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審決分類 審判 一部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  F04C
審判 一部無効 2項進歩性  F04C
管理番号 1138284
審判番号 無効2005-80130  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-09-19 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-04-25 
確定日 2006-04-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2932236号発明「可変容量形ポンプ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件特許発明・訂正の内容
本件特許第2932236号の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成6年2月28日に出願され、平成11年5月28日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。そして、本件特許に対し、株式会社ショーワより特許異議の申立がなされ、取消の理由が通知され、訂正請求がなされ、その後、平成12年12月13日に、訂正を認め、特許を維持する異議決定がなされた。
これに対して、請求人は、平成17年4月25日に本件審判を請求し、本件特許の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明」という)は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと主張している。
また、本件特許発明の構成によっては本件特許発明の効果を奏することができないから、本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載は、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものではないから、特許法第36条第5項2号の規定に違反すると主張している。
また、当審は、平成17年10月24日付けで、特許請求の範囲の請求項2には、発明の構成に欠くことができない事項が明瞭に記載されていないから特許法第36条第5項2号の規定に規定する要件を満たしていないとして無効理由を通知した。
そして、被請求人は、平成17年11月22日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。
当該訂正の内容は、特許異議の申立において訂正された特許請求の範囲の請求項2を、下記のとおり訂正することを求めるものである。
・訂正事項1
「このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で移動変位可能に配置されたカムリングと、」を「このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で軸支部を中心に移動変位可能に配置されたカムリングと、」に訂正する。(なお、下線は訂正箇所の理解のために、当審で付した。次の訂正事項2に付いても同様。)
・訂正事項2
「前記ポンプ室から圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィスの上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の制御バルブとを備えてなり、」を「前記ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィスの上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の制御バルブとを備え、前記ポンプ吐出側開口の開口範囲が、前記軸支部を中心として前記カムリングの両側に形成され、該開口の範囲は、前記軸支部から前記第2流体圧室側の角度範囲を、前記第1流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配された可変容量形ポンプにおいて、」に訂正する。(なお、訂正請求書第2頁下から3〜2行には「前記ポンプ吐出側開口が、前記軸支部を中心として前記カムリングの両側に形成され、該開口の範囲は」と記載され「の開口範囲」が欠如しているが、「該開口の範囲」の前に開口の範囲に関する記載がないこと、及び訂正請求書に添付した訂正明細書には「前記ポンプ吐出側開口の開口範囲が、前記軸支部を中心として前記カムリングの両側に形成され、該開口の範囲は」と記載されていることから、訂正請求書の上記箇所は明らかな誤記と認め、訂正事項2を上記のように認定した。)

2.請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書において、次のように主張している。
i.本件特許発明は、甲第1号証記載の発明に、甲第2号証の第9図記載の技術、及び甲第3号証乃至甲第6号証に記載された周知の技術を適用して当業者が容易になし得たものである。(以下、「進歩性1」という。)
ii.本件特許発明は、甲第2号証第9図記載の発明に、甲第2号証の第8図記載の技術、及び甲第3号証乃至甲第6号証の周知の技術を適用して当業者が容易になし得たものである。(以下、「進歩性2」という。)
iii.本件特許発明の構成によっては本件特許発明の「ポンプ負荷時にあっても、カムリング内、外での不平衡な流体圧によりアンバランスな力が働いて、このカムリングを揺動させるといった不具合をなくし」という効果を奏することができないから、本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載は、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものではないので、特許法第36条第5項2号の規定に違反する。(以下、「記載不備」という。)

また、 請求人は、平成17年9月20日付けの弁駁書で、次のように主張している。
iv.甲第1号証記載の発明のように四室に区画した場合でも、本件特許発明のように二室に区画した場合でも、吐出圧が増加した場合の圧力の作用は同等であるので、同等の制御が行われる。
v.甲第1号証記載の発明の付勢手段であるスプリング48も、カムリングの揺動中心からみて室62(第2の流体圧室に相当)と同じ側に配設されており、本件特許発明と同等の効果が得られる。
vi.甲第1号証記載の発明の背圧室49に導かれる流体圧が吐出側に切替えられることについては、第4図に明記されている。また、背圧室49に導かれる流体圧が吸込側に切替えられることは、第3図の記載からみても甲第1号証に記載されているに等しい事項である。
vii.甲第1号証記載の発明で室62(第2の流体圧室に相当)にオリフィス下流側の流体圧を導入する目的は、本件特許発明の目的とは相違するが、本件特許発明の構成を特定する事項には、オリフィス下流側の流体圧を導入する目的は入っていない。
viii.甲第1号証記載の発明の室62(第2の流体圧室に相当)の流体圧を「常時」導入するようにすることは、甲第2号証における制御室18B(第2の流体圧室に相当)にオリフィス下流側の流体圧を「常時」導入する技術的思想を適用して容易になし得たものである。
ix.技術分野の関連性、課題の共通性、作用、機能の共通性によって十分な論理付けができるので、甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明を組み合わせて本件特許発明のようにすることは容易である。
x.甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明とを組み合わせることに何ら阻害要因はない。
xi.甲第2号証第9図記載の発明と甲第2号証第8図記載の発明との組み合わせについても、技術分野の関連性、課題の共通性、作用、機能の共通性によって十分な論理付けができるので、両者を組み合わせて本件発明のようにすることは容易である。
xii.「組み合わせの必要がない」から当業者に容易でないという論理は成り立ち得ない。甲第2号証第9図記載の発明と甲第2号証第8図記載の発明との組み合わせの必要性は存在する。
xiii.負荷により吐出量が減少するとオリフィスの差圧が小さくなって、制御バルブが作動し、ポンプ吐出量が増大する方向にカムリングが移動する旨の被請求人の主張は、本件特許明細書の段落【0049】、【0050】における、流量変動や流量低下を生じないようにすることができる旨の記載と矛盾する。

さらに、 請求人は、平成18年1月4日付けの弁駁書において、周知技術として甲第9号証を提出し、次のように主張している。
xiv.ポンプ吐出側開口の範囲が、軸支部から第2流体圧室側の角度範囲を前記第1流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配された可変容量形ポンプは、甲第9号証に記載されるように周知であり、その構成によって進歩性が肯定されるものではない。

・証拠方法
甲第1号証:実公平5-43314号公報
甲第2号証:特開昭59-58185号公報
甲第3号証:特開昭56-143383号公報
甲第4号証:ドイツ国3322549号特許公開公報
甲第5号証:特開昭59-70891号公報
甲第6号証:特開昭61-215851号公報
甲第7号証:参考図1
甲第8号証:特開平9-273487号公報
甲第9号証:特開平4-194391号公報(平成18年1月4日付けの弁駁書とともに提出)

3.訂正の適否に対する判断
上記訂正事項1について検討すると、上記訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の発明の詳細な説明には、「【0045】本発明によれば、上述した構成による可変容量形ポンプ10において、ロータ15外周部との間の一側寄りにポンプ室18を形成するように偏心して嵌装されかつポンプボディ11,12内で移動変位可能(揺動変位可能)に配置されるとともにポンプボディ11,12との間の外周部隙間空間にシール手段21,45を介して第1および第2の流体圧室34,35が形成されるカムリング17と、このカムリング17をロータ15外周部との間でのポンプ室18容積を最大とする方向に付勢する付勢手段としてのコイルばね41と、ポンプ吐出側通路28に設けたメータリングオリフィス29上、下流側での圧力差に応じて作動されポンプ室18からの圧力流体の吐出流量Qの大小に応じて第1の流体圧室34への供給流体圧を制御するスプール式制御バルブ30を備えている。」、「【0054】ここで、上述した実施例では、カムリング17とアダプタリング19との間の環状隙間空間を分割するために本実施例では、図1および図2から明らかなように、環状隙間空間を左、右に分割するように上、下に位置付けられて配置されている前述した位置決めピンとしても機能する第1のシールピン21とカムリング17の摺接面に凹設した溝部内に弾性部材を介して組み込まれている第2のシールピン45を設けている。」及び、「【符号の説明】・・・21…シールピン(カムリング軸支部)・・・」と記載されていることから、「軸支部を中心に移動変位可能に配置されたカムリング」は特許明細書に記載されているものと認める。
そうすると、上記訂正事項1は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、移動変位可能の態様を「軸支部を中心に移動変位可能」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものであり、新規事項の追加に該当しない
そして、上記訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
次に、上記訂正事項2について検討すると、上記訂正事項2に関連する記載として特許明細書の発明の詳細な説明には、「【0053】なお、本実施例では、前述した図7の従来例と同様に、ポンプ室18内でポンプ吐出側領域に開口するポンプ吐出側開口24を、ポンプ吸込側領域側であって予圧縮可能な位置までずらして形成している。」及び「【0016】これは、カムリング2内で偏心しているロータ4の一側寄りに形成されているポンプ室5において、ポンプ吐出側領域5Bに開口しているポンプ吐出側開口7の開口範囲が、図7から明らかなように、カムリング2の揺動支点となる支軸部2aを中心としてカムリング2両側に形成される左、右の流体圧室8,9に対応する角度範囲がαとα+βというように、第2の流体圧室9側にずれており、その角度差β分のポンプ吐出側圧力が、カムリング2に図中右側への揺動変位を生じさせるようなアンバランスな力として作用するからである。」と記載され、また、図5も図1と同様に、ポンプ吐出側開口が、前記軸支部21を中心として前記カムリングの両側に形成され、該開口の範囲は、前記軸支部から前記第2流体圧室側の角度範囲を、前記第1流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配されることが看取でき、当然本件特許発明は従来技術を踏まえていることから、「ポンプ吐出側開口が、前記軸支部を中心として前記カムリングの両側に形成され、該開口の範囲は、前記軸支部から前記第2流体圧室側の角度範囲を、前記第1流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配された可変容量形ポンプ」は特許明細書に記載されているものと認める。
そうすると、上記訂正事項2は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、ポンプ吐出側開口の位置を「ポンプ吐出側開口が、前記軸支部を中心として前記カムリングの両側に形成され、該開口の範囲は、前記軸支部から前記第2流体圧室側の角度範囲を、前記第1流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配された」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものであり、新規事項の追加に該当しない
そして、上記訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

したがって、平成17年11月22日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び特許法第134条の2第5項の規定によって準用する特許法第126条第3、4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

4.本件特許発明に対する判断
(1)本件特許発明
本件特許発明は、平成17年11月22日付けで訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された、次のとおりのものと認める(以下、「訂正後の本件特許発明」という)。
「ベーンを有しポンプボディ内に回転自在に配設されたロータと、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で軸支部を中心に移動変位可能に配置されたカムリングと、このカムリングの外周部とポンプボディの内周部との間を第1の流体圧室と第2の流体圧室との二室に区画するシール手段と、前記ポンプボディ内の第2の流体圧室に配設され、前記カムリングをロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢する付勢手段と、前記ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィスの上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の制御バルブとを備え、前記ポンプ吐出側開口の開口範囲が、前記軸支部を中心として前記カムリングの両側に形成され、該開口の範囲は、前記軸支部から前記第2流体圧室側の角度範囲を前記第1流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配された可変容量形ポンプにおいて、前記カムリング外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、前記ポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するように構成したことを特徴とする可変容量形ポンプ。」

