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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1137163
審判番号 不服2005-6904  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-18 
確定日 2006-05-25 
事件の表示 平成 7年特許願第514429号「重合用触媒系、その製造方法及び使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 5月26日国際公開、WO95/14044、平成 9年 5月27日国内公表、特表平 9-505340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続きの経緯
本願は、1994年9月9日(パリ条約による優先権主張1993年11月19日、米国)を国際出願日とする出願であって、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとの理由(平成16年6月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由2(一))によって、平成17年1月11日付け(平成17年1月18日発送)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年4月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成17年5月17日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2.平成17年5月17日付け手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年5月17日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成17年5月17日付けの手続補正書による補正により、特許請求の範囲は
「【請求項1】(i) 第一の担体及び
(a)周期表の4族からの遷移金属を有し、シクロペンタジエニル配位子、及び単核もしくは多核であることができるシクロペンタジエン由来配位子から選ばれる嵩高な配位子を有する嵩高なモノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物であり、前記遷移金属がヘテロ原子に結合されており、前記遷移金属がモノシクロペンダジエニル配位子に結合されており、及び前記遷移金属が少なくとも1つの脱離基に結合されており、ここでヘテロ原子は配位数3を有する周期表15族からの原子または配位数2を有する周期表16族の原子である、前記モノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物及び
(b)カチオンと非配位アニオンを含有するイオン活性剤
を配合することにより生成される、第一の担体上に担持されたイオン触媒を含有する第一成分並びに
(ii)(a) 第二の担体及び
(b)第二の担体に担持された、1族、2族、3族又は4族の有機金属アルキル、有機金属アルコキシド又は有機金属ハライドを含む有機金属化合物を含有する第二成分を含有するオレフィン重合用触媒系。
【請求項2】第一の担体が、ルイス塩基として作用する表面吸収基を本質的に有しない、請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
有機金属化合物が、アルキルアルミニウム、アルキルマグネシウム、アルキルハロゲン化マグネシウム、アルキルリチウム、アルキル珪素、珪素アルコキシド又はアルキルハロゲン化珪素である、請求項1または2のいずれか1請求項に記載の触媒系。
【請求項4】請求項1乃至3のいずれか1請求項に記載の触媒系の存在下での重合を含む、反応器においてオレフィンを単独で又は1つ以上の他のα-オレフィンと組み合わせて重合する方法。」と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「(a)周期表の4族、5族又は6族からの遷移金属」を「(a)周期表の4族の遷移金属」に、「ヘテロ原子」を「ヘテロ原子は配位数3を有する周期表15族からの原子または配位数2を有する周期表16族の原子」に限定し、さらに請求項3を削除するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.独立特許要件違反について
そこで、上記補正後の上記請求項1〜4に記載された発明のうち、請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。
(1)引用文献の記載
引用文献1:国際公開第93/14132号パンフレット(1993.7.22,原審の拒絶理由通知書で引用された文献1)
1-ア.「6.a)式:CpMYXnR〔式中Mはη5結合モードでCpと結合している酸化状態が+3または+4の元素周期律表第4族の金属であり:nはMの酸化状態に依存して0または1であり:Rはハイドライド又はC1-20ヒドロカルビルであり:Cpは少なくとも2価のR”で共有結合で置換されたシクロペンタジエニル、インデニル、テトラヒドロインデニル、フルオレニルまたオクタヒドロフルオレニル基であり、該2価のR”は1から50の原子を有し且つYと共有結合しており、さらにCpは20以下の非水素原子を持つ1-4個のアルキル、ハロゲン、アリール、ハロアルキル、アルコキシ、アリールオキシまたはシリル基で置換されていてよく:Yは式:-NR-,-PR-,-O-,または-S-(式中RはC1-20ヒドロカルビルである)の群から選ばれる2価の置換基であり、そしてYはR”、Cp及びMと合してメタロ環を形成し:Xは、存在する場合、ハイドライド、ハロ、アルキル、アリール、シリル、ゲルミル、アリールオキシ、アルコキシ、アミド、シロキシ、及びホスフィン基、及びこれらの組合わせからなる群から選ばれる1価の置換基であり、該基またはこれらの組合わせは20以下の非水素原子を有する〕の有機金属錯体、
b)有機金属錯体a)を式:CpMYXn+A-〔式中のCp,M,Y,X及びnは上記定義の通りであり:A-は活性化合物またはB′と錯体a)から抽出されるRとの結合によって生ずる陰イオンであるかまたはA-は錯体B′の対イオンである〕の陽イオン錯体へ変換する能力のある活性化合物または錯体B′、及び
c)アルモキサンからなり、成分b):a)のモル比が0.1:1から50:1、そして成分c):a)のモル比が1:1から10,000:1である、反応生成物からなる触媒組成物。
・・・
9.陽イオン錯体が式:

