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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B |
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管理番号 | 1134365 |
異議申立番号 | 異議2003-71596 |
総通号数 | 77 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-06-18 |
確定日 | 2006-04-03 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3359813号「積層二軸配向ポリエステルフィルム」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3359813号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3359813号は、平成8年4月16日に特許出願され、平成14年10月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(異議2003-71596号)があり、その後、平成16年3月23日付けで取消理由通知がされ、その指定期間内に特許異議意見書が提出され、平成17年2月24日付けで、本件請求項1ないし4,6,9ないし12に係る発明は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであることを理由として、「特許第3359813号の請求項1ないし4,6,9ないし12に係る特許を取り消す。同請求項5,7,8に係る特許を維持する。」旨の異議の決定がされた。その後、平成17年4月7日付けで当該取消決定の取消を求める訴えが、知的財産高等裁判所に提起され(平成17年(行ケ)第10409号)、その一方で、訴えが提起された日から起算して90日以内である平成17年5月11日付けで本件特許第3359813号に対する訂正審判(訂正審判2005-39078号)が請求され、平成17年12月20日付けで訂正を認める旨の審決がされ確定し、平成18年2月13日に、特許庁が異議2003-71596号事件について平成17年2月24日にした決定のうち,「請求項1ないし4,6,9ないし12に係る特許を取り消す」という部分を取り消す旨の判決がされたものである。 2. 本件発明 訂正審判2005-39078号の訂正認容審決が確定したので、本件特許第3359813号の請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1ないし11」という。)は、訂正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 【請求項1】 ポリエステルB層の片面に、滑剤を含有するポリエステルA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、 (イ)フィルム全体の厚みが2〜10μmであり、 (ロ)フィルムの縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ450〜2000kg/mm2 で、両者の比(横/縦)が1.0〜3.0であり、 (ハ)フィルムを60℃×55%RHで72時間、無加重下に保持したときの縦方向の熱収縮率が0.5%以下であり、 (ニ)ポリエステルA層の表面での総突起数が1.4×104 個/mm2 以上で、突起数が30個/mm2 以上の領域で求めた突起数(YA :個/mm2 )と突起高さ(HA :nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(1)の直線と交差し、下記式(2)の直線と交差せず、そして (ホ)ポリエステルB層の表面での総突起数が1.4×102 個/mm2 以上で、突起数が30個/mm2 以上の領域で求めた突起数(YB :個/mm2 )と突起高さ(HB :nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(3)の直線と交差しないこと、そして (ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる ことを特徴とする高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。 【数1】 log10YA =-0.15×HA +5 ……(1) log10YA =-0.05×HA +5 ……(2) log10YB =-0.15×HB +5 ……(3)」 【請求項2】 ポリエステルA層の厚みが0.2〜2μmである請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項3】 ポリエステルA層が含有する滑剤が、耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子を少なくとも含んでいる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項4】 ポリエステルB層が外部添加の不活性粒子を含まない請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項5】 