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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1137175
審判番号 不服2003-21904  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-12-03 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-12 
確定日 2006-05-26 
事件の表示 平成 7年特許願第151037号「クラッチレス圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年12月 3日出願公開、特開平 8-319945〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本件出願は、平成7年5月25日の出願であって、平成15年10月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年11月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成15年12月12日付けの手続補正書によって明細書を補正する手続補正がなされた。(なお、平成15年12月12日付けの手続補正書に対して手続補正指令(方式)が通知され、審判請求人は、平成16年1月9日に手続補正書(方式)を提出している。)

[2]平成15年12月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成15年12月12日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の特許請求の範囲の記載
平成15年12月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の明細書における特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 回転軸と、前記回転軸に固定され、且つ前記回転軸に外部駆動源の回転動力を伝達する動力伝達部材が掛けられるプーリと、前記回転軸に固定され、前記回転軸と一体に回転して圧縮動作に関与する圧縮回転体とを備え、前記プーリが、前記動力伝達部材が巻き掛けられる円筒状のリムと、前記回転軸に嵌合されるボスと、前記リムと前記ボスとを連結する支持部とで構成されているクラッチレス圧縮機において、前記プーリの支持部に設けられ、所定値以上の負荷トルクが作用したときに破断して、前記動力伝達部材から前記圧縮回転体への回転動力の伝達を断つ破断部と、前記破断部の破断によって前記回転動力の伝達が断たれたとき、前記動力伝達部材の張力を受けて前記プーリのリムの回転状態を保持する軸受とを備え、前記破断部は、前記支持部に複数の長孔を設けることによって形成されると共に径方向の寸法が周方向の寸法よりも小さく形成され、前記ボスは、前記回転軸に固定され、当該圧縮機が回転不能になって前記破断部が破断した際に、破断した前記支持部の一方は前記ボスに保持されるとともに前記支持部の他方は前記リムと共に回転状態を維持することを特徴とするクラッチレス圧縮機。」
と補正された。
これは、補正前の請求項1に記載された発明を特定する事項である「破断部」を、「破断部は、前記支持部に複数の長孔を設けることによって形成されると共に径方向の寸法が周方向の寸法よりも小さく形成され」と限定するものであり、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.引用文献記載の発明
2-1.引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願昭61-111995号(実開昭63-19083号)のマイクロフィルム(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「2.実用新案登録請求の範囲
1. 駆動部の駆動力をプーリに直結されたシャフトに伝達し,該シャフトの回転により流体を圧縮するようにしたコンプレッサーにおいて,前記プーリをコンプレッサーのハウジングノーズ上にベアリングにて回転可能に支持するとともに前記プーリーとシャフトとの結合を過負荷可破断材よりなる結合部材によって行っていることを特徴とするプーリー直結型コンプレッサー。」(明細書第1頁第4〜12行。)

イ.「3.考案の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本考案は,コンプレッサー,特に,プーリーをコンプレッサーのハウジングノーズで支持するとともにプーリーとシャフトの間に安全機構を設けたコンプレッサーに関する。
〔従来技術とその問題点〕・・・又,電磁クラッチを用いない安価なコンプレッサーとしては,第4図に示すようにプーリーPを直接シャフトSに締結し,駆動源からの駆動力をプーリーPに伝達し,ベルトの負荷をシャフトべアリング13で受ける構成が知られていたがこの構成にあっては,プーリPと主軸とが分離されないためコンプレッサーの故障が直接車輌に悪影響を及ぼすという問題点があった。
〔考案の目的〕
本考案は,電磁クラッチを用いることなく,しかも安全機構を備えたコンプレッサーを提供することを目的とするものである。」(明細書第1頁第13行から第3頁第8行。)

ウ.「第1図は,本考案のコンプレッサーの要部を示す断面図である。
コンプレッサー1は,ハウジング2と該ハウジング2内に回転可能に軸支されたシャフト3とハウジング2のフロントノーズ4に回転可能に支持されたプーリー5と前記シャフト3とプーリー5との間に介在された回転伝達板6を備えている。
前記ハウジング2は円筒状を成し,一端をフロントノーズ4にて閉塞し,内部にシャフト3を貫装している。・・・ハウジング2の内部に貫装されるシャフト3は,一端を前記フロントノーズ4の貫通孔43を貫通し,円筒部41から外方に突出している。」(明細書第4頁第1〜16行。)

エ.「プーリー5は,前記のフロントノーズ4の円筒部41にベアリング7を介して回転可能に支持されており,スナップリング8,9で円筒部41から離脱することのないように取付けられている。
回転伝達板6は,第2図(a),(b)に示すように円板状の本体61と安全機構62を備えている。そして本体61の中央にはシャフト3の軸受63が形成されている。安全機構62には本体61の円周上に過負荷防止結合部材62aが90°が間隔で4ケ所形成されている。
この過負荷防止結合部材62aはコンプレッサーが故障し,シャフト3とプーリー5との間に通常の運転時に比較して,より高いトルクが加わった時に破断するような材料(過負荷可破断材)例えば合成樹脂等で形成され,本体61に圧入固定されている。
尚,この過負荷防止結合部材62aは,第3図(a),(b)に示すように破断しやすい形状例えば細い径の円柱状に本体61と一体に形成することも可能である。」(第5頁第2行から第6頁第1行。)

