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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1134374
異議申立番号 異議2003-73690  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-08-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2006-03-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第3437079号「切りくず処理性に優れた機械構造用鋼」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3437079号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許3437079号の請求項1乃至5に係る発明についての出願は、平成10年2月5日に特許出願され、平成15年6月6日にその特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、村中祥世より本件請求項1乃至5に係る発明について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年7月20日に訂正請求がなされたが、この訂正請求に対し平成17年11月7日付けで訂正拒絶理由通知がなされたところ、その指定期間内に特許権者から何ら応答がなかったものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)平成16年7月20日付け訂正請求書の内容
上記訂正請求書の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至dのとおりに訂正するものである。
(a)訂正事項a:請求項1の「C:0.01〜0.7%、」を「C:0.01〜0.7%(0.54%以上を除く)、」と訂正する。
(b)訂正事項b:特許明細書の段落【0019】の「標準的には1〜50℃/secの範囲、好ましくは2〜40℃/secの範囲である。」を「標準的には1〜50℃/minの範囲、好ましくは2〜40℃/minの範囲である。」と訂正する。
(c)訂正事項c:特許明細書の段落【0043】に記載の【表1】を別紙の「表1」のとおりに訂正する。
(d)訂正事項d:特許明細書の段落【0050】に記載の【表2】を別紙の「表2」のとおりに訂正する。

(2)訂正拒絶理由通知の概要
平成16年7月20日付け訂正請求書における上記訂正事項aは、請求項1の「C:0.01〜0.7%、」を、「除くクレーム」という新規事項に係る実務運用において例外的に認められている記載様式に基づいて「C:0.01〜0.7%(0.54%以上を除く)、」と訂正するものであるが、「除くクレーム」は、次の(i)及び(ii)の場合に限り例外的に認められる記載様式である。
(i)特許法第29条第1項第3号29条の2又は39条に係る先行技術として頒布刊行物又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項である場合
(ii)当該発明が先行技術と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが、たまたま先行技術と重複するような部分を含む場合
しかるに、取消理由通知において先行技術として提示した引用刊行物1及び2(異議申立人の甲第1号証及び甲第2号証)のうち、引用刊行物1には、「C:0.54%」の合金例の他に、「C:0.55%、0.57%」の合金例しか記載されておらず、「C:0.54%以上」という記載は見当たらない。また、引用刊行物2にも、「C:0.54%以上」という記載は見当たらない。
そうすると、上記訂正事項aの「C:0.01〜0.7%(0.54%以上を除く)」とする「除くクレーム」は、先行技術である引用刊行物1及び2に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを除くものではなく、そこに記載されている事項以外のものをも除くものであるから、上記(i)の場合に該当しないと云うべきである。
また、引用刊行物1及び2に記載された先行技術は、その成分組成が本件請求項1に係る発明と極めて類似するものであるから、本件請求項1及び2に係る発明は、上記(ii)の「当該発明が先行技術と技術的思想としては顕著に異なる」場合ではないし、特に引用刊行物1には、本件請求項1に係る発明の「C」や「S」等の成分組成範囲を満足する具体例も数例記載されているから、「たまたま先行技術と重複するような部分を含む」場合でもないと云うべきである。
