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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06C
管理番号 1135033
審判番号 不服2002-20168  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-05-11 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-17 
確定日 2006-04-14 
事件の表示 平成 9年特許願第309331号「セルロース系繊維構造物の耐久性しわ付け加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月11日出願公開、特開平11-124768〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯

本件出願の経緯は以下のとおりである。

特許出願 平成 9年10月23日
拒絶理由通知 平成13年10月26日付け
意見書・手続補正書 平成14年 1月 7日
拒絶査定 平成14年 9月 5日付け
審判請求書 平成14年10月17日
手続補正書(請求の理由)平成14年11月18日


II.本願発明

本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年1月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】 セルロース系繊維構造物を液体アンモニア処理した後、しわ付け又はプリーツ加工を行い、その後98〜150℃で5分から4時間スチーム処理することを特徴とするセルロース系繊維構造物のしわ付け又はプリーツ加工方法。」


III.当審の判断

1.刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平8-284061号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1-a)「【請求項1】 セルロース系繊維の膨潤剤でセルロース系繊維含有布帛を前処理後、シワまたはプリーツ付け処理をすることを特徴とする耐久性のシワまたはプリーツを有するセルロース系繊維含有繊維製品の製造方法。
【請求項2】 セルロース系繊維の膨潤剤が液体アンモニアである請求項1のセルロース系繊維含有繊維製品の製造方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】、【請求項2】)
(1-b)「【従来の技術】
綿、レーヨン、麻などのセルロース系繊維単独あるいはこれらのセルロース系繊維を含有する布帛に、耐久性のあるシワを付与する試みがなされているが、合成繊維の場合のような熱セット性が少ないため、洗濯や着用後のシワ形状の保持性が極めて悪く、問題となっている。
また、布帛にセルロース架橋能のあるグリオキザール系の樹脂と触媒を付与後、布帛状態でシワを付与後、縫製し、次いでベーキングしてグリオキザール系樹脂の樹脂化を起こさせてシワ形状を固定化する方法・・もとられてきた。しかしながら、・・・致命的な欠点があった。
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、繊細でシャープなシワやプリーツを有し、かつ風合がソフトで吸水性にも優れた耐久性のあるシワまたはプリーツを有するセルロース系繊維含有布帛及び縫製品を提供しようとするものである。」(段落【0002】〜【0004】)
(1-c)「前記のシワまたはプリーツ付け処理した布帛は、そのままでも使用できるが、さらにシワまたはプリーツの耐久性を向上させるために、種々の処理機械により、種々の処理を施すことができる。例えばプレス処理、高圧処理、減圧処理、樹脂加工処理、ホルマリンガス等による気相処理、水蒸気処理などが挙げられる。これらの処理の中で風合を損なわない点で減圧処理、水蒸気処理が好ましく、より耐久性で、かつ風合の変化が少ない点で減圧処理、さらにはホルマリンガスによる気相処理が好ましい。」(段落【0011】)

また、原査定の拒絶の理由において周知技術を示す刊行物である、特開昭56-159348号公報、特開昭59-130357号公報、特開昭58-144168号公報(以下、それぞれ、「刊行物2」、「刊行物3」、「刊行物4」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
(2-a)「・・・・繊維製品のひだ又は折目の蒸熱固定法。」(刊行物2、特許請求の範囲第1項)
(2-b)「第1・2図に示す装置による蒸熱固定作業は次のようにして行なわれる。・・・蒸気供給管6から蒸気過熱室4に蒸気が供給され、該蒸気は蒸気過熱室4内において電気ヒーター5により加熱されて過熱蒸気(130〜105℃位)となり、・・・これにより、蒸熱固定中、滞留室13から積層体11中のひだ付け布帛を流通して滞留室13に至る連続的な過熱蒸気の流れが確保される。このようにして一定時間(ひだ付け布帛の性質・種類により一定しないが、20〜30分位)蒸熱後、蒸気供給弁を閉じて蒸気過熱室4への蒸気の供給を止め、そして電気ヒーター5への通電を止める。」(刊行物2、第2頁左下欄9行〜第3頁左上欄8行)
(3-a)「・・・ポリエステル系繊維からなる立毛布帛に、・・・捻りを与えたロープ状態で、120〜140℃の高圧蒸熱処理を施すことを特徴とする布帛の皺付け加工方法。」(刊行物3、特許請求の範囲)
(3-b)「ロープ状態の布帛の高圧蒸熱処理は・・・処理温度は120〜140℃が良く、120℃以下では皺固定が不充分で耐久性に劣り、また140℃以上では染料の移行が始まつたり高圧であるため装置的に無理が生じ、不経済である。処理時間は通常30〜60分間で良い。」(刊行物3、第2頁右下欄8行〜第3頁左上欄4行)
(4-a)「本発明は繊維製品特に布帛のひだ又は折目のセット(固定)に用いる蒸熱セット装置に関する。」(刊行物4、第2頁左上欄13〜15行)
(4-b)「この予圧状態の保持は、蒸熱処理室1内の蒸気温度を布帛のセットに必要な所要の高温に例えば、110℃位に上昇させるのに役立つ。」(刊行物4、第3頁右下欄8〜10行)

