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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1135304
審判番号 不服2004-17379  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-23 
確定日 2006-04-21 
事件の表示 平成 7年特許願第290741号「非水二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月20日出願公開、特開平 9-134719〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本願は、平成7年11月9日の出願であって、平成16年6月2日付で手続補正がなされ、平成16年7月21日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年8月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

[2]平成16年8月23日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年8月23日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成16年8月23日付の手続補正(以下「本件補正」という)は、平成16年6月2日付の手続補正により補正された下記の特許請求の範囲の請求項1〜9の記載、
「【請求項1】 リチウム含有遷移金属酸化物である正極活物質を含有するシート状正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極材料を含有するシート状負極と、セパレータとリチウム金属塩を含む非水電解質よりなる非水二次電池に於いて、該正極シート合剤端部の1〜10mmがリチウムイオン不透過性材料で被覆されていることを特徴とする非水非水二次電池。
【請求項2】 リチウム含有遷移金属酸化物である正極活物質を含有するシート状正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極材料を含有するシート状負極と、セパレータとリチウム金属塩を含む非水電解質よりなる非水二次電池に於いて、該正極シート長手方向合剤端部のみをリチウムイオン不透過性材料で被覆されていることを特徴とする非水非水二次電池。
【請求項3】 該正極シート長手方向合剤端部のみを1〜10mmリチウムイオン不透過性材料で被覆されていることを特徴とする請求項2に記載の非水二次電池。
【請求項4】 リチウムイオン不透過材料が、有機ポリマーからなる粘着テープか有機ポリマーの溶液または分散液を塗設して形成された皮膜であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非水二次電池。
【請求項5】 該粘着テープの材質が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、塩化ビニル、テフロン(登録商標)、ポリイミドおよびカプトンからなる群より選ばれる1材質である請求項4記載の非水二次電池。
【請求項6】 該リチウム金属塩を含む非水電解質を構成する電解液が、環状カーボネート及び/または非環状カーボネートを含むものである請求項1から5のいずれか1項に記載の非水二次電池。
【請求項7】 正極活物質としてリチウム含有遷移金属複合酸化物を少なくとも1種類含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の非水二次電池。
【請求項8】 負極材料が金属または半金属酸化物であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の非水二次電池。
【請求項9】 電子機器用、民生用、各種軍需用および宇宙用に使用する請求項1から8のいずれか1項に記載の非水二次電池。」を、
「【請求項1】 リチウム含有遷移金属酸化物である正極活物質を含有するシート状正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極材料を含有するシート状負極と、セパレータとリチウム金属塩を含む非水電解質よりなる非水二次電池に於いて、(1)該負極材料が、炭素質化合物、無機酸化物、無機カルコゲナイト、金属錯体および有機高分子化合物からなる群より選ばれる少なくとも1化合物であり、(2)該正極シート長手方向合剤端部のみを、有機ポリマーからなる粘着テープまたは有機ポリマーの溶液または分散液を塗設して形成されたリチウムイオン不透過性材料で被覆されていること、を特徴とする非水二次電池。
【請求項2】 該電極シート長手方向に、負極が正極の外側に位置するように負極シートの寸法が正極シートの寸法より大きく設計されている請求項1に記載の非水二次電池。
【請求項3】 該粘着テープの材質が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン(登録商標)、塩化ビニル、テフロン(登録商標)、ポリイミドおよびカプトンからなる群より選ばれる1材質である請求項1または2に記載の非水二次電池。
【請求項4】該粘着テープの幅が、0.5〜10mmである請求項3に記載の非水二次電池。
【請求項5】 該粘着テープの厚みが、15〜200μmである請求項3または4に記載の非水二次電池。
【請求項6】 負極材料が、次の一般式(1)の錫を含む酸化物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水二次電池。
SnM1aOt 一般式(1)(式中M1はAl、B、P、Siの少なくとも2種以上の元素を表し、aは0.2以上、2以下の数を、tは、1以上、6以下の数を表す。
【請求項7】 該リチウム金属塩を含む非水電解質を構成する電解液が、環状カーボネート及び/または非環状カーボネートを含むものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の非水二次電池。
【請求項8】 正極活物質としてリチウム含有遷移金属複合酸化物を少なくとも1種類含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の非水二次電池。
【請求項9】 電子機器用、民生用、各種軍需用および宇宙用に使用する請求項1〜8のいずれか1項に記載の非水二次電池。」
と補正する事項を含むものである。

