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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1137467
審判番号 不服2003-23588  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-01-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-12-04 
確定日 2006-06-27 
事件の表示 平成10年特許願第182065号「多層配線基板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年1月21日出願公開、特開2000-22338、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成10年6月29日の出願であって、平成15年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年1月5日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成16年1月5日付けの手続補正について
1.補正の内容
平成16年1月5日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、平成15年7月11日付けの手続補正書により補正された明細書を補正しようとするものであって、本件手続補正により補正しようとする請求項1〜請求項6に係る発明(以下、「本願補正発明1」〜「本願補正発明6」という。)をA〜E及びF〜Jの符号を付して分説して記載すると次のとおりである。

「【請求項1】
A:主結晶相の平均結晶粒径が1.5〜5.0μmの酸化アルミニウム質セラミックスからなる複数の絶縁層を積層してなる絶縁基板と、
B:該絶縁基板内部に配設された、銅とタングステンおよび/またはモリブデンを含み、Cu/(Cu+W+Mo)の体積比率が0.3〜0.9の複合材料を主成分とする導体からなる内部配線層と、
C:該絶縁基板表面に配設された、Wおよび/またはMoの導体成分からなる、または銅とタングステンおよび/またはモリブデンを含み、Cu/(Cu+W+Mo)の体積比率が0.3〜0.9の複合材料を主成分とする導体からなる表面配線層と、
を具備してなり、
D:前記内部配線層の周囲の前記セラミックスへの銅の拡散距離が20μm以下であり、
E:且つ前記絶縁基板の前記表面配線層が形成された基板表面が表面粗さ(Ra)が1μm以下の焼き肌面からなる
ことを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】前記酸化アルミニウム質セラミックスの熱伝導率が15W/m・K以上である請求項1記載の多層配線基板。
【請求項3】配線層間の最小線間距離が100μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の多層配線基板。
【請求項4】絶縁層内に複数のビアホール導体が形成されており、該ビアホール導体間の最小離間距離が100μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の多層配線基板。
【請求項5】絶縁基板表面が、研磨加工されていないことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか記載の多層配線基板。
【請求項6】
F:平均粒径が0.5〜2.5μmの酸化アルミニウムセラミック粉末を主成分とする混合粉末からなるシート状成形体表面に、
G:内部配線層用として、少なくとも銅とタングステンおよび/またはモリブデンとの複合材料を導体成分とする導体ペーストを、
H:また表面配線層用として、タングステンおよび/またはモリブデンを導体成分とする、または少なくとも銅とタングステンおよび/またはモリブデンとの複合材料を導体成分とする導体ペーストを、
I:配線パターン状に印刷塗布してなる複数のシート状成形体を積層した後、
J:該積層体を水素および窒素を含む露点-20℃以下の雰囲気中で1400〜1500℃の温度で焼成する
ことを特徴とする多層配線基板の製造方法。」

上記補正は、願書に最初に添付した明細書または図面に記載した技術的事項に基づいて、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「焼き肌面」について、「表面配線層が形成された」との限定を付加し、さらにその「表面配線層」が「Wおよび/またはMoの導体成分からなる、または銅とタングステンおよび/またはモリブデンを含み、Cu/(Cu+W+Mo)の体積比率が0.3〜0.9の複合材料を主成分とする導体からなる」との限定を付加するものであり、請求項6に記載した発明を特定するために必要な事項である「導体ペースト」について、「内部配線層用」の「少なくとも銅とタングステンおよび/またはモリブデンとの複合材料を導体成分とする導体ペースト」と「表面配線層用」の「タングステンおよび/またはモリブデンを導体成分とする、または少なくとも銅とタングステンおよび/またはモリブデンとの複合材料を導体成分とする導体ペースト」であるとの限定を付加するものであるから、新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、上記の本願補正発明1〜本願補正発明6が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-15101号公報(以下、「引用例1」という。)には、「酸化物セラミック回路基板及びその製造方法」に関して、次の事項が記載されている。
ア.「【0007】
【問題点を解決するための手段】上記目的による本発明では、酸化物セラミックを絶縁基材として導体回路が形成されたセラミック回路基板において、該導体回路の内の少なくとも基板内部の導体が銅を配線材料とした銅導体であり、該酸化物セラミックと同時焼成によって形成されたことを特徴としている。またその製造方法は、酸化物粉末を原料とするグリーンシートに、銅を配線材料として平面配線及び/またはビアを設け、該配線部が表面に露出しない様に該配線部を覆ってグリーンシートを積層し一体化した後1083〜1800℃の範囲にある最高温度で焼成することを特徴としている。」

