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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1137169
審判番号 不服2003-12654  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-03 
確定日 2006-05-26 
事件の表示 特願2000- 75345号「医療用牽引装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月25日出願公開、特開2001-258920号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年3月17日の出願であって、平成15年6月10日付けで、拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年7月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日に手続補正がなされ、その後、平成17年10月7日付けで審尋をしたのに対し平成17年10月24日に回答書が提出されたものである。

第2.平成15年7月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年7月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「牽引用ロープの基端を係止して同ロープを巻き取るドラムと、同ドラムを内部に回転可能に支持するケーシングと、同ドラムを上記ロープの巻き取り方向に付勢するスプリングと、上記ケーシングのロープ出入口から繰り出される上記ロープの先端に設けられ同ロープ出入口内へのロープ先端の引込みを阻止しうるロープ連結部とをそなえ、上記ドラムと一体に且つ同心的に回転可能に設けられた歯車と、同歯車に噛み合う減速用の小歯車を有して上記ケーシング内に装着された回転式ダンパーとが設けられており、上記ケーシングのロープ出入口の近傍に、上記ロープを案内するローラと、同ローラに上記ロープを弾性的に押圧する押圧片とが設けられたことを特徴とする、医療用牽引装置。」(下線は補正箇所を示す。)

2.補正の目的、補正の適否について
上記補正は、平成14年6月12日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲(以下、「拒絶査定時の特許請求の範囲」という。)の請求項1に記載された「上記のロープとロープ連結部との間に、同ロープの張力を表示する張力計が介装されている」という事項を削除し、張力計に関する事項ではなく、「上記ケーシングのロープ出入口の近傍に、上記ロープを案内するローラと、同ローラに上記ロープを弾性的に押圧する押圧片とが設けられた」という事項を加えたものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではない。
また、誤記の訂正あるいは明りょうでない記載の釈明を目的としたものでもない。
よって、上記補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合しないので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する、同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成15年7月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は(以下、「本願発明」という。)は、平成14年6月12日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「牽引用ロープの基端を係止して同ロープを巻き取るドラムと、同ドラムを内部に回転可能に支持するケーシングと、同ドラムを上記ロープの巻き取り方向に付勢するスプリングと、上記ケーシングのロープ出入口から繰り出される上記ロープの先端に設けられ同ロープ出入口内へのロープ先端の引込みを阻止しうるロープ連結部とをそなえ、上記ドラムと一体に且つ同心的に回転可能に設けられた歯車と、同歯車に噛み合う減速用の小歯車を有して上記ケーシング内に装着された回転式ダンパーとが設けられており、上記のロープとロープ連結部との間に、同ロープの張力を表示する張力計が介装されていることを特徴とする、医療用牽引装置。」

