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審決分類 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A47L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A47L
管理番号 1134330
異議申立番号 異議2003-73842  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-11-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2006-01-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3465694号「食器洗い機」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3465694号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3465694号の特許請求の範囲請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成13年4月26日に特許出願され、平成15年8月29日にその発明についての特許権の設定登録がなされ、同年12月25日に東芝コンシューママーケティング株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成17年4月28日付けで訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のア.及びイ.のとおりである。
ア.特許請求の範囲請求項1の「前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を設けた食器洗い機。」を、「前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持した食器洗い機。」と訂正する。
イ.明細書の段落【0009】の「水封部材を下方から保持する略平面状の受部を設けたものである。」、段落【0011】の「前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を設けたものであり、」及び段落【0022】の「前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を設けたから、」を、それぞれ段落【0009】は、「水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持したものである。」と、段落【0011】は、「前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持したものであり、」と、段落【0022】は、「前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持したから、」と訂正する。
(2)本件訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
・訂正事項ア.について
訂正事項ア.に係る訂正は、発明を特定する事項である請求項1に記載の「前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部」をこれに含まれる事項である「前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部」に変更し、しかも、上記「前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部」については、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の段落【0016】の「開口部11の上辺部分の下面側には、図2に示すように、上扉体13を水封する上辺水封部材(水封部材)14を前面から挿入し、上扉体13の閉成時に下方から受ける略平面状の受部15を有する上辺板状部材16を設けている。また、略平面状の受部15は開口部11の上辺部分17より前方に突出している。」との記載、及び、特許明細書の図面の図2に示された、開口部11の上辺部分の下面側と板状部材16の受部15の間に水封部材14が位置することが示された図示内容からみて、特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるといえるから、訂正事項ア.に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
・訂正事項イ.について
訂正事項イ.に係る訂正は、特許請求の範囲請求項1の記載との整合を図るため、発明の詳細な説明を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項イ.に係る訂正は、上記訂正事項ア.についての検討と同様の理由から、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)むすび
したがって、本件訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
(1)本件の請求項1ないし3に係る発明