イ.「【0008】該酸化物セラミックはアルミナ(Al2O3)、ムライト(3Al2O3・2SiO2) 、コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)の内の一種の相を主成分とするセラミックである。具体的には純度99%以上の高純度アルミナセラミック、基板やパッケージ材として多用されている純度90〜97程度のアルミナセラミック、数パーセントの焼結助剤を含むムライトセラミックおよび特開平1-317164号に開示されている様なSiO2を含有するムライトセラミックのうちSiO2非晶質相が50%未満のもの、ムライトとアルミナとの複合セラミック、コーディエライトセラミック及びコーディエライトとムライトとの複合セラミック等が含まれる。」

ウ.「【0014】ここで導体回路形成用として用いる銅材料としては、なるべく高純度の材料を用いることが望ましい。銅が不純物を多く含むと一般に融点降下が起こり、そのため酸化物セラミックの緻密化が始まる温度との差が大きくなり、また緻密化が始まる前の酸化物セラミック粉末との濡れ性が変わり、溶融銅が酸化物セラミック中に浸透させやすくするためである。銅粉末を主成分とするペーストを用いる場合はフリットボンドやケミカルボンド型の銅ペーストが市販されているがこれらの使用は一般に好ましくない。酸化物セラミックの原料粉末は緻密化速度を適度に速める目的からなるべく粒径の小さいものが好ましく、少なくとも2μm以下の平均粒径をもつものがよい。また溶融金属との相互作用を小さくするためそれ自体なるべく高純度のものが望ましい。この様な条件を満たす粉末に有機バインダー、可塑剤、有機溶剤等を加えてスラリーとするが、緻密化速度を促進しかつ緻密化の開始温度を下げる目的で一般に焼結助剤を加える。焼結助剤としては周期律表中第2a族元素化合物、周期律表中第3a族元素化合物及びSiO2の内の一種以上が合計で0.1〜50重量パーセント好ましくは1〜20重量パーセントを添加するが、これら成分を全て酸化物として添加するのが最も一般的である。更に具体的には一般に酸化物セラミックの助剤として知られているものが好適に採用され、例えばMgO 、CaO 、CaCO3 、SrO 、BaO 、Y2O3、La2O3 、CeO 、SiO2、3MgO・4SiO2(タルク)、Al2O3・2SiO2(カオリン)等が好適に用いられ、これらを用いる場合は、少なくとも後に述べる条件で焼成する限りは前記した様な溶融銅との間の問題となる相互作用はみられない。」

エ.「【0016】次にこの様なグリーンシートを積層するが、最終的に積層体の表面に前記銅配線が一部でも露出しないように平面配線部あるいはビア端面上にはその表面上にグリーンシートを積層する様にし、加熱加圧および必要に応じグリーンシート中の有機成分と相溶性のある溶剤を塗布して一体化する。加熱加圧の条件は一般的に50℃以上の温度で100Kgf /cm2 以上の圧力とすることが望ましい。この様にして得られた積層体の脱バインダーを非酸化性雰囲気中で行った後、同様に非酸化性雰囲気中1083〜1800℃の温度範囲にある最高温度で焼成を行う。焼成時の最適な最高温度は前記酸化物セラミックの種類と組成により大きく変わり、例えば通常の純度90〜97%アルミナセラミックは1500〜1600℃、純度99%以上の高純度アルミナセラミックの場合は1500〜1800℃(超微粉を用いたものでは1300〜1500℃)、MgO 、Y2O3、CaO 等を添加した95〜99%ムライトセラミックは1450〜1600℃、純度99%以上のムライトは1550〜1700℃、SiO2非晶質相を50重量パーセント以下含むムライトセラミックは、添加するY2O3等の量にもよるが1200〜1600℃、純度80〜99%のコーディエライトセラミックは1000〜1350℃の各範囲に最適な最高温度がある。脱バインダー及び焼成工程における雰囲気は銅の酸化を防ぐために非酸化性とし、具体的には窒素ガスあるいはアンモニア分解ガスが好適に用いられるが、有機成分を効率良く除去するためにはこれらガスの湿潤雰囲気が好適に用いられる。」

