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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1134279
審判番号 不服2004-2141  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-09-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-02-05 
確定日 2006-04-12 
事件の表示 平成10年特許願第339587号「アジスロマイシンによる眼感染症の治療法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月 7日出願公開、特開平11-240838〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成10年11月30日(パリ条約による優先権主張 1997年12月2日 米国)の出願であって、平成15年10月29日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年2月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月16日付で手続補正がなされたものである。

2.平成16年2月16日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年2月16日付の手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「治療の必要のあるヒト以外の動物の眼に眼感染症治療量のアジスロマイシンを、1日1回局所投与することからなる眼感染症の治療方法。」と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である局所投与を1日1回とするとの限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例の記載の概要
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物には次の事項が記載されている。

Ophthalmology,Vol.103,p.842-846,1996(以下、引用例1という。)
活性トラコーマの治療においてアジスロマイシンの一回経口投与は局所テトラサイクリン軟膏の6週間治療と同等の効果を奏すること。アジスロマイシンはエリスロマイシン誘導体であり、アザライドと呼ばれる新しいクラスの抗生物質の最初のものであること。(p842〜843)
アジスロマイシン、エリスロマイシンによりペプチド合成は阻害されるが、アジスロマイシンはリボゾーム結合サイトにより効果的に拮抗するようである。アジスロマイシンは強制細胞内病原体であるクラミジアを根絶するのに有益な高い細胞内濃度をもたらす。更に重要なことは、アジスロマイシンは高組織バイオアベイラビリテイーを有し、2から4日の組織半減期を有する。これらの薬物動態は、アジスロマイシンの投与期間を減少させることができる一方感染部位での高い抗生物質活性を達成できることを意味する。(p845)

「メルクマニュアル 第16版」,(有)メディカルブックサービス,
1995年5月1日,p.2266-2267(以下、引用例2という。)
トラコーマの治療にテトラサイクリンかエリスロマイシンの眼軟膏を1日2回または4回、4から6週間にわたって投与するのが、通常効果的であること。テトラサイクリンやエリスロマイシンの経口投与を同時に行うことも有効であること。

「新訂 病気と薬剤」,株式会社薬事日報社,1986年6月15日,
p.583-594 (以下、引用例3という。)
昔も今も眼疾患に対する治療の主体が点眼治療であることに変わりがないこと(p583)。エリスロマイシン、テトラサイクリンなど各種の抗生物質が点眼液又は点眼軟膏として局所使用されること。(p590)

国際公開第96/20010号パンフレット(1996)
(以下、引用例4という。)
微生物におけるメチレーションを阻害する第2の薬剤と抗生物質との組み合わせからなる組成物(p184)の発明に関し、使用可能なマクロライド系抗生物質の1種であるアジスロマイシン、エリスロマイシンについて以下の記載がある。
新アザライド抗生物質であるアジスロマイシンは1991年に臨床利用が承認された。この抗生物質は広い抗菌スペクトルを有し、血清抗生物質レベルより大きい組織抗生物質レベルを保持し、長い組織半減期を有する。これにより治療過程でより少ない投与量の使用が可能である。(p47)
通常の経口投与の場合のエリスロマイシンの適用量は250mg1日4回、アジスロマイシンの適用量は1gを1回のみ、500mgを1日、プラス250mg、2-5日であること。(p52、表4)
クラミジア・トラコーマテイスに対しin vitroでのエリスロマイシンのMIC90は0.004、アジスロマイシンのMIC90は0.001であること。(p65)
薬学的組成物の製剤例として眼科用溶液が挙げられ、0.05から0.5%濃度の溶液、懸濁液、軟膏として、目に適用されること(p155〜157)

(3)対比

引用例1にはトラコーマ患者にアジスロマイシンを1回経口投与することによりトラコーマを治療する方法が記載されている。
そこで、本願補正発明と引用例1に記載の治療方法とを比較すると、両者は、「治療の必要のある動物に眼感染症治療量のアジスロマイシンを投与することからなる眼感染症の治療方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]本願補正発明は、眼に1日1回局所投与するが、引用例1では経口投与を1回行う点

[相違点2]本願補正発明ではヒト以外の動物を対象とするが引用例1ではヒトで行っている点。

(4)判断

[相違点1]について
引用例1の臨床試験ではアジスロマイシンの経口製剤がトラコーマ患者の治療に使用されているが、引用例3にも記載のとおり眼疾患に対する治療の主体は点眼治療であるというのが当業界の常識であるから、アジスロマイシンがトラコーマに対し有効であることが確認されている以上、点眼剤としての使用を検討することは当業者が当然に想起しうることである。
そして、アジスロマイシンがエリスロマイシンの誘導体の1種であること、エリスロマイシンはすでに眼軟膏として使用されていることが周知であり、引用例4には各種の抗生物質(アジスロマイシンの例示もある)とメチレーションを阻害する第2の薬剤(抗生物質に対する耐性獲得防止のための薬剤)との配合剤として点眼剤も挙げられていることからすれば、エリスロマイシンと同様にアジスロマイシンを点眼剤とし、局所投与することによって治療を行うことに格別の困難性を見いだすことはできない。
また、トラコーマの原因菌に対しアジスロマイシンがエリスロマイシンより少量で作用し(引用例4,表7)、かつ組織での半減期が長いこと(引用例1、4)も知られているのであるから、アジスロマイシンはエリスロマイシン眼軟膏における1日2回または4回の用法よりも少ない1日1回の用法とする点も、当業者が容易に導くことができる範囲のものである。

[相違点2]について
トラコーマの原因菌はヒトも動物もChlamydia trachomatisであるから、治療の対象をヒト以外の動物の治療に限定したことに格別な技術的意義はない。
そして、本願明細書の記載から見て、本願補正発明の作用効果も、引用例1〜4から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年2月16日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成14年9月2日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「治療の必要のあるヒト以外の動物の眼に眼感染症治療量のアジスロマイシンを、局所投与することからなる眼感染症の治療方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例およびその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「局所投与」について「1日1回」とする点を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1〜4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1〜4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-15 
結審通知日 2005-11-17 
審決日 2005-12-02 
出願番号 特願平10-339587
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中木 亜希  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 谷口 博
中野 孝一
発明の名称 アジスロマイシンによる眼感染症の治療法  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 増井 忠弐  
代理人 村上 清  
代理人 社本 一夫  

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