・・・である陽イオン錯体。」(請求の範囲)
1-イ.「成分b)として有用な活性化合物B′は成分a)からR置換基を抽出して不活性な非配位性の対イオンを形成できる化合物である。好ましい活性化合物はトリス(パーフルオロフェニル)ホウ素である。この化合物は陰イオン種A’-すなわちRB(C6F5)3-〔式中のRはハイドライドまたはC1-20ヒドロカルビルである〕を形成する。
成分b)として有用な錯体の例にはブロンステッド酸及び非配位性で互換性の陰イオンとの塩がある。特に非配位性で互換性の陰イオンは荷電した金属またはメタロイドの核からなる単一配位錯体からなっているものが好ましく、この陰イオンはかさ高で非求核性である。ここで「メタロイド」とはホウ素、リン、その他の半金属様の性質を有する非金属である。・・・。成分b)として有用な好ましい錯体はテトラキス(パーフルオロフェニル)ボレートのフェロセニウム塩または銀塩である。これらの成分は陰イオン種、B(C6F5)4-を形成する。」(第4頁17行〜末行)
1-ウ.「R”はC1-4ジアルキルシランジイル、特にはジメチルシランジイルであり」(第6頁13行)
1-エ.「実施例1-3
触媒製造
重量を計つた有機金属錯体(t-ブチルアミド)ジメチル(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)シランチタニウムジメチル(Me4C5-Me2Si-N-t-Bu)Ti(CH3)2をトルエンに溶解して清澄な0.005M溶液を得た。・・・混合アルカン溶液・・・、2.0mlのTi試薬溶液及び2.0mlの0.010Mトリス(パーフルオロフェニル)ホウ素のトルエン溶液を入れて総量10mlの陽イオン錯体溶液を製造した。・・・
重合
・・・オートクレーブ反応器に異なる量のメチルアルモキサン(MAO)溶液を・・・を満たした。反応器は全圧力を450MPa (450psig)にするに十分なエチレンを満たした。触媒製造の項で述べた陽イオンを反応器に投入した。」(第7頁19行〜第8頁1行)

