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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1135026
審判番号 不服2002-5578  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-05-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-04-03 
確定日 2006-04-13 
事件の表示 平成4年特許願第301399号「セメント混和材及びセメント組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成6年5月24日出願公開、特開平6-144904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は平成4年11月11日に特許出願され、平成14年2月26日付けで拒絶査定されたところ、平成14年4月3日に審判請求書が提出され、その後、当審では、以下の手続を経ている。
拒絶理由通知書(当審) 平成16年 5月19日
意見書 平成16年 5月31日
手続補正書 平成16年 5月31日
審尋(拒絶理由通知の理由について) 平成18年 1月 4日
回答書 平成18年 1月13日

II.本願発明
本願請求項1〜3に係る発明は平成14年1月9日提出の手続補正書及び平成16年5月31日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載されるとおりのものであって、その請求項1及び2には次のことが記載されている。
【請求項1】重合度が50〜100,000で、且つその水性スラリーのPHが7〜12の範囲のポリメタクリル酸類とホウ酸類、並びにアルミナセメントを含有してなるセメント組成物。(以下、必要に応じて、「本願発明1」という)
【請求項2】重合度が50〜100,000で、且つその水性スラリーのPHが7〜12の範囲のポリメタクリル酸類、ホウ酸類、炭酸塩及び/又はカルボン酸類、並びにアルミナセメントを含有してなるセメント組成物。(以下、必要に応じて、「本願発明2」という)

III.当審で通知した平成16年5月19日付け拒絶の理由の概要
本願請求項1〜3に係る発明は、下記の引用例1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:特開昭55-121933号公報
引用例2:特開昭55-75948号公報
引用例3:特開昭49-117519号公報
引用例4:特開昭60-161365号公報
引用例5:特開平2-51457号公報
引用例6:特開昭50-63013号公報
引用例7:特開昭58-115052号公報
引用例8:特開昭64-61339号公報
引用例9:特開平2-175645号公報
引用例10:特開昭53-85821号公報
引用例11:特開平3-150249号公報

IV.当審の判断
IV-1.引用例の記載
IV-1-A.引用例2(特開昭55-75948号公報)の記載事項
(A-1)「1)水溶性物質であるポリメタクリル酸、メタクリル酸-アクリル酸共重合体、又はこれらの塩を含有してなるアルミナセメント。」(特許請求の範囲第1項)
(A-2)「2)水溶性物質であるポリメタクリル酸、メタクリル酸-アクリル酸共重合体、又はこれらの塩とアルカリ金属炭酸塩、ヒドロオキシカルボン酸又はその塩から選ばれた1種以上を含有してなるアルミナセメント。」(特許請求の範囲第2項)
(A-3)「アルミナセメントはポルトランドセメントに比べて凝結時間が短いので、適度なワーカビリテイを持たせるために、各種の凝結遅延剤を添加して使用されているが、特に、12CaO・7Al2O3とCaO・Al2O3のカルシウムアルミネートを含有するアルミナセメントにα-Al2O3の微粉末を添加した高耐火性キヤスタブル用ハイアルミナセメントの凝結遅延剤は主として、ヒドロオキシカルボン酸塩またはこれとアルカリ炭酸塩とを用いている。」(第1頁左下欄第17行〜右下欄第5行)
