ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B |
---|---|
管理番号 | 1137320 |
審判番号 | 不服2003-17732 |
総通号数 | 79 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-12-21 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-09-11 |
確定日 | 2006-05-31 |
事件の表示 | 平成10年特許願第163530号「超音波診断装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月21日出願公開、特開平11-347035〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成10年6月11日の出願であって、平成15年7月30日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月11日に審判請求が行われるとともに、同年10月10日付けで手続補正が行われたものである。 2.平成15年10月10日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成15年10月10日付け手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の請求項1に記載された発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のとおりに補正された。 「検査部位に超音波を送信すると共に反射波を受信する超音波探触子と、 この超音波探触子からの受信信号に互いに90度位相の異なる参照信号を乗算して複素の受信信号を得て受信信号波形を合成する周波数帯域を移動して波形を変換する波形変換手段、この波形変換手段からの受信信号に対し遅延処理を行う遅延処理手段、及びこの遅延処理手段からの出力信号を加算する加算手段、並びにこの加算手段で加算された受信ビームの周波数帯域を制限して使用する受信ビームの周波数帯域のみを検出するフィルタ手段、を有する受信処理手段と、 この受信処理手段で形成された受信ビームから検査部位を映像化し又はその受信ビームのドプラシフト成分を音声化及び映像化する手段と、 を備えた超音波診断装置において、 上記受信処理手段の遅延処理手段は、波形変換手段からの受信信号に対し遅延処理を行ったものに位相回転を行って受信信号の位相を補正する位相補正手段を備え、 且つ上記受信処理手段のフィルタ手段は、上記遅延処理手段及び加算手段で整相加算された受信ビームの周波数帯域を制限するための複数の異なるフィルタ係数の中から適宜のフィルタ係数を選択する係数選択手段を備えた、ことを特徴とする超音波診断装置。」(下線部分は、補正箇所である。以下、補正後の請求項1に記載された発明を、「本願補正発明」という。) 本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「受信処理手段」について「・・・波形変換手段、この波形変換手段からの受信信号に対し遅延処理を行う遅延処理手段、及びこの遅延処理手段からの出力信号を加算する加算手段、並びにこの加算手段で・・・フィルタ手段、を有する」との限定を付加し、またその中の「遅延処理手段」について「波形変換手段からの受信信号に対し遅延処理を行ったものに位相回転を行って受信信号の位相を補正する位相補正手段を備え、」との限定を付加するものであって、平成15年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するか)について検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用した、本願出願日前に頒布された刊行物である特開平3-159638号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、「超音波診断装置」の発明が記載されており、図面とともに次の記載がある。 ア.「第1図は本発明の超音波診断装置の第1の実施例を示すブロック図で、1は超音波プローブで複数の振動子がアレイ状に配置されて成り送信部2から印加されたパルスによって例えば図のようにセクタ状に超音波を送信すると共に、被検体である生体から反射されたエコー信号を受信する。3はプリアンプで受信されたエコー信号を増幅し、この増幅出力は遅延加算部4によって各振動子ごとの信号が整相加算される。 