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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01R
管理番号 1137018
審判番号 無効2005-80290  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-10-05 
確定日 2006-05-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第3417927号発明「プラグ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3417927号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3417927号の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1ないし3」という。)は、平成9年に特許出願した特願平9-143739号の一部を平成13年2月5日に新たな特許出願としたものであって、平成15年4月11日に特許権の設定登録がなされた。
これに対し、平成17年10月5日付けで、請求人 菊井 俊一(以下、「請求人」という。)により本件無効審判の請求がなされ、同年10月28日に、その請求書の副本を被請求人に送達し、期間を指定して答弁書の提出を求めたが、被請求人 SMK株式会社(以下、「被請求人」という。)からは、なんらの応答もなされていない。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件特許発明1ないし3についての特許を無効にする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その無効とする理由として、審判請求書において、概略、下記のように主張している。


本件特許発明1ないし3は、本件特許出願前に頒布された甲2ないし甲4の刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許されたものである。
したがって、本件特許発明1ないし3についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。
〈証拠方法〉
(1)甲1 特許第3417927号公報(本件特許掲載公報)
(2)甲2 実願平4一49482号(実開平6-5161号)のCD- ROM
(3)甲3 特開平2-30076号公報(刊行物2)
(4)甲4 特開平7-22131号公報(刊行物3)
(5)甲5 異議2002-71992(特許第3261448号)の異議 決定書(特許決定公報)

第3 当審の判断
1.本件特許発明
本件特許発明1ないし3は、設定登録時の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
円筒状先方突出部が設けられたハウジングと、
前記ハウジングの中央部分に固定されるピン状コネクタと、接触部を有し、前記ハウジングに固定される複数のコンタクトとからなり、前記接触部が前記先方突出部の内周面に周方向へ並列して配置されるプラグにおいて、
前記先方突出部の内周に極性ガイド部を形成することを特徴とするプラグ。
【請求項2】接触部は、板バネ状であることを特徴とする請求項1に記載のプラグ。
【請求項3】接触部は、前記先方突出部の内周面に周方向へ相互に並列して配置されることを特徴とする請求項1または2に記載のプラグ。」

2.各甲号証に記載された発明
請求人が提出した甲2ないし甲4の刊行物には、それぞれ次のような発明が記載されているものと認められる。
(1)甲2発明
甲2刊行物である実願平4一49482号(実開平6-5161号)のCD-ROMには、図面とともに次のように記載されている。
(a)「上記ターミナル3を、側面からみて第四絶縁カラーCに複数個円弧状に配設した請求項1記載の多極プラグ」(【実用新案登録請求の範囲】の請求項2)
(b)「本考案は主として音響機器等の弱電関係で使用する多極プラグに関する・・・(中略)・・・上記した従来技術にあっては4極プラグであり、利用範囲が狭く限られたものであった。本考案はこれらの点に鑑みなされたもので、その応用、利用範囲を広くすることを目的とし、現実には8極プラグにまですることが出来るようにするものである。」(段落【0001】〜【0003】)
(c)「1は多極プラグ体で、主としてプラグ本体2に、金属製のターミナル3を圧入した処の第四絶縁カラーCを圧入固着して構成してある。
前記したプラグ本体2は、導体としてのチップ4と第一リング5との間に位置付けした第一絶縁カラー6と、該第一リング5と第ニリング7との間に位置付けした第二絶縁カラー8と、該第二リング7とスリ一ブ9との間に位置付けした第三絶縁カラー10とから構成してあり、前記第一絶縁カラー6、第二絶縁カラー8、第三絶縁カラー10を同一の合成樹脂により注入固化してある。…(中略)…13はターミナル3を圧入嵌合するための第四絶縁カラーCに設けたスリット溝孔で本実施例では2個設けてあるが4個、6個と設けてもよい。14、15はターミナル3に形成した切起し片部である。」(段落【0005】〜【0006】)
(d)特に【図2】ないし【図5】を総合すれば、円筒状の第四絶縁カラーCには、プラグ本体2の先端側に向けて円筒状先方突出部が形成されているということができ、また、【図3】〜【図4】には、第四絶縁カラーCのスリット溝孔に圧入嵌合された2個のターミナル3が、上記円筒状先方突出部の内周面に周方向に並列して配置された態様が示されている。

そして、上記記載(c)において、プラグ本体2に第四絶縁カラーCを圧入固着することは、第四絶縁カラーCの中央部分にプラグ本体2が固定されることにほかならず、また、ターミナル3が対応するジャックの導体と接触する接触部を有することは、その機能からみて、明白である。
したがって、上記の記載及び図面を総合すると、甲2刊行物には、次のような発明(以下、甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「円筒状先方突出部が設けられた第四絶縁カラーCと、前記第四絶縁カラーCの中央部分に固定されるプラグ本体2と、接触部を有し、前記第四絶縁カラーCに固定される複数のターミナル3とからなり、前記接触部が前記先方突出部の内周面に周方向へ並列して配置される、多極プラグ。」

(2)甲3発明
同じく甲3刊行物である特開平2-30076号公報には、図面とともに次のように記載されている。
(a)「(産業上の利用分野)
この発明は・・・(中略)・・・表面取付けが行なわれる電気コネクタのための金属シールドに関する。」(第2頁右下欄第2〜8行目)
(b)「前記プラグ部分16は、軸方向のキー通路61を有し、このキー通路61は、前記ソケット18にある補完的なキー65を摺動可能に受容するためのものである。」(補1〜2の補正の内容(8)、(9)を反映した第5頁左下欄第7〜10行目)
(c)Fig.1及びFig.1Aには、ソケット18側の凸状のキー65に対応させて、プラグ部分16に、その外周面及び前面に開口した凹状に形成したキー通路61を設けた態様が示されている。
したがって、上記の記載及び図面を総合すると、甲3刊行物には、次のような発明(以下、甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「プラグ部分16に、凹状に形成した軸方向のキー通路61を設けた電気コネクタ。」

