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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C10G
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C10G
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C10G
審判 全部無効 2項進歩性  C10G
管理番号 1137699
審判番号 無効2005-80259  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-08-29 
確定日 2006-06-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2761636号発明「炭化水素の水蒸気改質方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第2761636号の請求項1ないし2に係る発明の出願は、昭和63年12月16日(優先権主張 昭和62年12月17日)に出願された特願昭63-318818号(以下、「原出願」という。)の一部を平成8年12月2日に新たな特許出願(特願平8-321361号。以下、「本件特許出願」という。)としたものであって、平成10年3月27日に特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立てにおいて、平成11年6月21日付けで訂正請求がなされ、平成11年7月22日付けで「訂正を認める。特許第2761636号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。」旨の特許異議の決定がなされたものである。
これに対して、平成17年8月29日に、請求人加々美紀雄より本件無効審判が請求され、平成17年11月14日付けで被請求人より審判事件答弁書が提出され、平成18年2月14日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、被請求人より平成18年2月14日付けで口頭審理陳述要領書、同年2月20日付けで第2口頭審理陳述要領書が提出され、平成18年2月24日に第1回口頭審理がなされ、その後平成18年3月1日付けで被請求人から上申書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許第2761636号の請求項1ないし2に係る発明は、上記の平成11年6月21日になされた訂正請求の訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「特許明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次のとおりのもの(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明2」という。またそれらをまとめて、単に「本件発明」ということもある。)である。
「【請求項1】炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を1vol.ppb以下に脱硫した後、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項2】炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を0.1vol.ppb以下に脱硫した後、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。」

3.請求人の主張の概要
請求人は、本件発明1ないし2に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、審判請求書に添付して甲第1〜9号証を提出し、さらに、口頭審理陳述要領書に添付して甲第10〜12号証を提出し、以下の無効理由1〜3を主張している。

[無効理由1]
本件発明1及び2は、甲第3号証に記載の発明に基づいて、これに甲第1、2、4〜8号証、あるいはさらに甲第10〜12号証に記載の事項を参酌すれば、当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

[無効理由2]
本件発明1及び2は、いずれも原出願に係る発明と実質的に同一であり、適法な分割出願ではない。したがって本件特許に係る出願日は、原出願の出願日への遡及は認められず、現実の出願日である平成8年12月2日となる。その結果、本件発明1及び2は、原出願の公開公報(甲第9号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するので特許を受けることができない。

[無効理由3]
本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満足していない。

以上により、本件特許は、特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当するので無効とされるべきである。

(証拠方法:甲号証)

甲第1号証:「都市ガス工業概要I(実務編)」社団法人日本瓦斯協会発 行、昭和56年3月1日、38頁〜65頁
甲第2号証:内田俊一監修「化学装置」株式会社工業調査会、昭和47年1 0月1日、第14巻、第10号、24頁〜31頁
甲第3号証:特開昭60-238389号公報
甲第4号証:米国特許第4521387号明細書及びその訳文
甲第5号証:触媒学会編「触媒講座第8巻(工業触媒反応編2)工業触媒反 応I」株式会社講談社、1985年6月10日、263頁〜2 74頁
甲第6号証:特開昭50-18401号公報
甲第7号証:特開昭58-119345号公報
甲第8号証:特開昭56-79183号公報
甲第9号証:特開平1-259088号公報
甲第10号証:「燃料協会誌」社団法人燃料協会、第59巻、第633号( 1980年1月)、昭和55年1月20日、25頁〜39頁
甲第11号証:江崎正直「固体触媒劣化の要因とその対策(1)」化学装置 、1969年10月号、39頁〜46頁
甲第12号証:「石油学会誌」社団法人石油学会、昭和47年1月20日、 第15巻、第1号、21頁〜25頁

4.被請求人の答弁の概要
これに対し、被請求人は、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、第2口頭審理陳述要領書、及び乙第1〜6号証を提出し、請求人の主張する無効理由はない旨を述べて、本件審判の請求は成り立たないと答弁している。

(証拠方法:乙号証)
乙第1号証:1996年3月18日付け、大阪ガス株式会社基盤開発研究所 岡田治作成の「実験成績書」
乙第2号証:特開平1-123627号公報(特願昭62-279867号 )
乙第3号証:特開平1-123628号公報(特願昭62-279868号 )
乙第4号証の1:特開昭58-199701号公報
乙第4号証の2:特開昭60-4141号公報
乙第4号証の3:特開昭60-161302号公報
乙第4号証の4:特開昭60-161303号公報
乙第4号証の5:特開昭61-14290号公報
乙第4号証の6:特開昭61-163568号公報
乙第4号証の7:特開2001-279258号公報
乙第5号証:英国特許出願2015027A号明細書及びその抄訳
乙第6号証:平成3年3月28日付け、大阪ガス株式会社田畑健作成の実験 報告書

5.甲号各証及び乙号各証に記載された事項

甲第1号証
A-1:水蒸気改質方法における原料炭化水素中の硫黄分の影響について、「原料中の硫黄分は、硫黄被毒により触媒活性を低下させ、そのため触媒層へのカーボン析出による触媒の粉化をも誘発し、水蒸気改質反応が抑制され、熱分解反応も起こり、ガス状以外の生成物を生成する恐れが出てくる。この結果、目的とする組成のガスの生成が得られず、発熱量、比重も増加する。このため、サイクリック式接触分解プロセスでは、硫黄分250ppm前後のナフサを使用し、連続式水蒸気改質プロセスでは、ほとんど0ppm程度まで脱硫している。」(42頁3〜8行)
A-2:カーボンの生成について、「カーボンの生成は、触媒の活性低下、崩壊をもたらす恐れがあるので、接触分解(水蒸気改質)反応に必要な水蒸気量以上の水蒸気を加えて、カーボン生成を防止している。」(40頁5〜6行)
A-3:高温水蒸気改質方法における操業条件について、「水蒸気比は、最低で3モルH2O/1モルCである。」(56頁11行)
A-4:「水蒸気改質プロセス(ICI等)のガス化触媒は、原料中の硫黄化合物被毒によりその機能を有効に発揮できなくなるため,痕跡量(1ppm以下)まで脱硫される。」(54頁式下2〜3行)

甲第2号証
B:炭化水素の水蒸気改質触媒の基本的取扱いについて、「固体触媒の基本的取扱い(2)アンモニア・水素プラント触媒の取扱い(その1)・・・4・水素化脱硫触媒 アンモニア・水素プラントに使用される炭化水素の種類は、天然ガス(メタン)、ブタン、ナフサ、エチレンプラントオフガス、製油所オフガス、アセチレンプラントオフガス、その他多岐にわたっている。これら原料中には、・・・硫黄化合物たとえばH2S、COSなどの無機硫黄、RSH、RSR、RSSR、チオフェンなどの有機硫黄や・・・も含まれている。これらの各成分はいずれもリフォーミング触媒の活性を低下させカーボンの生成、ひいては触媒の崩壊を招くので・・・硫黄化合物はSとして1ppm以下、実質的には0.5ppm以下に除去する必要がある。」(24頁1行〜25頁右欄23行)