ポリエステルB層が耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子の滑剤を含んでいる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項6】 ポリエステルフィルムをロール状に巻いたとき、ロール表面の1円周上での2mmφ 以上の大きさのブツが10個/m以下であり、かつ縦シワの総幅がフィルム幅に対し30%以下である請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項7】 ポリエステルA層および/又はポリエステルB層がポリエチレンテレフタレートからなる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項8】 ポリエステルA層および/又はポリエステルB層がポリエチレン―2,6―ナフタレートからなる請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項9】 フィルムがデジタル記録型磁気記録媒体用である請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。 【請求項10】 請求項1に記載の積層二軸配向ポリエステルフィルムをベースとする高密度磁気記録媒体。 【請求項11】 請求項9に記載の積層二軸配向ポリエステルフィルムをベースとするデジタル記録型磁気記録媒体。 3.特許異議申立ての理由の概要 申立人は、証拠方法として下記の甲第1ないし4号証を提示し、特許査定時における請求項1ないし6、8ないし12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、また、同請求項1ないし12に係る発明は、当業者が甲第1、3、4号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、これらの発明に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。 甲第1号証:特開平8-90648号公報 甲第2号証:東レ株式会社 田中和典作成に係る平成15年6月12日付けの実験報告書 甲第3号証:特開平7-326044号公報 甲第4号証:特開平5-212789号公報 4.甲各号証の記載事項 申立人が提示した甲第1ないし4号証には以下の事項が記載されている。 (1)甲第1号証の記載事項 (A) 「【請求項1】 ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートからなるフィルムであって、フィルム厚み10μm換算で波長550nmにおける光線透過率が70%以上かつ波長250nmにおける光線透過率が10%以下、横方向のヤング率が700kg/mm2以上、フィルム厚みが7μm以下であることを特徴とする磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。 【請求項2】 フィルムがA層及びB層の少なくとも2層構造からなり、A層厚みが0.01〜3.0μmである請求項1記載の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。」(特許請求の範囲請求項1,2) (B) 「従来の磁気記録媒体用フィルムでは積層厚みと含有粒子粒径の関係を規定してフィルム表面突起高さの均一化をはかり、磁気記録媒体としての電磁変換特性とベ-スフィルム表面の耐摩耗性が向上したが、さらなる高密度磁気記録媒体とした場合に、横方向の強度についてより高強度が求められるようになってきており、該用途においては出力特性が不足するという問題が生じてきている。・・・本発明はかかる課題を解決し、特に出力特性に優れる磁気記録媒体用ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。」(段落【0003】抜粋) (C) 「本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムはポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(以下PENと記載する場合がある)を構成成分とするのが好ましい。なお、本発明の目的を阻害しない範囲内で、2種以上のポリマを混合してもよいし、共重合ポリマを用いてもよい。また、本発明の目的を阻害しない範囲内で酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤などの添加剤が通常添加される程度添加されていてもよい。 本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムは特に限定されないが、出力特性の点からA層/B層の少なくとも2層構造からなるのが好ましい。A層厚みは特に限定されないが、出力特性の点から0.01〜3.0μm、好ましくは0.02〜2.0μm、さらに好ましくは0.03〜1.0μmである。積層構成の場合、少なくとも1層の主たる成分がPENであればよく、他の層は特に限定されないが、ポリエステルが好ましく例示される。ポリエステルとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレ-トを主たる成分とするポリマ(以下PETと記載)またはPENが好ましい。 本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムが積層構成の場合、A層/B層はそれぞれPEN/PET、PEN/PEN、PET/PENのいずれでもとり得る。」