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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1137179
審判番号 不服2004-18328  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-04-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-03 
確定日 2006-05-26 
事件の表示 特願2000-303573「複合磁気ヘッド装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月19日出願公開、特開2002-117517〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年10月3日の出願であって、平成16年2月2日付けで手続補正がなされ、その後平成16年7月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年9月3日に審判が請求されるとともに、平成16年9月28日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成16年9月28日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成16年9月28日付け手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前の
(a) 「【請求項1】磁気記録媒体に相対するスライダーブロックに、作動ギャップを有する高記録密度用と標準記録密度用の2個の磁気コアと、夫々の前記磁気コアに1個づつ装填されたコイルとを有するスライダーを備えた複合磁気ヘッド装置において、
前記スライダーブロックが、前記高記録密度用の磁気コアを装着する一方のレール部と、前記標準記録密度用磁気コアからなり、前記一方のレール部と対向するように1対のコア体を突き合わせたバルクタイプの磁気コアにより構成された他方のレール部とを備え、前記スライダーの回転中心に対し、前記標準記録密度用磁気コアのコイルを前記高記録密度用磁気コアのコイルと回転対称な位置になるように配置し、前記標準記録密度用磁気コアの作動ギャップ及びコイルを前記スライダーの流入端側に設けたことを特徴とする複合磁気ヘッド装置。」を、
(b) 「【請求項1】磁気記録媒体に相対するスライダーブロックに、作動ギャップを有する高記録密度用と標準記録密度用の2個の磁気コアと、夫々の前記磁気コアに1個づつ装填されたコイルとを有するスライダーを備えた複合磁気ヘッド装置において、
前記スライダーブロックが、前記高記録密度用の磁気コアを装着する凹部を備えた一方のレール部と、前記標準記録密度用磁気コアを兼ねており、前記一方のレール部と対向するように1対のコア体を突き合わせたバルクタイプの磁気コアにより構成され、前記一方のレール部と同等の高さと前記一方のレール部及び前記凹部と同等の長さを有する他方のレール部とを備え、
前記スライダーの回転中心に対し、前記標準記録密度用磁気コアのコイルを前記高記録密度用磁気コアのコイルと回転対称な位置になるように配置し、
前記標準記録密度用磁気コアの作動ギャップ及びコイルを前記スライダーの流入端側に設けたことを特徴とする複合磁気ヘッド装置。」
と補正するものである。
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明の「一方のレール部」について、「凹部を備えた」との限定を付加し、「他方のレール部」について、「標準記録密度用磁気コアからなり」を「標準記録密度用磁気コアを兼ねており」とするとともに、「前記一方のレール部と同等の高さと前記一方のレール部及び前記凹部と同等の長さを有する」との限定を付加するものである。
本件補正の、「他方のレール部」が「前記一方のレール部と同等の高さと前記一方のレール部及び前記凹部と同等の長さを有する」構成、特に「前記一方のレール部と同等の高さを有する」構成は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されていない。請求人が根拠とする図1及び図3(a)(b)(c)には、複合磁気ヘッドの一実施例の斜視図(図1)、複合磁気ヘッドのスライダーの一実施例の展開図(図3(a)正面図、(b)背面図、(c)左側面図、(d)上面図)が記載されているが、上記図は明細書の説明を補うための概略図であって、各寸法を精確に図示するものではないから、上記図に基いて、一方のレール部と他方のレール部が同等の高さを有するとは、必ずしもいえない。よって、「前記一方のレール部と同等の高さを有する」構成は、当初明細書等に記載した事項の範囲内であるということはできない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2.
なお、本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものとしたとき、補正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「補正後の発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下検討する。