上記2.で説示したように本件訂正が認められるから、本件の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1ないし3」という。)は、本件訂正に係る訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項で特定される次のとおりのものである。
(本件発明1)
「前方に開口部を有する洗浄槽と、この洗浄槽の開口部に対して略上下方向に沿って略平行に移動し前記開口部を開閉する扉体と、この扉体の閉成状態で前記開口部の上辺部分の内側を水封する水封部材とを備え、
前記開口部の上辺部分の内側には、前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持した食器洗い機。」
(本件発明2)
「略平面状の受部は、前記開口部の上辺部分より前方に突出させた請求項1記載の食器洗い機。」
(本件発明3)
「開口部の上辺部分は、洗浄槽の開口端部よりなり、略平面状の受部は、前記開口端部の下面側に設けた板状部材よりなる請求項1または2記載の食器洗い機。」
(2)特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人 東芝コンシューママーケティング株式会社は、本件の請求項1ないし3に係る発明は、下記の甲第1号証刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである旨、主張している。


甲第1号証:特開2001-378号公報
(3)甲第1号証記載の事項
甲第1号証には、図面とともに、次の(3-1)ないし(3ー6)の事項が記載されている。
(3-1)「食器洗浄機の食器洗浄室は洗浄ノズルやすすぎノズルから噴射される洗浄水やすすぎ水がスライド扉や天面の内壁に激しく当たり前記スライド扉との接合部のシール性が悪いと水が漏れて点板上に貯まってしまう問題があった。」(段落【0003】)
(3-2)「この発明の請求項1は、・・・(中略)・・・前記食器洗浄部に略円弧状に形成された天板と、この天板に沿って上下方向に開閉される略円弧状に形成されたスライド扉とを備え、・・・(中略)・・・、スライド扉の解放時にこのスライド扉のローラを凹部に嵌合して前記スライド扉を途中で止められるようにしている。」(段落【0005】)
(3-3)「シール部材にノズルから噴射される水を遮断するヒレ部を設け、スライド扉の内壁に振りかけられて飛び散った水がシール部材の隙間から天板上に入りにくくしている。」(段落【0007】)
(3-4)「洗浄室3は前後を円弧状のスライド扉5、5にて開閉されると共に上部にスライド扉5、5と略同一の円弧状に形成された天板6が設けられている。」(段落【0011】)
(3-5)「天板6の両端にはスライド扉5、5の後端片5A,5Aに接触して閉塞時の衝撃を吸収するゴム製の閉ストッパー23、23が立ち上がり片24、24に設けられている。閉ストッパー23、23は立ち上がり片24、24側の上端に洗浄水やすすぎ水の浸入を防止するヒレ片25、25を設けると共に、上面に浸入してきた洗浄水やすすぎ水をレール20、20側の両側縁部に案内する凹み26、26を樋構造に形成し、シール部材を構成している。閉ストッパー23、23のヒレ片25、25はスライド扉5、5側に傾いて振りかけられる水が低板6側に行かないようにしている。」(段落【0018】)
(3-6)「洗浄運転時及びすすぎ運転時、スライド扉5、5は閉じられているが、上向きに開口している洗浄ノズル口9A・・やすすぎノズル口10A・・を有する下洗浄ノズル9及びすすぎノズル10から噴射される洗浄水やすすぎ水がスライド扉5、5の内面や天板6の内面に激しく衝突し、このスライド扉の内面から天板6の上面に溢れ出る水を天板6の立ち上がり片24、24とスライド扉5、5の後端片5A、5Aとの間に設けた閉ストッパー23、23のヒレ片25、25で天板6側に水が漏れにくくすると共に、このヒレ片から一部漏れた水を後端片5A、5Aの突起5B、5Bで閉ストッパー23、23の上面の凹み26、26に案内してこの閉ストッパーと後端片5A、5Aとの間に水がしみ込まないようにし、天板6の上面へ水が浸入しないようにしている。」(段落【0027】)
そして、スライド扉5の開いた状態を示す図4から、図面右のスライド扉5が開いた部分に開口部が存在することが読み取れるとともに、スライド扉5の閉じた状態を示す拡大断面図図6には、該スライド扉5を閉じた状態で、該スライド扉5と閉ストッパー23のヒレ片25との間にはわずかな隙間があること、そして、天板6の端部の外側に平面状部分を有する立ち上がり片24が斜め上方を向いて立ち上がるように設けられていることが示されている。
(4)対比・判断
(4-1)本件発明1について
上記(3-1)及び(3-5)の記載事項において、上記(3-1)の「天面」及び「点板」及び上記(3-5)の「低板」は、甲第1号証刊行物全体の記載からみて、いずれも、誤りであり、正しくは、図面符号6を付された「天板」であるとすることが相当であるので、上記「天面」、「点板」及び「低板」はいずれも、「天板」の誤記と認める。
以上のことを踏まえて、上記(3-1)ないし(3-6)の記載事項及び上記図4及び6の図示内容を総合すると、甲第1号証刊行物には、次の発明(以下、「甲1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲第1号証発明)