引用文献2:特開平5-279418号公報(原審の拒絶理由通知書で引用された文献2)
2-ア.「【請求項1】 (A)チタン化合物、(B)遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成する化合物及び(C)有機アルミニウム化合物を主成分とする触媒を用いてオレフィンを重合させることを特徴とするポリオレフィンの製造方法。
【請求項2】 (A)成分が、一般式
TiR1aR2bR3cR4d
(式中のR1a、R2b、R3c及びR4dはそれぞれσ結合性の配位子、キレート性の配位子又はルイス塩基であり、それらはたがいに同一のものであってもよいし、異なるものであってもよく、a、b、c及びdはそれぞれ0又は1〜4の整数である)で表わされるチタン化合物である請求項1記載のポリオレフィンの製造方法。」(特許請求の範囲)
2-イ.「本発明方法において(A)触媒成分として用いられるチタン化合物としては、一般式
CpTiR1aR2bR3c (I)
・・・で示される化合物やその誘導体が好適である。
前記一般式(I)〜(IV)において、Cpはシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、テトラヒドロインデニル基、置換テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基又は置換フルオレニル基などの環状不飽和炭化水素基又は鎖状不飽和炭化水素基を示す。R1、R2、R3及びR4はそれぞれσ結合性の配位子、キレート性の配位子、ルイス塩基などの配位子を示し、σ結合性の配位子としては、具体的に水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基、炭素数1〜20のアシルオキシ基、アリル基、置換アリル基、ケイ素原子を含む置換基などを例示でき、またキレート性の配位子としてはアセチルアセトナート基、置換アセチルアセトナート基などを例示できる。Aは共有結合による架橋を示す。a、b、c及びdはそれぞれ0又は1〜4の整数。eは0又は1〜6の整数を示す。R1、R2、R3及びR4はその2以上がたがいに結合して環を形成してもよい。」(段落【0008】〜【0009】)
2-ウ.「本発明方法において、(C)成分として用いられる有機アルミニウム化合物としては、一般式
R12rAlQ3-r (VIII)
(式中のR12は炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基などの炭化水素基、Qは水素原子、炭素数1〜20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、rは1〜3の数である)で表わされる化合物、一般式
・・・で表わされる鎖状アルミノキサン、及び一般式・・・
で表わされる環状アルキルアミノキサンを挙げることができる。」(段落)【0027】〜【0028】)

引用文献3:特開平4-249504号公報(原審の拒絶理由通知書で引用された文献3)
3-ア.「【請求項1】(A)金属-水素結合,金属-炭素σ結合及び金属-ケイ素σ結合のいずれをも含まない遷移金属化合物,(B)カチオンと複数の基が金属に結合したアニオンとからなる配位錯化合物及び(C)アルキル基含有化合物からなることを特徴とする触媒。
【請求項2】(A)成分における遷移金属がTi,Zr又はHfである請求項1記載の触媒。」(特許請求の範囲)
3-イ.「このような(A)成分としての遷移金属化合物は、例えば、一般式(I)
M1 R1 R2 R3 R4 ・・・(I)
(ここで、M1は遷移金属を示し、R1,R2,R3,R4はそれぞれアルコキシ基,アリール基,アリーロキシ基,ハロゲン,チオール基,アリールチオ基,アミノ基,アルキルアミノ基,アセチルアセトナート基,キレート化剤,あるいはシクロペンタジエニル基,置換シクロペンタジエニル基,インデニル基,フルオレニル基等の共役π電子系配位子を示す。)で表わされるものが挙げられる。」(段落【0009】)
3-ウ.「本発明の触媒は、さらに(C)成分としてアルキル基含有化合物を含有する。ここで、アルキル基含有化合物は様々なものがあるが、例えば、一般式(IV)
R8 Al(OR9) X3-m-n ・・・(IV)
(式中、R8およびR9はそれぞれ炭素数1〜8、好ましくは1〜4のアルキル基を示し、Xは水素あるいはハロゲンを示す。また、mは0<m≦3、好ましくは2あるいは3、最も好ましくは3であり、nは0≦m<3、好ましくは0あるいは1である。)で表わされるアルキル基含有アルミニウム化合物・・・が挙げられる。これらのアルキル基含有化合物のうち、アルキル基含有アルミニウム化合物、とりわけトリアルキルアルミニウムやジアルキルアルミニウム化合物が好ましい。」(段落【0011】)
3-エ.「【0012】本発明の触媒は、上記(A),(B)および(C)成分を主成分として含有するものであるが、この触媒を調製するには様々な手法が適用できる。例えば、(1)(注:原文では○の中に数字の1)(A)成分と(B)成分との反応物に(C)成分を加えて触媒とし、これに重合すべきモノマーを接触させる方法・・・等がある。また、(A)成分と(B)成分との反応物は、予め単離精製したものを用いることもできる。」(段落【0012】)