(1)引用例
(1-1) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-212818号公報(以下「引用例1」という。)には、磁気ディスク用磁気ヘッドに関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア)「【請求項1】一体形成されたスライダに複数の切欠を設け、
前記複数の切欠の夫々に記録密度の異なる各ヘッドコアを挿入し、前記記録密度の異なる複数のヘッドコアを同一の前記スライダに取り付けたことを特徴とする磁気ディスク用磁気ヘッド。
【請求項2】〜【請求項4】(略)
【請求項5】前記請求項1記載の磁気ディスク用磁気ヘッドであって、
前記第1のヘッドコアが挿入される第1の切欠を前記スライダの一面に開口するように設け、
前記第2のヘッドコアが挿入される第2の切欠を前記スライダの一面と反対側の他面に開口するように設け、
前記複数のヘッドコアを互い違いとなる位置に取り付けたことを特徴とする磁気ディスク用磁気ヘッド。」
(イ)「【0018】【発明の実施の形態】つぎに本発明の実施例について図面と共に説明する。図1は本発明の一実施例である磁気ヘッドの構成を示す分解斜視図である。磁気ヘッド11は、同一のスライダ12に記憶容量100MB用の高密度記録用ヘッドコア13と記憶容量1MB又は2MB用の通常記録用ヘッドコア14とが一体的に組み込まれている。」
(ウ)【0021】また、スライダ12のディスク摺動面12aには、磁気ディスクに対するヘッド圧を安定させるため、磁気ディスク(図示せず)の回転方向であるA方向に延在する溝12b〜12dが設けられている。さらに、ディスク摺動面12aの周縁部分は、磁気ディスクの記録面を傷つけないように保護するため、面取り加工が施され、スライダ12のディスク摺動面12aの周縁部分に傾斜面26が形成されている。
【0022】高密度記録用ヘッドコア13は、コ字状に形成された一対のコア半体13a,13bを突き合わせて一体化したものであり、上面側の突き合わされた部分にはギャップ20が形成されている。また、一方のコア半体13aには、記録再生を行うコイル21が巻回されている。
【0023】尚、記憶容量100MB用の磁気ディスクでは、より高密度記録を行うため、トラック幅が狭くなっている。これに対応してヘッドコア13は、ギャップ20を有する上部が階段状に形成され、幅狭形状となっている。また、通常記録用ヘッドコア14は、コ字状に形成された一対のコア半体14a,14bを突き合わせて一体化したものであり、上面側の突き合わされた部分にはギャップ22が形成されている。そして、一方のコア半体14aには、記録再生を行うコイル23が巻回されている。」
(エ)「【0037】図8は本発明の別の変形例を示す図である。この変形例の磁気ヘッド33は、スライダ12の一方の側面に第1の切欠15が設けられ、その反対側の側面に第2の切欠16が設けられている。また、切欠15と切欠16とは、トラック幅方向上ずれた位置で磁気ディスク(図示せず)の回転方向(A方向)に延在するように設けられている。
【0038】さらに、スライダ12の一方の側面には、第1の切欠15と交差するように延在するコイル巻回用溝17が設けられていると共に、スライダ12の反対側の側面には、第2の切欠16と交差するように延在するコイル巻回用溝32が設けられている。
【0039】そして、第1の切欠15にはスライダ12の一方の側面から高密度記録用ヘッドコア13が挿入されて固着され、第2の切欠16にはスライダ12の反対側の側面から通常記録用ヘッドコア14が挿入されて固着される。その後、高密度記録用ヘッドコア13には、コイル巻回用溝17を通してコイル21が巻回され、続いて通常記録用ヘッドコア14にもコイル巻回用溝32を通してコイル23が巻回される。
【0040】このように構成された磁気ヘッド33では、高密度記録用ヘッドコア13と通常記録用ヘッドコア14とが互い違いにとなるように組み込まれているため、スライダ12の上方からみると、高密度記録用ヘッドコア13とヘッドコア14とがスライダ12のディスク摺動面12aの対角位置に配置される。そのため、ヘッドコア13とヘッドコア14とは、互いに最も離間した位置に組み込まれることになり、スライダ12の強度を確保できると共に、ヘッドコア13とヘッドコア14が相互に干渉することを防止しうる。」
(オ)図1、図2、図6、図8には、略直方体形状のスライダ12のディスク摺動面12aには、磁気ディスク回転方向に延在する幅広の溝12dの両側に、通常記録用ヘッドコアが固着された摺動面凸部と、高密度記録用ヘッドコアが固着された摺動面凸部とが図示されている。