「前に開口部を有する洗浄室3と、上記洗浄室3の開口部を開閉するスライド扉5であって、円弧状の天板6に沿って上下方向に開閉するスライド扉5を備える食器洗浄機であって、上記スライド扉5を閉じた状態で上記開口部の上端であって上記天板6の端には、上記スライド扉5の後端片5Aに接触して閉塞時の衝撃を吸収するゴム製の閉ストッパー23が、平面状部分を有し斜め上方を向いて立ち上がる立ち上がり片24に設けられており、上記閉ストッパー23には、上記立ち上がり片24側の上端に洗浄水やすすぎ水の浸入を防止するヒレ片25を設けると共に、上面に浸入してきた洗浄水やすすぎ水をレール20側の両側縁部に案内する凹み26を樋構造に形成し、上記天板6の上面へ水が浸入しないようにするシール部材を構成しており、上記閉ストッパー23の上記ヒレ片25は、上記スライド扉5側に傾いて振りかけられる洗浄水やすすぎ水が上記天板6側に行かないようにしており、上記スライド扉5を閉じた状態で、上記ヒレ片25で上記天板6側に洗浄水やすすぎ水が漏れにくくすると共に、上記ヒレ片25から一部漏れた洗浄水やすすぎ水を上記後端片5Aの突起5Bで上記閉ストッパー23の上面の上記凹み26に案内して上記閉ストッパー23と上記後端片5Aとの間に洗浄水やすすぎ水がしみ込まないようにし、上記スライド扉5と上記ヒレ片25との間にはわずかな隙間を有している食器洗浄機。」
そこで、本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、
後者の「前に」は、その機能ないし構成からみて、前者の「前方に」に相当し、以下同様に、「スライド扉5」は「扉体」に、「平面状部分を有し、斜め上方を向いて立ち上がる立ち上がり片24」は「下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材」に、「水が浸入しないようにするシール部材」は「水封する水封部材」に、「上記スライド扉5を閉じた状態で」は「この扉体の閉成状態で」に、「上記開口部の上端であって上記天板6の端」は「開口部」の「上辺部分」に、「食器洗浄機」は「食器洗い機」に、それぞれ相当している。
したがって、両者は、「前方に開口部を有する洗浄槽と、この洗浄槽の開口部を開閉する扉体と、この扉体の閉成状態で前記開口部を水封する水封部材とを備え、前記開口部の上辺部分の内側には、前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設けた食器洗い機。」である点で一致し、次の点で相違点する。

【相違点】:
本件発明1では、扉体は「洗浄槽の開口部」に対して「略上下方向に沿って略並行に移動」してなるものであり、水封部材は、「開口部の上方部分の内側」を水封するものであり、「前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持し」てなるものであるのに対して、甲第1号証発明では、スライド扉は、円弧状の天板に沿って上下方向に開閉されるものであり、「略上下方向に沿って略並行に移動」するものではなく、シール部材は、開口部のスライド扉の後端片の内側を水封するものであるが、「開口部の上方部分の内側」を水封するか否か明らかでなく、ヒレ片及び凹みを備えたシール部材であり、スライド扉とヒレ片との間にはわずかな隙間があるものであり、平面状部分を有し斜め上方を向いて立ち上がる立ち上がり片に設けられているものであり、シール部材を「前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持し」てなるものであるか否か明らかでない点。
そこで、上記相違点について検討する。
ア.扉体について
扉体について、特に、その移動がどのような軌跡をとるかについて検討する。
甲第1号証発明では、スライド扉5は、円弧状の天板6に沿って上下方向に開閉されるものであり、その結果、スライド扉5の移動の軌跡は天板6の形状である円弧状に規制されるものといえる。
これに対して、本件発明1では、たとえば、本件訂正明細書の段落【0018】に、「上扉体13が閉成状態になる直前には、上扉体13の動きは、図2の二点鎖線で示す状態から実線で示す状態になるため、上下方向になる。」と記載されているようなものを指すものであり、特に、天板の形状である円弧状に規制されるものではない。
結局、本件発明1と甲第1号証発明では、上記したように扉体の移動の軌跡について実質的な相違があり、甲第1号証発明は、上下方向に開閉するものではあるが、本件発明1の発明特定事項である、「扉体」が「略上下方向に沿って略並行に移動」する発明特定事項を備えているものとはいえない。イ.水封部材について
次に、水封部材、特に、甲第1号証発明のシール部材の構成について検討する。
上記シール部材の構成は、「上記閉ストッパー23には、上記立ち上がり片24側の上端に洗浄水やすすぎ水の浸入を防止するヒレ片25を設けると共に、上面に浸入してきた洗浄水やすすぎ水をレール20側の両側縁部に案内する凹み26を樋構造に形成し、上記天板6の上面へ水が浸入しないようにするシール部材を構成しており、上記閉ストッパー23の上記ヒレ片25は、上記スライド扉5側に傾いて振りかけられる洗浄水やすすぎ水が上記天板6側に行かないようにしており、上記スライド扉5を閉じた状態で、上記ヒレ片25で上記天板6側に洗浄水やすすぎ水が漏れにくくすると共に、上記ヒレ片25から一部漏れた洗浄水やすすぎ水を上記後端片5Aの突起5Bで上記閉ストッパー23の上面の上記凹み26に案内して上記閉ストッパー23と上記後端片5Aとの間に洗浄水やすすぎ水がしみ込まないようにし、上記スライド扉5と上記ヒレ片25との間にはわずかな隙間を有し」てなるものである。
ここで、シール部材が、上記構成となっている理由について検討する。
