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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16L |
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管理番号 | 1135454 |
審判番号 | 不服2004-7093 |
総通号数 | 78 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2002-03-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-04-08 |
確定日 | 2006-04-27 |
事件の表示 | 特願2000-269854「電気湯沸かし器」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月22日出願公開、特開2002- 81596〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年9月6日の特許出願であって、平成16年3月5日付け(発送日:同月9日)で拒絶査定がなされ、これに対して、平成16年4月8日に審判請求がなされるとともに、同月28日に明細書を補正する手続補正がなされたが、この手続補正は、平成17年10月13日付けで却下され、同年11月18日付けで拒絶理由が通知され、平成18年1月18日に手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)は、平成18年1月18日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 外容器と、貯湯容器と、前記貯湯容器の下部に取り付けられた加熱器と、蓋体と、前記貯湯容器の外側に取り付けられた円筒状の真空断熱材とから成り、 前記真空断熱材は、繊維径分布のピーク値が、1μm以下、0.1μm以上である無機繊維芯材と、ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる表面保護層と金属蒸着フィルムからなるガスバリア層と無延伸ポリプロピレンからなる熱溶着層とを有する外皮材とからなる真空断熱材であって、前記芯材がSiO2を主成分とし、かつ前記真空断熱材が変形に対応できる可とう性を有するように、繊維材料が結着していないことを特徴とする電気湯沸かし器。」 3.引用例 これに対して、当審での拒絶理由に引用した、本願の出願前国内において頒布された刊行物は、次のとおりである。 刊行物1:特開平9-318238号公報 刊行物2:特開平7-139691号公報 4.引用例に記載された事項 刊行物1及び2には、次の事項が記載されている。 刊行物1(特開平9-318238号公報)には、冷蔵庫や保冷庫等の断熱壁部に用いられる真空断熱材に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。 ・「ところで、ここで使用される真空断熱パックは、たとえば繊維径が10μm以下のグラスウールを、アルミニウム箔やステンレス、鉄板等の薄性金属板、あるいはアルミニウムなど金属の蒸着プラスチックフィルム、及びアルミニウム箔等とプラスチックとのラミネートフィルムなど、ガス遮断性が極めて高い容器材で覆い、真空引きした後、封止して作製される。」(段落【0004】) ・「すなわち、グラスウールは常温、常圧の原綿状態では綿状に膨らんで嵩があるため、これを容器材に入れたり、覆うのが大変で作業性が悪いということである。」(段落【0006】) ・「またグラスウールは真空炉で真空引きして封止すると、内部の圧力と大気圧の圧力差により圧縮され、最終的には250〜260Kg/m3程度の密度になる。その結果、真空引きする前の密度は、15〜30Kg/m3であるため、厚みも約1/10になる。よってこうした製品完成前に素材が完成品に比較して著しく体積が大であるということは、生産を考えた場合、設備装置の大型化につながり設備費を増大させるという欠点があった。」(段落【0007】) ・「このような観点に立つと、真空引きの前の状態で極力最終仕上がり密度に近い密度にアップをさせることが肝要となる。そこで、この密度をアップさせるために一般的には有機系のバインダー、例えばアクリル系バインダーを使ってグラスウールを成形する方法が取られているが、この固めるために用いた有機系バインダーからは真空断熱材を作成するべく真空引き処理する際にガスが発生して、このガスにて断熱材内部の真空度を汚染してしまうという欠点があった。」(段落【0008】) ・「こうして作成したグラスウール原綿2をアルミ箔及び高密度ポリエチレン及びエチレンテレフタレート及びナイロンで作成されたラミネートフィルム(上述のガスバリアフィルム)の中に入れ、プレス装置5にてプレスを加えながら、真空引きを0.01torrまで行った。そうして、この真空引きを終了した後、ラミネートフィルムの熱溶着を熱シール装置8で行い封止した。」(段落【0026】) ・「そこで、図2に示すように、グラスウール2を入れるバリアーフィルム3A自体を、図1に示すグラスウール原綿の自然なサイズに合わせているバリアフィルム3よりかなり小さいサイズとした所定の寸法に予め製袋しておく。11はこのバリアフィルム3による所定寸法の袋を作る製袋装置を示す。」