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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680233 審決 特許
不服200321874 審決 特許
不服200312697 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63F
審判 全部無効 2項進歩性  A63F
管理番号 1134300
審判番号 無効2005-80147  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-19 
確定日 2006-04-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第3568691号発明「遊技機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯・本件特許発明
本件特許第3568691号(以下「「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る発明(以下「本件特許発明1」及び「「本件特許発明2」という。)についての出願は、平成8年7月5日に出願され、平成16年6月25日にその発明について特許の設定登録がされた。
これに対して、請求人は、平成17年5月19日に無効審判を請求し、
(1)本件特許の請求の範囲の記載は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、
および、
(2)「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」は甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、したがって、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされた、と主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証を提出して、本件特許を無効にする旨の審決を求めた。
これに対して、被請求人は、平成17年8月5日付けで、答弁書を提出している。

「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」は、特許された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数の図柄を可変表示する可変表示部と、該可変表示部の可変表示を停止させる停止指令信号を発生する停止手段と、前記可変表示部の可変表示が停止した時の表示態様について乱数サンプリングにより入賞判定を行い、その判定結果に基づいて前記停止指令信号発生後の可変表示部の可変表示動作を所定の動作範囲内で停止制御する制御部とを備えた遊技機において、前記制御部は、前記判定結果に基づいて要求されている図柄停止位置が前記所定の動作範囲内で停止可能な図柄停止位置のいずれかに該当するかどうかを一つずつ照合する照合手段と、該照合手段によって照合される順序を異ならせて設定する複数の照合順序設定部と、該複数の照合順序設定部の中から特定条件に基づいていずれか一つの照合順序設定部を選択する選択手段とを含み、前記選択手段によって選択された照合順序設定部に設定された照合順序に従って照合し、該当する図柄停止位置で前記可変表示部の可変表示動作を停止させることを特徴とする遊技機。
【請求項2】
前記照合順序設定部と前記特定条件とをテーブルメモリ内に記憶させて構成することを特徴とする請求項1記載の遊技機。」


2.請求人の主張
請求人は、次の(1)、(2)の理由により、本件特許は無効とすべきものであると主張している。
(1)請求人の主張する無効理由1:
本件特許の請求項1に記載された「乱数サンプリングにより入賞判定を行う」の意味が、「取得した乱数値」と「入賞判定」との関係が不明であるため、不明である。
また、同請求項に記載された「可変表示部の可変表示が停止した時の表示態様について乱数サンプリングにより入賞判定を行い」は、「停止後に乱数サンプリングにより入賞判定を行い」と読めるから、発明の詳細な説明と矛盾しており、請求の範囲の記載が明確でない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件をみたしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

(2)請求人の主張する無効理由2:
「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから無効とすべきである。
証拠方法として次の甲第1ないし4号証を提出。

甲第1号証:特開昭59-186580号
甲第2号証:特開平6-304300号
甲第3号証:月刊パチスロ必勝ガイド 株式会社白夜書房 平成5年2月1日発行、第36、37頁
甲第4号証:月刊パチスロ必勝ガイド 株式会社白夜書房 平成7年10月1日発行、第8、9頁

3.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、本件特許の特許請求範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす、また、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものではない、と主張している。