オ.「【0018】以上の様な工程及び条件で銅を内部配線として含む酸化物セラミックが得られるが、平面配線を有するものにおいてその配線長が特に長く、配線形成に銅ペーストを用い、該ペースト中の銅の充填率が低い場合、焼成工程中の銅の著しい体積減少と酸化物セラミックの溶融銅に対する濡れ性が低いことなどが原因となり、該配線部に断線がみられることが多い。これを防ぐためには、該銅ペースト中に、チタンを0.1〜5重量%含有させるかあるいはタングステンを10〜50体積パーセント含有させることが有効である。チタンを銅ペーストに添加する場合、該チタンは金属酸化物あるいはその他の化合物として添加して良いが、金属として添加するのが最も好適な結果を与える。前記のごとく、銅と酸化物セラミックとの有害な相互作用を防ぐため、一般に銅への不純物の混入は好ましくなく。チタンの混入によっても融点降下等の該相互作用を促進すると考えられる影響が推定されるが、本発明者らの検討の結果、チタン自体の酸化物セラミック側への拡散はみられるが、銅の酸化物セラミック側への拡散を誘起しないことが明らかとなった。」

カ.「【0019】しかしながらチタンの添加は導体抵抗の増大および導体周囲の酸化物セラミックの誘電率を上げるなど、本来の目的に相反する効果も認められるため、その添加量は多くても5重量%以下で、好ましくは前記断線を防ぐのに必要な下限としての0.1重量%近くにとどめるのが良い。一方タングステンを銅ペーストに添加する場合は、1〜20μ程度の平均粒径のタングステン粉が良好に用いられる。銅とタングステンの組合せでは相互の溶解度が非常に小さく、タングステン自体の酸化物セラミック中への拡散も銅の酸化物セラミック中への拡散の誘起も起こらないと予測できるが、タングステン含量の増加に伴い、配線抵抗が上昇するので前記断線が防げる範囲でなるべくタングステンの添加量を少なくする。銅とタングステンの前記焼成工程における温度等の条件下での相互の濡れ性は良好で、走査型電子顕微鏡による微構造観察では暗くみえる溶融銅のマトリックス中に白くみえるタングステン粒が均一に分散したものとして認められる。添加するタングステン粉の平均粒径が小さくなると、銅の蒸発を促進する傾向にあり、そのため銅の溶融からの酸化物セラミックの緻密化が始まる迄の間を非常に遅い昇温速度にすると該ペーストの焼結体は非常に気孔の多いスポンジ様の構造になる場合もみられた。これは銅がタングステンに非常に良く濡れるため、有効な蒸発表面積がタングステンの存在によって大きくなるためと考えられる。」

キ.「【0020】次に、この様にして得られる銅の内部配線を含む酸化物セラミック基板を研磨あるいは研削することにより、該基板内部の導体の一部を表面に露出する様にする。内部導体としては平面方向の配線とビア配線があるが、多くの場合表面に露出させるのはビアの端面である。続いて表面に露出した前記内部導体の一部を接続する表面配線あるいはパッド状等の表面端子を形成するが、その形成方法としては厚膜法あるいは薄膜法が好適に利用できる。厚膜法ではポスト焼成用の銅ペーストを用いることができフリットボンド型、ケミカルボンド型いづれの種類も採用できる。この様なペーストを該基板表面にスクリーン印刷し窒素ガス等非酸化性雰囲気中 900℃前後で焼成することにより表面配線を形成する。一方薄膜法ではスパッタリング等の方法により表面に直接配線を形成する。配線材としては銅の他従来多用されているチタン-ニッケル-金の構成を採用しても良い。以上の様にして銅を内部導体として含有する酸化物セラミック基板を完成させるが必要に応じ外部リードやシールリング等を取りつけても良い。また本発明によれば約1500℃以下の従来のタングステンメタライズには低過ぎる温度においても良好なメタライズを可能にしている。」

ク.「【0021】
【実施例】実施例1
図1(a) 〜(f) は実施例1の工程を示す。平均粒径約1μmの酸化アルミニウム粉末にMgO 、SiO2、CaCO3 を混合して得られた92重量パーセントアルミナセラミックをグリーンシート10に成形した(図1a)。このグリーンシート10に約200μm径のスルーホール12を多数形成した(図1b)後、平均粒径約1〜2μmの銅粉末を用いて調製した銅ペースト14をこれらスルーホール12に充填し、乾燥した(図1c)。 次いで、この様に銅ペースト14が充填されたグリーンシート10の2枚とこれらの上下に各一枚銅ペーストの印刷を施してないグリーンシート10を配置して積層し、温度60℃圧力200Kgf /cm2で5分間熱圧着し一体化した(図1d)。これをアンモニア分解ガスと窒素ガスの混合(1:2)雰囲気中で最高温度1570℃で2時間焼成した(図1e)。途中 150℃から1000℃の間を露点45℃で湿潤させ有機成分除去を促進させた。得られた焼結体は均一な白色の緻密体で内部のビア16がわずかに透けてみえた。これを研磨してビア16端面を表面に露出させたところ(図1f)、ビア16端面は銅本来の色相で金属光沢を呈するものとして観察された。この部分のEPMAによる成分分布調査の結果、銅の分布はビア-セラミック界面からビア以内に限られ、またアルミニウム、酸素、Si、Mg、Caの分布はいづれもセラミック中のみに限られていた。」