上記ヒレ片25と上記スライド扉5の間にわずかな隙間がある理由は、それらが密接していると、スライド扉5が開閉のため摺動する際に抵抗があることから、それを避けるために隙間が必要となったことと考えるのが相当であり、それは、スライド扉5が、円弧状の天板6に沿って上下方向に開閉されるものであることに起因するといえ、甲第1号証発明では、上記わずかな隙間は必須のものである。
そして、天板6の上面へ水が浸入しないようにするために、洗浄水やすすぎ水の侵入防止のためにヒレ片25が設けられているとされるが、上記わずかの隙間によって、洗浄水やすすぎ水の侵入防止は完全なものではなく、上記わずかな隙間を通って一部漏れた水に対しては、閉ストッパー23の上面の凹み26に案内してこの閉ストッパーと後端片5Aとの間に水がしみ込まないようにしてなるものであり、そうすると、閉ストッパ23の構成部分である上記ヒレ片25及び上記凹部26の双方が水の侵入防止の役割を担う部分といえるとともに、凹部26へ洗浄水やすすぎ水を案内するためにシール部材とは別にスライド扉5の後端片5Aの突起5Bの関与が必要とされるものといえる。
結局、シール部材のシール機能、すなわち水封の機能は、スライド扉5が円弧状の天板6に沿って開閉することに起因するヒレ片25から一部水が漏れることを前提とした上で、スライド扉の後端片5Aの突起5Bを設けるとともに、凹部26に水が一旦貯まることも前提とするものであるから、そのシール機能は、上記ヒレ片25のみで達成しているのではなく、食器洗浄機が、さらに上記突起5B及び凹み26という2つの構成をあわせ持つことにより、達成しているものといえる。
そして、甲第1号証発明の「上記開口部の上端であって上記天板6の端」は、本件発明1の「開口部」の「上辺部分」に相当するから、甲第1号証発明において、開口部の上辺部分は、具体的には、天板6の立ち上がり片24及びヒレ片25がそれに相当するといえるが、上記検討の結果、甲第1号証発明では、ヒレ片25の内側を水封するようになっているとはいえない。 また、水封するようになっているとはいえないことの理由は、甲第1号証発明では、スライド扉の構造が、円弧状の天板に沿って上下方向に開閉されるものとなっていることに起因するといえる。
したがって、甲第1号証発明は、シール部材が、「開口部の上方部分の内側」を水封する構成を備えたものであるとすることはできない。
ウ.水封部材の保持の態様について
甲第1号証発明が、本件発明1の「前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持し」てなる構成に相当する構成を備えてなるものであるか否かについて検討する。
上記したように、甲第1号証発明において、開口部の上辺部分は、具体的には、天板6の立ち上がり片24及びヒレ片25がそれに相当するといえるが、甲第1号証発明の「立ちあがり片24」は「下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材」に相当するものであるから、甲第1号証発明は、シール部材を「前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持し」てなる構成を備えたものであるといえないことは明らかである。
したがって、甲第1号証発明が、シール部材を「前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持し」てなる構成を備えたものであるとすることはできない。
エ.まとめ、
上記のことから、甲第1号証発明は、本件発明1が備えてなる、「扉体」が、「洗浄槽の開口部」に対して「略上下方向に沿って略並行に移動」する「食器洗い機」において、前記水封部材が「開口部の上方部分の内側」を水封し、「前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持し」てなる発明特定事項を備えていない。
また、上記発明特定事項が、甲第1号証発明から自明の発明特定事項ということもできない。
そして、上記発明特定事項を備えることのによって、本件発明1は、特許明細書に記載の、「扉体が閉成状態になる直前の動きによって働く上下方向の力に対して、水封する水封部材を下方側から平面で受けることで、通常、ゴム等の弾性体で形成される水封部材の変形、歪みを防ぐことができ、永続的に扉体のシールを確実に行うことができる。」(段落【0022】)、「開口部に対して略上下方向に沿って略平行に移動して開口部を開閉する扉体のシール構成を容易にすることができる。」(段落【0023】)及び「洗浄槽の構成を簡略化し、安価な洗浄槽を得ることができる。」(段落【0023】)との顕著な効果を奏するものである。
上記のことから、本件発明1は、当業者が、甲1号証発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
なお、平成17年4月28日付け特許異議意見書の第3頁第7〜11行に記載の「永年の使用により水封部材が変形や劣化を起こし、交換が必要となった場合にも、前面から容易に交換作業ができる。」との効果も、上記相違点に係る本件発明1の構成から当然に奏する効果といえる。
(4-2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用して各発明の構成を限定しているものであるから、上記(4-1)で検討したと同様の理由から、当業者が、甲1号証発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし3についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし3についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