(2)甲第1号証ないし甲第6号証、及び甲第9号証の記載事項
・甲第1号証(実公平5-43314号公報)
a.「ここで用いられるオイルポンプ30は、例えば特開昭55-17696号公報に開示されているような可変容量型ベーンポンプであり、このオイルポンプ30は、オイルポンプ・フランジ42およびガイドリング63の外側に、放射方向に出入自在のベーン41を備えたロータ64が配置され、その外側にカムリング43が偏心して設けられており、このロータ64がベーン41をカムリング43の内周に接しさせながら回動することにより、吸入ポート44からベーン41間に吸入したオイルを吐出ポート45から吐出するように構成されている。そしてカムリング43はピボットローラ46を支点にして枢動可能に器体47内に設けられてその枢動によってカムリング43の偏心量が変化するようになっており、かつカムリング43はスプリング48によって器体47の背圧室49側に押しつけられている。また吐出ポート45の途中に、この吐出ポート45と背圧室49を連通する流量制御ポート50と、この流量制御ポート50を開閉するための流量制御弁51とが設けられている。さらに、シール52および54によって上記吸入ポート44および吐出ポート45とそれぞれ分離された室62に連通するポート53が形成され、このポート53に油路21が連結されている。なお、55は吐出ポート45と流量制御ポート50とを分離するためのシール、56は吸入ポート44と流量制御ポート50とを分離するためのシールである。
第3図および第4図は、この種の可変容量型ベーンポンプの動作を説明するための図で、第2図に示されたポート53及びシール52は省略されている。吐出ポート45の途中に設けられている流量制御弁51はスプリング57によって図の左方へ付勢された円筒状スプール58を備えており、このスプール58は、スプール58内の圧力Pが外側の圧力P’よりも高くなるように、スプリング57が当接している側(図の右側)の端部59の内径が狭められており、かつ内周と外周とを連通する孔60を所定の位置に有している。そして第3図の状態ではスプール58がスプリング57によって図の左方へ押しつけられていることにより、孔60は流量制御ポート50から外れた位置にある。したがって吐出ポート45と流量制御ポート50とは非連通状態にあり、カムリング43はスプリング48によって背圧室49側に押しつけられて、カムリング43はロータ64に対して最大に偏位した位置にある。この状態で吐出ポート45からのオイル吐出量は第5図に示すようにエンジン回転数に比例して増加して行き、これに伴ってスプール58の内外における差圧△P=P-P’が上昇して行く。
エンジン回転数がnに達すると、上記差圧△Pがスプリング57の付勢力を上まわるため、スプール58はスプリング57を圧縮ながら右方へ移動し、第4図に示すように、吐出ポート45と流量制御ポート50とスプール58の孔60を通じて連通した状態となる。したがって吐出ポート45内のオイルが孔60を通じて流量制御ポート50に流入して背圧室49に導かれ、カムリング43はピボットローラ46を支点にしてスプリング48の付勢力に抗して枢動し、偏心量が減少する。この偏心量はエンジン回転数が上昇する程減少するため、第5図に示すように、吐出量が一定になるように制御される。
一方、第2図に示されたオイルポンプ30には、第3図および第4図の構成に加えて、室62と油路21とを連通するポート53と、室62と吸入ポート44とを分離するシール52とが設けられている。したがって、ソレノイド弁23が非励磁状態にあってドレンライン24が開いているときには、ポート53には油圧が加わらず、オイルポンプ30は、第6図に示すように、第3図および第4図の構成のものと同様にエンジン回転数がn1に達すると流量制御弁51が作動して油路31へのオイル吐出量が一定となる。しかしながら、オイルパン40内のオイルレベルの上昇をレベルセンサ25が検知すると、それによってソレノイド弁23が励磁されてドレンライン24を閉じるため、油路31の油圧が油路21およびポート53を通じて室62に加えられる。したがってカムリング43が背圧室49側に押され、オイル吐出量は、第6図の破線で示すように、エンジン回転数がn1を過ぎても増加し続け、エンジン回転数がn2に達して始めてオイル吐出量が一定となる。」(第2頁右欄第18行〜第3頁右欄第14行)

上記記載aを第2〜6図の記載とともに看れば、甲第1号証には、
「ベーン41を有し器体47内に回転自在に配設されたロータ64と、このロータ64外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記器体47内でピボットローラ46を中心に移動変位可能に配置されたカムリング43と、このカムリング43の外周部と器体47の内周部との間を背圧室49と室62だけではなく、この二室に加えて、吸入ポート44、吐出ポート45の四室に区画するシール52、54、55、56と、吸入ポート44に配設され前記カムリング43をロータ64外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢するスプリング48と、前記ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出する油路31に設けた、スプール58の内径が狭められた端部59の上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記背圧室49への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の流量制御弁51とを備え、前記ポンプ吐出側開口が、前記ピボットローラ46を中心として前記カムリング43の両側に形成された可変容量型ベーンポンプにおいて、前記カムリング43外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える室62に、前記油路31途中の、スプール58の内径が狭められた端部59下流側の流体圧をオイルパン40内のオイルレベルが上昇したときに導入するように構成した可変容量型ベーンポンプ。」の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という)が記載されているものと認められる。

・甲第2号証(特開昭59-58185号公報)
b.「次に第1図の作動について説明すると、ローター(70)、ベーン(71)、ガイドリング(72)が同時に回転する。ベーンは回転時に発生する遠心力ならびにガイドリングのガイドにより遠心方向にとびだし先端が常時リング内径と接して摺動する。これにより形成されるポンプ室(83)に図X-X線下方ではタンクに導通した吸入口(13)、吸入室(16)、リングの両側面の導通路(35)(36)を通って油が流れ吸入作用を行なう。吸入された油はX-X線上方でリングの両側面の導通路(37)(38)、吐出室(17)、吐出口(14)を通って吐出される。
第1図の状態ではスプリング(53)の押圧力によりリング(50)の中心軸線はローター(70)の中心即ち回転軸線に対して最大偏心位置にあり、ポンプの吐出量は回転数に比例して変化する。ここでシールピン(60)(61)、ハウジング内腔(20)、リング外周部(57)に囲まれた制御室(18)にポート(84)より外部から制御圧力を供給すると、リングにはスプリング(53)の押圧力に抗して第1図でみて右方向へ移動させようとする力が生ずる。」(第4頁左下欄第13行〜同頁右下欄第12行)
c.「第8図に本発明のさらに他の実施例を示す。本実施例は可変ベーンポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持することを目的としたものである。ポンプの吐出口(14)は吐出通路(110)、オリフィス(130)、導通路(131)を経てアクチュエータAに導通している吐出通路(110)には分岐路(132)があり差圧一定弁(140)のバルブチャンバ(141)に連通している。又導通路(131)には分岐路(133)があり差圧一定弁のバルブチャンバ(142)に連通している。バルブチャンバ(142)内にはスプリング(143)がありスプール(144)を図右側へ押圧している。
以上の様な構成によりオリフィス(130)の孔径と一定差圧弁のスプリング(143)の強さを適当に選定しておけば、規制流量以下の流量がオリフイス(130)を通過している間はスプール(144)がスプリング(143)により図の右側に押圧されて分岐路(132)と導通路(112)は遮断されており、制御室(18)には油が流れない。この時ポンプは回転数に比例して吐出量が変化する。回転数が増大しオリフィス(130)を通過する油量が増大すると、オリフィス前后の圧力差が流量に比例して増大する。又この圧力差は管路(132)(133)を通じてピストン(144)の左右に作用している。この為圧力差が一定以上になればスプールはスプリングの力に抗して図左方向に移動する。この結果として管路(132)と(112)が導通しポンプの制御室(18)に圧油を供給することになりポンプの吐出量は減少する。管路(132)と(141)が導通を始める圧力差はスプリング(143)のバネ力に支配される。スプール(144)はオリフィス前后の圧力差を常時スプリング(143)で規制されてる値に維持する様作用する。
即ち圧力差が大きくなればスプールは図左側へ移動し管路(132)と(112)を連通しポンプの吐出量を減少させる。逆に圧力差が小さくなれば管路(132)と(112)の連通は遮断され結果としてポンプの吐出量を増加させる。かかる操作が自動的に行なわれることによってポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持することができる。」(第5頁右上欄第15行〜同頁右下欄第13行)
d.「第9図に同、一定回転以上一定流量維持の他の実施例を示す。ここではポンプ吐出口(14)は吐出通路(110)を通りオリフイス(130)、導通路(131)を経てアクチュエータ(A)に導通している。吐出通路(110)には分岐路(132)があり、制御ポート(84)を通りシールピン(60A)と(60B)で形成された制御室(18A)へ吐出圧が導びかれている。又導通路(131)には、分岐路(133)があり、制御ポート(85)を通り、シールピン(60C)と(60D)で形成された制御室(18B)ヘオリフイスを通った吐出圧が導びかれている。
ポンプより吐出された油はオリフィス(130)を通りアクチュエータへ導びかれているが、油がオリフィス(130)を通過する時、オリフィス(130)の前後には通過する流量に応じた圧力差が生じる。この各々の圧油を各制御室(18A)(18B)へ導いているため、リング(50A)はその圧力差によって発生する油圧力上で図右方へ回転しようとする。しかしリング(50A)にはその一端(52)にスプリング(53)が設けてあり、このスプリングはリング(50A)を図左方へ押し付けている。このためこのばね力より油圧力Fsが小さい時はリング(50A)は図の状態を保ち回転に比例した油を吐出する。しかし、回転がさらに高くなりオリフィスを通過する流量が増すと比例的にオリフイス前後の圧力差が大きくなり、結果的にリングに作用する油圧力Fsが大きくなり、このFsがばね力に打ち勝つと、リング(50A)は図右方へ回転し、リングの偏芯量が少さくなり吐出量が減少する。このようにオリフィス前後の圧力差がある回転以上では常に一定になるよう制御室の油圧力Fsとスプリング力により自動的にポンプ流量を一定に制御する。ここでオリフィス径、シールピンによるシール区間(制御室範囲)及びスプリング力を各々変えることにより、最適な制御が選択可能となる。」(第5頁右下欄第14行〜第6頁右上欄第9行)
e.「即ちシールピン(60)(62)間は吸入室(16)、シールピン(61)(62)間は吐出室(17)、シールピン(60)(61)間は制御室(18)となっている。」(第4頁左上欄第13行〜第15行)