2.対比・判断
2-1.刊行物1に記載された発明
摘示(1-a)〜(1-c)からみて、刊行物1には、以下のとおりの発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「液体アンモニアでセルロース系繊維含有布帛を前処理後、シワまたはプリーツ付け処理をし、その後水蒸気処理することを特徴とする耐久性のシワまたはプリーツを有するセルロース系繊維含有繊維製品の製造方法。」

2-2.本願発明と刊行物1発明のと対比・判断
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「セルロース系繊維含有布帛」は、本願発明の「セルロース系繊維構造物」に相当し、刊行物1発明の「水蒸気処理」は、本願発明の「スチーム処理」に相当する。また、刊行物1発明の「耐久性のシワまたはプリーツを有するセルロース系繊維含有繊維製品の製造方法」は、実質的に本願発明の「セルロース系繊維構造物のしわ付け又はプリーツ加工方法」に相当する。
とすれば、両者は、「セルロース系繊維構造物を液体アンモニア処理した後、しわ付け又はプリーツ加工を行い、その後スチーム処理することを特徴とするセルロース系繊維構造物のしわ付け又はプリーツ加工方法。」の点で一致し、本願発明においては、スチーム処理を98〜150℃で5分から4時間の条件で行うのに対し、刊行物1発明においてはスチーム処理の温度、時間の条件が規定されていない点(以下、「相違点」という。)で相違する。
上記相違点について検討する。
スチーム処理を行う際に、その温度、時間を設定することは、当業者が通常行うことであり、刊行物1には、シワまたはプリーツの耐久性を向上させるためにスチーム処理を行う旨記載されているから(摘示(1-c))、シワまたはプリーツの耐久性の向上を目的として、スチーム処理の温度及び時間を最適な範囲に設定することは、当業者であれば適宜なし得ることである。
さらに、摘示(2-a)〜(4-b)をみてもわかるように、繊維製品に対するスチーム処理の温度、時間として、本願発明の「98〜150℃で5分から4時間」という条件は、通常の範囲内であるものともいえる。
したがって、刊行物1発明のスチーム処理の温度、時間として、「98〜150℃で5分から4時間」の範囲内の温度、時間を選択、設定することは、当業者が容易になし得ることである。

請求人は、審判請求書において、『いずれの刊行物についても、熱可塑性合成繊維を対象とする蒸熱処理条件が記載されており、引用文献1および本願発明で用いられている熱可塑性繊維ではないセルロース系繊維に対する蒸熱処理条件が開示されているとは認められない。』と主張している。確かに、刊行物2〜4には、セルロース系繊維のスチーム処理について記載されていないが、これらの刊行物には、繊維製品に対するスチーム処理条件として重複する温度条件等が示されている。したがって、刊行物1にシワまたはプリーツの耐久性を向上させるためにスチーム処理を行う旨記載されている以上、上記耐久性向上の目的でスチーム処理の温度、時間を検討することは当業者が通常行うことであって、それも、刊行物2〜4に記載されたような通常のスチーム処理温度、時間の範囲付近で検討することは、当業者であれば適宜なし得ることといわざるを得ない。
そして、請求人の主張するシワ等の耐久性向上効果も、平成14年1月7日付で提出された実験成績証明書を検討しても、格別顕著なものとはいい難く、刊行物1の記載から予測できるものにすぎない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。


IV.むすび

以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2006-02-03 
結審通知日 2006-02-08 
審決日 2006-02-21 
出願番号 特願平9-309331
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D06C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渕野 留香  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 野村 康秀
芦原 ゆりか
発明の名称 セルロース系繊維構造物の耐久性しわ付け加工方法  
代理人 小島 隆司  
代理人 小林 克成  
代理人 重松 沙織  

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