• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01M
管理番号 1137488
審判番号 不服2003-9597  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-02-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-28 
確定日 2006-06-07 
事件の表示 特願2002-177362「散布作業車」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月 4日出願公開、特開2003- 33692〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成3年4月15日に出願した特願平3-82448号を、平成12年1月31日にその一部を分割して新たな特許出願とした特願2000-22138号を、平成14年6月18日にその一部を分割して新たな特許出願とした特願2002-177362号の特許出願であって、平成15年4月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後、当審において、平成17年9月2日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年11月28日付けで手続補正がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、平成17年11月28日付けで全文補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】車体後部に潅水用あるいは消毒用の液体を収容するタンク(22)を搭載し、車体前部に複数の噴霧ノズル(34,34…)を有するセンター噴霧管(35)を備え車体左右幅と同等あるいはそれよりやや広いセンター噴霧機枠(27)、及び複数の噴霧ノズル(34,34…)を有するサイド噴霧管(48,48)を備え該サイド噴霧管(48,48)が上記センター噴霧管(35)の左右両端部に略一直線状に延ばした幅広噴霧作業状態と車体側後方に近付けた幅狭収納状態とに切換可能に傾斜軸芯(41)回りで回動可能なサイド噴霧機枠(39,39)を有する噴霧装置(26)をリンク機構を介して昇降自在に支持した散布作業車において、前記リンク機構を昇降させるアクチュエータ(19)とサイド噴霧機枠(39,39)を回動させるアクチュエータ(45,45)とを共に電動シリンダーで構成すると共に、サイド噴霧機枠(39,39)を回動させるアクチュエータ(45,45)をセンター噴霧機枠(27)の上方にこれと平行に設け、操縦座席(6)前方のハンドル(7)の横側方であってサイド噴霧機枠(39,39)を回動すべく並べて設けられるスイッチ(ロ)(ハ)とリンク機構を昇降させるスイッチ(イ)を左右方向の同じ側に接近させて設けたことを特徴とする散布作業車。(以下、「本願発明」という)

第2.当審の拒絶理由
当審において平成17年9月2日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願発明は、実願昭63-149762号(実開平2-70757号)のマイクロフィルム、実公昭59-33230号公報、実願平1-64904号(実開平3-7969号)のマイクロフィルム及び特開平2-246834号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第3.刊行物に記載された発明
刊行物1:実願昭63-149762号(実開平2-70757号)の
マイクロフィルム
刊行物2:実公昭59-33230号公報
刊行物3:実願平1-64904号(実開平3-7969号)の
マイクロフィルム(平成3年1月25日公開)
刊行物4:特開平2-246834号公報

実願昭63-149762号(実開平2-70757号)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物1」という)の、
明細書第10頁第10行乃至第19行には「自走散布車10は、ステアリングホイール12を備える運転席14を中央部に有し・・・薬液タンク20は、運転席14の後ろ側に配設され、薬液を貯蔵する。薬液用開閉21は、運転席14の前側のステアリングホイール12の下方に配設され、ノズル管38a,38b,38cへの薬液の供給量を制御する。」と、
明細書第11頁第2行乃至第12頁第3行には「第4図は自走散布車l0の前部に装備されるブームを自走散布車l0の前方から見た図である。センタブーム26は左右方向へ水平に延び、右サイドブーム28及び左サイドブーム30は、基端部側の支点32において揺動自在にセンタブーム26の右端部及び左端部にそれぞれ配設される。油圧シリンダ34は、右サイドブーム28及び左サイドブーム30に対応して設けられ、伸縮により右サイドブーム28及び左サイドブーム30を、X字状に交差する格納位置及び左右水平方向へ張り出す水平位置との間で揺動させる。・・・吐出管36a,36b,36c及びノズル管38a,38b,38cは、センタブーム26、右サイドブーム28及び左サイドブーム30の下面側の位置となるように、ステー40を介してこれらセンタブーム26、右サイドブーム28及び左サイドブーム30のにそれぞれ取付けられ、複数個のノズル42が、ノズル管38a,38b,38cの長手方向へ適宜間隔にノズル管38a,38b,38cに取付けられている。」と、
明細書第12頁第8行乃至第12行には「ノズル42からの薬液の噴霧Aは・・・噴霧Aを作物等の被散布物へ搬送する。」と、
明細書第13頁第1行乃至第9行には「第6図はセンタブーム26の上下動機構の構造図である。油圧シリンダ48は、上下方向へ延び、上下の端部においてピン49を介してそれぞれセンタブーム26の上部構造体50及びブーム取付用マスト22に結合している。ステー52はセンタブーム26に固定され、ローラ54は、ステー52の端部に回動自在に取付けられ、油圧シリンダ48の伸縮に伴ってブーム取付用マスト22の側面を転動して、センタブーム26を上下方向へ案内する。」と、
明細書第19頁第4行乃至第19行には「薬液及び散布物124の散布中、作業者は、自走散布車10の運転席14に乗り込み、散布場所において自走散布車10を所定の速度で走行させる。
薬液の散布を行なう場合は、薬液を薬液タンク20からノズル管38へ圧送する図示しないポンプを駆動させるとともに、薬液用開閉弁21及びシャッタ128をそれぞれ開及び閉とする。・・・薬液タンク20内の薬液は、ポンプによりノズル管38a,38b,38cへ送られ、ノズル管38a,38b,38cのノズル42から噴霧される。」と、それぞれ記載されている。
また、自走散布車の平面図及び正面図である第1図及び第2図、自走散布車の前部に装備されるブームを自走散布車の前方から見た図である第4図には、「車体後部に薬液タンク20を搭載し、車体前部に車体左右幅と同等あるいはそれよりやや広いセンタブーム26、及びこのセンタブーム26の左右に車体内側に向かって回動する右サイドブーム28及び左サイドブーム30を設けた自走散布車10」が記載されている。

