• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23K
管理番号 1134309
異議申立番号 異議2003-70596  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2006-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-03 
確定日 2006-01-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3320417号「アスタキサンチン含有動物プランクトン」の請求項1ないし26に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3320417号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3320417号の請求項1ないし26に係る発明についての出願は、平成5年5月27日(パリ条約による優先権主張 平成4年5月28日、平成4年10月1日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成14年6月21日に特許権の設定登録がなされ、その後、水谷修子より特許異議の申立てがなされ、平成15年7月22日に取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年9月30日に訂正請求がなされ、平成15年12月19日に特許異議申立人より回答書が提出され、平成17年5月20日に取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年7月29日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである(下線部が訂正個所である)。
訂正事項a
特許第3320417号の設定登録時の明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1を削除し、削除に伴って訂正前の請求項2を請求項1に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項1を
「【請求項1】アスタキサンチンを含有する培養液(ただし、ユーグレナの培養液を除く)中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンを含有することを特徴とする、魚類の稚仔魚用餌料。」と訂正する。

訂正事項b
特許明細書の特許請求の範囲の請求項3を削除し、削除に伴って、請求項1〜3のいずれかを引用して記載されていた訂正前の請求項4を請求項2に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項2を
「【請求項2】動物プランクトンが、アルテミア類、ミジンコ類およびワムシ類から選ばれる一種もしくは二種以上である請求の範囲第1項記載の餌料。」と訂正する。

訂正事項c
特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って、請求項4を引用して記載されていた訂正前の請求項5を請求項3に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項3を
「【請求項3】ワムシ類がシオミズツボワムシである請求の範囲第2項記載の餌料。」と訂正する。

訂正事項d
特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って、請求項1〜5のいずれかを引用して記載されていた訂正前の請求項6を請求項4に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項4を
「【請求項4】アスタキサンチンを含有する培養液中のアスタキサンチンが、甲殻類から抽出して得られるアスタキサンチン含有油状物、合成法で製造されたアスタキサンチン、アスタキサンチン生産性酵母もしくはその処理物、およびアスタキサンチン生産性藻類から選ばれる一種もしくは二種以上の請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載の餌料。」と訂正する。

訂正事項e
特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って、請求項6を引用して記載されていた訂正前の請求項7を請求項5に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項5を
「【請求項5】アスタキサンチン生産性酵母が、ファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodazyma)である請求の範囲第4項記載の餌料。」と訂正する。

訂正事項f
特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って、請求項6を引用して記載されていた訂正前の請求項8を請求項6に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項6を
「【請求項6】アスタキサンチン生産性藻類が、ヘマトコッカス・ラクストリス(Haematococcus Lacustris)である請求の範囲第4項記載の餌料。」と訂正する。

訂正事項g
特許明細書の特許請求の範囲の請求項9〜18を削除し、削除に伴って訂正前の請求項19を請求項7に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項7を
「【請求項7】アスタキサンチンを含有する培養液(ただし、ユーグレナの培養液を除く)中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンを含有する餌料を給餌することを特徴とする、魚類の稚仔魚の養殖方法。」と訂正する。

訂正事項h
特許明細書の特許請求の範囲の請求項20を削除し、削除に伴って、請求項18〜20のいずれかを引用して記載されていた訂正前の請求項21を請求項8に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項8を
「【請求項8】動物プランクトンが、アルテミア類、ミジンコ類およびワムシ類から選ばれる一種もしくは二種以上である請求の範囲第7項記載の養殖方法。」と訂正する。

訂正事項i
特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って、請求項21を引用して記載されていた訂正前の請求項22を請求項9に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項9を
「【請求項9】ワムシ類がシオミズツボワムシである請求の範囲第8項記載の養殖方法。」と訂正する。

訂正事項j 特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って、請求項18〜22のいずれかを引用して記載されていた訂正前の請求項23を請求項10に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項10を
「【請求項10】アスタキサンチンを含有する培養液中のアスタキサンチンが、甲殻類から抽出して得られるアスタキサンチン含有油状物、合成法で製造されたアスタキサンチン、アスタキサンチン生産性酵母もしくはその処理物、およびアスタキサンチン生産性藻類から選ばれる一種もしくは二種以上の請求の範囲第7〜9項のいずれかに記載の養殖方法。」と訂正する。

訂正事項k 特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って、請求項18〜22のいずれかを引用して記載されていた訂正前の請求項24を請求項11に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項11を
「【請求項11】アスタキサンチン生産性酵母が、ファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodazyma)である請求の範囲第10項記載の養殖方法。」と訂正する。

訂正事項l 特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って、請求項23を引用して記載されていた訂正前の請求項25を請求項12に繰り上げるとともに、訂正後の新請求項12を
「【請求項12】アスタキサンチン生産性藻類が、ヘマトコッカス・ラクストリス(Haematococcus Lacustris)である請求の範囲第10項記載の養殖方法。」と訂正する。

訂正事項m
特許明細書の特許請求の範囲の請求項26を削除する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を削除するとともに、請求項1の削除に伴って請求項1を引用して記載されていた旧請求項2を独立形式の記載に改めるとともに、訂正前の請求項2の、「アスタキサンチンを含有する培養液」について、「(ただし、ユーグレナの培養液を除く)」と限定し、「餌料」について「魚類の稚仔魚用餌料」と限定する、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項bないしfは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って訂正前の請求項を繰り上げるとともに、訂正前の各請求項が引用していた請求項を、訂正後の新たな引用請求項に対応付ける、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項gは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項9〜18を削除し、請求項9〜18の削除に伴って請求項18を引用して記載されていた訂正前の請求項19を独立形式の記載に改めるとともに、訂正前の請求項19の、「アスタキサンチンを体内に含有する培養液」について、「(ただし、ユーグレナの培養液を除く)」と限定し、「稚仔魚の養殖方法」について、「魚類の稚仔魚の養殖方法」と限定する、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、上記訂正事項hないしlは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項の削除に伴って訂正前の請求項を繰り上げるとともに、訂正前の各請求項が引用していた請求項を、訂正後の新たな引用請求項に対応付ける、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正事項mは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項を削除する、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当しており、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
特許異議申立人水谷修子は本件の請求項1ないし26に係る発明の特許に対して証拠として下記の甲第1号証ないし甲第21号証を提示し、以下の点を主張している。
(A) 本件の請求項1ないし26に係る発明は、下記の甲第1号証ないし甲第14号証に記載された発明であり、または甲第1号証ないし甲第21号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1ないし26に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(B) 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易に実施できる程度に記載されていないので、本件発明の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