(1-2) 同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-113439号公報(平成12年4月21日出願公開。以下「引用例2」という。)には、複合型磁気ヘッドに関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(カ)「【0002】【従来の技術】最近になって、可撓性の磁気記録媒体に対して磁気記録を行う複合型磁気ヘッドの開発が進められている。この複合型磁気ヘッドは、磁気記録媒体に対して非接触状態で動作する第2の磁気ヘッドと、磁気記録媒体に対して接触状態で動作する第1の磁気ヘッドとがスライダに取り付けられてなるものである。第1の磁気ヘッドとしては、例えば、トラック幅が大きい摺動式磁気ヘッドを例示でき、第2の磁気ヘッドとしては、例えば、トラック幅の小さい浮上式磁気ヘッドを例示できる。(略)
【0003】ここで、従来の複合型磁気ヘッドの製造方法を図15を参照して説明する。まず、磁性材料からなるハーフコア11、12を図示略のギャップ層を挟んで接合することにより、接合補強穴19と巻線穴13を有し、かつギャップ幅を規定する低融点ガラス16・・・が埋め込まれてなる第2の磁気ヘッド1を製造する。また、非磁性材料からなるブロック2の一面21にブロック2の長手方向に沿って複数の挿入溝22・・・を形成すると共に、ブロック2の長手方向に向けて延在して前記各挿入溝22・・・と連通する巻線用溝23を一面21に形成することにより、スライダブロック24を製造する。次に、第2の磁気ヘッド1・・・の巻線穴13・・・とスライダブロック24の巻線用溝23の位置とが一致するように、スライダブロック24の各挿入溝22・・・に第2の磁気ヘッド1・・・を挿入して、スライダ前駆体3を製造する。次に、このスライダ前駆体3を長手方向に等間隔に切断してスライダ6とし、スライダ6の上面6a及び下面6bを研磨して第2の磁気ヘッド1のギャップ深さを調整する。次に、スライダ6の側壁面に第1の磁気ヘッド4を取り付け、第2の磁気ヘッド1の巻線穴13に巻線し、各磁気ヘッド1、4の媒体対向面を所定の形状に成形して、複合型磁気ヘッド5を製造する。」

(2)対比
補正後の発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
上記(1)で摘示した記載事項、特に(ア)(ウ)(エ)(オ)(下線部参照)によれば、引用例1には、
「一体形成されたスライダに複数の切欠を設け、複数の切欠の夫々に記録密度の異なる各ヘッドコアを挿入し、記録密度の異なる複数のヘッドコアを同一のスライダに取り付けた磁気ディスク用磁気ヘッドであって、
高密度記録用ヘッドコアが挿入される第1の切欠をスライダの一面に開口するように設け、通常記録用ヘッドコアが挿入される第2の切欠をスライダの一面と反対側の他面に開口するように設け、
複数のヘッドコアを互い違いとなる位置に取り付けられ、スライダの上方からみると、高密度記録用ヘッドコアと通常記録用ヘッドコアとがスライダのディスク摺動面の対角位置に配置され、
高密度記録用ヘッドコアは、コ字状に形成された一対のコア半体を突き合わせて一体化したものであり、上面側の突き合わされた部分にはギャップが形成され、通常記録用ヘッドコアは、コ字状に形成された一対のコア半体を突き合わせて一体化したものであり、上面側の突き合わされた部分にはギャップが形成され、
高密度記録用ヘッドコアにはコイルが巻回され、通常記録用ヘッドコアにもコイルが巻回され、
スライダのディスク摺動面には、磁気ディスクの回転方向に延在する幅広の溝が設けられ、その両側に、通常記録用ヘッドコアが固着された摺動面凸部と、高密度記録用ヘッドコアが固着された摺動面凸部とが設けられている、磁気ヘッド。」
の発明が記載されている。

