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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1134277
審判番号 不服2003-23498  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-04-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-04 
確定日 2006-04-12 
事件の表示 平成11年特許願第288294号「集電摺動用銅系耐摩焼結合金の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月17日出願公開、特開2001-107161〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年10月8日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成12年2月7日付けの手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「耐摩耗、耐アーク成分として単体Cr3〜20重量%、潤滑成分として黒鉛あるいは金属硫化物( MoS2 ,WS2 ) のいずれか一種ないし複数種2〜8重量%、潤滑強化成分としてBi2〜6重量%、焼結素地成分としてP1重量%以下、Sn4〜13重量%、残部Cuからなる粉末原料を混合後、圧縮成形し、これを非酸化性雰囲気中あるいは還元性雰囲気中で加熱して焼結体を得ることを特徴とする集電摺動用銅系耐摩焼結合金の製造法。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

2.当審の拒絶理由
これに対して、当審において平成17年9月8日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された特公昭55-44143号公報、及び特開昭53-144407号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3.引用刊行物の記載事項
(1)特公昭55-44143号公報(以下「刊行物1」という)
(1-ア)「2 重量比にて、二硫化モリブデン0.5〜6%、クローム2〜20%、錫4〜13%、隣0.2〜2%、残部銅粉よりな・・・る集電摺動用銅系耐磨焼結合金。」(特許請求の範囲の第2項)
(1-イ)「本発明により得られた耐磨焼結合金は、特に電気車のパンタグラフ用摺動板として優れた性能を発揮し・・・」(第1欄第29〜31行)
(1-ウ)「本発明において、二硫化モリブデンは銅-錫-燐の燐青銅・・・中にクロームが拘込まれた状態になつている焼結合金中に均斉に点在して高度の潤滑剤として作用する。」(第2欄第35行〜第3欄第1行)
(1-エ)「クロームは、銅-錫-燐-二硫化モリブデン・・・の焼結合金の中に抱き込まれて顕著な耐磨性を発揮するもので・・・」(第3欄第21〜23行)
(1-オ)「実施例1
二硫化モリブデン35%、クローム12%、錫7%、燐0.2%、残部銅の割合で各粉末を混合機を用いて均斉に混和し、これを5T/cm2で圧縮成型し、還元ふん囲気中で880℃で加熱焼結して焼結合金を得た。」(第4欄第9〜14行)

(2)特開昭53-144407号公報(以下「刊行物2」という。)
(2-ア)「高温用潤滑材としてBi単体・・・を3〜20重量%含有することを特徴とする鉄道車両用の銅系焼結合金ライニング。」(特許請求の範囲第1項)
(2-イ)「一般に焼結摩擦材料は、結合材である素地と潤滑を促進する潤滑材と摩擦係数を調整する研削材の三つから構成されている。」(第1頁左欄第15〜17行)
(2-ウ)「・・・固体層状潤滑材として多くの焼結合金に添加されている黒鉛、MoS2及びWS2 などの金属硫化物などは400℃以上の高温でその潤滑効果が低下するか、または不可能になり、引き続き使用すればライニングが相手材に焼つき摩擦係数が不安化し、ライニングの摩耗は著しく増大し、相手材にキレツなどを生ずるばかりか、ひどい場合は機構そのものを損傷するおそれがある。
又、従来から知られている高温用潤滑材、たとえばPbOは低温域での潤滑性が得られない。」(第1頁右欄第12行〜第2頁左上欄第2行)
(2-エ)「本発明の高温用潤滑材は、前述した固体潤滑材が温度的に限界に達する前のかなり低い温度からその機能を発揮し始め、沸点に達するまでのきわめて広い範囲にわたつて円滑な潤滑をするものである。
具体的には、Bi単体の場合271℃・・・に融点をもつ・・・からその温度以上に摩擦面が達すると、Bi・・が摩擦面に溶け出して溶融金属の薄い流体膜を呈し、境界潤滑となり、円滑な摩擦状態を長時間にわたつて維持することが可能となる。・・・
従来の高温用潤滑材はその潤滑開始温度が330℃以上のものが多く、固体潤滑材による効果を失い始める温度または失つてから高温用潤滑材が効果を発揮するため、摩擦係数がそれらの境界温度域内で不安定化しライニングの摩耗も定常状態からはずれる場合がある。
本発明はこの点を十分に考慮してなされたものであり、従来の潤滑開始温度より約50℃〜190℃も低い温度から潤滑するために、特に低温域でのライニングの摩耗が極端に少なくなるという利点がある。」(第2頁左上欄第3行〜同頁右上欄第8行)
(2-オ)「本発明よりなる車両用ブレーキの銅系焼結合金ライニングは低い温度から高い温度域まで潤滑効果を発揮するので摩擦材の摩耗が少なく資源の節約が可能になるとともに、摩擦面の温度上昇を抑制し焼きつきを防止する上で有効であり・・・」(第3頁左上欄第9〜14行)

