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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1134261
審判番号 不服2002-2439  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-02-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-02-14 
確定日 2006-04-12 
事件の表示 平成11年特許願第206858号「ダイヤモンド半導体作製方法およびダイヤモンド半導体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月 9日出願公開、特開2001- 35804〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年7月21日の出願であって、平成14年1月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年2月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月15日付けで手続補正がなされ、その後当審において、平成17年5月6日付けで平成14年3月15日付けの手続補正が却下され、平成17年5月27日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年8月8日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成17年10月14日付けで最後の拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年12月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.平成17年12月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成17年12月26日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1、請求項2及び明細書の0007段落を補正するものであって、それらの内容は以下のとおりである。
「【請求項1】 気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%未満として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程と、
上記ダイヤモンド薄膜層に、硫黄、燐、リチウム、臭素、ヨウ素、ホウ素、シリコンの少なくとも1種類を不純物元素としてイオン注入するとともに、そのイオン注入に際しては、ダイヤモンド薄膜層を、イオン注入によるグラファイト化を十分に回避できる温度に加熱保持し、その加熱保持する温度の各々において存在する、グラファイト化することなく注入できる最大のイオン注入量以下の量でイオン注入するイオン注入工程と、を備え、
上記イオン注入により、注入した不純物元素が硫黄、燐、リチウム、臭素、ヨウ素のときn型の電気伝導を、ホウ素、シリコンのときp型の電気伝導をそれぞれ備えるダイヤモンド半導体を作製する、
ことを特徴とするダイヤモンド半導体作製方法。
【請求項2】 請求項1に記載のダイヤモンド半導体作製方法で作製した、ことを特徴とするダイヤモンド半導体。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ダイヤモンド半導体作製方法であって、気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%未満として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程と、上記ダイヤモンド薄膜層に、硫黄、燐、リチウム、臭素、ヨウ素、ホウ素、シリコンの少なくとも1種類を不純物元素としてイオン注入するとともに、そのイオン注入に際しては、ダイヤモンド薄膜層を、イオン注入によるグラファイト化を十分に回避できる温度に加熱保持し、その加熱保持する温度の各々において存在する、グラファイト化することなく注入できる最大のイオン注入量以下の量でイオン注入するイオン注入工程と、を備え、上記イオン注入により、注入した不純物元素が硫黄、燐、リチウム、臭素、ヨウ素のときn型の電気伝導を、ホウ素、シリコンのときp型の電気伝導をそれぞれ備えるダイヤモンド半導体を作製する、ことを特徴としている。」(明細書0007段落)

(2)補正内容の整理
本件補正は、実質的に、補正前の請求項1(以下、「補正前請求項1」という。)を補正後の請求項1(以下、「補正後請求項1」という。)と以下の補正事項1に記載のとおり補正するとともに、請求項1の補正に整合させるために、明細書の0007段落を補正するものである。
補正事項1
補正前請求項1の「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」を、補正後請求項1の「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%未満として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」と補正する。
補正事項2
明細書の0007段落を補正前の「請求項1に記載の発明は、ダイヤモンド半導体作製方法であって、気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」を、補正後の「請求項1に記載の発明は、ダイヤモンド半導体作製方法であって、気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%未満として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」と補正する。

