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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06P
管理番号 1137661
審判番号 不服2004-13650  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-01 
確定日 2006-06-09 
事件の表示 平成 8年特許願第 52743号「染色法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月26日出願公開、特開平 8-311781〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成8年3月11日(優先権主張平成7年3月14日)の出願であって、平成13年9月18日付けで手続補正書が提出され、拒絶理由通知に対し平成16年4月12日付けで意見書が提出され、平成16年7月1日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成16年10月6日付けで審判請求書の手続補正書が提出され、当審の拒絶理由通知に対し平成18年3月20日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明について

本願の請求項1〜7に係る発明(以下、「本願発明1〜7」、まとめて「本願発明」ともいう。)は、平成13年9月18日付け及び平成18年3月20日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲1〜7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】染色温度が70〜120℃であり、染色pHがpH4〜9であり、染色時間が30〜120分であって、染色前後において、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の低下率が20%以下となるように、染色温度、染色pHおよび染色時間を選択することにより、溶融防糸した後、延伸、熱固定した、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマー、脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル、またはポリ乳酸と脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステルとのコポリマーを主成分とする脂肪族ポリエステル繊維を分散染料により染色することを特徴とする脂肪族ポリエステル繊維の染色方法。
【請求項2】染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の染色前後の低下率を5%以下である請求項1記載の染色方法。
【請求項3】染色温度が、80〜100℃である請求項1又は2記載の染色方法。
【請求項4】脂肪族ポリエステル繊維が、ポリブチレンサクシネートを主成分とするものである請求項1〜3のいずれかに記載の染色方法。
【請求項5】染色温度が70〜120℃であり、染色pHがpH4〜9であり、染色時間が30〜120分であって、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の染色後の引張強度が2[g/デニール]以上となるように、染色温度、染色pHおよび染色時間を選択することにより、溶融防糸した後、延伸、熱固定した、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とのコポリマー、脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル、またはポリ乳酸と脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステルとのコポリマーを主成分とする脂肪族ポリエステル繊維を分散染料により染色することを特徴とする染色方法。
【請求項6】染色温度が、80〜100℃である請求項5記載の染色方法。
【請求項7】脂肪族ポリエステル繊維が、ポリブチレンサクシネートを主成分とするものである請求項5又は6記載の染色方法。」

3.優先権主張について

本願は、平成8年3月11日の出願であって、先の出願(特願平7-54483号)に基づく国内優先権主張(平成7年3月14日)がなされているが、以下の理由により本願発明に関して上記優先権主張の効果を認めることはできない。

優先権主張を伴う本願の請求項に係る発明が、先の出願の願書に最初に添付した明細書に記載されているといえるためには、本願の請求項に係る発明が、先の出願の願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである必要がある。本願の請求項に係る発明が、先の出願の願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであるか否かの判断は、新規事項の例による。以下、この点について検討する。

