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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1136873
審判番号 不服2003-4232  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-04-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-14 
確定日 2006-05-15 
事件の表示 平成10年特許願第 21311号「被記録材用処理液」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 4月 6日出願公開、特開平11- 91242〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成9年9月22日に出願された特願平9-257243号の一部を平成10年2月2日に新たな出願としたものであって、平成15年2月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年4月14日に手続補正がなされたものである。

第2.平成15年4月14日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成15年4月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成15年4月14日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)には、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする補正事項が含まれている。
「【請求項1】 粒径が大きくとも1μmであるアルミナと、溶媒と、粘度調製剤としての酢酸とを同時に混合して得られる混合液中の前記アルミナを、均一に分散することにより分散液を得、この分散液と、ポリビニルアセタール、ケン化度が80〜99.8mol%のポリビニルアルコール、及びアルコール系溶媒に可溶なポリアミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂とを混合して得られて成ることを特徴とする被記録材用処理液。」

2.補正の適否
上記補正事項は、補正前の請求項1に記載されていた、「アルミナと、溶媒と、酢酸とを混合して得られる混合液」について、アルミナと、溶媒と、酢酸とを「同時に混合」するものに限定し、更に酢酸を「粘度調整剤」であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件手続補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

(1)先願明細書の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の日前の平成9年9月18日に出願であつて本件出願後に出願公開された特願平9-253260号の願書に最初に添附した明細書(特開平11-91235号公報参照)には、次の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】 支持体上にインク吸収層を設けるインクジェット用被記録材において、該インク吸収層にγ形またはδ形酸化アルミニウムの少なくとも一方と、非水溶性バインダーとを含有することを特徴とするインクジェット用被記録材。
【請求項2】 該酸化アルミニウムの平均一次粒子径が10nm以上20nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット用被記録材。
【請求項3】 該非水溶性バインダーがアセタール樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット用被記録材。」(特許請求の範囲の請求項1〜3)、
(b)「【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、インク吸収速度が速く、且つインク吸収容量が多く、表面光沢性と耐水性を有するインクジェット用被記録材を提供することであり、特にカラー記録での要望が高い写真調の光沢を有するインクジェット用被記録材を提供することである。」(段落【0012】)、
(c)「酸化アルミニウムに対する非水溶性バインダーの量としては、酸化アルミニウム100重量部に対して2〜30重量部が好ましく、5〜15重量部が特に好ましい。酸化アルミニウムに対する非水溶性バインダーの量が多すぎるとインク吸収容量が小さくなり、逆に少なすぎるとインク吸収層の強度が弱くなる。」(段落【0022】)。
(d)「酸化アルミニウムを含む塗工液は、安定な分散状態で液濃度を高めることが難しく、その濃度や粘度は塗工液のpHに大きく依存することが多い。従って、塗工液のpHは3以上6以下であることが好ましい。pHが高すぎると塗工液の粘度が高くなる為、酸化アルミニウムの固形分濃度を高めることが困難となる。逆に低すぎると形成されるインク吸収層の表面pHが低くなり、インクジェット記録に使用される染料の色味が大きく変化してしまう為に好ましくない。」(段落【0028】)、
(e)「実施例1
δ形酸化アルミニウム(Degussa社製、AluminiumOxideC、平均一次粒子径13nm)16部をイソプロピルアルコール/水の混合溶媒(混合比、60/40)64部に分散し、酢酸を加えてpHを3.5とした。アセタール樹脂溶液(積水化学製、エスレックKX-1、濃度8重量%、アセタール化度8モル%、溶媒:IPA/水=40/60)20部を加え、固形分濃度が17.6重量%の塗工液を調製した。この塗液は1週間室温で放置しても、安定な分散状態を維持していた。この塗工液を白色PETフィルム(アイ・シー・アイ製、メリネックス339、厚さ97μm)に乾燥後の重量が20g/m2になるように塗布し、乾燥させインクジェット用被記録材を得た。」(段落【0059】)、
(f)「実施例4〜5
実施例1〜2におけるδ形酸化アルミニウム(Degussa社製、AluminiumOxideC、平均一次粒子径13nm)をγ形酸化アルミニウム(住友化学製、AKP-G015、平均一次粒子径15nm)に代えた以外は実施例1〜2と同様にして2種のインクジェット用被記録材を得た。
実施例6
実施例1における平均一次粒子径13nmのδ形酸化アルミニウムを平均一次粒子径55nmのγ形酸化アルミニウム(Condea Chemie社製、PuraloxSBa)に代えた以外は実施例1と同様にしてインクジェット用被記録材を得た。」(段落【0062】〜【0063】)、
(g)実施例1ないし6はいずれもインク吸収性、皮膜耐水性、染料耐水性が良好であったこと(【表1】)。
これらの記載によれば、先願明細書には次の発明が記載されていると認められる。
「平均一次粒子径が10nm以上20nm以下の範囲であるγ形またはδ形酸化アルミニウムと、溶媒と、酢酸とを混合して得られる混合液中の前記γ形またはδ形酸化アルミニウムを、均一に分散することにより分散液を得、この分散液と、ポリビニルアセタールとを混合して得られて成るインクジェット用被記録材用塗工液。」