ケ.「【0030】実施例10
実施例1と同じグリーンシートに約120μm径のスルーホールを700μmピッチで設け実施例1と同様にして銅ペースト充填、積層、焼成を行い、焼結体を得た。これを固定砥粒の平面研削盤で研削した後、ダイアモンド遊離砥粒を用いたラップ機およびポリッシュ機で研磨を行い、ビア端面が露出したRa=0.1μmの面をだした。この上に、スパッタ法によりチタン、モリブデン、ニッケル、金の順で薄膜を形成し、パターンエッチング後、薄膜-ビア-薄膜-ビア-薄膜間の導通がとれていることを確認した。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-112650号公報(以下、「引用例2」という。)には、「セラミックス多層配線基板」に関して、次の事項が記載されている。
コ.「【0002】
【従来技術】セラミックス多層配線基板用のセラミックス材料としては、卓越した絶縁性、熱伝導性、安定性および機械的強度を有し、かつ、低コストであるアルミナが広く使用されている。このセラミックス多層配線基板は、例えばアルミナ粉末、焼結助剤、有機バインダー、溶剤および可塑剤を混合してグリーンシートを作製し、導体配線パターンを印刷後、所定枚数積層し、焼成することにより得られる。前記セラミックス多層配線基板に設置されるLSI等の入出力端子と基板のインナーリード部に設けられたパッドとはワイヤボンド等を用いて結線されるが、近年、LSIの高集積化による入出力の増大に対応するために、前記インナーリード部のパッドも高密度に形成する必要が生じてきている。このためパッドの形成法は従来の厚膜印刷法から、より微細な高密度配線が可能なスパッタ法およびメッキ法を併用した薄膜形成法が適用されるようになってきている。」

サ.「【0019】次に、前記セラミックス多層配線基板を真空装置内に入れ、真空度を4×10-6Torr設定にした後、圧力が5.0ミリTorrになるようにArガスを導入し、前記セラミックス多層配線基板上にスパッタ法により、順次、0.1μmの厚さのチタン膜、0.2μmの厚さのニッケル膜および0.2μmの厚さの金の膜を形成し、さらに膜の厚さが2〜3μmのレジスト膜を用いてフォトリソグラフィー処理を行う。」

シ.【表1】及び【表2】には、焼成後のセラミックス組織の粒径が0.5〜2.2μmのものが記載されている。

(3)原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-280657号公報(以下、「引用例3」という。)には、「セラミツクス基板およびその製造方法」に関して、次の事項が記載されている。
ス.「【0013】
【実施例】図1(a)〜(d)はそれぞれ本発明のセラミックス基板の製造方法における各工程を説明するための図である。まず、図1(a)に示すように、通常の方法で内部に内層配線18を有するとともに表面に導通ビア19の導通ビア露出部19aを有するアルミナ焼成多層基板20を準備する。次に、えられたアルミナ焼成多層基板20の表面を研磨した後、図1(b)に示すように、アルミナ焼成多層基板20表面の導通ビア露出部19a上に、金属ペーストを印刷し1300℃程度の温度で焼成することにより金属パッド21を形成する。次に、図1(c)に示すように、金属パッド21を有するアルミナ焼成多層基板20の表面をなすアルミナ焼成基板9上に、所定の高純度易焼結性アルミナのペーストを塗布し好ましくは1200〜1300℃の温度で焼成することにより、高純度易焼結性アルミナ層10を形成する。最後に、図1(d)に示すように、金属パッド21上の高純度易焼結性アルミナ層10を研磨して基板表面に金属パッド21を露出させることにより、本発明の複合構造からなるセラミックス基板を得ることができる。」

