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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B32B
管理番号 1136189
異議申立番号 異議2003-71303  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-08-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-21 
確定日 2006-02-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3345934号「化粧紙」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3345934号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3345934号の請求項1に係る発明についての出願は、平成5年1月28日に出願され、平成14年9月6日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その請求項1に係る発明の特許について、異議申立人大日本印刷株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年12月3日に特許異議意見書と訂正請求書(後日取り下げ)が提出され、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年10月11日に特許異議意見書が提出され、その後、訂正拒絶理由の通知を兼ねた再度の取消理由が通知され、その指定期間内である平成18年1月17日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(2-1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりのものである。

訂正事項1:
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】樹脂浸透性の良い紙に、溶剤型或いは水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラー層、溶剤型或いは水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキによる印刷層、電子線硬化型樹脂層を設け、電子線を照射することによって一体に硬化されてなることを特徴とする化粧紙。」を

「【請求項1】坪量30〜120g/m2の樹脂浸透性の良い紙に、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラーを熱乾燥した目止めシーラ一層、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキを熱乾燥した印刷層、電子線硬化型樹脂層を順次設け、電子線を照射することによって前記目止めシーラ一層、前記印刷層及び前記電子線硬化型樹脂層が一体に硬化されてなることを特徴とする化粧紙。」と訂正する。

訂正事項2:
特許明細書の段落【0007】の
「【0007】
【課題を解決するための手段】 本発明は以上の課題を解決するため、樹脂浸透性の良い紙に、溶剤型或いは水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラー層、溶剤型或いは水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキによる印刷層、電子線硬化型樹脂層を設け、電子線を照射することによって一体に硬化されてなることを特徴とする化粧紙を提供する。」を
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は以上の課題を解決するため、坪量30〜120g/m2の樹脂浸透性の良い紙に、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラーを熱乾燥した目止めシーラ一層、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキを熱乾燥した印刷層、電子線硬化型樹脂層を順次設け、電子線を照射することによって前記目止めシーラー層、前記印刷層及び前記電子線硬化型樹脂層が一体に硬化されてなることを特徴とする化粧紙を提供する。」と訂正する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1における、「樹脂浸透性の良い紙」を「坪量30〜120g/m2の樹脂浸透性の良い紙」とする訂正は、段落【0012】の「樹脂浸透性の良い紙1としては、坪量30〜120g/m2のチタン紙などの化粧用原紙が好適である。」の記載に基づき、樹脂浸透性の良い紙を特定の坪量の紙に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
「溶剤型或いは水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラー層、溶剤型或いは水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキによる印刷層」を「主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラーを熱乾燥した目止めシーラー層、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキを熱乾燥した印刷層」とする訂正は、段落【0013】〜【0015】の「目止めシーラー層2としては、・・・ウレタン樹脂等の溶剤型或いはアクリル樹脂等の水性型・・・を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を使用し・・・
同様に印刷層3の形成も、・・・インキのバインダーとしては、溶剤型或いは水性型・・・樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を使用し、・・・
目止めシーラーやインキに併用樹脂として含む電子線硬化型樹脂は、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート・・・適宜選択できる。」の記載及び段落【0020】の「電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラーとしてウレタン樹脂・・・ウレタンアクリレートオリゴマー・・・からなる樹脂を用い、・・・乾燥後2g/m2となるように塗布した。続いて電子線硬化型樹脂を含むインキとして・・・用い・・・印刷した。乾燥後、電子線硬化型樹脂として、・・・15g/m2塗布し、化粧紙を得た。」の各記載に基づき、意味が明らかでなかった「熱乾燥する樹脂」を明確にするとともに、「目止めシーラー層」及び「印刷層」が溶剤型或いは水性型樹脂を含むような技術的に不合理な記載、すなわち、乾燥して「層」を形成する前の溶剤型或いは水性型樹脂組成物を「層」として含むような不合理な記載を明りょうにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
また、「設け、電子線を照射することによって一体に硬化されてなる」を「順次設け、電子線を照射することによって前記目止めシーラ一層、前記印刷層及び前記電子線硬化型樹脂層が一体に硬化されてなる」とする訂正は、段落【0008】の「樹脂浸透性の良い紙1に、・・・目止めシーラー層2、・・・印刷層3、及び電子線硬化型樹脂層4を形成した後、電子線を照射することにより、目止めシーラー層及び印刷層に含まれる電子線硬化型樹脂を硬化させるとともに、表面の電子線硬化型樹脂を硬化させて本発明の化粧紙を得る。」の記載及び段落【0020】の「樹脂浸透性の良い紙・・・これに電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラー・・・塗布した。続いて電子線硬化型樹脂を含むインキ・・・オーク調木目絵柄を印刷した。熱乾燥後、電子線硬化型樹脂・・・ 塗布し、塗布面側から電子線照射装置にて・・・電子線を照射して電子線硬化型樹脂を硬化させ、化粧紙を得た。」の各記載に基づき、電子線照射により、一体に硬化される層が明りょうでなかったものを、一体に硬化される層を特定して明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
訂正事項2は、訂正事項1の訂正に伴い、明細書の記載の整合性を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、訂正事項1〜2の訂正は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2-3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例とされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
(3-1)特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人大日本印刷株式会社は、甲第1号証(特開昭60-75697号公報)、甲第2号証(特開平5-16308号公報)及び甲第3号証(特開昭57-133067号公報)を提出し、
[理由1]訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、
[理由2]訂正前の本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び同条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、