甲第3号証
C-1:「イオウ化合物含有ガスを水添脱硫処理及び亜鉛系脱硫剤を使用する吸着脱硫処理に供した後、銅系脱硫剤を使用する吸着脱硫処理に供することを特徴とするガスの高次脱硫方法」(特許請求の範囲)
C-2:技術分野として、「本発明は、イオウ化合物を含有するガスの高次脱硫方法に関する。本発明方法は、水蒸気改質、メタン化、水添処理等に供される各種ガスの脱硫に特に適している。」(1頁左下欄10〜13行)
C-3:従来技術として、「従来、例えば、炭化水素の水蒸気改質を行なう場合、第2図に示す如く、・・・脱硫を行ない、かくして精製された炭化水素をライン(29)を経て引続く工程における原料として使用している。しかしながら、この様な脱硫方法においては、水添脱硫装置(23)内の触媒の活性が低下した場合には、後続の炭化水素の水蒸気改質用等の触媒にチオフェン等の有機硫黄化合物が直接接触して、触媒を使用不能とする危険性がある。又、吸着脱硫装置(27)においては、平衡式から明らかな如く、温度の高い場合やPH2Oの大きな場合には、無視し得ない量のH2Sのスリップが認められる。更に又、第2図に示す形式の脱硫方法によれば、全ての反応が正常に行われた場合においても、ガス中のH2S濃度を0.02ppm以下とすることは、実用上困難である。従って、より高活性の触媒を使用する様になって来たが為にH2Sの悪影響をより大きく受ける様になった技術の現況から、より高次の脱硫を簡易に行ない得る新たな方法の実用化が切望されている。」(1頁左下欄15行〜2頁左上欄1行)
C-4:「本発明者は、上記の如き技術の現状に鑑みて種々研究を重ねた結果、イオウ化合物含有ガスを脱硫するに際し、水添脱硫及び吸着脱硫を行なった後、銅系脱硫剤による吸着脱硫を行なう場合には、ガス中のイオウ化合物濃度を0.1ppm〜1ppb程度まで低減させ得ることを見出した。」(2頁左上欄3〜8行)
C-5:前記銅系脱硫剤について、「本発明で使用する銅系脱硫剤は、例えば、以下の様にして製造される。Cu及びZn成分を含む溶液から共沈法により得られた沈澱に助剤を加え、打錠、焼成等の一般の低温シフト触媒の製法に類似の方法で調製すれば良い。」(2頁右下欄3〜8行)
C-6:この方法の効果として、「(1)ガス中に含まれるイオウ化合物濃度を0.1ppm以下、最大限1ppb程度まで容易に低減させることができる。(2)従って、後続の水蒸気改質、メタン化、水添分解等における触媒の被毒を防止し、もって触媒寿命の大巾な延長をはかることができる。」(2頁右下欄11〜16行)。
C-7:具体的には、「実施例1 イオウ化合物含有量150ppm(Sとして)のコークス炉ガスを常法に従つてNiMo系触媒の存在下・・・に水添分解した後、ZnO系脱硫剤に接触させて、脱硫した。得られたガス中のイオウ化合物濃度は、約5mg・S/Nm3(1000時間平均)であつた。かくして得られた一次精製ガス400l/hrをCuO 30%-ZnO 70%からなる脱硫触媒50gを充填する吸着脱硫装置(触媒層長10cm)に供給し、温度180〜250℃、圧力8Kg/cm2・Gの条件下に脱硫した。最終的に得られた精製ガス中のイオウ化合物濃度は、常に0.01mg・S/Nm3未満であつた。
実施例2 ナフサ及びH2からなる混合物(H2/ナフサのモル比0.3、イオウ化合物含有量100ppm)を常法により・・・脱硫した。・・・かくして得た精製ガス400l/hrをCuO 30%-ZnO 70%からなる脱硫触媒50gを収容する吸着脱硫装置(触媒層長10cm)に供給し、温度約200℃、圧力8Kg/cm2・Gの条件下に脱硫した。 最終的に得られた精製ガス中のイオウ化合物濃度は、常に0.01mg・S/Nm3未満であつた。」(3頁左上欄2行〜同頁右上欄13行)

甲第4号証
D-1: 「CO及び/又はCO2を含有するガスが、昇温された触媒反応によって硫黄含有物と他の不純物を取り除く事により精製される方法であり、精製されるガスは、塩基性炭酸亜鉛・・・の混合結晶化合物の熱分解によって得られたCu/ZnO触媒充填層に直接通過せられるものであり、・・・使用する触媒は、一般式CuxZny(OH)6(CO3)2 で表わされる触媒前駆物質・・・の熱分解により製造される。」(訳文の1頁左上欄2〜14行参照)
D-2:Cu/ZnO触媒について、「熱による再結晶化を防ぐために、触媒前駆物質の析出中に構造促進剤として1〜15%(原子)のアルミニウム・・・・を共沈させる事が有効である事が証された。」(訳文3頁右欄6〜10行参照)
D-3:触媒の製造の具体例として、「実施例1 アルミニウム添加Cu/ZnO触媒の製造 まずアルミニウムを添加した塩基性炭酸亜鉛タイプの混晶生成物が、二つの溶液から析出される。二つの溶液は、次の様に準備される。
溶液1 Cu(NO3)23H2O 7.200Kg
Zn(NO3)26H2O 11.275Kg及び
Al(NO3)39H2O 1.475Kg
の三つの物質が水に溶解され、36リットルの溶液が作られる。
溶液2 7.850Kgの炭酸ソーダが水に溶解され溶液が37リットル作られる。
二つの溶液は、並流で加熱攪拌釜に汲み上げられ触媒前駆物質が析出される。・・・濾過されたケーキは、乾燥機中115℃で乾燥され270℃でか焼されるか噴霧乾燥で乾燥され同時にか焼される。・・・合成された製品は、滑剤としての黒鉛(審決注、「黒煙」は誤記と認められる。)と混ぜられ、この混合物が錠剤状に成形される」(訳文4頁左欄19行〜同頁右欄18行参照)
D-4:脱硫の具体例として、「実施例2・・・40℃の水で飽和される二酸化炭素は、容積濃度0.1%の水素に・・・このガスが、100℃に加熱され、新規のCu/ZnO触媒を入れた反応器に通される。・・・触媒出口では、硫黄化合物の濃度は測定限界より低い値に減じられている。
実施例3 容積濃度で48.5%のCOと51.5%のH2から成り、常圧化の部分燃焼で得られる合成ガスが・・・酸素と混合され、これが熱交換機で100℃に加熱され・・・次にこのガスが・・・新規Cu/ZnO触媒床に通される。・・・この清浄化されたガスの中には、もはや微量のシアン化水素も硫黄化合物も検知できない。」(訳文4頁右欄20行〜5頁25行参照)

甲第5号証
E-1:266頁の表12.1には、「用途別水蒸気改質反応条件と製造ガス組成」が示されており、これによればナフサ、CH4あるいは天然ガス等を原料として、H2O/Cモル比が1.4〜4.5の条件で都市ガスなどの各種のガスが製造されていることが示されている。
E-2:水蒸気改質触媒に関して、「Niが工業的に広く使われのは、Niが安価で活性も比較的高いためであるが、最近高活性を要求される都市ガス製造触媒として、貴金属の中でも比較的安価なRu触媒が実用化されつつある。Ru含有量は数%であり、Ni系にない特色としては反応前の還元処理が不要であることおよび低水蒸気比で使えることが挙げられる。水蒸気と炭化水素の比(H2Omol/C-atom)は、図12.2にみられるように都市ガス製造においてなるべく低いほうが、平衡的にCH4生成に有利になるばかりでなく、水蒸気使用量の低減につながり経済的にも好ましい。通常のNi系触媒の場合にはこの水蒸気比が低いと炭素析出を起こしやすくなるが、Ru系ではその心配がない」(267頁15〜23行)
E-3:265頁の図12.2には、H2O/Cモル比が3.5以下でCH4生成が多くなっていることが示されている。