(3)本件補正についての検討
(3-1)新規事項の有無について
補正事項1について
補正事項1は、実質的に、補正前請求項1の「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」における「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として」を、補正後請求項1の「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%未満として」と補正するものであるところ、
そもそも、「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」が、本願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されていたものであるか否かについてまず検討する。
(a)「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として」、「ダイヤモンド薄膜層を作製する」点について
(a1)当初明細書等には、「原料ガスは、炭素源であるメタンガスと水素ガスとの混合ガスであり、各ガスボンベ15,15から減圧弁(図示省略)およびマスフローコントローラ16,16を経て、ガス導入管6から反応容器13に導かれる。メタンガス側のマスフローコントローラ16には、0.5%以下の混合比(水素ガスに対するメタンガスの割合)を得るために精度の高いものを用いる。」(0012段落)及び、「図2はメタンガス濃度を低濃度にして作製したダイヤモンド薄膜層の紫外光範囲でのCLスペクトルを示す図である。図において、(a)はメタンガス濃度を低濃度、例えば0.016%〜2.0%として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルであり、(b)はメタンガス濃度を通常の濃度(例えば6.0%)として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルである。」(0015段落)と記載されている。
(a2)しかしながら、0012段落の「メタンガス側のマスフローコントローラ16には、0.5%以下の混合比(水素ガスに対するメタンガスの割合)を得るために精度の高いものを用いる。」に記載される「0.5%以下の混合比(水素ガスに対するメタンガスの割合)を得るために精度の高いもの」なる記載は、マスフローコントローラの性能を記載したものであって、0015段落に記載される「メタンガス濃度を低濃度、例えば0.016%〜2.0%として作製したダイヤモンド薄膜層」における、ダイヤモンド薄膜層作製条件であるメタンガス濃度の「0.016%〜2.0%」とは直接関連しないものであり、また、メタンガス濃度「0.016%〜0.5%」とメタンガス濃度「0.5%〜2.0%」とを区分するための根拠は当初明細書等に記載がなく、また、メタンガス濃度の前者の範囲で作製したダイヤモンド薄膜層とメタンガス濃度の後者の範囲で作製したダイヤモンド薄膜層との特性が異なる又は同等であるとの根拠が当初明細書等に記載されているとも認められない。
(a3)さらに、図2について、「図2はメタンガス濃度を低濃度にして作製したダイヤモンド薄膜層の紫外光範囲でのCLスペクトルを示す図である。図において、(a)はメタンガス濃度を低濃度、例えば0.016%〜2.0%として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルであり、(b)はメタンガス濃度を通常の濃度(例えば6.0%)として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルである。」(0015段落)と記載されてはいるものの、図2のCLスペクトルにおいて、メタンガス濃度が何%であるか明確でないとともに、メタンガス濃度が0.016%、0.5%及び2.0%で「全く同じ」CLスペクトルが得られるとも通常考えられないので、メタンガス濃度が0.016%又は0.5%で図2に記載されるものと「同一」のCLスペクトルが得られるか否か根拠がなく、メタンガス濃度が「0.016%」又は「0.5%」におけるCLスペクトルが当初明細書等に記載されていたものとは、認められない。
(a4)よって、「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として」、「ダイヤモンド薄膜層を作製する」点は、当初明細書等に記載されたものではない。
(b)「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」について
(b1)当初明細書等には、「上記ダイヤモンド薄膜層は、膜厚を少なくとも200nm以上とした場合に室温で紫外光を発光する程度に高品質のものである、請求項1に記載のダイヤモンド半導体。」(特許請求の範囲請求項2)、「また、請求項2に記載の発明は、上記した請求項1に記載の発明の構成に加えて、上記ダイヤモンド薄膜層は、膜厚を少なくとも200nm以上とした場合に室温で紫外光を発光する程度に高品質のものである、ことを特徴としている。」(0008段落)、「図2はメタンガス濃度を低濃度にして作製したダイヤモンド薄膜層の紫外光範囲でのCLスペクトルを示す図である。図において、(a)はメタンガス濃度を低濃度、例えば0.016%〜2.0%として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルであり、(b)はメタンガス濃度を通常の濃度(例えば6.0%)として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルである。
(a)のダイヤモンド薄膜層において、波長235nmのCL強度が顕著に大きくなっているが、この波長235nmの発光はダイヤモンドの自由励起子再結合による5.27eVの紫外光発光である。すなわち、(a)のダイヤモンド薄膜層は、室温においてダイヤモンドに固有のバンド端発光を顕著に示している。一方、(b)のダイヤモンド薄膜層は、不純物や欠陥などが膜中に存在するため、バンドギャップ中に発光を妨げる再結合中心が現れ、バンド端発光は殆ど得られていない。この点を鑑みると、メタンガス濃度を低濃度として作製したダイヤモンド薄膜層は、極めて良質(高品質)の膜構成であることが分かる。
なお、この実施形態で使用するダイヤモンド薄膜層は、上記のように室温で紫外光を発光する程度に高品質のものであるが、同じ高品質ダイヤモンド薄膜層であっても、膜厚が薄い、例えば膜厚が200nm以下のものであれば、室温での紫外光発光が観察されないこともある。この実施形態では、そのような膜厚が薄いがゆえに室温で紫外光が観察されないような、高品質のダイヤモンド薄膜層をも含めて使用する。」(0015段落〜0017段落)と記載されている。
(b2)明細書の0017段落には、「なお、この実施形態で使用するダイヤモンド薄膜層は、上記のように室温で紫外光を発光する程度に高品質のものであるが、同じ高品質ダイヤモンド薄膜層であっても、膜厚が薄い、例えば膜厚が200nm以下のものであれば、室温での紫外光発光が観察されないこともある。この実施形態では、そのような膜厚が薄いがゆえに室温で紫外光が観察されないような、高品質のダイヤモンド薄膜層をも含めて使用する。」と記載されており、本願の実施形態(実施例)には、「膜厚が200nm以下」で、「室温で紫外光が観察されないような、高品質のダイヤモンド薄膜層をも含めて使用する。」とされており、一方、特許請求の範囲の請求項2には、「上記ダイヤモンド薄膜層は、膜厚を少なくとも200nm以上とした場合に室温で紫外光を発光する程度に高品質のものである、請求項1に記載のダイヤモンド半導体。」と記載されており、詳細な説明の記載と請求項の記載が整合していない。
(b3)また、明細書の0015段落から0017段落の記載及び図2からは、どのような条件でダイヤモンド薄膜層を形成すると、「膜厚を少なくとも200nm」「とした場合に室温で紫外光を発光する程度に高品質のもの」が形成できるか何ら記載されておらず、硫黄イオンを注入したダイヤモンド薄膜層についての記載(0021段落、0022段落、図3及び、図4)には、ダイヤモンド薄膜層の厚さは明確には記載されていないものの、図3からダイヤモンド薄膜層の厚さは300nm程度であること、さらに図4よりその厚さがイオン注入された層の厚さ(約250nm)とイオン注入されない厚さの合計であることが推測できる。結局、当初明細書等には、膜厚200nmのダイヤモンド薄膜層を形成した実施例が何ら記載されていない。
(b4)上記(b1)から(b3)(特に、膜厚200nmのダイヤモンド薄膜層を形成した実施例が何ら記載されていないこと)より、「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」が、審判請求人が主張するように、仮に、ダイヤモンド薄膜層の「膜厚」を意味するものでなく、ダイヤモンド薄膜層の「品質」を意味するものであるとしても、当初明細書等には膜厚200nmのダイヤモンド薄膜層を形成した実施例が何ら記載されていないので、当初明細書等には、「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層」は「実施例」として記載されていないから、「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」は、当初明細書等に記載されたものではない。
したがって、そもそも、「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」が当初明細書等に記載されたものではないので、補正前請求項1の「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として」を、補正後請求項1の「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%未満として」と補正して、請求項1の記載が多少明りょうとなったとしても、補正後請求項1の「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%未満として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」は当初明細書等に記載されたものではない。
よって、請求項1に係る発明についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

