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審決分類 |
審判 一部無効 発明同一 G09B |
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管理番号 | 1138297 |
審判番号 | 無効2005-80233 |
総通号数 | 80 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1990-09-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-07-28 |
確定日 | 2006-06-12 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2869472号発明「地図表示方法及び装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2869472号の請求項9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 被請求人コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィは特許第2869472号の特許権者であり、同特許は平成2年(1990年)1月10日に出願(パリ条約に基づく優先権主張 1989年1月11日)され、平成11年1月8日に設定登録(請求項1〜20)されたものである。 同特許のうち請求項1〜8,17〜20に係る特許に対しては、特許異議申立がされ、これら特許を取り消す旨の決定が平成13年7月17日付けでされた(この過程において訂正請求がされたが認められなかった。)ところ、特許権者(被請求人)は同決定を不服として東京高等裁判所に訴えた。同裁判所は平成13年行(ケ)第533号として審理した上で、平成16年2月19日に「原告の請求を棄却する」との判決(以下「前判決」ということがある。)を言い渡した。被請求人はさらに上告(平成16年行(サ)第55号)及び上告受理申立(平成16年行(ノ)第58号)を行ったが、最高裁判所は、同年7月20日に上告棄却及び上告受理申立却下をし、上記決定は確定した。 請求人は、残存する特許のうち請求項9に係る特許を無効とする本件審判請求を提起した。被請求人はこれに対して、答弁書を提出した。 第2 当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は、証拠方法として甲第3号証〜甲第6号証を提出した上で、次のように主張している。 交通重要度に基づく特定の階層種別道路を選択して表示しうるシステムは甲第4〜6号証にみられるように周知慣用技術であるから、本件の請求項9に係る発明(以下「本件発明」という。)は、甲第3号証(本件優先日前に出願され、本件優先日後に公開された特願昭63-91621号(以下「先願」という。)の公開公報)記載の発明(以下「先願発明」という。)と同一であり、本件発明者と先願発明者は同一でなく、本件出願時において本件出願人と先願出願人は同一でないから、請求項9に係る特許は特許法29条の2の規定に違反してされた特許であり、同法123条1項2号の規定により無効にされるべきである。 なお、請求人の提出した甲第3号証〜甲第6号証は次のとおりである。 甲第3号証:特開平1-263688号公報 甲第4号証:雑誌「自動車技術」第42巻第2号(昭和63年2月1日発行)の目次、218〜223頁及び奥付 甲第5号証:特開昭61-267778号公報 甲第6号証:特開昭59-164583号公報 2.被請求人の主張 甲第3号証には、階層地図データ内の項目が、交通重要度を表すインデックスを含み、これらの階層地図データの各選択された地形情報の中から、斯かるインデックスに基づいて表示すべき項目を決定する追加の選択を行う旨の記載はない。すなわち、精度の高い階層地図を選択した後に、より精度の低い階層地図を選択する処理が、甲第3号証に記載されている事項であっても、これら精及び粗の階層地図の選択された地形情報の中から、交通重要度を表すインデックスに基づいて表示すべき項目を決定する選択処理は、甲第3号証に記載されていない。 また、請求人が周知慣用技術として引用する事項は、全て平面地図の表示に関するものであり、鳥かん図のごとき画像を表示する場合とでは信号処理が異なるから、上記周知慣用技術があるとしても、本件発明は先願発明と同一ではない。 第3 当審の判断 1.本件発明の認定 第1で述べたとおり、請求項1〜8,17〜20の特許は取り消されたが、請求項9は請求項7,8を択一的に引用する形式で記載されているから、本件発明を認定するためには、先行する請求項も併せて認定する必要がある。