甲第6号証
F:「本発明に係る低温水蒸気改質法は前記のニッケル-マグネシア組成物あるいはこれを特殊な担体に担持させたものを改質触媒として・・・水蒸気改質に際しての原料炭化水素に対する水蒸気比は、H2O/C(原料炭化水素中の炭素1原子に対する水蒸気のモル数を言う)で計算して0.9〜5.0の範囲を採用することが好ましい。」(3頁右上欄15行〜同頁左下欄9行)

甲第7号証
G-1:「水素含有ガスは高温水蒸気改質法により製造されるが、水蒸気改質反応中に触媒上に炭素析出あるいは半融現象を引起し、プラントを停止しなければならない事態になる。したがって、炭素析出が少なく耐熱性の高い触媒が必要となる。」(2頁左上欄11〜16行)
G-2:「上記の欠点を解消し、炭素析出抑制効果が高く、各種の炭化水素を原料とする活性の高い水素富化ガス製造用触媒組成物を提供すること」(2頁右上欄8〜11行)
G-3:「本発明の触媒組成物中には、該組成物全量に対してAl2O3が65超〜97.5重量%、La2O3及び/又はCeO2が0.5〜10重量%、NiO及び/又はCoOが2〜30未満重量%含まれる。この組成範囲外では前記した炭素析出抑制作用が小さく、耐熱性が低下する。」(3頁左下欄6〜11行)
G-4:水蒸気/炭素の比について、「重量比で0.7〜3.0とすることが適当であり、使用される炭化水素の種類によっても異なるが、0.7未満では触媒層上に炭素が析出し、又、3.0を超えると熱効率が悪くなり生成ガス中の水素濃度が低くなって望ましくない。」(3頁右下欄1行〜同頁右下欄5行)

甲第8号証
H:低温水蒸気改質法の反応条件について、「水蒸気比(炭化水素の炭素1グラム原子あたりの使用水蒸気モル数で表示)は少なくとも0.6、好ましくは0.8ないし1.5の範囲である。」(2頁右下欄14〜17行)

甲第9号証
I:本件の原出願の公開公報である。

甲第10号証
J:「Ruそのものは炭素析出反応に触媒作用を示さず」(32頁左欄末行〜同頁右欄1行)

甲第11号証
K-1:「ニッケル触媒のSに対する敏感さは温度が上るにつれて減ることが知られている。」(44頁左欄29〜30行)
K-2:「カーボン生成の原因としては(1)触媒の活性低下(2)S/Cの低下(3)触媒の被毒などが考えられる」(44頁左欄22〜23行)

甲第12号証
L:「水素製造装置の運転において最も可能性の高いトラブルであるリフォーミング触媒の硫黄被毒、それに起因するカーボン析出の場合にも、RKN触媒はアルカリを含まないため容易にこられ硫黄、カーボンをスチーミングにより除去することができる。」(23頁右欄31行〜24頁左欄1行)

乙第1号証
M-1:炭化水素(ナフサ)中の硫黄濃度を100〜0.1ppbの範囲で変化させつつ、S/C=2.0の条件下で水蒸気改質を行った実験に関して、「3.結果 図から明らかなごとく、硫黄含量約7ppbまでは、ナフサ中の硫黄含量が減少するにつれて炭素の析出量も緩やかに減少するが、それ以下では急激に低下する。硫黄濃度が1ppbに達すると析出炭素量は極端に少なくなる。このことはより長時間、例えば7000時間同様の試験を行うとより顕著になった。」(1頁下から7行〜下から3行)
M-2:「

」(第2頁)

乙第2号証
N:本件発明において高次脱硫剤の好ましい例として記載されている銅-亜鉛系脱硫剤及びその製造方法が記載されている。

乙第3号証
O:本件発明において高次脱硫剤の好ましい例として記載されている銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤及びその製造方法が記載されている。

乙第4号証の1
P-1:従来技術として、「一般に使用される炭化水素材料は0.1ppm(重量比)イオウ分に脱硫されている天然ガスおよびナフサである。」(1頁右下欄9〜11行)。
P-2:「重量比で2.225ppmのH2S(1気圧に於て)を含むエタンが燃料として用いられた。」(4頁左下欄5〜7行)

乙第4号証の2
Q:実施例には、硫黄化合物を0.5ppm以下に減少させた炭化水素を水蒸気改質したことが記されている(5頁右上欄2行〜同頁左下欄4行参照)。

乙第4号証の3
R-1:従来技術として、水蒸気改質する炭化水素の硫黄含有量を1ppm以下にするのが一般的基準であると記載されている(1頁右下欄9〜10行参照)。
R-2:原料ガス中の硫黄濃度を3ppm〜20ppmに設定することが記されている(2頁左下欄3〜10行、3頁左上欄18行〜右上欄1行参照)。
R-3:「本発明は炭化水素の改質方法に関し、特に改質剤としてスチーム、二酸化炭素又は酸素を使用する改質法において、原料ガス中に微量の硫黄化合物を共存させることによって、改質時における炭素の析出を防止しつつ、水素及び一酸化炭素への転化率を高め得る様にしたものである。」(1頁左下欄13〜18行)
R-4:実施例1には、CH3SHを10ppm含有する原料ガスを水蒸気改質したところ、触媒の損傷は全く見られず、且つ炭素の析出も殆ど認められなかったこと、実施例2には、H2Sを15ppm含有する炭化水素を水蒸気改質したところ、炭素の析出及び触媒の粉化は認められなかったこと比較例1には、H2Sを2ppm含有する原料ガスを水蒸気改質すると、触媒の破壊及び粉化が発生したことが記されている(4頁左上欄12行〜5頁右上欄18行参照)。

乙第4号証の4
S:「尚、原料炭化水素ガス中の硫黄分は、5ppm以下とすることが好ましい。」(2頁右下欄5〜6行)

乙第4号証の5
T:「この水蒸気改質装置は、触媒を使用しており、硫黄の存在により触媒の性能が低下する。このため硫黄濃度を著しく低下(例えば0.5ppm以下)させなければならず、この場合脱硫コストが高くなる欠点がある。」(1頁右下欄下から3行〜2頁左上欄2行)

乙第4号証の6
U:「燃料電池発電プラントでは、原料ガス(例えばメタン、プロパン、ブタン、ナフサ等)の改質用触媒の被毒防止のため、原料ガス中の硫黄分を0.1ppm以下に低減するための脱硫装置が必要である。」(1頁左下欄17行〜同頁右下欄1行)

乙第4号証の7
V:実施例3〜5に水蒸気改質する炭化水素の硫黄含有量を1wtppbに脱硫したことが記されている(5頁左欄30行〜同頁右欄18行参照)。

乙第5号証
W-1:「ところが、驚くべきことに、改質反応器に導かれる反応物質及び他のガスから完全に硫黄を除去することにより、炭素生成をかえって増大させる危険性があることがわかった。・・・換言すると、高級炭化水素を含有し、従って炭素生成傾向のある炭化水素原料を改質する際、一方では炭素生成を抑制し、他方では一酸化炭素及び/または水素を生成する十分な改質活性を保つような硫黄の最適濃度が存在することになる。硫黄濃度がこの最適値を下回った場合、炭素生成、すなわち化学反応(3)及び(4)が増大する。一方、硫黄濃度が最適値を上回った場合、反応式(1)及び(2)による変換が不十分となる。」(抄訳1頁7〜末行参照)
W-2:「表1は、硫黄の最適濃度がH2Sとして換算して、約5vo1.ppmであることを示している。硫黄濃度がそれより高くなるとく実験I及びII)、還元力が低くなり過ぎ、その結果、出口ガス中のメタン濃度が高くなり過ぎる。一方、硫黄濃度が低くなり過ぎると(実験IV)、触媒上に炭素が生成し、引続く操作を不可能にする。実際に、この実験は5時間後に打ち切られた。」(抄訳2頁2〜6行参照)