(A-4)「しかしながら、従来の凝結遅延剤を使用したアルミナセメントは、施工温度が30℃以下であるときは良好なワーカビリティが得られるが、気温が30℃をこえる夏期においては極端に悪くなつて、施工上のトラブルを生ずる欠点がある。本発明はこの欠点を解決したもので、〈中略〉、これは耐火度、強度等の特性を損なうことなく高温におけるワーカビリテイを改善したものである。」(第1頁右下欄第6〜18行)
(A-5)「本発明で使用するポリメタクリル酸又はメタクリル酸-アクリル酸共重合体は重合度が50〜10000のものが水溶性であるので好ましく、またこれらの水溶性塩としては、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩があげられるが、これらの中で、性能、価格、入手し易さ等からポリメタクリル酸ナトリウムが最も好ましいものである。」(第1頁右下欄第19行〜第2頁左上欄第6行)
(A-6)「ポリメタクリル酸、メタクリル酸-アクリル酸共重合体、又はこれらの水溶性塩は、添加量が増加するにつれてワーカビリテイも向上するが、それにともなつて硬化性状が低下するので、これの添加量はアルミナセメントに対して0.1〜10重量%が好ましい。」(第2頁左上欄第7〜12行)
(A-7)「実施例
第1表に示すアルミナセメントに対して等重量のα-Al2O3微粉末と第2表に示す化合物を配合し、JISR2521に準じた試験方法により、温度20℃と35℃における注水時のフローと注水後30分の経時フローを測定した。その結果を第3表に示す。」(第2頁右上欄第17行〜左下欄第3行)

IV-1-B.引用例5(特開平2-51457号公報)の記載事項
(B-1)「(1)クエン酸類50〜80重量部とホウ酸類50〜20重量部からなるセメント混和剤」(特許請求の範囲第1項)
(B-2)「〔産業上の利用分野〕
本発明はセメント混和剤、特にセメントの凝結調整剤に関する。
〔従来の技術とその課題〕
従来この種の混和剤としてはβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(以下β-NSという)、メラミンスルホン酸塩(以下MBという)、オキシカルボン酸類、リン酸類及びホウ酸類等が知られている。(Currell B.R、他:Cem.Coner.Res,17(3),420〜432,187)」(第1頁左下欄第8〜17行)
(B-3)「しかしながらこれらの混和剤をセメント添加量が5重量%以下となる様なセメント量の著しく少ない高強度コンクリートや高強度キャスタブルに、単味で使用すると夏場のような高温施工時に十分な可使時間や流動性が得られなかつた。」(第1頁左下欄第18行〜右下欄第2行)
(B-4)「なかでも、クエン酸50〜80重量部、ホウ酸50〜20重量部からなるセメント混和剤が、特に可使時間、流動性及び硬化性の面で良好で、クエン酸60〜70重量部、ホウ酸40〜30重量部からなるセメント混和剤がより好ましい。」(第2頁右上欄第2〜6行)
(B-5)「本発明にかかるセメントは、ポルトランドセメント、フライアッシユセメント及び高炉セメント等のカルシウムシリケートを主体とするセメント及びアルミナセメント等のカルシウムアルミネート(CaO・Al2O3等)を主体とするセメント等である。」(第2頁右上欄第9〜14行)
(B-6)「実施例1
表-1に示す混和剤及びCaO・Al2O3を主体とするアルミナセメント(電気化学工業社製商品名「ハイアルミナセメント」)を用い表-2に示す配合にて混合し、セメント量の少ない低セメントキヤスタブルを製造した。」(第2頁左下欄第14〜19行)
(B-7)「以上から明らかなように本発明のセメント混和剤を使用すると、夏場のような高温施工時に十分な可使時間が長く取れ、良好な流動性が得られる。」(第4頁左下欄第2〜4行)

IV-1-C.引用例6(特開昭50-63013号公報)の記載事項
(C-1)「鉱物組成が11CaO・7Al2O3・CaX2(但し、Xはハロゲン元素を示す)1〜60%、3CaO・SiO2固溶体5%以上を主成分とし、その他2CaO・SiO2固溶体および4CaO・Al2O3・Fe2O3鉄系固溶体などを含むクリンカよりなる急硬性セメントの凝結を遅延し、早期強度を増加せしめるに当り、ホウ酸、無水ホウ酸および水溶性ホウ酸塩のうちの一種または二種以上を含む凝結遅延剤を添加することを特徴とする急硬性セメントの凝結遅延方法。」(特許請求の範囲)