(2)対比、判断
補正発明と先願明細書に記載された発明を対比する。
ア.先願明細書に記載された発明の「γ形またはδ形酸化アルミニウム」、「インクジェット用被記録材用塗工液」は、それぞれ補正発明の「アルミナ」、「被記録材用処理液」に相当する。
イ.先願明細書において「平均一次粒子径が10nm以上20nm以下の範囲」のアルミナとして実施例で使用されている「Degussa社製 AluminiumOxideC」は、本願明細書の実施例で、粒径が大きくとも1μm以下のアルミナ粒子と例として使用されている「日本エアロジール(株)製 商品名AluminiumOxideC」と同一のアルミナ粒子であるから、粒径が大きくとも1μm以下である。
したがって、両者は、
「粒径が大きくとも1μmであるアルミナと、溶媒と、酢酸とを混合して得られる混合液中の前記アルミナを、均一に分散することにより分散液を得、この分散液と、ポリビニルアセタールとを混合して得られて成る被記録材用処理液。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
相違点1:補正発明では、「酢酸」が粘度調整剤とされているのに対し、先願明細書に記載された発明では、「酢酸」について、特に粘度調整剤とはされていない点
相違点2:補正発明では、アルミナと、溶媒と、粘度調製剤としての酢酸とを「同時に混合」するものであるのに対し、先願明細書に記載された発明では、アルミナと、溶媒と、粘度調製剤としての酢酸とを同時に混合することは特に記載されていない点。