甲第1号証 :米康夫編「水産学シリーズ 54 養魚飼料-基礎と応用」
株式会社恒星社厚生閣 75-88頁 平成3年6月25日
甲第2号証 :「第16回 ロシュ飼料ゼミナール 講演集」 日本ロシュ 株式会社 79-95頁 平成3年
甲第3号証 :大森信・池田勉著「生態学研究法講座 5 動物プランクト ン生態研究法」 共立出版株式会社 4-15頁
昭和54年5月25日
甲第4号証 :社団法人 日本水産学会編「水産学シリーズ 25 水産動 物のカロテノイド」 株式会社恒星社厚生閣 90-107頁 昭和53年10月15日
甲第5号証 :特開平3-83577号公報
甲第6号証 :特開昭64-74953号公報
甲第7号証 :荻野珍吉編「新水産学全集 14 魚類の栄養と飼料」
株式会社恒星社厚生閣 90-103頁 平成元年4月10日
甲第8号証 :「養殖」 臨時増刊号 「添加商品」 第29巻第1号臨
(通巻347号) 株式会社緑書房 57-63頁、
128-129頁、166-171頁、208-212頁、
平成4年1月5日
甲第9号証 :特開平3-277241号公報
甲第10号証:「月刊 フードケミカル」 1991年8月号 Vol.7,
No8.通巻75号(株)食品化学新聞社 30-35頁
甲第11号証:「Nutrient Requirements of Fish」 Committee on Animal
Nutrition Board on Agriculture National Research
Council National Academy Press 35頁 1993
甲第12号証:「Aquaculture」102(1992)333-346
Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam
1992年4月1日
甲第13号証:社団法人 日本水産学会編「水産学シリーズ 8 稚魚の摂 餌と発育」 株式会社恒星社厚生閣 100-113頁
昭和60年3月20日
甲第14号証:社団法人 日本水産学会編「水産学用語辞典」 株式会社恒
星社厚生閣 8、205、174頁 1989年4月10日
甲第15号証:田中克・松宮義晴編「水産学シリーズ 59 マダイの資源
培養技術」 株式会社恒星社厚生閣 12-15頁
昭和61年4月15日
甲第16号証:「Prog.Fish-Cult.43(4),October 1981」 205-209頁
甲第17号証:社団法人 日本水産学会編「平成2年度日本水産学会春季大
会講演要旨集」
甲第18号証:「Aquaculture」43(1984)185-193頁
Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam
甲第19号証:特開平2-258726号公報
甲第20号証:「昭和48年度事業報告書」 昭和49年5月 熊本県水産
試験場 373-382頁
甲第21号証:「長崎県水産試験場研究報告 第2号」 昭和51年3月
長崎県水産試験場 113-116頁
(上記甲第1ないし第10号証並びに甲第12ないし第21号証は本件の優先日(平成4年5月28日)前に頒布された刊行物である。また甲第11号証については、本件の優先日(平成4年5月28日)後の1993年に頒布された刊行物である。)

(2)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるので、本件特許第3320417号の請求項1ないし12に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載されたとおりの次のものである。
【請求項1】アスタキサンチンを含有する培養液(ただし、ユーグレナの培養液を除く)中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンを含有することを特徴とする、魚類の稚仔魚用餌料。

【請求項2】動物プランクトンが、アルテミア類、ミジンコ類およびワムシ類から選ばれる一種もしくは二種以上である請求の範囲第1項記載の餌料。

【請求項3】ワムシ類がシオミズツボワムシである請求の範囲第2項記載の餌料。

【請求項4】アスタキサンチンを含有する培養液中のアスタキサンチンが、甲殻類から抽出して得られるアスタキサンチン含有油状物、合成法で製造されたアスタキサンチン、アスタキサンチン生産性酵母もしくはその処理物、およびアスタキサンチン生産性藻類から選ばれる一種もしくは二種以上の請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載の餌料。

【請求項5】アスタキサンチン生産性酵母が、ファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodazyma)である請求の範囲第4項記載の餌料。

【請求項6】アスタキサンチン生産性藻類が、ヘマトコッカス・ラクストリス(Haematococcus Lacustris)である請求の範囲第4項記載の餌料。

【請求項7】アスタキサンチンを含有する培養液(ただし、ユーグレナの培養液を除く)中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンを含有する餌料を給餌することを特徴とする、魚類の稚仔魚の養殖方法。

【請求項8】動物プランクトンが、アルテミア類、ミジンコ類およびワムシ類から選ばれる一種もしくは二種以上である請求の範囲第7項記載の養殖方法。

【請求項9】ワムシ類がシオミズツボワムシである請求の範囲第8項記載の養殖方法。

【請求項10】アスタキサンチンを含有する培養液中のアスタキサンチンが、甲殻類から抽出して得られるアスタキサンチン含有油状物、合成法で製造されたアスタキサンチン、アスタキサンチン生産性酵母もしくはその処理物、およびアスタキサンチン生産性藻類から選ばれる一種もしくは二種以上の請求の範囲第7〜9項のいずれかに記載の養殖方法。

【請求項11】アスタキサンチン生産性酵母が、ファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodazyma)である請求の範囲第10項記載の養殖方法。

【請求項12】アスタキサンチン生産性藻類が、ヘマトコッカス・ラクストリス(Haematococcus Lacustris)である請求の範囲第10項記載の養殖方法。
(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)