2.引用例に記載された発明
2-1.引用例1
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-262544号公報には、「スプリングバランサ」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。
ア.「【請求項1】 バランサケースと、該バランサケースに内蔵されかつ工具吊り下げワイヤが巻き付けられる回転自在なドラムと、前記バランサケースに内蔵されかつ前記ドラムをワイヤ巻戻し方向に弾発付勢する渦巻きスプリングと、前記ドラムに一方向クラッチを介してワイヤ巻戻し方向に回転抵抗を付加するための回転抵抗付加機構とを備えたスプリングバランサ。 ……(中略)……
【請求項3】 請求項1において、前記回転抵抗付加機構が、前記一方向クラッチの従動側回転体に摺接して回転抵抗を付加する押当部材から構成されているスプリングバランサ。」(【特許請求の範囲】)
イ.「【産業上の利用分野】本発明は、製品組み立てライン等において、作業用機器や工具(以下、単に工具という)を吊り下げるために使用されるスプリングバランサに関する。
【従来の技術】一般に、スプリングバランサはバランサケースに、工具の吊り下げワイヤが巻き付けられる回転自在なドラムと、ドラムをワイヤ巻戻し方向に弾発付勢する渦巻きスプリングとを内蔵して構成されている。そして、工具を引っ張りワイヤを引出して使用し、使用後は工具を離せば渦巻きスプリングによりドラムがワイヤ巻戻し方向に回転されてワイヤが巻戻され、工具が初期位置に復帰される。ところで、使用後のワイヤの巻戻し速度が急速すぎると、工具の離し方によっては工具が揺れて他の工具に衝突したり身体に当たるおそれがある。そのため、このような問題を解決するために、ワイヤが緩慢な速度で巻戻されるようにしたスプリングバランサが提案されており、」(段落【0001】【0002】)
ウ. 「【発明が解決しようとする課題】ところが、上記公報記載のスプリングバランサの場合、ワイヤに直接制動を掛ける方式であって、ワイヤが常にピンチローラにより強く挟持されていることから、ワイヤが早期に磨耗するという点に問題があった。
そこで本発明は、上述の問題に鑑み、ワイヤに制動を掛けることなく該ワイヤの巻戻し速度を緩慢化し得るスプリングバランサを提供することを、解決すべき技術的課題とする。」(段落【0004】【0005】)
エ.「【作用】上述のように構成された請求項1の発明に係るスプリングバランサにおいては、ワイヤの引出し時には、一方向クラッチが空転して回転抵抗付加機構が働かない。そのため、ドラムには回転抵抗が付加されず、ワイヤの引出しが軽快に行われる。一方、渦巻きスプリングによるワイヤの巻戻し時には、一方向クラッチが作動して回転抵抗付加機構が働くため、ドラムに回転抵抗が付加され、該ドラムは緩速で回転される。従って、ワイヤの巻戻し速度が緩慢化される。 ……(中略)……
請求項3の発明に係るスプリングバランサにおいては、ドラムの回転抵抗付加機構が一方向クラッチの従動側回転体に摺接する押当部材から構成されており、ワイヤ巻戻し時には従動側回転体に摺接する押当部材の摩擦抵抗によりドラムに回転抵抗が付加される。従って、この場合は押当部材の摩擦抵抗を調整することでドラムに所望の回転抵抗を付加することができる。」(段落【0007】【0009】)
オ.「【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。図1は本実施例に係るスプリングバランサの縦断面図であり、一方向クラッチ及び回転抵抗付加機構としてのギヤユニットは外形で示されている。また、図2はスプリングバランサの一部を破断して示す背面図である。図示のように、外部にハンガー1を備えた略碗形のバランサケース2内には、外周に工具吊り下げ用のワイヤ4が巻き付けられたドラム5が収容され、該ドラム5はバランサケース2の中心部を貫通する支持軸6により回転自在に支持されている。ワイヤ4はバランサケース2の窓2aを通して引き出され、その先端部に工具吊り下げ用のフック7及び巻戻し時におけるストロークエンドでの衝撃緩和用としてのストッパゴム8を備えている。
ドラム5にはスプリング収納空間が形成され、ここに配置された渦巻きスプリング9は一端がドラム5に、他端が支持軸6にそれぞれ掛止され、ドラム5をワイヤ巻戻し方向に弾発付勢している。」(段落【0012】【0013】)
カ.「次に、本発明の他の実施例を図7及び図8に基づいて説明する。この実施例は回転抵抗付加機構に関する変更例であって、一方向クラッチ12の従動側回転体の外周に押付けられる押当部材の摩擦によりドラム5に回転抵抗を付加する構成としたものである。すなわち、一方向クラッチ12の従動側回転体である外輪13には大径の摩擦円板35が設けられ、この摩擦円板35の外周に対向してバランサケース2には押当部材36が取付けられている。」(段落【0024】)
キ.「従って、この実施例によるときは、ドラム5がワイヤ4を引出し方向に回転されるときは、前述の実施例の場合と同様に一方向クラッチ12が空転してドラム5には回転抵抗が付加されない。一方、ドラム5がワイヤ4の巻戻し方向に回転されるときは、一方向クラッチ12が働いて外輪14と共に摩擦円板35が回転するため、この摩擦円板35に摺接する押当部材36の摩擦抵抗によりドラム5に回転抵抗が付加される。従って、ドラム5は減速回転され、ワイヤ4の巻戻し速度が緩慢化される。なお、ドラム5に付加される回転抵抗は、摩擦円板35に対する押当部材36の押圧力を加減することで自由に調整することができる。」(段落【0026】)
ク.上記オ.の記載と、図1の図示内容からみて、ワイヤの先端にそなえたストッパゴム8によりバランサケース内へのワイヤの引込みが阻止されていることが示されている。