(段落【0005】〜【0007】) (D) 「本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムのA層には特に限定されないが、出力特性の点から0.01〜1.0μm、好ましくは0.02〜0.5μm、さらに好ましくは0.03〜0.3μmの粒径の粒子を、0.01〜3.0重量%、好ましくは0.02〜2.0重量%含有するのが光線透過率を本願範囲とする上で好ましい。粒子としては特に限定されないが、出力特性の点から有機粒子、なかでも架橋型有機粒子、特にポリジビニルベンゼン粒子が好ましい。ポリジビニルベンゼン粒子とは、架橋成分としてジビニルベンゼンを主体とするものをいう。・・・他の成分としては、特に限定されないが、例えばエチルビニルベンゼン、ジエチルベンゼン等の架橋しない成分があげられる。また、シリコーン粒子も好ましく例示される。・・・その他粒子として、結晶形がα型、γ型、δ型、θ型、η型のアルミナ、ジルコニア、シリカ、酸化チタン等の凝集粒子、または、炭酸カルシウム、コロイダルシリカ、酸化チタン等の単分散粒子もポリマ中での適切な粒子分散により用いることも可能である。これらの粒子を複数併用して用いてもよい。」(段落【0008】抜粋) (E) 「A層以外のフィルム層、つまりB層等を構成するポリマ中に粒子を含有していてもかまわない。この場合、粒径は0.05〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.5μm、含有量は0.05〜1.0重量%である炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ、酸化チタン、有機粒子等から選ばれる粒子を含有するのが好ましい。」(段落【0010】) (F) 「本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムのフィルム厚みは、出力特性の点から7μm以下、好ましくは6μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。」(段落【0014】) (G) 「本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムはデジタル磁気記録媒体用ポリエステルフィルムとして好ましく用いられる。さらに特に高出力が要求されるHDTV(ハイディフィニションテレビジョン、例えばNHKのハイビジョン等)用磁気記録媒体用ポリエステルフィルムとしても好ましく用いられる。」(段落【0016】) (H) 「(1)粒子の平均粒径 フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、10万倍以上の倍率で観察する。TEMの切片厚さは約100nmとし、場所を変えて100視野以上測定する。粒子の平均径は重量平均径(等価円相当径)から求める。 (2)粒子の含有量 ポリマは溶解し粒子は溶解させない溶媒を選択し、粒子をポリマから遠心分離し、粒子の全体重量に対する比率(重量%)をもって粒子含有量とする。場合によっては赤外分光法の併用も有効である。」(段落【0025】〜【0026】) (I) 「(6)光線透過率 市販の分光光度計にて220〜730nmの波長におけるフィルムの光線透過率を測定した。フィルム厚みが10μmでない場合には、透過率とexp(フィルム厚み)が比例するとして、10μmの場合の透過率に換算した。」(段落【0032】) (J) 「実施例1(表1) 粒子組成がジビニルベンゼン81%であるポリジビニルベンゼン粒子の水スラリーをベント式の2軸混練押出機を用いて直接PENに練り込み、PENの粒子ペレットを得た。 この粒子ペレットと実質的に粒子を含有しないPENポリマペレットを適当量混合し、180℃で8時間減圧乾燥(3Torr)した後、ポリマA:0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.6重量%、0.8μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.05重量%含有ポリマ、ポリマB:0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.1重量%含有ポリマをそれぞれ押出機1、押出機2に供給し290℃、295℃で溶融した。これらのポリマを高精度瀘過した後、矩形合流部にて2層積層とした(A/B)。 これを静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティング・ドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、口金スリット間隙/未延伸フィルム厚さの比を10とした。また、それぞれの押出機の吐出量を調節し総厚さ、およびA層の厚さを調節した。 この未延伸フィルムを温度145℃にて長手方向に4.5倍延伸した。この延伸は2組ずつのロ-ルの周速差で、4段階で行なった。この一軸延伸フィルムをテンターを用いて140℃で幅方向に4.0倍延伸した。さらに、テンターを用いて170℃で幅方向に1.55倍延伸した。このフィルムを定長下で210℃にて3秒間熱処理し、総厚さ4.5μm、A層厚さ0.4μmの二軸配向フィルムを得た。」(段落【0037】〜【0040】) (K) 表1には、実施例1について、光線透過率は、550nmにおいて85%、250nmにおいて5%、ヤング率は縦方向600kg/mm2、横方向900kg/mm2と記載されている。