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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C |
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管理番号 | 1135509 |
審判番号 | 不服2003-3627 |
総通号数 | 78 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-10-03 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-03-06 |
確定日 | 2006-04-27 |
事件の表示 | 平成 6年特許願第 39391号「高温強度に優れた高Niオーステナイト鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年10月 3日出願公開、特開平 7-252599〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成6年3月10日の出願であって、平成15年1月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成15年3月6日に拒絶査定に対する審判請求がされ、平成15年4月4日付けで手続補正がされたが、この補正は、当審において平成17年3月9日付けで補正の却下の決定がされ、平成17年3月28日付けで拒絶の理由が通知され、平成17年5月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明1 本願発明は、平成17年5月30日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。 「【請求項1】重量%でNi:40%、Cr:15%、Mo+W=3.0〜6.0%(ただし、Mo、Wがそれぞれ1.5〜3.0%の範囲内であること)、Nb:0.1%、V:0.1%、N:0.10%,0.14%の2条件のうちのいずれか1条件、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする耐照射特性及び高温強度に優れた高Niオーステナイト鋼。」(以下、「本願発明1」という。) 3.引用例とそれらの主な記載事項 当審の拒絶の理由で引用された引用例1(特開平3-229840号公報)及び引用例2(特開昭56-127756号公報)には、それぞれ次の事項が記載されている。 (1)引用例1:特開平3-229840号公報 (1a)「1.重量%でC:0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:13〜18%、Ni:30〜50%、Mo+W=2.0〜6.0%、Mo/(Mo+W)=0.4〜0.6、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする耐照射特性に優れたFe-Ni基オーステナイト合金。 2.重量%でNb:0.10〜0.30%、N:0.20%以下を必要に応じてさらに加えたことを特徴とする請求項1記載のFe-Ni基オーステナイト合金。」(特許請求の範囲) (1b)「Crは、耐ナトリウム腐食性、脱炭抵抗性を向上させるために不可欠な成分であり、そのためには13%以上が必要である。しかし、18%を超えると、組織を不安定にし、有害な金属間化合物が、析出しやすくなる。従って、Cr量は13%〜18%の範囲とする。 Niは、オーステナイト安定化元素であるとともに、耐スエリング性を向上させる上で重要な元素であり、そのためには最低30%必要である。しかし50%を超えると、照射による残留放射能が著しく高くなり、廃棄物の保管及び再処理上問題となる。また、耐ナトリウム腐食特性も低下するので、上限を50%とする。従って、Ni量は30%〜50%とする。 MoとWは、合金中に固溶し高温強度を向上させる重要な元素であり、総量で2.0%以上添加する必要がある。MoとW量を多くすれば、固溶強化作用によりクリープ破断強度が向上するが、(Mo+W)量が6.0%を超えると合金の中性子吸収断面積が大きくなり、増殖性の障害となるので、(Mo+W)量は2.0〜6.0%とする。特に高い強度を得るには、Mo/(Mo+W)が0.4〜0.6の比率になる組合せが良い。」(第3頁右下欄第19行〜第4頁右上欄第2行) (1c)「実施例1 本実施例は、オーステナイト合金における平均結合次数Bo(「Bo」の上に線が付されている。以下の「Bo」も同様である。)および平均d電子軌道準位Md(「Md」の上に線が付されている。以下の「Md」も同様である。)の最適範囲を見出すために行った。まず第1図のクラスター模型を用い、(Fe-15Cr-30Ni)を母合金とし、各種の合金元素を加えたとき、合金のBo、Mdか指標図のとの位置に変化するかを第2図に示す。例えば、(Fe-15Cr-30Ni)ベース合金にMoを加えると、Bo、Mdは、図示のベース合金の位置から添加量が増すほど右上方に変化し、一方Cuを加えると左下方に変化する。このように各合金元素がもつ固有の合金ベクトルを組合せることによって目標とする成分範囲を見出すことができる。従来材の照射データを基にNiイオン照射による体積増加量を相安定性指標図上に表すと、照射量160dpa、650℃では第2図に示すようにMd-Bo=0.038て示される線を境に、この線より左上ではスエリング量が5%以上となり、右下では5%未満となる。