乙第6号証
X:甲第4号証の実施例1に習って調製した銅-亜鉛-アルミニウム系触媒を用いて、炭化水素ガスを200℃の条件下で脱硫した実験結果として、ガス中の硫黄含有量0.08ppm(実験結果1)、実施例2に習って40℃で飽和水蒸気を含み、0.1%の水素を含むCO2ガスを200℃の条件下で脱硫した実験結果として、ガス中の硫黄含有量0.1ppm(実験結果3)、実施例3に習ってCO(48.5%)とH2(51.5%)の混合ガスを200℃の条件下で脱硫した実験結果として、ガス中の硫黄含有量0.1ppm(実験結果4)であることが記載されている。

6.当審の判断
(1)分割要件について、
本件特許出願は、特願昭63-318818号を原出願とする分割出願とされ、その出願日は原出願の出願日である昭和63年12月16日(優先権主張 昭和62年12月17日)とみなされているところ、請求人は無効理由2において、原出願に係る発明と本件発明1及び2とが実質的に同一の関係にあるため、本件特許出願は特許法第44条第1項にいう新たな特許出願とは認められないものであるので、本件出願の出願日は、原出願の出願日へ遡及するものでなく、現実の出願日である平成8年12月2日である旨、主張している。

そこで、本件特許出願が特許法44条第1項に規定にする分割の要件を満たしているか否かを先に判断する。
特許法第44条第1項には、「二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる」と規定されており、ここにいう二以上の発明とは、いうまでもなく、両者が実質的に相違する二発明を意味するものであり、分割によって出願された本件発明が原出願の発明と別個の発明であることを要するものと解されるから、先ず本件発明と原出願の発明との異同について、以下検討する。

(ア)原出願の発明について
原出願である特願昭63-318818号(特許第2683531号)の特許請求の範囲の請求項1〜4に係る発明(以下、「原出願特許発明1〜4」という。)は、特許第2683531号の特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載の次のとおりである。
「【請求項1】銅化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を原料として共沈法により調製した酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物を水素還元して得た高次脱硫剤を使用して炭化水素を硫黄含有量1vo1.ppb以下に脱硫した後、水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項2】炭化水素を硫黄含有量0.1vol.ppb以下に脱硫した後、水蒸気改質を行う特許請求の範囲第1項に記載の炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項3】銅化合物および亜鉛化合物を原料として共沈法により調製した酸化銅一酸化亜鉛混合物を水素還元して得た高次脱硫剤を使用して炭化水素を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫した後、水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項4】炭化水素を硫黄含有量0.1vol.ppb以下に脱硫した後、水蒸気改質を行う特許請求の範囲第3項に記載の炭化水素の水蒸気改質方法。」

(イ)本件発明1について
本件発明1と、原出願特許発明1又は3とを対比すると、これらは炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量1vo1.ppb(以下、「vol.ppb」を単に「ppb」と表す。)以下脱硫した後、水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法である点で一致している。 他方、使用している高次脱硫剤についてみると、原出願特許発明1では、銅化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を原料として共沈法により調製した酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物を水素還元して得たものであるとし、また、原出願特許発明3では、銅化合物および亜鉛化合物を原料として共沈法により調製した酸化銅-酸化亜鉛混合物を水素還元して得たものとしているのに対して、本件発明1では高次脱硫剤の種類については特段限定していない点、また、本件発明1では水蒸気改質を、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下で行うものであるとしているのに対し、原出願特許発明1及び3では、水蒸気改質の条件については特段限定していない点で相違している。
そして、炭化水素の水蒸気改質方法における、原料の炭化水素の高次脱硫剤として、原出願特許発明1及び3の脱硫剤を用いることが周知・慣用の技術であるとはいえないし、かつ、炭素の析出を長時間に亘って有効に防止するためにS/C比を大きい条件下で水蒸気改質反応を行うことは知られているものの(A-2、3参照)、硫黄含有量が1ppb以下の低濃度の原料を用いて炭素の析出を長時間に亘って有効に防止する場合、S/C比の小さい0.7〜3.5の条件下で行うことが周知・慣用の技術であるともいえない。
それゆえ、本件発明1は原出願特許発明1又は3と実質的に同一であるとはいえない。

(ウ)本件発明2について
本件発明2と原出願特許発明2又は4とを対比すると、これらは炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量0.1ppb以下に脱硫した後、水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法である点で一致しているが、その両者の相違は、本件発明1と原出願特許発明1及び3との対比で示した相違点と同様であるので、上記、本件発明1と原出願特許発明1及び3について述べたのと同様な理由により、本件発明2は原出願特許発明2又は4と実質的に同一であるとはいえない。

さらに、本件発明1及び2は、原出願の出願当初の明細書に記載されている発明であり、また、分割直前の原出願の明細書に記載された発明である。
してみると、本件出願の分割は適法になされているため、出願日が繰り下がるべきであるという請求人の主張は採用できない。

請求人は、甲第5号証(E-1参照)、甲第6号証(F参照)、甲第7号証(G-4参照)、甲第8号証(H参照)の記載を根拠に、本件特許発明においては水蒸気改質反応に際して、S/C比0.7〜3.5で炭化水素の水蒸気改質反応を行うこと自体、普通に知られている(審判請求書13頁19行〜14頁3行参照)と主張しているが、甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第8号証に記載されているのは、特定の原料の使用、特定の用途を目的とした水蒸気改質、又は炭素の析出が少ない特定の触媒の使用や特定の改質条件下において反応させた場合の例であって、いずれも硫黄含有量が1ppb以下の炭化水素を使用するものではなく、炭素の析出を長時間に亘って有効に防止するためにS/C比を大きい条件下で水蒸気改質反応を行うことが常識であるのに反して、硫黄含有量が1ppb以下の原料を用いることにより、長時間に亘って炭素の析出を防止するに当り、S/C比0.7〜3.5の条件で行うことが周知・慣用の技術であるとはいえないのでこの請求人の主張も採用できない。

(2)無効理由2について(特許法第29条第1項について)
上記(1)で分割要件について述べたとおり、本件特許出願は、適法な分割出願であるので、出願日が繰り下がるべきであるという請求人の主張は採用できず、本件出願の出願日は、原出願の出願日である昭和63年12月16日とみなされるものである。
したがって、甲第9号証は、本件特許出願前に頒布された刊行物には該当しないから、本件発明1及び2は特許法第29条第1項に該当しない。