該訂正前の本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。

(なお、上記理由2については、本件特許に係る出願日は、平成5年1月28日であって、異議申立人の、本件明細書は記載不備があり、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないという主張は明らかな誤記であるため、上記理由2のとおりの主張であると読み替えて認定した。)

(3-2)取消理由の概要
(3-2-1)平成16年10月25日付け取消理由の概要
当審において通知した、平成16年10月25日付け取消理由通知書の取消理由の概要は、訂正前の本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、該請求項1に係る特許は取り消されるべきである、というものである。

(3-2-2)平成17年11月11日付け取消理由の概要
当審において通知した、平成17年11月11日付け取消理由通知書の取消理由の概要は、訂正前の本件請求項1に係る発明は、刊行物1(特開昭60-75697号公報)、刊行物2(特開平5-16308号公報)及び刊行物3(特開昭57-133067号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の本件請求項1に係る発明の特許は取り消されるべきである、というものである。

(3-3)本件請求項1に係る発明
上記2.で示したとおり、上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】坪量30〜120g/m2の樹脂浸透性の良い紙に、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラーを熱乾燥した目止めシーラ一層、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキを熱乾燥した印刷層、電子線硬化型樹脂層を順次設け、電子線を照射することによって前記目止めシーラ一層、前記印刷層及び前記電子線硬化型樹脂層が一体に硬化されてなることを特徴とする化粧紙。

(3-4)甲各号証に記載の事項
甲第1号証
ア.「透気度500秒/100cc以下の浸透性良好な紙あるいは印刷紙に、分子中にエチレン性二重結合を有する電子線硬化性混合物を主成分とする含浸剤を含浸し、該含浸紙表面に前記含浸剤より高粘度の分子中にエチレン性二重結合を有する電子線硬化性混合物を主体とする塗工剤を塗工し、しかる後に電子線を照射して含浸剤と塗工剤を同時に硬化させることによる電子線硬化による化粧紙の製造方法。」(特許請求の範囲)
イ.「含浸剤としては、電子線にて硬化する分子中にエチレン性二重結合を有する公知の組成分よりなるものが使用でき、例えば・・・ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート・・・などの各種アクリレート類、ポリエステルメタクリレート、エポキシメタクリレート、ウレタンメタクリレート、・・・などの各種メタクリレート類」(第3頁左上欄7〜20行)
ウ.「これらの含浸剤は必要に応じて粘度調整の為に若干量の溶剤あるいは硬さ調整の為に・・・アクリル系樹脂、ビニル系樹脂等を若干量入れることは任意である。」(第3頁左下欄14〜17行)
エ.「次に前記含浸紙表面に塗工される塗工剤としては、前記した含浸剤として使用されるものと同様な分子中にエチレン性二重結合を有する電子線硬化性混合物を主体とするものなら任意である。」(第3頁右下欄15〜19行)
オ.「実施例1
坪量80g/m2の木目印刷チタン紙に、処方-1よりなる含浸剤を・・・ロールコーターで塗布含浸する。・・・
しかる後に該含浸紙上に・・・処方-2よりなる塗工剤を・・・コートする。・・・
しかる後に前記塗工剤塗布面より、・・・電子線を5Mrad照射して本発明の化粧紙を得た。」(第4頁左下欄5行〜右下欄7行、実施例1)