したがって、引用刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
「車体後部に薬液を貯蔵する薬液タンク20を搭載し、
車体前部に複数個のノズル42を有するノズル管38aを備え車体左右幅と同等あるいはそれよりやや広いセンタブーム26と、複数個のノズル42を有するノズル管38b,38cを備えセンタブーム26の右端部及び左端部にそれぞれ配設され左右水平方向へ張り出す水平位置とX字状に交差する格納位置とに支点32において揺動自在な右サイドブーム28及び左サイドブーム30とを有し、センタブーム26を上下動機構を介して上下動自在に支持した自走散布車10において、
前記上下動機構を上下動させる油圧シリンダ48と右サイドブーム28及び左サイドブーム30を対応して揺動させる油圧シリンダ34とを構成すると共に、右サイドブーム28及び左サイドブーム30を揺動させる油圧シリンダ34,34をセンタブーム26の上方に設けた自走散布車10。」(以下「引用刊行物1に記載された発明」という)

実公昭59-33230号公報(以下、「引用刊行物2」という)の、
公報第1頁第1欄第37行-第2欄第13行には「本考案は、雑草、芝生等を刈取る回転刈取装置や畝成形装置などの対地作業装置を、対地一定姿勢で昇降させるための作業機昇降機構に関する。この種の作業機昇降機構としては、第3図、第4図に示すように、トラクタの前部に連結した機枠01に、機体進行方向に対する垂直方向に沿った横軸芯周りで上下揺動可能な上下のリンク対02,02を平行に設け、このリンク対02,02の遊端部に対地作業装置03を支持させるとともに、前記機枠01と対地作業装置03側の固定部材05との間には、駆動伸縮装置04を介装し、もつて、この駆動伸縮装置04の伸縮作動によつて対地作業装置03を対地一定姿勢で昇降させ得るように構成したものが存在する」と、記載されている。
そして、これらの記載と、従来例を示す要部の側面図である第3図及び第3図における平面図である第4図によれば、引用刊行物2には以下の発明が記載されていると認められる。
「刈取装置や畝成形装置などの対地作業装置03を前部に支持させるトラクタにおいて、上下のリンク対02,02を、左右方向に所定間隔を空けて揺動可能に設け、前記左右の上下のリンク対の先端側を固定部材05に設けて側面視四辺リンク式の昇降機構を構成すると共に、前記上下のリンク対の左右間で且つトラクタのボンネット前方に前記昇降機構を昇降させる駆動伸縮装置04を設けたトラクタ。」