(C-2)「この方法ではセメント硬化体の強度は増加するが凝結時間は10〜15分程度であまり遅延せしめることはできないことを認め、この欠点を除去するために、種々研究を行ない下記の如き一連の特許を出願を出願した。
〈A〉凝結遅延剤として硫酸カルシウムを主体とするもの
〈中 略〉
〔B〕凝結遅延剤として硫酸カルシウムに他の凝結遅延剤を添加したもの
特願昭45-121500号:クリンカ粉末に対しクリンカ中のAl2O3に対しAl2O3/SO3が0.7〜1.8(重量)になるような不溶性無水石こうとカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムおよびアンモニウムの硫酸塩(二水石こう、無水石こうを除く)、硝酸塩、塩化物のうちの一種または二種以上とを混合する方法
〈中 略〉
特願昭46-94440号:クリンカにカルシウム、ナトリウム、カリウムおよびマグネシウムの炭酸塩を少なくとも一種添加するか、またはこの炭酸塩にさらにナトリウム、カリウム、アルミニウムおよびマグネシウムの硫酸塩を少なくとも一種添加し、同時粉砕した後、セメント中のAl2O3がAl2O3/SO30.6〜1.8になるように不溶性無水石こうを添加する方法」(第1頁右下欄第9行〜第2頁左下欄末行)
(C-3)「上記した種々の方法によれば、11CaO・7Al2O3・CaX2含有の急硬性クリンカから造つたセメントの凝結は何れも遅延し、そのモルタルまたはコンクリートの作業性および成形性は良好であり、かつ早期から長期にわたり硬化体の強度発現が優れていることを知見した。しかし、これらの方法ではセメントの凝結を遅延せしめる時間の上限は30〜40分程度で短かいので、この時間を長くし、かつ硬化体の強度の大なるセメントを得んとして、上記クリンカに添加する凝結遅延剤についてさらに研究を進めた結果、ホウ酸、無水ホウ酸またはホウ砂などの水溶性ホウ酸塩(以下ホウ酸系化合物という.)が硫酸カルシウムの単独使用を含む種々の凝結遅延剤に添加して使用された場合、効果的であることを知見した。クリンカ粉末にホウ酸系化合物のみを添加してセメントを造つても、セメントの凝結は遅延されるが、早期から長期にわたる硬化体の強度が高くならないので実用性に乏しい。」(第2頁右下欄第1〜19行)
(C-4)「この結果によるとクリンカ粉末Aに不溶性無水石こうが添加されない場合にはホウ酸の添加によりセメントの凝結時間が長くなるが早期および短期の強度が低くクリンカ粉末A及びBに不溶性無水石こうを添加した場合にはホウ酸の添加によりセメントの凝結時間は長くなると共に早期および短期強度もホウ酸添加量の特定範囲内において増加することが認められる。」(第3頁右下欄第18行〜第4頁左上欄第5行)

IV-1-D.引用例7(特開昭58-115052号公報)の記載事項
(D-1)「本質的に高アルミナセメント、水、並びにホウ酸、グルコン酸及びデルタラクトンから選ばれる凝結抑制剤から成る凝結を抑制された水溶性高アルミナセメントグラウト組成物を形成すること、及び、その後該グラウト組成物が使用に供される時、該凝結を抑制された水溶性高アルミナセメントグラウト組成物に、該グラウト組成物を高強硬化セメント様組成物に急速に凝結させる再活性剤から成る再活性剤組成物と混合することから成る硬化された高アルミナセメントグラウト組成物の製法。」(特許請求の範囲第1項)

IV-1-E.引用例9(特開平2-175645号公報)の記載事項
(E-1)「アルミナセメント、膨張材及びホウ酸化合物を主成分とするライニング組成物。」(特許請求の範囲第1項)
(E-2)「本発明にかかるアルミナセメント(以下ACという)」(第2頁左上欄第11及び12行)
(E-3)「本発明にかかるホウ酸化合物は、ホウ酸又はそのアルカリ金属塩である。・・・。特にホウ酸がpH抑制効果に優れ、可使時間がとれるために好ましい。」(第2頁左下欄第8〜12行)
(E-4)「各々の使用量は、AC80〜98重量部、膨張材20〜2重量部からなる混合物100重量部に対し、ホウ酸化合物0.05〜5重量部、又は、AC30〜70重量部、膨張材20〜2重量部及び炭酸カルシウム68〜10重量部からなる混合物100重量部に対し、ホウ酸化合物0.05〜5重量部が好ましい。この範囲外では、pH上昇の抑制効果に欠け、可使時間、強度発現性及び寸法安定性が悪く好ましく無い。」(第2頁左下欄第18行〜右下欄第6行)

IV-2.対比・検討
IV-2-1.本願発明1