上記記載b、dを、第9図の記載とともに看ると、甲第2号証には、
「ベーン71を有しハウジング10A内に回転自在に配設されたローター70と、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ハウジング10A内でピボットボール22を中心に移動変位可能に配置されたリング50Aと、このリング50Aの外周部とハウジング10Aの内周部との間を制御室18Aと制御室18Bだけではなく、この二室に加えて、吸入室16、吐出室17の四室に区画するシールピン60A、60B、60C、60Dと、前記吸入室16に配設され前記リング50Aをロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢するスプリング53と、制御室18Aへ供給流体圧を導く分岐路132とを備え、前記吐出室17が、前記ピボットボール22を中心として前記リング50Aの両側に形成される可変吐出量ベーンポンプにおいて、前記リング50A外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える制御室18Bに、前記ポンプ吐出側通路途中のオリフィス130下流側の流体圧を常時導入するように構成した可変吐出量ベーンポンプ」の発明(以下、「甲第2号証第9図記載の発明」という)、及び「ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える制御室18Bに、前記ポンプ吐出側通路途中のオリフィス130下流側の流体圧を常時導入する分岐路133」が記載されているものと認められる。そして、この発明は、ポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持するという作用効果を奏するものである。

また、上記記載b、c、eを、符号に関して第1図の記載を参照しつつ、第8図の記載とともに看ると、甲第2号証には、
「ベーン71を有しハウジング10内に回転自在に配設されたローター70と、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ハウジング10内でピボットボール22を中心に移動変位可能に配置されたリング50と、このリング50の外周部とハウジング10の内周部との間を制御室18、吸入室16、吐出室17の3室に区画するシールピン60、61、62と、吸入室16に配設され、前記リング50をロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢するスプリング53と、前記ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたオリフィス130の上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記制御室18への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の差圧一定弁140とを備え、前記吐出室17が、前記ピボットボール22を中心として前記リング50の両側に形成される可変吐出量ベーンポンプ。」の発明(以下、「甲第2号証第8図記載の発明」という)、及び「ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたオリフィス130の上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記制御室18への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の差圧一定弁140」が記載されているものと認められる。そして、この発明は、ポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持するという作用効果を奏するものである。

・甲第3号証
第2図、第6図の記載のよれば、甲第3号証には、「カムリング4の外周部とポンプケーシング1の内周部との間を第1コントロール室23と第2コントロール室24との二室に区画する」技術が記載されているものと認められる。

・甲第4号証
第1図の記載によれば、甲第4号証には、「ステータ14の外周部と、ポンプハウジング10のディスタンスリング31の内周部との間を作動圧力室38と作動圧力室39との二室に区画する」技術が記載されているものと認められる。

・甲第5号証
第5図の記載のよれば、甲第5号証には、「カムリングCRの外周部とハウジングHAの内周部との間を第1チャンバCB1と第2チャンバCB2との二室に区画する」技術が記載されているものと認められる。

・甲第6号証
第1図の記載によれば、甲第6号証には、「スライド9の外周部とポンプボディ2の内周部との間をインクリース側油室16とディクリース側油室15との二室に区画する」技術が記載されているものと認められる。

・甲第9号証
第1、2図の記載によれば、「吐出ポート42開口が、支軸31を中心としてカムリング3の両側に形成され、該開口の範囲は、前記支軸3から空間6b側の角度範囲を、空間6a側の角度範囲より大きくなるようにずらして配された可変容量形ポンプ」が記載されているものと認められる。

(3)進歩性1について
i.訂正後の本件特許発明と甲第1号証記載の発明との対比
訂正後の本件特許発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明の「ベーン41」は、その構成、機能からみて、訂正後の本件特許発明の「ベーン」に相当する。以下同様に、「器体47」は「ポンプボディ」に、「ロータ64」は「ロータ」に、「ピボットローラ46」は「軸支部」に、「カムリング43」は「カムリング」に、「背圧室49」は「第1の流体圧室」に、「室62」は「第2の流体圧室」に、「シール52、54、55、56」は「シール手段」に、「スプリング48」は「付勢手段」に、「油路31」は「ポンプ吐出側通路」に、「スプール58の内径が狭められた端部59」は「メータリングオリフィス」に、「流量制御弁51」は「制御バルブ」に、「可変容量型ベーンポンプ」は「可変容量形ポンプ」に相当する。

したがって、両者は、
「ベーンを有しポンプボディ内に回転自在に配設されたロータと、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で軸支部を中心に移動変位可能に配置されたカムリングと、このカムリングの外周部とポンプボディの内周部との間を第1の流体圧室と第2の流体圧室に区画するシール手段と、前記カムリングをロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢する付勢手段と、前記ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けた、メータリングオリフィスの上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の制御バルブとを備え、前記ポンプ吐出側開口が、前記軸支部を中心として前記カムリングの両側に形成された可変容量形ポンプにおいて、前記カムリング外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、前記ポンプ吐出側通路途中の、メータリングオリフィス下流側の流体圧を導入するように構成した可変容量形ポンプ。」
である点で一致し、下記の点で相違するものと認められる。

・相違点1
訂正後の本件特許発明では、ポンプ吐出側開口の範囲は、前記軸支部から前記第2流体圧室側の角度範囲を前記第1の流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配されているのに対し、甲第1号証記載の発明では、このように配されているかどうか不明である点。

・相違点2
訂正後の本件特許発明は、カムリング外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、前記ポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するように構成しているのに対し、甲第1号証記載の発明は、オイルパン40内のオイルレベルが上昇したときに導入するように構成している点。

・相違点3
カムリングの外周部とポンプボディの内周部との間の空間に関し、訂正後の本件特許発明では、シール手段が前記空間を第1の流体圧室と第2の流体圧室との二室に区画しているのに対し、甲第1号証記載の発明では、シール手段は前記空間を、第1の流体圧室、第2の流体圧室の二室だけではなく、この二室に加えて、吸入ポート、吐出ポートの四室に区画している点。

・相違点4
付勢手段の配置に関し、訂正後の本件特許発明では、付勢手段は第2の流体圧室に配設されているのに対し、甲第1号証記載の発明では、付勢手段は吸入ポート44に配設され、第2の流体圧室に配設されてはいない点。

ii.相違点の判断
・相違点1、2に関して
ポンプ吐出側開口の範囲が、軸支部から第2流体圧室側の角度範囲を第1の流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配されている可変容量形ポンプにおいては、次のような問題点があった。すなわち、本件特許明細書の段落【0015】〜【0021】に記載されているように、ポンプ吐出側開口の範囲が、軸支部に対して偏っていると、ポンプ吐出圧によるカムリングに内側から作用する圧力が上昇すると、ポンプ吐出流量が減少する方向に揺動しようとする力が働くことになるので、このポンプから圧力流体の供給を受ける被利用機器が作動したときの負荷作用時に流量が減少してしまう、という問題である。
そして、訂正後の本件特許発明は、この問題を解決するために、相違点2に関する訂正後の本件特許発明のように、第2の流体圧室に、ポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入することによって、ポンプ吐出流量が減少する方向に揺動しようとする力に対向する圧力をカムリングに外側から作用させて押し戻して、負荷作用時にも流量が減少しないようにするものである。
さて、甲第2号証第9図には、「ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える制御室18Bに、前記ポンプ吐出側通路途中のオリフィス130下流側の流体圧を常時導入する分岐路133」が記載されている。そして、分岐路133は、ポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持するという作用を奏する、甲第2号証第9図記載の発明の構成の一部である。ところで、甲第1号証記載の発明は、本件特許公報の第3図にも示されるように、すでに、ポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持するという作用を有しているので、甲第1号証記載の発明に甲第2号証第9図記載の発明を組み合わせる必要性は存在しない。
そして、甲第1号証記載の発明に甲第2号証第9図記載の発明を組み合わせることは、分岐路133が制御室18Bに常時連絡するようになるだけでなく、分岐路132も付加することになって、構造をより複雑にするだけで、いかなる利点が生ずるのか、当業者が予測できるわけでもない。まして、甲第2号証第9図記載の発明の一部である分岐路133が常時制御室18Bに連通していることだけを都合良く取り出して、甲第1号証記載の発明に適用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
ところで、工業製品においては、一般に、加工コストを軽減するために、構造を簡単にすることが要求されるので、同一の作用を奏する複数の技術を組み合わせて用いることは通常は行われない。同一の作用を奏する複数の技術を組み合わせて用いることは、それによって格段に性能が向上する等の利点が生ずる場合や、異常が起こると人命に関わる装置等において、異常検知センサを複数設けて、いずれかのセンサが故障しても他のセンサで確実に異常を検知する場合等、コスト軽減に優先する特段の理由がある場合に限られるものである。
そして、ポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持する場合について考察するに、上記のような、コスト軽減に優先する特段の理由があるとは認められない。したがって、甲第1号証記載の発明に甲第2号証第9図記載の発明を組み合わせることは、通常は行わない。
さらに、訂正後の本件特許発明は、相違点1として挙げたように、ポンプ吐出側開口の範囲が、軸支部から第2流体圧室側の角度範囲を第1の流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配されている可変容量形ポンプにおいて、負荷作用時に流量が減少してしまうという問題点を、相違点2として挙げたように、ポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を第2の流体圧室に常時導入することによって解決するものであるが、甲第2号証には、上記問題点についても、上記作用についても、何ら記載されていない。
よって、前記請求人の主張vi、vii、viii、xivは、総合的にみて採用しない。

つぎに、請求人の主張ix、すなわち、技術分野の関連性、課題の共通性、作用・機能の共通性について検討する。
まず課題、及び作用・機能の関連性についてみると、訂正後の本件特許発明は、負荷作用時に流量が減少してしまうことを課題とし、負荷作用時にも流量が減少しないという作用・機能を有している。そして、甲第1号証記載の発明、及び甲第2号証第9図記載の発明は、一定回転数以上で一定流量を維持するものではあるが、訂正後の本件特許発明に特有の課題である、負荷作用時に流量が減少してしまうこと、及び訂正後の本件特許発明に特有の作用・機能である、負荷作用時にも流量が減少しないことについてはなんら記載も示唆もない。してみると、訂正後の本件特許発明の進歩性を判断する際に検討すべき課題及び作用・機能は、甲第1号証記載の発明と甲第2号証第9図記載の発明とで、共通しないと考えるのが相当である。
つぎに、技術分野の関連性についてみると、ある技術分野に置換可能なあるいは付加可能な技術手段があるときは、その技術手段が属する技術分野と、進歩性判断の対象となる発明の属する技術分野との関連性が問題となる。しかし、甲第1号証記載の発明、及び甲第2号証第9図記載の発明には、負荷作用時にも流量が減少しないという作用・機能を奏する、置換可能なあるいは付加可能な技術手段が存在しないのであるから、訂正後の本件特許発明と甲第1号証記載の発明、及び甲第2号証第9図記載の発明との技術分野の関連性は論ずるまでもない。
よって、前記請求人の主張ixは、採用しない。