また照射下での組織安定性の面では、機械的特性上有害となるσ相の析出は、650℃ではMd=0.892を境にこれより左(第2図の図示するところと不一致である。「右」の誤記ではないか。)で析出が起こる。このようにして、相安定性指標図を利用することによって優れた特性の合金を合理的に求めることができる。」(第4頁左下欄第10行〜同頁右下欄第15行) (1d)第2図には、「オーステナイト合金のスエリング特性に関する相安定指標図」が図示されており、Fe-15Cr-30Ni合金にVを5at%以下の範囲で添加した際の相の変化と共にスエリング量が示されている。(第2図) (2)引用例2:特開昭56-127756号公報 (2a)「本発明は、高速炉々心構造用材料としてすぐれた耐スウエリング性および高温強度特性を有するオーステナイト系鋼に関する。」(第1頁右下欄第5〜7行) (2b)「PおよびBは、Ti、V、Zr、Nbなどの炭化物およびクロム炭化物を微細かつ均一に析出させる作用を有し、これら微細析出物は転位の運動の障害となつて高温強度を高める効果をもたらす。」(第3頁左上欄第17行〜末行) (2c)「上記Ti、Nb、VまたはZrは単独もしくは、任意の2種もしくはそれ以上の元素の組合せにより添加してよい。ただし、多量に加えると加工性および溶接性が悪くなるので、各元素とも約0.3%を上限として加えることが望ましい。」(第3頁左下欄第5行〜同欄第9行) 4.当審の判断 (1)本願発明1と引用発明との対比 引用例1の(1a)には、「1.重量%でC:0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:13〜18%、Ni:30〜50%、Mo+W=2.0〜6.0%、Mo/(Mo+W)=0.4〜0.6、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする耐照射特性に優れたFe-Ni基オーステナイト合金。 2.重量%でNb:0.10〜0.30%、N:0.20%以下を必要に応じてさらに加えたことを特徴とする請求項1記載のFe-Ni基オーステナイト合金。」と記載されており、この請求項2の「Nb:0.10〜0.30%、N:0.20%以下」を「さらに加えた」合金を独立形式で記載し直すと、引用例1には、「重量%でC:0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:13〜18%、Ni:30〜50%、Mo+W=2.0〜6.0%、Mo/(Mo+W)=0.4〜0.6、Nb:0.10〜0.30%、N:0.20%以下、残部がFe及び不可避不純物からなることを特徴とする耐照射特性に優れたFe-Ni基オーステナイト合金。」が記載されているといえる。そして、この合金は、「C:0.2%以下」含有するから、「鋼」といえるし、この鋼は(1b)の「MoとWは、合金中に固溶し高温強度を向上させる重要な元素であり、総量で2.0%以上添加する必要がある。」という記載によれば、「高温強度に優れた鋼」であり、さらに、(1b)の「Niは、オーステナイト安定化元素であるとともに、耐スエリング性を向上させる上で重要な元素であり、そのためには最低30%必要である。」という記載によれば、「高Niオーステナイト鋼」であるといえる。 そうすると、これら記載を、本願発明1の記載ぶりに則り整理すると、引用例1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「重量%でNi:30〜50%、Cr:13〜18%、Mo+W=2.0〜6.0%、Mo/(Mo+W)=0.4〜0.6、Nb:0.10〜0.30%、N:0.20%以下、C:0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、残部がFe及び不可避不純物からなる耐照射特性及び高温強度に優れた高Niオーステナイト鋼」 そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、「重量%でNi:40%、Cr:15%、Mo+W=3.0〜6.0%、Nb:0.1%、、N:0.10%と0.14%、残部がFe及び不可避不純物からなる耐照射特性及び高温強度に優れた高Niオーステナイト鋼。」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点: (イ)本願発明1は、「V:0.1%」と規定するのに対して、引用発明は、Vを含まない点 (ロ)本願発明1は、「Mo、Wがそれぞれ1.5〜3.0%の範囲内」と規定するのに対して、引用発明は、「Mo/(Mo+W)=0.4〜0.6」と規定する点 (ハ)本願発明1は、C,Si,Mnの含有量が不明であるのに対して、引用発明は、「C:0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下」である点 (2)相違点についての判断 (i)相違点(イ)について 本願発明1において「V」を添加した理由は、本願明細書の段落【0019】の「NbとVは、炭窒化物を形成し、析出強化元素として重要な元素である。このNb及びVは、複合添加することにより、析出物を微細化し、高温強度を高める働きがある。」という記載によれば、微細析出物による析出強化によって高温強度を高めるためであり、また、その含有量を「0.1%」と規定した根拠は、「V:0.11wt%(約0.1wt.