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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23K
審判 全部無効 特174条1項  B23K
管理番号 1137000
審判番号 無効2005-80064  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-06-15 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-03-01 
確定日 2006-05-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3231708号発明「透明材料のマーキング方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3231708号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯・本件発明
本件特許第3231708号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成10年8月28日に特許出願(特許法第41条に基づく優先権主張平成9年9月26日)され、平成13年9月14日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
これに対し、請求人富士電機システムズ株式会社より平成17年3月1日に特許の無効の審判が請求され、平成17年5月18日に被請求人住友重機械工業株式会社より答弁書が提出され、平成17年7月6日に請求人より弁駁書が提出された。

本件特許第3231708号の請求項1ないし4に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 厚さが2mm以下の板状のマーキング対象物を準備する工程と、
前記マーキング対象物を形成する材料を透過する波長域のレーザ光を、fθレンズを用いて該マーキング対象物の内部に集光させることにより、該マーキング対象物の内部にマーキングを行う工程と
を有し、
前記マーキングを行う工程において、前記マーキング対象物を形成する材料の屈折率を考慮して、レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように、前記マーキング対象物の表面から前記レーザ光の集光点までの深さを制御するマーキング方法。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】 厚さが2mm以下の板状のマーキング対象物を準備する工程と、
前記マーキング対象物を形成する材料を透過する波長域のレーザ光を、fθレンズを用いて該マーキング対象物の内部に集光させることにより、該マーキング対象物の内部にマーキングを行う工程と
を有し、
前記マーキングを行う工程において、前記マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみ前記レーザ光を集光させるマーキング方法。」(以下、「本件発明2」という。)
「【請求項3】 前記マーキング対象物の厚さが1mm以上である請求項1に記載のマーキング方法。」(以下、「本件発明3」という。)
「【請求項4】 前記マーキング対象物の厚さが1mm以上である請求項2に記載のマーキング方法。」(以下、「本件発明4」という。)

2.請求人の主張
請求人は、本件発明1ないし4の特許を取り消す、との審決を求め、その理由として、
イ.本件発明1ないし4は本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容赦が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである;
ロ.平成13年8月17日付手続補正書による補正は新規事項を追加するものであって、特許法第17条の2第3項の規定に違反している;
から本件特許1ないし4は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証を提出している。(平成17年3月1日付審判請求書)
甲第1号証: 「第4回機械材料・材料加工技術講演会講演論文集」(社団法人日本機械学会、平成8年11月1日発行)第61〜62ページ
甲第2号証: 本件特許出願の平成13年8月17日付意見書の写し
甲第3号証: 本件特許出願の平成13年2月22日付意見書の写し
甲第4号証: 米国特許第4530082号明細書
(昭和60年7月16日発行)
甲第5号証: 実願昭62-22791号
(実開昭63-133891号)のマイクロフィルム
甲第6号証: 特開平3-124486号公報
甲第7号証: 特開昭64-87093号公報
甲第8号証: 特公昭63-20638号公報
甲第9号証: 本件特許出願の平成13年8月17日付手続補正書の写し
甲第10号証:本件特許出願の平成13年2月22日付手続補正書の写し

3.被請求人の主張
他方、被請求人は、
イ.本件発明1及び2において、厚さ2mm以下のマーキング対象物の内部にマーキングを施すこと、本件発明1において、マーキング対象物の材料の屈折率を考慮してレーザ光の集光点までの深さを制御すること、及び、本件発明2において、マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみレーザ光を集光させることは、当業者が容易に想到し得た事項ではない;
ロ.当初明細書には、「評価実験」で「凸レンズを使用して」「厚さ1〜2mmのガラス基板にマーキングを行うと、基板内部のみならず、表面にもクラックが発生してしまうことが判明した。」(段落【0012】,【0013】)と記載されているが、厚さ1〜2mmの対象物の内部にマーキングを行う試みは本件の発明者が初めて行った評価実験であり、本件発明は評価実験で発生した問題を解決するものであるから、本件発明において厚さ1〜2mmのガラス基板を対象とすることに言及していることになり、そのため平成13年8月17日付の手続補正は新規事項を追加するものではない;
と主張している。(平成17年5月18日付答弁書)