さらに、甲第1号証記載の発明は、オイルパン40内のオイルレベルが上昇したときにソレノイド弁23を開いて、室62に油圧を加えることによってポンプの吐出量を増加させてオイルレベルの上昇を防止して、回転体がオイル内に浸されるのを防止することを目的とするものである。したがって、甲第1号証記載の発明において、ソレノイド弁23を常時開くようにすることは、オイルレベルが上昇したときポンプの吐出量を増加させて回転体がオイル内に浸されるのを防止するという、その発明の本来の目的を放棄することになる。
よって、前記請求人の主張xは、採用しない。

以上総合すると、甲第1号証記載の発明と甲第2号証第9図記載の発明に基づいて、相違点1、2にかかる訂正後の本件特許発明のように構成することは、当業者が容易になし得るものではない。

・相違点3、4に関して
甲第1号証記載の発明の第2の流体圧室は、オイルパン40内のオイルレベルが上昇したときにメータリングオリフィス下流側の流体圧を導入して吐出量を増加させるものであって、訂正後の本件特許発明の第2の流体圧室のように、メータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入して、負荷作用時にも流量が減少しないようにするものではない。したがって、これらの二つの発明は作用効果が相違するので、甲第1号証記載の発明のように四室に区画した場合と、訂正後の本件特許発明のように二室に区画した場合では、同等の制御が行われるわけではない。
さらに、甲第2号証にも、カムリングの外周部とポンプボディの内周部との間の空間を二室に区画する構成は記載されていないし、付勢手段であるスプリング53は、制御室18Bではなく、吸入室16に配設されている。また、甲第3〜6号証記載のものは、カムリングの外周部とポンプボディの内周部との間の区画された空間にポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するものではないので、カムリングの外周部とポンプボディの内周部との間の空間を二室に区画する構成をとっているとしても、訂正後の本件特許発明とは技術的意義が異なるものである。してみると、甲第1、2、3〜6号証記載のものに基づいて、訂正後の本件特許発明の上記相違点3、4のように構成することを、当業者が容易に想到し得るものとすることはできない。
よって、前記請求人の主張iv、vは、総合的にみて採用しない。

そして、訂正後の本件特許発明は、上記相違点1、2の点の構成により、被利用機器が作動したときの負荷作用時に、ポンプ吐出側流体圧が上昇しても、流量低下といった問題を生じないようにするという、明細書記載の効果を奏するものである。また、上記相違点3、4の点の構成により、ポンプ内部での通路構成の簡素化やこれに伴う各部材の加工性の向上を向上を図るという、明細書記載の効果を奏するものである。

したがって、訂正後の本件特許発明は、甲第1〜6号証、及び甲第9号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)進歩性2について
i.訂正後の本件特許発明と甲第2号証第9図記載の発明との対比
訂正後の本件特許発明と甲第2号証第9図記載の発明とを対比すると、甲第2号証第9図記載の発明の「ベーン71」は、その構成、機能からみて、訂正後の本件特許発明の「ベーン」に相当する。以下同様に、「ハウジング10A」は「ポンプボディ」に、「ローター70」は「ロータ」に、「ピボットボール22」は「軸支部」に、「リング50」は「カムリング」に、「制御室18A」は「第1の流体圧室」に、「制御室18B」は「第2の流体圧室」に、「シールピン60A、60B、60C、60D」は「シール手段」に、「スプリング58」は「付勢手段」に、「吐出室17」は「ポンプ吐出側開口」に、「オリフィス130」は「メータリングオリフィス」に、「可変吐出量ベーンポンプ」は「可変容量形ポンプ」に相当する。

したがって、両者は、
「ベーンを有しポンプボディ内に回転自在に配設されたロータと、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で軸支部を中心に移動変位可能に配置されたカムリングと、このカムリングの外周部とポンプボディの内周部との間を第1の流体圧室と第2の流体圧室に区画するシール手段と、前記カムリングをロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢する付勢手段とを備え、ポンプ吐出側開口が、前記軸支部を中心として前記カムリングの両側に形成された可変容量形ポンプにおいて、前記カムリング外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、前記ポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するように構成した可変容量形ポンプ」
である点で一致し、下記の点で相違するものと認められる。

・相違点1
訂正後の本件特許発明では、ポンプ吐出側開口の範囲は、前記軸支部から前記第2流体圧室側の角度範囲を前記第1の流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配されているのに対し、甲第2号証第9図記載の発明では、このように配されているかどうか不明である点。

・相違点2
第1の流体圧室へ供給流体圧を導くために、訂正後の本件特許発明では、ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィスの上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の制御バルブを用いているのに対し、甲第2号証第9図記載の発明では、制御バルブを用いるのではなく分岐路132を用いている点。

・相違点3
カムリングの外周部とポンプボディの内周部との間の空間に関し、訂正後の本件特許発明では、シール手段が前記空間を第1の流体圧室と第2の流体圧室との二室に区画しているのに対し、甲第2号証第9図記載の発明では、シール手段は前記空間を、第1の流体圧室、第2の流体圧室の二室だけではなく、この二室に加えて、吸入室16、吐出室17の四室に区画している点。

・相違点4
付勢手段の配置に関し、訂正後の本件特許発明では、付勢手段は第2の流体圧室に配設されているのに対し、甲第2号証第9図記載の発明では、付勢手段は吸入室16に配設され、第2の流体圧室に配設されてはいない点。

ii.相違点の判断
・相違点1、2に関して
甲第2号証第8図には、「ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたオリフィス130の上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記制御室18への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の差圧一定弁140」が記載されている。そして、差圧一定弁140は、ポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持するという作用を奏する、甲第2号証第8図記載の発明の構成の一部である。しかしながら、甲第2号証第9図記載の発明は、すでに、ポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持するというという作用を有しているので、甲第1号証記載の発明に甲第2号証第9図記載の発明を組み合わせる必要性は存在しない。
まして、甲第2号証第8図記載の発明の構成の一部にすぎない差圧一定弁140だけを都合良く取り出して、甲第2号証第9図記載の発明に適用することは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
ところで、工業製品においては、加工コストを軽減するために、構造を簡単にすることが要求されるので、同一の作用を奏する複数の技術を組み合わせて用いることは一般には行われない。同一の作用を奏する複数の技術を組み合わせて用いることは、それによって格段に性能が向上する等の利点が生ずる場合や、異常が起こると人命に関わる装置等において、異常検知センサを複数設けて、いずれかのセンサが故障しても他のセンサで確実に異常を検知する場合等、コスト軽減に優先する特段の理由がある場合に限られるものである。
そして、ポンプの吐出量を一定回転以上において一定に維持する場合について考察するに、上記のような、コスト軽減に優先する特段の理由があるとは認められない。したがって、甲第2号証第9図記載の発明に甲第2号証第8図記載の発明を組み合わせることは、それによって利点が生ずるわけでもなく、通常は行わない。
さらに、訂正後の本件特許発明は、相違点1として挙げたように、ポンプ吐出側開口の範囲が、軸支部から第2流体圧室側の角度範囲を第1の流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配されている可変容量形ポンプにおいて、負荷作用時に流量が減少してしまうという問題点を、第2の流体圧室にメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するとともに、相違点2として挙げたように、ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィスの上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて第1の流体圧室への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の制御バルブを用いることによって解決するものであるが、甲第2号証第8図には、上記問題点についても、上記作用についても、何ら記載されていない。
よって、前記請求人の主張xii、xivは、採用しない。

つぎに、請求人の主張xi、すなわち、技術分野の関連性、課題の共通性、作用・機能の共通性について検討する。
まず課題及び作用・機能の関連性についてみると、訂正後の本件特許発明は、負荷作用時に流量が減少してしまうことを課題とし、負荷作用時にも流量が減少しないという作用・機能を有している。そして、甲第2号証第8図記載の発明、及び甲第2号証第9図記載の発明は、一定回転数以上で一定流量を維持するものではあるが、訂正後の本件特許発明に特有の課題である、負荷作用時に流量が減少してしまうこと、及び訂正後の本件特許発明に特有の作用・機能である、負荷作用時にも流量が減少しないことについてはなんらの記載も示唆もない。してみると、訂正後の本件特許発明の進歩性を判断する際に検討すべき課題、及び作用・機能は、共通しないと考えるのが相当である。
つぎに、技術分野の関連性についてみると、ある技術分野に置換可能なあるいは付加可能な技術手段があるときは、その技術手段が属する技術分野と、進歩性判断の対象となる発明の属する技術分野との関連性が問題となる。しかし、甲第2号証第8図記載の発明、及び甲第2号証第9図記載の発明には、負荷作用時にも流量が減少しないという作用・機能を奏する、置換可能なあるいは付加可能な技術手段が存在しないのであるから、訂正後の本件特許発明と甲第2号証第8図記載の発明、及び甲第2号証第9図記載の発明との技術分野の関連性は論ずるまでもない。
よって、前記請求人の主張xiは、採用しない。

以上総合すると、甲第2号証第9図記載の発明と甲第2号証第8図記載の発明に基づいて、相違点1、2にかかる訂正後の本件特許発明のように構成することは、当業者が容易になし得るものではない。

・相違点3、4に関して
甲第2号証には、カムリングの外周部とポンプボディの内周部との間の空間を二室に区画する構成は記載されていないし、付勢手段であるスプリング53は、制御室18Bではなく、吸入室16に配設されている。また、甲第3〜6号証記載のものは、カムリングの外周部とポンプボディの内周部との間の区画された空間にポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するものではないので、カムリングの外周部とポンプボディの内周部との間の空間を二室に区画する構成をとっているとしても、訂正後の本件特許発明とは技術的意義が異なるものである。してみると、甲第2、3〜6号証記載のものに基づいて、訂正後の本件特許発明の上記相違点3、4のように構成することを、当業者が容易に想到しうるものとすることはできない。

そして、訂正後の本件特許発明は、上記相違点1、2の点の構成により、被利用機器が作動したときの負荷作用時に、ポンプ吐出側流体圧が上昇しても、流量低下といった問題を生じないようにするという、明細書記載の効果を奏するものである。また、上記相違点3、4の点の構成により、ポンプ内部での通路構成の簡素化やこれに伴う各部材の加工性の向上を向上を図るという、明細書記載の効果を奏するものである。

