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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1135277 |
審判番号 | 不服2003-19458 |
総通号数 | 78 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2001-07-19 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-10-02 |
確定日 | 2006-04-21 |
事件の表示 | 特願2000- 490「記録ヘッド、記録ヘッドの製造方法、及び複合ヘッド並びに磁気記録再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月19日出願公開、特開2001-195706〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成12年1月5日の出願であって、平成15年7月4日付けで手続補正がなされ、その後平成15年8月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成15年10月2日に審判請求がなされたものである。 本願の請求項1乃至19に係る発明は、上記平成15年7月4日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、それぞれ本願特許請求の範囲の請求項1乃至19に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 対向する第1の磁気コアと第2の磁気コアの一方の端部が記録ギャップを形成し、その他方の端部が磁気的接合を形成しており、前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間に、絶縁体により絶縁されたコイルが設けられ、前記コイルにより励磁された前記第1、第2の磁気コアの磁束が、前記記録ギャップから漏れることにより磁気媒体に記録を行う磁気ヘッドであって、前記記録ギャップの磁気媒体に近接する先端部から、前記磁気的な接合の接点までの距離(以下、ヨーク長という)が、10μm未満であることを特徴とする記録ヘッド。」 2 引用例 原査定の拒絶の理由で引用された特開平10-143820号公報(以下「引用例1」という。)には、「インダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッド」に関して次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。) (ア) 「【請求項1】上下1対の磁性膜の間に絶縁膜と導体コイルとを積層した書込み用のインダクティブヘッドと、読出し用の磁気抵抗(MR)ヘッドとを備えるインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッドであって、 前記上下磁性膜の先端に磁気ギャップを挟んで互いに対向する上下磁極と前記上下磁性膜の結合部との間の距離L(μm)が、前記薄膜磁気ヘッドの所望のデータ転送レートX(Mbit/sec)に対して、L<8400/Xの関係を有することを特徴とするインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッド。 【請求項2】前記距離Lが60μm以下であることを特徴とする請求項1記載のインダクティブ/MR複合型薄膜磁気ヘッド。」(特許請求の範囲の項) (イ) 「【0003】信号の記録媒体15への記録は、方形波の書込み電流をコイル10に印加することにより、前記上下磁性膜の対向する先端部間の磁気ギャップに磁束を発生させ、前記電流のプラスとマイナスが入れ換わるタイミングで、磁化遷移(トランジション)と呼ばれる磁化反転領域を生じさせることにより行われる。(後略)」(従来の技術の項、段落3) (ウ) 「【0004】【発明が解決しようとする課題】このような複合型薄膜磁気ヘッドにおいて高速・高密度記録を実現するためには、優れた記録能力を有する書込みヘッドが必要である。しかしながら、インダクティブヘッドのコイルを流れる書込み電流は、該コイルが持つインピーダンスにより遅れ成分が生じ、これが大きくなると、書込み電流の方形波に「なまり」と呼ばれる歪みが生じる。また、上下磁性膜のヨーク部分には、コイルを流れる書込み電流により渦電流損が生じ、これが更に上下磁極間の磁場の高周波成分に遅れを生じさせる。このため、記録媒体に高密度で信号を書き込む場合、隣接する磁化遷移が互いに干渉して、ノンリニア・トランジション・シフト(NLTS)と呼ばれる書込み位置の非線形なずれが記録媒体に生じ、これが信号の再生時に読取りエラーを増加させるという問題がある。」