引用例2には、その前記(A-1)によれば、水溶性物質であるポリメタクリル酸塩と、アルミナセメントとを含有してなるセメント組成物が記載されているということができるものであり、かつ、その前記(A-5)によれば、該ポリメタクリル酸塩として、重合度が50〜10000であり、また、その塩がナトリウムであるものが好ましいことが示される。
これにより、引用例2には、「重合度が50〜10000である水溶性物質であるポリメタクリル酸ナトリウム、並びに、アルミナセメントを含有してなるセメント組成物」に関する発明(以下、必要に応じて、「引用例2発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本願発明1と引用例2発明とを対比する。
引用例2発明の「ポリメタクリル酸ナトリウム」及び「アルミナセメント」は、本件発明1の「ポリメタクリル酸類」及び「アルミナセメント」に相当し、そのポリメタクリル酸ナトリウムの重合度の数値は本願発明1の数値範囲に含まれる。
よって、両者は、「重合度が50〜100,000であるポリメタクリル酸類、並びにアルミナセメントを含有してなるセメント組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】該ポリメタクリル酸類につき、本願発明1では、「その水性スラリーのPHが7〜12の範囲」のものであるというのに対して、引用例2発明ではそのことが明示されない点
【相違点2】該セメント組成物につき、本願発明1では、「ホウ酸類」を含有するのに対して、引用例2発明ではそのことが示されず、したがって、当該構成を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点1について】
引用例2発明のポリメタクリル酸ナトリウムは水中では弱酸の性質を示すポリメタクリル酸と、水中では強塩基の性質を示すナトリウムとから構成されるものであり、このように、弱酸と強塩基とからなるものであるから、ポリメタクリル酸ナトリウムは水中では中性ないしは弱アルカリ性域のpHを示すものである。
また、引用例2発明のポリメタクリル酸ナトリウムは、水溶性物質であるとしても、それは、重合体であることからその水に対する溶解度は基本的に低く、通常は、水中ではスラリー状の形態を呈するものである。
そうであれば、引用例2発明のポリメタクリル酸ナトリウムは、本願発明1のポリメタクリル酸類と同じように、「その水性スラリーのPHが7〜12の範囲」の物性を示すものである。
仮に、そうでないとしても、引用例2発明の水中でスラリー状の形態を呈するポリメタクリル酸ナトリウムが、中性ないしは弱アルカリ性を示すことから、その中性ないしは弱アルカリ性の範囲から、実験等により、「その水性スラリーのPHが7〜12の範囲」のものを選定し、その性能を確認して本願発明1の構成のようにすることは、当業者が困難なく適宜実施できることに外ならない。
してみれば、相違点1の構成については、両者の実質上の相違点とはならず、仮にそうでないとしても、当該構成のようにすることは当業者の容易になし得るものである。
【相違点2について】
引用例2発明は、その前記(A-4)及び(A-7)によれば、アルミナセメントを含有するセメント組成物につき、高温施工時における経時フローで代表されるところのワーカビリティを改善することをその発明の目的とするものである。
一方、アルミナセメントを含有するセメント組成物において、ホウ酸類はその凝結を遅延するところの凝結遅延剤(ないしは凝結抑制剤)として周知・慣用のもの〔必要ならば引用例5の前記(B-2)、引用例7の前記(D-1)、引用例9の前記(E-3)及び(E-4)、等を参照〕である。
更に、引用例5の前記(B-1)、(B-4)、(B-6)及び(B-7)によれば、アルミナセメントを含むセメント組成物においては、ホウ酸類をクエン酸類と併用することにより可使時間、流動性及び硬化性が改善されたセメント組成物を得ることができること、また、引用例6の前記(C-3)及び(C-4)によれば、11CaO・7Al2O3・CaX2含有の急硬性クリンカより造られたセメント組成物においては、ホウ酸系化合物を硫酸カルシウム(ないしは石こう)と併用することによりその凝結を遅延できるだけでなく早期から長期の強度が高いセメント組成物が得られることが示され、このように、ホウ酸類と他のセメント混和剤とを共にセメント組成物に使用することによりそのセメント組成物の物性を改善することは当該技術分野においては極く普通のことに過ぎない。
