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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F04C
管理番号 1135121
審判番号 無効2005-80187  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-06-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-06-20 
確定日 2006-04-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第3521939号発明「可変容量型ベーンポンプ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3521939号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯及び本件特許発明
本件特許第3521939号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、平成5年9月7日に出願され(優先権主張平成4年9月9日、平成4年9月30日)、平成16年2月20日に設定登録されており、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「略放射方向に複数のベーンを出没自在に取り付けたロータと、
このロータを内部に収容し、支点を中心に揺動することで内側カム面がロータの外周面に対して離接可能なカムリングと、
前記ベーン、ロータ及びカムリングを収容するポンプボディと、
隣接するベーン間とロータ及びカムリングの間に形成され、前記ロータの回転に応じたポンプ作用が為される複数のポンプ室と、
前記カムリング内の吐出領域に臨む位置で複数のポンプ室に跨るように前記ポンプボディに設けられると共に、吐出ポートに連通する吐出溝と、
ロータの回転に応じたポンプ作用が為される部分と吐出ポートを接続する通路中に設けられたオリフィスと、
このオリフィスの前後差圧が導入され、このカムリングの偏心量を制御する制御機構とを備え、
前記ポンプボディは、前記カムリングが揺動することによって同カムリングの軸方向と直交する側部と摺動する摺動面を有する可変容量型ベーンポンプにおいて、
前記オリフィスをカムリングの揺動に応じて開口面積を変化させる可変オリフィスとし、その可変オリフィスの面積可変部分を前記ポンプボディの摺動面のうちの前記吐出溝から離間した位置に開口させ、カムリングの軸方向と直交する側部の摺動面によって開口面積を変化させるようにしたことを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。」

第2 請求人の主張の概要
1.審判請求人は、本件特許第3521939号の請求項1に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする趣旨の無効審判を請求し、甲第1号証(特開昭59-70891号公報(昭和59年4月21日出願公開))、甲第2号証(特開平4-17792号公報(平成4年1月22日出願公開))及び甲第3号証(特開昭53-130505号公報(昭和53年11月14日出願公開))を提出し、本件特許発明は、次の理由(A)又は(B)により特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張している。なお、審判請求人は、甲第4号証(本件特許に係る出願に関する平成15年8月25日付け意見書)も提出している。
理由(A):本件特許発明は、甲第1号証に対して周知技術(甲第2号証)及び設計事項(甲第3号証)を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。
理由(B):本件特許発明は、甲第2号証に対して甲第1号証の技術及び設計事項(甲第3号証)を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.上記理由(A)における本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との相違点は、次の(相違点a)及び(相違点b)のみであり、周知技術及び設計事項であると主張している。
(相違点a)
本件発明はカムリングが「支点を中心に揺動」或いは「揺動」するのに対して、甲第1号証のカムリングは「摺動」する点。
(相違点b)
本件発明は可変オリフィスの面積可変部分を「ポンプボディ」の摺動面に開口させ、「カムリング」の摺動面によって開口面積をを変化させるのに対し、甲第1号証は可変オリフィスの面積可変部分を「カムリング」の摺動面に開口させ、「リアハウジング」の摺動面によって開口面積を変化させる点。

第3 理由(A)についての被請求人の主張の概要
被請求人は、平成17年9月15日に審判事件答弁書を提出し、概ね以下のように主張した。
1.本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との相違点は、以下のとおりである。
(相違点1-1)
本件発明は、「カムリングが支点を中心に揺動することで、内部カム面がロータの外周面に対して離接可能な可変容量形ベーンポンプである」のに対し、甲第1号証に記載された発明は、「カムリングがハウジング内部を直線的に摺動することにより内部カム面がロータの外周面に対して離接可能なポンプである」点。
(相違点1-2)
本件発明のポンプは、「カムリングの軸方向と直交する側部がカムリングの揺動によりポンプボディの面を揺動する」のに対し、甲第1号証に記載された発明は「カムリングが直線的に移動することによりハウジングの一部の面を摺動する」点。
(相違点1-3)
本件発明は、「可変オリフィスの面積可変部分をポンプボディに設け、ポンプボディの摺動面のうちの吐出溝から離間した位置に開口させている」のに対し、甲第1号証に記載された発明は、「可変オリフィスの面積可変部分をカムリングに設け、カムリングの摺動面に開口させている」点。
(相違点1-4)
本件発明は、「カムリングの揺動に応じて、カムリングの軸方向と直交する側部の摺動面によりオリフィスの開口面積を変化させている」のに対し、甲第1号証に記載された発明は、「カムリングの直線運動に応じてハウジングの摺動面によりオリフィスの開口面積を変化させている」点。(答弁書第7頁)

2.まとめ
被請求人は、上記相違点(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)について、概ね次のように主張した。
「本件発明は甲第1号証に記載された発明と、相違点(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)で相違し、甲第2号証に記載された発明とは相違点(1-3)、(1-4)で相違し、甲第3号証に記載された発明とは相違点(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)で相違するから、たとえ甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を適用しても本件発明を想到することはできない。」