4.請求人の主張する無効理由1(上記2.の(1))についての当審の判断
「入賞」は「内部入賞」という用語が用いられることからも解るように、実際にパチスロ機において図柄が停止する以前に発生する事象を指す用語として用いることを許容するものであり、本件特許の場合、「可変表示部の可変表示が停止した時の表示態様について乱数サンプリングにより入賞判定を行い」なる記載の意味するところが、発明の詳細な説明及び図面から理解されるものであることは明らかであって、請求人の主張する記載不備はない。
すなわち、段落番号0031の「前記乱数発生器36は、一定の数値範囲に属する乱数を発生し、乱数サンプリング回路37によって、スタートレバー11が操作された後の適宜のタイミングで1個の乱数をサンプリングする。こうしてサンプリングされた乱数は、ROM32内に格納されている入賞確率テーブルにおいて、どの入賞グループ(入賞の種類)に属するかが判定される。」、段落番号「0036」の「・・・スタートレバー11を操作すると、その操作を検出するスタートスイッチ89からの信号に応じて、・・・ ・・・適宜のタイミングで乱数発生器36から1個の乱数をサンプリングし、この乱数について、ROM32内の入賞確率テーブルにおいてどの入賞グループに属するかを判定する。そして、CPU31は、遊技者が停止スイッチ12,13,14を操作した時、停止指令信号発生回路50からの停止指令信号の発生タイミングで入賞判定の結果に沿うように、前記照合順序選択テーブル100及び照合順序設定テーブル200から、各リール2,3,4を何シンボル数(コマ数)滑らせて停止させるかを決定し、モータ駆動回路44に制御信号を送り、各リールを決定されたシンボル数分滑らせて停止する。」及び段落番号0046の「初めに、上記乱数発生器36及び乱数サンプリング回路37によってサンプリングされた乱数値が入賞か否かを判定し(ST20)、入賞の場合には、特定条件の一つである乱数値がどのような入賞の価値に該当するかにより、入賞の種類(入賞グループ)を特定する(ST21)。」の記載から、乱数サンプリングによって入賞の種類を特定していることが解る。
また、「可変表示部の可変表示が停止した時の表示態様について」も、「時」は将来的に発生する「時」も意味する。
「停止した時の表示態様」は停止した後には確定しているものであるが、停止する以前であっても「停止した時の表示態様」について何らかの動作が行われることは不合理なことではなく、例えば遊技機において図柄始動時に抽選等で大当たりが決定されれば、停止操作が制御可能な範囲内である限りにおいて「停止した時」の表示態様が抽選で決定した態様となる様に、滑らせて停止させるという制御をする、という動作は通常おこなわれている。

後の時点で発生する事象「について」何らかの動作が行われることは、その動作が後の時点で発生する事象と関係があるものである限り、不合理なことではない。
「入賞判定」という用語が意味する動作が「すでに発生した事象」についておこなうもののみであるならば、すでに発生した事象の原因となる事象があとから発生する筈がないから、この記載は不合理である、といえるが、「乱数サンプリングによる入賞判定」は、本件特許明細書段落番号0004の「【0004】例えば、可変表示部としてリールが3個で、入賞判定ラインが5本あるスロットマシンにおいて、乱数サンプリングによる入賞判定の結果、特定の図柄「◎」を有効ライン上に3つ並ばせるような停止制御を行うとした場合、図13に示すように、第1リールは、「◎」の図柄がスロットマシンの表示窓から見えるところの一番上に位置して停止した後、右側の第2リールは、太線で囲まれた図柄が表示窓から見えた状態とする。このとき、リールの回転により、各図柄は矢印の方向に移動中である。」の記載から理解されるように、どの入賞(またはハズレ)になるように制御するか、すなわち、その入賞(またはハズレ)に対応する表示態様で停止するように、停止操作が制御をおこなう範囲内(「スベリ」の範囲内)でなされたものである限り制御するという、その入賞(上記記載でいえば、「特定の図柄「◎」を有効ライン上に3つ並ばせるような」入賞)をどれにするかを予め決定するものであるのだから、「本件特許発明1」においては、「入賞判定」という用語は、すでに発生した事象についておこなうもののみを意味する用語ではなく、入賞(またはハズレ)となる表示態様で停止しやすいように、その後制御する、その表示態様をどれにするかを決定する抽選を意味することが明らかであるので、あえて不合理な解釈をするほどの不適切な記載ではない。
すなわち、乱数サンプリングによる「入賞判定」は、その後の時点である「停止した時」の表示態様に影響を及ぼすものであり、可変表示が停止してから実行されるものでないことは明らかであるのだから、請求人の主張する記載不備はない。