(3)無効理由3について(特許法第36条について)
(ア)請求人は、本件明細書の段落【0014】欄の記載によれば、本件発明における高次脱硫剤とは、硫黄含有量を「5ppb以下にまで」減少させるものと解されるが、このような「5ppb以下までしか」脱硫できない高次脱硫剤を用いて、1ppb以下、更には0.1ppb以下に脱硫することは不可能であるから、本件発明1及び2における「高次脱硫剤」自体不明瞭であり、本件特許明細書の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満足するものではなく、また特許請求の範囲の記載は明確でないので第36条第6項第2号に規定する要件を満足しないと主張している(審判請求書17頁25行〜18頁17行参照)(前記(1)で分割要件について述べたとおり、本件出願の出願日は、原出願の出願日である昭和63年12月16日とみなされるので、それぞれ、平成2年法律第30号による改正前の特許法第36条第3項、第5項第2号及び第6項についての主張と解して、以下検討する。)。

確かに、本件特許明細書には「図1は、全硫黄化合物含有量が10ppm以下(硫黄として:以下同じ)である炭化水素を原料とする本発明方法の一実施態様を示す。この場合には、原料は、硫黄含有量を5ppb以下、より好ましくは1ppb以下更に好ましくは 0.1ppb以下にまで減少させる為の脱硫工程に供される(以下これを高次脱硫という)。この様な高次脱硫では、炭化水素中の硫黄含有量を5ppb以下、好ましくは1ppb以下、より好ましくは0.1ppb以下とする。この様な高次脱硫方法としては、・・・に開示された銅-亜鉛系および銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤を使用する脱硫方法が好ましい例として挙げられる。」(特許明細書の段落【0014】参照)と記載され、「硫黄含有量を5ppb以下」なる記載が存在している。
しかし、硫黄含有量についての「5ppb以下」なる記載は、原出願の出願当初には、脱硫工程における脱硫の程度を、硫黄含有量を5ppb以下であるものと、1ppb以下であるものと、 0.1ppb以下であるものとの3つの硫黄含有量の程度に区分けしてそれぞれ特許請求していたものを、原出願の特許された明細書の特許請求の範囲からは5ppb以下であるものを削除し、1ppb以下であるものと、 0.1ppb以下であるものとの2つの硫黄含有量に区分けし、減縮して特許請求しているところ、明細書の記載は、「5ppb以下であるもの」がそのまま削除されずに残っていたものである。
本件発明は、特許明細書の特許請求の範囲で、炭化水素の高次脱硫は1ppb以下又は0.1ppb以下にまで脱硫するものであることを発明の構成に欠くことができない事項としており、硫黄含有量を1ppbを超えて5ppb以下までに減少させる脱硫を含まないことは明らかである。
してみれば、本件発明の高次脱硫剤は、硫黄含有量を1ppb以下又は0.1ppb以下にまで減少させることができる高次脱硫剤を用いることを意味するものであって、高次脱硫剤として1ppbを超えて5ppb以下までしか脱硫できない脱硫剤を使用することは含まれていないものと認められるから、特許請求の範囲の記載が不明瞭であるとすることはできない。
そして、高次脱硫としてその硫黄含有量について「5ppb以下」である記載が明細書中に残っているとしても、本件発明に使用される高次脱硫剤は、硫黄を1ppb以下又は0.1ppb以下にまで脱硫することを必須とし、1ppbを超えて5ppb以下までしか脱硫できない脱硫剤は除かれていることが明らかであるから、そのことにより発明の詳細な説明の記載が当業者が容易にその実施をすることができないとする程度に不明確なものであるとはいえない。

(イ)請求人は、原出願明細書には銅-亜鉛系脱硫剤及び銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤以外のその他の脱硫剤が記載されていたにもかかわらず、本件明細書には前記2種の脱硫剤しか記載されておらず、その他の脱硫剤は記載がないから、前記特定の銅系脱硫剤以外のその他の脱硫剤は意識的に除外したと解すべきで、銅系脱硫剤のみを開示するにとどまる本件の発明の詳細な説明の記載と、単に「高次脱硫剤」として規定している特許請求の範囲の記載は整合しておらず、特許請求の範囲の記載は不備があり、特許法第36条第4項又は第36条第6項第2号(前示のとおり、特許法第36条第3項又は第5項第2号及び第6項と解される。)に規定する要件を満足していないと主張している(審判請求書18頁18行〜19頁11行参照)。

しかしながら、本件特許明細書では、銅-亜鉛系脱硫剤や銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤は好ましい脱硫剤として記載されている。
しかも、本件発明において、水蒸気改質触媒の硫黄被毒及び該触媒に対する炭素の析出を極めて効果的に防止して、触媒寿命を大巾に延長し必要水蒸気量を減少させてS/Cが0.7〜3.5でも長時間安定に運転することができるという目的・効果が達成されるための構成は、硫黄含有量が1ppb以下に脱硫した炭化水素を用いることによるものであると解されるから、硫黄含有量が1ppb以下に脱硫できるものであればよく、脱硫工程において使用する脱硫剤の種類や脱硫剤がどのようにして得られたものであるかということに依存するわけではない。
してみれば、本件特許明細書の該銅-亜鉛系脱硫剤や銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤は本件発明の高次脱硫剤の代表的なものとして例示しているものであって、この特定の銅系脱硫剤のみに限定して記載されているものではないと認められるので、請求人の銅系脱硫剤のみを開示するにとどまる発明の詳細な説明の記載と、高次脱硫剤と規定している特許請求の範囲の記載が整合しておらず、特許請求の範囲の記載に不備があるという主張は採用できない。

(ウ)また、請求人は、本件明細書の段落【0017】に、脱硫剤について、「これらの脱硫剤を使用する場合には、炭化水素中の硫黄含有量を確実に5ppb以下、適切な条件を選択すれば1ppb以下、さらに最適条件下には容易に0.1ppb以下とすることができ」ると記載されているが、1ppb以下、0.1ppb以下にまで脱硫するための具体的な「適切な条件」や「最適な条件」に関しては特に開示されていないので3種類(5ppb以下、1ppb以下、0.1ppb以下)の脱硫剤が具体的にどのようにして得られるか理解できず、「高次脱硫剤」自体が不明であると主張している。
しかし、本件特許明細書の段落【0018】には上記の銅系脱硫剤((1)及び(2)の方法で得られる銅系脱硫剤)を用いる高次脱硫は、通常温度200〜400℃程度、圧力1〜50kg/cm2・G程度、GHSV1000〜5000程度の条件下に行なわれると記載され、また実施例1及び実施例9にはその高次脱硫剤を用いて0.1ppb以下に脱硫した例が高次脱硫剤の製造条件及び脱硫条件を含めて具体的に記載されており、上記の最適な条件は具体的に示されている。
そうであれば、0.1ppb以下に脱硫することが具体的に示されているから、上記段落【0018】に記載の条件に準じて0.1ppb以下に脱硫する条件より穏やかな条件等他の条件を選んで、1ppb以下に脱硫する程度のことは、当業者が適宜実施できるものと解され、使用する高次脱硫剤については、明細書に具体的にその製法及び脱硫方法が示されているのであるから、当業者が容易に実施できる程度に記載されているといえる。
してみると、請求人のこの点の主張も採用できない。

以上のとおり、本件発明に係る特許は、明細書の記載が特許法第36条第3項又は第4項第2号及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとすることでもない。