3.甲第2号証について
甲第2号証には、上記(相違点1-1)及び(相違点1-2)は開示されているが、上記(相違点1-3)及び(相違点1-4)は開示されていない。
(1)(相違点1-3)について
「相違点(1-3)は前述のように、(1)可変オリフィスの面積可変部分をポンプボディに設け、(2)ポンプボディの摺動面のうちの吐出溝から離間した位置に開口させる点にある。」(答弁書第8頁第6〜8行)
「甲第2号証に記載された発明は、可変オリフィスの面積可変部分をポンプボディに設けていると仮定しても、その面積可変部はポンプボディの開口部の面積ではなく、カムリング直下における溝の断面積である。
このため甲第2号証に記載された発明は、同証の第2、3、4図から明らかなように、連通溝73をポンプハウジング内側面13に形成された吐出用溝95と、吐出路12とを連絡する通路に形成しており、ポンプボディの摺動面のうち吐出溝から離間した位置に開口してはいない。すなわち、甲第2号証の第4図から分かるように、連通溝7は通路側ハウジング1aに形成されており、その連通溝7は第3図から分かるように、吐出溝95と接続されている。そして第2図から分かるように、吐出溝95も連通溝7と同じ通路側ハウジング1aに形成されているから、連通溝7は吐出溝95から離間した位置には形成されていない。
従って、たとえ連通溝7が本件発明の開口部に相当すると仮定しても、甲第2号証は少なくとも前述の(2)を開示しないから、前記相違点(1-3)を開示しない。」(答弁書第9頁下から2行目〜第10頁第13行)

(2)(相違点1-4)について
「甲第2号証に記載された発明は、カムリングの揺動に応じてカムリングの軸方向と直交する側部と、ハウジング(ポンプボディ)に形成された連通溝により可変オリフィスを形成し、カムリング側部の直下の溝の断面積を変化させるものであり、ポンプボディに設けた開口部の面積をカムリングの側部の摺動面により変化させるものではない。
従って甲第2号証は明らかに前記相違点(1-4)を開示しない。」(答弁書第10頁第18〜23行)

4.甲第3号証について
甲第3号証は、前記相違点(1-1)及び(1-2)を開示しないことは明らかである。
(1)(相違点1-3)について
「甲第3号証は、ハウジングに開口してオリフィスを形成したのではなく、ハウジングに大きな空間として形成されている流路の一部に部材を配することにより、流路の一部を狭くしてオリフィスを形成したものである。
従って、甲第3号証の構成は、前述の相違点(1-3)を開示するものではない。」(答弁書第11頁第16〜20行)

(2)(相違点1-4)について
「甲第4号証(註:「甲第3号証」の誤記)に記載された発明は、カムリングの直線運動に応じてオリフィスの開口面積を変化させるものであり、カムリングの揺動により、カムリングの軸方向と直交する側部の摺動面によりオリフィスの開口面積を変化させるものではないから相違点(1-4)を開示しないことは明らかである。」(答弁書第11頁下から4行目〜末行)

第4 理由(A)についての請求人の上申書における主張
請求人は、平成17年11月8日に上申書を提出し、概ね以下のように主張した。
「被請求人は、本件発明と甲第1号証との相違点として、相違点1-1乃至相違点1-4を主張している。
しかし、相違点1-2は「カムリングの軸方向と直交する側部」が甲第1号証のカムリングにはないという上述の構成要件Hに関する被請求人の誤った主張を前提としたものに過ぎない。上述の通り、本件発明にいう「カムリングの軸方向」と直交する側部は、甲第1号証の「ポンプの軸方向」と直交する側部と同一部分を指しており、この点を相違点ということはできない。
また、相違点1-3のうち可変オリフィスを「吐出溝から離間した位置に開口させている」点は、構成要件Jについて上述した通り甲第1号証に記載されており、この点を相違点ということはできない。
また、相違点1-4は、「本件発明カムリングの揺動に応じて、カムリングの軸方向と直交する側部の摺動面によりオリフィスの開口面積を変化させているのに対し、・・・」というものであるが、このような構成は本件発明の構成要件A〜Jの何れにも該当しない。被請求人の主張する相違点1-4は、本件発明の構成要件B,H,I及びJを適当に組み合わせた作文に過ぎない。
このように被請求人のする相違点は到底採用し得ないものであり、採用し得るとすれば相違点1-1及び1-3の一部のみである。これら相違点は、請求人が審判請求書16頁で述べた相違点(a)及び(b)以上のものではない。」(上申書第4頁第19行〜第5頁第8行)

第5 甲第1号証ないし甲第3号証
1.甲第1号証
(1)甲第1号証に記載された事項
ア.「以下に本発明の第1実施例の可変容量形ベーンポンプを第2図ないし第4図を用いて説明する。
本第1実施例の可変容量形ベーンポンプは、パワーステアリングシステムに本発明の可変容量形ベーンポンプを適用した実施例で、流体圧ポンプはカムリングが摺動タイプの可変容量形ベーンポンプ、コントロールバルブはスプール摺動タイプで、流体圧ポンプはVベルトを介してエンジンによって駆動される。」(公報第4頁右上欄第9〜17行)

イ.「本発明の第1実施例の可変容量形ベーンポンプは、上述の様にコントロールバルブCVを配設し、吐出流路OLに設けられた第1オリフィス18の前後の流体圧力を検出して、コントロールバルブCVによって第2チャンバCB2への圧力を必要に応じて切換えて吐出圧力、吸込圧力或いは大気圧力を供給する様にしたので、第1オリフィス18前後の流体圧力差が設定圧に対して微かに差が生じた場合でも第1オリフィス18で検出した微かな差をコントロールバルブCVの流路の切換作用により増幅して従来装置に比べ大きな作動力を作用させることにより、、エンジンの回転数の変化による単位時間当りの吐出流量の変化を素早くカムリングCRの位置制御へとつなげ、カムリングCRを所定の位置に迅速に応答性よくしかも流量特性よく制御でき、流量制御を精度よく行なうことができる。」(公報第7頁右上欄第16行〜同頁左下欄第12行)

ウ.「本第2実施例の可変容量形ベーンポンプは、流体ポンプはカムリングが支点ピンを中心に揺動する揺動タイプの可変容量形ベーンポンプ・・・である。」(公報第7頁左下欄第20行〜同頁右下欄第4行)