5.請求人の主張する無効理由2(上記2.の(2))について

5-1.甲第1号証ないし甲第4号証の記載事項

甲第1号証(特開昭59-18650号)には、次の事項が記載されている。

記載事項1:「本発明スロットマシンでは、ゲーム毎にサンプリングされる乱数値を予め設定記憶された入賞確率テーブル中の数値と照合してその入賞を決定するようにしてある。そして、こうして決定された入賞に見合うシンボルマークの組み合わせが得られるように、あるいは得られ易いように、各リールをリールストップボタンが操作されてから停止させるまでの間に監視制御するものである。」(第2頁左下欄第18行-右下欄第6行)

記載事項2:「スタートレバー操作により、3つのリールが回転され、所定時間の経過後、後述するヒットリクエストの設定(入賞の有無を照合)を行なってリールストップのためのストップボタンの操作の有効化およびその表示のためのストップランプ(第1図中27に対応)を点灯させる。第4図における判断プロセスP1、P2、P3はそれぞれ、回転中の3個のリールについて、ストップボタンが操作されたか否かによって判断処理される。そしてストップボタンに対応したリールが回転中、かつストップボタンが操作された場合に、そのリールをストップさせることになる。」(第3ページ左下欄第4-15行)

記載事項3:「入賞判定に際しては、リールの各シンボルマークを電気的信号として得るために、リールに各シンボルマーク毎に設けられた光電信号部をフォトセンサで読み取ったり、あるいはパルスモータでリールを駆動するものでは、リール1回毎にリセットパルスが得られるように、リールの1カ所に信号部を設けておき、停止するまでに前記リセットパルスの発生以降パルスモータに何パルス信号供給されたかで判別できることになる。また入賞判定は、各リールのシンボルマークを前述のようなコード信号として、その組み合わせを後述のROMメモリと照合する。そして入賞している場合にはリクエスト減算処理、すなわち予め予定された入賞回数カウンタから-1の減算を行なったうえ、入賞メダル支払いのためのホッパーモーターを駆動してメダルを払い出す。」(第3ページ右下欄第1-16行)

記載事項4:「ROM51には前述したシンボルマークとシンボルマークコードとの対応表、入賞に相当するシンボルマークコードおよび入賞メダル支払い枚数表の他、実行されたゲームに関して入賞させるか否かを決定し、入賞させる場合にその入賞の高低に応じたヒットリクエストを発生させる入賞確率テーブルなどがストアされている。」(第4頁左上欄第4-10行)

記載事項5:「次に本発明の特徴であるヒットリクエストの発生に関して詳述する。ヒットリクエストの発生は、前述のようにゲーム開始時にサンプリングされる乱数値と、ROM上の入賞テーブルにストアされた入賞を与えるべき数値群との照合の結果得られることになる。」(第4頁左下欄第20行-右下欄第5行)

記載事項6:「以上のようにしてヒットリクエストの発生がなされるが、次にこのヒットリクエストの発生に伴うリールの回転停止制御について述べる。」(第5頁右下欄第19行-第6頁左上欄第1行)

記載事項7:「従って仮にストップボタンが押されてからリールが1回転するまでの間に実際にリールを停止させればよいものとすれば、リセット信号発生からストップボタン操作までの間にモータに送られたパルス数を考慮して、さらに送るパルス数を調節することで任意のシンボルマークが窓に現れて停止するようにすることが可能となる。」(第6頁右上欄第12-18行)

記載事項8:「そこで前述した基本的形態を更に発展させ、以下に説明する構成によりストップボタンが操作された時点から限られた時間内にリールを停止させ、しかも可能な限り得られたヒットリクエストに応じたシンボルマークの組み合わせでリールを停止させるようにするものである。 このため、まずストップボタンの操作後、シンボルマークが例えば4個分移動するまでの間にリールを停止させるようにするものとする。そしてストップボタンが操作された時点でのリールの位置から、これに後続しているシンボルマーク4個までの計5個のシンボルマークが何であるかをチェックするようにしてある。このようにシンボルマークをチェックして、すでにセットアップされたヒットリクエストに対応するシンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマークがその5個のチェック範囲内にあればそこでリールを停止させることになる。」(第6頁左下欄第10行-右下欄第8行)