(段落【0030】) ・「そして、この製袋したバリアフィルム3A内に、グラスウール原綿2を縦プレス機12aと横プレス機12bとからなる整体用のプレス装置12により縦横から圧縮して入れやすい形に整え小さくするとともに、横方向のプレス機12bにてバリアフィルム3Aの方へ押し出し、バリアフィルム3A内に圧入し、密度を高めておく。」(段落【0031】) ・「そして、このバリアフィルム3Aに圧入したグラスウール原綿2を、第1実施例の図1に示す真空炉1に入れて、プレス装置5によりプレスを行い、次に真空引きを行って、最後にバリアフィルム3A袋の入れ口3dを熱シール装置8で封止し、真空断熱材10を作成する。」(段落【0032】) 刊行物2(特開平7-139691号公報)には、真空断熱材に関して、図面とともに、次の事項が記載されている。 ・「前記真空断熱材を構成する無機繊維としては、ガラス繊維、セラミック繊維、スラグウール繊維、ロックウール等が使用できる。 また、前記無機繊維の繊維径は、平均繊維径2μm以下の範囲のものを使用するのが好ましい。これは平均繊維径が2μmを超えると真空排気時に凹みが大きくなり、また、真空熱伝導率も0.01kcal/m・h・℃以下にはならないからである。尚、繊維径は細ければ細いほど好ましいが、平均繊維径0.5μm未満の繊維は全く汎用性がないため、無機繊維の平均繊維径は0.5〜1.0μmの範囲のものが好ましい。 本発明の真空断熱材に用いる無機質繊維の種類は、平均繊維径で2μm以下が得られやすい観点から、ガラス繊維が好ましい。」(段落【0005】) ・「本発明においては、真空断熱材は無機質繊維からなるペーパーを複数枚積層する構成となっているため、繊維の方向が伝熱方向に対して垂直方向になるように制御できる。」(段落【0008】) 5.対比・判断 上記摘示した事項から、刊行物1には、次の発明が記載されているといえる。 「繊維径が10μm以下のグラスウールを、金属の蒸着プラスチックフィルムのガス遮断性が極めて高い容器材料で覆い、これを真空引きして、密度が15〜30Kg/m3であるものを250〜260Kg/m3程度の密度にした真空断熱材。」 なお、この刊行物1に記載された発明について、請求人は、平成18年1月18日付けの意見書で「すなわち、刊行物1に記載の発明は、刊行物1の明細書中の段落満号〔0025〕に記載されていますように、グラスウール原綿を溶液中に入れ、それを抄うようにして紙状に形成し、後で乾燥させて水分を取り除くという抄造法を用いて、ある程度密度アップされたグラスウールを芯材に用いていますが、この方法では、グラスウールの成分が溶液中に溶出し、その溶出成分がグラスウールの繊維の交点に集まり、結合材として作用して、繊維同士が結着した芯材が形成されます。」と主張しているが、刊行物1には、抄造法以外の技術も開示されており、請求人の主張は採用できない。 そこで、本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比して検討する。 ガラス繊維は、SiO2を主成分とする無機繊維であって(化学大事典2、縮刷版、P.522、共立出版株式会社を参照)、刊行物1に記載された発明の「グラスウール」もSiO2を主成分とする無機繊維であると認められる。また、刊行物1には、「グラスウールは常温、常圧の原綿状態では綿状に膨らんで嵩があるため、これを容器材に入れたり、覆うのが大変で作業性が悪いということである。」(段落【0006】)、「グラスウールは真空炉で真空引きして封止すると、内部の圧力と大気圧の圧力差により圧縮され、最終的には250〜260Kg/m3程度の密度になる。その結果、真空引きする前の密度は、15〜30Kg/m3であるため、厚みも約1/10になる。よってこうした製品完成前に素材が完成品に比較して著しく体積が大である」(段落【0007】)との記載がされていることからみて、ガス遮断性が極めて高い容器材料に入れられたグラスウールは、繊維材料同士が、バイダ、グラスウールからの溶出成分等によって結着していないものと解されるし、真空引き後のグラスウールの最終的な密度も250〜260Kg/m3程度であることから、本願発明1を引用している請求項3に示された数値の範囲内にあり、製品完成後の真空断熱材も、本願発明1と同様に変形に対応できる可とう性を有しているものといえる。 そうすると、刊行物1に記載された発明の「グラスウール」は、本願発明1の「無機繊維芯材」に相当し、刊行物1に記載された発明の「金属の蒸着プラスチックフィルムのガス遮断性が極めて高い容器材料」は、本願発明1の「金属蒸着フィルムからなるガスバリア層からなる外皮材」に相当し、本願発明1と刊行物1に記載された発明は、次の点で一致しているものといえる。 〈一致点〉 「無機繊維芯材と、金属蒸着フィルムからなるガスバリア層からなる外皮材とからなる真空断熱材であって、前記芯材がSiO2を主成分とし、かつ前記真空断熱材が変形に対応できる可とう性を有するように、繊維材料が結着していない真空断熱材。」 しかし、次の点で相違している。 〈相違点〉 ・相違点1 本願発明1は、「外容器と、貯湯容器と、前記貯湯容器の下部に取り付けられた加熱器と、蓋体と、前記貯湯容器の外側に取り付けられた円筒状の真空断熱材とから成り、」という構成を備えているものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、「真空断熱材」であって、その使用の態様が記載されていない点。 ・相違点2 無機繊維芯材について、本願発明1は、「繊維径分布のピーク値が、1μm以下、0.1μm以上である」のに対し、刊行物1に記載された発明の繊維径は「10μm以下」である点。 ・相違点3 外皮材が、本願発明1は、「ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる表面保護層と金属蒸着フィルムからなるガスバリア層と無延伸ポリプロピレンからなる熱溶着層とを有する」ものであるのに対し、刊行物1に記載された発明は、金属の蒸着プラスチックフィルムのガス遮断性が極めて高い容器材料としている点。 ・相違点4 本願発明1は、「電気湯沸かし器」であるのに対し、刊行物1に記載された発明は、冷蔵庫や保冷庫等の断熱壁部に用いられるような「真空断熱材」自体である点。 そこで、この相違点1ないし4を検討する。 〈判断〉 ・相違点1について 真空断熱材を電気湯沸かし器に適用したものが、例えば、特開平11-290210号公報に示されており、その構成をみると「本発明の第一の実施例を図1、図2により説明する。図1において、液体22を収容する有底筒状の容器23と、……容器23の外底面部には……加熱手段26と……蓋体28と、……容器23の外周部に筒状に位置する真空断熱材31と……注口24とから構成されている。」(段落【0018】)と記載されおり、また、特開平11-309069号公報にも、「貯水用容器と、この貯水用容器内の水を加熱するヒータと、……芯材を配置した耐熱性のラミネートフィルムの間を真空に封止した真空断熱材を有し、前記ラミネートフィルムはシール層とガスバリア層と保護層よりなる電気湯沸かし器。」(【請求項1】)、「容器2に巻き付ける際は……このとき図4に示すように円筒形の外側にヒートシール部分がくるようにして、容器2に巻き付ける。」(段落【0021】)と記載されていることからみて、真空断熱材を電気湯沸かし器に用いることが周知技術といえるから、本願発明1のように、「外容器と、貯湯容器と、前記貯湯容器の下部に取り付けられた加熱器と、蓋体と、前記貯湯容器の外側に取り付けられた円筒状の真空断熱材と」するような構成は、当業者が適宜なし得たものといえる。 ・相違点2について 刊行物2には、ガラス繊維などの無機繊維を真空断熱材として用いる場合に、「繊維径は細ければ細いほど好ましいが、平均繊維径0.5μm未満の繊維は全く汎用性がないため、無機繊維の平均繊維径は0.5〜1.0μmの範囲のものが好ましい。」と記載されているから、「繊維径分布のピーク値が、1μm以下、0.1μm以上である」ような無機繊維を採用することは、当業者が容易に想到し得たといえる。 ・相違点3について 真空断熱材の外皮材として、例えば、特開平8-86394号公報には、「第1ガスバリア容器5は、厚さが約6μmのアルミ箔等の高ガスバリア性箔9と高ガスバリア性箔9の内面側に貼着された熱融着性樹脂組成物層11と樹脂組成物層13とから成るラミネートフィルムとなっている」(段落【0018】)、「高ガスバリア性箔9の外面側となる組成物13は、ポリエチレンテレフタレート及びポリアミド等の材質で形成されている。また、高ガスバリア性箔9の内面側となる熱融着性組成層11は、水分の透過しにくい無延伸ポリプロピレン等のポリオレフィン系の材質で形成されている。」(段落【0019】)と記載されており、また、特開平7-269778号公報には、「ガスバリア容器1は、ポリエチレンテレフタレート(PET)と、ポリアミド(Nylon)とから成る外層7と、アルミ箔(Al)から成る金属層9と、ポリプロピレン(PP)から成る内層11とで形成され、真空排気された後、減圧されヒートシールDされている。」(段落【0017】)、「図6は、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリアミド(Nylon)から成る外層7の内側内面で、ヒートシールDの領域を除いて、金属箔13を設けるものである。図7は、金属箔13にかえて金属蒸着膜15を設けたものである。」(段落【0025】)と記載されているところかみて、真空断熱材の外皮材として、ポリエチレンテレフタレート、金属蒸着膜、ポリプロピレンの材質を用いることは周知であって、本願発明1のように「ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる表面保護層と金属蒸着フィルムからなるガスバリア層と無延伸ポリプロピレンからなる熱溶着層」とすることは設計事項にすぎないものといえる。 ・相違点4について 真空断熱材の適用対象を単に限定しただけであり、相違点1で検討したように、真空断熱材を電気湯沸かし器に適用することは周知であって、「電気湯沸かし器」とすることは、当業者が適宜なし得たものといえる。 そして、本願発明1の効果も、刊行物1及び2に記載された発明と周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとは認められない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、本願の出願前に国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-02-21 |
結審通知日 | 2006-02-28 |
審決日 | 2006-03-14 |
出願番号 | 特願2000-269854(P2000-269854) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 内山 隆史 |
特許庁審判長 |
水谷 万司 |
特許庁審判官 |
長浜 義憲 櫻井 康平 |
発明の名称 | 電気湯沸かし器 |
代理人 | 岩橋 文雄 |
代理人 | 内藤 浩樹 |
代理人 | 永野 大介 |