オ.「次に,回転伝達板6は安全機構62の過負荷防止結合部材62aをプーリー5の側部51に設けた穴52へ嵌合するとともに,軸受63をシャフト3に嵌合させナット64で締結することで取り付けられる。
次に本考案がどのように作用するかについて述べる。駆動源からベルト(図示しない)を介してプーリー5に伝達された駆動力はプーリー5を回転させる。この回転に伴って回転伝達板6が回転し,シャフト3を回転させ,コンプレッサー1の流体を圧縮する。
この時に,コンプレッサー1に故障が発生し過大なトルクがシャフト3とプーリー5との間に加わると回転伝達板6に設けた安全機構62の過負荷防止結合部材62aが破損し,プーリー5のみがベアリング7によって空転する。
〔考案の効果〕・・・また,電磁クラッチを用いていないのできわめて安価なコンプレッサーを得ることができる。
又,プーリーとシャフトとの結合を過負荷可破断材よりなる結合部材で行なっているので,コンプレッサーに故障が発生しシャフトとプーリーとの間に過大なトルクが加わった場合でも,コンプレッサーと駆動源とが容易に切り離されプーリーのみが空転し車輌に悪影響が及ぶこともない。」(明細書第6頁第10行から第7頁第18行。)

(2)ここで、上記記載事項2-1.(1)ア.ないしオ.及び、第1〜3図から、つぎのことがわかる。
ア.上記記載事項2-1.(1)イ.における「本考案は,電磁クラッチを用いることなく,しかも安全機構を備えたコンプレッサーを提供することを目的とするものである。」から、引用文献1に係る本考案は、電磁クラッチを用いないコンプレッサーに関するものであることがわかる。

イ.上記記載事項2-1.(1)ウ.における「コンプレッサー1は,ハウジング2と該ハウジング2内に回転可能に軸支されたシャフト3とハウジング2のフロントノーズ4に回転可能に支持されたプーリー5と前記シャフト3とプーリー5との間に介在された回転伝達板6を備えている」から、コンプレッサー1はシャフト3、プーリー5、回転伝達板6を備えていること、上記記載事項2-1.オ.における「駆動源からベルト(図示しない)を介してプーリー5に伝達された駆動力はプーリー5を回転させる。この回転に伴って回転伝達板6が回転し,シャフト3を回転させ,コンプレッサー1の流体を圧縮する。」から、プーリー5は、シャフト3に駆動源からの回転動力を伝達するベルトがかけられるものであること、コンプレッサー1は、シャフト3の回転によって流体を圧縮する圧縮動作に関与する機構を備えていることがわかる。

ウ.上記記載事項2-1.(1)オ.における「駆動源からベルト(図示しない)を介してプーリー5に伝達された駆動力はプーリー5を回転させる。」および第1図から、プーリー5は、ベルトが巻き掛けられる円筒状の部材として形成されていることがわかる。

エ.上記記載事項2-1.(1)エ.における「プーリー5は,前記のフロントノーズ4の円筒部41にベアリング7を介して回転可能に支持されており,スナップリング8,9で円筒部41から離脱することのないように取付けられている。回転伝達板6は,第2図(a),(b)に示すように円板状の本体61と安全機構62を備えている。そして本体61の中央にはシャフト3の軸受63が形成されている。安全機構62には本体61の円周上に過負荷防止結合部材62aが90°が間隔で4ケ所形成されている。この過負荷防止結合部材62aは・・・,本体61に圧入固定されている。」、上記記載事項2-1.(1)オ.における「駆動源からベルト(図示しない)を介してプーリー5に伝達された駆動力はプーリー5を回転させる。この回転に伴って回転伝達板6が回転・・・する。」から、回転伝達板6の本体61は、シャフト3に嵌合する軸受63が形成され、プーリー5と回転伝達板6が連結されていることがわかる。

オ.上記記載事項2-1.(1)オ.における「駆動源からベルト(図示しない)を介してプーリー5に伝達された駆動力はプーリー5を回転させる。この回転に伴って回転伝達板6が回転し,シャフト3を回転させ,コンプレッサー1の流体を圧縮する。この時に,コンプレッサー1に故障が発生し過大なトルクがシャフト3とプーリー5との間に加わると回転伝達板6に設けた安全機構62の過負荷防止結合部材62aが破損し,プーリー5のみがベアリング7によって空転する。」、上記記載事項2-1.(1)エ.「回転伝達板6は・・・安全機構62を備えている。・・・安全機構62には本体61の円周上に過負荷防止結合部材62aが90°が間隔で4ケ所形成されている。この過負荷防止結合部材62aはコンプレッサーが故障し,シャフト3とプーリー5との間に通常の運転時に比較して,より高いトルクが加わった時に破断するような材料(過負荷可破断材)例えば合成樹脂等で形成され,本体61に圧入固定されている。」から、通常の運転時に比較してより高いトルクが作用したときに破断して、ベルトからコンプレッサー1への回転動力の伝達を断つ過負荷防止結合部材62aが、回転伝達板6に設けられていること、過負荷防止結合部材62aは、シャフト3とプーリー5との間に通常の運転時に比較して、より高いトルクが加わった時に破断するような材料で形成されていること、過負荷防止結合部材62aの破断によって回転動力の伝達が断たれたとき、ベルトの張力を受けてプーリー5の回転状態が、ベアリング7によって保持されることがわかる。

カ.上記記載事項2-1.(1)オ.における「回転伝達板6は安全機構62の過負荷防止結合部材62aをプーリー5の側部51に設けた穴52へ嵌合するとともに,軸受63をシャフト3に嵌合させナット64で締結することで取り付けられる。」から、軸受63はシャフト3に固定されていること、上記記載事項2-1.(1)オ.における「コンプレッサー1に故障が発生し過大なトルクがシャフト3とプーリー5との間に加わると回転伝達板6に設けた安全機構62の過負荷防止結合部材62aが破損し,プーリー5のみがベアリング7によって空転する。」から、コンプレッサー1が回転不能になって過負荷防止結合部材62aが破断した際に、回転伝達板6はシャフト3に保持されるとともにプーリー5は回転状態を維持することがわかる。