エ.「以下、本発明の第3実施例の可変容量形ベーンポンプを第6図ないし第8図を用いて説明する。
本第3実施例の可変容量形ベーンポンプは、パワーステアリングシステムに本発明の可変容量形ベーンポンプを適用した実施例で、」(公報第9頁左上欄第6〜10行)

オ.「吐出ポートOPと動力舵取装置80との間の吐出流路OLに設けられた第1オリフィス81は、カムリングCRのロータRTに対する偏心量によって開口面積が変化する可変オリフィスである。この第1オリフィス81は、カムリングCRの第1絞り孔82及び第2絞り孔83とリアハウジングに設けた吐出流路OLの位置により第8図の様な開口面積変化をする。第8図に図示するA,B,C,Dの各セクションは、第1絞り孔と第2絞り孔及び吐出流路との位置関係により以下の様に分類したものである。Aセクションは、第1絞り孔と第2絞り孔が吐出流路OLに全開状態、Bセクションは第1絞り孔と吐出流路が部分的な導通状態かつ第2絞り孔と吐出流路が完全な導通状態、Cセクションは第1絞り孔が全閉、第2絞り孔が吐出流路と全開状態、Dセクションは第1絞り孔が全閉第2絞り孔と吐出流路が部分的導通状態にある場合である。」(公報第9頁右上欄第13行〜同頁左下欄第10行)

カ.「本実施例に於いて、作動流体の主な流れは、フロントハウジング側の吐出ポートOPから流路85へ、そして流路85からカムリングCRに設けられた導流孔86へ、更に第1オリフィス81の構成要素である第1絞り孔82及び第2絞り孔83から動力舵取装置80に連通する吐出流路OLへ流出する。」(公報第9頁左下欄第14〜20行)

キ.「以上の様に、本発明の第3実施例の可変容量形ベーンポンプは、第1オリフィス81をカムリングCRのロータRTに対する偏心量により開口面積が変化する可変オリフィスで構成し、吐出流路OLからの分岐流路にオリフィスを設けたので、本第1実施例の場合と同様の効果を有する上に、更に次の様な効果を有する。
即ち、第1オリフィス前後の流体圧力差をコントロールバルブによって常に一定に制御することにより偏心量の小さい高速回転領域例えば自動車が中高速度で走行する様な場合のポンプからの吐出流量は第1オリフィスの開口面積に比例して少なくなるので、動力舵取装置80のパワーアシスト比が下がってハンドルに感じる操舵抵抗を増し、中・高速度走行時、特に高速度走行時に見られるタイヤと路面間の接地抵抗の減少に伴うハンドルのふらつきを防止することができる。
また、第1オリフィスの第1絞り孔が全閉、第2絞り孔と吐出流路が部分的導通状態の第8図におけるDセクションの場合の様に更に超高速度で走行を強いられた場合には、一層パワーアシスト比が低くなり、ハンドルに感じる操舵抵抗を増し、安定した走行を可能にすることができる。これにより、高速道路での長時間運転に際して左程疲労を感じることがない。」(公報第9頁右下欄第1行〜第10頁左上欄第5行)

(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)及び第6図ないし第8図から以下のことが分かる。
ア.第6図ないし第8図に示された第3実施例はカムリングCRがロータRTに対して直線方向に移動するタイプの可変容量形ベーンポンプである。

イ.カムリングCRとロータRTの間は大まかに吐出領域と吸入領域に区分され、第7図で言えば、カムリングCRとロータRTの間の上半分が吐出領域で下半分が吸入領域である。そして、吐出流路OLに流路85,導流孔86,第1絞り孔82及び第2絞り孔83を介して連通する吐出ポートOPが、上記吐出領域に臨む位置で複数のポンプ室に跨るようにハウジングに設けられている。

ウ.第1オリフィス81は、カムリングCRの直線方向の移動によって開口面積が変化する可変オリフィスである。

エ.第1絞り孔82及び第2絞り孔83が、可変オリフィスである第1オリフィス81の開口面積が変化する部分を構成しており、そして、カムリングCRの摺動面に開口した導流孔86に設けられている。

オ.上記(1)オ.で「第1オリフィス81」は、「吐出流路OLに設けられた」と記載されている。ここで、第6図及び第7図を見ると、吐出流路OLの方は流路断面積が変化しない円筒形の流路にすぎないのに対して、第1オリフィス81を構成する第1絞り孔82及び第2絞り孔83の方は導流孔86の下流端に設けられた文字通りの絞り孔である。ところで、「オリフィス」とは、「流体を噴出させる孔」若しくは「流路中の絞り」のことである。してみれば、第1オリフィス81は、むしろ、導流孔86中に設けられているとする方が正確である。そして、導流孔86は、ロータRTの回転に応じたポンプ作用が為される部分と吐出流路OLを接続する通路である。

カ.第1絞り孔82及び第2絞り孔83は、吐出ポートOPとの間に流路85を介在させているので、吐出ポートOPから離間している。

キ.コントロールバルブCVは、第1オリフィス81の前後差圧が導入され、カムリングCRを直線方向に移動させることで、カムリングCRのロータRTに対する偏心量を制御している。