引用例1に記載された発明の「磁気ディスク」「スライダ」「ギャップ」「高密度記録用ヘッドコア」「通常記録用ヘッドコア」「幅広の溝」「磁気ディスク用磁気ヘッド」は、それぞれ補正後の発明の「磁気記録媒体」「スライダー」「作動ギャップ」「高記録密度用磁気コア」「標準記録密度用磁気コア」「凹部」「複合磁気ヘッド装置」に相当している。
引用例1に記載された発明の「磁気ヘッド」は、「一体形成されたスライダに複数の切欠を設け、複数の切欠の夫々に記録密度の異なる各ヘッドコアを挿入し、記録密度の異なる複数のヘッドコアを同一のスライダに取り付けた磁気ディスク用磁気ヘッド」であって、「高密度記録用ヘッドコアは、コ字状に形成された一対のコア半体を突き合わせて一体化したものであり、上面側の突き合わされた部分にはギャップが形成され、通常記録用ヘッドコアは、コ字状に形成された一対のコア半体を突き合わせて一体化したものであり、上面側の突き合わされた部分にはギャップが形成され、高密度記録用ヘッドコアにはコイルが巻回され、通常記録用ヘッドコアにもコイルが巻回され」ているから、「磁気記録媒体に相対するスライダーブロックに、作動ギャップを有する高記録密度用と標準記録密度用の2個の磁気コアと、夫々の前記磁気コアに1個づつ装填されたコイルとを有するスライダーを備えた複合磁気ヘッド装置」といえる。
補正後の発明の「凹部を備えた一方のレール部」の「凹部」については、出願当初の明細書の「ディスク摺動面Mは、レール部8、9の間が、図示していない磁気ディスクの回転方向R方向に沿って凹部になるように加工される。」(段落18)に基づき補正したと請求の理由においてその補正の根拠が説明されており、補正された明細書に「一方のレール部8(レール部8は、後述する段落「0022」で説明するように凹部を備えている。)が設けられているスライダーブロック片2(レール部8及び凹部からなっている。)について説明する。」(段落14)及び「スライダー25のディスク摺動面Mは、レール部8、9の間が、図示していない磁気ディスクの回転方向R方向に沿って凹部(符号省略)になるように加工され」(段落22)と記載されていることから、「凹部」とは、レール部8と9の間の凹部のことを意味しているので、引用例1に記載された発明の「高密度記録用ヘッドコアが固着された摺動面凸部」「幅広の溝」「通常記録用ヘッドコアが固着された摺動面凸部」は、それぞれ補正後の発明の「一方のレール部」「凹部」「他方のレール部」に相当している。
引用例1に記載された発明の「通常記録用ヘッドコア」は、「コ字状に形成された一対のコア半体を突き合わせて一体化したものであり、上面側の突き合わされた部分にはギャップが形成され」ているから、「1対のコア体を突き合わせたバルクタイプの磁気コア」であるといえる。
引用例1に記載された発明は、「高密度記録用ヘッドコアが挿入される第1の切欠をスライダの一面に開口するように設け、通常記録用ヘッドコアが挿入される第2の切欠をスライダの一面と反対側の他面に開口するように設け、複数のヘッドコアを互い違いとなる位置に取り付けられ、スライダの上方からみると、高密度記録用ヘッドコアと通常記録用ヘッドコアとがスライダのディスク摺動面の対角位置に配置され」ているところ、高密度記録用ヘッドコアは、スライダーの流出端側に設けられることが当業者の技術常識であるから、本願の明細書にも従来の技術として引用例1を引用して説明されているように、引用例1に記載された発明において、高記録密度用磁気コアはスライダーの流出端側に設けられ、標準記録密度用磁気コアはスライダーの流入端側に設けられている。

よって、補正後の発明と引用例1に記載された発明は、
「【請求項1】磁気記録媒体に相対するスライダーブロックに、作動ギャップを有する高記録密度用と標準記録密度用の2個の磁気コアと、夫々の前記磁気コアに1個づつ装填されたコイルとを有するスライダーを備えた複合磁気ヘッド装置において、
前記スライダーブロックが、前記高記録密度用の磁気コアを装着する凹部を備えた一方のレール部と、前記標準記録密度用磁気コアを有する他方のレール部とを備え、
標準記録密度用磁気コアの作動ギャップ及びコイルをスライダーの流入端側に設けた複合磁気ヘッド装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1) 補正後の発明では、「スライダーの回転中心に対し、標準記録密度用磁気コアのコイルを高記録密度用磁気コアのコイルと回転対称な位置になるように配置し」と特定されているのに対して、引用例1に記載された発明では、コイルを備える高記録密度用磁気コアとコイルを備える標準記録密度用磁気コアとがスライダーのディスク摺動面の対角位置に配置されていると記載されている点。
(相違点2) 「他方のレール部」について、補正後の発明では、「標準記録密度用磁気コアを兼ねており、一方のレール部と対向するように1対のコア体を突き合わせたバルクタイプの磁気コアにより構成され、一方のレール部と同等の高さと一方のレール部及び凹部と同等の長さを有する」と特定されているのに対して、引用例1に記載された発明では、標準記録密度用磁気コアを他方のレール部の切欠に挿入して固着されている点。