してみると、上記訂正事項aは、例外的に認められている「除くクレーム」の上記(i)及び(ii)の場合に該当するとは云えないから、特許明細書に記載された範囲内でなされたものではないし、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項に違反するから、当該訂正は認められない、というものである。

(3)当審の判断
平成17年11月7日付け訂正拒絶理由通知に対し特許権者から何ら応答がなく、そして上記訂正拒絶理由通知は妥当なものである。
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項に違反するから、当該訂正は認められない。

3.本件発明
特許権者が求める上記訂正請求は、これを認めることができないから、本件請求項1乃至5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1乃至5」という)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】質量%で、C:0.01〜0.7%、Mn:0.1〜3.0%、Si:2.5%以下(0%を含まない)、Al:0.1%以下(0%を含まない)、O:0.003%以下(0%を含まない)、N:0.02%以下(0%を含まない)、S:0.015〜0.12%、を夫々含むと共に、鋼中のPb含量が0.001%以下、残部がFeおよび不可避不純物の鋼であり、且つ、単独で20μm以上の長さの硫化物、あるいは複数の硫化物が略直列状に連なった長さ20μm以上の硫化物群が、圧延方向断面1mm2の視野内に30以上存在していることを特徴とする切りくず処理性に優れた機械構造用鋼。
【請求項2】鋼が、他の元素として、B:0.01%以下(0%を含まない)を含むものである請求項1に記載の機械構造用鋼。
【請求項3】鋼が、更に他の元素として、Ni:3%以下,Cr:5%以下,Mo:1.2%以下,Cu:1%以下から選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項1または2に記載の機械構造用鋼。
【請求項4】鋼が、更に他の元素として、Ca:0.05%以下,Zr:0.2%以下,REM:0.3%以下,Te:0.2%以下,Se:0.3%以下から選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の機械構造用鋼。
【請求項5】鋼が、更に他の元素として、V:1%以下,Ti:0.3%以下,Nb:0.3%以下から選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の機械構造用鋼。」

4.特許異議申立てについて
(4-1)取消理由の概要
当審による平成16年5月13日付け取消理由の概要は、次の(イ)乃至(ハ)のとおりである。
(イ)本件特許出願の請求項1〜5に係る発明は、特許異議申立書の第9頁第18行〜第14頁第22行に記載の理由により、その出願前日本国内または外国において頒布された次の(4-2)に示す引用刊行物1、2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
(ロ)本件特許出願の請求項1〜5に係る発明は、特許異議申立書の第9頁第18行〜第14頁第22行に記載の理由により、その出願前日本国内または外国において頒布された次の(4-2)に示す引用刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(ハ)本件特許出願は、その特許明細書及び図面の記載が、特許異議申立書の第16頁第27行〜第18頁第10行に記載の理由の点で不備であるから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(4-2)引用刊行物とその主な記載事項
(1)引用刊行物1:「R&D/神戸製鋼技報」Vol.27No.3、1977年7月1日、株式会社神戸製鋼所発行、第45〜50頁(甲第1号証)
(1a)「ジルコニウム快削鋼」と題して、第46頁の第1表には、S55CクラスやS10Cクラスの供試材の化学成分が記載されている。
(1b)「写真1にS55CクラスのZr快削鋼の、80mmφ圧延材における代表的硫化物形状を示す。また硫化物の形状を400倍の光学顕微鏡にて40視野中の硫化物を測定した結果を第2表に示す。」(第46頁右欄)
(1c)第46頁第2表には、S55Cクラスの供試材の硫化物個数(n)、形状比(l/w)及び面積μ2(l・w)の数値が示されている。
(2)引用刊行物2:「鉄と鋼」第57年(1971)第13号、昭和46年11月、日本鉄鋼協会発行、第2076〜2089頁(甲第2号証)
この証拠には、「鋼の脱酸調整による介在物組成変化と被削性」と題して、以下のとおり記載されている。
(2a)「本報は、非金属介在物と被削性の関係を明らかにする目的で、主としてCaSi脱酸で製造した脱酸調整快削鋼と通常脱酸鋼(FeSi+Al脱酸鋼)および鉛快削鋼の旋削性を比較検討し、さらに旋削と並んで重要な切削加工法である穴あけ加工時の被削性と脱酸法およびS含有量の関連を調査したものである。また工具付着物による快削機構についても若干検討した。」(第2076頁「1.緒言」の項)