したがって、上記(1)及び第6図ないし第8図から、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「略放射方向に複数のベーンVAを出没自在に取り付けたロータRTと、
このロータRTを内部に収容し、直線方向に移動することで内側カム面がロータRTの外周面に対して離接可能なカムリングCRと、
前記ベーンVA、ロータRT及びカムリングCRを収容するハウジングと、
隣接するベーンVA間とロータRT及びカムリングCRの間に形成され、前記ロータRTの回転に応じたポンプ作用が為される複数のポンプ室と、
前記カムリングCR内の吐出領域に臨む位置で複数のポンプ室に跨るように前記ハウジングに設けられると共に、吐出流路OLに連通する吐出ポートOPと、
ロータRTの回転に応じたポンプ作用が為される部分と吐出流路OLを接続する導流孔86中に設けられた第1オリフィス81と、
このオリフィス81の前後差圧が導入され、このカムリングCRの直線方向の移動量を制御するコントロールバルブCVとを備え、
前記ハウジングは、前記カムリングCRが直線方向に移動することによって同カムリングCRの移動方向と平行な側部と摺動する摺動面を有する可変容量型ベーンポンプにおいて、
前記第1オリフィス81をカムリングCRの直線方向の移動に応じて開口面積を変化させる可変オリフィスとし、その可変オリフィスの第1絞り孔82及び第2絞り孔83を前記カムリングCRの摺動面のうちの前記吐出ポートOPから離間した位置に開口させ、カムリングCRの内側カム面の軸方向と直交するハウジングの側部の摺動面によって開口面積を変化させるようにした可変容量型ベーンポンプ。」

2.甲第2号証
(1)甲第2号証に記載された事項
ア.「本発明は、例えば自動車の自動変速機、油圧式パワーステアリング装置等のオイル供給用ポンプ等として使用される可変容量型ベーンポンプに関するものである。」(公報第2頁左上欄第7〜10行)

イ.「カムリング2は、円形の内周面21を有し、上記ハウジング内腔1c内に設けられている。カムリング2の各側面は、それぞれハウジング内腔1cの各側面(ポンプハウジング内側面)13,14に密接されている。
ロータ3は、カムリング2の円形内周面21よりも小径に形成され、カムリング2の円形内周面21内に設けられ、かつ両側面がそれぞれポンプハウジング内側面13,14に密接されている。」(公報第4頁左上欄第6〜14行)

ウ.「カムリング2は、ポンプハウジング1によって、ピボットローラ23の中心のO2を揺動中心として第1図の矢印A,B方向に揺動可能に支持されている。これにより、カムリング2は、その中心(円形内周面21の中心)O3がロータ3の回転軸線αに対して偏心可能となっている。」(公報第4頁右上欄第19行〜同頁左下欄第5行)

エ.「シール部材5とピボットローラ23とによってカムリング外周面22とポンプハウジング内周面15との間の空間部分が仕切られて2分割されている。そして、2分割された空間部分の一方側(カムリング偏心側)には第1コントロール圧力室91が設けられ、他方側には第2コントロール圧力室92が設けられている。
上記第1および第2コントロール圧力室91,92にはそれぞれ後述するように流体圧が導かれ、第1コントロール圧力室91は導入された流体圧によってカムリング2を偏心量の減少方向に付勢し、第2コントロール圧力室92は導入された流体圧によってカムリング2を偏心量の増加方向に付勢するようになっている。」(公報第4頁左下欄第20行〜同頁右下欄第13行)

オ.「ポンプハウジング内側面13には、第4図にも示すように、容積減少過程のポンプ室6位置から第2コントロール圧力室92位置まで延びる連通溝7が形成され、この連通溝7によって容積減少過程のポンプ室6と第2コントロール圧力室92とが連通されている。この連通溝7は、幅および深さが一定にされ、流路断面積(カムリング揺動方向に直交する断面の面積と一致)がカムリング揺動方向に一定となるように形成されている。カムリング2の側面の連通溝7を覆う部分には内周部分を残して凹部27が形成されて、その残されたカムリング内周部分と連通溝7とで流路抵抗となる絞り部73が構成されている。」(公報第5頁左下欄第1〜13行)

カ.「第1図の状態(カムリング2が最大に偏心した状態)から、ロータ3を矢印C方向に回転させると、各ポンプ室6も容積の増減を繰り返しながら矢印C方向に回転移動する。そして、各ポンプ室6は、容積増加過程において吸入口11aから流体吸入路11を通してオイル等の流体を吸入し、容積減少過程において上記吸入した流体を流体圧導入路95bおよび連通溝7に向けて吐出する。流体圧導入路95bに向けて吐出された流体はその流体導入路95bを通って第1コントロール圧力室91に導入され、連通溝7に向けて吐出された流体はその連通溝7を通って第2コントロール圧力室92に導かれた後、流体吐出路12に導かれて吐出口12aから吐出される。
上記連通溝7には絞り部73が設けているために、絞り部73が流路抵抗となって絞り部73の前後で差圧が生じ、第2コントロール圧力室92には絞り部72後の低流体圧P2が導入され、第1コントロール圧力室91には絞り部73前の高流体圧P1が導入される。これにより、カムリング2には、偏心量の増加方向に作用するカムスプリング25のばね力Fの他に、高流体圧P1が偏心量の減少方向に作用し、低流体圧P2が偏心量の増加方向に作用するようになる。つまり、カムリング2には、高流体圧P1と低流体圧P2との差圧ΔP(=P1-P2)がカムスプリング25のばね力Fに対抗して作用するようになる。
上記差圧ΔPは、絞り部73を通過する流量(吐出量と一致)Qの2乗に比例して増加し、絞り部73の流路断面積aの2乗に反比例して減少する。また、吐出量Qは、ロータ3の回転速度およびカムリング2の偏心量eに比例して増加する。つまり、次式の関係が成立する。
ΔP∝Q2/a2、Q∝e・N
このことから、ロータ回転速度Nが低いときは、吐出量Qが少なく、差圧ΔPも小さくなる。したがって、この場合は、差圧ΔPよりもカムスプリング25のばね力Fが勝り、カムリング2は最大偏心位置に保持される。この結果、ロータ回転速度Nが低いときは、ロータ回転速度Nに比例して吐出量Qが増加するようになる。
一方、ロータ回転速度Nが高くなると、吐出量Qが増加し、差圧ΔPも大きくなる。ここで、吐出量Qが所定量Q0になったときの差圧ΔPとカムスプリング25のばね力Fとがバランスするように設定されているとすると、ロータ回転速度Nが高くなって、吐出量Qが所定量Q0を越えると、差圧ΔPがカムスプリング25のばね力Fに打ち勝って、カムリング2が偏心量eの減少方向に揺動するようになる。これにより、カムリング2の偏心量eが減少し、押しのけ容積が減って、吐出量Qの増加が抑制される。このため、ロータ回転速度Nが高いときは、吐出量Qが徐々に増加するようになる。
すなわち、このポンプの構成によれば、第6図に二点鎖線δ2で示すように、ロータ回転速度Nが低いときにはロータ回転速度Nに比例して吐出量Qを増加させ、ロータ回転速度Nが高いときには吐出量Qを徐々に増加させることができる。」(公報第5頁右下欄第7行〜第6頁左下欄第6行)