(【表1】の抜粋) (2)甲第2号証の記載事項 1)「3.実験の目的」として、特開平8-90648号公報、即ち上記甲第1号証の実施例1に記載された方法に従い追試実験を行い、特許第3359813号公報、即ち本件特許に係る特許公報に記載されている熱収縮率、突起分布曲線、ブツ及び縦シワの要件を満たす二軸配向ポリエステルフィルムが得られているか確認すること。 2)「4.実験の方法」として、特開平8-90648号公報の実施例1に記載された方法に従いポリエステルフィルムを作成したこと、及び実験方法の詳細。 3)「5.測定方法」として、「4.実験の方法」で得られたポリエステルフィルムを特許第3359813号公報記載の方法で測定したこと。 4)「6.実験結果」として、以下の4-a)〜4-e)であること。 4-a)フィルムの光線透過率を甲第1号証記載の方法により測定したところ、甲第1号証記載の実施例1と同一の結果になったこと(6.実験結果の(1)の項)。 4-b)フィルムを本件特許公報記載の方法で測定した結果、60℃×55%RHで72時間、無荷重下に保持したときの縦方向の熱収縮率は0.13%であったこと(6.実験結果の(2)の項)。 4-c)フィルムを本件特許公報記載の方法で測定した結果、ポリエステルA層の表面での総突起数は、1.7×104個/mm2であり、突起分布曲線は、図1のA面突起高さ分布のようになったこと。図1は、A面突起高さ分布を、横軸を突起高さ[nm]、縦軸を個数[個/mm2]として突起分布曲線により表しており、突起分布曲線は、2本の直線のうちの一方と交差し、他方とは交差せず、その突起高さの高い側は2本の直線の間に収まるようになっていること(6.実験結果の(2)の項及び図1を参照)。 4-d)フィルムを本件特許公報記載の方法で測定した結果、ポリエステルB層の表面での総突起数は、3.5×103個/mm2であり、突起分布曲線は、図1のB面突起高さ分布のようになったこと。図1は、B面突起高さ分布を、横軸を突起高さ[nm]、縦軸を個数[個/mm2]として突起分布曲線により表しており、突起分布曲線は直線と交差していないこと(6.実験結果の(2)の項及び図1を参照)。 4-e)フィルムを本件特許公報記載の方法で測定した結果、フィルムを300mm幅で、5000mロール状に10本巻いた時の2mmφ以上の大きなブツは0ケ/m、縦シワは0%であったこと(6.実験結果の(2)の項)。 (3)甲第3号証の記載事項 (L) 「【請求項1】 ポリエステルからなる基体フィルムの少なくとも片面に磁性層を有する磁気テープであって、該磁性層が2層以上の重層塗布型からなり、テープ縦方向と横方向のヤング率の差(横-縦)が200〜1500kg/mm2、体積記録密度が50μm3/bit以下であることを特徴とする磁気テープ。 【請求項2】 基体フィルムがポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートからなる請求項1記載の磁気テープ。」(特許請求の範囲請求項1,2) (M) 「しかし上記従来の磁気記録媒体、特に磁気記録媒体用フィルムでは積層厚みと含有粒子粒径の関係を規定してフィルム表面突起高さの均一化をはかり、磁気記録媒体としての電磁変換特性とベ-スフィルム表面の耐摩耗性が向上したが、さらなる高密度磁気記録媒体とした場合に、テープ化した後の縦方向および横方向の強度についてより高強度が求められるようになってきており、該用途においては出力特性が不足するという問題が生じてきている。本発明はかかる課題を解決し、特に出力特性に優れる磁気テープを提供することを目的とする。」(段落【0003】) (N) 「本発明の磁気テープの基体フィルムのA層には、特に限定されないが出力特性の点から0.02〜1.0μm、好ましくは0.05〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmの粒径の粒子を0.01〜3.0重量%、好ましくは0.02〜2.0重量%、さらに好ましくは0.1〜1.0重量%含有するのが好ましい。粒子としては特に限定されないが、出力特性の点から有機粒子、なかでも架橋型有機粒子、特にポリジビニルベンゼン粒子が好ましい。ポリジビニルベンゼン粒子とは、架橋成分としてジビニルベンゼンを主体とするものをいう。なかでもジビニルベンゼンが粒子成分の51%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは75%以上のものが好ましい。他の成分としては、特に限定されないが、例えばエチルビニルベンゼン、ジエチルベンゼン等の架橋しない成分があげられる。また、シリコーン粒子も好ましく例示される。シリコーン粒子とは2次元的に架橋されたオルガノポリシロキサン(CH3 Si O3/2 )を主たる成分とするものが好ましい。その他粒子として、結晶形がα型、γ型、δ型、θ型、η型のアルミナ、ジルコニア、シリカ、チタン等の凝集粒子、または、炭酸カルシウム、コロイダルシリカ、チタン等もポリマ中での適切な粒子分散により用いることも可能である。これらの粒子を複数併用して用いてもよい。」(段落【0007】) (O) 「実施例1(表1) 粒子組成がジビニルベンゼン81%であるポリジビニルベンゼン粒子の水スラリーをベント式の2軸混練押出機を用いて直接PENに練り込み、PENの粒子ペレットを得た。 