(2b)「供試鋼は、機械構造用炭素鋼S45C相当鋼であり、鉛快削鋼以外はいずれも実用のLD転炉で溶製し、下注造塊した。Table1に供試鋼の化学組成、脱酸法およびドリル試験に使用した試験片の表面硬度を示す。」(第2076頁右欄)
(2c)第2077頁の「Tab1e 1」には、供試鋼として次のC2〜C4の「Ordinary steel」の組成が記載されている。
「C2」=「(%)C:0.47、Si:0.23、Mn:0.83、P:0.014、S:0.017、sol.Al:0.024、Ca:<0.001、Pb:-、O:0.003」
「C3」=「(%)C:0.46、Si:0.26、Mn:0.84、P:0.015、S:0.033、sol.Al:0.023、Ca:<0.001、Pb:-、O:0.003」
「C4」=「(%)C:0.47、Si:0.26、Mn:0.82、P:0.017、S:0.051、sol.Al:0.022、Ca:<0.001、Pb:-、O:0.003」
(2d)「4.2 穴あけ加工性
4.2.1 工具寿命
・・・Fig.7、Fig.8に脱酸調整快削鋼A3、A4、A5および通常鋼C2、C3、C4について、焼入焼もどしと焼ならし状態でのドリル寿命曲線を示す。・・(中略)・・
4.2.2 切削抵抗
Fig.9に焼入焼もどし状態の脱酸調整快削鋼A3、A4、A5および通常鋼C2、C3、C4を穴あけした場合の切削抵抗の速度変化を示す。・・(中略)・・
4.2.3 ドリル寿命におよぼす硫化物系介在物の影響
・・・Photo.3は、通常の工程で熱間圧延した96mm角の試験片素材での脱酸調整快削鋼および通常鋼の代表的な硫化物系介在物を示しており、Table 2は、これら硫化物系介在物の形状を示している。なおTable 2の値は各試料ともに30個の硫化物について、長さおよび幅を測定したその平均値である。また、硫化物の長さ(L)/硫化物の幅(W)も個々の硫化物について求めたL/Wの平均値である。」(第2081頁右欄乃至第2084頁左欄)
(2e)第2082頁の「Table 2」には、供試鋼の3通りの「Ordinary steel」の硫化物系介在物の長さ等について、次のとおり記載されている。
(1)S(%):0.017、L(μ):32.9、W(μ):3.1、L/W:10.8
(2)S(%):0.033、L(μ):48.2、W(μ):4.3、L/W:11.6
(3)S(%):0.051、L(μ):49.2、W(μ):4.7、L/W:10.2
(2f)第2083頁の「Photo.3」には、「Ordinary steel」の硫化物系介在物の長さが示されているが、その長さは、スケール「20μm」より長いことが明らかである。
(3)引用刊行物3:特開昭57-140854号公報(甲第3号証)
(3a)「第1表は本発明鋼と比較鋼として従来の快削鋼および基準鋼の化学組成を示したものである。ここでいう基準鋼とは機械構造用鋼として通常に溶製され、販売されているもので、Sは特に添加されず0.010〜0.020%のものである。」(第3頁左欄第18行乃至右欄第2行)
(3b)第1表には、基準鋼としてD-1、D-2およびD-3の3例が示されている。これらの鋼のSol.A1の含有量は、0.035%、0.0029%および0.0038%であり、Oの含有量は、0.0024%、0.0018%および0.0019%である。
(4)引用刊行物4:日本鉄鋼協会編「鉄鋼便覧 第3版 II 製銑・製鋼」昭和57年12月25日、日本鉄鋼協会発行、第471〜473頁、第620〜622頁(甲第4号証)
(5)引用刊行物5:「鉄と鋼」第57年(1971)第13号、昭和46年11月、日本鉄鋼協会発行、第2067〜2075頁(甲第5号証)
(6)引用刊行物6:特開平7-54099号公報(甲第6号証)
(6a)「【請求項1】C:0.05〜0.6%(重量%の意味、以下同じ),Si:0.03〜1%,Mn:0.1〜2%,S:0.005〜0.12%,In:0.001〜0.1%,N:0.003〜0.02%を夫々含有すると共に、O:0.002%以下およびAl2 O3 :0.002%以下に夫々抑制してなり、残部Feおよび不可避不純物よりなることを特徴とする被削性に優れた機械構造用鋼。
【請求項2】更に、B:0.0005〜0.03%を含有したものである請求項1に記載の機械構造用鋼。
【請求項3】更に、Cr:2%以下,Mo:1%以下およびNi:6%以下よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1または2に記載の機械構造用鋼。
【請求項4】更に、Pbおよび/またはTe:合計で0.01〜0.6%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の機械構造用鋼。
【請求項5】更に、Zr,Caおよび希土類元素よりなる群から選択される1種以上を合計で、0.01〜0.6%含有する請求項1〜4のいずれかに記載の機械構造用鋼。
