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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1135543
審判番号 不服2003-16620  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-01-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-28 
確定日 2006-04-27 
事件の表示 平成 6年特許願第157645号「薄膜形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 1月23日出願公開、特開平 8- 20865〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成6年7月8日にした特許出願であって、平成15年7月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年8月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月29日付けで手続補正がなされたものである。
2.平成15年9月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成15年9月29日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、平成15年6月27日付けで提出された手続補正書により補正された請求項1の「薄膜形成装置」において、請求項2を付加し、さらに、「カソードマスクの上面と前記ターゲットと対向する側面とがなす稜の近傍が、上面および側面とも稜線から2mm以上づつ切り欠かれている」と面取りを数値限定することによって、「カソード電極上に配設されたターゲットをスパッタして、該ターゲットの上方に対向させた基体の表面に薄膜を形成させる薄膜形成装置において、前記基体が長尺のフィルム上に金属磁性薄膜が成膜された走行する可撓性支持体であり、前記カソード電極表面のうち前記ターゲットが配設されていない範囲がカソードマスクによりマスクされ、前記カソードマスクの上面は、前記ターゲット表面より低くされ且つ前記カソードマスクの上面と前記ターゲットと対向する側面とがなす稜の近傍が、上面および側面とも稜線から2mm以上づつ切り欠かれていることを特徴とする薄膜形成装置。」と補正された。
そして、上記の補正は、「カソードマスク」について限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下検討する。
(i)引用文献
(ア)原査定の拒絶の理由において引用文献1として提示された特開平5-70938号公報(以下、「引用文献1」という。)には、カーボン膜成膜用スパッタカソード及びカーボン膜成膜方法に関し、図面とともに以下の記載がある。
(ア-1)「カソードシ-ルドがグラファイト等のカーボン材より成ると共に、カソードシールド面の高さがターゲット材表面と同一かあるいは低く設定されたことを特徴とするカ-ボン膜成膜用スパッタカソード。」(請求項1)、
(ア-2)「成膜過程における付着物あるいは突起物などの欠陥を生じさせる原因として、スパッタ装置内でのダスト付着、およびスパッタカソードでのアーキングによるターゲット材からのスプラッシュ、ターゲットと基板間でのアーキングによる基板上でのダメージなどが挙げられる。
従来のスパッタカソードにより、Cr,CO合金、C膜を連続成膜する場合、特にカーボン成膜時のアーキング発生率が極めて高く、このために製品面に発生する欠陥の数が増加して製品歩留まりが低下する。又、アーキング発生頻度を低下させるために投入電力を低下させると、生産性が下がってしまうなどの問題が発生しており、改善が望まれていた。」(段落【0005】〜【0006】)、
(ア-3)「本発明は、カーボン膜を形成する場合には、スパッタカソードの構成部材、特にカソードシールド部に付着したカーボン薄膜がスパッタ中に容易に剥離し、フレークとなってターゲット面上に付着する事が、主としてアーキング発生を引き起こしている原因であることを確認し、フレーク発生の少ないカソードシールドの条件を考案した。」(段落【0011】)、
(ア-4)「本発明では、カソードシールドエッジ部等へのカーボン膜の局部的な付着を防止し、さらに付着したカーボン膜が剥離する事を防止する目的でカソードシールドの構造および材質を図1のように改善した。
即ち、図1で(1)はカーボンターゲット、(2)はカソードシールドである。カソードシールドの材質としては、付着したカーボン膜との熱膨張差の小さな材質が好ましく、付着したカーボン膜がよく密着するカーボン材を使用する事が好ましい。また局部的な膜付着を防止する目的で (3)のシールド上面は(4)のターゲット材表面より低く設定してある。
このようなカソードシールドを使用する事によって、ターゲット面からスパッタされたカーボンが、局部的にカソードシールドエッジ部に付着することを防止でき、さらに付着したカーボン膜が、シールド材との熱膨張係数の違いによりフレーク状になって剥離する事が防止でき、フレーク発生に起因するアーキングの発生頻度を低下させ、ひいては製品に発生する欠陥の数を減少させる事が可能となった。」(段落【0014】〜【0016】)、
