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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1136068
審判番号 不服2005-5625  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-12-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-31 
確定日 2006-05-08 
事件の表示 特願2003-150047「発芽穀類を用いた食品素材または食品、発芽穀類の製造方法、発芽穀類の臭み低減方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月16日出願公開、特開2004-350546〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年5月28日に出願されたもので、その請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1、2」という。)は、当審で提出された平成17年12月16日受付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりの次のものと認める。
「【請求項1】 にがり成分または塩化マグネシウムを含む水溶液に穀類を浸漬して芽の長さ2mm以下に発芽させてアラニン、マグネシウム及びγ-アミノ酪酸を富化し、更に富化したアラニンとγ-アミノ酪酸の含有量が低下しないよう該穀類を上記にがり成分または塩化マグネシウムを含む水溶液から取り出し乾燥させて発芽を止めた発芽穀類を用いたことを特徴とする、食品素材または食品。
【請求項2】 にがり成分または塩化マグネシウムを含む水溶液に玄米または雑穀を浸漬して芽の長さ2mm以下に発芽させてアラニン、マグネシウム及びγ-アミノ酪酸を富化し、更に富化したアラニンとγ-アミノ酪酸の含有量が低下しないよう該玄米または雑穀を上記にがり成分または塩化マグネシウムを含む水溶液から取り出し乾燥させて発芽を止めた発芽玄米または発芽雑穀を用いたことを特徴とする、食品素材または食品。」

2.引用例
これに対して、当審における拒絶の理由で引用された、本願の出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された、特願2002-262769号(特開2004-97075号)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「原料豆類にマグネシウムを富化させることによって、当該豆類のカリウムの化学当量に対するマグネシウムの化学当量の比を0.4〜2.0の範囲としてなる、ミネラル組成を改質した食品素材。」(【請求項1】)
(b)「濃度が0.01%(重量/容量)以上10.0%(重量/容量)以下である塩化マグネシウムを含む水溶液に豆類または麦類を浸漬することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の食品素材の製造方法。」(【請求項7】)
(c)「従来から、原料豆または原料麦を調理する際には、あらかじめ水に浸漬しておくと、軟らかくなり、呈味性も増して食味がよく好ましい状態になるとされている。また最近、胚芽保有率が高い豆類または麦類に関しては、適切な液温およびpHの水溶液に一定時間浸漬しておくことで生理的な発芽状態に至り、内在する酵素が作用して、内在グルタミン酸が抑制性の神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸へ急速大量に変換され、栄養特性が改善されることも明らかにされている。」(【0002】)
(d)「豆類または麦類を発芽させたものは、ミネラル含量は豊富であるものの、発芽処理のため、これら原料豆を水浸漬する際に一定量のマグネシウムが失われている。このようなマグネシウムの流出・流亡は、上述の「栄養所要量」に照らして、好ましくない。しかるに、マグネシウムの溶出防止対策は、これまで全く知られておらず、当然ながら産業的対策もなされていなかったのが実情である。本発明の目的は、豆類または麦類を原料とし、そのミネラル組成を栄養的により好ましく改質し、併せて食味を向上させた食品素材とその製造方法を提供することである。本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水溶液に浸漬する際の工夫によって、原料豆類または原料麦類のミネラル組成をより好ましく改質できることを知るとともに、この操作により、調理後に感じられる食材に特有の臭気も同時に除去できるため、食味をも向上させた食品素材を得ることに成功し、併せてその製造方法を完成した。」(【0013】〜【0015】)(下線は合議体による。以下、同様)
(e)さらに、公知のように、含水率を15%以下にすることで、一般生菌数や耐熱性芽胞細菌数の増加を抑制することが可能であり、乾燥処理によって食品素材の保存性を高めることに役立つので、ステンレス製ざる等の適当な器具、容器を用いる水切り処理、温風や冷風等を用いる乾燥処理を付加することがより好ましい。また、乾燥処理を行った場合、粉砕処理や膨化処理の付加が容易になり、粉末状や粒状など各種形態の食品素材の提供が可能となる(【0030】)。
(f)「7群に分けた原料大豆をそれぞれ脱イオン水1リットルにつき塩化マグネシウム3.0gを溶解させた水溶液に浸漬した他は、比較例1と同様に処理し、化学分析も同様にして実施した。結果を表3に示す。 表3から明らかなように、浸漬した大豆は、対照大豆に比べてK含量が明らかに減じ、さらに浸漬時間が長くなるにしたがって一層減少した。これに対し、Mg含量は、浸漬時間の長短にかかわらず約18〜22mg増となった。」(【0038】実施例1)
(g)【表3】には、浸漬時間として「1、2、3、5、8、16、24」時間が記載されている。(【0039】【表3】)
(h)「インゲン豆、そら豆、ささげ、らい豆、ひよこ豆、レンズ豆および雁喰豆を原料豆とし、当該各原料豆を塩化マグネシウムおよび塩化ナトリウムを溶解させた水溶液に浸漬してMgおよびNaを富化して、ミネラル組成を改質し、かつ食味を改善した食品素材の製造方法を示す。まず、塩田製法で得られた精製ニガリ(トーフ用粉末ニガリ、(株)天塩製、塩化マグネシウム含量51%、硫酸マグネシウム3.4%、塩化ナトリウム2.6%、塩化カリウム含量0.5%、および結晶水約42.5%を含有)、および食品添加物である塩化ナトリウムの所要量を水に溶解して、塩化マグネシウム濃度が0.375%、および塩化ナトリウム濃度が2.0%の浸漬用水溶液を調製した。次に、インゲン豆、そら豆、ささげ、らい豆、ひよこ豆、レンズ豆、レンズ豆、雁喰豆の各々500gを、上記の水溶液1リットルに各々投入して5時間浸漬した。浸漬中の水溶液の温度は、異臭の原因となりやすい一般生菌数および食中毒の原因となる耐熱性芽胞細菌のバチルス属バクテリア等の増加を抑える目的で17℃以下に保った。この操作により、原料豆中のカリウムの水相への溶出と、水相のマグネシウムの原料豆への富化を行った。浸漬終了後は、原料豆をそれぞれステンレス製ざるへ移して水切りし、次いで8℃の低温室内で送風しながら乾燥させ、水分含量を12.5%に調整した。」(【0054】〜【0056】実施例5)