食器洗い機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】前方に開口部を有する洗浄槽と、この洗浄槽の開口部に対して略上下方向に沿って略平行に移動し前記開口部を開閉する扉体と、この扉体の閉成状態で前記開口部の上辺部分の内側を水封する水封部材とを備え、前記開口部の上辺部分の内側には、前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持した食器洗い機。
【請求項2】略平面状の受部は、前記開口部の上辺部分より前方に突出させた請求項1記載の食器洗い機。
【請求項3】開口部の上辺部分は、洗浄槽の開口端部よりなり、略平面状の受部は、前記開口端部の下面側に設けた板状部材よりなる請求項1または2記載の食器洗い機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、洗浄水の噴射により食器等の洗浄を行う食器洗い機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の食器洗い機は、図3または図4に示すように構成していた。以下、その構成について説明する。
【0003】
図3に示すように、扉体1を食器洗い機本体2の下部に開閉自在に取り付け、食器洗い機本体2の前面開口部を覆う前開きタイプの食器洗い機を構成し、また、図4に示すように、扉体3を器洗い機本体4の上部後方に開閉自在に取り付け、食器洗い機本体4の上面開口部を覆う上開きタイプの食器洗い機を構成し、いずれも流し台の上に設置されて使用される。食器洗い機本体2または4は、内部に洗浄槽を設けており、この洗浄槽は、内部に食器かごを配置している。
【0004】
食器洗い機の基本的な動作は一般的に良く知られているので、以下に簡単に述べると、使用者が扉体1または3を開いて食器洗い機本体2または4内の洗浄槽に設置された食器かごに汚れた食器類をセットし、扉体1または3を閉めて運転をすると、洗浄槽の底部に配置された洗浄ノズルから洗浄水がヒータによって加熱されながら食器類に向かって噴射され、食器の汚れを落とす洗浄行程を行う。その後、食器を乾かす乾燥行程を行って運転が終了する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の構成では、図3に示すような前開きタイプでは、扉体1が開いた状態で食器洗い機本体2の前方のスペースを塞いでしまうため、流し台に横向きに設置することができず、また、前向きに設置した場合は、開いた扉体1が通行の邪魔になる。さらに、流し台の汚れた食器を食器洗い機にセットするときに距離が離れるので、セットしにくいという問題を有していた。
【0006】
また、図4のような上開きタイプでは、流し台に横向き、前向きとも設置が可能となるが、扉体3が上方向に開くため、食器洗い機本体4の上方のスペースが必要という問題を有していた。
【0007】
これらの課題を解決するために、例えば、図5に示すように、扉を分割して、下扉5を前方に開き、上扉6を上方に食器洗い機本体7の天面の一部を覆い被さるように開くようにすれば、食器をセットするときに食器かごを前面に引き出すことができ、食器洗い機本体7の上方のスペースも少なくてすむが、上扉体6は閉成状態になる直前の動きが上下方向になるため、洗浄槽8との水封を確保することが特に洗浄槽8の開口部の上辺において困難となるという問題を有していた。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、上扉体が閉成状態になる直前の動きによって働く上下方向の力に対して、水封する水封部材を下方側から平面で受けることで、通常、ゴム等の弾性体で形成される水封部材の変形、歪みを防ぎ、永続的に扉体のシールを確実に行うことを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために、前方に開口部を有する洗浄槽の開口部に対して、略上下方向に沿って略平行に移動する扉体により開口部を開閉し、この扉体の閉成状態で開口部の上辺部分の内側を水封部材により水封するよう構成し、開口部の上辺部分の内側には、水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持したものである。
【0010】
これにより、扉体が閉成状態になる直前の動きによって働く上下方向の力に対して、水封する水封部材を下方側から平面で受けることで、通常、ゴム等の弾性体で形成される水封部材の変形、歪みを防ぐことができ、永続的に扉体のシールを確実に行うことができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、前方に開口部を有する洗浄槽と、この洗浄槽の開口部に対して略上下方向に沿って略平行に移動し前記開口部を開閉する扉体と、この扉体の閉成状態で前記開口部の上辺部分の内側を水封する水封部材とを備え、前記開口部の上辺部分の内側には、前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持したものであり、扉体が閉成状態になる直前の動きによって働く上下方向の力に対して、水封する水封部材を下方側から平面で受けることで、通常、ゴム等の弾性体で形成される水封部材の変形、歪みを防ぐことができ、永続的に扉体のシールを確実に行うことができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明において、略平面状の受部は、前記開口部の上辺部分より前方に突出させたものであり、開口部に対して略上下方向に沿って略平行に移動して開口部を開閉する扉体のシール構成を容易にすることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1または2に記載の発明において、開口部の上辺部分は、洗浄槽の開口端部よりなり、略平面状の受部は、前記開口端部の下面側に設けた板状部材よりなるものであり、洗浄槽の構成を簡略化し、安価な洗浄槽を得ることができる。
