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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1136867
審判番号 不服2001-22625  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-06-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-12-17 
確定日 2006-04-11 
事件の表示 平成9年特許願第334697号「レーザー処理前に皮膚に塗布する組成物における発色団の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成10年6月23日出願公開、特開平10-165410号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成9年12月4日(パリ条約による優先権主張1996年12月5日、仏国)の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成12年8月29日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「皮膚の表面においてレーザー光線の光エネルギーを熱エネルギーに変換するための組成物であって、生理学的に許容可能なキャリヤー中に少なくとも一つの発色団を含み、皮膚に透過した光エネルギーが組織または細胞に好ましくない不可逆的損傷を生じないような吸光度を備え、かつ、塗布された組成物中において、放射照度が0.5W/cm2から108W/cm2であるレーザーによって、局所的に光エネルギーを熱エネルギーに変換することを特徴とする、レーザー処理用組成物。」(以下、「本願発明」という)

【2】引用例等及びその記載事項の概要
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願日前の他の出願であって、その出願後に公開された特願平8-78505号(特開平9-266955号公報参照)の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、次のイ-ホの事項が記載されている。
イ)「生体組織表面に液状ターゲットを塗布し、その塗布部分に対してレーザ光を照射し組織の改質を図るものであり、
前記液状ターゲットは粒径が40μm 以下のレーザ光の吸収性粉体を、水およびアルコールに分散させたものであることを特徴とする生体組織のレーザ治療用ターゲット。」(明細書【特許請求の範囲】、【請求項3】)
ロ)「レーザ光の吸収性粉体はカーボン、二酸化マンガンおよび酸化鉄の群から選ばれた有色のものである請求項3記載の生体組織のレーザ治療用ターゲット。」(明細書【特許請求の範囲】、【請求項5】)
ハ)「しかし、これらの方法では、完全に痣を除去することがきわめて難しい。レーザ光を照射して痣の除去を行う方法は、その将来性について着目されてはいるものの、図7に示すように、レーザ光Lを組織M表面に照射した場合、組織表面の後方に散乱するレーザ光割合が大きく、大きな出力が必要となる。また、組織内に入射させたレーザ光が、組織内部において散乱する割合が大きく、目的の組織部分以外の組織のダメージが大きくなる。さらにレーザ光の強度分布は光ファイバーの軸心部分が高く周辺部が低い温度分布を示すので、均一な組織の蒸散を図ることができない。他方、レーザ光の照射個所の特定がレーザ光を目視しながらしか行うことができないので、目的の領域内においてレーザ光の照射残りを生じがちとなる。
したがって、本発明の課題は、目的の組織部分に対してレーザ光を均一かつ全体を効率的に照射することできるようにすることにある。」(明細書【0003】〜【0004】)
ニ)「ターゲットTに投射されたレーザ光Lは、ターゲットTに含有されるレーザ光吸収性粉体に吸収され、熱エネルギーとなる。その結果、レーザ光Lの照射部分全体が瞬間的に高温(たとえば800〜1800℃)となり、組織の蒸散が行われる。1回の組織の蒸散が十分でない場合には、再度、ターゲットTの塗布を行った後、レーザ光の照射を行う。ターゲットの塗布およびレーザ光Lの照射の繰り返し回数は適宜選択できる。」(明細書【0018】)
ホ)「レーザ光としては、炭酸ガスレーザ光を用いるよりも、Nd:YAGレーザ光を用いるのが望ましい。レーザ光は、パルスレーザ光があることが好適であり、10〜500mJでパルス間隔を5〜50PPSとすることができる。」(明細書【0025】)

上記の摘記事項を纏めると、先願明細書には以下の発明が記載されているものと認める(以下、「先願発明」という。)。

(先願発明)
「生体組織表面でレーザ光を熱エネルギーにする液状ターゲットであって、水およびアルコールに有色のレーザ光吸収粉体を分散させたものであり、塗布された該液状ターゲットは、レーザ光吸収粉体がレーザ光を吸収することにより生体組織表面でレーザ光を熱エネルギーにすることによって組織が蒸散する高温となるレーザ治療用ターゲット。」

【3】対比・判断
本願発明と先願発明とを対比すると、先願発明の「生体組織表面」は本願発明の「皮膚の表面」に相当し、以下同様に、「レーザ光を熱エネルギーにする」は「レーザー光線の光エネルギーを熱エネルギーに変換する」に、「液状ターゲット」は「組成物」に、「レーザ治療用ターゲット」は「レーザー処理用組成物」に、「水およびアルコール」は「キャリヤー」に、「有色のレーザ光吸収粉体」は「発色団」に、「レーザ光を熱エネルギーにすること」は「光エネルギーを熱エネルギーに変換すること」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「レーザ光Lの照射部分」は、特段の断りがない限り通常照射範囲がスポット様に小面積であると言えるので、本願発明の「局所的」であると言える。したがって両者は、
「皮膚の表面においてレーザー光線の光エネルギーを熱エネルギーに変換するための組成物であって、キャリヤー中に発色団を含み、塗布された組成物中において、局所的に光エネルギーを熱エネルギーに変換するレーザ処理用組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違しているものと認められる。
<相違点1> 「キャリヤー」に関して、本願発明では、「生理学的に許容可能」とされているのに対し、先願発明では明らかでない点。
<相違点2> 「吸光度」に関して、本願発明では「皮膚に透過した光エネルギーが組織または細胞に好ましくない不可逆的損傷を生じないような吸光度」としているのに対して、先願発明では明らかでない点。
<相違点3> 「レーザー」の「放射照度」について、本願発明では「放射照度が0.5W/cm2から108W/cm2である」としているのに対して、先願発明では「組織が蒸散する高温となる」状態としている点。