補正事項2について
補正事項2についての補正は、補正事項1に整合させるための補正であるから、「補正事項1について」において検討したと同様の理由により、当初明細書等に記載されたものではない。
よって、明細書の0007段落についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

(3-2)むすび
以上のとおりであるから、補正の目的の適否については検討するまでもなく、適法でない本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に適合しないものであり、本件補正は、特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成17年12月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件の請求項1及び2に係る発明は、平成17年8月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として、膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程と、
上記ダイヤモンド薄膜層に、硫黄、燐、リチウム、臭素、ヨウ素、ホウ素、シリコンの少なくとも1種類を不純物元素としてイオン注入するとともに、そのイオン注入に際しては、ダイヤモンド薄膜層を、イオン注入によるグラファイト化を十分に回避できる温度に加熱保持し、その加熱保持する温度の各々において存在する、グラファイト化することなく注入できる最大のイオン注入量以下の量でイオン注入するイオン注入工程と、を備え、
上記イオン注入により、注入した不純物元素が硫黄、燐、リチウム、臭素、ヨウ素のときn型の電気伝導を、ホウ素、シリコンのときp型の電気伝導をそれぞれ備えるダイヤモンド半導体を作製する、
ことを特徴とするダイヤモンド半導体作製方法。
【請求項2】 請求項1に記載のダイヤモンド半導体作製方法で作製した、ことを特徴とするダイヤモンド半導体。」

4.平成17年10月14日付けの拒絶理由通知について
当審における、平成17年10月14日付けの最後の拒絶理由通知の内容は以下のとおりである。

「理由1)本件出願は、その補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
理由2)本件出願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。