そして、セメント組成物に凝結遅延剤であるホウ酸類を適用すれば、そのセメント組成物の凝結が遅延することから、経時フローで代表されるところのワーカビリティが改善されることは直ちに予測できるものである。
そうであれば、引用例2発明のアルミナセメントを含有するセメント組成物において、その凝結を抑制し、そのワーカビリティを改善すること等を期待して、そこで用いられている混和剤であるポリアクリル酸ナトリウムに加えて、凝結遅延剤であるホウ酸類を更に配合すること、そして、その場合のセメント組成物の性能を実験等により確認して本願発明1の相違点2に係る構成を具備するようにすることは当業者であれば、困難なく適宜なし得るものである。
【本願発明1の奏する効果について】
本願明細書の記載(特に、段落0056、0066の表1及び4の記載)によれば、ポリメタクリル酸類とホウ酸類との二成分を配合したアルミナセメントを含有するセメント組成物においては、その可使時間、流動性、硬化時間及び圧縮強度が改善されない場合(必要ならば、表4の実験No.4-2、同No.4-8、表1の実験No.1-3、同1-10等と、表1の実験No.1-2又は表4の実験No.4-1とを比較されたい)が存在するものであり、したがって、本願発明1はそのセメント組成物につき可使時間が長く取れ、流動性が良く、適当な硬化時間と良好な強度発現性を確保できるとの請求人の主張する効果を奏しない態様を含むものである。
次に、アルミナセメントに対してポリメタクリル酸類とホウ酸類との二成分を最適比率で配合した本願発明1の態様(表1の実験No.1-5、同No.1-6)の場合の効果について以下に検討する。まず、その流動性及び可使期間については、引用例2発明のセメント組成物に対して凝結遅延剤であるところのホウ酸類を添加すればセメント組成物の凝結が抑制され、それだけ、流動性が高くなり、可使時間が長くなることは当業者にとって容易に予測することができるものであるし、また、その硬化時間については凝結遅延剤であるホウ酸類を添加することによりより長くなることは同じく容易に予測できるものである。更に、その24時間養生後の圧縮強度については、ポリメタクリル酸類及びホウ酸類を加えないものより優れることを示すものではなく、ポリメタクリル酸類又はホウ酸類からなる凝結遅延剤の単一成分を添加した場合に較べその圧縮強度の落ち込みが少なくなる程度のものに過ぎず、そのような程度の改善は当業者が日常的に実施するところの実験等により適宜確認できるものに過ぎない。
以上のとおり、本願発明1は、全体として所定の効果を奏するものではなく、また、その最適実施例において奏するという効果も引用例2、5〜7、9等の引用例の記載及びこの分野の技術常識からみれば容易に予測できるか、ないしは、日常的に実施される実験等により確認できる程度のものに外ならないものであり、結局、その奏するという効果は格別顕著なものとはいえない。

IV-2-2.本願発明2
本願発明2は、その請求項2の記載及び発明の詳細な説明の記載からみて、「重合度が50〜100,000で、且つその水性スラリーのPHが7〜12の範囲のポリメタクリル酸類、ホウ酸類、及びカルボン酸類、並びにアルミナセメントを含有してなるセメント組成物」との発明の態様を含むものである。
引用例2発明の内容については、上記IV-2-1.で記載したとおりである。
そこで、本願発明2(上記態様)と、引用例2発明とを対比すると、両者は、「重合度が50〜100,000であるポリメタクリル酸類、並びにアルミナセメントを含有してなるセメント組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点a】該ポリメタクリル酸類につき、本願発明2では、「その水性スラリーのPHが7〜12の範囲」のものであるというのに対して、引用例2発明ではそのことが明示されない点
【相違点b】該セメント組成物につき、本願発明2では、「ホウ酸類、及びカルボン酸類」を含有するのに対して、引用例2発明ではそのことが示されず、したがって、当該構成を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
【相違点aについて】