(4)無効理由1について(特許法第29条第2項について)
(ア)本件発明1について
(i)甲第3号証から容易に発明しえるか否か検討する。
甲第3号証には、イオウ化合物含有ガスを水添脱硫処理及び亜鉛系脱硫剤を使用する吸着脱硫処理に供した後、銅系脱硫剤を使用する吸着脱硫処理に供することを特徴とするガスの高次脱硫方法が記載されており(C-1参照)、 該脱硫方法が、水蒸気改質等に供される各種ガスの脱硫に特に適していること(C-2参照)、従来、炭化水素の水蒸気改質を行なう場合、触媒に有機硫黄化合物が直接接触して、触媒を使用不能とする危険性があるので、脱硫を行って得た精製された炭化水素を引き続く水蒸気改質工程における原料として使用していること(C-3参照)、イオウ化合物含有ガスを脱硫するに際し、水添脱硫及び吸着脱硫を行った後、銅系脱硫剤による吸着脱硫を行う場合には、ガス中のイオウ化合物濃度を0.1ppm〜1ppb程度まで低減させ得ること(C-4参照)、前記銅系脱硫剤について、Cu及びZn成分を含む溶液から共沈法により得られた沈澱に助剤を加え、打錠、焼成等の一般の低温シフト触媒の製法に類似の方法で調製すればよいこと(C-5参照)、その効果として、ガス中に含まれるイオウ化合物濃度を0.1ppm以下、最大限1ppb程度まで容易に低減されること及び後続の水蒸気改質等における触媒被毒を防止し、触媒寿命の大巾な延長をはかることができること(C-6参照)が記載されている。
これらの記載に基づくと、甲第3号証には、「水蒸気改質に供すべき炭化水素ガス中の硫黄含有量を、Cu及びZn成分を含む溶液から共沈法により得られた沈澱を焼成して得た特定の銅系脱硫剤により0.1ppm以下あるいは最大限1ppb程度まで低減された炭化水素を使用して水蒸気改質することにより触媒の硫黄被毒を防止し、もって触媒寿命を大幅に延長させることができる発明」が記載されていると認められる。

ここで、本件発明1と甲第3号証に記載の発明とを対比すると、触媒の硫黄被毒を防止し、触媒寿命を大幅に延長する目的で炭化水素ガスを高次脱硫剤により脱硫した後、水蒸気改質を行う点で一致するが、次の2点で相違する。
(1)水蒸気改質を行う際の脱硫された炭化水素中の硫黄合有量が本件発明では、1ppb以下であるのに対し、甲第3号証に記載の発明では、「0.1ppm以下、最大限1ppb程度まで容易に低減させることができる。」とあるのみで、実際に1ppb以下にまで低減した態様は開示されていない点、
(2)水蒸気改質を行うに際して、本件発明においては、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に行うことを構成要件としているが、甲第3号証に記載の発明においては、水蒸気改質における反応条件については具体的に記載されていない点。

以下相違点について検討する。
相違点(1)について
脱硫工程において、具体的に使用している脱硫剤についてみると、本件発明の銅系脱硫剤は本件特許明細書で、「(1)銅-亜鉛系脱硫剤
銅化合物(例えば、硝酸銅、酢酸銅等)及び亜鉛化合物(例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛等)を含む水溶液とアルカリ物質(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)の水溶液を使用して、常法による共沈法により沈澱を生じさせる。生成した沈澱を乾燥し、300℃程度で焼成して、酸化銅-酸化亜鉛混合物・・・を得た後、水素含有量6容量%以下、より好ましくは0.5〜4容量%程度となる様に不活性ガス(例えば、窒素ガス等)により希釈された水素ガスの存在下に150〜300℃程度で上記混合物を還元処理する。・・・(2)銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤
銅化合物・・・、亜鉛化合物・・・及びアルミニウム化合物(例えば、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等)を含む水溶液とアルカリ物質・・・の水溶液を使用して、常法による共沈法により、沈澱を生じさせる。生成した沈澱を乾燥し、約300℃で焼成して、酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物・・・を得た後、水素含有量6容量%以下、より好ましくは0.5〜4容量%程度となる様に不活性ガスにより希釈された水素ガスの存在下に150〜300℃程度で上記混合物を還元処理する。・・・
上記(1)及び(2)の方法で得られる銅系脱硫剤は、大きな表面積を有する微粒子状の銅が、酸化亜鉛(及び酸化アルミニウム)中に均一に分散しているとともに、酸化亜鉛(及び酸化アルミニウム)との化学的な相互作用により高活性状態になっている。」(特許明細書の段落【0015】〜【0017】参照)と記載されている。
それゆえ、本件発明1において、脱硫剤として用いられる銅-亜鉛系及び銅-亜鉛-アルミニウム系高次脱硫剤は、共沈法により得られた触媒前駆物質を焼成して得られる酸化銅-酸化亜鉛混合物、又は酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物を好ましくは0.5〜4容量%に不活性ガスで希釈された水素ガスの存在下に、150〜300℃に加熱するという特定の還元条件下で水素還元して、酸化物混合物中の酸化銅を金属銅に変換することにより製造され、これにより、大きな表面積を有する微粒子状の金属銅が、酸化亜鉛中に、又は酸化亜鉛及び酸化アルミニウム中に分布し、上記金属酸化物との化学的な相互作用により高活性状態になり、このことにより高い脱硫能を発揮し、炭化水素中の硫黄含有量を1ppb以下、更には0.1ppb以下に低減することを可能にするものと解される。
これに対し、甲第3号証に記載の銅系脱硫剤は、Cu及びZn成分を含む溶液から共沈法により得られた沈澱を焼成等の一般の低温シフト触媒の製法に類似の方法で調製すること(C-5参照)、また実施例においてCuO 30%-ZnO 70%からなる脱硫触媒が記載されていること(C-7参照)から、共沈法により得られた触媒前駆物質を焼成して酸化銅-酸化亜鉛混合物としたものを、そのまま脱硫剤として使用しており、甲第3号証の銅系脱硫剤は、上記金属酸化物混合物を水素還元して酸化銅を金属銅に変換したものではないので、本件発明1の銅系脱硫剤と同等の高活性状態にあるものとはいえない。
してみると、甲第3号証には、水蒸気改質に供すべき炭化水素ガス中の硫黄含有量を、特定の銅系脱硫剤により0.1ppm以下あるいは最大限1ppb程度まで低減できると記載され、硫黄含有量を最大限1ppb程度まで低減できる可能性は示されているものの、本件発明1が構成要件とする、1ppb以下までに低減することについて、何ら具体性をもって開示されているものではない。
また、甲第3号証において、硫黄含有量についての具体的な値は、実施例1及び2に「0.01mgS/Nm3 未満であった」(C-7参照)とされているが、この硫黄含有量の値である0.01mgS/Nm3 を(ppbに)換算すると、具体的には7ppbとなり【硫黄1モルの分子量は約32g;硫黄化合物=硫黄であるとする;0.01mg・S/Nm3 ={(0.01×10-3)(g)÷32(g/モル)}/{[1m3 ÷22.4(リットル/モル)]×103(リットル/m3)}={0.01×10-3g×1/32}(モル)×{1(1/m3)×22.4(リットル/モル)×10-3 (m3 /リットル) ≒0.007×10-6 =7×10-9 =7(ppb)、本件特許についての特許異議の申立てにおける、平成11年3月2日付けの取消理由通知書に対する平成11年6月21日付け特許異議意見書の4頁下から5行〜5頁3行の記載を参照】1ppb以下ではないので、上記のように判断したことと何ら矛盾するものでもない。