この粒子ペレットと実質的に粒子を含有しないPENポリマペレットを適当量混合し、180℃で8時間減圧乾燥(3Torr)した後、ポリマA:0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子1.0重量%含有ポリマ、ポリマB:0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.1重量%含有ポリマをそれぞれ押出機1、押出機2に供給し290℃、295℃で溶融した。これらのポリマを高精度瀘過した後、矩形合流部にて2層積層とした(A/B)。」(段落【0037】【0038】) (P) 「実施例2〜5、比較例1〜2(表1) 実施例1と同様にして、粒子の種類、粒径、含有量、積層厚み、フィルム強度等を変更した磁気テープを得た。表1に示すように本発明範囲の磁気テープは出力特性が良好であるが、そうでないものは出力特性が良好でないことがわかる。」(段落【0045】1〜6行)) (4)甲第4号証の記載事項 (Q) 「【請求項1】 粒子を含有する熱可塑性樹脂Aよりなる層(A層)を、熱可塑性樹脂Bよりなる層(B層)の少なくとも片面に積層してなる二軸配向熱可塑性樹脂フィルムであって、A層の厚さtと熱可塑性樹脂Aに含有される粒子の平均粒径dの比t/dが0.1〜5であり、A層表面に存在する突起のうち突起径が0.7μm以上2.6μm以下の突起数が100〜10000個/mm2 であり、さらに0.2μm以上0.7μm未満の径を有する突起数Sと、0.7μm以上2.6μm以下の径を有する突起数Lとの比L/Sが1/50〜1/10000であることを特徴とする二軸配向熱可塑性樹脂フィルム。 【請求項2】 A層表面の総突起数が10万〜200万個/mm2であることを特徴とする請求項1記載の二軸配向熱可塑性樹脂フィルム。 【請求項4】 熱可塑性樹脂Aが平均粒径の異なる少なくとも2種類の粒子を含有してなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の二軸配向熱可塑性樹脂フィルム。」(特許請求の範囲請求項1、2、4) (R) 「【発明が解決しようとする課題】・・・従来の二軸配向熱可塑性樹脂フィルムは、例えば、磁気記録媒体用途においてはテープとしての高出力特性を得るために、フィルム表面はますます平坦になり、製膜時、スリット時、テープ製造時の巻取り工程でロール状に巻取る時に縦じわや巻ずれが発生するという欠点があった。また巻取り易くするためにフィルム表面を粗くすると、できたビデオテープ等をダビングする時の画質低下のために、ビデオテープにした時の画質、すなわち、S/N(シグナル/ノイズ比)も不十分という欠点があった。 本発明はかかる課題を解決し、特に高速巻取り時の縦じわ、巻ずれが起きない(以下巻特性に優れるという)、しかもダビング時の画質低下の少ない(以下耐ダビング性に優れるという)フィルムを提供することを目的とする。」(段落【0003】【0004】) (S) 「本発明の熱可塑性樹脂A中には少なくとも2種類の粒子P(平均粒径の最も小さい粒子)、Q(平均粒径の最も大きい粒子)を含有することが望ましい。ただし、巻特性を良好とするために、多くとも5種類以下が望ましい。上記のフィルムを満足するには粒子Pは、アルミナ珪酸塩、1次粒子が凝集した状態のシリカ、内部析出粒子などは好ましくなく、コロイダルシリカに起因する実質的に球形のシリカ粒子、架橋有機粒子などである場合に巻特性、耐ダビング性がより一層良好となるので特に望ましい。」(段落【0008】第1〜10行) (T) 「熱可塑性樹脂A中の粒子の平均粒径dは特に限定されないが0.02〜1.0μm、特に0.05〜0.8μmの範囲である場合に巻特性、耐ダビング性がより一層良好となるので望ましい。」(段落【0010】) (U) 「さらに熱可塑性樹脂Aが結晶性ポリエステルであり、その表面の全反射ラマン結晶化指数が20cm-1 以下、好ましくは18cm-1 以下、さらに17cm-1 以下の場合に巻特性、耐ダビング性がより一層良好となるのできわめて望ましい。」(段落【0017】) (V) 「本発明はA層表面に存在する突起径の分布を特定範囲とし、かつ、層の厚さと平均粒径の関係を特定範囲としたので、突起高さと数をコントロールでき、かつ、粒子の分散性を良くできた結果、本発明の効果が得られたものと推定される。」(段落【0037】) (W) 「(10)巻特性 フィルムを幅1000mm,長さ18000mのロールに巻き上げ(速度300m/分)、この巻き上げロールの端面ずれ、縦皺の発生状態を詳細に検査し、次のとおり判定した。端面ずれ(幅方向のずれの距離)が0.5mm未満であり、縦皺が全くなく24時間以上放置後も縦皺等の欠点が全くないもの:優、ロール巻き上げ直後は端面ずれが0.5mm未満であり、縦皺が全くなかったが24時間以上放置後に目視で、かすかに縦皺がみられるもの:良、端面ずれが0.5mm以上であるか、ロール巻き上げ直後に、かすかに縦皺がみられるもの:不良。優が望ましいが、良でも実用的には使用可能である。」(段落【0052】) (X) 段落【0067】の【表1】には、実施例1に、熱可塑性樹脂A層中の粒子Pの粒子種シリカ、粒径0.3μm、粒子Qの粒子種シリカ、粒径0.6μmであるものの巻特性が「優」、耐ダンピング性が「優」であることが、実施例3に、熱可塑性樹脂A層中の粒子Pの粒子種炭酸カルシウム、粒径0.3μm、粒子Qの粒子種シリカ、粒径0.6μmであるものの巻特性が「優」、耐ダンピング性が「良」であることが、実施例4に、熱可塑性樹脂A層中の粒子Pの粒子種シリカ、粒径0.3μm、粒子Qの粒子種架橋ポリジビニルベンゼン、粒径0.6μmであるものの巻特性が「優」、耐ダンピング性が「優」であることが、実施例8に、熱可塑性樹脂A層中の粒子Pの粒子種シリカ、粒径0.1μm、粒子Qの粒子種シリカ、粒径0.5μmであるものの巻特性が「優」、耐ダンピング性が「優」であることが記載されている。 