%)」含有する表3の「I,発明鋼」が、V、Nbの複合添加によって高い高温クリープ強度を示したこと(図2参照)にあるといえる。 しかしながら、本願発明1と同様の「高速炉々心構造用材料として優れた耐スウエリング性および高温強度特性を有するオーステナイト系鋼」に関する引用例2の(2b)には「PおよびBは、Ti、V、Zr、Nbなどの炭化物およびクロム炭化物を微細かつ均一に析出させる作用を有し、これら微細析出物は転位の運動の障害となって高温強度を高める効果をもたらす。」と記載され、引用例2の(2c)にも「上記Ti、Nb、VまたはZrは単独もしくは、任意の2種もしくはそれ以上の元素の組合せにより添加してよい。ただし、多量に加えると加工性および溶接性が悪くなるので、各元素とも約0.3%を上限として加えることが望ましい。」と記載されているように、0.3%以下のVの添加による微細析出物によって高温強度を高めることは既に周知の事項である。また、このVの添加に関し、Nbと共に添加して「高Niオーステナイト鋼」における高温強度を高めることは、例えば特開昭58-177439号公報、特開昭58-217662号公報、特開昭62-93353号公報及び特開平5-230602号公報に記載されているように、当業者にとって周知の事項であるといえる。 そして、引用例1の(1d)第2図にも「Vの添加」について示唆されているから、引用発明の高速炉炉心構造用材料用Nb含有高Niオーステナイト鋼において、その高温強度の改善のために「0.1%のV」を添加することは、上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到することができたというべきである。、 (ii)相違点(ロ)について 本願発明1は、そのMo及びWの含有量をその総量及び各々の量によって「Mo+W=3.0〜6.0%(ただし、Mo、Wがそれぞれ1.5〜3.0%の範囲内であること)」と規定するのに対し、引用発明は、MoとWとの総量及び該総量に対するMoの比率を「Mo+W=2.0〜6.0%、Mo/(Mo+W)=0.4〜0.6」と規定するから、両者は、そのMo及びWの各含有量の規定の仕方が相違する。 そこで、引用発明のMoの具体的な含有量について検討するに、Mo含有量の最も少ない場合とは、Mo/(Mo+W)=0.4でかつ(Mo+W)=2.0の場合の「0.8%」であり、最も多い場合とは、Mo/(Mo+W)=0.6でかつ(Mo+W)=6.0の場合の「3.6%」である。また、Wの具体的な含有量も、「Mo+W」の総量に対する比率が「W/(Mo+W)=1-Mo/(Mo+W)」すなわち0.6〜0.4であるから、Moの含有量の場合と同様に、「W:0.8〜3.6%」の範囲内であるといえる。 そうであれば、引用発明も、そのMo及びWの各含有量の採り得る範囲は、本願発明1の「1.5〜3.0%」と明らかに重複しているし、しかも引用例1の「第1表」には、本願発明1のMo及びWの各含有量の条件を満足する「供試材2〜4、6〜8」が記載されているから、両者は、その規定の仕方が形式的に相違するだけであって、実質的な差異はないというべきである。 仮に、Mo及びWの含有量の点が実質的な差異であるとしても、引用発明も、Mo及びWを本願発明1と同様の固溶強化の目的のために含有するものであり、また、引用例1には、本願発明1のMo及びWの含有量の条件を満足する具体的な例も記載されているのであるから、Mo及びWをそれぞれ「1.5〜3.0%の範囲」を選択して規定する程度のことも当業者が適宜容易に想到することができたというべきである。 (iii)相違点(ハ)について 本願発明1は、C,Si,Mnの含有量について特に限定されていないが、本願明細書中の【表3】や段落【0022】、【0025】及び【0026】等の記載によれば、本願発明1の高Niオーステナイト鋼も、C,Si,Mnの元素を高Niオーステナイト鋼に通常含まれる程度に含有することが明らかであり、そしてこれら元素の含有量も、引用発明の「C:0.2%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下」の範囲内であるといえる。 してみると、上記相違点(ハ)は、これら元素の含有量を明示的に規定するか否かの形式的な差異だけであって、この点で両者に実質的な差異はないというべきである。 以上によれば、本願発明1に係る上記相違点(イ)〜(ハ)は、引用例1のその余の記載や引用例2の記載及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到することができたといえるから、本願発明1は、引用例1及び引用例2に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。 5.むすび したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-02-20 |
結審通知日 | 2006-02-21 |
審決日 | 2006-03-06 |
出願番号 | 特願平6-39391 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C22C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 木村 孔一、城所 宏 |
特許庁審判長 |
沼沢 幸雄 |
特許庁審判官 |
酒井 美知子 平塚 義三 |
発明の名称 | 高温強度に優れた高Niオーステナイト鋼 |
代理人 | 石田 純 |
代理人 | 吉田 研二 |
代理人 | 吉田 研二 |
代理人 | 石田 純 |