甲第2号証
カ.「化粧材用基材の表面上に第1の柄模様層を形成する工程と、前記第1の柄模様層の表面に着色剤を含有する樹脂液を塗工し、これを固化して着色コート層を形成する工程と、撥液性物質を含む印刷インキによる第2の柄模様層を形成する工程と、前記第2の柄模様層の表面に対して、樹脂液を塗工、固化してトップコート層を形成する工程とを順次含んでなる・・・化粧材の製造方法。」(特許請求の範囲、請求項1)
キ.「前記構成からなる本各発明の化粧材の製造方法において、化粧材用基材には、・・・例えば、秤量23〜300g程度の紙・・・プラスチックシート、各種の木材や合板等が利用される。・・・印刷インキによる第1の柄模様層は、化粧材用基材の表面に直接形成されるベースコート層を介して、順次形成されるのが一般的である。なお、このようなベースコート層は、・・・通常のコーティング方法で塗工することによって、容易に形成される。」(段落【0007】〜段落【0008】)
ク.「第2の柄模様層を形成するための・・・印刷インキは、・・・例えば、硬化型樹脂からなるビヒクルと撥液性物質とを含有する印刷インキによって形成される。
【0015】この硬化型樹脂をビヒクルとする印刷インキには、例えば、
1) ポリエステルポリオール・・・二液硬化型インキ、
2) エポキシ樹脂とポリアミド、・・・エポキシ系硬化型インキ、
3) 不飽和ポリエステルとスチレンモノマーとの混合物・・・熱硬化型インキ、
4) メラミン樹脂または尿素樹脂・・・熱硬化型インキ、
5) エポキシアクリレートまたはウレタンアクリレート・・・電子線または紫外線硬化型インキ、等が利用され、前述の各樹脂によるビヒクル成分と、可塑剤、安定剤、分散剤、充填剤、染料や顔料等の着色剤、溶剤、希釈剤等の混練組成物からなる印刷インキが利用される。」(段落【0014】〜段落【0015】)
ケ.「トップコート層形成用のコーティング剤は、・・・該コーティング剤中の樹脂の種類に応じて選択される。・・・架橋性樹脂によるトップコート層の場合は、必要に応じて、紫外線や電子線の照射が付される。」(段落【0021】)

甲第3号証
コ.「片面に絵柄模様の印刷が施されている坪量300g/m2以下の浸透性の良好な紙が、分子中にエチレン性二重結合を有する化合物を含む電子線硬化性物質95〜40重量%と溶剤可溶型樹脂5〜60重量%とからなる混合組成物を主成分とする含浸剤で略均一に含浸せしめられ、該含浸剤中の前記電子線硬化性物質が電子線の照射により硬化されていることを特徴とする化粧紙。」(特許請求の範囲)
サ.「含浸剤中の成分である電子線硬化性物質としては、・・・ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート・・・などの各種アクリレート類、ポリエステルメタクリレート・・・などの各種メタクリレート類」(第3頁左上欄11行〜右上欄4行)
シ.「また溶剤可溶型樹脂としては、・・・ポリアクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル樹脂や(メタ)アクリル共重合樹脂・・・ポリウレタン樹脂、ブチラール樹脂等を使用することができる。」(第3頁右下欄4〜18行)
ス.「溶剤可溶型樹脂の添加量が60重量%を越えると含浸剤の粘度が高くなりすぎて、紙への含浸操作が難しくなるという弊害も生ずる。」(第4頁左上欄12〜15行)