(3)判断
(相違点1について)
引用例1に記載された発明では、高記録密度用磁気コアと標準記録密度用磁気コアとが、略直方体形状のスライダーにおいて、スライダー上方からみると、略矩形状のスライダーの対角位置に配置されているのであるから、高記録密度用磁気コアに巻回されるコイルと標準記録密度用磁気コアに巻回されるコイルとが互いにスライダーの対角位置に配置されていることが明らかである。ところで、補正後の発明の「回転中心に対し」「回転対称な位置」となるように配置するという意味は、対角にかぎるものではないが、引用例1に記載されたような、略矩形状のスライダーの対角位置に配置されているものをみれば、スライダーの回転中心に対し、標準記録密度用磁気コアのコイルを高記録密度用磁気コアのコイルと回転対称な位置になるように配置すると特定することは当業者が適宜なし得ることである。
(相違点2について)
引用例1に記載された発明では、他方のレール部に設けられる標準記録密度用磁気コアを、レール部に設けた切欠に挿入して、スライダーに一体化している。一般に、磁気コアをスライダーに一体化する構造として、スライダーに設けた切欠に挿入して一体化する構造、複数のスライダーブロックの間に磁気コアを接着する構造の他に、スライダーブロックの側面に磁気コアを接着して一体化する構造が、周知の事項である。引用例1に記載された磁気ヘッドにおいて、スライダーに磁気コアを一体化する構造として周知の事項の構造を採用することは適宜なし得るところ、引用例2には、スライダーブロックの側面に磁気コアを接着して一体化する構造であって、標準記録密度用磁気コアで、他方のレール部を形成する技術が記載されているから、引用例1に記載された発明の、他方のレール部の構造を、一方のレール部と対向するように、1対のコア体を突き合わせたバルクタイプの磁気コアにより構成し、標準記録密度用磁気コアを兼ねるようにし、その際、両レール部の高さ、両レール部及び凹部の長さを、引用例1に記載された略直方体形状にならって、それぞれ同等とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

そして、上記相違点を総合的に検討しても、補正後の発明の効果は、引用例1及び2に記載された発明から当業者であれば予測される範囲内であるので、上記相違点は、当業者が容易に想到し得たものである。
なお、請求人は、「(イ)標準記録密度用磁気コアは、スライダーブロックの他方のレール部を構成する事で標準記録密度用磁気コアをスライダーの流入端側に設けてもガラス接着層がないので、ガラスの微粒子などの摩耗粉が磁気ヘッドと磁気ディスクの間に入り込み両者の接触を不安定にさせる事が無くなると共に、磁気ヘッドや磁気ディスクを傷つける事をなくすることが出来る。」と主張している。しかし、標準記録密度用磁気コアで、他方のレール部を構成することは、引用例2に記載された構造であって、ガラスの微粒子が磁気ヘッドと磁気ディスクの間に入り込まないという作用効果は、コア接着のためのガラス接着層がレール部にない引用例2の構造が有している作用効果であり当業者であれば予測される範囲内のことにすぎない。
また、請求人は、「(ウ)構成(スライダーブロックが、高記録密度用の磁気コアを装着する凹部を備えた一方のレール部と、標準記録密度用磁気コアを兼ねており、前記一方のレール部と対向するように1対のコア体を突き合わせたバルクタイプの磁気コアにより構成され、前記一方のレール部と同等の高さと前記一方のレール部及び凹部と同等の長さを有する他方のレール部とを備え)を有しているので、スライダーブロックを全体として略直方体に形成でき、これに伴い突起部分の形成が抑制されシンプルな形状となり、この分、生産工程での破損発生を抑制でき、さらに、周囲部材との干渉抑制を容易に行えるようになる。」と主張している。しかし、作用効果についての主張は、補正された明細書等や当初の明細書等に記載がないので、根拠のない主張であり、また新たな作用効果の主張でもあって採用できないものであるが、スライダーブロック全体として略直方体に形成し、突起部分の形成を抑制してシンプルな形状とすることは引用例1からも明らかな周知の技術課題であるから、引用例2に記載された発明を引用例1に記載された発明に適用した際、他方のレール部を、一方のレール部と同等の高さと一方のレール部及び凹部と同等の長さを有するようにすることは、当業者が必要に応じ適宜なし得ることである。

(4)むすび
以上のとおり、補正後の発明は、上記引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成16年9月28日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年2月2日付け手続補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】上記「第2の1の(a)」のとおり。」

1.引用例
原審の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項は、上記「第2の2」に記載されたとおりである。

2.対比判断
本願発明は、上記「第2」で検討した補正後の発明から、「一方のレール部」についての限定事項である「凹部を備えた」という構成を省き、「他方のレール部」についての限定事項である「(標準記録密度用磁気コア)を兼ねており」「前記一方のレール部と同等の高さと前記一方のレール部及び前記凹部と同等の長さを有する」という構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正後の発明が、上記「第2の2(2)、(3)」に記載したとおり、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-16 
結審通知日 2006-03-22 
審決日 2006-04-12 
出願番号 特願2000-303573(P2000-303573)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 561- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 達也  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 中村 豊
相馬 多美子
発明の名称 複合磁気ヘッド装置  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 萼 経夫  
代理人 中村 壽夫  
代理人 小野塚 薫  

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