そして、本件発明1は、「水蒸気改質に供される炭化水素中の硫黄含有量を好ましくは1ppb以下、更に好ましくは0.1ppb以下という低いレベルとする場合には、水蒸気改質触媒の硫黄被毒を実質的に防止し得るのみならず、触媒への炭素の析出をも防止し得ることを見出した。」(特許明細書【0009】参照)ことに基づき、水蒸気改質に供される炭化水素中の硫黄含有量を1ppb以下とするものであるが、一方、甲第3号証では、硫黄含有量を低減させる目的として、硫黄による触媒被毒の抑制は記載されているものの、触媒への炭素の析出抑制については特に記載がない。
これに対し、請求人は、審判請求書の15頁1〜15行において、甲第1号証に原料中の硫黄分は、硫黄被毒により触媒活性を低下させ、そのため触媒層へのカーボン析出による触媒の粉化をも誘発しと記載されており(A-1参照)、さらに、口頭審理陳述要領書の7頁13〜21行において、甲第1号証の他にも、甲第2号証25頁右欄15行〜18行(これら原料中には、硫黄化合物たとえばH2S、COSなどの無機硫黄、RSH、RSR、RSSR、チオフェンなどの有機硫黄も含まれ、これらの各成分はいずれもリフォーミング触媒の活性を低下させカーボンの生成、ひいては触媒の崩壊を招く(B参照))、甲第11号証の44頁左欄22行〜23行(カーボン生成の原因としては(1)触媒の活性低下(2)S/Cの低下(3)触媒の被毒などが考えられる(K-2参照))、甲第12号証23頁右欄31行〜33行(水素製造装置の運転において最も可能性の高いトラブルであるリフォーミング触媒の硫黄被毒、それに起因するカーボン析出(L参照))に記載されていることから、炭素の析出防止効果は、原料炭化水素中の硫黄含有量を低減したことによる寄与であり、硫黄含有量の低減につれて硫黄の存在に起因する触媒の被毒、また触媒への炭素の析出も低減することはすでに古くから当業者の間では良く知られていた事実であるから、本件発明の脱硫レベルにおいても、その炭化水素の高次脱硫によりその炭化水素の水蒸気改質の結果は当業者には容易に予測できることにすぎないと主張している。
しかしながら、上記甲第1、2、11、12号証には、具体的に炭化水素中の硫黄含有量がどのくらいまで脱硫したものを原料として使用すると、炭素の析出量をどの程度低減できるのかという対応関係について具体的に示しているものではなく、硫黄含有量を1ppb以下と従来知られていない程度に低くしたときにどの程度炭素被毒が抑えられるかという点までは示唆されているものとは認められない。
その上に、乙第4号証の3には、原料ガス中に微量の硫黄化合物を共存させることによって、改質時における炭素の析出を防止すること、具体的にH2Sを2ppm含有する原料ガスを用いるよりも、CH3SHを10ppm含有する炭化水素、H2Sを15ppm含有する炭化水素を用いたもの方が炭素の析出が防止できること(R-3、4参照)が記載され、乙第5号証にも、改質反応器に導かれる反応物質及び他のガスから完全に硫黄を除去することにより、炭素生成をかえって増大させる危険性があること、硫黄の最適濃度が存在すること(約5vo1.ppm)、硫黄濃度が低くなり過ぎると触媒上に炭素が生成すること(W-1、2参照)が記載されているように、反応条件によっては、硫黄含有量が少なければ少ないほど炭素の析出が防止されるといえない場合もある。
そうすると、硫黄含有量が少なければ、炭素析出が防止できることが、明確な技術背景としてあったとはいえない。

しかも、乙第1号証の実験データをみると(M-1、2参照)、硫黄含有量が1ppb以下となった時点で炭素の析出が急激に減少し、著しく抑制されているが、そのよう事実はまったく予想し得るものではない。
そして、本件発明1は、炭化水素中の硫黄含有量を1ppb以下に脱硫したものを水蒸気改質方法に使用することにより、水蒸気改質触媒の硫黄被毒及び該触媒に対する炭素の析出が極めて効果的に防止され、触媒寿命が大幅に延長され、もって必要水蒸気量を減少させることができ、S/C(炭化水素中の炭素1モル当りの水蒸気のモル数)が0.7〜3.5という低水蒸気比の条件下でも炭素の析出が抑制され、長時間安定に運転することができる(特許明細書の段落【0022】参照)という効果が奏されるものと認められる。
してみれば、相違点(2)について検討するまでもなく、本件発明1は甲第3号証及び甲第1、2、11、12号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(ii)次に、甲第3号証に甲第4号証を結びつけることにより容易に発明しえるか否かについて検討する。
請求人は、甲第4号証の銅-亜鉛系触媒、及びこれにアルミニウムが添加された触媒は本件発明1における高次触媒に相当し、その精製後のガス中の硫黄含有量レベルが測定限界以下と記載されており、甲第3号証に記載の方法に甲第4号証記載の脱硫剤を活用する結果、本件発明1、2と同様の高次レベルでの脱硫が行われることとなる(審判請求書12頁26行〜13頁1行参照)と、また、甲第3号証の教示を受けて、より高活性の高次脱硫剤の開発を志向する当業者は、甲第4号証に記載の銅-亜鉛-アルミニウム系触媒に基づいてこの調製条件、脱硫条件などを選択することにより、脱硫活性を向上させて、1ppb以下とすることは、容易に想到できる(口頭審理陳述要領書5頁20〜23行参照)と主張している。
しかしながら、甲第4号証には、塩基性炭酸亜鉛の混合結晶化合物の熱分解によって得られたCu/ZnO触媒及びその製造方法として、使用する触媒は、一般式CuxZny(OH)6(CO3)2で表わされる触媒前駆物質の熱分解により製造されること(D-1、2参照)、実施例1に硝酸銅、硝酸亜鉛、硝酸アルミニウムを含む水溶液と炭酸ソーダの水溶液から触媒前駆物質が析出され、115℃で乾燥後、270℃でか焼されて、アルミニウム添加Cu/ZnO触媒を得ている(D-3参照)と記載されているように、本件発明のような、好ましくは0.5〜4容量%に不活性ガスで希釈された水素ガスの存在下に、150〜300℃に加熱するという特定の還元条件下で水素還元する点は特に記載がない。

なお、甲第4号証の実施例2、3において、脱硫の際に使用している原料である、被処理ガスとして水素を含有しているものを用いて、新規のCu/ZnO系触媒で処理することが記載されている(D-4参照)ので、Cu/ZnO系触媒が水素と共に一応加熱処理され、脱硫中においてCu/ZnO系触媒が水素還元されている可能性もあるのでこの点について検討してみるが、実施例2及び3において、水素を含有している被処理ガスの水素濃度は、実施例2では0.1%、実施例3では51.5%で反応温度はいずれも100℃である。
そうすると、本件発明が好ましくは0.5〜4容量%に不活性ガスで希釈された水素ガスの存在下に、150〜300℃に加熱するという特定の還元条件下で水素還元するの対し、甲第4号証の実施例2では被処理ガス中の水素含有量が0.1%と少なく、実施例3では51.5%と高い。また両実施例ともに反応温度が100℃であるから、高次脱硫能を発現できる最適条件下で還元されているものとは認められず、本件発明1で用いられる高次脱硫剤と同様に高い脱硫活性を発現できるものとはいえない。