実願平1-64904号(実開平3-7969号)のマイクロフィルム(以下、「引用刊行物3」という)の 、
明細書第2頁第9行乃至第14行には「〔産業上の利用分野〕
この考案は、自走台車に載設されて圃場における農薬、種子等の散布物の散布を行う自走散布装置に係り、詳しくは自走台車の左右方向に関する噴頭の方向の変更作業を能率化できる自走散布装置に関するものである。」と、
明細書第12頁第2行乃至第7行には「電動シリンダ74は、基端側噴管30の外周に固定され、リンク76を介して先端側噴管32の外周面へ結合している。電動シリンダ74の伸縮によりリンク76が、自走台車10の左右方向へ変位し、これにより、先端側噴管32は蝶番70において基端側噴管30に対して揺動する。」と、
明細書第14頁第13行乃至第15頁第10行には「流し多口噴頭34の格納時及び自走台車10の走行中における障害物への流し多口噴頭34の衝突の回避時では、作業者は運転席14において第3のスイッチ84を第3の電動機78の正転位置にオン操作する。これにより、第3の電動機78が正方向へ回転し、電動シリンダ74は、縮小して、リンク76を自走台車10の中央側へ引く。先端側噴管32は、蝶番70の周りに基端側噴管30に対して上方へ揺動し、先端側噴管32及び流し多口噴頭34は、自走台車10の側方へ突出する位置から、起立位置となり、自走台車10の内側へ引き込まれる。散布物38の散布作業を行うとき及び障害物を通過したときは、第3のスイツチ84が第3の電動機78の逆転位置にオン操作され、電動シリンダ74が伸長され、先端側噴管32は、蝶番70において基端側噴管30に対して下方へ揺動し、基端側噴管30と中心線が一致するようにされる。これにより、流し多口噴頭34は自走台車10の側方へ突出した位置となる。」と、記載されている。
また、図面全体、特に噴管胴から基端側噴管へ至る範囲の詳細な平面図である第1図及び自走台車の後部の左半部を自走台車の後方から詳細に示す図である第3図には、「先端側噴管32を揺動させる電動シリンダ74を基端側噴管30に平行に固定」したことが記載されている。
したがって、引用刊行物3には以下の発明が記載されていると認められる。
「基端側噴管30、及び内側へ引き込まれる先端側噴管32を備えた農薬を散布する自走台車10において、前記先端側噴管32を揺動させる電動シリンダ74を基端側噴管30に平行に固定した自走台車10。」

特開平2-246834号公報(以下、「引用刊行物4」という)の、
公報第2頁左下欄第8行乃至第11行には「第1図乃至第6図は本発明の1例としての乗用田植機をあらわし、この田植機1は動力農機2の後部に作業装置としての田植装置3が装着されている。」と、
公報第4頁右上欄第7行乃至左下欄第5行には「動力農機2は以上のように構成されたシャシにボディ100が被せられている。図中の101は座席、102は操縦ハンドル、103は主変速装置32を操作する主変速レバー、104は副変速装置24を操作する副変速レバー、105は田植装置3の昇降と植付作業の入/切を行なう油圧植付レバー、106は後記マーカ操作用のマーカレバーである。
また、図中の120は動力農機の後部に設けられている作業装置装着用の平行リンク装置であって、この平行リンク装置120は、背面視門形の枠体122と、該枠体に支持されている上リンク123および下リンク124と、前記上下リンクの後端部に取り付けられ下端部に田植装置が装着される連結枠125とから構成され、前記油圧ポンプ31の後部に設けた油圧シリンダ127で上リンク123を上下に回動させることにより、連結枠125が一定姿勢に保持されたままで上下動させられるようになっている。」と、
公報第4頁左下欄第6行乃至右下欄第12行には「つぎに田植装置3について説明すれば、PTO軸129を介して伝動される伝動ケース130と、・・・とを備え、・・・また、伝動ケース130の左右両側部には、・・・走行の目印として圃場面に線引きを行なうマーカ140,140が設けられている。
マーカ140は線引きを行なうときには側方に倒し、線引きを行なわないときには起立させるが、その操作は前記一対のマーカレバー106,106で左右各別に行なわれる。第6図に示すように、一対のマーカレバー106,106は油圧植付レバー105を挟んで両側に共通の軸142に設けられており、・・・」と、それぞれ記載されている。
また、農作業機の1例の平面図である第2図及び説明図である第6図には、「座席101前方の操縦ハンドル102回動中心に対して左右一側にはマーカレバー106,106と油圧植付レバー105とを設け、これらの左右方向反対側に主変速レバー103及び副変速レバー104を設けた」ことが記載されている。
したがって、これらの記載によれば、引用刊行物4には以下の発明が記載されていると認められる。
「動力農機2の後部に伝動ケース130、及びこの伝動ケース130の左右両側部に起倒するマーカ140を設けた田植装置3を平行リンク装置120を介して上下動自在に装着した乗用田植機において、座席101前方の操縦ハンドル102回動中心に対して左右一側には圃場面に線引きを行なう左右のマーカ140,140を左右各別に起倒させる一対のマーカレバー106,106を田植装置3全体を昇降させる油圧植付レバー105を挟んで両側に設け、これらの左右方向反対側に主変速レバー103及び副変速レバー104を設けた乗用田植機。」