(3)特許法第29条第1項第3号または第2項について
(3-1)引用発明
(3-1-1) 取消理由に引用した引用文献(甲号証)に記載の発明
当審が平成17年5月20日付けで通知した取消理由において引用した引用文献1ないし5には、以下の発明または技術事項が記載されている。
(ア) 引用文献1:特開昭64-74953号公報(甲第6号証)
引用文献1には、次の記載がある。
(ア-1) 「ユーグレナ培養液を遠心集菌または濾過して濃縮後、凍結乾燥あるいは冷蔵または冷凍保存してなるユーグレナを主成分とするアルテミア用餌料。」(特許請求の範囲第1項)
(ア-2) 「現在では、卵からふ化した直後の稚仔魚には、シオミズツボワムシ、アルテミア、ミジンコなどの生物餌料が魚の体長に合わせて順次投与されている」(1頁左下欄17-20行)
(ア-3) 「近年海産クロレラまたは単細胞藻類を細胞壁破壊処理した餌料を使用してアルテミアの養成を行うことが提案されている(特開昭62-87060号および特開昭62-115241号参照)。」(1頁右欄12-15行)
(ア-4) 「本発明において、ユーグレナとは、動物学の分類上ユーグレナ属(ミドリムシ属)に属する原生動物で・・・」(2頁右上欄7-9行)
(ア-5)「本発明で言うアルテミアとは、Artemia salinaに代表される海水性動物プランクトンで、一般に生物用餌料として利用されているものをいう。」(2頁左下欄19行-同頁右下欄1行)
(ア-6) 「なお、本発明にかかるアルテミア用餌料の主成分をなすユーグレナが、ω-3高度不飽和脂肪酸、エイコサベンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)の含量が餌料として不十分である場合は、培養中にかかるω-3高度不飽和脂肪酸を多く含有する魚貝類油をもって処理することにより、ω-3高度不飽和脂肪酸を強化することができるとともに、ユーグレナ細胞内に取り込まれる結果、ω-3高度不飽和脂肪酸の酸化安定性が向上することになる。」(2頁右下欄10-19行)
(ア-7) 「(養殖例)
アルテミアの耐久卵を天然海水中で24時間ふ化させたふ化直後のアルテミア幼生を集め、次のような餌料を用い養生試験を行った。・・・
(マル1)実施例1、2で得られた餌料での養生条件
アルテミア幼生密度:3万個体/l
ユーグレナ給餌量 :2×10細胞/l/日」(3頁右下欄下から2行-4頁左上欄5行)
上記記載を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用文献1の発明」という。)が記載されていると認められる。
「ユーグレナ属(ミドリムシ属)に属する原生動物である、ユーグレナを給餌して養成したアルテミアを含有する魚類の稚仔魚用餌料及び 、ユーグレナを給餌して養成したアルテミアを含有する餌料を給餌する魚類の稚仔魚の養殖方法。」

(イ)引用文献2:「第16回 ロシュ飼料ゼミナール 講演集」 日本ロ シュ株式会社 79-95頁 平成3年(甲第2号証)
引用文献2には、次の記載がある。
(イ-1) 「表1-2に示すように,アスタキサンチンは広く分布しているカロテノイドで,バクテリア,キノコ,植物そして多くの動物に認められます。そして鮭鱒類や甲殻類のような水産動物においては,主要なカロテノイドです。」(81頁10行-82頁2行)
(イ-2) 81頁の「表1 動植物界のアスタキサンチンの存在」には、
「植物界:藻類: 窒素欠乏の状態で成育した緑藻植物(ヘマトコッカス)ミドリムシ」と記載されている。

(ウ)引用文献3:「養殖」 臨時増刊号 「添加商品」 第29巻第1号 臨(通巻347号) 株式会社緑書房 57-63頁、 128-129頁、166-171頁、208-212 頁 平成4年1月5日 (甲第8号証)
引用文献3には、次の記載がある。
(ウ-1) 「アスタキサンチンは・・・動物カロテノイドと呼ばれたこともある。しかし、植物にも存在し、単細胞緑藻のHaematococcus sp.・・・酵母のPhaphia sp.に高濃度で存在することが知られている。」(59頁第3段18行-第4段6行)
(ウ-2) 「二、色調強化(アスタキサンチン)の必要性
表1に示すとおり、アスタキサンチンは自然界の動物・植物に広範に分布する生体色素である。」(166頁第4段6-10行)
(ウ-3) 167頁の「表1 動植物界のアスタキサンチンの存在」には、「植物界」の段に「藻類:窒素欠乏の状態で成育した緑藻植物(ハマトコッカス)ミドリムシ」と記載されている。

(エ)引用文献4:特開平3-83577号公報(甲第5号証)
引用文献4には、次の記載がある。
(エ-1) 「1.アスタキサンチンを含有するヘマトコッカス(Haematococcus)属の緑藻体を破砕してなることを特徴とするアスタキサンチン含有破砕藻体組成物。
2.ヘマトコッカス属の藻類が、ヘマトコッカス ラキュトリス(lacustris)・・・である請求項1のアスタキサンチン含有破砕藻体組成物。」(特許請求の範囲の請求項1及び2)
(エ-2) 「アスタキサンチンは、マダイなどの赤色魚の表皮、サケ、マスなどの肉、エビの殻等に含まれており、これら魚の色揚げを目的として、さまざまな原料に由来するアスタキサンチンが、養魚用飼料として利用されている。」(4頁右下欄6-10行)

(オ)引用文献5:「Aquaculture」102(1992)333-346頁
Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam
(甲第12号証)
引用文献5には、「アスタキサンチンを給餌して飼育したクルマエビはβ‐カロチンや藻類を与えたものより、生存率が高かった。」(333頁16-18行)と記載されている。