先の出願の願書に最初に添付した明細書に記載した事項は、以下のとおりである。
記載事項(ア)「【請求項1】脂肪族ポリエステル繊維を分散染料によって染色するに際し、染色温度を70〜120℃であって、かつ、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の染色前後の低下率を0〜10%となるように染色温度及び染色時間を制御することを特徴とする、脂肪族ポリエステル繊維の染色法。
【請求項2】脂肪族ポリエステル繊維を分散染料によって染色するに際し、染色温度を70〜120℃であって、かつ、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の染色前後の低下率を0〜5%となるように染色温度及び染色時間を制御することを特徴とする、脂肪族ポリエステル繊維の染色法。
【請求項3】脂肪族ポリエステル繊維を分散染料によって染色するに際し、染色温度を80〜100℃であって、かつ、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の染色前後の低下率を0〜10%となるように染色温度及び染色時間を制御することを特徴とする、脂肪族ポリエステル繊維の染色法。
【請求項4】脂肪族ポリエステル繊維を分散染料によって染色するに際し、染色温度を80〜100℃であって、かつ、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の染色前後の低下率を0〜5%となるように染色温度及び染色時間を制御することを特徴とする、脂肪族ポリエステル繊維の染色法。
【請求項5】脂肪族ポリエステル繊維がポリ乳酸及びコポリ乳酸を主成分とするものである請求項1乃至4記載の染色法。
【請求項6】脂肪族ポリエステル繊維がコハク酸と1,4-ブタンジオールを縮合させたポリブチレンサクシネートを主成分とするものである請求項1乃至4記載の染色法。
【請求項7】脂肪族ポリエステル繊維が、溶融紡糸した後、延伸、熱固定したものである請求項1乃至6記載の染色法。
【請求項8】脂肪族ポリエステル繊維が、フィラメントである請求項1乃至7記載の染色法。
【請求項9】脂肪族ポリエステル繊維が、糸である請求項1乃至7記載の染色法。
【請求項10】脂肪族ポリエステル繊維が、テキスタイルである請求項1乃至7記載の染色法。」(請求項1〜10)
記載事項(イ)「[染色温度、染色時間等]
このような脂肪族ポリエステル繊維材料の染色にあたっては、分散染料を水性媒体中に分散させた染色浴に、必要に応じてpH調整剤、分散均染剤等を加えた後、生分解生ポリエステル繊維を湿漬して、70〜120℃、好ましくは80〜100℃で30〜60分間染色する。」(段落0083)
記載事項(ウ)「実施例1
(1) 染浴の調製
i) 配合染料の調製

ii) pH緩衝液の調製
以下の化合物をイオン交換水に溶解混合して、pH5のpH緩衝液を調製した。

iii) 染浴の調製
配合染料0.1gを、前記pH緩衝液150mlに溶解し、染浴を調製した。
(2) 被染繊維
繊維として、ポリ乳酸(重量平均分子量1,360,000)の糸(カセ糸状)10gを用いた。
(3) 染色
繊維を染浴に浸漬し、充分に攪拌しながら、以下の昇温パターンで、2時間染色した。
0〜 20分; 室 温 → 60℃
20〜 60分; 60℃ → 100℃
60〜120分;100℃に保持
(4) 水洗乾燥

(5) 結果
i) 重量平均分子量
染色前;1,360,000(100%)
染色前;1,160,000( 85%)
ii) 染着性;吸尽率=87%
iii) 耐光堅牢度=6級
iv) 摩擦堅牢度=4級
v) 水堅牢度=4級
vi) 染色前後の繊維の状態の変化;変形なし」(段落0094)
記載事項(エ)「実施例2
(1) 染浴の調製
i) 染料

ii) pH緩衝液の調製
実施例1と同様に、pH5のpH緩衝液を調製した。
iii) 染浴の調製
染料0.1gを、前記pH緩衝液150mlに溶解し、染浴を調製した。
(2) 被染繊維
繊維として、ポリ乳酸(重量平均分子量1,360,000)の糸(カセ糸状)10gを用いた。
(3) 染色
繊維を染浴に浸漬し、充分に攪拌しながら、以下の昇温パターンで、2時間染色した。
0〜 20分; 室 温 → 60℃
20〜 60分; 60℃ → 90℃
60〜120分; 90℃に保持
(4) 水洗乾燥

(5) 結果
i) 重量平均分子量
染色前;1,360,000(100%)
染色前;1,350,000( 99%)
ii) 染着性;吸尽率=88%
iii) 耐光堅牢度=6級
iv) 摩擦堅牢度=4級
v) 水堅牢度=4級
vi) 染色前後の繊維の状態の変化;変形なし」(段落0095)
記載事項(オ)「実施例3
(1) 染浴の調製
i) 染料

ii) pH緩衝液の調製
実施例1と同様に、pH5のpH緩衝液を調製した。
iii) 染浴の調製
染料0.1gを、前記pH緩衝液150mlに溶解し、染浴を調製した。
(2) 被染繊維
繊維として、コハク酸と1,4-ブタンジオールを重縮合した脂肪族ポリエステル(重量平均分子量1,220,000)の糸10g(カセ糸状)を用いた。
(3) 染色
繊維を染浴に浸漬し、充分に攪拌しながら、以下の昇温パターンで、2時間染色した。
0〜 20分; 室 温 → 60℃
20〜 60分; 60℃ → 90℃
60〜120分; 90℃に保持
(4) 水洗乾燥