引用文献4:国際公開第92/05203号パンフレット(原審の拒絶理由通知書で引用された文献4)
4-ア.「1.(A)不活性な支持体、
(B)式

・・・で表される遷移金属化合物及び
(C)アルモキサン
を含む触媒系。」(特許請求の範囲)

引用文献5:特開平3-234709号公報(原審の拒絶理由通知書で引用された文献5)
5-ア.「1)[A]微粒子状担体と
[B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属化合物と
から形成されていることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」(特許請求の範囲)

引用文献6:特開平5-148316号公報(原審の拒絶理由通知書で引用された文献6)
6-ア.「【請求項1】(A)
(a)少なくとも一つのシクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基、またはそれらの誘導体からなる架橋または非架橋性配位子を有する周期律表4a〜6a族の遷移金属化合物
(b)有機アルミニウム化合物で処理が施された微粒子状無機酸化物担体から形成される固体触媒成分、および
(B)
(c)遷移金属カチオンを安定化することのできる化合物
(d)微粒子状担体
から形成される固体助触媒成分
からなるポリオレフィン製造用固体触媒。」(特許請求の範囲)

(2)本願補正発明1と引用文献1に記載された発明との対比
引用文献1には、
「a)式:CpMYXnR〔式中Mはη5結合モードでCpと結合している酸化状態が+3または+4の元素周期律表第4族の金属であり:nはMの酸化状態に依存して0または1であり:Rはハイドライド又はC1-20ヒドロカルビルであり:Cpは少なくとも2価のR”で共有結合で置換されたシクロペンタジエニル、インデニル、テトラヒドロインデニル、フルオレニルまたオクタヒドロフルオレニル基であり、該2価のR”は1から50の原子を有し且つYと共有結合しており、さらにCpは20以下の非水素原子を持つ1-4個のアルキル、ハロゲン、アリール、ハロアルキル、アルコキシ、アリールオキシまたはシリル基で置換されていてよく:Yは式:-NR-,-PR-,-O-,または-S-(式中RはC1-20ヒドロカルビルである)の群から選ばれる2価の置換基であり、そしてYはR”、Cp及びMと合してメタロ環を形成し:Xは、存在する場合、ハイドライド、ハロ、アルキル、アリール、シリル、ゲルミル、アリールオキシ、アルコキシ、アミド、シロキシ、及びホスフィン基、及びこれらの組合わせからなる群から選ばれる1価の置換基であり、該基またはこれらの組合わせは20以下の非水素原子を有する〕の有機金属錯体、
b)有機金属錯体a)を式:CpMYXn+A-〔式中のCp,M,Y,X及びnは上記定義の通りであり:A-は活性化合物またはB′と錯体a)から抽出されるRとの結合によって生ずる陰イオンであるかまたはA-は錯体B′の対イオンである〕の陽イオン錯体へ変換する能力のある活性化合物または錯体B′、及び
c)アルモキサンからなり、成分b):a)のモル比が0.1:1から50:1、そして成分c):a)のモル比が1:1から10,000:1である、反応生成物からなる触媒組成物。」(1-ア、請求項6)が記載されている。(以下、「引用文献1発明」という。)