(3-1-2) その他の甲号各証に記載の発明 特許異議申立人が提示した甲号各証のうち、当審が平成17年5月20日付けで通知した取消理由において引用した上記引用文献以外の甲号各証には次の発明または技術事項が記載されている。
(カ)甲第1号証:米康夫編「水産学シリーズ 54 養魚飼料 -基礎と 応用」株式会社恒星社厚生閣 P.75-88 平成3 年6月25日
甲第1号証には、次の記載がある。
(カ-1) 「(1) 基本タイプ(マダイ型):仔魚後期は主としてシオミズツボワムシ・・・,その末期から変態期にかけてアルテミア・・・,橈脚類などの微小甲殻類・・・を給餌する.」(76頁2-5行)
(カ-2) 「(2) 魚食タイプ(ブリ型):仔魚期から,ワムシとともに,それより大型の餌料を必要とし,・・・大型餌料生物として,橈脚類,養成アルテミア,淡水ミジンコ類,ふ化仔魚などが用いられる.」(76頁8-11行)
(カ-3) 「これらの餌料系列において,現在常用されている餌料生物は,ワムシ,アルテミア,およびチグリオブス・・・の3種である.」(76頁22-23行)
(カ-4) 「近年・・・養成アルテミアの使用が多くなった.しかしまだ養成方法として確立されたものはなく,餌料もパン酵母,油脂酵母,ビール酵母,養魚用粉末飼料,鶏糞など種々のものが用いられている.」(82頁4-7行)

(キ)甲第3号証:大森信・池田勉著「生態学研究法講座 5 動物プラン クトン生態研究法」 共立出版株式会社 4-15頁 昭和54年5月25日
甲第3号証には、「1.4 動物プランクトンの種類」の項に、「H) 節足動物門」 「甲殻綱」 「橈脚(かいあし)亜綱 Copepoda」として
「Acartia・・・」(9頁8-22行)と記載されている。

(ク)甲第4号証:社団法人 日本水産学会編「水産学シリーズ 25
水産動物のカロテノイド」 株式会社恒星社厚生閣
90-107頁 昭和53年10月15日
甲第4号証の96頁の表6・2には「『鰓脚類』亜綱」「『枝角類』目」の「オオミジンコ」はアスタキサンチンを含むことが記載されている。

(ケ)甲第7号証:荻野珍吉編「新水産学全集 14 魚類の栄養と飼料」 株式会社恒星社厚生閣 90-103頁 平成元年4月 10日
甲第7号証には、「各種餌料を用いて培養したチグリオパスの脂質含量・・・表4・15に示した.」(100頁23-24行)こと、「モイナの脂質含量は・・・培養条件や餌料によって多少異なるが,脂肪酸組成はワムシと同様,培養餌料に大きく左右される」(101頁下から4-3行)ことが記載されている。

(コ)甲第9号証:特開平3-277241号公報
甲第9号証には、次の記載がある。
(コ-1) 「ワムシの栄養強化飼料を投与して、オメガ3高度不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸に富んだワムシを培養する方法。」(1頁左下欄7-10行)
(コ-2) 「人工種苗生産に置いて、生きた動物プランクトンであるシオミズツボワムシ・・・アルテミア、その他の微細甲殻類、又クロレラ、珪藻などのいわゆる生物飼料が主なる初期飼料として用いられ・・・ている。」(1頁右下欄3-10行)
(コ-3) 「実施例
スピルリナの微小乾燥物(市販品)にイカ肝油を添加し、均一に分散処理したワムシ栄養強化飼料を得た。・・・海産クロレラを主体とした従来飼料で3日間一次培養したワムシ・・・に対して、このワムシ栄養強化飼料を50g・・・投与し24時間二次培養した。」(2頁右下欄13行-3頁左上欄3行)

(サ)甲第10号証:「月刊 フードケミカル」 1991年8月号
Vol.7,No8.通巻75号(株)食品化学新聞社 30-35頁
甲第10号証の31頁の表1には、「スピルリナの成分」として「総カロテノイド」を「200〜400mg」含有することが記載されている。
(シ)甲第11号証:「Nutrient Requirements of Fish」 Committee on
Animal Nutrition Board on Agriculture National
Research Council National Academy Press
35頁 1993
甲第11号証の35頁の表2・1には、「サケ色素のために用いられる天然物のアスタキサンチン含量」として、「Copepod」の項に「39-64mg/kg」と記載されている。

(ス)甲第13号証:社団法人 日本水産学会編「水産学シリーズ8 稚魚
の摂餌と発育」 株式会社恒星社厚生閣
100-113頁 昭和60年3月20日
甲第13号証の109頁16-17行には、「4・2 甲殻類プランクトン 有望種として,アルカチア,オイトナ,チグリオパスなどがあるが・・・」と記載されている。

(セ)甲第14号証:社団法人 日本水産学会編「水産学用語辞典」
株式会社恒星社厚生閣 8、205、174頁
1989年4月10日
甲第14号証の8頁左欄22-23行には、「アルテミア 節足動物門甲殻綱鰓脚亜綱無甲目の一属で,ブラインシュリンプとも呼ばれる。」と記載されている。

(ソ)甲第15号証:田中克・松宮義晴編「水産学シリーズ 59
マダイの資源培養技術」 株式会社恒星社厚生閣
12-15頁 昭和61年4月15日
甲第15号証の13頁7-10行には、「稚仔魚の飼育」として、「稚仔魚の大量飼育は一次飼育と二次飼育に分けることができる.・・・一次飼育は動物プランクトン(主としてワムシ)による飼育・・・」と記載されている。

(ナ)甲第16号証:「Prog.Fish-Cult.43(4),October 1981」
205-209頁
甲第16号証の207頁26-36行には、「カロチノイド(キサントフィル、カンタキサンチン、アスタキサンチン)が産業上重要な魚種(コイ、カレイ、シタビラメ、ターボット、アトランタシルバーサイド)の最初の飼育時期に使われる生物餌料に高濃度に含まれていることは知られているので、卵と稚魚の成長とカロチノイドとは特別の相関関係があるかもしれない。このカテゴリーに入る生物餌料と生餌はアルテミア幼生、ワムシ・・・である。」と記載されている。