したがって、訂正後の本件特許発明は、甲第2〜6号証、及び甲第9号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(5)記載不備について
請求人は、甲第7号証の参考図に基づいて、「圧力変動xが発生してもエンジン回転数が変わらない限り流量は変化せず、オリフィス前後の圧力差ΔPは変わらない」(審判請求書第25頁第5〜6行)ことを前提に、審判請求書第25頁第23行〜第26頁第15行において、「ポンプ室の圧力がPからP+xに上昇したときは、第2の流体圧室の圧力もPBからPB+xに上昇するから、本件特許明細書の段落【0069】の通り、本発明によれば、流体圧力変化に伴なうカムリング内圧の上昇P→P+xに対抗できる程度の略吐出圧力に近いメータリングオリフィス下流側の圧力PB+xを、カムリング外周側の第2の流体圧室に常時導入することになるかもしれない。しかし、この考えは、第1の流体圧室における圧力もPAからPA+xに上昇することを見落としている。第1の流体圧室に生じた圧力変動に基づく力と、第2の流体圧室に生じた圧力変動に基づく力はそれらの受圧面が略同面積であって対向しているから互いに相殺されるものの、これではポンプ室に生じた圧力変動に基づく力を相殺できない。そしてこのアンバランスな力は、カムリングを第2の流体圧室の側に移動させる要因になってしまう。本件発明の構成では、本件発明の効果を奏することはできないのである。・・・このように本件発明の構成によっては本件発明の効果を奏することができないから、本件発明に係る特許請求の範囲は、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものではないことになり、特許法36条5項2号に違反する。」と主張している。
この主張は、前述のように、圧力変動が発生してもエンジン回転数が変わらない限り流量は全く変化しないことを前提としているが、このような前提が必ず成り立つというものではないことを、以下検討する。
実際は、上記主張においても「第1の流体圧室に生じた圧力変動に基づく力と、第2の流体圧室に生じた圧力変動に基づく力はそれらの受圧面が略同面積であって対向しているから互いに相殺されるものの、これではポンプ室に生じた圧力変動に基づく力を相殺できない。そしてこのアンバランスな力は、カムリングを第2の流体圧室の側に移動させる要因になってしまう。」と述べているように、ポンプ吐出側開口の範囲が、軸支部から第2流体圧室側の角度範囲を前記第1の流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配されているので、それによるアンバランスな力によって、ポンプ吐出流量はいくらか減少するものである。
このようにして、(i)ポンプ吐出流量が減少すると、オリフィスの差圧が小さくなるので、本件特許公報の第5図において、制御バルブ30は左方向に移動し第1の流体室34はポンプ吸入側の圧力になる。それによって第1の流体室34の圧力が低くなるので、カムリング17はポンプ吐出流量が増加する左方向に移動する。(ii)それによってポンプ吐出流量が増加すると、オリフィスの差圧が大きくなるので、制御バルブ30は右方向に移動し第1の流体室34はポンプ吐出側の圧力になる。それによって第1の流体室34の圧力が高くなるので、カムリング17はポンプ吐出流量が減少する右方向に移動する。そして、この後(i)、(ii)が繰り返されるので、ポンプ吐出流量は多少変動するものの、ほぼ一定となり、本件特許公報の第3図における線b(本願負荷時)のように、線a(無負荷時)よりも若干小さい値で落ち着くことになる。この線b(本願負荷時)は、線c(従来負荷時)よりも遙かに大きな吐出流量に保たれることを示している。そして、オリフィス上、下流の差圧に伴って、制御バルブ30がこのように作動して吐出流量が保たれることは、流体圧回路についての基礎的な知識に基づいて容易に理解し得ることである。
これに関して、請求人は、審判請求書第26頁第6行〜第12行「参考までに、ポンプ負荷等による吐出側圧力の上昇と流量変動に関する上記技術的見解については、実は、特許権者の別な出願において特許権者自身によって主張されていることでもある。特開平9-273487号公報(甲第8号証)において、本件発明を先行技術図8として説明するなかで、『このような負荷作用時等では、ポンプ吐出圧が増大すると、カムリング2の内側の内圧と外側の流体圧5、6との間での圧力差によって、図中右側に揺動動作することになる。』(甲第8号証の【0012】欄参照)と明言されているのである。」と主張している。しかしながら、甲第8号証には、その記載の次の段落【0013】に、「前記スプール式制御バルブ10は、このようなカムリング2の負荷作用時に上述したアンバランスな力によっても揺動変位を生じないように、カムリング2の外側での高圧側の流体圧室5に導入する流体圧P3を、ポンプ吐出側通路11での可変オリフィス12よりも上流側の圧力P1よりも小さくするために設けている。なお、カムリングの外側で低圧側の流体圧室6には、オリフィス12の下流側の圧力P2が導入されている。このP2は、上述した圧力P1よりも小さく、圧力P3よりは大きくなる。」と記載されているとおり、負荷作用時のアンバランスな力によっても、カムリング2は揺動変位を生じないことが記載されている。
してみると、訂正後の本件特許発明の構成によって、「【0068】本発明によれば、カムリング外側に形成される第1の流体圧室に、スプール式の制御バルブによってポンプ吐出側流量の大小に応じてポンプ吸込側の流体圧やポンプ吐出側でのメータリングオリフィスの上流側の流体圧を導入するとともに、第2の流体圧室に、ポンプ吐出側通路でのメータリングオリフィス下流側の流体圧を導入することにより、たとえば被利用機器の作動等といったポンプ負荷時にあっても、カムリング内、外での不平衡な流体圧によりアンバランスな力が働いて、このカムリングを揺動させるといった不具合をなくし、結果としてポンプ吐出側での流量変動や流量低下を解消することができる。」という訂正後の本件特許発明の効果を奏することになる。
よって、前記請求人の主張xiiiは、採用しない。
また、無効理由通知で指摘した点も解消した。
したがって、訂正後の本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載は、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものであるから、特許法第36条第5項2号の規定に違反しない。