4.当審の判断
(4-1)特許異議申立てについての判断
(4-1-1)[理由1]について
本件発明(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)との対比・検討
甲第1号証には、上記アより、浸透性良好な紙に、分子中にエチレン性二重結合を有する電子線硬化性混合物を主成分とする含浸剤を含浸し、該含浸紙表面に前記含浸剤より高粘度の分子中にエチレン性二重結合を有する電子線硬化性混合物を主体とする塗工剤を塗工し、しかる後に電子線を照射して含浸剤と塗工剤を同時に硬化させた化粧紙が記載され、上記ウより、含浸剤には、必要に応じて若干量の溶剤やアクリル系樹脂、ビニル系樹脂等を入れること、上記オより、浸透性良好な紙として、具体的に坪量80g/m2のチタン紙を用いることが記載されていると認められる。
してみると、甲第1号証には、「坪量80g/m2の浸透性良好な紙に、溶剤やアクリル系樹脂、ビニル系樹脂等を含む電子線硬化性混合物を主成分とする含浸剤を含浸し、該含浸紙表面に電子線硬化性混合物を主体とする塗工剤を塗工し、しかる後に電子線を照射して含浸剤と塗工剤を同時に硬化せた化粧紙」の発明が記載されているといえる。
そして、後者における、「溶剤やアクリル系樹脂、ビニル系樹脂等」、「含浸剤」、「電子線硬化性混合物を主体とする塗工剤」は、それぞれ前者における、「溶剤型或いは水性型樹脂」、「目止めシーラー」、「電子線硬化型樹脂層」に相当すると認められるから、両者は、
「坪量30〜120g/m2の樹脂浸透性の良い紙に、溶剤型或いは水性型樹脂、電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラー、電子線硬化型樹脂層を順次設け、電子線を照射することによって前記目止めシーラ一及び前記電子線硬化型樹脂層が一体に硬化されてなることを特徴とする化粧紙。」である点において一致するものの、前者においては、目止めシーラー層の次に、「主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキを熱乾燥した印刷層」を設けるのに対し、後者においては、このような印刷層を設けていない点で、両者は少なくとも相違する。
そこで、この相違点について検討すると、甲第1号証には、樹脂浸透性の良い紙自体を印刷紙とすることは記載されているが、含浸剤を含浸した後印刷することは、記載も示唆もされておらず、甲第2号証にも、該印刷層に相当する「第2の柄模様層」が記載されているが、これが「主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキを熱乾燥した印刷層」とする点については何ら示唆されていない。また、甲第3号証をみても、この点について示唆するものはない。
なお、異議申立人は、この点について、「溶剤型或いは水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキによる印刷層」の構成は、甲第1号証に甲第2号証を適用し、甲第3号証に記載の含浸剤と同様の好適な材料を選択したに過ぎないものである、と主張しているが、甲第3号証に記載のものは、紙に含浸する含浸剤として、電子線硬化性物質95〜40重量%と溶剤可溶型樹脂5〜60重量%とからなる混合組成物を主成分とする(上記コ)含浸剤を使用することが記載されているにすぎないものであり、これを印刷層に適用すること、さらに、これらを甲第1号証に適用することの論理的根拠はない。
そして、本件発明は、この点により本件特許明細書に記載するような作用効果を生じるものである。
したがって、本件発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易になし得た発明であるとは認められない。

(4-1-2)[理由2]について
異議申立人の、本件特許明細書は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないとする主張の概要は、次の(a)〜(c)のとおりである。

(a)本件請求項1に係る発明において、「樹脂浸透性の良い紙」を用いることが記載され、段落【0012】には、秤量30〜120g/m2のチタン紙などの化粧紙用原紙が例示されているが、「樹脂浸透性の良い紙」について、樹脂浸透性を示す透気度等も特定しておらず、具体的にどのような紙を示すのかが明らかにされていない。したがって、「樹脂浸透性の良い紙」という記載は、発明の外延を不明確なものとしている。

(b)本件請求項1に係る発明において、「溶剤型あるいは水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む」と記載され、「主体とし」、「併用樹脂」と規定しているが、何を根拠に各層中の樹脂を主体、併用樹脂とするかが不明確である。
(c)本件請求項1に係る発明において、「・・・紙に、・・・電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラ一層、・・・電子線硬化型樹脂を含むインキによる印刷層、電子線硬化型樹脂層を設け、」と記載されており、他の層が含まれている構成を含むような記載となっている。
しかしながら、本件明細書中には、この「紙」、「目止めシーラー層」、「印刷層」、「電子線硬化型樹脂層」の各層のみからなる化粧紙しか記載されていない。そのため、発明の外延が不明確である。