キ.「第7図(a),(b)は、別の実施例の連通溝7aの形状を示している。なお、連通溝7a形状以外は、前記実施例と同様に構成されている。
この実施例の連通溝7aは、幅が一定で、深さがポンプ室6側から第2コントロール圧力室92側に向かうに従って徐々に浅くなるように形成されている。このため、連通溝7aの流路断面積は、カムリング揺動方向の偏心量減少側に向かうに従って徐々に小さくなる。
この構成によれば、カムリング2が揺動して、絞り部73の位置がカムリング揺動方向に移動すると、絞り部73の流路断面積aが変化する。すなわち、カムリング偏心量eが減少するに従って、絞り部73の流路断面積aが徐々に小さくなる。このため、カムリング2が偏心量減少方向に揺動すると、前記実施例の連通溝7と比較して、ロータ回転速度Nが同じ回転速度であっても、絞り部73の流路断面積aが小さくなり、差圧ΔPが大きくなって、カムリング偏心量eがますます小さくなり、吐出量Qが少なくなる。この結果、第6図に実線δ1または二点鎖線δ2で示すように、高回転速度域では吐出量Qが一定またはロータ回転速度Nに伴って徐々に下降する吐出量特性が得られる。」(公報第7頁右上欄第14行〜同頁左下欄第17行)

(2)甲第2号証に記載された発明
上記(1)及び第1図ないし第7図から、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「略放射方向に複数のベーン4を出没自在に取り付けたロータ3と、
このロータ3を内部に収容し、支点を中心に揺動することで内側カム面がロータ3の外周面に対して離接可能なカムリング2と、
前記ベーン4、ロータ3及びカムリング2を収容するポンプハウジング1と、
隣接するベーン4間とロータ3及びカムリング2の間に形成され、前記ロータ3の回転に応じたポンプ作用が為される複数のポンプ室6と、
前記カムリング2内の吐出領域に臨む位置で複数のポンプ室6に跨るように前記ポンプハウジング1に設けられると共に、吐出口12aに連通する吐出溝95と、
ロータ3の回転に応じたポンプ作用が為されるポンプ室6と吐出口12aを接続する流体吐出路12中に設けられた絞り部73と、
この絞り部73の前後差圧が導入され、このカムリング2の偏心量を制御する第1,2コントロール圧力室91,92とを備え、
前記ポンプハウジング1は、前記カムリング2が揺動することによって同カムリング2の軸方向と直交する側部と摺動する摺動面を有する可変容量型ベーンポンプ。」

3.甲第3号証
(1)甲第3号証に記載された事項
ア.「本発明は、車両の動力舵取装置用のポンプとして特に好適な可変容量ポンプに関するものである。」(公報第1頁右欄第1〜2行)

イ.「ベーンポンプのロータ中心とベーンの摺接する円筒カム面中心との偏心量を可変とする共に、ポンプ吐出通路に設けた可変オリフイスの連通面積が、上記円筒カム面を有するカムリングの上記偏心量を減少させる方向への変位に応動して小さくなるように構成し、かつこの可変オリフイス前後の差圧を利用して上記カムリングの移動制御を行なうことにより、ロータの回転数の増加に伴い吐出流量が減少するようにした」(公報第2頁左上欄第2〜10行)