そして、請求項8は請求項7を引用し、請求項7は請求項1〜6を引用し、請求項2〜6は請求項1に何らかの限定を加え、請求項8は請求項7に何らかの限定を加えたものである。請求項9において請求項7を引用し、その請求項7において請求項1を引用する発明(以下において、「本件発明」という用語は、この発明のことを指す。)が先願発明と同一であれば、それ以外の請求項を引用する発明について検討する必要はなく、逆に上記の意味での本件発明が先願発明と同一でないならば、それ以外の請求項を引用する発明も先願発明と同一でないことが明らかである。結局のところ、上記の意味での本件発明について先願発明と同一であるかどうか検討すれば十分である。 請求項1,7,9の記載は次のとおりである。 【請求項1】乗物の位置に応じてデータ構造から地形情報を選択し地形図の一部分を表示する方法において、地形情報は乗物が走行し得る地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含み、地図の一部分を座標変換によって乗物の外部にあって地表の該当部分の上方に位置する見かけの視点から見た投影図で透視図的に表示することを特徴とする地図表示方法。 【請求項7】選択された情報から追加の選択処理により表示すべき項目を決定することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の方法。 【請求項9】前記追加の選択は表示すべき項目の交通重要度を表すインデックスに基づいて行なうことを特徴とする請求項7又は8記載の方法。 したがって、本件発明を独立形式で記載すれば、次のとおりである。 「乗物の位置に応じてデータ構造から地形情報を選択し地形図の一部分を表示する方法において、地形情報は乗物が走行し得る地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含み、地図の一部分を座標変換によって乗物の外部にあって地表の該当部分の上方に位置する見かけの視点から見た投影図で透視図的に表示し、選択された情報から表示すべき項目の交通重要度を表すインデックスに基づく追加の選択処理により表示すべき項目を決定する地図表示方法。」 2.先願明細書の記載事項 甲第3号証は先願の公開公報であり、その記載内容は先願の願書に最初に添付した明細書・図面と逐一同一であるから、以下では、甲第3号証を「先願明細書」ということにする。 先願明細書には、以下のア〜シの記載が図示とともにある。摘記に当たり、改行及び一字空白を省略することがある。 ア.「ディジタル座標化された地図データベースから情報を読み取り、自動車等の乗物の現在位置又は指定する位置から遠方に遠ざかるに従い、相対的に地図の精度を下げデイスプレー装置上に連続的に圧縮して表示するように構成したナビゲーション用地図表示装置。」(1頁左下欄5〜10行) イ.「本発明はナビゲーション用地図表示装置に関する。本発明は特に自動車の運転に必要な地図を必要に応じて表示するナビゲーション用地図表示装置に関し、運転者に自己の位置と他の各種目標ないし地点との関係を適確に提供する。」(1頁右下欄2〜6行) ウ.「(技術的背景)自動車等の乗物の運転ないし操縦において必要なのは自己の現在位置とその周辺の状況、及びこれらと目標地点に至る地理情報である。・・・自動車等にCRT等のデイスプレー装置を搭載し、これに多数の階層化した地図を有機的に組み合わせ現在位置周辺に関連した地図を表示することが提案され、研究されている。・・・ディスプレー装置へ表示する方法として考えられるのは地図データを精粗階層化し所望の縮尺度で表示することである。例えば異った3種の縮尺のデータ組を記憶しておき、現在位置または指定点を含む任意の階層の1つの地図を選択して表示すれば良い。しかし、この方式では全体に対する自己位置の関係の認識には思考と判断を必要とするから、連続的に短時間で適確な判断を下し難い。」(1頁右下欄7行〜2頁右上欄3行) エ.「本発明は、上に述べた運転者の情報認識構造を有効にサポートするため、デイスプレー装置の欠点を補うにとどまらず、さらに進行方向の先行及び周辺情報を認識し易くし、総合的にナビゲーション装置の効果を高めるため、走行地点の地図は縦横縮尺同一またはそれに近いもので表示し、進行方向の走行隣接区域、或いは一般に全方向への離隔するに従って順次縮尺を圧縮すると共に形態を一般に単純化ないし粗化し、運転者の認識・効果を根本的に向上させるものである。」(2頁右上欄10〜19行) オ.「本発明においては、地図情報は画像として記憶されているものではなく、ディジタル情報として予め地図データベース(例えばコンパクトディスク固定メモリーCD-ROM)に記憶させておく。すなわち、地図データが2次元情報のみで表示されるものとすれば、アドレスを乗物の現在位置または特定位置等の基準地点(0、0)からの距離ベクトルR(審決注;実際の表記は、右向き矢印を付し、ベクトルであることを明確にしている。)