(3)甲4発明
甲4刊行物である特開平7-22131号公報には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【従来の技術】
従来、発光ダイオード、ランプ等の表示等用ソケットを、回路基板に接続・固定する場合、ソケット本体の挿入部の外周に挿入ガイド部を設けると共に、回路基板に挿入部を挿入可能な挿入孔を設け、挿入ガイド部を挿入孔に挿入し、それを回動させて組み付ける構造が、例えば実開平3-44886号公報で提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この種のランプソケットは、極性を有する部品が内蔵され、正しい極性で接続・固定する必要があるため、ソケット本体の外周に設けた挿入ガイド部が平面視で中心線に対し非対称に設けられ、回路基板上の挿入孔や導電部もそれに対応して非対称に形成される。」(【0002】〜【0003】)

したがって、以上の記載及び各図面を総合すると、甲4刊行物には、従来技術として、次のような発明(以下、甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
「挿入部の外周に挿入ガイド部を設けたソケット本体。」

3.本件特許発明と甲2発明との対比
(1)本件特許発明1と甲2発明との対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「第四絶縁カラーC」は、その機能や形状からみて本件特許発明1の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「プラグ本体2」は「ピン状コネクタ」に、「ターミナル3」は「コンタクト」に、そして、「多極プラグ」は「プラグ」にそれぞれ相当するから、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「円筒状先方突出部が設けられたハウジングと、
前記ハウジングの中央部分に固定されるピン状コネクタと、接触部を有し、前記ハウジングに固定される複数のコンタクトとからなり、前記接触部が前記先方突出部の内周面に周方向へ並列して配置されるプラグ。」
〈相違点1〉
本件特許発明1においては「先方突出部の内周に極性ガイド部を形成」しているのに対して、甲2発明においては、第四絶縁カラーCの円筒状先方突出部に、このような極性ガイド部が形成されているのか否か明確ではない点。

(2)本件特許発明2と甲2発明との対比
本件特許発明2と甲2発明とを対比すると、両者の一致点は、上記(1)で述べたとおりであり、相違点は、上記相違点1に加え、次のとおりである。
〈相違点2〉
本件特許発明2においては、接触部が「板バネ状」であるのに対して、甲2発明においては、接触部が板バネ状であるのか否か明確ではない点。

(3)本件特許発明3と甲2発明との対比
本件特許発明3と甲2発明とを対比すると、甲2発明においても、甲2刊行物の記載及び図面を総合すれば、ターミナル3の接触部は、円筒状先方突出部の内周面に相互に周方向へ並列して配置されているといえるから、両者の一致点は、上記(1)で述べたとおりであり、相違点は、前述のとおり、上記相違点1及び相違点2となる。

4.相違点について検討及び判断
(1)本件特許発明1について
相違点1について検討する。
甲2刊行物の上記第3、2.(b)には、甲2発明の多極プラグを音響機器等に使用することが示されており、このような多極プラグにおいては、相互に接続するジャックとの間で、複数の信号線からの各信号がそれぞれ正しく伝達されるように、双方の各端子の極性が一致するように接続しなければならないことは、当然の技術的課題というべきものである。
そして、甲3発明は、電気コネクタのプラグ部分に、凹状に形成した軸方向のキー通路61を設けるものであり、また、甲4発明は、ソケット本体の挿入部外周に挿入ガイド部を設けるものであって、このようなキー通路61や挿入ガイド部が、相互に接続する各端子の極性を一致させる極性ガイド部としての機能を奏することは、当業者からみて明白なことである。
してみると、甲2発明において、第四絶縁カラーCの円筒状先方突出部の内周面に配置されたターミナル3の接触部と、ジャックの外周面に配置された接触部との極性を一致させるという技術的課題を解決するため、甲3発明や甲4発明の極性ガイド部を適用し、ジャックの外周面に嵌入される第四絶縁カラーCの円筒状先方突出部の内周に極性ガイド部を形成し、本件特許発明1の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得ることというべきである。
本件特許発明1を全体構成でみても、甲2発明ないし甲4発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは解されない。
したがって、本件特許発明1は、甲2発明、及び甲3発明ないし甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件特許発明2について
相違点1については、上記(1)で既に検討したので、相違点2について検討する。
プラグの接続端子の接触部を銅合金等の「板バネ状」に形成することは、例を挙げるまでもなく、本件出願より広く採用されており、甲4刊行物にも、段落【0013】に、ジャック側のコンタクトの接触部を板ばね状に形成することが示されているから、甲2刊行物において、多極プラグにおけるターミナル3の接触部についても「板バネ状」に形成することは、単なる設計的事項にすぎないものというべきである。
してみると、本件特許発明2の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。
本件特許発明2を全体構成でみても、甲2発明ないし甲4発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは解されない。
したがって、本件特許発明2は、甲2発明、及び甲第3発明ないし甲第4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明3について
上記(1)、(2)で検討したとおり、本件特許発明3の相違点1及び2に係る構成は、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、本件特許発明3は、甲2発明及び甲3発明ないし甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし3は、その特許出願前に当業者が日本国内に頒布された刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1ないし3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-23 
結審通知日 2006-03-27 
審決日 2006-04-14 
出願番号 特願2001-28305(P2001-28305)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 稲垣 浩司  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 下原 浩嗣
北川 清伸
登録日 2003-04-11 
登録番号 特許第3417927号(P3417927)
発明の名称 プラグ  

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