記載事項9:「リールの処理は4コマずれを想定して説明してきたが、このためヒットリクエストに対応したシンボルがその4コマずれの範囲内に存在しないこともあり得る。(特に大ヒットシンボルは少ないため、充分あり得る。)このような場合にはヒットリクエストを満足しない結果となってしまい、設定された入賞確率が低下することになり、特に大ヒットでその影響が大きくなる。これを適正化するためには、ヒットリクエストが発生されながらも入賞なしとなった場合にはそのヒットリクエストを次回のゲームまで保存するようにすればよい。なお、4コマずれをさらに増して例えば10コマずれまでのチェック、停止制御ができるようにすれば、ヒットリクエストの達成確率が向上されることは言うまでもない。」(第9頁右下欄第10行-第10頁左上欄第4行)

上記記載事項1〜9、及び甲第1号証の第16図フローチャート中の「+1コマずれを仮定して窓位置のシンボルナンバーチェック」の記載から見て、甲第1号証には次の発明(以下「引用発明1」という)が記載されている。
「引用発明1」
「3つのリールが回転され、ゲーム毎にサンプリングされる乱数値を予め設定記憶された入賞確率テーブル中の数値と照合して入賞を決定し、決定された入賞に見合うシンボルマークの組み合わせが得られるように、あるいは得られ易いように、各リールをリールストップボタンが操作されてから停止させるまでの間に監視制御するものであって、前述のようにゲーム開始時にサンプリングされる乱数値と、ROM上の入賞テーブルにストアされた入賞を与えるべき数値群との照合の結果ヒットリクエストが発生され、ストップボタンが操作された時点から限られた時間内に可能な限り入賞の高低に応じたヒットリクエストに応じたシンボルマークの組み合わせでリールを停止させるように制御するスロットマシンであって、ストップボタンが操作された時点でのリールの位置から、これに後続しているシンボルマーク4個までの計5個のシンボルマークが何であるかを一つずつチェックし、ヒットリクエストに対応するシンボルマークがその5個のチェック範囲にあればそこでリールを停止させるスロットマシン。」

甲第2号証(特開平6-304300号公報)には、次の事項が記載されている。
記載事項10:「【従来の技術】従来、この種のスロットマシンとしては、複数のリールと、これらのリールの回転を開始させるスタートスイッチと、前記リールを個々に停止させる複数のストップスイッチと、前記スタートスイッチからのスタート信号に基づいて全てのリールの回転を開始させるとともに、前記各ストップスイッチからのストップ信号に基づいて対応するリールの回転を停止させるリール駆動制御手段とを備えたものが知られていた。」(段落番号0002)

記載事項11:「【発明が解決しようとする課題】しかし、上記した従来のスロットマシンでは、その表示窓の上ラインに特定の停止図柄が片寄る傾向があるという問題点があった。」(段落番号0004)

記載事項12:「【0005】しかし、遊技者からみると、表示窓の上ラインに特定の図柄が集中すると、リールが不自然に停止して見え易い。そこで、請求項1記載の発明は、上記した従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、予め進み駒数を停止駒数指定テーブルに適正に配置することで、リールが不自然に停止するのを防止しようとするものである。
【0006】これに加え、請求項2記載の発明は、停止駒数指定テーブルを乱数に基づいて選択させることで、より自然にリールが停止するようにしたものである。」(段落番号0005、0006)