相違点aの構成については、上記IV-2-1.における相違点1についての箇所で記載した理由と同じ理由により、両者の実質上の相違点とはならず、仮に、そうでないとしても、当該構成のようにすることは当業者の容易になし得るものである。
【相違点bについて】
引用例2発明は、その前記(A-4)及び(A-7)によれば、アルミナセメントを含有するセメント組成物につき、高温施工時における経時フローで代表されるところのワーカビリティを改善することをその発明の目的とするものである。
一方、引用例5では、その前記(B-1)〜(B-7)によれば、クエン酸類(本願発明2のカルボン酸類に相当)とホウ酸類とからなる混和剤を、アルミナセメントを含むセメント組成物に用いた場合には、高温施工時に十分な可使時間や流動性が得られないとの欠点を解消でき、かつ、可使時間、流動性及び硬化性の面で良好であるセメント組成物が得られることが示される。
そして、このようにセメント組成物の可使時間や流動性が改善されることは、セメント組成物のワーカビリティを改善することに外ならない。
そうであれば、引用例2発明において、そのセメント組成物の高温施工時のワーカビリティを改善する観点から、引用例5に記載される当該教示に従い、ホウ酸類とクエン酸類とを共に添加し、その性能を確認して、上記相違点bの構成を具備するようにすることは、当業者であれば困難なく適宜実施できるものである。
したがって、上記態様を含む本願発明2は、引用例1〜11に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
【本願発明2の奏する効果について】
請求人は、本願発明2はそのセメント組成物につき可使時間が長く取れ、流動性が良く、適当な硬化時間と良好な強度発現性を確保できる旨主張するので以下に検討する。
まず、その流動性及び可使期間については、引用例2発明において流動性及び可使時間に有効な引用例5に記載の混和剤を添加すれば、そのセメント組成物の可使時間が長く取れ、流動性が良くなることは当業者にとって容易に予測することができるものであり、そして、その硬化時間については、引用例5に記載の混和剤を添加することにより、その可使時間が長く取れ、流動性が良くなるのであるから、硬化する時間が適度に延長されることは容易に予測できるものである。次に、その24時間養生後の圧縮強度については、引用例5に記載の混和剤をセメント組成物に添加した場合にはそのセメント組成物の硬化性が良好となる〔必要ならば引用例5の表-3における実施例の強度値(kgf/cm2)を参照〕ものであるから、引用例2発明に当該混和剤を添加したものにおいてはその圧縮強度が改善されることは容易に予測できるものであり、しかも、本願発明2における圧縮強度につき奏するという効果は、ポリメタクリル酸類及び上記混和剤を添加しないものより優れるというものではなく、唯、ポリメタクリル酸類を単独で添加した場合に較べその強度の落ち込みが少なくなる程度のものに過ぎず、そのような程度の改善は当業者が日常的に実施するところの実験等により適宜確認できるものに過ぎない。
以上のとおり、請求人が本願発明2において奏するという効果は、引用例2、5〜7、9等の引用例の記載及びこの分野の技術常識からみれば容易に予測できるか、ないしは、日常的に実施される実験等により確認できる程度のものに外ならないものであり、結局、その奏するという効果は格別顕著なものとはいえない。

V.結論
本願請求項1及び2に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1〜11に記載の発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-09 
結審通知日 2006-02-14 
審決日 2006-02-28 
出願番号 特願平4-301399
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩見 篤史武重 竜男永田 史泰  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 佐藤 修
野田 直人
発明の名称 セメント混和材及びセメント組成物  
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