ウ.「本ポンプは、カムリング(5)が図の最上方位置にあるとき、カムリング(5)と一体の摺動ロッド(11b)がその小径直線部(A)の先端部を固定オリフイス(11a)内に位置させるようにすれば、回転軸(3)の回転数、つまりロータ(2)の回転数(Nr.p.m)と吐出流量(Ql/min)との関係が概ね第2図に示すようになる。すなわち、このポンプでは、ロータ(2)を第1図矢印方向に回転させると、吸入通路(9)、カムリング(5)の円筒カム面(6)内、吐出通路(10)を通って流体が吐出され、可変オリフイス(11)前後に差圧が生じる。この差圧は通路(12)、(13)および第一,第二圧力室(14)、(15)を介してカムリング(5)に及ぼされる結果、カムリング(5)は円筒カム面(6)の中心(O)とロータ(2)の中心(o)の偏心量(e)が小さくなる方向に変位しようとする力を受けるが、ロータ(2)の低速回転域ではこの差圧力は圧縮ばね(8)の弾発力に打ち勝つことができない。このため上記偏心量(e)は変化せず、したがってポンプの吐出流量は、ロータ(2)の回転数の増加に比例して増加する(第2図(a)領域)。
これに対し、さらにロータ(2)の回転数が増加し流量が大となると、オリフイス(11)前後の差圧力は圧縮ばね(8)を撓ませてカムリング(5)を第1図下方に変位させ、上記偏心量(e)を小さくする。このため円筒カム面(6)、ロータ(2)、および隣接するベーン(4)で形成される室の体積はカムリング(5)の上記変位前に比べて小さくなり、吐出する流量は小となる。そしてカムリング(5)の移動距離が第1図(l)の範囲、つまり可変オリフイス(11)の連通面積が小径直線部(A)で規制される一様な範囲では、カムリング(5)は常にある特定の吐出流量のときに生じるオリフイス(11)前後の差圧力と圧縮ばね(8)の弾発力とが平衡する点で静止するため、ロータ(2)の回転数の如何に拘らず、吐出流量がほぼ一定となる。(第2図(b)領域)。
次に、さらにロータ(2)の回転数が増加し、カムリング(5)が変位すると、今度は摺動ロッド(11b)の拡大テーパ部(B)が固定オリフイス(11a)内に進入する。このためこの可変オリフイス(11)の連通面積は徐々に狭くなる結果、このオリフイス(11)前後の差圧は拡大テーパ部(B)の上記進入につれてさらに大きくなり、この差圧力によってカムリング(5)は上記偏心量(e)が小さくなる方向に変位し、吐出流量を減少させる。この状態が第2図(c)領域である。つまりこの範囲では拡大テーパ部(B)によって、差圧力の増加が流量の減少を生じさせ、流量が減少してもさらに差圧力が増加するという関係になる結果、回転数の増加と共に流量が減少するわけである。
そして、最後に摺動ロッド(11b)の大径直線部(C)が固定オリフイス(11a)内に進入すると、可変オリフイス(11)の連通面積は最も小さい状態で一定となり、このためカムリング(5)は再びある特定の吐出流量のときに生じるオリフイス(11)前後の差圧力と圧縮ばね(8)の弾発力とが平衡する点で静止するようになる。したがって、第2図(d)領域で示すように、ロータ(2)の回転数が増加しても吐出流量は一定に保たれ、しかもこの吐出流量は低速時の吐出流量より小さい。」(公報第2頁左下欄第13行〜第3頁右上欄11行)

エ.「第4図、第5図は、本発明の他の実施例を示すものである。この実施例は、カムリング(5)自体の移動によってその連通面積を変える可変オリフイス(11)をカムリング(5)と室(7)との摺動壁面で構成したものであって、吐出通路(10)にはカムリング(5)の摺動方向上下に二つの固定オリフイス(11c),(11d)が設けられ、この二つのオリフイスのうちの上方のオリフイス(11c)の連通面積をカムリング(5)の吐出通路上壁(5a)が制御するようになっている。」(公報第3頁左下欄第14行〜同頁右下欄第2行)

オ.「この実施例の単純な変形として、カムリング(5)の吐出通路の摺動壁面に複数個の固定オリフイスを設け、この固定オリフイスの連通面積をハウジング(1)側の吐出通路壁面によって制御しても、同様の可変オリフイスが得られる。」(公報第3頁右下欄第15〜19行)

(2)甲第3号証に記載された発明
上記(1)及び第1,2,4,5図から、甲第3号証には次の発明が記載されている。
「可変オリフイス11をカムリング5の直線方向の移動に応じて連通面積を変化させる可変オリフイスとし、可変オリフイス11の固定オリフイス11cをハウジング1の摺動面に設け、カムリング5の円筒カム面6の軸方向と平行な側部の摺動面によって固定オリフイス11cの連通面積を制御するようにした可変容量型ベーンポンプ。」

第6 理由(A)についての対比
1.当審における対比
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証に記載された発明の「ハウジング」、「吐出流路OL」、「吐出ポートOP」、「導流孔86」、「コントロールバルブCV」、「第1オリフィス81」及び「第1絞り孔82及び第2絞り孔83」が、本件特許発明の「ポンプボディ」、「吐出ポート」、「吐出溝」、「ロータの回転に応じたポンプ作用が為される部分と吐出ポートを接続する通路」、「制御機構」、「可変オリフィス」及び「可変オリフィスの面積可変部分」に相当する。また、本件特許発明における『「カムリング」が「ロータ」及び「ポンプボディ」に対して「支点を中心に揺動する」』ことと甲第1号証に記載された発明の『「カムリングCR」が「ロータRT」及び「ハウジング」に対して直線方向に移動する』こととは、『「カムリング」が「ロータ」及び「ポンプボディ」に対して「移動する」』という限りにおいて一致する。したがって、両者は、
「略放射方向に複数のベーンを出没自在に取り付けたロータと、
このロータを内部に収容し、移動することで内側カム面がロータの外周面に対して離接可能なカムリングと、
前記ベーン、ロータ及びカムリングを収容するポンプボディと、
隣接するベーン間とロータ及びカムリングの間に形成され、前記ロータの回転に応じたポンプ作用が為される複数のポンプ室と、
前記カムリング内の吐出領域に臨む位置で複数のポンプ室に跨るように前記ポンプボディに設けられると共に、吐出ポートに連通する吐出溝と、
ロータの回転に応じたポンプ作用が為される部分と吐出ポートを接続する通路中に設けられたオリフィスと、
このオリフィスの前後差圧が導入され、このカムリングの偏心量を制御する制御機構とを備え、
前記ポンプボディは、前記カムリングが移動することによって同カムリングの軸方向と直交する側部と摺動する摺動面を有する可変容量型ベーンポンプにおいて、
前記オリフィスをカムリングの移動に応じて開口面積を変化させる可変オリフィスとし、その可変オリフィスの面積可変部分を前記ポンプボディの摺動面のうちの又は前記カムリングの摺動面のうちの前記吐出溝から離間した位置に開口させ、カムリングの軸方向と直交する側部の摺動面又はカムリングの軸方向と直交する前記ポンプボディの側部の摺動面によって開口面積を変化させるようにした可変容量型ベーンポンプ。」
で一致し、次の〔相違点A-1〕及び〔相違点A-2〕で、相違する。
〔相違点A-1〕
本件特許発明の「カムリング」が「ロータ」及び「ポンプボディ」に対して「支点を中心に揺動する」ようになっているのに対して、甲第1号証に記載された発明の「カムリングCR」は「ロータRT」及び「ハウジング」に対して直線方向に移動するようになっている点。
〔相違点A-2〕
本件特許発明においては「可変オリフィスの面積可変部分を前記ポンプボディの摺動面のうちの前記吐出溝から離間した位置に開口させ、カムリングの軸方向と直交する側部の摺動面によって開口面積を変化させるようにした」のに対して、甲第1号証に記載された発明においては「可変オリフィス81の第1絞り孔82及び第2絞り孔83を前記カムリングCRの摺動面のうちの前記吐出ポートOPから離間した位置に開口させ、カムリングCRの内側カム面の軸方向と直交するハウジングの側部の摺動面によって開口面積を変化させるようにした」点。