そこで、これらの主張(a)〜(c)について検討する。

(a)について
「樹脂浸透性の良い紙」は、本件明細書の段落【0009】や段落【0018】の記載からもうかがえるように、表面保護の樹脂が紙層に適度に浸透して必要な強度を保つための浸透性を備えるものであることは明らかであり、また、段落【0012】、【0020】、【0022】に具体的な坪量の紙が例示されていることから、どの程度の浸透性かは明らかであると認められ、該記載を以て、発明の外延が不明確であるとはいえない。

(b)について
主体樹脂、併用樹脂については、概ね50%を超えれば主体であり、それ以下であれば併用であることは、一般技術常識から明らかであり、何を根拠に主体、併用樹脂とするかが不明確であるとはいえない。

(c)について
本件発明は、上記訂正により、紙に、シーラ一層、印刷層、電子線硬化型樹脂層を順次設けたものであると特定されたため、異議申立人の主張はその前提において失当である。

したがって、異議申立人の主張(a)〜(c)に理由はなく、本件特許出願が特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を満たしていないとする理由はない。

(4-2)取消理由についての判断
(4-2-1)平成16年10月25日付け取消理由についての判断
訂正前の本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、という取消理由については、上記訂正によって解消し、もはや取消理由は存在しない。

(4-2-2)平成17年11月11日付け取消理由についての判断
訂正前の本件請求項1に係る発明が、刊行物1〜3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という当該取消理由については、上記[理由1]についてで述べたと同様の理由により、取消理由が妥当なものとすることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
化粧紙
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】坪量30〜120g/m2の樹脂浸透性の良い紙に、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラーを熱乾燥した目止めシーラー層、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキを熱乾燥した印刷層、電子線硬化型樹脂層を順次設け、電子線を照射することによって前記目止めシーラー層、前記印刷層及び前記電子線硬化型樹脂層が一体に硬化されてなることを特徴とする化粧紙。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は家具、住宅機器等に使用する化粧板用化粧紙の製造方法に関し、特に層間強度が強く、表面強度も高い、耐久性に優れた高級化粧板を安価に能率良く製造する方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、家具や住宅機器類の水平面に使用する化粧板は、チタン紙等の浸透性の良い原紙に印刷を施した後、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させて作った樹脂含浸紙を、フェノールコア紙やパーティクルボード等の基材に乗せ、鏡面板を介して加熱圧締して製造していた。この方法によれば水平面用として必要な表面硬度や耐摩耗性を備えた化粧板ができるが、反面生産効率が悪いため高価なものにならざるを得なかった。
【0003】コスト面を改善する為に、熱硬化型樹脂を含浸せず表面から電子線硬化型樹脂を塗布して紙層に浸透させ、強化する手段も種々検討されているが、次に示す理由により満足なものが得られていない。すなわち表面から塗布された樹脂は紙層に浸透するが浸透性を重視して樹脂の粘度を下げると表面に残留する樹脂が減少するため化粧紙の表面仕上り感が悪くなり、逆に表面の仕上り感を重視して樹脂の浸透を制限するために樹脂の粘度を高くすると紙層への浸透が減少するため、紙層を強化するという本来の目的が達成されない。
【0004】また表面から塗布する樹脂を低粘度のものと高粘度のものとの2種類にするという方法では、先に塗布した低粘度の樹脂が未乾燥の状態で高粘度の樹脂を塗布すると高粘度の樹脂を塗布する段階で絵柄がぼけたり、仕上りが均一にならない等の問題が生ずる。また先に塗布した樹脂をいったん硬化させてから後の樹脂を塗布する方法によれば仕上り感は良好となる反面、1層目の樹脂が硬化して界面を形成している為、2層目の樹脂が界面剥離を生ずるという問題が避けられなかった。