(ニ)甲第17号証:社団法人 日本水産学会編「平成2年度日本水産学会
春季大会講演要旨集」
甲第17号証の「902」の項は「マダイの卵質改善に対するアスタキサンの必須性」についての講演要旨集であり、その21-22行には、「マダイの卵質改善、特に孵化仔魚数、正常仔魚数の良化にはAxnが必須である・・・」と記載されている。

(ヌ)甲第18号証:「Aquaculture」43(1984)185-193頁
Elsevier Science Publishers B.V.,Amsterdam
甲第18号証の185頁「要約」の項には、「暗条件下ではカロチノイド量はアトランテックサーモンサケのふ化率やふ化仔魚の生存率に効果はなかった。光感受性は卵の中のカロチノイド量が増加するにしたがって増加した。合成アスタキサンチンとカンタキサンチンの配合飼料への添加は飼育初期の成長率を増大させた。」と記載されている。

(ネ)甲第19号証:特開平2-258726号公報
甲第19号証には、次の記載がある。
(ネ-1) 「本発明は、藍藻類に属するスピルリナを有効成分とした魚類の斃死率改善剤に関し、詳しくは魚類、特に稚魚の成育時の死亡率を大巾低下せしめることの可能な薬剤に関する。」(1頁左下欄9-12行)
(ネ-2) 「本発明により、稚魚の斃死率が大巾に改善され、しかも健全な養殖魚を得ることができる。」(2頁左上欄17-18行)

(ノ)甲第20号証:「昭和48年度事業報告書」 昭和49年5月
熊本県水産試験場 373-382
甲第20号証には、「マダイ・イシダイの種苗生産の初期飼料としてワムシを用いている」(373頁5行)こと、「ワムシの培養は,最初グリーン(単細胞植物プランクトン,クロレラSP?)を高濃度に培養したものに種ワムシを入れて増殖させ,ワムシが増殖してグリーンが消費された後パン酵母を与えた。」(373頁12-14行)こと、「マダイのワムシ飼育過程のふ化後・・・10日目頃から急激な減耗を生じる現象が続出した。」(373頁7-8行)ことが記載されている。

(ハ)甲第21号証:「長崎県水産試験場研究報告 第2号」 昭和51年
3月 長崎県水産試験場 113-116頁
甲第21号証には、「酵母で培養したワムシ,およびそれをクロレラで二次培養したものを与えてマダイ仔魚を飼育し」(116頁4行)たこと、「クロレラによる二次培養は,酵母ワムシの仔魚に対する障害を軽減することができるが,その場合,二次培養密度が300固体/mlならば6時間,また,24時間培養する場合は100固体/ml以下に抑える必要がある」(116頁12-14行)ことが記載されている。

(3-2)対比・判断
(3-2-1) 本件発明1に対して
引用文献1の発明において、「ユーグレナ」は、ミドリムシ(引用文献1の摘記事項(ア-4))であってアスタキサンチンを含んでいる(引用文献2及び3参照。)から、引用文献1の発明の「ユーグレナを給餌して養成したアルテミア」とは、アスタキサンチンを含有するユーグレナを含む培養液中で培養した「アルテミア」のことであり、また、「アルテミア」は動物プランクトンであって、魚類の稚仔魚用餌料に含有される。
そこで、本件発明1と引用文献1の発明とを対比すると、アスタキサンチンを含有する培養液中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンを含有する魚類の稚仔魚用餌料である点で両者は共通しており、培養液が、本件発明1ではユーグレナの培養液を除くものであるのに対して、引用文献1の発明ではユーグレナを含む培養液である点で相違する(以下、「相違点」という。)から、本件発明1は引用文献1の発明であるとすることはできない。
ところで引用文献1の発明は、生物用餌料として利用されるアルテミア(摘記事項(ア-5))にユーグレナを給餌し、アルテミアを養成することは開示するものの、ユーグレナを給餌することの技術的意義として、ユーグレナに含まれるアスタキサンチンの有効性までは教示も示唆もしていないから、引用文献1の発明におけるユーグレナに代えて、ユーグレナの培養液を除く、アスタキサンチンを含有する培養液を用いることまでを引用文献1の発明が示唆しているとすることはできない。
そこで上記相違点の構成について引用文献2ないし5並びに特許異議申立人が提示したその他の甲号各証をみるに、これらのいずれにも上記相違点の構成について記載されておらず、また示唆もされていないから、引用文献2ないし5並びにその他の甲号各証を参照しても、本件発明1は引用文献1の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
すなわち、引用文献2及び3には、緑藻植物(ヘマトコッカス)であるミドリムシはアスタキサンチンを含んでいることが記載されているが、上記したようにミドリムシは「ユーグレナ」(引用文献1の摘記事項(ア-4))であり、「ユーグレナ」以外のアスタキサンチンを含有する動物プランクトンの培養液について、引用文献2及び3は開示も示唆もしていない。
引用文献4には、アスタキサンチンを含有するヘマトコッカス(Haematococcus)属の緑藻体を破砕してなるアスタキサンチン含有破砕藻体組成物を含有する養魚用飼料が記載されているが、上記アスタキサンチン含有破砕藻体組成物は養魚用飼料に含有させるもので、魚類の稚仔魚用餌料に含有される動物プランクトンの培養液に含有させるものではない。
引用文献5には「アスタキサンチンを給餌して飼育したクルマエビ」は「生存率が高かった」こと、甲第17号証には「マダイの卵質改善、特に孵化仔魚数、正常仔魚数の良化にはAxnが必須である」こと、甲第18号証には「合成アスタキサンチンとカンタキサンチンの配合飼料への添加は(アトランテックサーモンサケの)飼育初期の成長率を増大させた」ことがそれぞれ記載され、「クルマエビの生存率」(引用文献5)、「マダイの正常仔魚数の良化」(甲第17号証)、「(アトランテックサーモンサケの)飼育初期の成長率の増大」(甲第18号証)にアスタキサンチンが寄与することが教示されているが、アスタキサンチンはいずれも養魚(クルマエビ)用飼料に含有させるもので、魚類の稚仔魚用餌料に含有される動物プランクトンの培養液に含有させるものではない。
甲第1号証、甲第9号証、甲第15号証には、魚類の稚仔魚用餌料として動物プランクトンを用いることが記載されているが、上記動物プランクトンがアスタキサンチンを含有する培養液中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンであることは上記甲号各証のいずれにも記載されておらず、まして培養液がユーグレナの培養液を除くものであることは記載も示唆もされていない。
甲第4号証には鰓脚類亜綱、枝角類目の「オオミジンコ」はアスタキサンチンを含むことが記載されているが、上記「オオミジンコ」を魚類の稚仔魚用餌料に含有される動物プランクトンを培養する培養液に含有させることについては同甲第4号証には記載されておらず、当業者がこれをもって直ちに上記相違点の構成を想到することができるとすることはできない。
甲第16号証は「カロチノイド(キサントフィル、カンタキサンチン、アスタキサンチン)が産業上重要な魚種(コイ、カレイ、シタビラメ、ターボット、アトランタシルバーサイド)の最初の飼育時期に使われる、アルテミア幼生、ワムシ等の生物餌料に高濃度に含まれていることは知られている」とした上で、「卵と稚魚の成長とカロチノイドとは特別の相関関係があるかもしれない」との示唆をするものであるが、「キサントフィル、カンタキサンチン、アスタキサンチン」の総称である「カロチノイド」が「アルテミア幼生、ワムシ等の生物餌料に高濃度に含まれている」ことが直ちに、特定の「カロチノイド」である「アスタキサンチン」を含有する培養液で上記生物餌料を培養することにより「アスタキサンチン」を含有する生物餌料を得ることまで示唆しているとはいえない。
また、その他の甲号証である、甲第3号証、甲第7号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第19ないし21号証をみても、上記相違点の構成については記載も示唆もされていない。
なお、甲第11号証は本件の優先日前に頒布された刊行物ではないが、甲第11号証をみても、上記相違点の構成は記載されておらず、また示唆もされていない。
また、上記の引用文献2ないし5並びにその他の甲号各証に記載された発明同志を組み合わせてみても、本件発明1に係る上記相違点の構成を当業者が容易に想到することができたとすることはできい。
そして、本件発明1は上記相違点の構成に伴い、明細書に記載の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではなく、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものでもない。