セ.「【0018】以下、各種条件の好ましい範囲を求めるため、高純度易焼結性アルミナの平均粒子径及び焼成温度とポア個数の関係、焼成温度と表面粗さとの関係、密着強度について、それぞれ実際に実験した結果について説明する。
実施例1
高純度易焼結性アルミナの平均粒子径及び焼成温度とポア個数の関係を調べるため、以下の実験を実施した。まず、通例の方法に従い、アルミナスラリーをドクターブレード法によりスリップキャスティングしてグリーンシートを作製し、このグリーンシートをパンチングし、Mo、W導体を印刷し、ビアに導体ペーストを充填してグリーンシートを積層し、所定の大きさに切断し焼成してアルミナ焼成多層基板を得た。なお、原料セラミックス中の焼結助剤の量は10重量%とした。また、焼成後のアルミナ焼成多層基板の表面粗さは、中心線平均表面粗さ(Raと表示)で0.4μm であった。」

(4)原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-263782号公報(以下、「引用例4」という。)には、「セラミック-金属多層構成体の製造方法及びその方法を実施する装置」に関して、次の事項が記載されている。
ソ.「1.粗製状態の構成体の成形後、特にあらかじめ切断された帯状セラミックの金属被覆及び積み重ねによる成形後に、水素、又は窒素又は水素・窒素混合物により形成された媒介ガスから製造され、水蒸気含有量を有する雰囲気下に約800℃と約1800℃との間に含まれる温度安定部、さらに正確にはコージーライトのようなセラミック材料及び銅及びニッケルのような金属材料については約800℃と約1300℃との間に中程度の高温の温度安定部をもつか、タングステン,モリブデン,アルミナ,窒化アルミニウムのような炉材については約1400℃と約1800℃との間に高温の温度安定部をもつ、該温度安定部まで温度を上昇させて、前記構成体の同時焼成、いわゆる共焼成を行うセラミック-金属多層構成体の製造方法において、・・・セラミック-金属多層構成体の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

3.当審の判断
(1)本願補正発明1について
引用例1には、本願補正発明1の構成要件Aのごとく絶縁基板として酸化アルミニウム質セラミックスを用いる点が記載され(記載事項イ参照)、本願補正発明1の構成要件Bのごとく銅とタングステンを含む内部配線層について記載され(記載事項オ参照)、本願補正発明1の構成要件Dのごとく銅のセラミックス中への拡散を少なくする点が記載されている(記載事項カ参照)。
さらに、引用例1には、表面配線層としてモリブデンが例示されている(記載事項ケ参照)。しかしながら、この表面配線層は、スパッタ法によりチタン、モリブデン、ニッケル、金の順で形成されるものであるし、引用例1に記載の酸化物セラミック回路基板は、銅配線が一部でも露出しないようにグリーンシートを積層し、この積層体を焼成した後、研磨あるいは研削し、内部導体を露出させ、続いて表面配線層を形成するものである(記載事項ア、エ、キ、ク参照)から、引用例1に記載のモリブデンは焼き肌面に形成されるものではない。したがって、引用例1に記載のものは、本願補正発明の構成要件C、Eとは相違する。

引用例2には、本願補正発明1の構成要件Aと同様の平均結晶粒径を有するアルミナが記載されている(記載事項シ参照)。
さらに、引用例2には、焼成して得られたセラミックス多層配線基板上に、インナーリード部を形成する点が記載されている(記載事項コ参照)。しかしながら、このインナーリード部は、チタン、ニッケル、金の順でスパッタ法により形成されており(記載事項サ参照)、本願補正発明1の構成要件Cの表面配線層とは相違し、構成要件Cに記載の成分からなる表面配線層のための焼き肌面の表面粗さについての記載もない。したがって、引用例2に記載のものは、本願補正発明の構成要件C及びEとは相違する。

引用例3には、本願補正発明1の構成要件Eと同様の絶縁基板の表面粗さについての記載がある(記載事項セ参照)。
さらに、引用例3には、アルミナ焼成多層基板上に、金属パッドを設ける点が記載されている(記載事項ス参照)。しかしながら、引用例3に記載の金属パッドは、研磨された絶縁基板表面に形成されるものであり(記載事項ス参照)、本願補正発明1の構成要件Eとは相違し、構成要件Cに記載の成分からなる表面配線層のための焼き肌面の表面粗さについての記載もない。したがって、引用例3に記載のものは、本願補正発明の構成要件C及びEとは相違する。

