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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1135890
審判番号 不服2004-1911  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-02-02 
確定日 2006-05-11 
事件の表示 平成11年特許願第360057号「樹脂歯車用補強繊維基材及び樹脂歯車」拒絶査定不服審判事件〔平成13年6月26日出願公開、特開2001-173755〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年12月20日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1の記載は次のとおりである。
(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】アラミド繊維糸を筒状に編んでなり、
ウェールが25〜35本/inch
コースが20〜25本/inch
であることを特徴とする樹脂歯車用補強繊維基材。」

2.引用刊行物
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-156124号公報(平成8年6月18日出願公開、以下、「引用刊行物」という。)には、「合成樹脂製歯車の歯部成形用基材、合成樹脂製歯車および合成樹脂製歯車の製造法」に関し、概略次の技術的事項が記載されている。

[イ]「本発明が解決しようとする課題は、樹脂を含浸した基材で歯部が構成されている合成樹脂製歯車において、歯車の全周にわたって機械的強度を均一にすることである。また、基材の端材ができないようにし、材料歩留りよく製造することである。」(2頁2欄14〜19行、段落【0003】)
[ロ]「【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明に係る合成樹脂製歯車の歯部成形用基材は、筒状に織られた布が裏返されながら巻き込まれてなり、ドーナツ状に形成されていることを特徴とする。」(2頁2欄21〜24行、段落【0004】)
[ハ]「【作用】本発明に係る合成樹脂製歯車の歯部成形用基材は、筒状に織られた布が裏返されながら巻き込まれてなるので、形成されたドーナツ状の基材は周方向に連続しており継なぎ目がない。従って、樹脂を含浸したこの基材で歯車の歯部が構成された合成樹脂製歯車は、歯車の全周にわたって機械的強度を均一にすることができる。筒状に織られた布が伸縮性を有するものであると、その伸縮性により歯車の歯の弾力性が増すので、歯車の回転中に相手歯車から受けた衝撃を吸収して耐衝撃性の向上した歯車とすることができる。」(3頁3欄6〜15行、段落【0005】)
[ニ]「筒状に織られた布の織り方は、ニット織りや平織りであり、前者の織り方では布に伸縮性をもたせることができる。また、布を構成する糸は、アラミド繊維やポリアミド繊維、綿糸、カバリング糸等である。」(3頁3欄45行〜4欄3行、段落【0006】)
[ホ]「実施例1
メタ型アラミド繊維とパラメタ型アラミド繊維の混紡糸を筒状にニット織りした布を、図1(a)に示したように、その一端から裏返しながら巻き込み、ドーナツ状に形成した歯部成形用基材2を用意した。この歯部成形用基材2を金型に配置し、歯部成形用基材2の内側には金属製ブッシュを配置して、200Kg/cm2の圧力で型締し、CPレジンを金型内に注入して160℃で、歯部成形用基材と金属性ブッシュを一体に成形した。成形後、歯部成形用基材2で構成された部分に機械加工により歯を形成した。本実施例では、ニット織りした布を用いたので、次に述べる実施例2(アラミド繊維からなる糸を筒状に平織りした布を使用)より、裏返しながら巻き込む作業を容易に行なうことができた。ニット織りした布は、裏返しながら巻き込む一端を二重織りにしたので厚さがそれに続く部分より厚くなり、巻き始めの芯に利用して、巻き込む作業を一層容易にすることができた。また、金型内にCPレジンを注入するとき金型内の圧力を60mmHg以下にしたので、金型内を減圧状態にしない場合より、成形品中にボイドが残留しにくい成形を行なうことができた。」(3頁4欄4〜24行、段落【0007】)
[ヘ]「【発明の効果】上述のように、本発明に係る合成樹脂製歯車は、歯部を構成するドーナツ状の歯部成形用基材に継ぎ目がないので、歯車の全周にわたって均一な強度を保持することができる。ドーナツ状の歯部成形用基材を構成する筒状に織られた布が伸縮性を有するときは、歯車の駆動中に歯に加わる衝撃をその伸縮性を利用して吸収し、耐衝撃性の向上した合成樹脂製歯車とすることができる。本発明に係る合成樹脂製歯車の製造法によれば、ドーナツ状の歯部成形用基材を作るときに基材の端材ができにくいので材料歩留りが向上する。ドーナツ状の歯部成形用基材を構成する筒状に織られた布が伸縮性を有するときは、これを裏返しながら巻き込みドーナツ状の歯部成形用基材を作る作業が容易になる。」(4頁5欄18行〜6欄12行、段落【0013】)