上記の相違点について検討する。
<相違点1について>
先願発明の「キャリヤー」に相当する「水およびアルコール」は、生理学的に生体組織に無害な物質であることは明らかであり、かつ、皮膚表面に塗ることから当然そのような物質が選択されるべきものと言えるから、当該相違点1については、実質的に相違していないものと言える。
<相違点2について>
先願明細書でも、上記摘記事項ハ)に「図7に示すように、レーザ光Lを組織M表面に照射した場合、組織表面の後方に散乱するレーザ光割合が大きく、大きな出力が必要となる。また、組織内に入射させたレーザ光が、組織内部において散乱する割合が大きく、目的の組織部分以外の組織のダメージが大きくなる。さらにレーザ光の強度分布は光ファイバーの軸心部分が高く周辺部が低い温度分布を示すので、均一な組織の蒸散を図ることができない。」と記載されているように、生体組織内部に不必要にレーザ光が透過・散乱する問題を課題として提示している。ということは、先願発明の「液状ターゲット」は、係る課題の克服を目的とした物質であり、水およびアルコール中に分散された「粉体」が、「レーザ光」に対して「吸収性」を示すものとされている以上、液状ターゲットの吸光度について、「皮膚に透過した光エネルギーが組織または細胞に好ましくない不可逆的損傷を生じないような吸光度」を有するよう、設定されて実施されるものであると当業者であれば当然見て然るべきものである。よって、先願発明の「液状ターゲット」も、本願発明の如く「皮膚に透過した光エネルギーが組織または細胞に好ましくない不可逆的損傷を生じないような吸光度」を有するものと言え、当該相違点について両者が実質的に相違しているものとは言えない。
<相違点3について>
本願発明における「放射照度が0.5W/cm2から108W/cm2である」という技術的限定事項の意義としては、本願明細書の段落【0025】および【0026】に、いわゆる「熱効果」が発揮されるべき領域である旨、説明されている。
そして、先願発明は、「レーザ光Lの照射部分が生体組織表面でレーザ光を熱エネルギーにすることによって組織が蒸散する高温となる」としており、係る「組織」の「蒸散」現象については、本願明細書の【0007】に熱効果により発生する現象の一例として挙げられた「切除」の説明文として、「生体組織の種々の成分が蒸発によって除去される。到達温度は、比較的短時間(1/10秒のスケール)で100〜1000℃となる。100〜300℃で組織は、液胞破壊による爆発的蒸発により除去される。」といった記載事項と、現象面で合致することから見て、先願発明におけるレーザ光照射によって引き起こされる現象は、明らかに熱効果で発生する状況であると言うことができる。
すなわち、本願発明で規定のレーザ光の照度で起こる現象も、先願発明のレーザ光照射下で起こる現象も、その結果が熱効果領域で起こる現象である点で両者は全く差が無い以上、先願発明のレーザ光照度も、本願発明のレーザ光照度相当であると言え、当該相違点3については、両者は実質的に相違するものでない。

なお、請求人は、先願明細書の【0025】(上記摘記事項ホ)を参照。)の記載から見て、先願発明のレーザ光照度は機械的な破壊現象を生じさせるほど強い照度であると推測し、本願発明の照度と違う旨繰り返し主張しているが、請求人が提出した参考資料1「Photophysical Processes in Recent Medical Laser Developements:a Review」中の表には、Nd-YAGレーザの照度について3例プロットされており、その中には熱効果領域でのプロットも存在している。また、パルス状の照射形態だけから直ちにレーザ光の発生のタイプをQスイッチ型であるとまでは通常特定できない。なぜなら、熱効果領域で多用される炭酸ガスないしルビーレーザでも短パルス幅での照射利用形態を採るためである(必要ならば、拒絶理由で引用された特開平6-509734号公報等を参照のこと。)。これらのことから、請求人の主張は採用できない。

【4】むすび
以上のとおり、本願発明は、先願発明と実質的に同一であり、本願の発明をした者が先願の発明をした者と同一ではなく、また両発明の出願人が同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-15 
結審通知日 2004-12-21 
審決日 2005-01-06 
出願番号 特願平9-334697
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 見目 省二阿部 寛  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 平上 悦司
西村 泰英
発明の名称 レーザー処理前に皮膚に塗布する組成物における発色団の使用  
代理人 志賀 正武  

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