5. 当審の判断 5-1.本件発明1についての判断 A)特許法第29条第1項第3号について 甲第1号証には、上記摘示(J)、(K)によれば、 「PENポリマから形成されたB層の片面に、滑剤を含有するPENポリマから形成されたA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、 (イ)フィルム全体の厚みが4.5μmであり、 (ロ)フィルムの、縦方向のヤング率は600kg/mm2、横方向のヤング率は900kg/mm2であって、両者の比(横/縦)は1.5である、高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム」 の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認められる。 本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、後者における2層積層されたPENの二軸配向フィルムは、前者における積層二軸配向ポリエステルフィルムに相当し、後者におけるポリジビニルベンゼン粒子は、前者における滑剤に相当し、後者におけるフィルム全体の厚みは4.5μmであって前者における2〜10μmの範囲内であり、後者における縦方向のヤング率は600kg/mm2、横方向のヤング率は900kg/mm2であって、前者における450〜2000kg/mm2の範囲内であり、後者における(横/縦)の比は1.5であって、前者における1.0〜3.0の範囲内であるから、両者は、 「ポリエステルB層の片面に、滑剤を含有するポリエステルA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、 (イ)フィルム全体の厚みが2〜10μmであり、 (ロ)フィルムの縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ450〜2000kg/mm2で、両者の比(横/縦)が1.0〜3.0である、 高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム」 の点で一致するが、後者には、以下の(ハ)〜(ヘ)の点について明示されていないことで一応相違している。 (ハ)フィルムを60℃×55%RHで72時間、無加重下に保持したときの縦方向の熱収縮率が0.5%以下である点。 (ニ)ポリエステルA層の表面での総突起数が1.4×104個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YA:個/mm2)と突起高さ(HA:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(1)の直線と交差し、下記式(2)の直線と交差しない点。 (ホ)ポリエステルB層の表面での総突起数が1.4×102個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YB:個/mm2)と突起高さ(HB:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(3)の直線と交差しない点。 (ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる点。 log10YA=-0.15×HA+5 ……(1) log10YA=-0.05×HA+5 ……(2) log10YB=-0.15×HB+5 ……(3) 甲第1号証発明に明示されていない上記(ハ)〜(ヘ)の点に関し、申立人が提出した甲第2号証の実験報告書には、上記(ハ)に関して上記4.(2)の4-b)で摘示した実験の結果が記載されており、上記(ニ)に関して上記4.(2)の4-c)で摘示した実験の結果が記載されており、上記(ホ)に関して上記4.(2)の4-d)で摘示した実験の結果が記載されている。 そして、この実験の結果は、実施例1に記載された方法に従い追試した結果であって、上記摘示(K)に係る光線透過率について再現を確認している等、少なくとも実験結果において矛盾点は見当たらないものであるので、甲第1号証発明に係るものであると認められる。 よって、甲第1号証発明に係るフィルムは、本件発明1の発明特定事項の内、(イ)〜(ホ)を有したものであると認められる。 しかし、本件発明1は、「(へ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる」のに対して、甲第1号証発明には、ポリエステルフィルムA層中の滑剤については、摘示(D)に「0.01〜1.0μm、好ましくは0.02〜0.5μm、さらに好ましくは0.03〜0.3μm」とあり、また摘示(J)によれば、0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.6重量%、0.8μm径ポリジビニル粒子0.05重量%含有ポリマを使用することが開示されるにとどまり、本件発明1の発明特定事項(ヘ)に相当する記載はなく、この点を相違点として有するものである。 そして、上記相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではなく、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえない。 