【0005】さらには、紙面に印刷を施してあるならば、樹脂の浸透にもある程度ムラができてしまうのは避けられないことであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は以上のような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、水平面に使用可能な硬度や耐摩耗性を具えた高級化粧板用化粧紙を極めて能率的にかつ安価に製造する方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は以上の課題を解決するため、坪量30〜120g/m2の樹脂浸透性の良い紙に、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラーを熱乾燥した目止めシーラー層、主体樹脂として溶剤型或いは水性型樹脂、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を含むインキを熱乾燥した印刷層、電子線硬化型樹脂層を順次設け、電子線を照射することによって前記目止めシーラー層、前記印刷層及び前記電子線硬化型樹脂層が一体に硬化されてなることを特徴とする化粧紙を提供する。
【0008】以下、図面に基づき本発明について詳細に説明する。図1に示したように、樹脂浸透性の良い紙1に、電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラー層2、電子線硬化型樹脂を含むインキで形成した印刷層3、及び電子線硬化型樹脂層4を形成した後、電子線を照射することにより、目止めシーラー層及び印刷層に含まれる電子線硬化型樹脂を硬化させるとともに、表面の電子線硬化型樹脂を硬化させて本発明の化粧紙を得る。
【0009】表面の電子線硬化型樹脂は低粘度であっても、目止めシーラー層がある為、紙層に必要以上に浸透せずに、インキ層に浸透する程度で表面に残留する。
【0010】また、目止めシーラー層・印刷層に含まれる電子線硬化型樹脂は連続印刷や連続コートができるように乾燥させているのみであり、電子線は表面の電子線硬化型樹脂を塗布した後に照射して最終で硬化させるので、各層に含まれる電子線硬化型樹脂は一体化して硬化するため、相互の密着性は全く問題がない。
【0011】電子線の照射は、表面の電子線硬化型樹脂の側から照射するのが通常であるが、電子線硬化型樹脂の塗布面を表面の平滑な金属ロールに圧着して紙の裏面側より電子線を照射して硬化させることにより、鏡面板を介した熱硬化性樹脂化粧板のような鏡面を効率よく得ることができる。平滑な金属ロールの代わりに、微細な凹凸形状の金属ロールを使用することにより、均一な艶消し面の化粧紙を効率よく得ることができるし、柄模様で凹凸を形成した金属ロールを使用することにより、シャープな凹凸の柄模様が形成された化粧紙を得ることができる。
【0012】樹脂浸透性の良い紙1としては、坪量30〜120g/m2のチタン紙などの化粧紙用原紙が好適である。
【0013】目止めシーラー層2としては、塗布はグラビアコート法等の公知の方法よるが、樹脂としてはウレタン樹脂等の溶剤型或いはアクリル樹脂等の水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を使用し、熱乾燥でタック残りがなく連続印刷できる程度の添加量とする。
【0014】同様に印刷層3の形成も、グラビア印刷法等の公知の方法で印刷するが、インキのバインダーとしては、溶剤型或いは水性型で熱乾燥する樹脂を主体とし、併用樹脂として電子線硬化型樹脂を使用し、熱乾燥で連続印刷・コートできる程度の添加量とする。
【0015】目止めシーラーやインキに併用樹脂として含む電子線硬化型樹脂は、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、等の(メタ)アクリル酸エステルオリゴマー及びそれらのエマルジョン、単官能または多官能のモノマーなどの単体や混合で適宜選択できる。
【0016】表面の電子線硬化型樹脂層4は、グラビアコート法・ロールコート法等の公知の塗布方法で良い。樹脂としては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルオリゴマー等に、単官能または多官能のモノマー、スリップ剤・マット剤等の添加剤を配合して粘度を数10〜数100cpsに調整した電子線硬化型樹脂が好ましい。
【0017】電子線の加速電圧は200〜250Kv、照射量は3〜5Mrad程度が良い。この処理によりすべての層の電子線硬化型樹脂が一体となり、層間の強度や表面の強度が優れた化粧板が得られる。通常この処理は50〜150m/分のライン速度で可能であるから極めて生産効率が高い。
【0018】
【作用】化粧紙の表面は、表面保護の電子線硬化型樹脂層が目止めシーラー層までよく浸透するが、必要以上に浸透しないので、表面の樹脂層が確保され、表面の仕上がり外観に優れる。また紙層は目止めシーラーで強化されると共に、各層の電子線硬化型樹脂が一体となって硬化するので、化粧紙層のどこをとっても弱い層がなく、極めて強度の高い化粧紙を得ることが出来る。