キ.上記記載事項2-1(1)エ.における「回転伝達板6は・・・円板状の本体61と安全機構62を備えている。・・・安全機構62には本体61の円周上に過負荷防止結合部材62aが90°が間隔で4ケ所形成されている。この過負荷防止結合部材62aはコンプレッサーが故障し,シャフト3とプーリー5との間に通常の運転時に比較して,より高いトルクが加わった時に破断するような材料(過負荷可破断材)例えば合成樹脂等で形成され,本体61に圧入固定されている。尚,この過負荷防止結合部材62aは,第3図(a),(b)に示すように破断しやすい形状例えば細い径の円柱状に本体61と一体に形成することも可能である。」、および、上記記載事項2-1(1)オ.における「回転伝達板6は安全機構62の過負荷防止結合部材62aをプーリー5の側部51に設けた穴52へ嵌合する・・・。・・・過大なトルクがシャフト3とプーリー5との間に加わると回転伝達板6に設けた安全機構62の過負荷防止結合部材62aが破損・・・する。・・・プーリーとシャフトとの結合を過負荷可破断材よりなる結合部材で行なっている・・・。」から、過負荷防止結合部材62aは、シャフト3とプーリー5との間に通常の運転時に比較して、より高いトルクが加わった時に破断するような材料(過負荷可破断材)によって、回転伝達板6の本体61の円周上に90°間隔で4ケ所形成されていて、プーリー5の側部51に設けた穴52へ嵌合されて、プーリー5と回転伝達板6とを連結するように形成されていることがわかる。

(3)上記記載事項2-1.(2)から、引用文献1には次の発明が記載されているものと認められる。
「シャフト3と、前記シャフト3に固定され、且つ前記シャフト3に外部駆動源の回転動力を伝達するベルトが掛けられるプーリー5と、前記シャフト3の回転によって流体を圧縮する圧縮動作に関与する機構とを備え、
プーリー5は、ベルトが巻き掛けられる円筒状の部材であって、
シャフト3に嵌合する軸受63が回転伝達板6に設けられ、
プーリー5と回転伝達板6の軸受63が連結されている電磁クラッチを用いないコンプレッサー1において、
回転伝達板6に設けられ、通常の運転時に比較してより高いトルクが作用したときに破断して、ベルトからコンプレッサー1への回転動力の伝達を断つ過負荷防止結合部材62aと、
過負荷防止結合部材62aの破断によって回転動力の伝達が断たれたとき、ベルトの張力を受けてプーリー5の回転状態を保持するベアリング7とを備え、
過負荷防止結合部材62aは、シャフト3とプーリー5との間に通常の運転時に比較して、より高いトルクが加わった時に破断するような材料によって、回転伝達板6の本体61の円周上に、過負荷防止結合部材62aが90°間隔で4ケ所形成されていて、プーリー5の側部51に設けた穴52へ嵌合してプーリー5と回転伝達板6とを連結するように形成され、
軸受63は、シャフト3に固定され、コンプレッサー1が回転不能になって過負荷防止結合部材62aが破断した際に、回転伝達板6はシャフト3に保持されるとともにプーリー5は回転状態を維持する電磁クラッチを用いないコンプレッサー1。」
との発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が開示されていると認めることができる。

2-2.引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平4-262024号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「2.特許請求の範囲
(1)機関のクランク軸に設けられたドライブスプロケットと、動弁機構のカム軸に設けられたカムスプロケットとの間に巻装されたタイミングチェーンによって、補機の従動軸を従動スプロケットを介して直接回転駆動させる駆動伝達装置において、前記従動スプロケットをスプロケットベアリングを介して軸支すると共に、該従動スプロケットの回転力を前記従動軸に伝達する駆動伝達経路に、トルクリミッタを介装したことを特徴とする補機類の駆動伝達装置。」(第1頁左下欄第4〜14行。)

イ.「3.発明の詳細な説明・・・本発明は、内燃機関のクランク軸の駆動力をタイミングチェーンによって動弁機構のカム軸の他、補機類に直接伝達する駆動伝達装置に関する。・・・補機類等のレイアウトの関係から該補機類の従動スプロケットにタイミングチェーンを巻装してクランク軸から直接駆動力を伝達する形式のものが一般に採用されている(例えば実開昭57-137730号公報参照)。
発明が解決しようとする課題
然し乍ら、前記補機類にタイミングチェーンを直接巻装する形式のものにあっては、機関の駆動中に例えばウォータポンプのベアリングが故障して該ベアリングに軸受された従動軸及び該従動軸に連結された前記従動スプロケットがロックした場合には、タイミングチェーンに過大な張力負荷が掛かって、該タイミングチェーンが伸びて破損したり、動弁機構のバルブタイミングが大きく狂って機関が破損してしまう虞がある。」(第1頁左下欄第15行から第2頁左上欄第7行。)

ウ.「作用
機関の駆動中に、補機類が故障して従動軸がロックし、従動スプロケットを介してタイミングチェーンに所定以上の張力負荷が掛かると、トルクリミッタが例えば切断されて前記従動軸と従動スプロケットとの連結状態を解除する。したがって、従動スプロケットがスプロケットベアリングを介してアイドル状態に回転し、タイミングチェーンに対する過大な張力負荷が回避される。」(第2頁左上欄第20行から右上欄第8行。)