(5) 結果
i) 重量平均分子量
染色前;1,220,000(100%)
染色前;1,200,000( 98%)
ii) 染着性;吸尽率=80%
iii) 耐光堅牢度=6級
iv) 摩擦堅牢度=3〜4゜級
v) 水堅牢度=4゜〜5級
vi) 染色前後の繊維の状態の変化;変形なし」(段落0096)

上記記載事項(ア)〜(オ)には、それぞれ、脂肪族ポリエステル繊維の染色法において、
(ア)染色温度が70〜120℃、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の染色前後の低下率が0〜10%、
(イ)染色温度が70〜120℃、染色時間が30〜60分、
(ウ)染色温度が100℃、染色pHがpH5、染色時間が60分、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の染色前後の低下率が15%、
(エ)染色温度が90℃、染色pHがpH5、染色時間が60分、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の染色前後の低下率が1%、又は、
(オ)染色温度が90℃、染色pHがpH5、染色時間が60分、染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の染色前後の低下率が2%、
という特定条件が記載されている。
しかしながら、記載事項(ア)〜(オ)には、本願発明1又は5の「染色pHがpH4〜9」という条件、本願発明5の「染色に供する脂肪族ポリエステル繊維の染色後の引張強度が2[g/デニール]以上」という条件は記載されておらず、これらの点は、当業者が、先の出願の出願時の技術常識に照らして、先の出願の明細書に記載されていると理解することもできない。
したがって、本願発明に関して、当該先の出願に基づく優先権主張の効果を認めることはできない。

4.刊行物及び刊行物に記載された事項

上記3.のとおり、本願発明に関して、優先権主張の効果を認めることはできないから、本願発明の特許法第29条等の実体審査に係る規定の適用にあたり、出願日(平成8年3月11日)を基準とする。

当審で通知した拒絶理由に引用された本願出願前日本国内において頒布された刊行物には、以下の事項が記載されている。

特開平7-165896号公報(以下、「刊行物1」という。)
日本学術振興会染色加工第120委員会編,ポリエステル繊維の染色,染色事典,朝倉書店,1986年7月20日,初版第4刷,326頁(以下、「刊行物2」という。)

刊行物1には、以下の事項が記載されている。
摘示事項(1-1)「【請求項1】L-乳酸および(または)D-乳酸成分99.9〜85重量%と、数平均分子量300以上のポリエチレングリコール成分0.1〜15重量%とが共重合されてなり、平均分子量が50000以上かつ融点が110℃以上である生分解性ポリエステル共重合体。」(請求項1)
摘示事項(1-2)「【請求項10】請求項1、2、3または4記載の共重合体からなる成形品。
【請求項11】成形品が、容器、機械部品、家具部品、建築材料、フィルムもしくはシートまたは未延伸もしくは延伸配向された繊維である請求項10記載の成形品。」(請求項10〜11)
摘示事項(1-3)「【0087】本発明の成形品は、前述のごとき本発明の生分解性ポリエステル共重合体などを溶融成形してなる成形品である。
【0088】前記成形品の具体例としては、…未延伸もしくは延伸配向された繊維、さらには前記未延伸もしくは延伸された繊維からの繊維構造物(編物、織物、不織布、紙、紐、テープ、ロープ、網など)、それらに類似するものなどがあげられる。…前記繊維としては、引張強度が2g/d以上であり、…が好ましい。」(段落0087〜0088)
摘示事項(1-4)「延伸後の繊維は、110℃以上の融点を有する。融点は高いほど耐熱性の見地からは好ましい。食品容器などの成形品は、100℃の沸騰水による殺菌処理ができることが必要であり、そのためには融点は110℃以上必要で、130℃以上がとくに好ましい。同様に繊維も100℃での染色や細菌に耐えることが必要で、その見地から融点は110℃以上必要で、とくに130℃以上が好ましい。さらに、高度の殺菌(130℃高圧水蒸気)や高圧染色(130℃の高圧水浴)に耐えることが好ましく、そのためには融点は150℃以上であるのが好ましい」(段落0108)
摘示事項(1-5)「本発明の生分解性ポリエステル共重合体は、…強度および(または)耐熱性の優れたものとしてえられる。とくに重合、成形(たとえば紡糸)工程を直結するばあいには、ポリ乳酸系重合体の分子量をほとんど低下させないという極めて画期的な効果を達成することができる。」(段落0118)
摘示事項(1-6)「【0124】実施例1および比較例1〜3
充分に乾燥(水分率100ppm以下)させ、あらかじめ溶融させた光学純度99.8%のL-ラクタイドと、同じく乾燥溶融させ、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤であるチバガイキー社製のイルガノックス1010を0.1%添加した数平均分子量8200のPEG(日本油脂(株)製の#6000)とを98/2の比率(重量比)で2軸混練機の原料供給部へ供給した。同時に、重合触媒として、ラクタイドに対して0.3%のジオクチル酸錫を添加した。