の座標(x、z)とし、これを結び合わせて線又は面を表現し、道路も表示する。この表示内容(或いはさらに道路の等級による表示線の太さ、或いは色などの情報)を組み合わせ地図データとすれば良い。地図を階層構造で記憶させておくことも可能であるが、この場合には広域をカバーするデータ程粗なサンプリング点を組み合わせアドレスとすれば良い。」(2頁左下欄14行〜右下欄8行) カ.「上記の固定された地図データは、透視図の原理で選択的に、読出され、ディスプレー画面上の点に表示される。この方法には幾つかの例が考えられる。透視図はあたかも窓枠を通して前景を見るような遠近表示が最も人の通常の知覚様式に合うことが考えられるが、精粗表示ができればどんな方式でも良いと考えられる。しかし、遠方へ行くに従って連続的に精粗表示することは乗物に搭載されるマイクロコンピュータの処理能力を超えるおそれがあるから、本発明の好ましい実施例では3階層データ化した地図の整合による表示を考える。」(2頁右下欄9行〜3頁左上欄1行) キ.「透視には各種考えられるが、実際の視覚に最も近いのは平面透視方式である。」(3頁左上欄5〜6行) ク.「第1図は平面透視方式の原理を示す。図中1は透視画面であり、2は平面投影地図である。今地図平面より高さy0、画面中心よりfのところから地図2上の点P(x、z)を見たとき視線が画面1と交差する点Q(xS、yS)が透視点である。明らかにxS=xf/(f+z)、及びyS=y0z/(f+z)で表わされ、乗物位置からの距離x、zがナビゲーション標識(人工衛星など3個所より発信される電波、或いは道路の主要点に放置された位置報知装置などからの情報電波など)と地図データの差から分ると直ちにxS、ySは求められる。」(3頁左上欄15行〜右上欄6行) ケ.「第1図に示した平面透視図を簡略して画面表示することを考える。・・・利用すべき地図データとして精密地図データと、中間精度地図データと粗地図データとの3階層データを用意し、これをCD-ROMに記録しておく。このような階層を用いる理由は不必要に精度の高い情報処理を回避して安価迅速に地図のディスプレイ表示を行うためである。」(3頁左下欄10〜18行) コ.「これらのデータは第6図に概略的に示す装置により呼出されてCRTディスプレイに表示される。・・・操作部24は運転者が制御装置をオン、オフしたり、階層地図11、12、13の任意の1つを表示したり、或いは本発明の透視画面を与えたりするための操作スイッチ等である。方位センサ25からは外部の標識から乗物の方位が周期的に入力され、それを基準にしてCPUにより乗物の方向転換に応じた修正を行って常に現在の方位をRAMに記憶しておき、CPUにより地図データの読取りの方位修正を行う。距離センサ26も外部標識から周期的に得られ、それを基準としてCPUにより方位信号と併用して自己位置のRAMへの記録を行い、CPUにより読出すべき地図フィールドの選択を自動的に行わせる。」(3頁右下欄10行〜4頁左上欄12行) サ.「階層データを使用して第1図の平面透視図方式で表示画面を構成する方法の1例を次に示す。・・・平面透視を行ったとき、透視画面1は16の部分で精密地図データが必要で、15、14と遠くなるにつれて必要がなくなる。・・・本実施例では画面を3つの水平領域14、15、16に区切ってそれぞれを地図データ11、12、13から構成する。・・・3階層の地図データは平面透視法の関係式xS=xf/(f+z)、yS=y0z/(f+z)(ただし、x、zは乗物の現在位置と階層地図データ上の位置との差を、乗物の現在の方位に従って座標変換した値を用いる)に従って修正され」(4頁左上欄18行〜右上欄13行) シ.「本実施例によれば、地図データを階層化し、これらを遠近に応じて選択処理してディスプレイ画面上に表示させるから、乗物の運転者に必要な情報の実空間認識に近い表示が可能となり」(4頁左下欄17〜20行) 3.先願発明の認定 記載キ〜サの「透視」又は「平面透視」は、記載アの「遠方に遠ざかるに従い、相対的にデイスプレー装置上に連続的に圧縮して表示する」ことの一態様である。すなわち、「連続的に圧縮」とは、記載エのとおり「離隔するに従って順次縮尺を圧縮する」ことであり、透視を採用すれば、座標変換の結果「連続的に圧縮」されると認めることができる。 記載アの「自動車等の乗物の現在位置又は指定する位置」は「自動車等の乗物の現在位置」であってもよい。その場合、記載クの「地図平面より高さy0、画面中心よりfのところ」(以下「平面透視の視点」という。)の「高さy0」は、第7図のように表示されることからみて、「自動車等の乗物」より上方と理解すべきである。