【請求項6】更に、V:0.01〜0.3%を含有すると共に、熱間鍛造後空冷のままで得られるものである請求項1〜5のいずれかに記載の機械構造用鋼。」(特許請求の範囲)
(6b)「【作用】
本発明者らは、鋼中のInの挙動が鋼材の特性に及ぼす影響について詳細に検討した。その結果、InはAl2O3等の酸化物系介在物の周辺に付着し、これがIn添加による被削性(特に切り屑処理性)向上効果を半減させるのではないかとの知見が得られた。そこで本発明者らは、鋼中の酸化物系介在物(特にAl2O3)を極力低減させれば、Inの添加効果が著しく発揮されて切り屑処理性が著しく向上するのではないかと考え、その為には鋼中のOおよびAl2O3をできるだけ低減させることが有効であることを見出し、本発明を完成した。また鋼中のOやAl2O3を低減することによって、疲労強度を向上することができることもわかった。尚上記「鋼中のO」とは、Al2O3 を構成するOも含む意味である。」(段落【0006】)
(6c)「N:0.003〜0.02%
Nは結晶粒微細化のために、少なくとも0.003%含有させる。しかしながら、0.02%を超えて含有させると硬さが増加して被削性が低下するので、上限を0.02%とした。」(段落【0013】)
(6d)「B:0.0005〜0.03%
Bは焼入性および靭性を向上させると共に、前述した如く、Inの偏析を抑制して熱間加工性と疲労強度を向上させるのに有効な元素である。その効果を発揮させるためには、少なくとも0.0005%含有させる必要があるが、過剰に含有させると硬さが増加し、被削性が低下するので上限を0.03%とした。」(段落【0017】)
(6e)「Cr:2%以下,Mo:1%以下およびNi:6%以下よりなる群から選択 される1種以上 Cr,MoおよびNiは、いずれも焼入性を高めるのに有効な元素である。またこのうちMoとNiは、靭性を高めるのに有効である。しかしながら、過剰に含有させると被削性が低下するので、Crは2%,Moは1%,Niは6%を夫々上限とすべきである。」(段落【0018】)
(6f)「V:0.01〜0.3%
Vは結晶粒を微細化し、熱間鍛造後空冷のままで強度を確保するのに有効であり、その効果を発揮させる為には少なくとも0.01%含有させる必要がある。しかしながら、過剰に含有させると被削性が低下するので、上限を0.3%とした。」(段落【0021】)
(7)引用刊行物7:「JIS ハンドブック 鉄鋼 1988」1988年4月12日、日本規格協会発行、第1137頁(甲第7号証)
機械構造用炭素鋼鋼材のJIS規格に関する証拠であり、その「備考1」には、「S09CK、S15CK及びS20CKは、不純物としてCu0.25%、Ni0.20%、Cr0.20%、Ni+Cr0.30%を、その他の記号のものは、Cu0.30%、Ni0.20%、Cr0.20%、Ni+Cr0.35%を超えてはならない。」と記載されている。

(4-3)当審の判断
(1)本件発明1について
引用刊行物2には、「鋼の脱酸調整による介在物組成変化と被削性」と題して、機械構造用炭素鋼S45C相当鋼である脱酸調整快削鋼A3、A4、A5と通常脱酸鋼C2、C3、C4の供試鋼が記載され、上記(2c)に記載されたC2〜C4の化学組成の中から「C3」の供試鋼を選択した場合には、引用刊行物2には、「(%)C:0.46、Si:0.26、Mn:0.84、P:0.015、S:0.033、sol.Al:0.023、Ca:<0.001、Pb:-、O:0.003」という機械構造用鋼が記載されていると云える。そして、この「C3」の機械構造用鋼は、上記(2e)に摘示した3通りの「Ordinary steel」のうち、そのS含有量が一致する上記(2e)において「(2)」と表記した「S(%):0.033、L(μ):48.2、W(μ):4.3、L/W:11.6」という硫化物系介在物の形状を有していると認められる。また、上記(2d)の「通常の工程で熱間圧延した96mm角の試験片素材での脱酸調整快削鋼および通常鋼の代表的な硫化物系介在物を示しており、Table 2は、これら硫化物系介在物の形状を示している。なおTable 2の値は各試料ともに30個の硫化物について、長さおよび幅を測定したその平均値である。」という記載に照らせば、測定された硫化物は30個でその平均値が48.2μmであり、その試料も熱間圧延された「圧延材」であるから、その測定箇所は技術常識からみて「圧延方向断面」であると認められる。