エ.「実施例
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。
第1図は本発明に係る補機類の駆動伝達装置の第1実施例を示し、第2図は本実施例が適用される駆動伝達装置の全体構成を示している。
即ち、第2図の1は外端部にドライブスプロケット2が設けられた機関のクランク軸、3は所謂DOHC型動弁機構の吸・排気バルブを開閉するカム軸、4は該カム軸3の外端部に設けられたカムスプロケットであって、前記ドライブスプロケット2とカムスプロケット4との間にはタイミングチェーン5が巻装されている。また、6はクランク軸1とカム軸3との間に配置された補機であるウォータポンプ10の従動軸、7は該従動軸6の外端部に設けられて、前記タイミングチェーン5が巻装された従動スプロケット、8はアジャスタ9を介してタイミングチェーン5の張力を調整するチェーンテンショナーである。
前記ウォータポンプ10は、第1図に示すように機関のシリンダブロックA前端部にボルトにより固定されたポンプハウジング11と、該ポンプハウジング11の軸受孔12内に固定されたポンプベアリング13と、該ポンプベアリング13に軸受された前述の従動軸6とを備えている。この従動軸6のポンプ室14に臨む先端部6aに、ベーン15が設けられている一方、該ベーン15と軸受孔12の孔縁との間には、ポンプベアリング13をシールするメカニカルシール16が設けられている。
また、従動軸6の後端部6bには、略円筒状のハブ17が圧入固定されていると共に、該ハブ17の外周には、ボール型のスプロケットベアリング18を介して前述の従動スプロケット7が回転自在に軸受されている。・・・前記構成の本実施例によれば、クランク軸1及びドライブスプロケット2が回転駆動すると、その駆動力はタイミングチェーン5を介してカム軸3の他に従動スプロケット7から・・・従動軸6に伝達され、ベーン15の回転作用つまりポンプ作用に供される。・・・第3図は、本発明の第2実施例を示し、この実施例ではポンプハウジング11の外周に2連のスプロケットベアリング28、28が設けられ、該スプロケットベアリング28、28の外周に略円筒状の従動スプロケット7が回転自在に軸受されている。
また、この従動スプロケット7は、外周に複数の歯部7a…が設けられていると共に、外側面の周方向の等間隔位置に連結用ピン30…が圧入する複数のピン穴7d…が軸方向に沿って穿設されている。
一方、従動軸6の後端部6bに一面巾を利用して円環状のハブ27が嵌着されており、このハブ27の外周端にトルクリミッタ29が設けられている。
即ち、このトルクリミッタ29は、第4図に示すように外周側の環状本体29aと、該環状本体29aの内周に設けられて先端部がハブ27の外周面と径方向から連結する4つの連結部位29b…とから構成されている。前記環状本体29aは、周方向の等間隔位置に有するピン挿通孔31…及びピン孔7dに挿通する連結ピン30を介して前記従動スプロケット7に連結されている。一方、連結部位29b…は、環状本体29aの周方向の90゜位置に十字クロス状に一体に設けられていると共に、中央部29c…が薄肉に形成されて回転方向に所定以上の荷重が作用すると、該中央部29c…が切断するように形成されている。
したがって、この実施例によれば第1実施例と同様に通常のクランク軸1の回転駆動力は、タイミングチェーン5を介して従動スプロケット7、トルクリミッタ29、ハブ27を経て従動軸6からベーン15に伝達されるが、ポンプベアリング13の故障により従動軸6がロックしてタイミングチェーン5及びトルクリミッタ29に所定以上の負荷が掛かると、連結部位29bの中央部29cが切断されて従動スプロケット7とハブ27との連結状態を解除する。したがって、従動スプロケット7は、スプロケットベアリング28、28によってアイドル状態で回転し続け、これによりタイミングチェーン5に対する過大な張力負荷が回避され、該タイミングチェーン5の破損等が防止される。」(第2頁右上欄第9行から第3頁右下欄第15行。)

オ.「本発明は、前記実施例の構成に限定されず、例えばトルクリミッタを従動軸6の直径方向に沿って一本状の棒体で形成することも可能であり、また、その形状等を実施例に応じて任意に変更することが可能である。
また、前記実施例では、補機としてウォータポンプ10に適用した場合を示したが、これに限定されず、オルタネータやパワステポンプに適用することも可能である。」(第4頁右上欄第8〜16行。)

カ.「発明の効果・・・本発明に係る補機類の駆動伝達装置によれば、機関駆動中に補機類が故障して従動軸がロックし、タイミングチェーンに所定以上の張力負荷が斯かるとトルクリミッタが従動軸と従動スプロケットとの連結を解除して従動スプロケットをスプロケットベアリングを介してアイドル回転状態とする。このため、タイミングチェーンに対する過大な負荷が回避され・・・る。」(第4頁右上欄第20行から左下欄第11行。)

キ.第4図には、トルクリミッタ29とハブ27の正面図が記載されており、この図から、次の事項が記載されているものと認められる。
トルクリミッタ29とハブ27は一体として、円板形状をなしている。ハブ27は、その円板の中央に孔を設けることで形成されている。
ハブ27の外周と環状本体29aは、略90度間隔に設けられた、合計4個の連結部29bによって連結されている。そして、相隣接する連結部29b間には、半径方向に略一定の幅を有する円弧状の孔が形成されている。
連結部位29bの略中間位置にノッチ状の凹みが形成され、幅が小さくなった箇所が中央部29cとされている。

(2)ここで、上記記載事項2-2.(1)ア.ないしキ.及び、第1〜4図から、つぎのことがわかる。
ア.上記記載事項2-2.(1)イ.における「本発明は、内燃機関のクランク軸の駆動力をタイミングチェーンによって動弁機構のカム軸の他、補機類に直接伝達する駆動伝達装置に関する。・・・発明が解決しようとする課題・・・補機類にタイミングチェーンを直接巻装する形式のものにあっては、機関の駆動中に例えばウォータポンプのベアリングが故障して該ベアリングに軸受された従動軸及び該従動軸に連結された前記従動スプロケットがロックした場合には、タイミングチェーンに過大な張力負荷が掛かって、該タイミングチェーンが伸びて破損したり、・・・機関が破損してしまう虞がある。」、上記記載事項2-2.(1)ウ.における「作用 機関の駆動中に、補機類が故障して従動軸がロックし、従動スプロケットを介してタイミングチェーンに所定以上の張力負荷が掛かると、トルクリミッタが例えば切断されて前記従動軸と従動スプロケットとの連結状態を解除する。したがって、従動スプロケットがスプロケットベアリングを介してアイドル状態に回転し、タイミングチェーンに対する過大な張力負荷が回避される。」から、引用文献2に係る本発明は、補機類にタイミングチェーンを直接巻装する形式のものにおいて、従動軸がロックし、従動スプロケットを介してタイミングチェーンに所定以上の張力負荷が掛かると、従動軸と従動スプロケットとの連結状態を解除して、従動スプロケットがスプロケットベアリングを介してアイドル状態に回転し、タイミングチェーンに対する過大な張力負荷が回避されるものであることがわかる。