4.当審の判断
(1)刊行物1発明
刊行物1の(1-ア)には、「二硫化モリブデン0.5〜6%、クローム2〜20%、錫4〜13%、隣(注:「燐」の誤記と認める)0.2〜2%、残部銅粉よりな・・・る集電摺動用銅系耐磨焼結合金」が記載されており、(1-ウ)の記載によると「二硫化モリブデンは銅-錫-燐の燐青銅・・・中にクロームが拘込まれた(注:「抱き込まれた」の誤記と認める)状態になつている焼結合金中に均斉に点在して高度の潤滑剤として作用する」ものであり、(1-エ)の記載によると「クロームは、銅-錫-燐-二硫化モリブデン・・・の焼結合金の中に抱き込まれて顕著な耐磨性を発揮する」ものであり、(1-オ)の記載によると、この耐磨焼結合金は、二硫化モリブデン、クローム、錫、燐、銅の「各粉末を混合機を用いて均斉に混和し、・・・圧縮成型し、還元ふん囲気中で880℃で加熱焼結して」得られるものである。
以上の記載によると、クローム(Cr)は銅-錫-燐(Cu-Sn-P)の燐青銅中に抱き込まれているから「単体」の状態であって、耐磨性を発揮するから「耐摩耗成分」であるといえるし、「銅-錫-燐の燐青銅」は、クロームを抱き込み、二硫化モリブデン(MoS2 )を均斉に点在させる「焼結素地成分」であるといえるから、刊行物1には、「耐磨耗成分として単体Cr2〜20重量%、潤滑成分として金属硫化物( MoS2 )0.5〜6重量%、焼結素地成分としてP2重量%以下、Sn4〜13重量%、残部Cuからなる粉末原料を混合後、圧縮成型し、これを還元性雰囲気中で加熱して焼結体を得る集電摺動用銅系耐摩焼結合金の製造法。」の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「刊行物1発明」という。)。

(2)対比
本願発明(前者)と、刊行物1発明(後者)とを対比すると、後者の「圧縮成型」は前者の「圧縮成形」と同様の意味と認められるから、両者は「耐摩耗成分として単体Cr3〜20重量%、潤滑成分として金属硫化物( MoS2 )2〜6重量%、焼結素地成分としてP1重量%以下、Sn4〜13重量%、残部Cuからなる粉末原料を混合後、圧縮成形し、これを還元性雰囲気中で加熱して焼結体を得る集電摺動用銅系耐摩焼結合金の製造法。」である点で一致し、下記の点で相違する。
相違点1:前者は、Crが「耐アーク」成分であるのに対して、後者は、Crが耐アーク成分であるかどうか不明である点。
相違点2:前者は、粉末原料に潤滑強化成分としてBi2〜6重量%を含むのに対して、後者は、Biを含まない点。

(3)判断
(i)相違点1について
刊行物1の(イ)の記載によると、刊行物1発明は「電気車のパンタグラフ用摺動板」に用いて優れた性能を発揮する合金に係るものであり、そのような用途の合金であれば、当然に「耐アーク性」が要求される性質であるところ、Crが「耐アーク性」を示す成分であることは、例えば特開昭58-217653号公報の第2頁右下欄第8〜17行に記載されるように周知であるから、刊行物1発明におけるCrも「耐アーク」性を示す成分として用いられていることは、当業者が容易に予想し得る事項であるにすぎない。