上記各摘記事項及び図面から、上記引用刊行物には、アラミド繊維からなる糸を筒状に「ニット織りした布」を、その一端から裏返しながら巻き込み、ドーナツ状に形成した歯部成成形用基材を得、この歯部成成形用基材を2段金型に配置し、内側には金属製ブッシュを配置して加圧し、樹脂を注入して成形することにより、合成樹脂歯車を製造する技術が記載されていることが看取できる。
そして、上記摘記事項[ニ]及び[ホ]に記載の「ニット織り」とは、平織りとは区別していること、伸縮性をもたせることができるものであること等の記載(該摘記事項[ニ]及び[ホ])からみて、織成ではなく「編成」を意味するものであることは明らかであり、実施例1(摘記記載[ホ])に示される、「筒状にニット織りした布」とは、「筒状に編んでなるもの」を指しているものと認められる。
したがって、引用刊行物には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

[引用発明]
アラミド繊維からなる糸を筒状に編んでなる合成樹脂製歯車の歯部成型用基材

3.対比
本願発明と上記引用発明とを対比すると、後者の「合成樹脂製歯車の歯部成型用基材」は前者の「樹脂歯車用補強繊維基材」に相当し、後者の「アラミド繊維からなる糸」はアラミド繊維糸に他ならないから、本願発明の用語に倣うと、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
アラミド繊維糸を筒状に編んでなる樹脂歯車用補強繊維基材

[相違点]
本願発明の基材が「ウェールが25〜35本/inch」及び「コースが20〜25本/inch」であるのに対し、引用発明の編んでなるものの密度の具体的な数値は不明である点

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
およそ、編物はウェールとコースからなるものであって、使用目的や要求される特性に応じて、構成糸や編成組織の選択とともに、単位長さ当たりのウェール数やコース数といった編成密度等の具体的数値条件が採択されるものである。
補強用基材として用いられる編物においても、当然に、上記諸条件について好適なものが選択されるものであって、アラミド繊維糸からなる筒状の編物を用いる場合であっても、特別なこととは認められない。
してみると、編成密度について「樹脂歯車用補強繊維基材」として好適な範囲のものを選択することについても、当業者が当然に行う最適化作業の一つといわざるを得ず、当業者であれば、試行を繰り返すことによって、容易にその好適範囲を見出し得るものと認められる。

本件審判請求人は、審判請求書において、樹脂歯車の静的な機械的強度と歯車としての耐久性のバランスを検討した結果、ウェールとコースを特定したものである旨主張している。
しかしながら、歯車等の部品が、強度と耐久性の両方の特性が要求されるものであることは、当業者であれば十分承知していることにすぎない。
引用発明において、補強用の繊維構造物である筒状の編んだものを採択するに当たって、そのような観点から密度等の数値範囲を選択することが、格別困難なこととはいえず、当業者であれば、容易になし得ることと認められる。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。

よって、上記相違点に係る本願発明の構成は当業者が容易に想到し得たものとするのが相当であり、本願発明は、上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1に係る発明(本願発明)が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-08 
結審通知日 2006-03-14 
審決日 2006-03-27 
出願番号 特願平11-360057
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 常盤 務
藤村 泰智
発明の名称 樹脂歯車用補強繊維基材及び樹脂歯車  

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