2.補正の適否
本件補正前の請求項1〜9には、負極シートと正極シートとの寸法設計や粘着テープの幅、厚みについて特定する事項が含まれていないから、上記の請求項2,4,5についての補正事項は、本件補正前のいずれの請求項に記載した発明特定事項の限定的減縮を目的とするものに該当せず、誤記の訂正、または明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。

3.むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[3]本願発明について
1.本願発明
平成16年8月23日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜9に係る発明は、平成16年6月2日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項に基づいて認定すべきところ、請求項1,2に記載された「非水非水二次電池」は「非水二次電池」の明らかな誤記と認められるから、本願の請求項1〜9に係る発明は、平成16年6月2日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載の「非水非水二次電池」を「非水二次電池」と読み替える以外は請求項1〜9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める(上記[2]1.参照。以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)。

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物である特開平4-51473号公報(引用例3)に記載された事項は、以下のとおりである。
(ア)「(1)金属リチウムを活物質とする負極と、正極とがセパレータを間に介在して、渦巻状に巻回された極板群と非水電解液とが容器内に封入された非水電解液二次電池であって、正極の周囲を電解液に不溶性で、かつ電気絶縁性の物質でシールしたことを特徴とする非水電解液二次電池。」(特許請求の範囲第1項)
(イ)「上記負極活物質に金属リチウムを用いる非水電解液二次電池には、いまだ多くの問題点が残されている。その一つに負極板の劣化による短寿命がある。これは、負極活物質のリチウムが、充電時負極上にデンドライト状に析出し、セパレータを貫通したり、あるいはセパレータの端を乗り越えて正極と接触し、内部短絡を起こしてしまうものである。特に電極板の周辺部分では、電流集中が起こりやすく、これによって引き起こされる電流密度の増加で、テンドライトが発生しやすい。」(第1頁右欄第13行〜第2頁左上欄第5行)
(ウ)「正極の周囲を電解液に不溶性で、かつ電気絶縁性の物質でシールすることによって、電極の周辺部分における電流集中がなくなり、この部分でのデンドライトの発生が抑制される。」(第2頁右上欄第8〜11行)
(エ)「次に本発明を好適な実施例を用いて、詳細に説明する。
下記の試験においては、以下に示すような構成のリチウム二次電池を作製し、試験に用いた。
正極:アモルファス化した五酸化バナジウム粉末+エチレンプロピレンターポリマー(EPDM)2.5wt%のシクロヘキサン溶液+アセチレンブラック(重量比90:3:7)混合物を金属集電体上に塗布して乾燥させたもの。
負極:金属リチウム
電解液:1.0M濃度の六フッ化ひ酸リチウム(LiAsF6)のエチレンカーボネート(EC)/2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)(体積比1/1)溶液
・・・
電池を組み立てる前に、正極板の周辺端部にエチレンプロピレンターポリマー(EPDM)2.5wt%のシクロヘキサン溶液を塗布して乾燥させた。この後、セパレータを介して負極を重ねて渦巻状に巻回した後、容器内に挿入し、電解液を注入して電池Aを20本作った。・・・正極板の周辺端部にエチレンプロピレンターポリマー(EPDM)2.5wt%のシクロヘキサン溶液を塗布した電池Aでは、全く内部短絡が発生していないことが判明した。」(第2頁右下欄第6行〜第3頁右上欄第12行)

3.当審の判断
(1)刊行物発明
上記引用刊行物には、「金属リチウムを活物質とする負極と、正極とがセパレータを間に介在して、渦巻状に巻回された極板群と非水電解液とが容器内に封入された非水電解液二次電池であって、正極の周囲を電解液に不溶性で、かつ電気絶縁性の物質でシールしたことを特徴とする非水電解液二次電池。」(ア)が記載されており、この正極と負極は巻回されて極板群となるから、それぞれ「シート状正極」、「シート状負極」であるといえる。そして、記載(エ)によると、この正極は具体的には「アモルファス化した五酸化バナジウム粉末・・・混合物を金属集電体上に塗布して乾燥させたもの」であって、「五酸化バナジウム粉末・・・混合物」は正極合剤であるから、この正極は「正極活物質を含有する」ものであって、かつ「正極合剤を塗布された」ものといえる。また同じく記載(エ)によると、この負極は具体的には「リチウム金属」であるから、「リチウムを吸蔵・放出可能な負極材料を含有する」ものであるといえるし、この非水電解液は、具体的には「六フッ化ひ酸リチウム(LiAsF6)のエチレンカーボネート(EC)/2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)溶液」であるから、「リチウム塩を含む非水電解質」であるといえるし、この電気絶縁性の物質は、具体的には「エチレンプロピレンターポリマー(EPDM)2.5wt%のシクロヘキサン溶液を塗布して乾燥させた」ものであるから、「リチウムイオン不透過性材料」であるといえる。
以上の記載を本願請求項1の記載に沿ってまとめると、上記引用刊行物には「正極活物質を含有するシート状正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極材料を含有するシート状負極と、セパレータとリチウム金属塩を含む非水電解質よりなる非水二次電池に於いて、正極合剤を塗布された正極シートの周囲がリチウムイオン不透過性材料で被覆されていることを特徴とする非水二次電池。」の発明が記載されているといえる(以下、この発明を「刊行物発明」という。)。