そこで、本願補正発明1と引用文献1発明とを対比する。
引用文献1発明の成分a)式CpMYXnRの有機金属錯体において、Cpは「少なくとも2価のR”で共有結合で置換されたシクロペンタジエニル」であるが、ここでR”はC1-4ジアルキルシランジイル(1-ウ)等の基であり、本願補正発明1における任意に有することのできる架橋基(本願明細書9頁)に相当するものである。したがって、引用文献1発明の「少なくとも2価のR”で共有結合で置換されたシクロペンタジエニル」は本願補正発明1の「シクロペンタジエニル配位子及び単核もしくは多核であることができるシクロペンタジエン由来配位子」に相当する。同Yは「-NR-,-PR-,-O-,または-S-であり、配位数3を有する周期表15族からの原子または配位数2を有する周期表16族の原子」であるから、本願補正発明1のヘテロ原子に相当し、Xの「ハイドライド」は、本願補正発明1の脱離基として例示されている水素化物基(明細書19頁)に相当する。また、遷移金属MはY、X、Cpにそれぞれ結合されている。(1-ア、請求項9)
したがって、成分a)式CpMYXnRの有機金属錯体は、本願補正発明1の「シクロペンタジエニル配位子及び単核もしくは多核であることができるシクロペンタジエン由来配位子から選ばれる嵩高な配位子を有する嵩高なモノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物モノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物」(以下「遷移金属配位子化合物」という。)に相当する。
また、成分b)は「成分b)として有用な錯体の例にはブロンステッド酸及び非配位性で互換性の陰イオンとの塩がある。特に非配位性で互換性の陰イオンは荷電した金属またはメタロイドの核からなる単一配位錯体からなっているものが好ましく、この陰イオンはかさ高で非求核性である。」(1-イ)ものであるから、本願補正発明1の「カチオンと非配位アニオンを含有するイオン活性剤」(以下「イオン活性剤」という。)に相当する。
そして、成分a)と成分b)は、式:CpMYXn+ A-の陽イオン錯体を形成するものであり、触媒の調整に際して該陽イオン錯体を形成し、これと成分c)を用いて重合反応を行っている(1-エ)から、結局、引用文献1発明は「該陽イオン錯体と成分c)からなる触媒系」といえるものであり、該陽イオン錯体は本願補正発明1の「イオン触媒」に相当する。
さらに、成分c)アルモキサンは本願補正発明1の「1族、2族、3族又は4族の有機金属アルキル、有機金属アルコキシド又は有機金属ハライドを含む有機金属化合物」(以下「有機金属化合物」という。)として例示されている(明細書25頁)物であるから、本願補正発明1の「有機金属化合物」に相当する。

なお、引用文献2に記載された発明の「(A)チタン化合物に包含される一般式(I)CpTiR1aR2bR3cで示される化合物」(2-イ)は本願補正発明1の「遷移金属配位子化合物」に相当し、「(B)遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成する化合物」(2-ア)は本願補正発明1の「イオン活性剤」に相当し、(A)と(B)は反応してイオン錯体を形成するものであり(2-ア)、該イオン錯体は本願補正発明1の「イオン触媒」に相当する。また、「(C)有機アルミニウム化合物」(2-ア、2-ウ)は本願補正発明1の「有機金属化合物」に相当する。
さらに、引用文献3に記載された発明の「(A)金属-水素結合,金属-炭素σ結合及び金属-ケイ素σ結合のいずれをも含まない遷移金属化合物」(3-ア、3-イ)は本願補正発明1の「遷移金属配位子化合物」に相当し、「(B)カチオンと複数の基が金属に結合したアニオンとからなる配位錯化合物」(3-ア)は本願補正発明1の「イオン活性剤」に相当し、(A)と(B)との反応物(3-エ)は本願補正発明1の「イオン触媒」に相当する。また、「C)アルキル基含有化合物」(3-ア、3-ウ)は本願補正発明1の「有機金属化合物」に相当する。
したがって、本願補正発明1の「遷移金属配位子化合物とイオン活性剤が反応して生成されるイオン触媒」と「有機金属化合物」とからなる触媒系は、周知の触媒系といえる。

そうすると、本願補正発明1と引用文献1発明とは、以下の一致点、相違点を有している。

〔一致点〕
「(i)(a)遷移金属配位子化合物及び
(b)イオン活性剤
を配合することにより生成されるイオン触媒を含有する第一成分並びに
(ii)(b)有機金属化合物を含有する第二成分を含有するオレフィン重合用触媒系。」