(3-2-2) 本件発明2ないし6に対して
本件発明2ないし6は、本件発明1を直接または間接に引用することで本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明1についての理由と同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また上記の各引用文献並びに甲号各証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明2ないし6の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではなく、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものでもない。

(3-2-3) 本件発明7ないし12に対して
「(3-2-1) 本件発明1に対して」に記載したように、「アスタキサンチンを含有する培養液(ただし、ユーグレナの培養液を除く)中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンを含有することを特徴とする、魚類の稚仔魚用餌料」である本件発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、また上記の各引用文献並びに甲号各証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そうすると、「アスタキサンチンを含有する培養液(ただし、ユーグレナの培養液を除く)中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンを含有する餌料を給餌することを特徴とする、魚類の稚仔魚の養殖方法」である本件発明7も、本件発明1についての理由と同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また上記の各引用文献並びに甲号各証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明8ないし12は、本件発明7を直接または間接に引用することで本件発明7をさらに限定したものであるから、本件発明1についての理由と同様の理由により、引用文献1(甲第6号証)に記載された発明ではなく、また上記の各引用文献並びに甲号各証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明7ないし12の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではなく、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものでもない。

(4)特許法第36条第4項について
特許異議申立人はその特許異議申立書において、特許明細書の特許請求の範囲の請求項3、請求項12、請求項20における、「アスタキサンチン含有動物プランクトンが、乾燥重量当たり50〜5000ppmの量のアスタキサンチンを蓄積している」の構成は、特許明細書中に、そのように特定したことによる作用・効果が記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載されておらず、本件特許に係る出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないと主張する。
しかしながら、上記2.で示したように、特許明細書の特許請求の範囲の請求項3、請求項12、請求項20は、いずれも訂正により削除されたので、特許異議申立人の上記主張は理由が無くなった。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1ないし12についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし12についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1ないし12についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アスタキサンチン含有動物プランクトン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】アスタキサンチンを含有する培養液(ただし、ユーグレナの培養液を除く)中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンを含有することを特徴とする、魚類の稚仔魚用餌料。
【請求項2】動物プランクトンが、アルテミア類、ミジンコ類およびワムシ類から選ばれる一種もしくは二種以上である請求の範囲第1項記載の餌料。
【請求項3】ワムシ類がシオミズツボワムシである請求の範囲第2項記載の餌料。
【請求項4】アスタキサンチンを含有する培養液中のアスタキサンチンが、甲殻類から抽出して得られるアスタキサンチン含有油状物、合成法で製造されたアスタキサンチン、アスタキサンチン生産性酵母もしくはその処理物、およびアスタキサンチン生産性藻類から選ばれる一種もしくは二種以上の請求の範囲第1〜3項のいずれかに記載の餌料。
【請求項5】アスタキサンチン生産性酵母が、ファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodozyma)である請求の範囲第4項記載の餌料。
【請求項6】アスタキサンチン生産性藻類が、ヘマトコッカス・ラクストリス(Haematococcus lacustris)である請求の範囲第4項記載の餌料。
【請求項7】アスタキサンチンを含有する培養液(ただし、ユーグレナの培養液を除く)中で培養することにより得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンを含有する餌料を給餌することを特徴とする、魚類の稚仔魚の養殖方法。
【請求項8】動物プランクトンが、アルテミア類、ミジンコ類およびワムシ類から選ばれる一種もしくは二種以上である請求の範囲第7項記載の養殖方法。
【請求項9】ワムシ類がシオミズツボワムシである請求の範囲第8項記載の養殖方法。
【請求項10】アスタキサンチンを含有する培養液中のアスタキサンチンが、甲殻類から抽出して得られるアスタキサンチン含有油状物、合成法で製造されたアスタキサンチン、アスタキサンチン生産性酵母もしくはその処理物、およびアスタキサンチン生産性藻類から選ばれる一種もしくは二種以上の請求の範囲第7〜9項のいずれかに記載の養殖方法。