(ii)相違点2について
本願発明におけるBiは、本願明細書の記載によると、「・・・銅系各すり板の母胎となる・・・Cu-Sn-Pの焼結素地は・・・含有する潤滑成分は黒鉛では550℃、MoS2では400℃以上になると酸化消耗が進行し、潤滑性が低下する性質がある。従って、高速大集電電流で電気車が走行した場合、架線との離線に伴うアーク等により潤滑成分が酸化消耗して潤滑不足を来たし、すり板の摩耗が急増する・・・」(【0005】)という課題を解決するために添加されるものであり、「271℃以下の温度域では黒鉛、MoS2 などは非酸化状態の固体として存在し、本来の良好な潤滑性を示すが、Biの添加によってその潤滑性能は更に向上する。次に271℃を越え、550℃ないし400℃までの温度域では固体状態の黒鉛、MoS2 などに流体状態となったBiが作用して潤滑性能はより一層改善される。550℃、400℃を越える温度域では、Biの流体潤滑が機能することによりすり板の摩耗増大を抑制する。」(【0014】)という作用・効果を示すものであるから、本願発明におけるBi添加の技術的意義は、Biの融点である271℃以下の低温から550℃ないし400℃を超える温度域に渡り、焼結合金に良好な潤滑性を与える点にあるといえる。
刊行物2には、結合材である素地と潤滑材と研削材とを含む銅系焼結摩擦材料において(記載(2-イ))、従来から用いられる黒鉛、MoS2及びWS2 などの固体潤滑材は400℃以上の高温でその潤滑効果が低下し、摩耗が増大するが(記載(2-ウ))、Biを3〜20重量%添加することにより(2-ア)、従来の高温用潤滑材(PbO)の潤滑開始温度(330℃以上)より約50〜190℃低い温度から固体潤滑材(黒鉛、MoS2及びWS2 など)が限界に達する温度(400℃)を超えて沸点に達するまでのきわめて広い範囲にわたって円滑な潤滑機能、及び耐摩耗性を発揮する(記載(2-エ)、(2-オ))ことが記載されている。
そうすると、刊行物2には、潤滑性、耐摩耗性が求められる銅系焼結合金において、黒鉛、MoS2及びWS2 などの固体潤滑材以外にBiを潤滑強化成分として3〜20重量%添加することによって、Biの融点以下の低温から400℃を超える温度域にわたり、良好な潤滑性、耐摩耗性を付与することが記載されているといえる。
一方、刊行物1発明に係る焼結合金は、その具体的な用途を「電気車のパンタグラフ用摺動板」とするものであって(記載(1-イ))、そのような用途の焼結合金には電気車の速度アップに伴う低温から400℃以上の高温使用に耐えるために、広い温度範囲にわたる潤滑性、耐摩耗性が要求されていたことは、例えば特開平6-33163号公報【0004】、【0005】に記載のように本願出願当時周知の課題であったといえる。
そうすると、刊行物1発明における上記周知の課題を解決するために、刊行物2記載のBi添加による広い温度範囲における潤滑性、耐摩耗性の付与手段を適用し、その際、Bi含有量を刊行物1発明に係る具体的な用途である「電気車のパンタグラフ用摺動板」の特性規格の範囲内となるように選択し、刊行物2記載のBi含有範囲と重複する2〜6重量%とすることは、当業者が容易になし得る設計的事項であるといえる。

(iii)小括
したがって、本願発明はその出願前に頒布された刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)審判請求人の主張に対しての補足
(i)審判請求人の主張
平成17年11月28日付け意見書において、審判請求人は、概略以下の主張をしている。
(A)刊行物2に記載された発明は、電気的特性を問われない「ブレーキライニング」に係る発明であるから、電気的特性を問われる「電気車パンダグラフに装着されるすり板」に係る本願発明とは技術分野を異とし、また、研削材を必須とする発明であって、研削材の有無によりBi添加の冶金学的な意味は異なるから、拒絶理由における進歩性の判断は本願発明に係る「すり板」の技術的な意義を無視した錯誤である。
(B)本願発明のBi含有量は、「高速電気車のパンタグラフすり板」としての規格に適合するという臨界的意義を有するものであり、単なる設計的事項ではない。

(ii)当審の判断
(A)に対して
刊行物2における「ブレーキライニング」は、広い温度範囲に渡る潤滑性、耐摩耗性が求められる技術分野に属するものであって、本願発明や刊行物1発明においても同様の特性が求められているから、刊行物2記載のBi添加による潤滑性、耐摩耗性に関する課題解決手段を、刊行物1発明に適用して本願発明とすることが当業者にとって想到困難であるということはできないし、そのような適用が、例えば電気的特性の面で刊行物1,2の記載及び技術常識から阻害されているとする要因を見出すこともできない。
また、刊行物2に記載のBi添加の作用・効果は研削材を有しない本願発明のものと同様であるから、研削材の有無によってBi添加の冶金学的な意味が異なるとか、作用・効果が異なるという証拠も見出せない。
(B)に対して
本願発明に係る合金の用途は「高速電気車のパンタグラフすり板」のみに限定されるものではないから、上記限定された用途の規格に適合するか否かが本願発明に臨界的意義を与えるものとはいえない。
仮に、本願発明に係る合金の用途が上記「高速電気車のパンダグラフすり板」に限定されるとしても、上記用途における既存の規格に適合する範囲内でBi含有量を検討し、刊行物2に開示のBi含有量の範囲と重複する程度の範囲とすることは当業者にとって格別困難であるとは認められず、設計的事項という外ない。
よって、審判請求人の上記主張は受け入れることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願は当審で通知した上記拒絶理由により拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-21 
結審通知日 2006-01-24 
審決日 2006-02-06 
出願番号 特願平11-288294
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 平塚 義三
吉水 純子
発明の名称 集電摺動用銅系耐摩焼結合金の製造法  
代理人 秋本 正実  
代理人 秋本 正実  
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