理由1.新規事項の追加について
(1)請求項1について
(a)「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として」、「ダイヤモンド薄膜層を作製する」点について
(a1)本願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「原料ガスは、炭素源であるメタンガスと水素ガスとの混合ガスであり、各ガスボンベ15,15から減圧弁(図示省略)およびマスフローコントローラ16,16を経て、ガス導入管6から反応容器13に導かれる。メタンガス側のマスフローコントローラ16には、0.5%以下の混合比(水素ガスに対するメタンガスの割合)を得るために精度の高いものを用いる。」(0012段落)及び、「図2はメタンガス濃度を低濃度にして作製したダイヤモンド薄膜層の紫外光範囲でのCLスペクトルを示す図である。図において、(a)はメタンガス濃度を低濃度、例えば0.016%〜2.0%として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルであり、(b)はメタンガス濃度を通常の濃度(例えば6.0%)として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルである。」(0015段落)と記載されている。
(a2)しかし、0012段落の「メタンガス側のマスフローコントローラ16には、0.5%以下の混合比(水素ガスに対するメタンガスの割合)を得るために精度の高いものを用いる。」に記載される「0.5%以下の混合比(水素ガスに対するメタンガスの割合)を得るために精度の高いもの」なる記載は、マスフローコントローラの性能を記載したものであって、0015段落に記載される「メタンガス濃度を低濃度、例えば0.016%〜2.0%として作製したダイヤモンド薄膜層」における、ダイヤモンド薄膜層作製条件であるメタンガス濃度の「0.016%〜2.0%」とは直接関連しないものであり、また、メタンガス濃度「0.016%〜0.5%」とメタンガス濃度「0.5%〜2.0%」とを区分するための根拠は当初明細書等に記載がなく、また、メタンガス濃度の前者の範囲で作製したダイヤモンド薄膜層とメタンガス濃度の後者の範囲で作製したダイヤモンド薄膜層との特性が異なるとの根拠が当初明細書等に記載されているとも認められないから、「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として」、「ダイヤモンド薄膜層を作製する」点は、当初明細書等に記載されたものではない。

(b)「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」について
(b1)当初明細書等には、「上記ダイヤモンド薄膜層は、膜厚を少なくとも200nm以上とした場合に室温で紫外光を発光する程度に高品質のものである、請求項1に記載のダイヤモンド半導体。」(特許請求の範囲請求項2)、「また、請求項2に記載の発明は、上記した請求項1に記載の発明の構成に加えて、上記ダイヤモンド薄膜層は、膜厚を少なくとも200nm以上とした場合に室温で紫外光を発光する程度に高品質のものである、ことを特徴としている。」(0008段落)、「図2はメタンガス濃度を低濃度にして作製したダイヤモンド薄膜層の紫外光範囲でのCLスペクトルを示す図である。図において、(a)はメタンガス濃度を低濃度、例えば0.016%〜2.0%として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルであり、(b)はメタンガス濃度を通常の濃度(例えば6.0%)として作製したダイヤモンド薄膜層のCLスペクトルである。
(a)のダイヤモンド薄膜層において、波長235nmのCL強度が顕著に大きくなっているが、この波長235nmの発光はダイヤモンドの自由励起子再結合による5.27eVの紫外光発光である。すなわち、(a)のダイヤモンド薄膜層は、室温においてダイヤモンドに固有のバンド端発光を顕著に示している。一方、(b)のダイヤモンド薄膜層は、不純物や欠陥などが膜中に存在するため、バンドギャップ中に発光を妨げる再結合中心が現れ、バンド端発光は殆ど得られていない。この点を鑑みると、メタンガス濃度を低濃度として作製したダイヤモンド薄膜層は、極めて良質(高品質)の膜構成であることが分かる。
なお、この実施形態で使用するダイヤモンド薄膜層は、上記のように室温で紫外光を発光する程度に高品質のものであるが、同じ高品質ダイヤモンド薄膜層であっても、膜厚が薄い、例えば膜厚が200nm以下のものであれば、室温での紫外光発光が観察されないこともある。この実施形態では、そのような膜厚が薄いがゆえに室温で紫外光が観察されないような、高品質のダイヤモンド薄膜層をも含めて使用する。」(0015段落〜0017段落)と記載されている。
(b2)明細書の0017段落には、「なお、この実施形態で使用するダイヤモンド薄膜層は、上記のように室温で紫外光を発光する程度に高品質のものであるが、同じ高品質ダイヤモンド薄膜層であっても、膜厚が薄い、例えば膜厚が200nm以下のものであれば、室温での紫外光発光が観察されないこともある。この実施形態では、そのような膜厚が薄いがゆえに室温で紫外光が観察されないような、高品質のダイヤモンド薄膜層をも含めて使用する。」(0015段落〜0017段落)と記載されており、本願の実施形態(実施例)には、「膜厚が200nm以下」で、「室温で紫外光が観察されないような、高品質のダイヤモンド薄膜層をも含めて使用する。」とされており、一方、特許請求の範囲の請求項2には、「上記ダイヤモンド薄膜層は、膜厚を少なくとも200nm以上とした場合に室温で紫外光を発光する程度に高品質のものである、請求項1に記載のダイヤモンド半導体。」と記載されており、詳細な説明の記載と請求項の記載が整合していない。
(b3)また、明細書の0015段落から0017段落の記載及び図2からは、どのような条件でダイヤモンド薄膜層を形成すると、「膜厚を少なくとも200nm」「とした場合に室温で紫外光を発光する程度に高品質のもの」が形成できるか何ら記載されておらず、硫黄イオンを注入したダイヤモンド薄膜層についての記載(0021段落、0022段落、図3及び,図4)には、ダイヤモンド薄膜層の厚さは明確には記載されていないものの、図3からダイヤモンド薄膜層の厚さは300nm程度であること、さらに図4よりその厚さがイオン注入された層の厚さ(約300nm)とイオン注入されない厚さの合計であることが推測できる。
(b4)上記(b1)から(b3)より、「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する」ことができるダイヤモンド薄膜層の作製条件は当初明細書等に何ら記載されておらず、「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」は、当初明細書等に記載されたものではない。
よって、請求項1に係る発明についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件に違反するものである。