イ.上記記載事項2-2.(1)エ.における「6はクランク軸1とカム軸3との間に配置された補機であるウォータポンプ10の従動軸、7は該従動軸6の外端部に設けられて、前記タイミングチェーン5が巻装された従動スプロケット・・・である。前記ウォータポンプ10は、第1図に示すように機関のシリンダブロックA前端部にボルトにより固定されたポンプハウジング11と、該ポンプハウジング11の軸受孔12内に固定されたポンプベアリング13と、該ポンプベアリング13に軸受された前述の従動軸6とを備えている。・・・また、従動軸6の後端部6bには、略円筒状のハブ17が圧入固定されていると共に、該ハブ17の外周には、ボール型のスプロケットベアリング18を介して前述の従動スプロケット7が回転自在に軸受されている。」、「第3図は、本発明の第2実施例を示し、この実施例ではポンプハウジング11の外周に2連のスプロケットベアリング28、28が設けられ、該スプロケットベアリング28、28の外周に略円筒状の従動スプロケット7が回転自在に軸受されている。・・・従動軸6の後端部6bに一面巾を利用して円環状のハブ27が嵌着されて・・・いる。・・・この実施例によれば第1実施例と同様に通常のクランク軸1の回転駆動力は、タイミングチェーン5を介して従動スプロケット7、トルクリミッタ29、ハブ27を経て従動軸6からベーン15に伝達される」、および、第3図から、ウォータポンプ10は、従動軸6と、従動軸6に固定されたハブと、従動スプロケット7を有し、従動スプロケット7は、トルクリミッタ29、ハブ27を介して従動軸6に固定されていること、従動スプロケット7は、従動軸6にクランク軸1の回転駆動力を伝達するタイミングチェーン5が掛けられるものであることがわかる。
また、上記記載事項2-2.(1)エ.における「この従動軸6のポンプ室14に臨む先端部6aに、ベーン15が設けられている」から、ウォータポンプ10は、従動軸6に固定され、従動軸6と一体に回転するベーン15も備えていることがわかる。

ウ.上記記載事項2-2.(1)エ.における「第3図は、本発明の第2実施例を示し、・・・スプロケットベアリング28、28の外周に略円筒状の従動スプロケット7が回転自在に軸受されている。」および、第3図から、従動スプロケット7は、タイミングチェーン5が巻き掛けられる円筒状の形状をしていることがわかる。
エ.上記記載事項2-2.(1)エ.における「従動軸6の後端部6bに一面巾を利用して円環状のハブ27が嵌着されており、このハブ27の外周端にトルクリミッタ29が設けられている。即ち、このトルクリミッタ29は、第4図に示すように外周側の環状本体29aと、該環状本体29aの内周に設けられて先端部がハブ27の外周面と径方向から連結する4つの連結部位29b…とから構成されている。前記環状本体29aは、周方向の等間隔位置に有するピン挿通孔31…及びピン孔7dに挿通する連結ピン30を介して前記従動スプロケット7に連結されている。・・・この実施例によれば第1実施例と同様に通常のクランク軸1の回転駆動力は、タイミングチェーン5を介して従動スプロケット7、トルクリミッタ29、ハブ27を経て従動軸6からベーン15に伝達される」から、ハブ27が従動軸6の後端部6bに嵌合すること、従動スプロケット7とハブ27は、トルクリミッタ29によって連結されていることがわかる。

オ.上記記載事項2-2.(1)エ.における「第1図は本発明に係る補機類の駆動伝達装置の第1実施例を示し、第2図は本実施例が適用される駆動伝達装置の全体構成を示している。・・・本実施例によれば、クランク軸1及びドライブスプロケット2が回転駆動すると、その駆動力はタイミングチェーン5を介して・・・従動スプロケット7から・・・従動軸6に伝達され、ベーン15の回転作用つまりポンプ作用に供される。・・・第3図は、本発明の第2実施例を示し、この実施例では・・・トルクリミッタ29は、第4図に示すように外周側の環状本体29aと、該環状本体29aの内周に設けられて先端部がハブ27の外周面と径方向から連結する4つの連結部位29b…とから構成されている。・・・連結部位29b…は、環状本体29aの周方向の90゜位置に十字クロス状に一体に設けられていると共に、中央部29c…が薄肉に形成されて回転方向に所定以上の荷重が作用すると、該中央部29c…が切断するように形成されている。したがって、この実施例によれば第1実施例と同様に通常のクランク軸1の回転駆動力は、タイミングチェーン5を介して従動スプロケット7、トルクリミッタ29、ハブ27を経て従動軸6からベーン15に伝達されるが、ポンプベアリング13の故障により従動軸6がロックしてタイミングチェーン5及びトルクリミッタ29に所定以上の負荷が掛かると、連結部位29bの中央部29cが切断されて従動スプロケット7とハブ27との連結状態を解除する。」から、連結部29bは、トルクリミッタに設けられ、ウォータポンプ10のポンプベアリング13の故障により従動軸6がロックし、所定以上の負荷がかかると切断して、タイミングチェーン5からベーン15への回転動力の伝達を断つものであることがわかる。