〔相違点〕
本願補正発明1ではイオン触媒及び有機金属化合物が各々第一の担体、第二の担体に担持されているのに対し、引用文献1発明では担体に担持されていない点。

(3)〔相違点〕に対する判断
シクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物を触媒成分とするオレフィン重合用触媒において、触媒成分を担体に担持して用いることは引用文献4ないし6に記載されているように通常行われている事柄である。
そして、その際に各触媒成分を異なる担体に担持して用いることも引用文献6(6-ア)に記載されている。
そうであれば、引用文献1発明のイオン触媒と有機金属化合物とからなる触媒系において、当該触媒を担体に担持して用いることは当業者が適宜行う事項であり、その際に両者を一つの担体に担持させるか、二つの担体に別々に担持させるかは、その反応性、使用勝手等を考慮して適宜選択し得る事項にすぎず、格別これを妨げる事情も見受けられない。
そして、その効果についてみても、引用文献1に記載された触媒系を用いることから予測される範囲のものにすぎない。
審判請求人は、平成16年10月29日付けの意見書において、「比較例1乃至3の触媒系と比較すると実施例A及びBの触媒系は、ポリマーの収量において有意な増大を有することが示されている。」と主張している。
しかしながら、本願明細書には、イオン触媒と有機金属化合物を第一の担体と第二の担体に担持させて用いることの技術的な意義は明確には記載されていないし、比較例1〜3は、触媒担持形式の差異のみならず、触媒成分にも差異があり、実施例A及びBとの収量の差異が、二つの担体に担持したことに起因するものと直ちに認めることはできない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願補正発明1は、引用文献1乃至6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、平成17年5月17日付けの手続補正書による補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読みかえて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3.本件審判請求について
1.本願発明
平成17年5月17日付けの手続補正書による補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1乃至5に係る発明は、平成16年10月29日付けの手続補正書により補正された請求項1乃至5に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】(i) 第一の担体及び
(a)周期表の4族、5族又は6族からの遷移金属を有し、シクロペンタジエニル配位子、及び単核もしくは多核であることができるシクロペンタジエン由来配位子から選ばれる嵩高な配位子を有する嵩高なモノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物であり、前記遷移金属がヘテロ原子に結合されており、前記遷移金属がモノシクロペンダジエニル配位子に結合されており、及び前記遷移金属が少なくとも1つの脱離基に結合されている、前記モノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物及び
(b)カチオンと非配位アニオンを含有するイオン活性剤
を配合することにより生成される、第一の担体上に担持されたイオン触媒を含有する第一成分並びに
(ii)(a) 第二の担体及び
(b)第二の担体に担持された、1族、2族、3族又は4族の有機金属アルキル、有機金属アルコキシド又は有機金属ハライドを含む有機金属化合物を含有する第二成分
を含有する触媒系。
【請求項2】
第一の担体が、ルイス塩基として作用する表面吸収基を本質的に有しない、請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
第一の担体が、吸収水又は吸着水を含むシリカである、請求項1に記載の触媒系
【請求項4】
有機金属化合物が、アルキルアルミニウム、アルキルマグネシウム、アルキルハロゲン化マグネシウム、アルキルリチウム、アルキル珪素、珪素アルコキシド又はアルキルハロゲン化珪素である、請求項1または3のいずれか1請求項に記載の触媒系。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1請求項に記載の触媒系の存在下での重合を含む、反応器においてオレフィンを単独で又は1つ以上の他のα-オレフィンと組み合わせて重合する方法。」

2.原査定の拒絶の理由の概略
原査定の拒絶の理由(平成16年6月28日付け拒絶理由通知書の理由2(一))の概略は以下のとおりである。
「オレフィン重合用触媒の技術分野では、触媒成分である遷移金属化合物の金属種によって、触媒作用が大きく影響を受けることが知られている。したがって、ある種の遷移金属触媒と金属種のみが異なる他の触媒が、同等の触媒作用を有することは理論的に保証されていない。
このため、当該分野において、触媒成分の金属種に複数の選択肢がある場合に、明細書の記載が実施可能要件を満たすためには、従来技術においてこれらの金属が同等の作用効果を示すことが実験において確認されているか、またはこれらの金属が同等の作用効果を有することが理解できる程度に、充分な実施例が明細書中に記載されている必要がある。
本願発明の場合、触媒成分として「嵩高なモノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物」が使用されると定義されているが、発明の詳細な説明で使用例が挙げられているのはチタン化合物のみである。
先述の一般知識からみて、遷移金属化合物としてチタン及びこれと同族の周期表第4族遷移金属化合物を用いる場合には、上記使用例と同様の触媒作用が期待されるものの、これら以外の場合についてまで同様の触媒作用を予測することができない。
このため、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施をすることができる程度に発明の構成が記載されていない。」