上記相違点について検討する。
相違点1についてみると、先願明細書の実施例において「酢酸」は、PHを調整するために添加されている。そして、先願明細書には、PH調整は、酸化アルミニウムを含む塗工液の粘度を調整するためであることが記載されているから(記載事項d)、酢酸は実質的に粘度調整のために添加されたものであることは明らかであり、相違点1は実質的な差異ではない。
なお、請求人は、平成15年6月2日付けで補正された審判請求書の請求の理由において、「通常pH調整剤は、対象物のpHを調整することを目的としますので、pH調整剤の添加量が大量であります。これに対して粘度調整剤は、対象物の粘度を調整しますので、pH調整剤よりも遥かに少量の添加量で対象物に添加されます。」、「同じ酢酸と申しましても、『pH調整剤としての酢酸』と『粘度調整剤としての酢酸』という表現により両者の概念は十分に区別されます。」と主張するが、上記のとおり、先願明細書に記載の発明は、粘度を調整するために、酢酸を用いてPHを調整するものであり、「粘度調整剤としての酢酸」という表現によっても、補正発明と先願明細書に記載された発明とは区別することができない。
相違点2についてみると、先願明細書の実施例では、「酸化アルミニウムをイソプロピルアルコール/水の混合溶媒64部に分散し、酢酸を加えてpHを3.5とした。」と記載されており、溶媒にアルミナを分散してから酢酸を添加している。しかし、先願明細書には、塗工液の粘度を調整するための酢酸等のPHを調整する物質の添加時期は何ら限定されていない。そして、分散液を製造する時に最初から粘度調整剤を添加しておくことは普通に行われることであって、先願明細書に記載された発明には、アルミナと溶媒と酢酸を同時に混合することも包含しているということができ、アルミナと、溶媒と、酢酸とを同時に混合することは、混合液を製造する際の設計上の微差にすぎない。
なお、請求人は、前記請求の理由において、「アルミナと、溶媒と、粘度調製剤としての酢酸とを同時に混合して得られる混合液中の前記アルミナを、均一に分散することにより得られる分散液を使用して得られる被記録材用処理液においては、別紙として添付する実験成績書における『比較例その1』に示されるように、アルミナと、溶媒と、粘度調製剤としての酢酸とを同時に混合することが重要であります。比較例その1及び本願当初明細書の実施例1とを比較すると明らかなように、アルミナと、溶媒と、粘度調製剤としての酢酸とを同時に混合しないで得られる混合液を用いて得られる分散液を使用する場合、アルミナの分散が均一に成らず、そのために不鮮明な画像が形成されることに成って、本願発明の目的を達成することができなかったことが明らかであります。」と主張し、平成15年6月4日付けで提出された実験成績証明書には、「比較例その1」として、先ずAl2O3とエチレングリコール及びイソプロピルアルコールと水を高速撹拌機で撹拌し、次いで酢酸を添加し高速撹拌機で撹拌した粉体混合物を用いた被記録材用処理液を塗布した被記録フィルムは、表面に微小なクラックが発生し、画像が不鮮明であったと記載されている。
しかし、先願明細書に記載の発明の塗工液の調整方法が、実験成績証明書の「比較例その1」の調整方法に限定されるということはできない。
また、本件明細書の実施例6、7には、塗工液中のアルミナの含有量を小さくした場合は酢酸を添加しない処理液であっても鮮明な画像が得られることが記載されていることから、塗工液の粘度及びアルミナの分散性は処理液中のアルミナの量によっても異なることは明らかであり、アルミナと、溶媒と、酢酸とを同時に混合しなければ、明細書記載の作用効果が得られないとすることもできず、実験成績証明書の記載によっても、補正発明により予測できない顕著な効果が得られるということはできない。
したがって、補正発明は、本件の出願の日前に出願された出願であつてその出願後に出願公開された特願平9-253260号の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であり、かつ、上記の出願の発明者が本件出願に係る発明の発明者と同一であるとも、また本件出願の時においてその出願人が上記出願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件手続補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願の請求項に係る発明
平成15年4月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成14年9月10日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】 粒径が大きくとも1μmであるアルミナと、溶媒と、酢酸とを混合して得られる混合液中の前記アルミナを、均一に分散することにより分散液を得、この分散液と、ポリビニルアセタール、ケン化度が80〜99.8mol%のポリビニルアルコール、及びアルコール系溶媒に可溶なポリアミドからなる群より選択される少なくとも一種の樹脂とを混合して得られて成ることを特徴とする被記録材用処理液。」

2.先願明細書の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の日前の平成9年9月18日に出願であつて本件出願後に出願公開された特願平9-253260号の願書に最初に添附した明細書(特開平11-91235号公報参照)には、前記「第2.2.(1)」に記載したとおりの事項が記載されていると認める。

3.対比・判断
本願請求項1に係る発明は、補正発明で限定されていた、アルミナと、溶媒と、酢酸との混合液について、「同時に混合」との限定を省略し、酢酸について「粘度調整剤」との限定を省略したものである。
そうすると、請求項1に係る発明の特定事項を全て含み、さらに混合液を限定した補正発明が、前記「第2.2.(2)」に記載したとおり、先願明細書に記載された発明と同一である以上、請求項1に係る発明も、同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一である。

第4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、本件の出願の日前に出願された出願であってその出願後に出願公開された特願平9-253260号の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であり、かつ、上記の出願の発明者が本件出願に係る発明の発明者と同一であるとも、また本件出願の時においてその出願人が上記出願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-24 
結審通知日 2006-03-03 
審決日 2006-03-29 
出願番号 特願平10-21311
審決分類 P 1 8・ 161- Z (B41M)
P 1 8・ 575- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 秋月 美紀子
阿久津 弘
発明の名称 被記録材用処理液  
代理人 福村 直樹  

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