記載カに「透視図はあたかも窓枠を通して全景を見るような遠近表示」とあるけれども、同記載は平面透視図方式の原理を説明するに当たり、透視画面を「窓枠」にたとえて説明したものにすぎない。むしろ「乗物の運転者に必要な情報の実空間認識に近い表示が可能となり」(記載シ)との記載は、視界の限られた乗物の運転者に対し、現実の視界の限界を超える視界を与える視点、すなわち乗物の外部かつ上方にある視点から得られた情報を実空間認識に近く表示することを述べたものであるから、視点が乗物の外部かつ上方にあることを示すものである。また、記載オによれば、道路は点と点を結び合わせることで表現されるから、地図データベースには道路等を表現するに必要な地点のディジタル座標が記憶されており、記憶されたディジタル座標は自動車等の乗物の現在位置とは無関係の固定座標であるから、乗物の現在位置を表す座標及び方位と記憶されたディジタル座標に基づいて、記載クにある「地図2上の点P(x、z)」(上記「道路等を表現するに必要な点」である。)の座標が割り出され、座標変換によって「点Q(xS、yS)」の座標が求められると解さなければならない。 したがって、先願発明は次のような発明であると認定できる。 「道路等を表現するに必要な地点のディジタル座標及び道路の等級を記憶した地図データベースから情報を読み取り、 自動車等の乗物の現在位置から遠方に遠ざかるに従い、相対的に地図の精度を下げデイスプレー装置上に連続的に圧縮して表示するように、読み取ったディジタル座標と前記乗物の現在位置座標及び方位に基づいて、前記読み取ったディジタル座標を座標変換することにより、前記乗物の現在位置の上方でかつ前記乗物の外部を平面透視の視点とする平面透視図を表示するナビゲーション用地図表示方法。」 4.本件発明と先願発明との対比 先願発明の「道路等」及び「道路等を表現するに必要な地点のディジタル座標」は、本件発明の「地形情報」及び「乗物が走行し得る地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標」にそれぞれ相当し、先願発明は「乗物の現在位置の上方でかつ前記乗物の外部を視点とする平面透視図を表示する」のであるから、表示すべき地図範囲は乗物の位置に応じたものとなる。 先願発明の「地図データベース」が「データ構造」を有することは自明であり、乗物の位置に応じて表示すべき地図範囲が定まる以上、先願発明は、表示すべき地図範囲を画定した上で、道路等(地形情報)を選択し地形図の一部分を表示する方法であるということができる。 先願発明の「平面透視の視点」すなわち「前記乗物の現在位置の上方でかつ前記乗物の外部」の点と、本件発明の「乗物の外部にあって地表の該当部分の上方に位置する見かけの視点」に相違はなく、先願発明において「連続的に圧縮して表示するように」「平面透視図を表示する」ことと、本件発明において「地図の一部分を座標変換によって乗物の外部にあって地表の該当部分の上方に位置する見かけの視点から見た投影図で透視図的に表示」することにも相違がない。 したがって、本件発明と先願発明とは、 「乗物の位置に応じてデータ構造から地形情報を選択し地形図の一部分を表示する方法において、地形情報は乗物が走行し得る地球の略々2次元的に表わした地表の一部分内の種々の点の座標を含み、地図の一部分を座標変換によって乗物の外部にあって地表の該当部分の上方に位置する見かけの視点から見た投影図で透視図的に表示する地図表示方法。」である点で一致し、次の点で一応相違する。 〈相違点〉本件発明が「選択された情報から表示すべき項目の交通重要度を表すインデックスに基づく追加の選択処理により表示すべき項目を決定する」のに対し、先願発明が同構成を備えるかどうか明らかでない点。 5.相違点についての判断 (1)先願発明は「乗物の現在位置から遠方に遠ざかるに従い、相対的に地図の精度を下げ」て表示するものであり、実施例としては、利用すべき地図データとして精密地図データと、中間精度地図データと粗地図データとの3階層データを用意し(記載ケ)、表示画面を3つの水平領域14、15、16に区切って、表示画面手前(下側)の領域16を精密地図データから構成し、それに隣接した領域15を中間精度地図データから構成し、最も遠方(表示画面上側)の領域14を粗地図データから構成することにより、「乗物の現在位置から遠方に遠ざかるに従い、相対的に地図の精度を下げ」ることを実現している。 しかし、上記実施例は「遠方へ行くに従って連続的に精粗表示することは乗物に搭載されるマイクロコンピュータの処理能力を超えるおそれがある」(記載カ)及び「不必要に精度の高い情報処理を回避」(記載ケ)等の記載からみて、先願発明の「好ましい実施例」(記載カ)であるかもしれないが、マイクロコンピュータの処理能力が十分高い場合にまで、階層構造を有する地図データを採用することが必須とされているわけではない。