(2)請求項2について
請求項2は、請求項1を引用するものであるから、「(1)請求項1について」に記載した理由により、請求項2に係る発明は、当初明細書等に記載されたものではない。
よって、請求項2に係る発明についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件に違反するものである。

理由2.記載不備について
(1)請求項1について
(a)「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下として」、「ダイヤモンド薄膜層を作製する」なる記載において、
(a1)「0.5%より以下」は、日本語として明りょうでなく、どのような技術的範囲を意味するか明りょうでない。
(a2)当初明細書等には、「メタンガス濃度を低濃度、例えば0.016%〜2.0%」としてダイヤモンド薄膜層を作製することは記載されている(0015段落)が、「気相成長時の水素ガス濃度に対するメタンガス濃度を0.016%以上で0.5%より以下」でダイヤモンド薄膜層を作製することは、当初明細書等に記載されていない。
(b)「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」なる記載において、
当初明細書等には、ダイヤモンド薄膜層の厚さを200nmとして作製し、電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するか否かについて確認した実施例は記載されておらず、どのような成膜条件で成膜すると、「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製」できるか明りょうでなく、「膜厚を200nmとした場合に電子ビーム照射を用いた励起により室温で紫外光を発光するダイヤモンド薄膜層を作製する薄膜層作製工程」は、「膜厚を200nmとした場合」の「場合」がどのような構成を意味するか明りょうでないので、上記工程は、どのような「工程」を意味するか明りょうでない。
よって、請求項1に係る発明の構成は明りょうでない。
(2)請求項2について
請求項2は、請求項1を引用するものであるから、「(1)請求項1について」に記載した理由により、請求項2に係る発明は、構成が明りょうでない。
よって、請求項2に係る発明の構成は明りょうでない。

最後の拒絶理由とする理由
1.最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要となった拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知である。」

5.拒絶理由についての検討
(理由1)について検討すると、平成17年10月14日付けの拒絶理由通知の(理由1)に関して「(1)請求項1について」及び「(2)請求項2について」で指摘した点については、平成17年12月26日付けの手続補正が上記のとおり却下されたため、依然として解消されていない。
(理由2)について検討すると、平成17年10月14日付けの拒絶理由通知の(理由2)に関して「(1)請求項1について」及び「(2)請求項2について」で指摘した点については、平成17年12月26日付けの手続補正が上記のとおり却下されたため、依然として解消されていない。
よって、本件出願は、その特許請求の範囲請求項1及び請求項2についての補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第17条の2第3項に規定する要件及び特許法第36条第6項に規定する要件のいずれをも満たしていないから、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-30 
結審通知日 2006-02-07 
審決日 2006-02-21 
出願番号 特願平11-206858
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 561- WZ (H01L)
P 1 8・ 55- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩原 周治土屋 知久棚田 一也  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 岡 和久
瀧内 健夫
発明の名称 ダイヤモンド半導体作製方法およびダイヤモンド半導体  
代理人 福田 伸一  
代理人 福田 賢三  
代理人 福田 武通  
代理人 福田 武通  
代理人 福田 賢三  
代理人 福田 伸一  

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