5.結び
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
可変容量形ポンプ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーンを有しポンプボディ内に回転自在に配設されたロータと、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で移動変位可能に配置されたカムリングと、このカムリングの外周部とポンプボディの内周部との間を第1の流体圧室と第2の流体圧室との二室に区画するシール手段と、前記ポンプボディ内の第2の流体圧室に配設され、前記カムリングをロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢する付勢手段と、前記ポンプ室から圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィスの上、下流側での圧力差によって作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧を制御するスプール式の制御バルブとを備えてなり、前記カムリング外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、前記スプール式制御バルブの第2の室に導かれているメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するように構成したことを特徴とする可変容量形ポンプ。
【請求項2】
ベーンを有しポンプボディ内に回転自在に配設されたロータと、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で軸支部を中心に移動変位可能に配置されたカムリングと、このカムリングの外周部とポンプボディの内周部との間を第1の流体圧室と第2の流体圧室との二室に区画するシール手段と、前記ポンプボディ内の第2の流体圧室に配設され、前記カムリングをロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢する付勢手段と、前記ポンプ室からポンプ吐出側開口を介して圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィスの上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧をポンプの吸込側もしくは吐出側の流体圧に切替え制御するスプール式の制御バルブとを備え、前記ポンプ吐出側開口の開口範囲が、前記軸支部を中心として前記カムリングの両側に形成され、該開口の範囲は、前記軸支部から前記第2流体圧室側の角度範囲を前記第1流体圧室側の角度範囲より大きくなるようにずらして配された可変容量形ポンプにおいて、前記カムリング外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、前記ポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するように構成したことを特徴とする可変容量形ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、たとえば自動車のハンドル操作力を軽減する動力舵取装置のような圧力流体利用機器に用いられる可変容量形ベーンポンプに関する。
【0002】
【従来の技術】動力舵取装置用ポンプとして従来一般には、自動車用エンジンで直接回転駆動される容量形のベーンポンプが用いられていた。しかし、このような容量形ポンプは、駆動源であるエンジン回転数に対応して吐出流量が増減されるため、停車中や低速走行時に大きな操舵補助力を生じさせ、高速走行時には操舵補助力を小さくするという動力舵取装置とは相反する特性となっている。
【0003】
したがって、このようなポンプとしては、回転数が小さい低速走行時にあっても所要の操舵補助力が得られる吐出流量を確保できるものが用いられ、かつ回転数が大きくなったときの吐出流量を一定量以下に制御するための流量制御弁が必須となる。このため、このようなポンプでは、構成部品点数が増え、構造が複雑化し、さらに通路構造も複雑で、全体の大型化やコスト高も避けられない。
【0004】
また、流量制御弁を用いると、吐出流量をタンク側に還流させることになるので、駆動馬力が大きくなり、エネルギ損失が多く、さらに油温が上昇するという問題もある。
【0005】
このような容量形での不具合を解決するものとして、吐出流量を回転数の増加に伴って段階的に減少させ得る可変容量形ベーンポンプが、たとえば特開昭53-130505号公報、特開昭56-143383号公報、特開昭58-93978号公報、実公昭63-14078号公報等によって種々提案されている。
【0006】
このような可変容量形のポンプでは、容量形のような流量制御弁が不要で、また無駄な駆動馬力の増大化を防ぎ、エネルギ効率の面でも優れ、さらにタンク側への戻り流量もないことから油温上昇という問題も低減でき、しかもポンプ内部での漏れ、容積効率低下等の問題をも防止できる。
【0007】
たとえば特開昭56-143383号公報等に示される可変容量形ポンプは、カムリングをポンプケーシング内で移動可能に構成するとともに、このカムリングとポンプケーシングとの間に形成した間隙部において一対のコントロール室となる流体圧室を形成し、それぞれの室に吐出通路途中に設けたオリフィス前後の圧力を導き、その差圧をカムリングに直接作用させ、このカムリングをスプリングの付勢力に抗して適宜移動させることにより、ポンプ室の容積(ポンプ容量)を変化させて適正な吐出流量制御を行なうものである。
【0008】
しかし、このような従来のポンプでは、カムリングを、ポンプハウジング内で直線移動可能に保持し、これを吐出通路に直接または間接的に設けたオリフィス上、下流側の圧力差で移動変位させているだけであり、ポンプ各部の構成部品や流体通路等が多く、加工性、組立性は勿論、動作上での信頼性、さらに耐久性の面で問題をもち、実現性に乏しいものであった。
【0009】
前述したように従来から知られている可変容量形ベーンポンプの一例を、図6等を用いて簡単に説明すると、図中1はポンプボディ、2はこのボディ1内に形成されている楕円形空間部3内で支軸部2aを介して揺動変位可能に設けられかつ図中白抜き矢印で示す方向に付勢力が与えられているカムリング、4はこのカムリング2内でポンプ室5を一側に形成するように他側寄りに偏心して収容され外部駆動源によって回転駆動されることにより放射方向に進退自在に保持したベーン4aを出入りさせるロータである。
【0010】
なお、図中4bはロータ4の駆動軸で、ロータ4は図中矢印で示す方向に回転駆動される。また、図中3a,3bはボディ空間部3においてカムリング2の両側室に開口して形成され各室にカムリング2を揺動変位させるための制御圧、たとえばポンプ吐出側通路に設けた可変オリフィス前後の流体圧等を導くための通路で、カムリング2をポンプ吐出側での流量に応じて揺動変位させ、ポンプ回転数の増加に伴い吐出側の流量を減少させるような吐出側流量制御を行なうように構成される。
【0011】
6は前記ポンプ室5におけるポンプ吸込側領域5Aに臨んで開口されたポンプ吸込側開口、7はポンプ室5のポンプ吐出側領域5Bに臨んで開口されたポンプ吐出側開口で、これらの開口6,7はロータ4およびカムリング2からなるポンプ構成要素を両側から挾み込んで保持するための固定壁部であるプレッシャプレートおよびサイドプレート(図示せず)のいずれかに形成されている。
【0012】
また、8,9はポンプボディ1の楕円形空間部3内でカムリング2の外周部両側に形成された一対をなす第1および第2の流体圧室で、これらの室8,9には、前述した通路3a,3bによりポンプ吐出側通路の可変オリフィス上、下流側の流体圧等が導入され、カムリング2を所要の方向に揺動変位させ、ポンプ室5内の容積を可変し、ポンプ吐出側での流量に対応して吐出流量を可変制御するものである。
ここで、カムリング2は図中Fで示すように流体圧室9側から付勢力が与えられ、常時はポンプ室5内の容積を最大に維持し得るようになっている。また、図中2bはカムリング2の外周部に設けられ軸支部2aと共に左、右両側に流体圧室8,9を画成するためのシール材である。
【0013】
なお、6a,7aは前記ポンプ吸込側開口6、吐出側開口7のポンプ回転方向の終端部に連続して形成されたひげ状のノッチで、これらのノッチ6a,7aは、ロータ4の回転に伴って各ベーン4aの先端をカムリング2の内周部に摺接させてポンプ作用を行わせる場合に、各開口6,7の端部に接近するベーン間で挾まれた空間とこれに隣接するベーン間の空間との間で流体圧を高圧側から低圧側へと徐々に逃がす役割を果たすためのものである。このようなノッチ6a,7aによれば、ベーン4a間の空間が、各開口6,7の端部に直に到達することで、急激な圧力変動、サージ圧を生じ、その結果としてポンプ吐出側での流体圧力に脈動問題を生じることを防止するうえで効果的である。
【0014】
そして、上述した構造によるポンプでは、ロータ4の回転に伴ってベーン間の空間を、各開口6,7に連通されるのに先立って、前記ノッチ6a,7aを介して各開口6,7との所要の連通状態を生じさせ、高圧側から低圧側に流体圧力を徐々に逃がすことによって、前述したベーン4a,4a間の空間での急激な圧力変動を抑制し、サージ圧を小さくし、これによりポンプ吐出側での流体圧力に生じる脈動を防止しようとする構成であった。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の可変容量形のポンプ構造によれば、ポンプボディ1内でカムリング2を揺動変位可能に支持する支軸部2aを中心としたポンプ室5内のポンプ吐出側領域5Bにおける流体圧による作用力に、アンバランスな力が発生することがあるという問題があった。
【0016】
これは、カムリング2内で偏心しているロータ4の一側寄りに形成されているポンプ室5において、ポンプ吐出側領域5Bに開口しているポンプ吐出側開口7の開口範囲が、図7から明らかなように、カムリング2の揺動支点となる支軸部2aを中心としてカムリング2両側に形成される左、右の流体圧室8,9に対応する角度範囲がαとα+βというように、第2の流体圧室9側にずれており、その角度差β分のポンプ吐出側圧力が、カムリング2に図中右側への揺動変位を生じさせるようなアンバランスな力として作用するからである。
【0017】
すなわち、ポンプ室5内に開口するポンプ吐出側開口7の開口位置によって、カムリング2において外周部側が第2の流体圧室9に対応する部分での内圧、特に角度βに相当する部分での室内圧力が上昇すると、カムリング2内、外での差圧によって、カムリング2が図中矢印で示す方向に揺動しようとする力が働くことになる。そして、このような動きに伴なうポンプ室5の容積減少によって、ポンプ吐出流量が減少すると、このポンプから圧力流体の供給を受ける被利用機器が作動したときの負荷作用時、つまりポンプ負荷時の流量確保が困難となってしまうという問題を避けられなかった。
【0018】
従来この種の可変容量形ポンプにおいて、ポンプ吐出側での流量変動に対応して切換えられる切換えバルブを設け、この切換えバルブによって所定圧力に制御した流体圧を、カムリング2を移動変位させるためのカムリング2外周の左、右の流体圧室8,9に供給することにより、ポンプ回転数の変化に対応した所望のポンプ吐出流量が得られるように構成したものが、特願平4-358801号等により既に提案されている。
【0019】
このような可変容量形ポンプでのカムリング2外周の左、右の流体圧室8,9に導入される流体圧力の変化等は、以下に説明した通りである。
すなわち、カムリング2外周で図中右側にある第2の流体圧室9での流体圧PBは、図8の線図から明らかな通りであり、この流体圧PBが、この右側でのカムリング内面圧に対応するカムリング外面圧になる。ここで、このようなPBは、ポンプ回転数が大きくなった流量調整域でも、上述した切換えバルブの切換え機能によって、完全にはポンプ吸込側(ドレン側)には連通せず、所定レベルでの低圧状態を維持するようになっている。
【0020】
一方、カムリング2外周で図中左側にある第1の流体圧室8での流体圧PAは、図8の線図から明らかな通りで、この流体圧PAが図中左側でのカムリング内面圧に対応するカムリング外面圧となるもので、この流体圧PAは、流量調整域では上述したPBよりも若干大きくなる。そして、このときのPAとPBとの圧力差が、カムリング2を図中左側に付勢するばね力Fに相当し、通常はこのばね力Fによってバランスするようになっている。
【0021】
このような圧力関係において、前述したようにカムリング2右側でのポンプ吐出側開口7が、第2の流体圧室9側に角度差βをもってずれている場合のカムリング2の内面圧とカムリング外面圧は、次のようになる。ここで、ポンプ吐出側の圧力をPとする。
すなわち、前述したような角度差βに伴なうアンバランスな力が作用すると、この第2の流体圧室9側部分での圧力差は、図8の線図から明らかなように(ポンプ吐出圧力P-PB)となり、図7中矢印で示すようにカムリング2に対しポンプ室5の容積つまり吐出量を減少させる方向への揺動変位が生じる。特に、このようなカムリング2の吐出量減少方向への揺動変位は、流量調整域で生じることになる。
【0022】
換言すると、上述したような流体圧の不平衡によって生じるアンバランスな力でカムリング2に揺動変位、さらには振動が生じると、ポンプ吐出側において大きな流量変動が生じ、これにより脈動が大きくなり、ポンプ特性上での問題となるもので、このような問題点を解決することが望まれる。
【0023】
特に、このような問題は、可変容量形ポンプからの流体圧が供給される被利用機器側での作動によって、主供給経路中の流体圧が上昇し、これによりこの経路またはポンプ吐出側通路途中に設けたメータリングオリフィス上、下流側の差圧が増大したりすることにより、ポンプ吐出側圧力の変動が大きく生じた場合に著しいもので、このような問題点を解決することが必要とされている。
たとえば被利用機器がパワーステアリングであるとき、大流量または小流量がパワーシリンダ側に流れるため、舵取ハンドルが急に重くなったり、軽くなったりするもので、このような不安定さは解消することが望まれる。