4.特許法第29条第2項違反について
4.1 甲第1号証に記載された事項
a.(第61ページ左欄第19〜22行)
「2.マーキング装置
開発した装置をFig.1に示す。装置は、Nd:YLFの第4高調波を用いたレーザ光源、レーザビームを高速に走査するガルバノスキャナ、及びfθレンズなどで構成されている。」
b.(第62ページ左欄第1〜12行)
「4.ガラスの内面加工
固体レーザの4倍波を使用し、加工条件を最適化すると視認性よく割れのない加工が実現できるが、表面を加工すると、アブレーションで除去された微細粒子が表面に再付着したり熱影響により加工部近傍表面が盛り上がる問題点があった。そこで、光学的絶縁破壊、または、光学的損傷(Optical damage)を利用してガラス内面にマーキング加工する試みを行った。
加工装置は前述のものと同様であるが、レーザ光源にはNd:YAGレーザの第4高調波(266nm)を用いた。厚さ10mmの合成石英ガラスをマーキング装置の加工位置に置き、光軸調整の後、マーキング加工した。」
c.(第62ページ左欄第19〜21行)
「また、これとは別に焦点距離50mmのfθレンズを用いた場合、加工点密度の高い部分では亀裂が発生して、光源側に向かって成長するのが観察された。」
d.(第62ページ左欄第26〜29行)
「特に、内面の加工においては、表面のアブレーション加工と異なり、合成石英ガラスという透明材料に対して吸収のない波長に対して、多光子吸収という非線形光学現象が生じていると考えられる。」
上記摘記事項aないしdより、甲第1号証には、
「厚さが10mmの板状のマーキング対象物を準備する工程と、
前記マーキング対象物を形成する材料を透過する波長域のレーザ光を、fθレンズを用いて該マーキング対象物の内部に集光させることにより、該マーキング対象物の内部にマーキングを行う工程と
を有する、マーキング方法。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)
が記載されていると認められる。

4.2 対比・判断
4.2.1 本件発明1につき
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の間には次の一致点及び相違点が認められる。
<一致点>
「板状のマーキング対象物を準備する工程と、
前記マーキング対象物を形成する材料を透過する波長域のレーザ光を、fθレンズを用いて該マーキング対象物の内部に集光させることにより、該マーキング対象物の内部にマーキングを行う工程と
を有する、マーキング方法。」
<相違点1>
マーキング対象物の厚さが、前者では「2mm以下」であるのに対し、後者では「10mm」である点。
<相違点2>
マーキングを行う工程において、前者は「マーキング対象物を形成する材料の屈折率を考慮して、レーザ光の集光点が前記マーキング対象物の内部に位置するように、前記マーキング対象物の表面から前記レーザ光の集光点までの深さを制御する」という発明特定事項を有するのに対し、後者はこのような発明特定事項を有しない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点1>につき
甲第1号証記載の発明のマーキング方法に用いられる装置と、本件発明1ないし4のマーキング方法に用いられる装置との間に、構成上の差異は認められない。そうすると、甲第1号証記載の発明においても、厚さ2mm以下の対象物にマーキングを施すことは可能であるということができ、また、甲第1号証記載の発明を厚さ2mm以下の対象物のマーキングに適用することを阻害する要因も見当たらないから、対象物を厚さ2mm以下に限定することは、当業者にとって格別の創意を要するものではない。
また、マーキング対象物の厚さを2mm以下に限定することによって、甲第1号証記載の発明からは予測されない、格別の作用効果が生じるとも認められない。
よって、相違点1に係る発明を特定する事項を本件発明1ないし4のものとすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。

<相違点2>につき
材料の屈折率がnである場合に、表面から集光点までの見かけ上の深さに対し、実際の集光点までの深さがそのn倍となることは、技術常識であるから、甲第1号証記載の発明のようにレーザ光の集光点を位置させるものにおいて、集光点の深さを制御する際にマーキング対象物の屈折率を考慮することは、当業者にとって当然の配慮に過ぎない。
そして、屈折率を考慮することによる作用効果は、普通に予測される範囲を超えるものではない。
よって、相違点2に係る発明を特定する事項を本件発明1のものとすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。

さらに、相違点1及び相違点2に係る発明を特定する事項の組み合わせによる格別の作用効果も認めることができない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.2.2 本件発明2につき
本件発明2と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の間には4.2.1の<一致点>及び<相違点1>に加えて次の相違点が認められる。
<相違点3>
マーキングを行う工程において、前者は「マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみ前記レーザ光を集光させる」という発明特定事項を有するのに対し、後者はこのような発明特定事項を有しない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点1>については、4.2.1においてすでに検討したとおりである。
<相違点3>につき
甲第1号証には、表面を加工すると問題点が生じること(4.1摘記事項bを参照。)、及び、光学的損傷ないし光学的絶縁破壊を利用したマーキングにおいて、発生した亀裂が光源側に向かって成長すること(4.1摘記事項cを参照。)が記載されている。
上記の記載事項より、発生した亀裂が表面に到達しないように集光点の深さ位置を設定することの必要性は、当業者が容易に看取し得るものである。
発生した亀裂が表面に到達しないような集光点の位置は、実験等によって当業者が容易に見出すことができるものであり、その結果として「マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみレーザ光を集光させる」ことは、当業者が容易に採用し得る設計に過ぎない。
また、亀裂が集光点から光源側に向かって成長することを考慮すれば、集光点の表面からの位置を深めに選定することは、当業者が容易に想到し得るものであり、「マーキング対象物の厚さ方向の中心位置よりも深い位置にのみレーザ光を集光させる」ことは、集光点の位置を深めに選定するうえで、当業者が容易に採用し得る設計に過ぎない。
よって、相違点3に係る発明を特定する事項を本件発明2のものとすることは、当業者が容易になし得る。