【請求項11】アスタキサンチン生産性酵母が、ファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodozyma)である請求の範囲第10項記載の養殖方法。
【請求項12】アスタキサンチン生産性藻類が、ヘマトコッカス・ラクストリス(Haematococcus lacustris)である請求の範囲第10項記載の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明はアスタキサンチンを体内に含有する動物プランクトンおよび該プランクトンを稚仔魚に投与して稚仔魚を養殖する方法に関する。
背景技術
従来稚仔魚の養殖に培養されたシオミズシボワムシ等の動物プランクトンが生物餌料として投与されている。シオミズシボワムシの培養にはクロレラや酵母が餌料として用いられるが、アスタキサンチン生産性のクロレラや酵母を動物プランクトンの餌料として用いることは知られていない。
自然界においては、孵化した稚仔魚はカロチノイドを含有する甲殻類プランクトンを摂餌しているが、人工的に培養されたシオミズツボワムシ等の動物プランクトンは天然甲殻類プランクトンと比べカロチノイド含有量に大きな違いがあり、特に従来培養されているシオミズツボワムシにはアスタキサンチンは含有されていない。
一方、アスタキサンチンは赤色魚の養殖においてその体色を改良する目的で投与されており、アスタキサンチン源として合成のアスタキサンチンあるいはファフィア・ロドチーマに属するアスタキサンチン生産菌が用いられることも公知である。(JP-A-206342/82)
近年、養殖漁業の重要性が高まっているが、その確立には稚仔魚養殖における生残率が重要な因子である。現在の稚仔魚養殖法では、疾病によって生残性が著しく低くなることがあり、稚仔魚を収率よく、安定に養殖する方法の開発が望まれている。
発明の開示
本発明は、培養によってアスタキサンチンを体内に蓄積させて得られるアスタキサンチンを含有する動物プランクトンおよび該動物プランクトンを稚仔魚に投与して稚仔魚を養殖する方法に関する。
本発明により培養によってアスタキサンチンを含有蓄積させた動物プランクトンが提供される。該プランクトンを稚仔魚の養殖に際し投与することによって、稚仔魚の生残率を著しく向上させることができる。
本発明の動物プランクトンは、その培養に際して、アスタキサンチンを投与することによって得られる。
動物プランクトンとしてはアルテミア、ミジンコ、好ましくはワムシ類例えばシオミズツボワムシが用いられる。
動物プランクトンに投与されるアスタキサンチンとしては、アスタキサンチン自体もしくはその含有物であればいずれも用い得る。例えば、甲殻類から抽出して得られるアスタキサンチン含有油状物、合成法で製造されたアスタキサンチン、アスタキサンチン生産性酵母もしくはその処理物、アスタキサンチン生産性藻類等があげられる。
アスタキサンチン生産性酵母としては、例えばファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodozyma)があげられる。この酵母は市販されていて容易に入手できる。また、ファフィア・ロドチーマを培養して得られる酵母菌体を用いることもできる。
具体的な酵母ファフィア・ロドチーマはATCCカタログに記載されていて、例えば、24201、24202、24203、24228、24229、24230、24261等の菌株を入手できる。これらの菌株はそれ自体公知方法で培養することができるが、例えば特開平4-262777、EP-A-454024、WO88/08025等に記載の方法によって培養することができる。
酵母は生菌体、乾燥菌体、冷凍菌体等の他、有機溶媒処理、粉砕処理等の処理物も用いうる。
用いられる藻類としては、アスタキサンチン生産能を有するものであればいずれでもよく、例えばヘマトコッカス(Haematococcus)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、クロレラ(Chlorella)属あるいはドナリエラ(Dunaliella)属などに属する単細胞緑藻などがあげられる。
動物プランクトンの培養はそれ自体公知の方法によって行われる。例えば、動物プランクトンを海水あるいは水に通気下で1ml当たり20〜500個体となるように放養し、これにパン酵母あるいは海産クロレラを0.1g〜5g/106個動物プランクトン/日、給餌し、温度20〜30℃で培養することにより動物プランクトンを増殖できる。
アスタキサンチンを動物プランクトンの体内に蓄積させるには、培養液にアスタキサンチンを10〜10000ppmあるいは湿重量0.05〜2.0g/106個動物プランクトン/日のアスタキサンチン生産性酵母あるいは藻類を単独あるいは組み合わせて加えることによって達成される。またこれらにパン酵母あるいは他の藻類を併用することもできる。
アスタキサンチンを動物プランクトンの体内に蓄積させるためには少なくともアスタキサンチンを投与してから3時間培養する必要がある。培養方法としては回分培養あるいは連続培養によって行われる。
かくして培養することにより、動物プランクトン乾燥重量当たり50〜5000ppmの量のアスタキサンチンを蓄積させることができる。
得られたアスタキサンチン含有動物プランクトンはそのまま、または他の餌料成分とともに餌料として稚仔魚に与えればよい。
本発明のアスタキサンチン含有動物プランクトンを用いて稚仔魚を養殖する際には、従来投与されている動物プランクトンの代わりにアスタキサンチン含有動物プランクトンを投与する以外は、通常の稚仔魚の養殖方法が適用される。一般に、稚仔魚1000尾当たり動物プランクトン7×104〜3×106個体/日が与えられる。適用できる稚仔魚としては、ヒラメ、タイ、コレゴヌス、サバヒー、アカメ、チャイロマルハタ、ヤイトハタ等の魚類またはガザミ、海老等の甲殻類があげられる。
発明を実施するための最良の形態
本発明を実施例によって、より詳細に説明する。実施例1(アスタキサンチン含有シオミズツボワムシの製造)S型シオミズツボワムシ6×106個体を1群として6群を水槽中の30リットルの水に収容し、各々にファフィア・ロドチーマ(冷凍菌体,乾燥重量あたりアスタキサンチン3000ppm含有)を1日6gずつ給餌し、該酵母投与後、0,6,12,24,48,72時間後にサンプリングして、シオミズツボワムシ中に蓄積したアスタキサンチン(遊離型)を分析した。
結果を第1表に示す。