引用例4には、同時焼成についての記載はあるが(記載事項ソ参照)、表面配線層及び該表面配線層が形成される基板表面の表面粗さに関する記載も示唆もない。

そうすると、上記引用例1〜引用例4のいずれにも、本願補正発明1の構成要件Cの成分からなる表面配線層が形成された基板表面が表面粗さ(Ra)が1μm以下の焼き肌面からなるという構成は、記載あるいは示唆されているとはいえない。
そして、本願補正発明1は、構成要件C及び構成要件Eとしたことによって、焼成後の基板表面の平滑性に優れ、研磨工程等を必要としない安価な多層配線基板を提供できるという独自の効果を奏するものと認められる。

よって、本願補正発明1は、上記引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本願補正発明2〜5について
本願補正発明2〜5は、本願補正発明1をさらに限定するものであるから、上記本願補正発明1についての判断と同様の理由により、上記引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本願補正発明6について
引用例1には、本願補正発明6の構成要件Fと同様の平均粒径を有するアルミニウム粉末を用いる点が記載され(記載事項ウ参照)、本願補正発明6の構成要件Gのごとく銅とタングステンを含む内部配線層について記載されている(記載事項オ参照)。
さらに、引用例1には、表面配線層としてモリブデンが例示されている(記載事項ケ参照)。しかしながら、この表面配線層は、スパッタ法によりチタン、モリブデン、ニッケル、金の順で形成されるものであるし、引用例1に記載の酸化物セラミック回路基板は、銅配線が一部でも露出しないようにグリーンシートを積層し、この積層体を焼成した後、研磨あるいは研削し、内部導体を露出させ、続いて表面配線層を形成するものである(記載事項ア、エ、キ、ク参照)から、引用例1に記載のモリブデンはシート状成形体表面に印刷塗布し、積層した後、焼成されるものではない。したがって、引用例1に記載のものは、本願補正発明6の構成要件H、I、Jとは相違する。
また、引用例1には焼成雰囲気について、窒素ガスあるいはアンモニア分解ガスと記載されており(記載事項エ参照)、本願補正発明6の構成要件Jとは相違する。

引用例2に記載のものは、焼成後のセラミックス多層配線基板にインナーリード部を形成しており(記載事項コ、サ参照)、本願補正発明6の構成要件H、I、Jとは相違する。

引用例3に記載のものは、研磨されたアルミナ焼成多層基板の表面に金属パッドを形成するものであるから(記載事項ス参照)、本願補正発明6の構成要件H、I、Jとは相違する。

引用例4には、焼成雰囲気、焼成温度を最適なものとする点については記載されているが(記載事項ソ参照)、表面配線層を印刷塗布し、積層した後、焼成する際の焼成雰囲気、温度についての記載はなく、本願補正発明6の構成要件H、I、Jとは相違する。

そうすると、上記引用例1〜引用例4のいずれにも、本願補正発明6の表面配線層として構成要件Hの成分からなる導体ペーストをシート状成形体表面に印刷塗布し、積層した後、該積層体を水素および窒素を含む露点-20℃以下の雰囲気中で1400〜1500℃の温度で焼成するという構成は、記載あるいは示唆されているとはいえない。
そして、本願補正発明6は、構成要件H、構成要件I及び構成要件Jとしたことによって、水素を含む露点が-20℃以下の非酸化性雰囲気中で同時焼成することにより、銅の絶縁基板中への拡散を20μm以下に抑制でき、これにより配線層間の絶縁劣化を防止し、高信頼性の高密度の配線層を形成することができ、しかも、焼成後の基板表面の平滑性に優れ、研磨工程等を必要としない安価な多層配線基板を提供できるという独自の効果を奏するものと認められる。

よって、本願補正発明6は、上記引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.まとめ
以上、本願補正発明1〜本願補正発明6は、いずれも、上記引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、本願補正発明1〜本願補正発明6について他に特許を受けることができないとすべき理由も見出せないから、本願補正発明1〜本願補正発明6は、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

第3.本願の発明について
1.本願の発明
前記第2.で判断したとおり、平成16年1月5日付け手続補正は、採用し得る適法なものであり、そうすると、本願の請求項1〜請求項6に係る発明は、前記本願補正発明1〜本願補正発明6である。

2.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、「本願の請求項1〜請求項6に係る発明は、拒絶理由で引用された上記引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。

3.当審の判断
本願の請求項1〜請求項6に係る発明、すなわち前記本願補正発明1〜本願補正発明6が、引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは、前記「第2.3.当審の判断」に記載したとおりである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1〜請求項6に係る発明は、引用例1〜引用例4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本願については、原査定の理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2006-06-15 
出願番号 特願平10-182065
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 豊島 ひろみ新海 岳  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 ぬで島 慎二
永安 真
発明の名称 多層配線基板およびその製造方法  

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