【0024】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、カムリング内、外で生じるアンバランスな力に伴なう揺動変位によって生じ易かった揺動変位をなくし、ポンプ吐出側での大きな流量変動、脈動等を低減し、吐出流量が低下するのを防止し得るようにした可変容量形ポンプを得ることを目的としている。
【0025】
【課題を解決するための手段】このような要請に応えるために本発明に係る可変容量形ポンプは、ベーンを有しポンプボディ内に回転自在に配設されたロータと、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で移動変位可能に配置されたカムリングと、このカムリングの外周部とポンプボディの内周部との間を第1の流体圧室と第2の流体圧室との二室に区画するシール手段と、前記ポンプボディ内の第2の流体圧室に配設され、前記カムリングをロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢する付勢手段と、前記ポンプ室から圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィスの上、下流側での圧力差によって作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧を制御するスプール式の制御バルブとを備えてなり、前記カムリング外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、前記スプール式制御バルブの第2の室に導かれているメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するように構成したものである。
【0026】
また、本発明に係る可変容量形ポンプは、ベーンを有しポンプボディ内に回転自在に配設されたロータと、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で移動変位可能に配置されたカムリングと、このカムリングの外周部とポンプボディの内周部との間を第1の流体圧室と第2の流体圧室との二室に区画するシール手段と、前記ポンプボディ内の第2の流体圧室に配設され、前記カムリングをロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢する付勢手段と、前記ポンプ室から圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィスの上、下流側での圧力差に応じて作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧を制御するスプール式の制御バルブとを備えてなり、カムリング外周部の流体圧室のうち、ポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、前記ポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するように構成したものである。
【0027】
【作用】
本発明によれば、カムリング外側に形成される第1の流体圧室に、スプール式の制御バルブによってポンプ吐出側流量の大小に対応してポンプ吸込側の流体圧やポンプ吐出側でのメータリングオリフィスの上流側の流体圧を導入するとともに、カムリングを付勢する付勢手段を設けた第2の流体圧室に、制御バルブの第2の室を介して、または直接的にポンプ吐出側通路でのメータリングオリフィスの下流側の流体圧を常時導入することにより、ポンプ作動初期において適切な流量を確保し得るとともに、たとえば被利用機器の作動等といったポンプ負荷時にあっても、カムリング内、外での不平衡な流体圧によりアンバランスな力が働いたりしても、このカムリングを無用に揺動変位させることがない。
【0028】
【実施例】
図1ないし図4は本発明に係る可変容量形ポンプの一実施例を示し、これらの図において、本実施例では、動力舵取装置の油圧発生源となるベーンタイプのオイルポンプである場合を説明する。
【0029】
まず、全体を符号10で示すベーンタイプの可変容量形ポンプは、図1および図2から明らかなように、ポンプボディを構成するフロントボディ11およびリアボディ12を備えている。このフロントボディ11は、図2から明らかなように全体が略カップ状を呈し、その内部にポンプ構成要素13を収納配置する収納空間14が形成されるとともに、この収納空間14の開口端を閉塞するようにしてリアボディ12が組合わせられて一体化されている。なお、このフロントボディ11には、前記ポンプ構成要素13の回転子であるロータ15を外部から回転駆動するためのドライブシャフト16が貫通した状態で、軸受16a,16b,16c(16bはリアボディ12側、16cは後述するプレッシャプレート20側に配設される)により回転自在に支持されている。
【0030】
17はベーン15aを有するロータ15の外周部に偏心して嵌装される内側カム面17aを有し、かつこの内側カム面17aとロータ15の外周部との間の一側寄りにポンプ室18を形成するカムリングで、このカムリング17は、後述するように、ポンプ室18の容積を可変するように収納空間14内で空間内壁部分に嵌合状態で設けられたアダプタリング19内で移動変位可能に配置されている。
なお、このアダプタリング19は、ボディ11の収納空間14内でカムリング17を移動変位可能に保持するためのものである。
【0031】
20は上述したロータ15、カムリング17およびアダプタリング19によって構成されているポンプカートリッジのフロントボディ11側に圧接して積層配置されるプレッシャプレートで、またこのポンプカートリッジの反対側面には前記リアボディ12の端面がサイドプレートとして圧接され、ボディ11とボディ12との一体的な組立てによって所要の組立状態とされる。そして、これらの部材によって、前記ポンプ構成要素13が構成されている。
【0032】
ここで、これらのプレッシャプレート20と、これにカムリング17を介して積層されるサイドプレートとなるリアボディ12とは、カムリング17の揺動変位用の軸支部および位置決めピンとしても機能する後述するシールピン21や適宜の回り止め手段(図示せず)によって、回転方向で位置決めされた状態で一体的に組付け固定されている。
【0033】
23は前記フロントボディ11の収納空間14内でその底部側に形成されるポンプ吐出側圧力室で、プレッシャプレート20にポンプ吐出側圧力を作用させるようになっている。24はこのポンプ吐出側圧力室23にポンプ室18からの圧油を導くプレッシャプレート20に穿設されているポンプ吐出側通路である。
【0034】
25はリアボディ12の一部に設けられた吸込ポート26(詳細な図示を省略する)からのポンプ吸込側流体を前記ポンプ室18に導くようにリアボディ12内に形成されたポンプ吸込側通路で、この通路25はリアボディ12の端面に開口するポンプ吸込用開口25aを経てポンプ室18に接続されている。
【0035】
28は上述したポンプ室18からポンプ吐出側通路24、ポンプ吐出側圧力室23、この圧力室23からフロントボディ11の上方に延びた通路孔23aを介して接続されたポンプ吐出側通路で、この通路28の途中にはメータリングオリフィス29が介在させられるとともに外方端側にポンプ吐出側流体圧を図示しないパワーステアリング装置(図中PSで示す)等の油圧機器に給送するための吐出ポート28aが設けられている。
【0036】
30はフロントボディ11における収納空間14の上方に略直交して配置され上述したカムリング17をポンプボディ11(アダプタリング19)内でロータ15に対して移動変位させるための制御バルブで、この制御バルブ30は、ボディ11に穿設されているバルブ孔30a内で前記ポンプ吐出側通路28のメータリングオリフィス29上、下流側の圧力差およびばね31の付勢力で摺動動作するリリーフ弁付きのスプール32を備えている。
【0037】
なお、図中29a,29bはオリフィス29上、下流側の圧力をバルブ孔30a内に導入する通路である。さらに、このバルブ孔30aにおいて中央部分には、前記ポンプ吸込側通路25の一部から分岐されて流体圧をタンク側に導く低圧側通路25bがそれぞれ形成され、スプール32の移動に伴なって選択的に開閉制御され、後述するカムリング17両側の第1、第2の流体圧室に流体圧を導入するようになっている。
【0038】
すなわち、このような制御バルブ30において、スプール32の一方室(図1の左方で高圧側となる第1の室)32aには、前記ポンプ吐出側の圧力室23、ポンプ吐出側通路28および通路29aを介してメータリングオリフィス29上流側の流体圧が導かれている。なお、図中33はバルブ孔30a内でスプール32の左方への移動位置を通路29aの開口端を閉塞しない位置で係止するロッド33aを有するバルブ孔30aの閉塞用プラグである。
【0039】
また、スプール32の他方室(図1の右方で低圧側である第2の室)32bには、ばね31が配設されるとともにメータリングオリフィス29下流側の流体圧が前記吐出ポート28aに至る通路28途中から前記通路29bを介して導かれている。なお、この通路29b途中の小径部はダンパオリフィス部である。
【0040】
さらに、バルブ孔30aの略中央部と右方端部には、カムリング19の外周部でボディ11側のアダプタリング19との間に形成される第1および第2の流体圧室34,35に、ボディ11、アダプタリング19を経て形成されている導圧通路36,37(アダプタリング19の通路孔36a,37aを含む)が開口されている。なお、カムリング17の外周部には、第1の流体圧室34をアダプタリング19への接触時にも確保できるような凹溝等を形成しておくとよい。
【0041】
そして、これらの通路36,37が、スプール32の動きによって、図1等から明らかなように、前記ポンプ吐出側通路28に通路29bを介して、またはポンプ吸込用開口25b側に通路25bを介して、選択的に接続されるようになっている。
【0042】
すなわち、ポンプ作動時において吐出側での流量変動を、メータリングオリフィス29上、下流側の圧力差により作動される制御バルブ30により感知し、このバルブ30によって制御される流体圧を、前記カムリング17両側の第1、第2の流体圧室34,35に供給することにより、このカムリング17を所要の状態で揺動変位させ、ポンプ室18内の容積を可変させ、ポンプ吐出流量を所要の状態で制御し得る。
【0043】
ここで、図1中40はポンプボディ11,12内で移動変位可能に配置されたカムリング17を、ロータ15の外周部とに形成されるポンプ室18が最大容積となるように付勢する押圧部材で、コイルばね41および筒状の押えプラグ42とから構成されている。
【0044】
なお、上述したベーンタイプの可変容量形ポンプ10において、上述した以外の構成は従来から周知の通りであり、その詳細な説明は省略する。
【0045】
本発明によれば、上述した構成による可変容量形ポンプ10において、ロータ15外周部との間の一側寄りにポンプ室18を形成するように偏心して嵌装されかつポンプボディ11,12内で移動変位可能(揺動変位可能)に配置されるとともにポンプボディ11,12との間の外周部隙間空間にシール手段21,45を介して第1および第2の流体圧室34,35が形成されるカムリング17と、このカムリング17をロータ15外周部との間でのポンプ室18容積を最大とする方向に付勢する付勢手段としてのコイルばね41と、ポンプ吐出側通路28に設けたメータリングオリフィス29上、下流側での圧力差に応じて作動されポンプ室18からの圧力流体の吐出流量Qの大小に応じて第1の流体圧室34への供給流体圧を制御するスプール式制御バルブ30を備えている。
【0046】
そして、このような構成において、カムリング17外周部の流体圧室34,35のうち、ポンプ室18の容積を最大とする方向(図1中左側)への移動変位を与える第2の流体圧室35に、スプール式制御バルブ30の低圧側である第2の室32bに導かれているメータリングオリフィス29の下流側の流体圧を、導圧通路37を介して常時導入するように構成したところに特徴を有している。
【0047】
ここで、図中37bはこの導入通路37に設けた絞りである。このような絞り37bは、これを付設することによって制御機能の応答性は多少落ちるが、カムリング17の制振効果をより一層高めるうえで効果的なものである。
【0048】
このような構成によれば、カムリング17外側に形成される第1の流体圧室34に、スプール式制御バルブ30によってポンプ吐出側流量Qの大小に応じてポンプ吸込側の流体圧やポンプ吐出側でのメータリングオリフィス29の上流側の流体圧を導入するとともに、第2の流体圧室35に、制御バルブ30の低圧側の第2の室32bを介してポンプ吐出側通路28でのメータリングオリフィス29の下流側の流体圧を常時導入することにより、ポンプ10の作動初期には所要の吐出流量制御を行ない、所定流量を得られるばかりでなく、被利用機器の作動等といったポンプ負荷時にあっても、従来問題であったカムリング17内、外での不平衡な流体圧によりアンバランスな力が働いて、このカムリング17を不用意に揺動変位させるといった不具合をなくし、結果としてポンプ吐出側での流量変動や流量低下を解消し、安定した流量制御を行なえる。
【0049】
すなわち、このような構成では、流体圧力変化に伴なうカムリング17内圧の上昇に対抗できる程度の略吐出圧力に近いメータリングオリフィス29後の下流側圧力を、カムリング17外側の第2の流体圧室35に常時導入することにより、ポンプ負荷等による吐出側圧力Pの上昇によっても、図3および図4の特性図から明らかなように、流量変動や流量低下を生じないようにすることができる。
特に、ポンプ10からの流体圧が供給される被利用機器での作動によるポンプ負荷時に、ポンプ吐出側流体圧Pが上昇しても、流量低下といった問題を生じないようにすることができる。
【0050】
これを図3および図4を用いて簡単に説明すると、前述したようなアンバランスな力によるカムリング17の吐出量減少方向への動きを解消するために、前記第2の流体圧室35での流体圧PBを略吐出圧に近いメータリングオリフィス29の下流側での流体圧力を常時導入するようにしている。