第4.対比・検討
本願発明と引用刊行物1に記載された発明とを比較する。
引用刊行物1に記載された発明の「複数個のノズル42」は本願発明の「複数の噴霧ノズル(34,34…)」に相当し、以下同様に「ノズル管38a」は「センター噴霧管(35)」に、「センタブーム26」は「センター噴霧機枠(27)」に、「ノズル管38b,38c」は「サイド噴霧管(48,48)」に、「支点32」は「軸芯(41)」に、「右サイドブーム28及び左サイドブーム30」は「サイド噴霧機枠(39)」に、「上下動自在」は「昇降自在」に、「自走散布車10」は「散布作業車」に、「右サイドブーム28及び左サイドブーム30を揺動させる油圧シリンダ34,34」は「サイド噴霧枠39を回動させるアクチュエータ45,45」に、それぞれ相当する。そして、引用刊行物1に記載された発明の「ノズル管38aを備えたセンタブーム26と、ノズル管38b,38cを備えた右サイドブーム28及び左サイドブーム30」で構成される装置は「ノズル管38a,38b,38cのノズル42から噴霧される」ものであるから「噴霧装置」を構成することは技術常識からみて明らかである。また、「センタブーム26、右サイドブーム28及び左サイドブーム30にノズル管38a,38b,38cがそれぞれ取付けられ」る旨の記載、及び、「左右水平方向へ張り出す水平位置」で「噴霧作業」を行うことは技術常識であることを考慮すると、引用刊行物1に記載された発明の「センタブーム26の右端部及び左端部にそれぞれ配設され左右水平方向へ張り出す水平位置とX字状に交差する格納位置とに支点32において揺動自在な右サイドブーム28及び左サイドブーム30」という技術事項は、本願発明の「サイド噴霧管(48,48)がセンター噴霧管(35)の左右両端部に延ばした幅広噴霧作業状態と車体側に近付けた幅狭収納状態とに切換可能に軸芯(41)回りで回動可能なサイド噴霧機枠(39,39)」という技術事項に相当する。さらに、引用刊行物1に記載された発明の「薬液を貯蔵する薬液タンク20」は本願発明の「潅水用あるいは消毒用の液体を収容するタンク(22)」と比較して、「液体を収容するタンク」において一致し、以下同様に「上下動機構」は「リンク機構」と比較して、「昇降機構」において一致し、「上下動機構を上下動させる油圧シリンダ48」は「リンク機構を昇降させるアクチュエータ19」と比較して、「昇降機構を昇降させるアクチュエータ」において一致するから、両者の一致点及び相違点は次の通りである。

一致点
「車体後部に液体を収容するタンクを搭載し、車体前部に複数の噴霧ノズルを有するセンター噴霧管を備え車体左右幅と同等あるいはそれよりやや広いセンター噴霧機枠、及び複数の噴霧ノズルを有するサイド噴霧管を備え該サイド噴霧管が上記センター噴霧管の左右両端部に延ばした幅広噴霧作業状態と車体側に近付けた幅狭収納状態とに切換可能に軸芯回りで回動可能なサイド噴霧機枠を有する噴霧装置を昇降機構を介して昇降自在に支持した散布作業車において、前記昇降機構を昇降させるアクチュエータとサイド噴霧機枠を回動させるアクチュエータとを構成すると共に、サイド噴霧機枠を回動させるアクチュエータをセンター噴霧機枠の上方に設けた散布作業車。

相違点
(A)タンクに収容する液体が、本願発明では潅水用あるいは消毒用の液体であるのに対し、引用刊行物1に記載された発明では薬液である点
(B)本願発明では、サイド噴霧管が略一直線状に延ばした状態と車体側後方に近付けた状態とに切換可能に、サイド噴霧機枠が傾斜軸芯回りで回動可能であるのに対し、引用刊行物1に記載された発明ではそのような構成を有するかどうか不明である点
(C)昇降機構が、本願発明ではリンク機構であるのに対し、引用刊行物1に記載された発明ではそのような構成を有していない点
(D)本願発明ではリンク機構を昇降させるアクチュエータとサイド噴霧枠を回動させるアクチュエータとを共に電動シリンダーで構成したのに対し、引用刊行物1に記載された発明ではそのような構成を有していない点
(E)本願発明では、サイド噴霧機枠を回動させるアクチュエータをセンター噴霧機枠と平行に設けたのに対し、引用刊行物1に記載された発明ではそのような構成を有するかどうか不明である点
(F)本願発明では、操縦座席前方のハンドルの横側方にはサイド噴霧機枠を回動すべく並べて設けられるスイッチとリンク機構を昇降させるスイッチを左右方向の同じ側に接近させて設けたのに対し、引用刊行物1に記載された発明ではそのような構成を有するかどうか不明である点

