圧縮バネの力によって、主シール要素が熱再生コアの低温側の面へ押印されているとしても、シール構造において必要とされるシール性を発揮するものではなく、補助的なものであると解するのが妥当である。
そうすると、引用1発明のシール構造において、シール性においては補助的な役割である調整手段の構造を変更して、調整手段のバネシート要素を省略し、さらには、上述したようにシール性からみて必須である、実質的に平板の押圧部材が押圧するように設けられている補助シール要素も省略し、主シール要素を調整手段の鋲に取着することは、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

(b)相違点2について
引用1発明は、摘示事項(1-F)に「熱交換機に組み込まれるシール構造56と78を有するガスタービンが動作中である場合、熱再生コア24を取り囲む環状空間36には、比較的高圧の圧縮空気と、熱再生コア24から冷却された排気ガス出口室32へ出る比較的低圧の排気ガスとによって生じる異なる流体圧がある。異なる流体圧は補助シール要素64と押圧部材68に作用し、押圧部材68が補助シール要素64のリブ部分64aに対して弾力で押圧され、その結果、作用する圧力差によりシール保持部材62の外面へ押され、その押圧が押圧部材68からシール要素64へ伝わる。そのため主シール要素60は、回転する熱再生コア24の低温側の面24aと押圧、摩擦接触を維持され、従って異なる流体圧がハウジング構造22の冷却された排気ガス出口室32と空間36で維持される限り、熱再生コア24は、高温側のシール構造78のシール要素80に押し込まれる。」と記載されているように、異なる流体圧が存在する熱交換機特有のシール構造に関する発明であると解され、そのような異なる流体圧が存在しない回転型ガス吸着機のシール構造に適用することは当業者が容易に想到しうることであるとはいえない。
そして、本件特許発明1は該相違点1,2に係る発明特定事項を採用することによって、ロータ端面の平面性及び垂直性に関わらず、各操作ゾーン間の密封性を大きく向上することなり、簡単な構造であるにも関わらず、廃ガス処理効率の低下を防ぎ、ロータの寿命を延ばすことができる、という効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、引用1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5-2-2.本件特許発明6について
(1)証拠との対比
甲第1号証の記載を、本件特許発明6の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、「回転式、対向流式熱交換機に組み入れられた回転可能な熱再生コア向けのシール方法であって、回転可能な熱再生コアの1面と隣接する対向流関係で配置された高圧・低圧流体室と、熱再生コアを取り囲み高圧流体室と通じ合っている高圧空間とを有する静止しているハウジング構造、実質的に平板状の押圧部材と、環状のフランジと軸穴を有するシャンク部を有する鋲が、ハウジング構造にねじ留めされ、円盤部で終了する伸びたロッド部分を有するバネシート要素が軸穴に挿入され、螺旋形の圧縮バネが鋲の環状フランジとバネシート要素の円盤部の片端に据え付けられた調整手段と、主シール要素と、該主シール要素が保持される、平面外面に補助シール要素が固定されているシール保持部材と、を備え、主シール要素を、螺旋状の圧縮バネによってバネシート要素の円盤部が補助シール要素の平面部分に押印すること、および、高圧空間と低圧流体室に生じる異なる流体圧によって押圧される実質的に平板の押圧部材を補助シール要素に押圧することによって、熱再生コアの低温側面に押圧する、シール方法」の発明(以下「引用2発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、本件特許発明6と引用2発明とを対比すると、上記「5-2-1.」で述べたと同様の対応があるといえるから、両者は、「シール方法であって、ロータを回転可能に納めるケースに固定され且つコイルばねに囲繞されたロッド部材のコイルばねの緩衝力及び復元力を受けて、シール材をロータ端面に向けて摺動可能とする、シール方法」である点で一致しているが、以下の点で相違している。

相違点3:本件特許発明6は、シール材を、ロッド部材に沿って移動可能に該ロッド部材に取着けているのに対し、引用2発明は、主シール要素は、平面外面に補助シール要素が固定されているシール保持部材に保持されていて、鋲には取着けられていない点

相違点4:本件特許発明6は、回転可能なロータの端面に少なくとも吸着ゾーンと再生ゾーンとを設けた回転型ガス吸着機における前記ゾーン間にシール材を配置して気体相互間の干渉を防止するためのシール方法であるのに対し、引用2発明は、回転式、対向流式熱交換機に組み入れられた回転可能な熱再生コア向けのシール方法である点

(2)相違点についての判断
上記相違点3、4は上記「5-2-1.」における相違点1、2と実質的に同一であるから、同様の理由により引用2発明から当業者が容易に想到しうることであるとはいえない。
そして、本件特許発明6は該相違点3,4に係る発明特定事項を採用することによって、簡単な構造であるにも関わらず、廃ガス処理効率の低下を防ぎ、ロータの寿命を延ばすことができる、という効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明6は、引用2発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5-3.請求人のその他の主張についての検討