2.被請求人による対比について
被請求人は、上記「第3 理由(A)についての被請求人の主張の概要」の「1」において、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との相違点として(相違点1-1)ないし(相違点1-4)の4つをあげている。
ここで、(相違点1-1)は、「カムリング」の「ロータ」に対する移動方向の相違に基づくものであり、また、(相違点1-2)は、「カムリング」の「ポンプボディ」又は「ハウジング」に対する移動方向の相違に基づくものである。ところで、「ロータ」は「ポンプボディ」又は「ハウジング」に対して回転のみを行い、その回転軸心は「ポンプボディ」又は「ハウジング」に対しては相対移動しないようにされているから、(相違点1-1)及び(相違点1-2)は結局のところ、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明の「カムリング」の「ロータ」及び「ポンプボディ」又は「ハウジング」に対する移動方向の相違に起因するものである。したがって、〔相違点A-1〕としてまとめた。
(相違点1-3)は、「可変オリフィス」を設ける位置に関するものであって、〔相違点A-1〕との相互関連性はないので、〔相違点A-2〕とした。
(相違点1-4)は、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明の「カムリング」の「ロータ」及び「ポンプボディ」又は「ハウジング」に対する移動方向の相違に起因するものと、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明の「可変オリフィスの面積可変部分」の位置及び「可変オリフィスの面積可変部分」の開口面積を変化させる要素の相違に起因するものとを含んでいる。ところが、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明の「カムリング」の「ロータ」及び「ポンプボディ」又は「ハウジング」に対する移動方向の相違に起因するものは〔相違点A-1〕として既にまとめた。また、上記「本件特許発明と甲第1号証に記載された発明の「可変オリフィスの面積可変部分」の位置及び「可変オリフィスの面積可変部分」の開口面積を変化させる要素の相違に起因するもの」は、結局のところ、「可変オリフィス」を設ける位置と密接な関係があるから、(相違点1-3)と別個に検討することは合理的ではない。そこで、上記「本件特許発明と甲第1号証に記載された発明の「可変オリフィスの面積可変部分」の位置及び「可変オリフィスの面積可変部分」の開口面積を変化させる要素の相違に起因するもの」は、上記のように〔相違点A-2〕として分離し、さらに(相違点1-3)も含むようにまとめた。

第7 当審の判断
1.〔相違点A-1〕及び〔相違点A-2〕の検討

〔相違点A-1〕
本件特許発明のように「カムリング」が「ロータ」及び「ポンプボディ」に対して「支点を中心に揺動する」ようにすることも、甲第1号証に記載された発明のように「カムリングCR」が「ロータRT」及び「ハウジング」に対して直線方向に移動するようにしていることも、次の2点で共通している。
(1)基本構成として、「ロータの回転中心とカムリングの内側カム面の中心とが互いに偏心可能に構成されていて、その偏心量を制御することによって隣接するベーン間の容積の変化率を変え、それによって作動油の吐出流量を調整するように」した可変容量型ベーンポンプである点。
(2)上記基本構成を基にして、ポンプの「吐出流路中に設けたオリフィス前後の差圧によってカムリングの偏心量を制御し、カムリングの偏心位置によってオリフィスの開口面積を変化させることにより、ロータの回転数に伴って吐出量を減少させる」点。
そして、「カムリング」を、本願特許発明のように「ロータ」及び「ポンプボディ」に対して「支点を中心に揺動する」ようにしても、甲第1号証に記載された発明のように「ロータRT」及び「ハウジング」に対して直線方向に移動するようにしても、「カムリング」の「ロータ」及び「ポンプボディ」又は「ハウジング」に対する偏心量を変化させることは同じであって、作用効果上格別の差異が生ずるとは認められない。
しかも、本件特許発明のように「カムリング」が「ロータ」及び「ポンプボディ」に対して「支点を中心に揺動する」ようにすることは甲第2号証に開示されている。
したがって、この甲第2号証に開示されている事項を甲第1号証に記載された発明に適用し、上記〔相違点A-1〕に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易になし得る程度の事項にすぎない。
なお、本件特許発明のように「カムリング」が「ロータ」及び「ポンプボディ」に対して「支点を中心に揺動する」ようにすることは、甲第1号証の第5図の第2実施例としても開示されている。また、被請求人は、甲第1号証には本件特許発明のように「カムリング」が「ロータ」及び「ポンプボディ」に対して「支点を中心に揺動する」ようにすることの開示がないと主張するのみで、本件特許発明の作用効果と甲第1号証に記載された発明の作用効果の異同に関しては一切言及していない。そして、本件特許発明のように「カムリング」が「ロータ」及び「ポンプボディ」に対して「支点を中心に揺動する」ようにすることが甲第2号証に記載されていることは、上記「第3 理由(A)についての被請求人の主張の概要」の「3.甲第2号証について」のように、被請求人も認めている。