【0127】2軸混練機から出たポリマーを、連結された直径40mmで2つのベント孔を有する第2の2軸混練機に供給した。…2番目の2軸混練機から出たポリマーは、ギアポンプで加圧送液し、20μmのフィルターで濾過し、口径2mmのノズルより押出し、水で冷却、固化したのち切断してチップP1をえた。

【0133】同じく比較のため、P1とほぼ同様にして、ただしPEGを共重合させないで連続重合法により、ポリ乳酸ホモポリマーのチップP4をえた。
【0134】P1を240℃のスクリュー押出機で溶融し、孔径0.2mm、温度245℃のオリフィスより紡糸し、空気中で冷却し、オイリングして800m/minの速度で巻取り未延伸糸UY1をえた。UY1を延伸温度70℃、延伸倍率3.3倍で延伸し、緊張下150℃で熱処理し、速度600m/minで巻取って75d/18f(フィラメント)の延伸糸DY1をえた。
【0135】P2、P3およびP4を用いて、DY1と同様にして、ただし延伸倍率は可能な限り高くして、夫々延伸糸DY2、DY3およびDY4をえた。
【0136】DY1〜DY4の紡糸、延伸時の操業性および糸の特性を表1に示す。」(段落0124〜0135)
摘示事項(1-7)「

」(12頁表1)

刊行物2には、以下の事項が記載されている。
摘示事項(2-1)「ポリエステル繊維の染色 dyeing of polyester fiber
ポリエステル繊維は,染料を吸着する座席として多量のエステル基をもっており,分散染料やアゾイック染料に対して良好な染着性を有し」(左欄17〜22行)
摘示事項(2-2)「高温染色法は,比較的短時間に染料の浸透がすすみ均染を得やすい,色相が鮮明である,染料の利用率が高く濃色を得やすいなどの特長があり,通常120〜130℃で1〜1.5時間染色する.染色時のpHが中性〜アルカリ性になると,染料の加水分解を生じ,変色あるいは染着量の低下を起すものがある.したがって,一般には染浴に酢酸などの酸を添加し,pHを5〜6に調整して染色する.」(右欄2〜11行)

5.対比・判断

上記摘示事項(1-4)に、刊行物1に記載の繊維が高圧染色に耐えることが好ましいことが記載されていることからみて、刊行物1には、繊維に高圧染色方法を適用できること、すなわち、繊維の染色方法が実質的に記載されていると認められる。そして、摘示事項(1-1)〜(1-7)からみて、刊行物1には、「染色温度が100℃又は130℃である乳酸成分とポリエチレングリコール成分が共重合した生分解性ポリエステル共重合体繊維の染色方法」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