実施例2(アスタキサンチン含有アルテミアの製造)
アルテミア(Artemia)乾燥卵を淡水で1/2に希釈した海水中に投入し、水温25℃に保ちながら48時間通気攪拌した。孵化が完了したことを確認後、アルテミア幼生と卵殻を分離した。
別途準備した水槽中の海水を等量の水で希釈した液30リットルに、アルテミア幼生を10個体/mlの密度で収容し、ファフィア・ロドチーマ(乾燥重量あたりアスタキサンチン3000ppm含有)と油脂酵母(協和醗酵工業社製 プランクトン培養用飼料)を乾燥重量換算で1対2(ファフィア酵母:油脂酵母=1:2)に混合した飼料を1日3〜6gずつ給餌して、水温25℃で7日間、培養した。
培養終了後、ろ布によりアルテミアを採集し、総カロチノイドおよびアスタキサンチンの含有量を測定した。分析は孵化直後の幼生Aと、7日間給餌培養後の幼生Bについて行われ、両者の測定値から、アスタキサンチン蓄積量を算出した。
結果を第2表に示す。

実施例3(アスタキサンチン含有シオミズツボワムシの製造)
アスタキサンチン源としてヘマトコッカス・ラクストリス(Haematococcus lacustris)を用い、この藻類を5lガラス三角フラスコ中の下記培地で培養した。培養は無菌的空気を通気しながら、25℃、3000ルックスの蛍光灯照明下、明期12時間、暗期12時間の条件で21日間行われた。
培養液を遠心分離して乾燥重量あたりアスタキサンチン5000ppmを含有する藻体が得られた。
水槽にS型シオミズツボワムシ3×106個体および30リットルの海水を入れ、前記藻体と油脂酵母「協和」の混合物(乾燥重量換算でヘマトコッカス藻体:油脂酵母=1:3)を1日3〜6gずつ給餌して、25℃、5日間培養し、シオミズツボワムシ中に蓄積したアスタキサンチン量を分析した。(ヘマトコッカス藻体投与区A)
なお、対照としてヘマトコッカス藻体の代わりにパン酵母を用いる他は上記と同様にして培養して得たシオミズツボワムシ(対照区B)についても同時に分析し、アスタキサンチン蓄積量を算出した。
培地組成
Ca(NO3)2・4H2O 15mg
KNO3 10mg
MgSO4・7H2O 4mg
β-グリセロリン酸(Na塩) 5mg
ビタミンB1 1μg
ビタミンB12 0.01μg
ビオチン 0.01μg
トリス緩衝剤 50mg
PIV金属混合液 0.3ml
蒸留水 99.7ml
pH7.5
PIV金属混合液
FeCl3・6H2O 19.6mg
MnCl2・4H2O 3.6mg
ZnCl2 1.05mg
CoCl2・6H2O 0.4mg
NaMoO4・2H2O 0.25mg
Na2EDTA・2H2O 100ml
蒸留水 100ml
結果を第3表に示す。

実施例4(ヒラメに対するアスタキサンチン投与効果)
日令2日のヒラメ稚仔魚1000尾を1群として2群用意し、それぞれ100リットルの海水にいれ、実施例1と同様にして24時間培養して得られたシオミズツボワムシ(アスタキサンチン投与区)(A)および対照としてファフィア・ロドチーマの代わりにパン酵母を用いる他は実施例1と同様にして24時間培養して得られたシオミズツボワムシ(アスタキサンチン無投与区)(B)を各々1日1槽当たり3×105〜2×106個体となるように随時投与し、ヒラメ稚仔魚を飼育した。
ワムシ投与30日後のヒラメ稚仔魚の残尾数を第4表に示す。

実施例5(マダイに対するアスタキサンチン投与効果)
ヒラメ稚仔魚の代わりに日令2日のマダイ稚仔魚を用いる他は実施例4と同様にしてマダイ稚仔魚を養殖した。
シオミズツボワムシ投与30日後のマダイ稚仔魚のアスタキサンチン投与区(A)および対照としてのアスタキサンチン無投与区(B)における残尾数および養殖期間中の生残率第5表に示す。

実施例6(ガザミに対するアスタキサンチン投与効果)
日令1日のガザミ3000尾を1群として2群用意し、それぞれ100リットルの海水に収容し、実施例1と同様にして24時間培養して得られたシオミズツボワムシ(アスタキサンチン投与区)(A)および対照としてファフィア・ロドチーマの代わりにパン酵母を用いる他は実施例1と同様にして24時間培養して得られたシオミズシボワムシ(アスタキサンチン無投与区)(B)を各々1日1槽当たり1×106〜2×106個体となるように随時投与し、ガザミを養殖した。
ワムシ投与12日後のガザミの残尾数を第6表に示す。

【産業上の利用分野】
本発明のアスタキサンチンを含有する動物プランクトンは稚仔魚の養殖の餌料として用いられる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-01-06 
出願番号 特願平6-500394
審決分類 P 1 651・ 113- YA (A23K)
P 1 651・ 121- YA (A23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 三原 裕三
特許庁審判官 渡部 葉子
白樫 泰子
登録日 2002-06-21 
登録番号 特許第3320417号(P3320417)
権利者 協和醗酵工業株式会社
発明の名称 アスタキサンチン含有動物プランクトン  
代理人 正林 真之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