5は周波数変換部でスイープ信号発生部6からの参照信号と遅延加算部4から出力されるエコー信号を乗算して低周波に周波数変換を行う。7はfo(中心周波数),fc(カットオフ周波数)データ発生部で予め所望のfo,fcデータを設定して、foデータを前記スイープ信号発生部6に加えると共に、fcデータを後述の高域除去フィルタ部8に加える。スイープ信号発生部6はこのfoデータに基いて制御された周波数の参照信号を前記周波数変換部5に加えることになる。この参照信号はエコー信号の中心周波数foが経時的に変換されるように変化する。これにより周波数変換部5はエコー信号の中心周波数foを低周波に変換するように動作する。 8は高域除去フィルタ部でfcデータにより制御されてカットオフ周波数fcが変化し、周波数変換部5によって低周波に変換されて出力されたエコー信号の低域成分のみを通過させるように動作する。9は検波部で高域除去フィルタ部8から出力されたエコー信号から、必要な診断情報を取出すため包絡線検波を行って低周波成分のみを取出すためのものである。10はDSC(デジタルスキャンコンバータ)部で検波出力信号を超音波画像としてCRTディスプレイ等のモニタ11に表示可能となるように、走査方式を超音波走査方式からTV変換方式へと変換するためのものである。 次に本実施例の作用を説明する。 遅延加算部4から整相加算されて出力されたエコー信号は、foデータに基いて変換中心周波数が低周波に変化するように制御された参照信号と共に周波数変換部5に加えられることにより、低周波に周波数変換される。続いて低周波に変換されたエコー信号は、fcデータに基いてfcが変化するような特性に設定された高域除去フィルタ部8に加えられてフィルタ処理が行われることにより、高域成分がカットされる。次にこのフィルタ出力は検波部9に加えられて低周波成分が取出されることにより診断情報が得られる。 このような本実施例によれば、エコー信号をフィルタ処理するに際して予めエコー信号を低周波に周波数変換し、この低周波に変換されたエコー信号に対してフィルタ処理を行うので、従来のように高周波のままのエコー信号を直接フィルタ処理することは行わないため、広い帯域のフィルタは不要となる。これによりエコー信号の利得が低下することはなくなり、またストレーキャパシタンスの影響を受けることなく最適なS/Nでフィルタ処理を行うことができる。さらにピーキング処理等によって利得の補正を行うような煩雑な処理も不要となる。」(第2頁左下欄第8行から第3頁右上欄第7行) イ.「第3図は本発明の第2の実施例を示すもので、クワドラチャーサンプリングを行う場合に適用した例を示すものである。クロックジェネレー夕部12からのsin及びcosの各成分の参照信号がA/D変換部13に加えられ、各成分に対応した2チャンネルのエコー信号(Re成分及びIm成分)がデジタル高域除去フィルタ部14に加えられてフィルタ処理された後、デジタル遅延加算部15によって整相加算が施こされて検波が行われる。本実施例ではエコー信号をデジタル的に扱う点を除いては、第1の実施例と同様な動作が行われて同様な効果を得られる。第4図は第3図の変形例を示すものでデジタル高域除去フィルタ部14とデジタル遅延加算部15との位置を入換えた例を示している。本例ではデジタル遅延加算部15によって整相加算されたエコー信号に対してデジタル高域除去フィルタ部14によってフィルタ処理が行われる点を除き、第2の実施例と同様な動作が行われて同様な効果を得ることができる。」(第3頁右上欄第15行から左下欄第13行) そして、これらの記載、特に第4図及びその説明箇所の記載から、引用刊行物には「セクタ状に超音波を送信すると共に、被検体である生体から反射されたエコー信号を受信する超音波プローブ1と、この超音波プローブ1からのエコー信号にsin及びcosの各成分の参照信号が加えられ、各成分に対応した2チャンネルのエコー信号(Re成分及びIm成分)を得て低周波に周波数変換を行うA/D変換部13と、このA/D変換部13からのエコー信号を整相加算するデジタル遅延加算部15と、整相加算されたエコー信号に対してエコー信号の低域成分のみを通過させるようなフィルタ処理が行われるデジタル高域除去フィルタ部14と、フィルタ処理されたエコー信号から包絡線検波を行って低周波成分のみを取出す検波部9と、検波出力信号をモニタ11に表示可能となるようにTV変換方式へと変換するDSC(デジタルスキャンコンバータ)部10と、超音波画像を表示するモニタ11とを備えた超音波診断装置。」(引用刊行物記載の発明)が記載されているものと認められる。 (3)対比・判断 本願補正発明と上記引用刊行物記載の発明とを対比する。 