記載事項13:「【0021】前記リール駆動制御手段90は、乱数を発生させる乱数発生手段91と、スタートスイッチ60からのスタート信号に基づいて、乱数発生手段91により発生した乱数を抽選する乱数抽選手段92と、各リール30〜32の図柄に対応した駒番号と進み駒数とを記憶した複数の停止駒数指定テーブル93・・・と、前記乱数抽選手段92により抽選された乱数に基づいて、複数の停止駒数指定テーブル93から特定の停止駒数指定テーブル93を選択するテーブル選択手段94と、このテーブル選択手段94により選択された特定の停止駒数指定テーブル93を使用し、前記各ストップスイッチ70〜72からのストップ信号の入力時の駒番号から、前記特定の停止駒数指定テーブル93に記憶されている進み駒数を読み取り、この読み取った進み駒数だけ、ストップ信号の入力時の駒番号を進めるテーブルデータサーチ手段95とを備えている。」(段落番号0021)

記載事項14:「【0035】上記ステップ120において、スタートスイッチ60がオンとされた場合には、図6に示すように、次のステップ121に進み、乱数抽選が行われる。この抽選は、スタートスイッチ60からのスタート信号の入力を条件に、乱数抽選手段92により処理され、具体的には、乱数発生手段91により発生した乱数から抽選される。上記乱数抽選後、図6に示すように、ステップ121からステップ122に進み、テーブル選択が行われる。この選択は、テーブル選択手段94により処理され、具体的には、乱数抽選手段92により抽選された乱数に基づいて、複数の停止駒数指定テーブル93から特定の停止駒数指定テーブル93が選択される。」(段落番号0035)

記載事項15:「【0038】上記サーチ終了後、図6に示すように、ステップ125からステップ126に進み、第1リール30の回転が停止される。この停止は、図1に示すように、テーブルデータサーチ手段95により制御され、具体的には、指定された駒数に達すると、第1ステッピングモータ40への駆動パルスの出力が停止される。より具体的に説明すると、図4に示した停止駒数指定テーブルが選択された場合を例に挙げると、例えば駒番号の第12番目の位置で、第1ストップスイッチ70からのストップ信号が入力された場合には、進み駒数の値が、「2」となっている。このため、駒番号の第12番目に「2」を加えた、第14番目の駒番号に、第1リール30が停止する。その結果、中央ライン21を基準に考えると、中央ライン21には、図3に示すように、「7」の図柄が、上ライン22には「CH」、すなわちチェリーの図柄が、下ライン23には「BE」、すなわちベルの図柄が表示される。」(段落番号0038)

記載事項16:「【0044】【発明の効果】本発明は、以上のように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。請求項1記載の発明によれば、予め進み駒数を停止駒数指定テーブルに適正に
配置することで、リールが不自然に停止するのを防止することができる。
【0045】これに加え、請求項2記載の発明によれば、停止駒数指定テーブルを乱数に基づいて選択させることで、より自然にリールが停止するようにできる。」(段落番号0044、0045)


甲第3号証(月刊パチスロ必勝ガイド 平成5年2月1日発行)には、次の事項が記載されている。
記載事項17:「まずは、通常時。左リールにチェリーを狙うという単調な作業を続けよう。チェリーの出現確率は低いのでズルリとスベリが入ることが多くなるのであろう。が、このスベリはボーナスフラグ成立とはまず関係ない。 そこで、注目するのが残りのリール。中リールに4コマ級のスベリが入れば何らかのボーナスフラグ成立の合図なので右リールにはテンパイした絵柄を狙ってみよう。」(第37頁第2、3段)

甲第4号証(月刊パチスロ必勝ガイド 平成7年10月1日発)には、次の事項が記載されている。
記載事18:「ではまず、リーチ目関連について解説しておこう。シリーズ最新作であるアラジンマスターには、初代や二代目でファンを狂喜乱舞させたフラグ告知サイン・・・即ち、「単チェリー」や「スベリ」はもちろんのこと、これまでのサミー系マシンには見られなかった新たな形態のリーチ目が採用されている。」(第9頁中段)

記載事項19:「しかし、「フラグ成立絵柄を最大限にスベらせて停止させる」と言う特徴は継承されているため、7が大きくスベって下段にテンパイした場合は、特にボーナスフラグ成立の可能性が濃厚となる。」(第9頁中段-下段)