(3-1)本願発明1について
刊行物1発明と本願発明1を比較すると、刊行物1発明の「生分解性ポリエステル共重合体繊維」は、「脂肪族ポリエステル繊維」に相当するので、両者は、「染色温度が100℃である脂肪族ポリエステル繊維の染色方法」という点で一致し、染色の対象物である脂肪族ポリエステル繊維について、本願発明1では「ポリ乳酸」又は「ポリ乳酸と脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル」等の脂肪族ポリエステル繊維を使用しているのに対し、刊行物1発明では、乳酸成分とポリエチレングリコール成分が共重合した生分解性ポリエステル共重合体繊維を使用している点(以下、「相違点1」という。)、染色方法について、本願発明1では、特定範囲の染色pH、染色時間とし、分散染料を使用しているのに対して、刊行物1発明ではそのような条件及び染料の種類が特定されていない点(以下、「相違点2」という。)、染色前後における脂肪族ポリエステル繊維の重量平均分子量の低下率を、本願発明1では「20%以下」としているのに対して、刊行物1発明にはそのような規定はなされていない点(以下、「相違点3」という。)で相違している。

相違点1について検討する。
刊行物1の比較例3(摘示事項(1-7))をみれば、脂肪族ポリエステル繊維としてポリ乳酸が実用上劣るとしても繊維として使用可能であることが読み取れるので、刊行物1発明の染色方法を乳酸成分とポリエチレングリコール成分が共重合した生分解性ポリエステル共重合体繊維の他に、ポリ乳酸繊維にも適用してみる程度のことは、当業者にとって格別の創意ではない。
また、本願発明での染色の対象としているポリ乳酸以外の繊維である、脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル、又は、ポリ乳酸と脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステルのコポリマーを主成分とする脂肪族ポリエステル繊維も当業者に周知の脂肪族ポリエステル繊維である(特開平7-228675号公報、特開平7-189098号公報、特開平7-173740号公報)ので、これらを染色の対象とすることも格別でない。
相違点2について検討する。
刊行物1には、脂肪族ポリエステル繊維を、通常のポリエステル繊維の染色である高圧染色で染色することが記載されている(摘示事項(1-4))。そして、刊行物2には、通常のポリエステル繊維の染色において、分散染料が使用され、染色温度が120℃程度、染色時間が1〜1.5時間、染色pHがpH5〜6である条件が記載されているので、脂肪族ポリエステル繊維の染色において、この通常のポリエステル繊維の染色条件又はその近傍の条件とし、染料として分散染料を選択する程度のことは、当業者に格別の創意を要しない。
相違点3について検討する。
刊行物1には、脂肪族ポリエステル繊維が、高温高圧染色に耐えることが好ましいこと(摘示事項(1-4))、耐熱性が優れており、紡糸工程の際にその分子量をほとんど低下させないという効果を奏すること(摘示事項(1-5))が記載されていることから、高温高圧染色に耐えることが好ましいということは、その物性の一つである分子量も変化していないことも好ましいことが理解できるので、相違点3は、脂肪族ポリエステル繊維の染色において、この通常のポリエステル繊維の染色条件又はその近傍の条件で分散染料を用いた際に、当業者が実施に際し設定する事項に過ぎない。
したがって、本願発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお請求人は、平成18年3月20日付け意見書において、ポリ乳酸は、刊行物1発明から除外されており、脂肪族ポリエステル繊維が、高温高圧染色に耐えることが好ましいこと(摘示事項(1-4))、耐熱性が優れており、紡糸工程の際にその分子量をほとんど低下させないという効果を奏すること(摘示事項(1-5))は、ポリ乳酸には当てはまらない旨主張している。
しかしながら、脂肪族ポリエステル繊維が、高温高圧染色に耐えることが好ましいこと(摘示事項(1-4))、耐熱性が優れ、紡糸工程などの高温を伴う処理の際にその分子量をほとんど低下させないという効果を奏すること(摘示事項(1-5))は、脂肪族ポリエステルの分野における解決しようとする課題あるいは目的とする効果であって、そのために刊行物1発明の生分解性ポリエステル共重合体が開発されたのであり、ポリ乳酸等その他の脂肪族ポリエステルにおいて、この課題又は効果が認識されないという特段の事情も存在しない。
したがって、請求人の主張は採用しない。

6.むすび

以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願発明2〜7について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-14 
結審通知日 2006-04-17 
審決日 2006-05-01 
出願番号 特願平8-52743
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D06P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫛引 智子  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 岩瀬 眞紀子
原田 隆興
発明の名称 染色法  
代理人 苗村 新一  

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