引用刊行物記載の発明の「セクタ状に超音波を送信すると共に、被検体である生体から反射されたエコー信号を受信する超音波プローブ1」が、本願補正発明の「検査部位に超音波を送信すると共に反射波を受信する超音波探触子」に相当することは明らかである。 引用刊行物記載の発明の「エコー信号」、「sin及びcosの各成分の参照信号」及び「各成分に対応した2チャンネルのエコー信号(Re成分及びIm成分)」がそれぞれ本願補正発明の「受信信号」、「互いに90度位相の異なる参照信号」及び「複素の受信信号」に相当することが明らかであるから、引用刊行物記載の発明の「この超音波プローブ1からのエコー信号にsin及びcosの各成分の参照信号が加えられ、各成分に対応した2チャンネルのエコー信号(Re成分及びIm成分)を得て低周波に周波数変換を行うA/D変換部13」は、本願補正発明の「この超音波探触子からの受信信号に互いに90度位相の異なる参照信号を乗算して複素の受信信号を得て受信信号波形を合成する周波数帯域を移動して波形を変換する波形変換手段」に相当するものである。また、引用刊行物記載の発明の「このA/D変換部13からのエコー信号を整相加算するデジタル遅延加算部15」は、エコー信号の遅延及び加算を行うものであるから、本願補正発明の「この波形変換手段からの受信信号に対し遅延処理を行う遅延処理手段」及び「この遅延処理手段からの出力信号を加算する加算手段」に相当するものである。また、引用刊行物記載の発明の「整相加算されたエコー信号に対してエコー信号の低域成分のみを通過させるようなフィルタ処理が行われるデジタル高域除去フィルタ部14」は、本願補正発明の「この加算手段で加算された受信ビームの周波数帯域を制限して使用する受信ビームの周波数帯域のみを検出するフィルタ手段」に相当するものである。そして、引用刊行物記載の発明のこれら「A/D変換部13」、「デジタル遅延加算部15」及び「デジタル高域除去フィルタ部14」は、本願補正発明の「受信処理手段」を構成しているということができる。 さらに、引用刊行物記載の発明の「フィルタ処理されたエコー信号から包絡線検波を行って低周波成分のみを取出す検波部9」、「検波出力信号をモニタ11に表示可能となるようにTV変換方式へと変換するDSC(デジタルスキャンコンバータ)部10」及び「超音波画像を表示するモニタ11」が、本願補正発明の「この受信処理手段で形成された受信ビームから検査部位を映像化する手段」に相当することも、明らかである。 してみると、両者は「検査部位に超音波を送信すると共に反射波を受信する超音波探触子と、この超音波探触子からの受信信号に互いに90度位相の異なる参照信号を乗算して複素の受信信号を得て受信信号波形を合成する周波数帯域を移動して波形を変換する波形変換手段、この波形変換手段からの受信信号に対し遅延処理を行う遅延処理手段、及びこの遅延処理手段からの出力信号を加算する加算手段、並びにこの加算手段で加算された受信ビームの周波数帯域を制限して使用する受信ビームの周波数帯域のみを検出するフィルタ手段、を有する受信処理手段と、この受信処理手段で形成された受信ビームから検査部位を映像化し又はその受信ビームのドプラシフト成分を音声化及び映像化する手段と、を備えた超音波診断装置。」である点で一致し、次の点で相違すると認められる。 (相違点1) 受信処理手段の遅延処理手段について、本願補正発明では、波形変換手段からの受信信号に対し遅延処理を行ったものに位相回転を行って受信信号の位相を補正する位相補正手段を備えているのに対し、引用刊行物には、この構成は記載されていない点。 (相違点2) 受信処理手段のフィルタ手段について、本願補正発明では、遅延処理手段及び加算手段で整相加算された受信ビームの周波数帯域を制限するための複数の異なるフィルタ係数の中から適宜のフィルタ係数を選択する係数選択手段を備えているのに対し、引用刊行物には、この構成は記載されていない点。 上記相違点について検討する。 相違点1について、 超音波診断装置において、複数の受信信号を整相加算する際に、遅延処理手段に、位相回転を行って受信信号の位相を補正する位相補正手段を設けて、複数の受信信号を波面を合わせるようにすることは、特開平9-19429号公報(位相回転部5に関する記載参照)や特開平5-228147号公報(位相回転装置205に関する記載参照)にみられるように周知の技術であって、この周知技術を、同様に複数の受信信号を整相加算する超音波診断装置である引用刊行物記載の発明に用いることは当業者ならば容易に想到し得ることである。 