さらに、相違点1及び相違点3に係る発明を特定する事項の組み合わせによる格別の作用効果も認めることができない。
したがって、本件発明2は、甲第1号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.2.3 本件発明3につき
本件発明3と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の間には4.2.1の<一致点>、<相違点1>及び<相違点2>に加えて次の相違点が認められる。
<相違点4>
マーキング対象物の厚さが、前者では「1mm以上」であるのに対し、後者ではこのような特定がなされていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点1>及び<相違点2>については、4.2.1においてすでに検討したとおりである。
<相違点4>につき
甲第1号証記載の発明のマーキング方法に用いられる装置と、本件発明1ないし4のマーキング方法に用いられる装置との間に、構成上の差異は認められない。そうすると、甲第1号証記載においても、厚さ2mm以下であって、しかも1mm以上の対象物にマーキングを施すことは可能であるということができ、また、甲第1号証記載の発明を1mm以上の対象物のマーキングに適用することを阻害する要因も見当たらないから、対象物を厚さ1mm以上のものに限定することは、当業者にとって格別の創意を要するものではない。
また、マーキング対象物の厚さの下限を1mmに限定することによって、甲第1号証記載の発明からは予測されない、格別の作用効果が生じるとも認められない。
よって、相違点4に係る発明を特定する事項を本件発明1ないし4のものとすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。

したがって、本件発明3は、甲第1号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.2.4 本件発明4につき
本件発明4と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者の間には4.2.1の<一致点>、<相違点1>及び<相違点3>に加えて次の相違点が認められる。
<相違点4>
マーキング対象物の厚さが、前者では「1mm以上」であるのに対し、後者ではこのような特定がなされていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<相違点1>、<相違点3>及び<相違点4>については、4.2.1、4.2.2及び4.2.3においてそれぞれすでに検討したとおりである。

したがって、本件発明4も、甲第1号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.特許法第17条の2第3項の規定違反について
請求人は、平成13年8月17日付手続補正書により補正された特許請求の範囲において、
a.請求項1及び2中の「厚さが2mm以下のマーキング対象物」、及び
b.請求項3及び4中の「マーキング対象物の厚さが1mm以下である」
との記載事項は、いずれも出願当初の明細書等に記載した事項ではないと主張している。
これに対し、被請求人は、出願当初の明細書の段落【0013】において、評価実験の結果、凸レンズを用いたマーキングについて、「厚さ1〜2mmのガラス基板にマーキングを行うと、基板内部のみならず、表面にもクラックが発生してしまうことが判明した。」との記載があり、「本発明により、評価実験で発生した問題点が解決されるのであるから、本発明において、厚さ1〜2mmのガラス基板を対象とすることに言及していると考えられる。」と主張している。

以下、上記主張について検討する。
本件の出願当初の明細書中、マーキング対象物の厚さに関しては、
a.(段落【0009】)「本発明の目的は、薄い透明基板へのマーキングに適したマーキング方法を提供することである。」、
b.(段落【0013】)「厚さ1〜2mmのガラス基板にマーキングを行うと、基板内部のみならず、表面にもクラックが発生してしまうことが判明した。」、
c.(段落【0017】)「透明ガラス基板1として、例えば厚さ10mmの合成石英基板を使用する。」、
d.(段落【0031】)「厚さ2mmのPMMA基板にマーキングを行ったところ、」、
との記載が認められる。
しかし、記載事項aは、「薄い透明基板」の厚さの具体的数値範囲を示すものではない。
また、記載事項bは、凸レンズを用いたマーキングの評価実験の結果について問題点を述べたものであるが、本件発明がこの問題点を解決するものであるとの明示的な記載は見当たらず、しかも、本件発明の実施例について述べたものである記載事項cにおいて、厚さが10mmとされていることから、本件発明が厚さ1〜2mmの対象物へのマーキングを目的とするものであると理解することはできない。
記載事項dも本件発明の実施例について述べたものであるが、ここで「厚さ2mm」がマーキング対象物の厚さの上限に当たることを示唆する記載は見当たらない。
以上のとおりであるから、本件の出願当初の明細書等に、マーキング対象物の厚さを「2mm以下」とすることも、「1mm以上」とすることも、記載されていたとすることはできない。
よって、上記手続補正は、本件の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさない。

6.まとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許がなされたものであり、本件の請求項1ないし4に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
また、本件特許の請求項1ないし4に係る発明の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさない補正をした特許出願についてなされたものであるから、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2005-08-01 
結審通知日 2005-08-04 
審決日 2005-08-17 
出願番号 特願平10-243439
審決分類 P 1 113・ 55- Z (B23K)
P 1 113・ 121- Z (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 神崎 孝之  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 豊原 邦雄
鈴木 孝幸
登録日 2001-09-14 
登録番号 特許第3231708号(P3231708)
発明の名称 透明材料のマーキング方法  
代理人 今城 俊夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 須田 洋之  
代理人 高橋 敬四郎  
代理人 西島 孝喜  
代理人 渡辺 光  
代理人 大塚 文昭  
代理人 来山 幹雄  
代理人 辻居 幸一  

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