(ア-5)図1には、カソードシールドがカソード上面のターゲット以外の部分をシールドしたスパッタカソードの断面図が示されている。
記載事項(ア-1)〜(ア-5)を本願補正発明の記載に沿って整理すると、引用文献1には、
「スパッタカソードに設けたターゲットをスパッタしてカーボン膜を連続成膜するスパッタ装置において、カソードシールドがカソード上面のターゲット以外の部分をシールドし、シールド上面はターゲット材表面より低く設定してターゲット面からスパッタされたカーボンが、局部的にカソードシールドエッジ部に付着することを防止した成膜装置。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
(イ)原査定の拒絶の理由において引用文献2として提示された実公平3-42035号公報(以下、「引用文献2」という。)には、マグネトロンスパッタリング装置に関し、図面とともに以下の記載がある。
(イ-1)「基板に対向するターゲット表面の周辺に枠状のシールド部材を備えたマグネトロンスパッタリング装置において、上記シールド部材の少なくともターゲット表面に近接する端部の表面を粗面に構成すると共にこの端部をテーパ状に形成し、さらにターゲット表面の外縁部の非エロージョン領域が上記シールド部材により覆われるようにこのシールド部材の内縁輪郭部を形成したことを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置。」(実用新案登録請求の範囲)、
(イ-2)「マグネトロンスパッタリング装置において、従来基板に対向するターゲット表面の周辺に枠状のシールド部材を設け、基板以外の部分にスパッタ原子が付着堆積するのを防ぐことが行なわれている。このシールド部材は、通常表面が平滑なステンレスによって構成され、その端部がターゲット表面の外縁部を覆うように配置される。ところが、このような構成においてスパッタリングを継続して行なっていると、上記ターゲット表面に近接するシールド部材の垂直な平滑の端面にスパッタ原子が堆積し、さらにそれが剥離してターゲット表面に落ち、これが原因となって不純物が混入したりスパッタリングが不安定となったり、また飛散した剥片が基板上に被着して基板上に生成される膜にピンホールが生じたりすることがあった。」(第1頁右欄第7〜22行)、
(イ-3)「シールド部材5はアルミニウムからなり、その表面は粗面状に加工してある。このため、従来ステンレスの平滑面だったものに比較してスパッタ原子は強固に付着し、容易に剥離してターゲット上に落ちたり、飛散して基板に被着したりするようなことがなくなる。特に図示の例ではシールド部材5のターゲット2の表面に近接する端部5aがテーパー状に形成してあるため、付着堆積物はさらに剥落しにくい構成となっている。すなわち、従来第1図に破線で示すようにターゲット面に垂直な端面を有するものでは、この端面にスパッタ原子が大量に付着してそれが剥落しやすかったのに対し、本実施例のようにこの端面を傾斜させた場合にはこの斜面に平均して付着し、剥落しにくくなる。」(第2頁右欄第5〜19行)、
記載事項(イ-1)〜(イ-3)を本願補正発明の記載に沿って整理すると、引用文献2には、
「基板に対向するターゲット表面の周辺に枠状のシールド部材を備えたマグネトロンスパッタリング装置において、従来、ターゲット表面に近接するシールド部材の垂直な平滑の端面にスパッタ原子が堆積し、さらにそれが剥離してスパッタリングを不安定としていたものを上記シールド部材の少なくともターゲット表面に近接する端部をテーパ状に形成し、端面を傾斜させ、この斜面に平均して付着し、剥落しにくくしたマグネトロンスパッタリング装置。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
(ii)対比・判断
本願補正発明と引用発明1を対比する。
引用発明1の、「スパッタカソード」、「カソードシールド」、「カソードシールドエッジ部」及び「成膜装置」が、それぞれ、本願補正発明の「カソード電極」、「カソードマスク」、「カソードマスクの上面と前記ターゲットと対向する側面とがなす稜」及び「薄膜形成装置」に相当する。また、引用発明1の成膜装置においてターゲットの上方に対向して成膜される基板が設けられることは記載されているに等しい事項であり、引用発明1はア-キングの発生を少なくするから本願補正発明と同様に異常放電発生を抑えるものであり、さらに、引用発明1のことは、明らかであるから、両者は、「カソード電極上に配設されたターゲットをスパッタして、該ターゲットの上方に対向させた基体の表面に薄膜を形成させる薄膜形成装置において、前記カソード電極表面のうち前記ターゲットが配設されていない範囲がカソードマスクによりマスクされ、前記カソードマスクの上面は、前記ターゲット表面より低くされることを特徴とする薄膜形成装置。」で一致し、以下の点で相違する。
(a)本願補正発明では「基体が長尺のフィルム上に金属磁性薄膜が成膜された走行する可撓性支持体」であるのに対して、引用発明1では基体については従来の技術において外部記録媒体であるスパッタハードディスクが例示されるものの、請求の範囲には記載のない点。
(b)本願補正発明では「カソードマスクの上面と前記ターゲットと対向する側面とがなす稜の近傍が、上面および側面とも稜線から2mm以上づつ切り欠かれてい」るのに対して、引用発明1では、カソードシールドエッジ部のスパッタされたカーボンの付着については記載されるものの形状については記載のない点。