そして、このようにすれば、ポンプ吐出側圧力Pに略等しい圧力(PB)を、第2の流体圧室35に常時導入することができ、その結果カムリング17の内、外での圧力差(P-PB)を減少させ、たとえば被利用機器であるパワーステアリング等での作動によるポンプ負荷時のように、吐出側流体圧力Pが上昇しても、流量Qが低下したりすることがなくなり、これによりポンプの流量制御を安定して行なえる。
【0051】
また、このような構成を採用することにより、従来のポンプ構造において流量調整域で制御中にポンプ吸込側に連通させたり、ポンプ作動直後にメータリングオリフィス29の上流側圧力を導入していた通路等を不要とし、これによって各部の構造の簡素化を図り、各部の加工性等も向上させることができる。
【0052】
ここで、このようなポンプ吐出側流体圧の上昇時において、カムリング17の揺動変位を制御する左、右の流体圧室34,35への流体圧は、制御バルブ30による制御機能によって差圧を制御されている。
本発明では、このような状況下において、調整流量分だけを制御するように、カムリング17へのアンバランスな力をなくすようにしたものである。これは、図3において、本発明での無負荷時の流量特性がa、負荷時流量特性がbであり、従来構造での負荷時流量特性cのように、調整流量域での流量の急激な低下が生じないことによる。
さらに、本発明での圧力状況を図4に示す通りであり、本発明では、流量調整域では第2の流体圧室35での流体圧PBが、ポンプ吐出圧Pに圧力差が小さい状態となっており、その作用効果は容易に理解されよう。
【0053】
なお、本実施例では、前述した図7の従来例と同様に、ポンプ室18内でポンプ吐出側領域に開口するポンプ吐出側開口24を、ポンプ吸込側領域側であって予圧縮可能な位置までずらして形成している。また、ポンプ室18内でポンプ吐出側領域に開口するポンプ吐出側開口24に、ポンプ吸込側領域側の端部からポンプ回転方向の終端部に連続してひげ状ノッチ24cを延設して形成している。このようにすれば、ポンプの作動特性を安定化させ、所望の流体圧力制御と流量制御を行なうことが可能となる。
【0054】
ここで、上述した実施例では、カムリング17とアダプタリング19との間の環状隙間空間を分割するために本実施例では、図1および図2から明らかなように、環状隙間空間を左、右に分割するように上、下に位置付けられて配置されている前述した位置決めピンとしても機能する第1のシールピン21とカムリング17の摺接面に凹設した溝部内に弾性部材を介して組み込まれている第2のシールピン45を設けている。
【0055】
そして、左側の空間を第1の流体圧室34とし、この室34を前記流体通路36a,36を介して制御バルブ30の第1の室32aまたはポンプ吸込側に選択的に接続可能に構成されている。
また、右側の空間を第2の流体圧室35とし、この室35を前記流体通路37a,37を介して制御バルブ30における低圧側の第2の室32bを介してメータリングオリフィス29下流側に接続可能に構成されている。
【0056】
さらに、上述した筒状を呈する押圧部材40は、図1から明らかなように、コイルばね41によってカムリング17を、図1中左方に常時押圧するように構成されている。なお、この押圧部材40としては、カムリング17を押圧し、常時はポンプ室18の内容積が最大となるように押圧可能なものであれば、如何なる形状を呈するものであってもよい。
【0057】
以上の構成によれば、ポンプ10の始動時には、カムリング17は図1から明らかなようにボディ11の収納空間14内の一側にロータ15との間のポンプ室18の内容積が最大となるように押圧部材40のコイルばね41により付勢された状態にある。このとき、制御バルブ30は、図1とは異なり、第1の流体圧室34をポンプ吸込側に、第2の流体圧室35をポンプ吐出側でのメータリングオフィス29下流側に接続された状態にある。
【0058】
そして、ポンプ回転数が徐々に増大して駆動されると、このポンプ回転数に比例して得られるポンプ吐出側でオリフィス29上、下流側の流体圧による差圧によって、制御バルブ30のスプール32を切換え作動させ、これにより調整流量域では、カムリング17外側の第1の流体圧室34はポンプ吐出側でメータリングオリフィス29の上流側に、第2の流体圧室35は、メータリングオリフィス29の下流側に接続され、これによりロータ15に対して偏心しているカムリング17を、コイルばね41に抗してポンプ室18の内容積が減少する方向(図1参照)に移動変位する。
【0059】
このとき、ポンプ吐出側の流体流量の大小に応じた制御バルブ30のスプール32による切換え作動で、第1の流体圧室34に対しポンプ吸込側またはオリフィス29の上流側のポンプ吐出側が、これに相対向して位置付けられている第2の流体圧室35に対しこれよりも低圧なオリフィス29の下流側が適宜接続されることから、カムリング17は、制御バルブ30の作動状態によって適宜移動変位され、結果として内容積が変化するポンプ室18から吐出される流量制御が所要の状態で行なえ、動力舵取装置PSに至る所定流量の給送が可能となる。
【0060】
特に、上述した構成によれば、ポンプ回転数に伴なって増減するポンプ吐出量により、メータリングオリフィス29で生じる差圧に応じて制御バルブ30を切換え制御し、これによってカムリング17をコイルばね41の付勢力に抗して図中右側に、またはこの付勢力によって図中左側に、移動変位させ得るもので、その結果としてポンプ室18の内容積を可変制御し、ポンプからの吐出量を、たとえば図3、図4に示されるように、ポンプ回転数に合わせてバランスさせ、所望の特性を得られるように制御し得る。
【0061】
ここで、本実施例では、カムリング17を、ロータ15に偏心させた状態で移動変位可能に構成しており、その内周壁は真円形状で形成できるもので、加工性の面で優れているという利点がある。
【0062】
図5は本発明に係る可変容量形ポンプの別の実施例を示し、この実施例では、制御バルブ30として、ポンプ吐出側通路28に設けたメータリングオリフィス29上、下流側での圧力差に対応して作動されポンプ室18からの圧力流体の吐出流量Qの大小に対応して第1の流体圧室34への供給流体圧PAを制御するものを用い、かつカムリング17外周部の流体圧室のうち、ポンプ室18の容積を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室35に、ポンプ吐出側通路28途中のメータリングオリフィス29下流側の流体圧を、上述した実施例とは異なり、ボディ11内に設けた導圧通路60によって直接導入するように構成したものである。
【0063】
なお、図中60aはこの導圧通路60での絞りであり、この絞り60aによってカムリング17の制振効果を得られることは前述した実施例と同様である。
【0064】
そして、このようなこの実施例構造によっても、前述した実施例と略同等の作用効果が得られることは容易に理解されよう。
また、このような構成では、前述した実施例のようにバルブ30を通る通路が必要なくなり、ボディ内での単純な通路60でよいために構成が簡素化し、各部の加工性や組立性も向上するという利点もある。
【0065】
なお、本発明は上述した実施例構造に限定されず、各部の形状、構造等を、適宜変形、変更することは自由であり、種々の変形例が考えられよう。たとえば上述した実施例では、カムリング17を移動変位可能に保持する環状隙間空間を、アダプタリング19との間に形成した場合を示したが、本発明はこれに限定されず、ポンプボディ11内にカムリング17を移動変位可能に保持させるように構成してもよい。
【0066】
さらに、上述した構成によるベーンタイプの可変容量形ポンプ10としては、上述した実施例構造に限定されないことは勿論、上述した実施例で説明したパワーステアリング装置以外にも、各種の機器、装置に適用してもよいことも言うまでもない。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に係る可変容量形ポンプによれば、ベーンを有しポンプボディ内に回転自在に配設されたロータと、このロータ外周部との間の一側寄りにポンプ室を形成するように偏心して嵌装されるとともに前記ポンプボディ内で移動変位可能に配置されたカムリングと、このカムリングの外周部とポンプボディの内周部との間を第1の流体圧室と第2の流体圧室との二室に区画するシール手段と、前記ポンプボディ内の第2の流体圧室に配設され、前記カムリングをロータ外周部との間でのポンプ容量を最大とする方向に付勢する付勢手段と、前記ポンプ室から圧力流体を吐出するポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィス上、下流側での圧力差によって作動され前記ポンプ室からの圧力流体の吐出流量に応じて前記第1の流体圧室への供給流体圧を制御するスプール式の制御バルブとを備え、カムリング外周側でポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、スプール式制御バルブの第2の室に導かれているメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するように構成したので、簡単な構造であるにもかかわらず、以下のような優れた効果を奏する。
【0068】
本発明によれば、カムリング外側に形成される第1の流体圧室に、スプール式の制御バルブによってポンプ吐出側流量の大小に応じてポンプ吸込側の流体圧やポンプ吐出側でのメータリングオリフィスの上流側の流体圧を導入するとともに、第2の流体圧室に、ポンプ吐出側通路でのメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入することにより、たとえば被利用機器の作動等といったポンプ負荷時にあっても、カムリング内、外での不平衡な流体圧によりアンバランスな力が働いて、このカムリングを揺動させるといった不具合をなくし、結果としてポンプ吐出側での流量変動や流量低下を解消することができる。
【0069】
換言すれば、本発明によれば、流体圧力変化に伴なうカムリング内圧の上昇に対抗できる程度の略吐出圧力に近いメータリングオリフィス下流側の圧力を、カムリング外周側の第2の流体圧室に常時導入することによって、ポンプ負荷時等による吐出側圧力の上昇によっても、流量変動や流量低下を生じないようにすることができる。
【0070】
特に、本発明によれば、ポンプからの流体圧が供給される被利用機器での作動によるポンプ負荷時に、ポンプ吐出側流体圧が上昇しても、流量低下といった問題を生じないようにすることができる。
【0071】
さらに、本発明によれば、ポンプ内部での通路構成の簡素化やこれに伴なう各部材の加工性等の向上を図ることもできる。
【0072】
また、本発明に係る可変容量形ポンプによれば、スプール式制御バルブとして、ポンプ吐出側通路に設けたメータリングオリフィス上、下流側での圧力差に応じて作動されポンプ室からの圧力流体の吐出流量の大小に応じてポンプ吸込側の流体圧やポンプ吐出側でのメータリングオリフィスの上流側の流体圧を第1の流体圧室への供給流体圧を制御するような構成とし、かつカムリング外周側のポンプ容量を最大とする方向への移動変位を与える第2の流体圧室に、ポンプ吐出側通路途中のメータリングオリフィス下流側の流体圧を常時導入するように構成したので、簡単な構造であるにもかかわらず、上述したと同様な作用効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る可変容量形ポンプの一実施例を示し、ポンプの要部構造を示す概略横断面図である。
【図2】図1の要部構造を説明するために断面して示す要部縦断面図である。
【図3】本発明によるポンプ回転数Nと吐出流量Qとの関係を示す特性図である。
【図4】本発明によるポンプ回転数Nとポンプ吐出側圧力Pとの関係を示す特性図である。
【図5】本発明に係る可変容量形ポンプの別の実施例を示すポンプ要部構造の概略横断面図である。
【図6】従来の可変容量形ポンプの要部構造を説明するための概略図である。
【図7】従来の可変容量形ポンプの別の例を示す概略説明図である。
【図8】従来ポンプでのポンプ回転数Nとポンプ吐出側圧力P、吐出流量Qとの関係を示す特性図である。
【符号の説明】
10…ベーンタイプの可変容量形ポンプ、11…フロントボディ(ポンプボディ)、12…リアボディ、13…ポンプ構成要素、14…収納空間、15…ロータ、15a…ベーン、16…ドライブシャフト(回転軸)、17…カムリング、17a…カム面、18…ポンプ室、19…アダプタリング、20…プレッシャプレート、21…シールピン(カムリング軸支部)、23…ポンプ吐出側圧力室、23a…ポンプ吐出側通路、24…ポンプ吐出側通路、25…ポンプ吸込側通路、25b…低圧側通路、26…吸込ポート、28…ポンプ吐出側通路、28b…高圧側通路、29…メータリングオリフィス、29a…通路、29b…通路、30…スプール式制御バルブ、31…ばね、32…スプール、32b…低圧側の第2の室、34…第1の流体圧室、35…第2の流体圧室、36…導圧通路、37…導圧通路(メータリングオリフィス下流側流体圧導入用)、37b…絞り部、40…押圧部材、41…コイルばね、45…第2のシールピン、60…導圧通路(メータリングオリフィス下流側流体圧導入用)、60a…絞り部。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-02-16 
結審通知日 2006-02-21 
審決日 2006-03-07 
出願番号 特願平6-52659
審決分類 P 1 123・ 534- YA (F04C)
P 1 123・ 121- YA (F04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田良島 潔藤井 眞吾  
特許庁審判長 大橋 康史
特許庁審判官 飯塚 直樹
清田 栄章
登録日 1999-05-28 
登録番号 特許第2932236号(P2932236)
発明の名称 可変容量形ポンプ  
代理人 井沢 博  
代理人 塩川 修治  
代理人 保坂 延寿  
代理人 井沢 博  

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