カ.上記記載事項2-2.(1)エ.における「連結部位29bの中央部29cが切断されて従動スプロケット7とハブ27との連結状態を解除する。したがって、従動スプロケット7は、スプロケットベアリング28、28によってアイドル状態で回転し続け、これによりタイミングチェーン5に対する過大な張力負荷が回避され・・・る。」から、スプロケットベアリング28は、連結部位29bの中央部29cが切断されたとき、タイミングチェーン5の張力を受けて従動スプロケット7の回転状態を保持する軸受としての機能を有することがわかる。
キ.上記記載事項2-2.(1)エ.における「従動軸6の後端部6bには、略円筒状のハブ17が圧入固定されている・・・。」から、ハブ17は従動軸6に圧入固定されていること、上記記載事項2-2.(1)エ.における「トルクリミッタ29は、第4図に示すように外周側の環状本体29aと、該環状本体29aの内周に設けられて先端部がハブ27の外周面と径方向から連結する4つの連結部位29b…とから構成されている。前記環状本体29aは、周方向の等間隔位置に有するピン挿通孔31…及びピン孔7dに挿通する連結ピン30を介して前記従動スプロケット7に連結されている。」、および、上記記載事項2-2.(2)カ.から、トルクリミッタ29の環状本体29aは、連結部位29bが切断された際に、従動スプロケット7と共に回転状態を維持するものであることがわかる。

ク.上記記載事項2-2.(1)エ.における「第3図は、本発明の第2実施例を示し、・・・このトルクリミッタ29は、第4図に示すように外周側の環状本体29aと、該環状本体29aの内周に設けられて先端部がハブ27の外周面と径方向から連結する4つの連結部位29b…とから構成されている。・・・連結部位29b…は、環状本体29aの周方向の90゜位置に十字クロス状に一体に設けられていると共に、中央部29c…が薄肉に形成されて回転方向に所定以上の荷重が作用すると、該中央部29c…が切断するように形成されている。」から、中央部29cは、環状本体29aの内周に設けられて先端部がハブ27の外周面と径方向から連結するように環状本体29aの周方向の90゜位置に十字クロス状に一体に設けられている連結部位29bの中央に薄肉に形成されていることがわかる。
また、上記記載事項2-2.(2)オ.および上記記載事項2-2.(1)エ.における「連結部位29b…は、・・・回転方向に所定以上の荷重が作用すると、該中央部29c…が切断するように形成されている。」から、ウォータポンプ10のポンプベアリング13の故障により従動軸6がロックし、連結部位29bが中央部29cで切断した際は、トルクリミッタ29の一部である連結部位29bのうち、切断した中央部29cからハブ27側は、ハブ27に保持されたままの状態であることがわかる。

ケ.上記記載事項2-2.(1)キ.から、中央部29cは、トルクリミッタ29、ハブ27からなる円板に、長孔を設けることによって形成された連結部位29bの略中間位置にノッチ状の凹みを形成して幅を小さくすることで形成されていることがわかる。

(3)上記記載事項2-2.(2)から、引用文献2には次の発明が記載されているものと認められる。
「従動軸6と、前記従動軸6に固定され、且つ前記従動軸6に外部駆動源の回転動力を伝達するタイミングチェーン5が掛けられる従動スプロケット7と、前記従動軸6に固定され、前記従動軸6と一体に回転するウォータポンプ10のベーン15とを備え、前記従動スプロケット7が前記タイミングチェーン5が巻き掛けられる円筒状に形成され、前記従動軸6に嵌合されるハブ27と前記従動スプロケット7とがトルクリミッタ29で連結されている、タイミングチェーンを直接巻装する形式のウォータポンプ10において、
トルクリミッタ29に設けられ、所定以上の負荷がかかると切断されて、タイミングチェーン5からベーン15への回転動力の伝達を断つ、連結部位29bの中央部29cと、
連結部位29bの中央部29cが切断されたとき、タイミングチェーン5の張力を受けて従動スプロケット7の回転状態を保持する軸受として機能するスプロケットベアリング28とを備え、
前記連結部位29bは、トルクリミッタ29、ハブ27からなる円板に、複数の長孔を設けることによって形成され、その連結部位29bの中央部29cはノッチ状の凹みを形成して幅を小さくするとともに薄肉に形成され、
前記ハブ27は、従動軸6に圧入固定され、当該ウォータポンプ10のポンプベアリング13の故障により従動軸6がロックして前記連結部位29bが切断された際に、切断された前記トルクリミッタ29の一部は前記ハブ27に保持されるとともに前記トルクリミッタ29の環状本体29aは前記従動スプロケット7と共に回転状態を維持するウォータポンプ10。」

3.対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明とを比較すると、引用文献1記載の発明の「シャフト3」、「ベルト」、「電磁クラッチを用いないコンプレッサー」は、それぞれ、本願補正発明の「回転軸」、「動力伝達部材」、「クラッチレス圧縮機」に相当する。
また、引用文献1記載の発明の「シャフト3の回転によって流体を圧縮する圧縮動作に関与する機構」は、「回転軸の回転によって圧縮動作に関与する機構」である限りにおいて、本願補正発明の「回転軸と一体に回転して圧縮動作に関与する圧縮回転体」に相当する。
また、引用文献1記載の発明の、プーリー5と回転伝達板6からなる構成は、その作用、機能からみて、本願補正発明の「プーリ」に相当する。そして、引用文献1記載の発明の「プーリー5」は、その作用、機能からみて、本願補正発明の「円筒状のリム」に相当する。また、引用文献1記載の発明の「シャフト3に嵌合する軸受63」は、本願補正発明の「回転軸に嵌合するボス」に相当し、引用文献1記載の発明の「回転伝達板6」は、本願補正発明の「ボス」と「リムとボスとを連結する支持部」を合わせたものに相当する。
また、引用文献1記載の発明の「回転伝達板6に設けられ、通常の運転時に比較してより高いトルクが作用したときに破断して、ベルトからコンプレッサー1への回転動力の伝達を断つ過負荷防止結合部材62a」は、「所定値以上の負荷トルクが作用したときに破断して、動力伝達部材から圧縮動作に関与する機構への回転動力の伝達を断つ破断部」である限りにおいて、本願補正発明の「所定値以上の負荷トルクが作用したときに破断して、動力伝達部材から圧縮回転体への回転動力の伝達を断つ破断部」に相当する。
また、引用文献1記載の発明の「過負荷防止結合部材62aの破断によって回転動力の伝達が断たれたとき、ベルトの張力を受けてプーリー5の回転状態を保持するベアリング7」は、本願補正発明の「破断部の破断によって前記回転動力の伝達が断たれたとき、前記動力伝達部材の張力を受けて前記プーリのリムの回転状態を保持する軸受」に相当する。