3.当審の判断
特許請求の範囲の請求項1乃至5に係る発明は、「(a)周期表の4族、5族又は6族からの遷移金属を有し、シクロペンタジエニル配位子、及び単核もしくは多核であることができるシクロペンタジエン由来配位子から選ばれる嵩高な配位子を有する嵩高なモノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物であり、前記遷移金属がヘテロ原子に結合されており、前記遷移金属がモノシクロペンダジエニル配位子に結合されており、及び前記遷移金属が少なくとも1つの脱離基に結合されている、前記モノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物」を、その構成要件とするものであり、そこに包含される範囲すべてについて当業者が容易に実施できることが必要である。
そして、(a)で表されるモノシクロペンタジエニル遷移金属配位子化合物は、周期表の4族、5族又は6族からの遷移金属を有するものであるが、当該遷移金属として発明の詳細な説明に具体的に記載されているのは、明細書第9頁の「Mは、4族遷移金属であり、」との記載、同第14頁の表1のMの欄におけるジルコニウム、チタン、ハフニウムの記載、及び、実施例A並びにBにおける「Me2Si(C5Me4)(NC12H23)TiMe2+[DMAH]((Bpfp)4]」との記載のみであるから、具体的に開示されているのは周期表の4族の遷移金属のみである。
そして、一般に、その触媒がその作用を発揮するのは、触媒が反応物と適当な強さで結合し、それを活性化する働きをすることによるものであり、金属錯塩触媒においてはその金属イオンの種類が大きく影響することは化学常識ともいえる事柄である。(「化学増刊12 触媒の化学と工学」1963年7月25日 化学同人発行 p.45〜63、小松公栄・小野進・今泉文武 共著「メタロセン触媒でつくる新ポリマー 」株式会社 工業調査会 1999年4月20日発行 p.40、41、78 参照)
そして、本願請求項1乃至5に係る発明の触媒系は、メタロセン触媒に包含されるものであって、オレフィン重合用に用いられるものであるところ(明細書第1頁、5頁)、メタロセン触媒においては、遷移金属として4族の遷移金属を用いることにより触媒活性が得られることは周知の事項である(上記引用文献1乃至6においても実施例として具体的に開示されているのは4族の遷移金属である。)。
しかしながら、メタロセン触媒において5族、6族の遷移金属が4族の遷移金属と同様かつ同程度の触媒活性を有することまでが一般的に良く知られている事項とはいえない。
上記化学常識及びメタロセン触媒における周知事項を鑑みるに、本願請求項1乃至5に係る発明における5族、6族の遷移金属を用いた触媒系について当業者が容易に実施するためには、5族、6族の遷移金属を用いた触媒系について実施例等の具体的裏付けとなる記載が必要であるところ、上記のように発明の詳細な説明には、そのような裏付けとなる記載を欠いており、当業者が容易に実施することができない。
したがって、発明の詳細な説明には請求項1乃至5に係る発明の範囲全体について当業者が容易に実施できる程度に発明の構成及び効果が記載されているとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないものであるから、本願は特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-28 
結審通知日 2005-12-06 
審決日 2006-01-04 
出願番号 特願平7-514429
審決分類 P 1 8・ 531- Z (C08F)
P 1 8・ 575- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 石井 あき子
船岡 嘉彦
発明の名称 重合用触媒系、その製造方法及び使用  
代理人 山崎 行造  

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