上記記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「バランサケース2と、該バランサケース2に内蔵されかつ工具吊り下げワイヤ4が巻き付けられる回転自在なドラム5と、前記バランサケース2に内蔵されかつ前記ドラム5をワイヤ巻戻し方向に弾発付勢する渦巻きスプリング9と、ワイヤ4の先端部に工具吊り下げ用のフック7及びバランサケース内へのワイヤの引込みを阻止するストッパゴム8とをそなえ、ドラム5と一方向クラッチ12を介してワイヤ巻戻し方向に回転抵抗を付加するための回転抵抗付加機構を備え、その回転抵抗付加機構が、前記一方向クラッチ12の従動側回転体35に摺接して回転抵抗を付加する押当部材36から構成されている、スプリングバランサ。」

2-2.引用例2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-222399号公報には、「重量バランス装置」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。
「本発明は特に医療機器用の重量バランス装置に関する。」(段落【0001】)
「X線照射器1を任意の位置に拘束して支持することができるようにするために、ドラム17ないしそのカバー30に作用する電磁式摩擦ブレーキ42がハウジングカバー39に収容して設けられている。」(段落【0023】)

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「バランサケース2」、「工具吊り下げワイヤ4」、「ドラム5」、「渦巻きスプリング9」は、その機能・構造からみて、前者の「ケーシング」、「牽引用ロープ」、「ドラム」、「スプリング」に相当する。

後者は、「ドラム5に一方向クラッチ12を介してワイヤ巻戻し方向に回転抵抗を付加する回転抵抗付加機構」として、「一方向クラッチ12の従動側回転体35に摺接して回転抵抗を付加する押当部材36」が設けられており、それによって、「ワイヤを緩速で巻戻すことができるため、工具相互の干渉や作業員に対する干渉を回避する上で有効となる」という機能を奏するものである。
一方、前者には、ロープが骨折患者の患部から取り外された場合に急速にドラムに巻き込まれることなく、看護婦などの操作者に危険を及ばさない緩やかな速度で巻き取り作用を行うために、「ドラムと一体に且つ同心的に回転可能に設けられた歯車と、同歯車に噛み合う減速用の小歯車を有して上記ケーシング内に装着された回転式ダンパーと」が設けられている。
よって、後者の「一方向クラッチ12の従動側回転体35に摺接して回転抵抗を付加する押当部材36から構成されている」「回転抵抗付加機構」と、前者の「上記ドラムと一体に且つ同心的に回転可能に設けられた歯車と、同歯車に噛み合う減速用の小歯車を有して上記ケーシング内に装着された回転式ダンパー」とは、「ドラムに回転抵抗を付加する機構」として、共通である。
後者の「スプリングバランサ」は、ドラムにワイヤでものを巻き上げる、巻き上げ装置という点で、前者の「牽引装置」と共通である。
図1の図示内容、2-1.オの記載から、後者のワイヤ4の先端部に備えた、工具吊り下げ用のフック7及びバランサケース内へのワイヤの引込みを阻止するストッパゴム8とは、他のものを吊り下げる機能と、バランサケース内へのワイヤの引込みを阻止する機能とを併せ持っている。
一方、前者の「ロープ連結部」は、ロープを「病院内のベッドにおける骨折患者の手や足などを牽引する際に」(前者明細書段落【0019】)、通常は、患者の手足を保持するバンド類をロープ連結部にて連結する所であって、(1)患者の手足を保持するバンド類とロープとの連結の機能と同時に、(2)ケーシングのロープ出入口内へのロープ先端の引込みを阻止する機能とを併せて持っている。
よって、後者の「工具吊り下げ用のフック7及びバランサケース内へのワイヤの引込みを阻止するストッパゴム8」は、前者の「ロープ連結部」と対応しており、引き込み防止及び吊下げ装置として共通である。