(2)対比
本願発明1(前者)と、刊行物発明(後者)とを対比すると、両者は「正極活物質を含有するシート状正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な負極材料を含有するシート状負極と、セパレータとリチウム金属塩を含む非水電解質よりなる非水二次電池に於いて、該正極シートの端部がリチウムイオン不透過性材料で被覆されていることを特徴とする非水二次電池。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:前者は、正極活物質が「リチウム含有遷移金属酸化物」であるのに対し、後者は、正極活物質が特定されない点。
相違点2:前者は、リチウムイオン不透過性材料(以下「被覆材」という)で被覆されているのが「正極シート合剤端部の1〜10mm」であるのに対して、後者は、「正極合剤を塗布された正極シートの周囲」である点。

(3)判断
(i)相違点1について
正極活物質が「リチウム含有遷移金属酸化物」である非水二次電池は、拒絶理由にそれぞれ引用例1,4として引用した特開平2-239574号公報第2頁右下欄第3〜4行や、特開平7-288123号公報【0037】に記載されるように周知の事項である。
そして、刊行物発明は、記載(イ)によると、「負極活物質のリチウムが、充電時負極上にデンドライト状に析出」することを防止するために正極の周囲を被覆材で覆っている発明であるが、このデンドライトの発生は正極活物質が「リチウム含有遷移金属酸化物」の非水二次電池においても同様に生じることは明らかであるから、刊行物発明における非水二次電池の正極活物質として「リチウム含有遷移金属酸化物」を用いることは、上記周知の事項に基づいて当業者が容易になし得ることである。

(ii)相違点2について
刊行物発明において、「正極合剤を塗布された正極シートの周囲」を被覆する技術的意義は、記載(イ)によると、「負極活物質のリチウムが、充電時負極上にデンドライト状に析出し、セパレータを貫通したり、あるいはセパレータの端を乗り越えて正極と接触し、内部短絡を起こしてしまうものである。特に電極板の周辺部分では、電流集中が起こりやすく、これによって引き起こされる電流密度の増加で、デンドライトが発生しやすい。」ので、「正極の周囲を・・・シールすることによって、電極の周辺部分における電流集中がなくなり、この部分でのデンドライトの発生が抑制される。」(ウ)というものである。
そして、正・負極間に電流が流れる部分は、正極活物質(刊行物発明においては正極合剤)と負極活物質とが対向する部分であって、活物質の存在しない部分に電流は流れないから、正極の周辺部分であって電流集中が起こりやすい部位とは、正極合剤を塗布された正極シートにおいては、結局「正極シート合剤の端部」であって、刊行物発明でもそこを被覆しているといえる。
そうすると、相違点2は、被覆材の覆う範囲が「1〜10mm」と規定されているか否かのみの差異であるといえるが、そもそも被覆材はリチウムイオン不透過性であるから、覆う範囲が大きすぎるとイオン伝導性を妨げ、電池の容量を下げてしまうし、小さすぎると被覆の効果を発揮しないから、自ずと被覆の範囲は限られている。しかも、例えば拒絶理由に引用した特開昭63-308867号公報(引用例2)には、不均一なデンドライト発生の緩和という刊行物発明と同様の目的のために電極端部を被覆するにあたり、被覆面積を負極全体の4〜50%とすべきことが記載されており(特許請求の範囲第3項、[作用])、この被覆割合は実施例に示された60×60mmのケース内に収納された面積約3600mm2と推定される電極に対しては、約0.6〜7.5mmの端部被覆に相当する。
以上の点を勘案すると、本願発明1における被覆の範囲を「1〜10mm」と規定する点に格別の臨界的意義があるとはいえず、上記相違点は当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものといえる。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物発明、及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2〜9に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-10 
結審通知日 2006-02-14 
審決日 2006-03-06 
出願番号 特願平7-290741
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植前 充司  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 高木 康晴
吉水 純子
発明の名称 非水二次電池  

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