(段落4) (エ) 「【0010】このようにして、データ転送レートに応じてインダクティブヘッドの上下磁性膜のヨーク部分の長さを制限することにより、コイルを流れる書込み電流による渦電流損の影響が少なくなるので、上下磁極間の磁場に生じる高周波成分の遅れが改善され、NLTSを減少させることができる。」(課題を解決するための手段の項、段落10) (オ) 「【0012】書込み用のインダクティブヘッドは、その下部磁性膜を兼ねる上シールド4の上に、従来技術の工程をそのまま利用して、磁気ギャップを形成するためのアルミナからなる磁気ギャップ膜7と、ノボラック系樹脂からなる有機絶縁層8、9と、Cuからなる単層構造の導体コイル10と、NiFeのめっき膜からなる上部磁性膜11とを積層することにより形成されている。(後略) 【0013】本実施例の複合型薄膜磁気ヘッドにおいて、その所望のデータ転送レートをX(Mbit/sec)とした場合、図2における上部磁性膜のヨーク部分の長さ即ち互いに対向する上下磁極と前記上下磁性膜の結合部との間の距離L(μm)は、L<8400/Xとなるように設定する。このように距離Lを短くすることにより、それに応じて前記ヨーク部分における渦電流損の影響が小さくなり、上下磁性膜の先端に磁気ギャップ膜7を介して対向する上下磁極における磁場の高周波成分の遅れが軽減される。更に、距離Lを短くすることによって、前記上下磁極間での磁束の漏れが低減されて、磁気効率が改善されるという効果がある。」(発明の実施の形態の項、段落12〜13) (カ) 「【0016】また、必要なコイルターン数Tの最小値は、必要な書込み磁場の強さや磁極材料の飽和磁束密度により異なるが、一般に実用上5〜8程度である。コイルピッチは、製造工程におけるホトリソグラフィ技術の精度により左右されることは言うまでもないが、一般に実用上1.5μm以下とされる。これらを奏合(なお、「総合」の誤記と認められる。)すると、現状では、距離Lの最小値は、10μm程度と考えることができる。 【0017】本実施例において、データ転送レートを140(Mbit/sec)とする複合型薄膜磁気ヘッドを製造し、その場合に生じるNLTSの大きさ(%)と距離Lとの関係を試験したところ、図3に示す結果が得られた。(中略) 【0018】図3から明らかなように、NLTSは、上下磁性膜のヨーク部分の距離Lの増大に伴って大きくなることが分かる。更に、L=60μmでは、NLTSが20%以下となり、特に良好な特性が得られることが分かる。」(発明の実施の形態の項、段落16〜18) (キ) 本実施例における距離LとNLTSの関係を示す線図である図3には、ヨーク部分の距離Lが10μmや60μmの点及びこれを結ぶ線が示され、ヨーク部分の距離Lを短くするにしたがって、NLTSが小となり特性が改善される傾向があることが示されている。 3 対比・判断 (1)対比 本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。 引用例1には、上記2(ア)(下線部参照)に摘示した記載事項によれば、「書込み用のインダクティブヘッド」に関して、 「上下1対の磁性膜の間に絶縁膜と導体コイルとを積層した書込み用のインダクティブヘッドであって、 前記上下磁性膜の先端に磁気ギャップを挟んで互いに対向する上下磁極と前記上下磁性膜の結合部との間の距離L(μm)が、前記薄膜磁気ヘッドの所望のデータ転送レートX(Mbit/sec)に対して、L<8400/Xの関係を有し、前記距離Lが60μm以下であるヘッド。」 の発明が記載されている。 引用例1に記載された発明の「上下一対の磁性膜」は、「書込み用のインダクティブヘッド」を構成しているコアであるから、本願発明の「対向する第1の磁気コアと第2の磁気コア」に相当している。 引用例1に記載された発明の「書込み用のインダクティブヘッド」「磁気ギャップ」「上下磁性膜の結合部」は、それぞれ本願発明の「記録ヘッド」「記録ギャップ」「磁気的接合」に相当している。 引用例1に記載された発明の「上下1対の磁性膜の間に絶縁膜と導体コイルとを積層した書込み用のインダクティブヘッド」は、導体コイルが絶縁膜により絶縁されているから、本願発明の「第1の磁気コアと第2の磁気コアとの間に、絶縁体により絶縁されたコイルが設けられ」に相当する構成を実質的に備えている。 引用例1に記載された発明の「上下1対の磁性膜の間に絶縁膜と導体コイルとを積層した書込み用のインダクティブヘッド」は、「信号の記録媒体15への記録は、方形波の書込み電流をコイル10に印加することにより、前記上下磁性膜の対向する先端部間の磁気ギャップに磁束を発生させ」る(上記(イ)参照)従来技術の構成を当然備えているから、本願発明の「コイルにより励磁された第1、第2の磁気コアの磁束が、記録ギャップから漏れることにより磁気媒体に記録を行う磁気ヘッド」に相当する構成を備えている。 