したがって、両者は本願発明の文言を用いて表現すると、
「牽引用ロープの基端を係止して同ロープを巻き取るドラムと、同ドラムを内部に回転可能に支持するケーシングと、同ドラムを上記ロープの巻き取り方向に付勢するスプリングと、上記ロープの先端に設けられ同ロープ出入口内へのロープ先端の引込み防止及び吊下げ装置とをそなえ、ドラムに回転抵抗を付加する機構とが設けられている、巻き上げ装置。」で、一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明では、ロープとロープ連結部との間に、ロープの張力を表示する張力計が介装されているのに対して、引用発明はそうした張力計を備えていない点。

<相違点2>
ドラムに回転抵抗を付加する機構が、前者では、ドラムと一体に且つ同心的に回転可能に設けられた歯車と、同歯車に噛み合う減速用の小歯車を有して上記ケーシング内に装着された回転式ダンパーであるのに対し、後者では、ドラムに一方向クラッチを介して一方向クラッチの従動側回転体に摺接して回転抵抗を付加する押当部材である点。

<相違点3>
引込み防止及び吊下げ装置について、本願発明ではロープ連結部が吊下げ機能とロープ出入口内へのロープ先端の引込みを阻止機能とを兼ね備えているのに対し、引用発明ではフック7とストッパゴム8の2つの部材で構成している点。

<相違点4>
巻き上げ装置が、前者が医療用牽引装置であるのに対し、後者はスプリングバランサである点。

4.判断
次にこれらの相違点について検討する。

<相違点1について>
牽引装置において、張力計を介装することは従来周知の技術(必要ならば、特開昭63-161960号公報、特開昭61-37694号公報、特公昭26-4494号公報参照)であって、この張力計を牽引装置のどこに設けるかは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものであり、この周知の技術を用いるようにして本願発明の相違点1に係る特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。

<相違点2について>
回転機構を備えた装置において、回転軸に回転抵抗を付与するために、回転軸に一体に且つ同心的に歯車を設け、それに噛み合う歯車に回転式ダンパーを設けることは従来周知の技術(必要ならば、特開平9-13789号公報,特開平8-42618号公報参照)であり、そのようにすることは、その装置に必要とされる回転数などに応じて適宜採用される設計的事項にすぎないので、こうした周知の技術を用いるようにして本願発明の相違点2に係る特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。

<相違点3について>
2つの部材である機能を奏させることを1つの部材で行うようにすることは、装置を構成する際に慣用的に行われていることであって、それによって格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

<相違点4について>
巻き上げ装置を医療用に用いた点は、引用例2に記載されているので、本願発明の相違点4に係る特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願発明の相違点1〜4に係る特定事項によって奏する効果も、引用発明、引用例2記載の発明、周知技術及び慣用技術から当業者であれば予測できる範囲内のものであって、格別なものとはいえない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2、周知技術及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-22 
結審通知日 2006-03-29 
審決日 2006-04-11 
出願番号 特願2000-75345(P2000-75345)
審決分類 P 1 8・ 56- Z (A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 克夫  
特許庁審判長 山崎 豊
特許庁審判官 増沢 誠一
柳 五三
発明の名称 医療用牽引装置  
代理人 唐沢 勇吉  
代理人 飯沼 義彦  

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