さらに、甲第4号証の実施例2及び3において、Cu/ZnO系触媒を使用することにより精製されたガス中には、硫黄化合物が測定限界以下にまで低減されていると記載されている(D-4参照)のでこの点についても検討する。
本件特許明細書には、「現在の測定技術では、炭化水素の様な可燃性物質中に含まれるppbオーダーの硫黄を直接的に測定することは、困難である。従って、本明細書において、炭化水素中のppbオーダーの硫黄含有量の測定は、下記の方法に基いて計算した値である。
常法により予備精製されたコークス炉ガスを特願昭62-279868号(乙第3号証参照)に開示された銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤を用いて高次脱硫した。得られた高次脱硫コークス炉ガスを5000Nm3/hrにて、2wt.%Ru/Al2O3/触媒3.5ton(かさ密度0.8kg/リットル)を充填した改質反応器(内径160cmφ)に導入し、入口温度300℃で16000時間改質反応を行なった。使用した触媒の飽和被毒量は、約0.002g・S/g・触媒である。
ルテニウムは極めて硫黄吸着能力が高く、気相に僅かな濃度の硫黄が存在すると直ちに吸着する。従って、硫黄は触媒層の表面の極く薄い層(表層から10cmでの深さ)に吸着されているものと考えられる。
そこで、上記の反応の終了後、触媒層の表面から10cmまでの表層部について螢光X線分析法により硫黄を分析した。その結果、螢光X線分析法による硫黄の検出限界(0.00005g・S/g・触媒)以下であった。従って、高次脱硫した原料ガス中に含まれる硫黄含有量は、下記式により算出され、0.1ppb以下であることが判明した。
【数1】

」(特許明細書の段落【0024】〜【0028】参照)と記載されているように、本件特許出願当時の測定技術では、炭化水素のような可燃性物質中に含まれるppbオーダーの硫黄を直接的に測定することは困難であるので、本件発明では、改質反応を行ない、触媒層に吸着されている硫黄を螢光X線分析法により分析しているものであるのに対し、甲第4号証には、その精製後のガス中の硫黄含有量レベルが測定限界より低いとの記載があるのみで、どのような測定方法により測定したのかは全く記載がないので、そのことから、特別な条件下で測定したものでないことを意味しているものと解されるので、ppbオーダーの硫黄の検出が可能な本件発明のような特別の測定方法を利用しているものとはいえない。
そうすると、甲第4号証の測定方法は、一般的な脱硫後の炭化水素ガス中に含まれる硫黄を直接的に測定しているものであるので、ppbオーダーの硫黄を測定できるものとは認められないから、測定限界以下である硫黄含有量レベルが1ppb以下であるとすることはできない。

また、この甲第4号証の測定限界以下である硫黄含有量レベルが1ppb以下でないことは、甲第4号証の実施例を追試した大阪ガス株式会社田畑健の実験報告書(乙第6号証)によると、甲第4号証の実施例1の記載に従って調製した銅-亜鉛-アルミニウム系触媒を用いて、炭化水素ガスを200℃の条件下で脱硫した実験結果が、ガス中の硫黄含有量0.08ppm(実験結果1)、実施例2に習って40℃で飽和水蒸気を含み、0.1%の水素を含むCO2ガスを200℃の条件下で脱硫した実験結果が、ガス中の硫黄含有量0.1ppm(実験結果3)、実施例3に習ってCO(48.5%)とH2(51.5%)の混合ガスを200℃の条件下で脱硫した実験結果が、ガス中の硫黄含有量0.1ppm(実験結果4)であることを示している(X参照)ことからみても裏付けられるものである。

してみると、甲第4号証に記載の脱硫剤が本件発明の脱硫剤と同程度の脱硫活性を有しておらず、つまり、1ppb以下まで脱硫することができるものではないので、甲第3号証に記載された発明の脱硫剤を甲第4号証に記載の脱硫剤に代えても1ppb以下まで脱硫することができるものではない。
また、甲第3号証、あるいは甲第4号証には該脱硫剤をどのように調製すれば更に脱硫活性が高められるか、その調製条件や脱硫条件については特に記載されていないので、甲第3号証及び甲第4号証に具体的に記載されている脱硫剤の脱硫活性を更に向上させて、硫黄含有量を1ppb以下とすることが容易に想到し得るともいえない。
以上、請求人のこの点の主張は採用できない。

(iii)その他、甲第1号証には、原料中の硫黄分は、硫黄被毒により触媒活性を低下させるため、連続式水蒸気改質プロセスでは、ほとんど0ppm程度まで脱硫していること(A-1参照)、原料中の硫黄化合物被毒によりその機能を有効に発揮できなくなるため,痕跡量(1ppm以下)まで脱硫されること(A-4参照)、甲第2号証には、硫黄化合物はSとして1ppm以下、実質的には0.5ppm以下に除去する必要があること(B参照)、甲第5号証には、通常のNi系触媒の場合にはこの水蒸気比が低いと炭素析出を起こしやすくなるが、Ru系ではその心配がないこと(E-2参照)、甲第6号証には、ニッケル-マグネシア組成物を特殊な担体に担持させたものを改質触媒としてH2O/Cは0.9〜5.0の範囲を採用することが好ましいこと(A-4参照)、甲第7号証には、炭素析出が少なく耐熱性の高い触媒としてAl2O3が65超〜97.5重量%、La2O3及び/又はCeO2が0.5〜10重量%、NiO及び/又はCoOが2〜30未満重量%含まれる触媒組成物(G-1〜3参照)、甲第8号証には、低温水蒸気改質法の反応条件について、水蒸気比少なくとも0.6、好ましくは0.8ないし1.5の範囲であること(H参照)、甲第10号証には、Ruそのものは炭素析出反応に触媒作用を示さないこと(J参照)、甲第11号証には、ニッケル触媒のSに対する敏感さは温度が上るにつれて減ること(K-1参照)、甲第12号証には、水素製造装置の運転において最も可能性の高いトラブルとして触媒の硫黄被毒、それに起因するカーボン析出について(L参照)、それぞれ記載されているにすぎない。
してみると、甲第1、2、5〜8、10〜12号証には、炭化水素中の硫黄合有量を1ppb以下に脱硫できる脱硫剤について記載はなく、水蒸気改質を行う際の硫黄合有量を1ppb以下に脱硫された炭化水素を使用することにより、S/C(炭化水素中の炭素1モル当りの水蒸気のモル数)が0.7〜3.5の条件下でも炭素の析出が著しく抑制され、長時間安定に運転することができるという効果が奏されることを示唆する記載はない。

したがって、甲第1、2、4〜8、10〜12号証に記載の事項を参酌しても、本件発明1は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。

(イ)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1における炭化水素中の硫黄含有量が1ppb以下である点について、その上限値を更に低い0.1ppb以下に特定したものであるから、本件発明2は、本件発明1と同様な理由により、甲第1、2、4〜8、10〜12号証に記載の事項を参酌しても甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることはできない。
よって、本件発明1ないし2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

(5)結論
したがって、上記無効理由1〜3はいずれも理由がなく、本件発明1ないし2に係る特許は、特許法第123条第1項第1号及び第3号に該当しない。

7.むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件発明1ないし2に係る特許を無効とすることができない。
審判にかかる費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-06 
結審通知日 2006-04-13 
審決日 2006-04-25 
出願番号 特願平8-321361
審決分類 P 1 113・ 113- Y (C10G)
P 1 113・ 121- Y (C10G)
P 1 113・ 531- Y (C10G)
P 1 113・ 534- Y (C10G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 船岡 嘉彦  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 井上 彌一
鈴木 紀子
登録日 1998-03-27 
登録番号 特許第2761636号(P2761636)
発明の名称 炭化水素の水蒸気改質方法  
代理人 齋藤 健治  
代理人 掛樋 悠路  
代理人 小原 健志  
代理人 三枝 英二  

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