【0014】
【実施例】
以下、本発明の一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1に示すように、食器洗い機本体9は内部に洗浄槽10を設け、この洗浄槽10の開口部11を、下扉体12(扉体)と上扉体13(扉体)により開閉するよう構成している。上扉体13は、閉成状態で洗浄槽10の開口部11を覆い、開成状態で、食器洗い機本体9天面の一部に覆い被さる位置になるよう移動する構成としている。
【0016】
また、開口部11の上辺部分の下面側には、図2に示すように、上扉体13を水封する上辺水封部材(水封部材)14を前面から挿入し、上扉体13の閉成時に下方から受ける略平面状の受部15を有する上辺板状部材16を設けている。また、略平面状の受部15は開口部11の上辺部分17より前方に突出している。
【0017】
また、洗浄槽10の底部には、洗浄水を噴射する洗浄ノズル18を回転自在に配設している。
【0018】
上記の構成において作用を説明すると、上扉体13が閉成状態になる直前には、上扉体13の動きは、図2の二点鎖線で示す状態から実線で示す状態になるため、上下方向になる。この上下方向の動きに対して、水封する上辺水封部材14を、上辺板状部材16が下方側から略平面状の受部15で受けることで、ゴムからなる上辺水封部材14の変形、歪みを防ぐことができ、永続的に上扉体13のシールを確実に行うことができる。
【0019】
また、上辺板状部材16の略平面状の受部15が開口部11の上辺部分17より突出しているため、開口部11に対して略上下方向に沿って略平行に移動して開口部11を開閉する上扉体13のシール構成を容易にすることができる。
【0020】
また、略平面状の受部15は、開口部11の上辺部分17の下面側に設けた上辺板状部材16よりなるから、洗浄槽10の構成を簡略化し、安価な洗浄槽を得ることができる。
【0021】
なお、洗浄槽10を樹脂で形成すれば、開口部11に略平面状の受部15を一体的に形成することができるため、より構成を簡略化し、安価な洗浄槽を得ることができる。
【0022】
【発明の効果】
以上のように本発明の請求項1に記載の発明によれば、前方に開口部を有する洗浄槽と、この洗浄槽の開口部に対して略上下方向に沿って略平行に移動し前記開口部を開閉する扉体と、この扉体の閉成状態で前記開口部の上辺部分の内側を水封する水封部材とを備え、前記開口部の上辺部分の内側には、前記水封部材を下方から保持する略平面状の受部を有する板状部材を設け、前記水封部材を前記開口部の上辺部分の下面側と前記板状部材の受部との間に前記開口部の前面から挿入して保持したから、扉体が閉成状態になる直前の動きによって働く上下方向の力に対して、水封する水封部材を下方側から平面で受けることで、通常、ゴム等の弾性体で形成される水封部材の変形、歪みを防ぐことができ、永続的に扉体のシールを確実に行うことができる。
【0023】
また、請求項2に記載の発明によれば、略平面状の受部は、前記開口部の上辺部分より前方に突出させたから、開口部に対して略上下方向に沿って略平行に移動して開口部を開閉する扉体のシール構成を容易にすることができる。
【0024】
また、請求項3に記載の発明によれば、開口部の上辺部分は、洗浄槽の開口端部よりなり、略平面状の受部は、前記開口端部の下面側に設けた板状部材よりなるから、洗浄槽の構成を簡略化し、安価な洗浄槽を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例の食器洗い機の縦断面図
【図2】
同食器洗い機の要部拡大断面図
【図3】
従来の前開きタイプの食器洗い機の斜視図
【図4】
従来の上開きタイプの食器洗い機の斜視図
【図5】
従来の上下開きタイプの食器洗い機の断面図
【符号の説明】
10 洗浄槽
11 開口部
12 下扉体(扉体)
13 上扉体(扉体)
14 上辺水封部材(水封部材)
15 略平面状の受部
17 上辺部分
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-12-27 
出願番号 特願2001-128889(P2001-128889)
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A47L)
P 1 651・ 832- YA (A47L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増沢 誠一  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 芦原 康裕
一色 貞好
登録日 2003-08-29 
登録番号 特許第3465694号(P3465694)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 食器洗い機  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 坂口 智康  
代理人 佐藤 強  

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