〔相違点A-2〕
上記「第5 甲第1号証ないし甲第3号証」の「3.甲第3号証」の「(2)甲第3号証に記載された発明」に既に述べたように、甲第3号証には「可変オリフィス11をカムリング5の直線方向の移動に応じて連通面積を変化させる可変オリフィスとし、可変オリフィス11の固定オリフィス11cをハウジング1の摺動面に設け、カムリング5の円筒カム面6の軸方向と平行な側部の摺動面によって固定オリフィス11cの連通面積を制御するようにした可変容量型ベーンポンプ。」が記載されている。ここで、甲第3号証の上記「可変オリフィス11」、「固定オリフィス11c」、「連通面積」、「ハウジング1」、「カムリング5」及び「連通面積を制御する」は、本件特許発明の「可変オリフィス」、「可変オリフィスの面積可変部分」、「開口面積」、「ポンプボディ」、「カムリング」及び「開口面積を変化させる」に相当するから、甲第3号証には『可変オリフィスの面積可変部分をポンプボディに設け、かつ、カムリングの摺動面によって可変オリフィスの面積可変部分の開口面積を変化させるようにした』という技術思想が示されている。また、上記「第5 甲第1号証ないし甲第3号証」の「3.甲第3号証」の「(1)甲第3号証に記載された事項」の「オ」に摘記したように甲第3号証には、第4,5図の「実施例の単純な変形として、カムリング(5)の吐出通路の摺動壁面に複数個の固定オリフイスを設け、この固定オリフイスの連通面積をハウジング(1)側の吐出通路壁面によって制御しても、同様の可変オリフイスが得られる。」という記載もある。
つまり、「可変オリフィス」を設ける要素及び「可変オリフィス」の開口面積を変化させる要素を、「ポンプボディ」と「カムリング」のどちらとするかは、相対的なものであって、当業者が必要に応じて適宜選択可能な設計事項にすぎないものである。
したがって、甲第1号証に記載された発明において、「第1オリフィス81」の「第1絞り孔82」及び「第2絞り孔83」は「カムリングCR」に設けられた開口部である点が明らかであるから、甲第3号証に示された上記技術思想を甲第1号証に記載された発明に採用し、上記〔相違点A-2〕に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項にすぎない。

また、本件特許発明を全体として検討しても、甲第1号証に記載の発明及び甲第2,3号証にそれぞれ記載されたことから予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

2.補足
ところで、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された発明を適用すれば、甲第1号証に記載された発明の「カムリングCR」は「ロータRT」及び「ハウジング」に対して「支点を中心に揺動する」ものとなり、その際に、甲第3号証で示された上記技術思想を採用すれば、甲第1号証に記載された発明の「第1オリフィス81」を「ハウジング」に設け、かつ、「第1絞り孔82及び第2絞り孔83」を「ハウジング」の摺動面のうちの「吐出ポートOP」から離間した位置に開口させ、「カムリングCR」の軸方向と直交する側部の摺動面によって開口面積を変化させるものとなる。そして、この結果、当然のことながら、被請求人が本件特許発明と甲第1号証に記載された発明との相違点として上記「第3 理由(A)についての被請求人の主張の概要」の「1」であげた(相違点1-4)の本件特許発明の「カムリングの揺動に応じて、カムリングの軸方向と直交する側部の摺動面によりオリフィスの開口面積を変化させている」点も必然的に得られることになる。

なお、被請求人は、上記「第3 理由(A)についての被請求人の主張の概要」の「4.甲第3号証について」の「(1)(相違点1-3)について」で既述したように、甲第3号証に記載されているのは、「ハウジングに大きな空間として形成されている流路の一部に部材を配することにより、流路の一部を狭くしてオリフィスを形成したもの」であって、本件特許発明のように「ハウジングに開口してオリフィスを形成したのではな」いと主張し、さらに、答弁書第23頁下から3行目〜同頁末行において、「甲第3号証の第4図に記載された可変オリフィスは、カムリングとハウジングとを連絡する流路の一部に部材を配することにより形成されたものであり、ハウジング自体に設けられた開口部ではない。」とも主張している。しかしながら、甲第3号証からは、『可変オリフィスの面積可変部分をポンプボディに設け、かつ、カムリングによって可変オリフィスの面積可変部分の開口面積を変化させるようにした』という技術思想を認定したにすぎず、また、「可変オリフィス」を設ける要素及び「可変オリフィス」の開口面積を変化させる要素を、「ハウジング」と「カムリング」のどちらとするかは、相対的なものであって、当業者が必要に応じて適宜選択可能な設計事項にすぎないものであることの例示として、甲第3号証を用いたにすぎないので、被請求人の上記主張を採用するには至らない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-17 
結審通知日 2006-02-22 
審決日 2006-03-07 
出願番号 特願平5-221559
審決分類 P 1 123・ 121- Z (F04C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 清田 栄章
大橋 康史
登録日 2004-02-20 
登録番号 特許第3521939号(P3521939)
発明の名称 可変容量型ベーンポンプ  
代理人 井沢 博  
代理人 塩川 修治  
代理人 保坂 延寿  

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