(1)「回転型ガス吸着機」と「回転型蓄熱式熱交換機」におけるシール構造の互換性について
請求人は、審判請求書において、「回転型ガス吸着機」と「回転型蓄熱式熱交換機」とは何れも実開平2-40424号など多くの出願が特許国際分類B01D53に分類されるように類似の技術であるから、引用1発明のシール構造を回転型ガス吸着機に転用することが容易である旨主張しているが、実開平2-40424号に記載された発明は流体圧の差を積極的に利用したシール構造に関するものではなく、回転型ガス吸着機と回転型蓄熱交換機の両方に適用できたとしても、これを根拠に流体圧の差を積極的に利用する引用1発明を流体圧の差が存在しない回転型ガス吸着機に転用することが当業者にとって容易であるとすることはできない。
さらに請求人は、口頭審理陳述要領書において、引用1発明の気密性、耐熱性が回転型ガス吸着機以上に高いことを根拠に、引用1発明のシール構造を回転型ガス吸着機に転用することが容易である旨も主張しているが、上記相違点1で述べたように、引用1発明において、必要とされるシール性を発揮しているのは、異なる流体圧によって補助シール要素に押印される実質的に平板状の押圧部材であるといえるから、例え、引用1発明の気密性、耐熱性が回転型ガス吸着機以上に高いとしても、シール性においては補助的なものである調整手段をシール構造として回転型ガス吸着機に転用することの根拠とはならない。

(2)コイルばねによるシール部材の押圧の効果について
請求人は、口頭審理陳述要領書の(1)、(4)において、被請求人が答弁書で主張する「本件第1発明では、直に押圧するコイルばね(11)によってシール材(5)はロータのぶれに迅速に追従できるが、甲第1号証記載の発明では、主シール要素60はバネシート要素96を介しているのでロータのぶれに迅速に追従できない」という被請求人の主張に対して、「迅速に追従」という効果が不明である旨、本件第1発明には「シール材がコイルばねに直に押圧される」とは限定されていない旨主張している。
確かに、本件特許発明1には、「シール材がコイルばねに直に押圧される」という限定はなく、したがって、上記「5-2-1.」の(1)で対比したように、「シール材」が「コイルばねの弾性力を受けて」「ロータ端面に向けて摺動可能に配置」する点は一致点として認定した上で判断しているのであるから、該限定がないことによって上記相違点1乃至4についての判断が左右されるものではない。
また、被請求人の主張する効果に不明な点はあるが、効果が不明なことをもって、上記相違点1乃至4が当業者にとって容易に想到できたものとすることはできない。

(3)シール材の取り付け構造について
請求人は、甲第1号証では、主シール要素は鋲に直接取付けられるものではないと認めながら、「本件発明のものはシール材(5)がロッド部材(9)に取着されているからシール材(5)はズレたり落下することがないのに対し、甲第1号証のものは、そのような構造がないためにズレたり落下の畏れがある」といる被請求人が主張する効果について、甲第1号証のものも断面L字状の支持部材58があることから、主シール要素はズレたり落下するものではなく、作用・効果において差異はない旨主張している。
しかし、奏される作用・効果に差異がないとしても、主シール要素を鋲に直接取付けることが当業者にとって容易であるとする根拠にはならないから、上記相違点1乃至4についての判断が左右されるものではない。
さらに、甲第1号証における支持部材58は、実質的に平板の押圧部材を固定しているものであり、そのような支持部材58によってズレたり落下することがないと主張することは、甲第1号証においては、支持部材58、実質的に平板の押圧部材、さらには該押圧部材が押圧する補助シート要素が必須の構成部材であることを裏付けるものであるともいえる。

(4)甲第1号証に記載された発明は主シール要素が摩耗するにつれて、熱再生コアに対するバネシート要素の押圧力は徐々に弱まっていくが、本件第1発明では押圧力は弱まらないという被請求人の主張に対する反論について
確かに、被請求人の主張に不明な点はあるが、このことをもって、上記相違点1乃至4が当業者にとって容易に想到できたものとすることはできない。

(5)甲第1号証記載の発明は周方向シールであるから、本件特許発明の半径方向シールに適用することはできない、という被請求人の主張に対する反論について
本件特許発明をみると、本件特許発明1には、回転型ガス吸着機の何処に設けるシール構造であるかについて特定する事項はみあたらない。
本件特許発明6には、吸着ゾーンと再生ゾーンの「ゾーン間にシール材を配置して気体相互間の干渉を防止するためのシール方法」とあるが、本件の回転型ガス吸着機の構造において、気体相互間の干渉を防止するためのシール方法であれば、本件特許公報段落【0019】、段落【0021】にあるように、シール材を半径方向のみならず、円周方向にも配置することが必要なことは当業者に明らかであるから、本件特許発明6は半径方向および円周方向にシール材を配置するものであるといえる。
一方、甲第1号証に記載されたシール構造は、摘示事項(1-C)、(1-E)からみて、半円又は扇型のシール要素を有し、低圧流体室である排気ガス出口室32を高圧空間から隔離していることから、円周方向だけでなく半径方向におけるシール構造を含むものであることは明らかである。
これらのことから、甲第1号証記載の発明を周方向のシールであるとし、本件特許発明を半径方向のシールであるとする、上記被請求人の主張は不明であるといわざるを得ないが、このことをもって、上記相違点1乃至4が当業者にとって容易に想到できたものとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1,6に係る発明の特許を無効とすることができない。審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-03 
結審通知日 2006-02-08 
審決日 2006-02-21 
出願番号 特願2004-131078(P2004-131078)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 野田 直人
増田 亮子
登録日 2004-10-01 
登録番号 特許第3601007号(P3601007)
発明の名称 回転型ガス吸着機におけるシール装置及びシール方法  
代理人 本多 弘徳  
代理人 小栗 昌平  
代理人 市川 利光  
代理人 添田 全一  
代理人 小栗 昌平  
代理人 高松 猛  
代理人 濱田 百合子  
代理人 添田 全一  
代理人 市川 利光  
代理人 本多 弘徳  
代理人 濱田 百合子  
代理人 高松 猛  
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