5-2.対比・判断

「本件特許発明1」と「引用発明1」とを比較すると、
後者の「リール」は前者の「可変表示部」に、「シンボルマーク」は「図柄」に、「ストップボタン」は「可変表示部の可変表示を停止させる停止指令信号を発生する停止手段」に、「サンプリング」は「乱数サンプリング」に、前者の「ストップボタンが操作された時点でのリールの位置から、これに接続しているシンボルマーク4個までの計5個のシンボルマーク」である「チェック範囲」は後者の「停止指令信号発生後の可変表示部の可変表示動作を所定の動作範囲内で停止制御する」における「動作範囲」に、「一つずつチェック」は「一つずつ照合」に、「ヒットリクエスト応じたシンボルマーク」は「判定結果に基づいて要求されている図柄」に、「スロットマシン」は「遊技機」にそれぞれ相当する。
さらに、スロットマシンは複数の図柄を可変表示するものであり、後者が「ストップボタンが操作された時点から限られた時間内に可能な限り入賞の高低に応じたヒットリクエストに応じたシンボルマークの組み合わせでリールを停止させるように制御する」ものであることから「制御部」を備えている筈であり、この制御は「チェック範囲にあればそこでリールを停止させる」ものであるのだから、

(一致点)
両者は、
「複数の図柄を可変表示する可変表示部と、該可変表示部の可変表示を停止させる停止指令信号を発生する停止手段と、前記可変表示部の可変表示が停止した時の表示態様について乱数サンプリングにより入賞判定を行い、その判定結果に基づいて前記停止指令信号発生後の可変表示部の可変表示動作を所定の動作範囲内で停止制御する制御部とを備えた遊技機において、
前記制御部は、前記判定結果に基づいて要求されている図柄停止位置が前記所定の動作範囲内で停止可能な図柄停止位置のいずれかに該当するかどうかを一つずつ照合する照合手段を含み、該当する図柄停止位置で前記可変表示部の可変表示動作を停止させることを特徴とする遊技機」である点 において一致し、
(相違点)
「停止可能な図柄停止位置のいずれかに該当するかどうかを一つずつ照合する照合手段」が、
「本件特許発明1」においては、
「照合される順序を異ならせて設定する複数の照合順序設定部と、該複数の照合順序設定部の中から特定条件に基づいていずれか一つの照合順序設定部を選択する選択手段を含み、前記選択手段によって選択された照合順序設定部に設定された照合順序に従って照合」するのに対し、
「引用発明1」においては、「シンボルマークが何であるかを一つずつチェック」するとしているのみで、照合順序を異ならせるものではない、
という点において相違している。

そこで、この相違点について検討する。

上記相違点による作用効果は、入賞判定結果に基づいて要求される図柄停止位置が、当該入賞を実現する停止位置でありながらいつも同じ停止位置ではなくなるため、単調さを回避できる、というものである。
すなわち、言い方を変えれば、入賞を実現する停止位置が、同じリール位置で停止操作をしても、異なった停止位置となる場合を発生させることができるので、単調さが回避される、ということである。
照合順序が不変であれば、同じ位置で停止操作をした場合、その位置から後続しているシンボルマークを一つづつ照合してゆき、停止させようとしている図柄と一致した図柄が出てきたらその図柄位置で止めてしまうため、いつも同じ停止位置となる。これに対して、照合順序が変われば、最初に停止させようとしている図柄と一致する図柄が出てくる停止位置が変わってくる場合が存在しうるから、停止位置に変化が生じうる、ということである。