そこで、上記相違点について検討する。
相違点(A)について
潅水用あるいは消毒用の液体をタンクに収容し噴霧することは、農業の分野においては通常行われていることであり、タンクに潅水用あるいは消毒用の液体を収容することは、当業者が容易になし得ることである。
相違点(B)について
車体後部の傾斜軸芯回りで回動させて略一直線状に延ばした状態と車体側前方に近付けた状態とに切換可能とすることは、例えば、特公昭56-35514号公報に記載された「回転軸4」及び「第1スプレーブーム3」(公報第2頁第4欄第24行乃至第34行、公報第3頁第5欄第24行乃至第30行、公報第3頁第6欄第18行乃至第23行、第2図及び第5図参照)、実公昭58-49815号公報に記載された「連結ピン52」及び「元ブーム1」(公報第2頁第3欄第22行乃至第25行、公報第3頁第6欄第41行乃至第4頁第7欄第3行、公報第4頁第7欄第14行乃至第15行、第2図及び第7図参照)、実願昭59-23280号(実開昭60-136770号)のマイクロフィルムに記載された「斜め枢支軸(16)」及び「ブーム(3)」(明細書第4頁第12行乃至第15行、第6頁第16行乃至第20行、第1図及び第4図参照)に示されているように周知・慣用の技術である。また、農用作業機を走行車体の前後に対してどの位置に設けるかは、適宜採用できる設計上の事項であるから、引用刊行物1に記載された発明の「車体前部に設けられたサイド噴霧機枠(右サイドブーム28及び左サイドブーム30)」に当該周知・慣用の技術を適用し、相違点(B)に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
相違点(C)について
引用刊行物2には、リンク機構(側面視四辺リンク式の昇降機構)を介して作業機を昇降自在に支持することが記載されているから、引用刊行物1に記載された発明の支持手段に当該技術を適用し、相違点(C)に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
相違点(D)について
引用刊行物3には、アクチュエータ(電動シリンダ74)を電動シリンダーで構成したことが記載されているから、当該技術を引用刊行物1に記載された発明の「昇降させるアクチュエータ」と「回動させるアクチュエータ」とにそれぞれ適用して、相違点(D)に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
相違点(E)について
引用刊行物3には、サイド噴霧機枠(先端側噴管32)を回動させるアクチュエータ(電動シリンダ74)をセンター噴霧機枠(基端側噴管30)と平行に設けたことが記載されているから、当該技術を引用刊行物1に記載された発明に適用して、相違点(E)に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
相違点(F)について
引用刊行物4には、操縦座席(座席101)前方のハンドル回動中心に対して左右一側には部材を回動(起倒)させるスイッチ(一対のマーカレバー106,106)と装置(田植装置3)全体を昇降させるスイッチ(油圧植付レバー105)を左右方向の同じ側に接近させて(挟んで)設けたことが記載されている。また、操縦者が操作するスイッチを車体に対して、どのように配置するかは、操作性を考慮して当業者が適宜なし得る設計上の事項であるから、引用刊行物4に記載された発明に基づいて、相違点(F)に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

そして、引用刊行物1乃至4に記載された発明は、作業装置を備えた乗用の走行車輌において共通しているから、これらの技術を寄せ集め、本願発明に記載された構成とすることは、当業者にとって容易である。
また、効果の点においても、上記の引用刊行物1乃至4に記載されたものと比較して格別の効果を奏するものとは認められない。

よって、本願発明は、引用刊行物1乃至4に記載された発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、当審で通知した拒絶の理由に示された上記引用刊行物1乃至4に記載された発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-13 
結審通知日 2006-03-07 
審決日 2006-03-27 
出願番号 特願2002-177362(P2002-177362)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関根 裕  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 渡部 葉子
川島 陵司
発明の名称 散布作業車  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