したがって、両発明は、
「回転軸と、前記回転軸に固定され、且つ前記回転軸に外部駆動源の回転動力を伝達する動力伝達部材が掛けられるプーリと、前記回転軸に固定され、前記回転軸の回転によって圧縮動作に関与する機構とを備え、前記プーリが、前記動力伝達部材が巻き掛けられる円筒状のリムと、前記回転軸に嵌合されるボスと、前記リムと前記ボスとを連結する支持部とで構成されているクラッチレス圧縮機において、前記プーリの支持部に設けられ、所定値以上の負荷トルクが作用したときに破断して、前記動力伝達部材から前記圧縮動作に関与する機構への回転動力の伝達を断つ破断部と、前記破断部の破断によって前記回転動力の伝達が断たれたとき、前記動力伝達部材の張力を受けて前記プーリのリムの回転状態を保持する軸受とを備え、
前記ボスは、前記回転軸に固定され、当該圧縮機が回転不能になって前記破断部が破断した際に、破断した前記支持部は前記ボスに保持されるクラッチレス圧縮機。」である点で一致し、次の点で相違している。

<相違点1>
「回転軸の回転によって圧縮動作に関与する機構」について、本願補正発明においては「回転軸と一体に回転して圧縮動作に関与する圧縮回転体」であり、「所定値以上の負荷トルクが作用したときに破断して、動力伝達部材から圧縮動作に関与する機構への回転動力の伝達を断つ破断部」について、本願補正発明においては「所定値以上の負荷トルクが作用したときに破断して、動力伝達部材から圧縮回転体への回転動力の伝達を断つ破断部」である点。

<相違点2>
本願補正発明においては、「破断部は、前記支持部に複数の長孔を設けることによって形成されると共に径方向の寸法が周方向の寸法よりも小さく形成され」ているのに対し、引用文献1記載の発明においては「過負荷防止結合部材62aは、シャフト3とプーリー5との間に通常の運転時に比較して、より高いトルクが加わった時に破断するような材料によって、回転伝達板6の本体61の円周上に、過負荷防止結合部材62aが90°間隔で4ケ所形成されていて、プーリー5の側部51に設けた穴52へ嵌合してプーリー5と回転伝達板6とを連結するように形成され」ており、また、本願補正発明では「当該圧縮機が回転不能になって前記破断部が破断した際に、破断した前記支持部の一方は前記ボスに保持されるとともに前記支持部の他方は前記リムと共に回転状態を維持する」構成となっているのに対し、引用文献1記載の発明においては、、「コンプレッサー1が回転不能になって過負荷防止結合部材62aが破断した際に、回転伝達板6はシャフト3に保持されるとともにプーリー5は回転状態を維持する」構成となっている点。
即ち、破断部の構成に関する上記の相違により、圧縮機が回転不能になって破断部が破断した際には、本願補正発明においては、支持部が二分され、その一方がリムと共に回転状態を維持するものであるのに対し、引用文献1記載の発明においては、回転伝達板6とプーリー5が分離し、プーリー5のみが回転状態を維持するものとなっている。

4.判断
<相違点1について。>
クラッチレス圧縮機において、圧縮動作に関与する機構として、回転軸と一体に回転して圧縮動作に関与する圧縮回転体を採用することは、本願出願前に周知の技術的事項である(特開平6-336979号公報、特開平7-133759号公報(平成7年5月23日公開)、特開平6-207584号公報)。
したがって、引用文献1記載の発明に上記周知の技術的事項を適用し、本願補正発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点2について。>
引用文献2に記載の発明は、上記記載事項2-2.(3)に示したように、「従動軸6と、前記従動軸6に固定され、且つ前記従動軸6に外部駆動源の回転動力を伝達するタイミングチェーン5が掛けられる従動スプロケット7と、前記従動軸6に固定され、前記従動軸6と一体に回転するウォータポンプ10のベーン15とを備え、前記従動スプロケット7が前記タイミングチェーン5が巻き掛けられる円筒状に形成され、前記従動軸6に嵌合されるハブ27と前記従動スプロケット7とがトルクリミッタ29で連結されている、タイミングチェーンを直接巻装する形式のウォータポンプ10において、
トルクリミッタ29に設けられ、所定以上の負荷がかかると切断されて、タイミングチェーン5からベーン15への回転動力の伝達を断つ、連結部位29bの中央部29cと、
連結部位29bの中央部29cが切断されたとき、タイミングチェーン5の張力を受けて従動スプロケット7の回転状態を保持する軸受として機能するスプロケットベアリング28とを備え、
前記連結部位29bは、トルクリミッタ29、ハブ27からなる円板に、複数の長孔を設けることによって形成され、その連結部位29bの中央部29cはノッチ状の凹みを形成して幅を小さくするとともに薄肉に形成され、
前記ハブ27は、従動軸6に圧入固定され、当該ウォータポンプ10のポンプベアリング13の故障により従動軸6がロックして前記連結部位29bが切断された際に、切断された前記トルクリミッタ29の一部は前記ハブ27に保持されるとともに前記トルクリミッタ29の環状本体29aは前記従動スプロケット7と共に回転状態を維持するウォータポンプ10。」なるものである。