B)特許法第29条第2項について 本件発明1と甲第1号証発明とを対比すると、両者は、上記A)において検討したとおりの一致点(イ)ないし(ホ)、及び実質的な相違点である「(ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる点。」(以下、相違点(へ)という。)を有するものである。 そこで、上記相違点(ヘ)について検討する。 甲第3号証には、上記摘示(L)(M)によれば、本件発明1と同じく高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルムに関する事項が記載され、滑剤に相当するものとして上記摘示(N)(O)(P)によると、出力特性の点から粒径範囲を規定した粒子が記載されている。しかし、甲第3号証には、本件訂正発明1のように平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIとを用いることの記載も示唆もないから、当業者が甲第3号証をみても、上記相違点(へ)について、容易になし得たものとはいえない。 甲第4号証には、上記摘示(Q)(R)(U)からみて磁気記録媒体用途の二軸配向熱可塑性樹脂フィルムに関する事項が記載され、上記摘示(S)(V)(X)によれば、ポリエステルA層には少なくとも2種類の粒子P(平均粒径の最も小さい粒子)、Q(平均粒径の最も大きい粒子)を含有することが望ましいとあり、平均粒径0.3μmの粒子と平均粒径が0.6μmの粒子とを併用した実施例も記載され、ポリエステルA層表面に存在する突起径の分布を特定範囲とすること等により、突起高さと数をコントロールして、巻特性と耐ダビング性が優れたフィルムを得られるとしている。 しかし、甲第4号証には、ポリエステルA層について本件訂正発明1の発明特定事項(ニ)に相当する記載はなく示唆もないものである。さらに、ポリエステルA層と積層するB層の表面について、本件発明1の発明特定事項(ホ)に相当する記載はなく、そもそもB層表面の突起数や突起分布が磁気記録媒体の性能に影響すると認識していたとは認められない。 また、甲第1号証には、ポリエステルA層が含有する滑剤として、異なる平均粒径の粒子を組み合わせて使用することについて示唆する記載もなく、甲第4号証に磁気記録媒体用途の二軸配向熱可塑性樹脂フィルムにおいて、ポリエステルA層に上記相違点(へ)に記載された平均粒径の範囲の粒子を組み合わせて用いることが記載されているとしても、甲第1号証発明に対して、この平均粒径の範囲の粒子の組み合わせを適用する動機付けも見いだせないから、当業者が甲第4号証をみても、上記相違点(へ)について、容易になし得たものであるとはいえない。 そして、本件発明1は、高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、ポリエスエテルA層及びB層について、それぞれ表面の総突起数、突起分布曲線をその発明特定事項(ニ)(ホ)のように規定し、これらを同時に満たすことで、はじめて優れた電磁変換特性、巻取り性、搬送性を達成することを見いだしたものであり、格別の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、当業者が甲第1、3、4号証に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。 C)本件発明1についてのまとめ 以上みてきたように、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項及び特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 5-2.本件発明2ないし11についての判断 本件発明2ないし11は、本件発明1である請求項1を引用する形式で記載されているから、これらの発明は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらにそれぞれの請求項において発明特定事項が付加された発明である。そして、上記5-1.にて検討したように、本件発明1は特許法第29条第1項及び特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明2ないし11も上記5-1.に記載した同様の理由により、特許法第29条第1項及び特許法第29条第2項の規定に違反するものではない 6.むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし11に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし11に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する 。 |
異議決定日 | 2006-03-14 |
出願番号 | 特願平8-94226 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 芦原 ゆりか |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
石井 克彦 澤村 茂実 |
登録日 | 2002-10-11 |
登録番号 | 特許第3359813号(P3359813) |
権利者 | 帝人株式会社 |
発明の名称 | 積層二軸配向ポリエステルフィルム |
代理人 | 三原 秀子 |
代理人 | 伴 俊光 |