そうであれば、これら記載を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用刊行物2には、「C:0.46%、Si:0.26%、Mn:0.84%、P:0.015%、S:0.033%、sol.Al:0.023%、Ca:<0.001%、O:0.003%、を夫々含むと共に、鋼中のPbが0%、残部がFeおよび不可避不純物の鋼であり、且つ、平均48.2μmの長さの硫化物が圧延方向断面に30個存在している機械構造用鋼」という発明(以下、「引用刊行物2発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と引用刊行物2発明とを対比すると、引用刊行物2発明の「硫化物」の長さ48.2μmは、30個の平均値であるが、引用刊行物2の第2083頁の「Photo.3」によれば、その1個の介在物の長さが20μmよりかなり長いことが明らかであり、しかもその平均値も20μmよりかなり長い「48.2μm」であるから、引用刊行物2発明の30個の「硫化物」の個々の長さも、単独で20μm以上であると認められる。また、本件発明1の「Pb含量が0.001%以下」についても、本件特許明細書の記載によれば、そのPbを有害元素排除の趣旨でその含量を制限するものであるから、引用刊行物2発明の「鋼中のPbが0%」と実質的な差異はないと云うべきである。
そうすると、両者は、「質量%で、C:0.46%、Si:0.26%、Mn:0.84%、S:0.033%、sol.Al:0.023%、O:0.003%、を夫々含むと共に、鋼中のPbが0%、残部がFeおよび不可避不純物の鋼であり、且つ、単独で20μm以上の長さの硫化物が圧延方向断面に30個存在している機械構造用鋼」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:
(イ)本件発明1は、「N:0.02%以下(0%を含まない)」含有するのに対し、引用刊行物2発明は、Nを含有するか明らかでない点
(ロ)本件発明1は、PやCa元素を含有すると明記されていないのに対し、引用刊行物2発明は、「P:0.015%、Ca:<0.001%」含有する点
(ハ)本件発明1は、硫化物の個数を測定した視野が「圧延方向断面1mm2の視野内」であるのに対し、引用刊行物2発明は、この測定視野が明らかでない点
(ニ)本件発明1は、「切りくず処理性に優れた」ものであるのに対し、引用刊行物2発明は、この点が明らかでない点
次に、これら相違点について検討する。
(i)相違点(イ)について
引用刊行物2発明では、Nの有無について明示的な限定がなされていないが、通常の「機械構造用鋼」には、不純物として0.02%以下の微量のNが含まれているとするのが技術常識であるから、両者は、この「N」の有無の点で実質的な差異はないと云える。仮にそうでないとしても、機械構造用鋼において、その結晶粒の微細化のために「N:0.02%以下」含有させることは、例えば引用刊行物6の上記(6c)に記載されているように当業者に周知の事項であるから、上記相違点(イ)は、上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到することができたと云える。
(ii)相違点(ロ)について
本件発明1では、「P」の有無について明示的な限定がなされていないが、「P」は、通常の「機械構造用鋼」に不可避的不純物として含有されていることは当業者に周知の事項であり、本件発明1の「残部がFeおよび不可避不純物の鋼」という特定事項における「不可避不純物」に該当することは明らかであるから、両者は、「P」の有無の点で実質的な差異はないと云える。
また、「Ca」の有無についても、「Ca」は、本件発明4において選択成分の一つとして含有されているように、非金属介在物の形態制御等の目的で必要に応じて含有される選択成分であることも当業者に周知の事項であるから、この「Ca」の取捨選択も必要に応じて当業者が容易に想到することができたと云うべきである。
(iii)相違点(ハ)について
本件発明1の「圧延方向断面1mm2の視野内に30以上存在」という測定結果については、本件特許明細書の「光学顕微鏡を用いて切削加工部位の面積1mm2の視野内の硫化物を観察する(実験では倍率400倍を採用」(段落【0013】)という記載によれば、具体的には面積1mm2の視野内の硫化物を倍率400倍の光学顕微鏡によって観察した結果であるところ、同じ400倍の光学顕微鏡によって快削鋼における硫化物の形状や個数を測定した引用刊行物1の第46頁の写真1や第2表の測定結果に徴すれば、通常の溶製、鋳造及び圧延等の工程を経て製造された「機械構造用鋼」であれば、面積1mm2の視野内に硫化物が少なくとも30個は生成されていると認められるから、引用刊行物2発明の場合も、その製造条件が引用刊行物1に記載の快削鋼と格別違いがないと認められる以上、引用刊行物2発明の30個の硫化物も、面積1mm2の視野内に存在していると認められる。
してみると、引用刊行物2発明も、その硫化物が「圧延方向断面1mm2の視野内に30個」存在していると認められるから、両者は、上記相違点(ハ)の点で実質的な差異はないと云うべきである。
(iv)相違点(ニ)について
本件発明1の上記「切りくず処理性に優れた」という性質は、本件特許明細書の記載によれば、もっぱら本件発明1のS含有量や硫化物系介在物の形態(長さ)等の因子に依拠するものであるところ、引用刊行物2発明も、これら因子の点で本件発明1と実質的な差異がないことは前示のとおりであるから、同様に「切りくず処理性に優れた」性質を有すると云うべきである。