ここで、引用文献2記載の発明の「従動軸6」、「タイミングチェーン5」は本願補正発明の「回転軸」、「動力伝達部材」に相当し、「従動スプロケット7」は、回転軸に固定され、且つ前記回転軸に外部駆動源の回転動力を伝達する動力伝達部材が巻き掛けられる円筒状の部材である限りにおいて、本願補正発明のプーリの「円筒状のリム」に相当する。
そして、引用文献2記載の発明における、トルクリミッタ29とハブ27は一体として、その作用、機能からみて、回転軸に固定され、且つ前記回転軸に外部駆動源の回転動力を伝達する動力伝達部材が掛けられる部材の支持部である限りにおいて、本願補正発明の「プーリの支持部」に相当し、引用文献2記載の発明の「ハブ27」は本願補正発明の「ボス」に相当する。そして、引用文献2記載の発明の「トルクリミッタ29に設けられ、所定以上の負荷がかかると切断されて、タイミングチェーン5からベーン15への回転動力の伝達を断つ、連結部位29b」は、支持部に設けられ、所定値以上の負荷トルクが作用したときに破断して、動力伝達部材から回転軸への回転動力の伝達を断つ破断部である限りにおいて、本願補正発明の「支持部に設けられ、所定値以上の負荷トルクが作用したときに破断して、前記動力伝達部材から前記圧縮回転体への回転動力の伝達を断つ破断部」に相当する。
また、引用文献2記載の発明の「スプロケットベアリング28」は、その作用、機能からみて、本願補正発明の「破断部の破断によって前記回転動力の伝達が断たれたとき、前記動力伝達部材の張力を受けて前記プーリのリムの回転状態を保持する軸受」に相当する。

したがって、引用文献2には、
動力伝達部材からの回転駆動力を従動軸に伝達する円筒状の部材とボスを連結する支持部に設けられ、所定値以上のトルクが生じたときに破断して、動力伝達部材から従動軸への回転動力の伝達を断つ破断部と、
破断部の破断によって回転駆動力の伝達が断たれたとき、動力伝達部材の張力を受けて前記円筒状の部材の回転状態を保持する軸受を備え、
前記破断部は、前記支持部に複数の長孔を設けることによって形成され、
従動軸が回転不能になって前記破断部が破断した際に、破断した支持部の一方は前記円筒状の部材と共に回転状態を維持する、
という技術思想が記載されているものと認められる。

そして、引用文献1記載の発明においては、「回転伝達板6」が回転駆動力を伝達する円板であるので、上記引用文献2記載の技術思想を引用文献1記載の発明に適用し、引用文献1記載の発明を、所定値以上の負荷トルクが作用したときに破断して、動力伝達部材からの回転動力の伝達を断つ破断部を、回転伝達板6の支持部に設けるとともに、破断部の破断によって回転動力の伝達が断たれたとき、動力伝達部材の張力を受けて回転伝達板6の回転状態を保持する軸受を備え、破断部は、回転伝達板6の支持部に複数の長孔を設けることによって形成する構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
また、その適用にあたり、回転動力を伝達する継手の安全装置として、過負荷の作用時には破断し、定常負荷の繰り返しには疲労破壊しない保全性および信頼性の高さが要求されることは、当業者であれば当然認識しているもの(実願昭59-124639号(実開昭61-40515号)のマイクロフィルム(明細書第2頁第16〜20行。))であり、疲労破壊を考慮した上で破断部の寸法をどのような大きさに設定するかは、破断部の材質や、どの程度の負荷トルクが作用したときに破断させるかという事項に応じて、当業者が適宜決定すべき設計的事項である。したがって、上記適用により、その破段部を「径方向の寸法が周方向の寸法よりも小さく形成」し、引用文献1記載の発明を、相違点2に係る本願補正発明のように構成することは、当業者が容易になし得ることである。

さらに、径方向と周方向の寸法の大小関係をただ単に特定するのみでは、本願補正発明が、請求人が審判請求書においてこの大小関係に関して主張するような効果を奏するとも認められない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するので、第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[3]本願発明について
1.以上のとおり、平成15年12月12日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成15年6月23日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりである。

「【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸に固定され、且つ前記回転軸に外部駆動源の回転動力を伝達する動
力伝達部材が掛けられるプーリと、
前記回転軸に固定され、前記回転軸と一体に回転して圧縮動作に関与する圧縮
回転体とを備え、
前記プーリが、前記動力伝達部材が巻き掛けられる円筒状のリムと、前記回転
軸に嵌合されるボスと、前記リムと前記ボスとを連結する支持部とで構成されて
いるクラッチレス圧縮機において、
前記プーリの支持部に設けられ、所定値以上の負荷トルクが作用したときに破
断して、前記動力伝達部材から前記圧縮回転体への回転動力の伝達を断つ破断部
と、
前記破断部の破断によって前記回転動力の伝達が断たれたとき、前記動力伝達
部材の張力を受けて前記プーリのリムの回転状態を保持する軸受とを備え、
前記破断部は、前記支持部に、複数の長孔を設けることによって形成され、
前記ボスは、前記回転軸に固定され、当該圧縮機が回転不能になって前記破断
部が破断した際に、破断した前記支持部の一方は前記ボスに保持されるとともに
前記支持部の他方は前記リムと共に回転状態を維持することを特徴とするクラッ
レス圧縮機。」

2.引用文献記載の発明
引用文献1、2には、上記[2]2.のとおりのものが記載されている。

3.対比、判断
本願補正発明は、本願発明をさらに限定するものであることから、本願補正発明が、上記のとおり、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-10 
結審通知日 2006-03-28 
審決日 2006-03-29 
出願番号 特願平7-151037
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
P 1 8・ 575- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 大橋 康史
特許庁審判官 関 義彦
清田 栄章
発明の名称 クラッチレス圧縮機  
代理人 小竹 秋人  
代理人 大貫 和保  

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