3.当審の判断
上記記載からみて、先願明細書には、豆類または麦類を、塩化マグネシウムを含む水溶液に浸漬してマグネシウムを富化した後、水溶液から取り出し乾燥させた穀類を用いた食品素材が記載されている。

本願発明1と先願明細書に記載された発明を対比すると、先願明細書に記載された発明における「豆類」及び「麦類」は、本願発明1の「穀類」に包含されるものである。したがって、両者は、「塩化マグネシウムを含む水溶液に穀類を浸漬してマグネシウムを富化し、更に乾燥させた穀類を用いた食品素材」である点で一致し、(i)本願発明1は、穀類を芽の長さ2mm以下に発芽させた発芽穀類を用いたものであるのに対し、先願明細書に記載された発明では、穀類が発芽したものであるかどうか明記されていない点、(ii)本願発明1は、穀類中のアラニン及びγ-アミノ酪酸が富化したものであるのに対し、先願明細書に記載された発明には、これらの成分の含量について記載されていない点、(iii)本願発明1では、乾燥工程は、「富化したアラニンとγ-アミノ酪酸の含有量が低下しないよう」に、「発芽を止め」るためのものであるに対し、先願明細書に記載された発明では、このような点が特に記載されていない点で一応相違する。

相違点(i)について
先願明細書には、原料の穀類を「発芽」させることは明記されていないが、記載事項(d)によると、先願明細書に記載された発明は、豆類または麦類の発芽処理において水浸漬する際のマグネシウムの溶出防止を課題としているものであり、上記課題を解決する手段として、塩化マグネシウムを含む水溶液に浸漬することを採用したものである。
そして、先願明細書に記載された発明の実施態様である実施例1において、原料大豆の浸漬時間を1〜24時間の間で設定しており(記載事項(f)及び(g))、この浸漬時間は、穀類が発芽するのに十分な時間である。これらの事項を考慮すると、先願明細書に記載された発明において、穀類を浸漬する工程は、穀類の発芽を目的としたものと認められる。そして、当該技術分野において、発芽穀類の芽の長さを2mm以下とすることは、周知技術であるから(特開2002-335891号公報、特開昭56-11765号公報、特開2000-300196号公報参照)、先願明細書に記載された発明において、穀類を芽の長さ2mm以下に発芽させることは、周知技術の付加であって、これにより新たな効果を奏するものでもない。したがって、この点は課題解決のための具体化手段における微差にすぎない。

相違点(ii)について
先願明細書には、浸漬した穀類中のアラニン及びγ-アミノ酪酸含量については記載されていないが、穀類を塩化マグネシウムを含む水溶液に浸漬する、という本願発明1と同様の処理を施したものであるから、先願明細書に記載された発明における浸漬した穀類も本願発明1と同様に、アラニン及びγ-アミノ酪酸含量が増加しているものと認められる。したがって、この点は実質的な相違点とは認められない。

相違点(iii)について
穀類は、水分、温度等の周辺環境が発芽に適した状態であると発芽するものであるから、穀類に水分を除去するための乾燥処理を施した場合は、穀類の発芽は進行しない状態となる。
先願明細書に記載された発明は、浸漬した穀類を乾燥する工程を有するものであり、この乾燥工程により水分が除去されて、当然、穀類の発芽は止まるものと認められる。そして、結果的に、浸漬中に富化したアラニンとγ-アミノ酪酸の含有量が低下しないことになるものである。したがって、この点は実質的な相違点とは認められない。

以上のとおりであるから、本願発明1は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。

本願発明2は、本願発明1における「穀類」を「玄米または雑穀」に特定したものであるが、先願明細書に記載された発明には、原料として「雑穀」に相当する「豆類」を使用することも記載されているから、本願発明2は本願発明1と同様の理由により、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。

審判請求人は、平成17年12月19日受付けの意見書において、引用例には、「にがり成分または塩化マグネシウムを含む水溶液に穀類或いは玄米又は雑穀を浸漬して発芽させてアラニンを富化させる」ことが記載されていない旨主張しているが、この点については、上記の相違点(ii)において述べたとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明1及び2の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明1及び2は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-22 
結審通知日 2006-02-28 
審決日 2006-03-14 
出願番号 特願2003-150047(P2003-150047)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子中島 庸子  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 冨永 みどり
田中 久直
発明の名称 発芽穀類を用いた食品素材または食品、発芽穀類の製造方法、発芽穀類の臭み低減方法  
代理人 梶原 克彦  

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