この作用効果と同様の作用効果を奏させようとするものとして、上記記載事項10〜16に示される、甲第2号証に記載された発明がある。

a.テーブルと照合順序指定との相違:
しかしながら、甲第2号証のものは停止操作位置と停止制御目標位置との対応関係を停止駒数指定テーブルによって規定する停止位置指定であり、停止駒数指定テーブル93として作成すべきテーブルは、停止させようとする図柄が異なれば異なるテーブルとなる。
従って停止させようとする図柄位置のそれぞれに応じて、異なった停止駒数指定テーブルが必要となる。
これに対し、「本件特許発明1」においては、照合順序設定部に設定した照合順序にしたがって照合した結果照合範囲に停止させようとする図柄があれば停止させるというものであるから、抽選により決定した当選役が異なる場合でも、同じ照合順序指定を使用できる。言い換えれば、当選役が異なる場合でも同じ照合順序指定を使用することが出来、異なった停止図柄を実現することが出来る。
これに対して、甲第2号証のものは、当選役が異なる場合に同じ停止駒数指定テーブルを使用することはできない。
よって、単調さの回避という効果を得るために用いる、停止操作位置と実際停止させる位置との対応関係を指示する手段として、テーブルに比べて照合順序指定は、より少数の対応関係指定で済むと解され、テーブルと照合順序指定とは構成も異なり効果においても格別に異なるものである。

b.代替容易性:
甲第2号証には、照合順序指定に関しては記載も示唆もなく、単調さ回避手段としてはテーブルの開示があるだけであるから、照合順序を変更することによって単調さを回避する、という事項を甲第2号証から想起することができる根拠がない。
甲第1号証のものには、「単調さを回避する」という動機付けが欠けており、甲第2号証には「単調さ回避」については記載があるが、どのようにして単調さを回避するかに関しての解決手法として進み駒数の異なるテーブルしか開示しておらず、テーブルと照合順序指定とが代替的に用い得るような類似手法とはいえないことは上記a.に示したとおりであり、それを置き換えることについての記載も示唆もないのであるから、甲第1号証と甲第2号証が公知であっても、甲第1号証に「単調さの回避」という課題を導入し、さらに課題解決手段として甲第2号証にも示唆されていない照合順序変更という手段を採用した「本件特許発明1」を、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に想到し得るとすることは出来ない。

c.甲第3、4号証の開示についての考慮:
甲第3、4号証記載の発明は、「本件特許発明1」のように、照合順序の異なった照合順序設定部を選択した結果選ばれた照合順序によって停止させているものであるかどうかは不明であり、単にスベリ駒数が当たりと外れで異なる、という旨を開示するに止まるから、これらに基づいて「本件特許発明1」を容易に想到することができたとはいえない。
更に言えば、照合順序が、図柄配列順序と同じ、または逆順のみの場合、順序を「照合順序設定部に設定」する必要はない。なぜならば、正順と逆順のみであるならば、設定部に設定した順序に従って照合する必要はなく単に「順番に」または「逆順に」照合するのみだからである。
よって、甲第3、4号証においては照合順序を「変えて」いるといえるとしても、設定部の設定なしにできることに過ぎず、設定部の設定を参照する「本件特許発明1」の構成を示唆しているとは言えないので、甲第3、4号証を考慮にいれても、「本件特許発明1」を甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとすることはできない。

5-3.請求人の主張する無効理由2(上記2.の(2))についての結論
以上のとおりであるから、甲第1〜4号証に基づいて、「本件特許発明1」を容易に発明することができたとすることはできない。

6.「本件特許発明2」について
「本件特許発明2」は、「照合順序設定部と特定条件とをテーブルメモリ内に記憶させて構成」するという限定を「本件特許発明1」に付加したものであり、「本件特許発明1」が上記4-3.のように容易に発明をすることができたといえないのであるから、同様に甲第1〜4号証に基づいて、「本件特許発明1」を容易に発明することができたとすることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし2に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2港の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-10 
結審通知日 2006-02-16 
審決日 2006-03-01 
出願番号 特願平8-176578
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A63F)
P 1 113・ 537- Y (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼川 康史  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 塩崎 進
渡部 葉子
登録日 2004-06-25 
登録番号 特許第3568691号(P3568691)
発明の名称 遊技機  
代理人 藤田 和子  

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