【0019】また、塗布面を金属ロールに圧着して裏面から電子線を照射することにより、表面の鏡面光沢、均一な艶消し光沢やシャープな凹凸柄模様を容易に、効率よく得ることができ、外観面からも極めて優れた化粧紙を得ることが出来る。
【0020】
【実施例】
<実施例1>樹脂浸透性の良い紙として坪量30g/m2の化粧紙用原紙を用い、これに電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラーとしてウレタン樹脂40重量部、ウレタンアクリレートオリゴマー5重量部、ポリイソシアネート10重量部、希釈溶剤45重量部からなる樹脂を用い、これを乾燥後2g/m2となるよう塗布した。続いて電子線硬化型樹脂を含むインキとして塩化ビニル・酢酸ビニル樹脂を15〜30重量部、着色顔料5〜30重量部、2官能モノマー3〜12重量部、全体を100重量部として残りを希釈溶剤(割合は色によって異なる)からなるものを用い、これでオーク調木目絵柄を印刷した。熱乾燥後、電子線硬化型樹脂層として、粘度200cpsに調整した電子線硬化型樹脂(東亞合成化学工業(株)製:「アロニックスMー8030」)80重量部、2官能モノマー18重量部、スリップ剤2重量部を用い、これを15g/m2塗布し、塗布面側から電子線照射装置にて加速電圧200Kv、3Mradの電子線を照射して電子線硬化型樹脂を硬化させ、化粧紙を得た。
【0021】これを尿素・酢酸ビニル系の接着剤にてパーチクルボードと貼り合わせて化粧板にしたところ、外観上非常に光沢が高く(光沢度80%)、塗装感もあり、層間強度や表面強度の優れた(鉛筆強度2H、碁盤目状接着テープ剥離試験にて剥離なし)化粧板が得られた。
【0022】<実施例2>樹脂浸透性の良い紙として坪量60g/m2の化粧紙用原紙を用い、これに電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラーとして、アクリル樹脂30重量部、エマルジョンタイプポリエステルアクリレートオリゴマー3重量部、水67重量部からなるものを用い、これを乾燥後3g/m2となるように塗布した。続いて電子線硬化型樹脂を含むインキとして、アクリル樹脂15〜30重量部、着色顔料5〜30重量部、2官能モノマー3〜12重量部、全体を100重量部として残りを水(割合は色によって異なる)からなるものを用い、これでマホガニー調木目絵柄を印刷した。熱乾燥後、電子線硬化型樹脂層として粘度400cpsに調整した電子線硬化型樹脂(ダイセルユーシービー(株)製:「エベクリル810」)85重量部、3官能モノマー13重量部、スリップ剤2重量部を用い、これを40g/m2塗布し、塗布面を鏡面の金属ロールに圧着し、紙の裏面側から電子線照射装置にて加速電圧250Kv、5Mradの電子線を照射して電子線硬化型樹脂を硬化させ、化粧紙を得た。
【0023】これを尿素系の接着剤にてパーチクルボードと貼り合わせて化粧板にしたところ、鏡面(光沢度95%)であり、表面強度に非常に優れ(鉛筆硬度4H、耐摩耗性JAS試験合格、引きかき硬度試験JAS B試験合格、碁盤目状接着テープ剥離試験にて剥離なし)、水平面でも充分に使用できる性能の化粧板が得られた。
【0024】
【発明の効果】以上に示したように、本発明により得られる化粧紙の表面は、表面保護の電子線硬化型樹脂層が目止めシーラー層までよく浸透するが、必要以上に浸透しないので、表面の樹脂層が確保され、表面の仕上がり外観に優れる。
【0025】また、各層の電子線硬化型樹脂は、ただ一度の電子線照射のみによって、化粧紙の断面を通過した電子線の作用によって硬化して一体となるため化粧紙層のどこをとっても弱い層がなく、極めて強度の高い化粧紙を製造でき、生産効率も非常に高い。多色機で1工程で生産することが非常に容易である。また、化粧紙の裏面には電子線硬化型樹脂が浸透していないため、接着剤によっての基材との接着性も優れる。
【0026】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法による化粧紙の断面を示した模式図である。
【符号の説明】
1…樹脂浸透性の良い紙
2…電子線硬化型樹脂を含む目止めシーラー層
3…電子線硬化型樹脂を含むインキによる印刷層
4…電子線硬化型樹脂層
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-02-08 
出願番号 特願平5-12948
審決分類 P 1 651・ 534- YA (B32B)
P 1 651・ 121- YA (B32B)
P 1 651・ 531- YA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 石井 克彦
鴨野 研一
登録日 2002-09-06 
登録番号 特許第3345934号(P3345934)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 化粧紙  
代理人 石川 泰男  

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