引用例1に記載された発明の「上下磁性膜の先端に磁気ギャップを挟んで互いに対向する上下磁極と前記上下磁性膜の結合部との間の距離L」は、本願発明の「記録ギャップの磁気媒体に近接する先端部から、前記磁気的な接合の接点までの距離(以下、ヨーク長という)」に相当している。 してみると、本願発明と引用例1に記載された発明は、 「対向する第1の磁気コアと第2の磁気コアの一方の端部が記録ギャップを形成し、その他方の端部が磁気的接合を形成しており、前記第1の磁気コアと前記第2の磁気コアとの間に、絶縁体により絶縁されたコイルが設けられ、前記コイルにより励磁された前記第1、第2の磁気コアの磁束が、前記記録ギャップから漏れることにより磁気媒体に記録を行う磁気ヘッドであって、前記記録ギャップの磁気媒体に近接する先端部から、前記磁気的な接合の接点までの距離(以下、ヨーク長という)が、短い記録ヘッド。」 である点で一致しており、以下の点で相違している。 (相違点)ヨーク長について、本願発明では、「10μm未満である」と特定しているのに対し、引用例1に記載された発明では、そのような特定がなく「60μm以下である」と記載されている点。 (2)相違点についての判断 引用例1には、「データ転送レートに応じてインダクティブヘッドの上下磁性膜のヨーク部分の長さを制限することにより、コイルを流れる書込み電流による渦電流損の影響が少なくなるので、上下磁極間の磁場に生じる高周波成分の遅れが改善され、NLTSを減少させることができる。」(上記(エ)参照)及び「距離Lを短くすることにより、それに応じて前記ヨーク部分における渦電流損の影響が小さくなり、上下磁性膜の先端に磁気ギャップ膜7を介して対向する上下磁極における磁場の高周波成分の遅れが軽減される。更に、距離Lを短くすることによって、前記上下磁極間での磁束の漏れが低減されて、磁気効率が改善されるという効果がある。」(上記(オ)参照)と、ヨーク長を短くすることによる作用効果が記載されている。 そして、引用例1には、ヨーク長として、10、60μm等が例示され、短くなるにしたがって、NLTS(書込み位置の非線形なずれ)が小となり改善される傾向があること(上記(キ)参照)が示され、ヨーク長として、10μmという、本願発明の特定する「10μm未満」と極めて近い値のものが例示されている。また、引用例1に「現状では、距離Lの最小値は、10μm程度と考えることができる。」(上記(カ)参照)との記載については、コイルの製造等の実用上の観点から、ヨーク長の最小値を説明しているのであって、10μm未満のものが不可能であるとかNLTSを減少させる作用効果がないということではないと理解できるものであって、何ら阻害要因となるものではない。むしろ、リソグラフィ技術等の技術水準の進歩によって、10μm未満の製造は当業者が必要に応じ適宜なし得ることであって、ヨーク長をより短くすることによりNLTSが減少して高周波で記録再生性能がよくなるという作用効果を予測しうるものである。よって、本願発明のように、ヨーク長を10μm未満と特定することは、当業者が容易に想到しうることである。 また、本願発明の「10μm未満」の10という値について検討するに、本願の出願当初は20μm以下であることを特徴としていたものであって、10という数字に格別臨界的意義があるものではない。してみれば、引用例1に10未満の例示がないとしても、10が例示され、より小であればよいという傾向が示されているのであるから、当業者が容易に想到しうることという他はない。 なお、請求人は、10μm未満とする理由を、再生出力変動の新規な課題の解決と主張するが、引用例1のものも、高周波での記録におけるNLTSの値を吟味し、信号の再生時に読取りエラーを増加させないで磁気効率を改善しようとするもので、本願発明と同様に高周波での記録再生において再生出力のノイズを減少させようとするものであって、その作用効果においても共通する点を有するものである。 4 むすび したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-02-10 |
結審通知日 | 2006-02-14 |
審決日 | 2006-03-10 |
出願番号 | 特願2000-490(P2000-490) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 豊 |
特許庁審判長 |
小林 秀美 |
特許庁審判官 |
片岡 栄一 川上 美秀 |
発明の名称 | 記録ヘッド、記録ヘッドの製造方法、及び複合ヘッド並びに磁気記録再生装置 |
代理人 | 工藤 雅司 |
代理人 | 机 昌彦 |
代理人 | 谷澤 靖久 |