相違点2について、 デジタルフィルタにおいて、信号通過帯域の帯域幅等の特性を変更するために、複数の異なるフィルタ係数の中から適宜のフィルタ係数を選択する係数選択手段を備えることは極めて周知の技術であり、また、超音波診断装置の受信処理手段のフィルタ手段として、複数の異なるフィルタ係数の中から適宜のフィルタ係数を選択する係数選択手段を備えたデジタルフィルタを用いることも特開平9-131343号公報や特開平6-245932号公報にみられるように周知技術である。そして、引用刊行物記載の発明の「デジタル高域除去フィルタ部14」も、上記摘記事項ア.に「低周波に変換されたエコー信号は、fcデータに基いてfcが変化するような特性に設定された高域除去フィルタ部8に加えられてフィルタ処理が行われることにより、高域成分がカットされる。」と記載されているように、信号通過帯域の特性を変更するものであるから、「デジタル高域除去フィルタ部14」に、複数の異なるフィルタ係数の中から適宜のフィルタ係数を選択する係数選択手段を備えたフィルタ手段を用いることは当業者が適宜採用するものと認められる。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用刊行物記載の発明及び上記周知技術から当業者であれば予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明は、引用刊行物記載の発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 (4)むすび 以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明 平成15年10月10日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年5月23日付け手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された次のとおりのものである。 「検査部位に超音波を送信すると共に反射波を受信する超音波探触子と、 この超音波探触子からの受信信号に互いに90度位相の異なる参照信号を乗算して複素の受信信号を得て、受信信号波形を合成する周波数帯域を移動して波形を変換し、整相加算された受信ビームの周波数帯域を制限することにより使用する受信ビームの周波数帯域のみを検出して受信ビームを形成する受信処理手段と、 上記形成された受信ビームから検査部位を映像化し、又はその受信ビームのドプラシフト成分を音声化及び映像化する手段と、 を備えた超音波診断装置において、 上記受信処理手段は、整相加算された受信ビームの周波数帯域を制限するための複数の異なるフィルタ係数を有しその中から適宜のフィルタ係数を選択する係数選択手段を備えたことを特徴とする超音波診断装置。」 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用した引用刊行物、及びその記載事項は上記「2.(2)引用例」に記載したとおりである。 (3)対比・判断 本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「受信処理手段」の限定事項である「・・・波形変換手段、この波形変換手段からの受信信号に対し遅延処理を行う遅延処理手段、及びこの遅延処理手段からの出力信号を加算する加算手段、並びに・・・フィルタ手段、を有する」との構成を省き、「遅延処理手段」の限定事項である「波形変換手段からの受信信号に対し遅延処理を行ったものに位相回転を行って受信信号の位相を補正する位相補正手段を備え、」との構成を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、引用刊行物記載の発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物記載の発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)むすび 以上のとおり、本願発明は、引用刊行物記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、請求項2及び3に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-03-13 |
結審通知日 | 2006-03-28 |
審決日 | 2006-04-10 |
出願番号 | 特願平10-163530 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 右▲高▼ 孝幸 |
特許庁審判長 |
高橋 泰史 |
特許庁審判官 |
櫻井 仁 ▲高▼見 重雄 |
発明の名称 | 超音波診断装置 |
代理人 | 西山 春之 |