そこで、上記の相違点について検討する。
(相違点(a)について)
例えば原査定の拒絶の理由において提示された引用文献5として提示された特開平6-25839号公報(以下、「周知例1」という。)には、磁気記録媒体である蒸着テープの保護膜を連続巻取式のDCマグネトロンスパッタリング装置により形成することが記載されており、この基体の限定が本願補正発明において格別の技術的意義を有するものとは認められず、当業者であれば外部記録媒体を被処理物として例示する引用発明1に適宜付加しうる被処理物の形状限定にすぎないものである。
(相違点(b)について)
引用発明1においてもカソードシールドエッジ部のスパッタされたカーボンの付着ブルのスパッタ中の剥離をア-キングの原因としており、この記載事項(ア-4)にもあるように、カソードシールドエッジ部等へのカーボン膜の局部的な付着を防止しするという要請から引用発明2の「基板に対向するターゲット表面の周辺に枠状のシールド部材を備えたマグネトロンスパッタリング装置において、従来、ターゲット表面に近接するシールド部材の垂直な平滑の端面にスパッタ原子が堆積し、さらにそれが剥離してスパッタリングを不安定としていたものを上記シールド部材の少なくともターゲット表面に近接する端部をテーパ状に形成し、端面を傾斜させ、この斜面に平均して付着し、剥落しにくく」するという手段を採用することは当業者であれば格別の創意なくなし得る事項である。そして、テーパ部の形状については、本来、カソードシールエッジの垂直な端面の厚さとの関連において決定すべき事項と認められるが、ある程度以上の斜面を設ける必要があることは自明であり、それを「上面および側面とも稜線から2mm以上づつ切り欠かれてい」るように数値限定することも当業者であれば任意になし得ることと認められる。
そして、本願補正発明によって得られる効果も格別のものとすることができない。
(なお、スパッタ装置においてシールド部材開口部(本願補正発明のカソードマスクのターゲットと対向する側面に相当)に切り欠きを設けることとシールド部材の上面がターゲットの上面より低く構成しターゲットから飛び出した粒子がシールド部材開口部に付着することをなくし、異常放電をなくしたことを併せて開示する文献として特開平2-19461号公報を参照されたい。)
したがって、本願補正発明は、引用発明1、引用発明2及び周知例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2の第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反してなされたものであるから、同補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(3)むすび
上記(2)の理由により、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
3.本願発明について
平成15年9月29日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。」は平成15年6月27日付けで提出された手続補正書により補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「カソード電極上に配設されたターゲットをスパッタして、該ターゲットの上方に対向させた基体の表面に薄膜を形成させる薄膜形成装置において、前記基体が長尺のフィルム上に金属磁性薄膜が成膜された走行する可撓性支持体であり、前記カソード電極表面のうち前記ターゲットが配設されていない範囲がカソードマスクによりマスクされ、前記カソードマスクの上面は、前記ターゲット表面より低くされていることを特徴とする薄膜形成装置。」
4.引用文献
原査定の拒絶の理由において提示した引用文献1、引用文献2及びそれらの記載事項は上記「2.(2)(i)(ア)」、「2.(2)(i)(イ)」に記載したとおりである。
5.対比・判断
本願発明は、上記「2.(2)(ii)」で検討した本願補正発明からみると、「カソードマスク」について、限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の限定事項を付加したものである本願補正発明が上記「2.(2)(ii)」で述べたとおり引用発明1、引用発明2及び周知例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、引用発明2及び周知例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明も特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-22 
結審通知日 2006-02-28 
審決日 2006-03-14 
出願番号 特願平6-157645
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23C)
P 1 8・ 575- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 鈴木 毅
佐藤 修
発明の名称 薄膜形成装置  
代理人 田村 榮一  
代理人 小池 晃  
代理人 伊賀 誠司  

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