また、本件発明1の上記「切りくず処理性に優れた」という性質が硫化物系介在物の長さとの関係で発見した新たな性質であるとしても、引用刊行物2発明の機械構造用鋼に求められている性質が「被削性」である点で共通するものであり、そして、この「被削性」には「切りくず分断性(処理性)」がその確認すべき要素の一つとして含まれることは引用刊行物1の第48頁乃至第49頁の記載や引用刊行物6の第3頁段落【0012】の記載に照らし周知の事項であると云えるから、引用刊行物2発明の被削性に係る確認実験に基づいて当業者が容易に発見することができたと云うべきである。
(v)小括
してみると、本件発明1は、引用刊行物2に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと云えるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)本件発明2について
本件発明2は、さらに「鋼が、他の元素として、B:0.01%以下(0%を含まない)を含むものである」という点を特定事項とするものであるが、機械構造用鋼に焼入性の向上等のために、Bを0.0005〜0.03%含有させることは、例えば引用刊行物6の上記(6d)に記載されているように周知の事項である。
してみると、本件発明2も、引用刊行物2に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと云えるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)本件発明3について
本件発明3は、さらに「鋼が、更に他の元素として、Ni:3%以下,Cr:5%以下,Mo:1.2%以下,Cu:1%以下から選ばれる少なくとも1種を含むものである」という点を特定事項とするものであるが、機械構造用鋼に強度等の向上のために、「Cr:2%以下,Mo:1%以下およびNi:6%以下」含有させることは、例えば引用刊行物6の上記(6e)に記載され、また引用刊行物1の第1表にもこれら成分を含有する具体例が記載されているように周知の事項である。
してみると、本件発明3も、引用刊行物2に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと云えるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)本件発明4について
本件発明4は、さらに「鋼が、更に他の元素として、Ca:0.05%以下,Zr:0.2%以下,REM:0.3%以下,Te:0.2%以下,Se:0.3%以下から選ばれる少なくとも1種を含むものである」という点を特定事項とするものであるが、本件発明4が「Ca:0.05%以下」を選択した場合には、引用刊行物2発明も「Ca:<0.001%」含有するものであるから、両者は、この「Ca」の点で実質的な差異はない。また、Zrの含有についても、引用刊行物1、5及び6に記載されているように周知の事項である。
してみると、本件発明4も、引用刊行物2に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと云えるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(5)本件発明5について
本件発明5は、さらに「鋼が、更に他の元素として、V:1%以下,Ti:0.3%以下,Nb:0.3%以下から選ばれる少なくとも1種を含むものである」という点を特定事項とするものであるが、機械構造用鋼に結晶粒の微細化等のために、「V:0.01〜0.3%」含有させることは、例えば引用刊行物6の上記(6f)に記載されているように周知の事項である。
してみると、本件発明5も、引用刊行物2に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと云えるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件請求項1乃至5に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2006-01-31 
出願番号 特願平10-24943
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (C22C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 河野 一夫  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 平塚 義三
高木 康晴
登録日 2003-06-06 
登録番号 特許第3437079号(P3437079)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 切りくず処理性に優れた機械構造用鋼  
代理人 植木 久一  
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