記載オに「地図を階層構造で記憶させておくことも可能である」とあるのもその趣旨であり、先願発明の「地図データベース」は、階層化されていない単一階層の場合を排除しておらず、その場合、任意の地点が乗物の現在位置近辺となり、精細な表示を必要とされる可能性があることは自明であるから、「地図データベース」は上記実施例における精密地図データでなければならない。 そして、精密地図データだけを記憶した場合に、すべての道路等(地形情報)を表示画面全体に表示したのでは、「乗物の現在位置から遠方に遠ざかるに従い、相対的に地図の精度を下げ」ることにならないから、何らかの基準により、遠方になるほど道路等(地形情報)を省略することになる。ところで、先願発明では道路の等級が記憶されているところ、等級とは「交通重要度を表すインデックス」の1つである。そこで、この等級(交通重要度を表すインデックス)を基準として、遠方の道路を表示するかどうかの選択をすることは、先願明細書の記載から自明の事項というべきである。 以上を総合すると、先願発明には、地図データベースに精密地図データだけを記憶しておき、乗物の現在位置近辺の道路はすべて表示し、遠方地点の道路は等級に応じて一部表示・一部省略し、乗物の現在位置の上方でかつ前記乗物の外部を視点とする平面透視図を表示するナビゲーション用地図表示方法が含まれている。ここで、遠方地点の道路を等級に応じて一部表示・一部省略するためには、次の2つの方法が自明に考えられる。 まず、乗物の現在位置に応じて表示範囲は異なるから、表示に必要な範囲(視点と表示画面(第1図の符番1)四隅を結ぶ直線と地図との交点を頂点とする四角形)を画定し、画定した範囲内の道路等(地形情報)のディジタル座標が必要なデータとなることはいうまでもない。遠方地点の道路を等級に応じて一部表示・一部省略するための第1の方法は、視点からの距離に応じて、距離の短い範囲はすべての道路等を選択し、距離の長い範囲では一部の等級だけを選択する方法である。第2の方法は、視点からの距離と関係なく、画定した表示範囲内のすべての道路等を選択し、その後距離に応じて一部の等級の道路等を除外することである。 これら2つの方法のいずれを採用するかは設計事項というよりない。そして、第2の方法では選択が2段階となっており、「画定した表示範囲内のすべての道路等」が本件発明の「選択された情報」に、「一部の等級の道路等を除外すること」が「追加の選択処理」にそれぞれ相当するから、第2の方法を選択した場合は本件発明と異ならない。そうである以上、相違点に係る本件発明の構成は設計事項程度というべきであり、本件発明と先願発明とは実質的に同一発明というべきである。 (2)のみならず、第1の方法又は第2の方法のいずれを採用するか、さらには単一階層の地図データとするか階層構造の地図データとするかにかかわらず、相違点に係る本件発明の構成を採用することは、以下に述べるとおり設計事項である。 甲第6号証には、以下のス〜ツの記載が図示とともにある(下線は当審で付した。)。 ス.「自動車等の車両に走行案内のための地図を表示する装置」(1頁右下欄5〜6行) セ.「操作部7は、・・・現在表示地図を1ランク疎にするための疎キー、及び現在表示地図を1ランク密にするための密キーを有する。」(2頁右上欄13〜18行) ソ.「地図データ記憶媒体2に予め記憶された地図データのデータ構成は、・・・地方別地図データの識別記号であるヘツダー11と、主要な交差点等の地点に関する地点情報列12と、国道等のルートに関するルート情報列13と、種々のサービスに関する記事情報列14とからなる。・・・各地点情報17-1,17-2は地点番号、地点レベル、地点種別、当該地点の地球座標のX成分、Y成分の情報からなる。・・・各ルート情報列18-1,18-2,……,18-Nはルート番号、ルートレベル、ルート種別、当該ルートを形成する地点についての地点番号群及びルート終了からなる。・・・交差点名称情報列20-1は地点番号、名称レベル、交差点名称の交差点情報21-1,21-2,……、からなる交差点情報群を有し、ルート名称情報列20-2はルート番号、名称レベル、ルート名称のルート情報22-1,22-2,……からなるルート情報群を有し、また目印名称情報列20-Mは地点番号、名称レベル、目印名称の目印情報23-1,23-2,……からなる目印情報群を有する。」(2頁左下欄12行〜3頁左上欄11行) タ.「地図データ記憶媒体2上の地図データにおけるレベル情報と、キー操作により指定されるサイズとの関係は次の表(イ)の通りである。」(3頁右上欄9〜12行) チ.「通常はサイズとレベルとの関係は上記表(イ)の如きものとされるが、疎キーまたは密キーが操作されると、各キーの1回の操作により両者の関係は次の表(ロ)、(ハ)のように更新される。」(3頁左下欄7〜10行) ツ.「例えば現在サイズ3に対応する地図が表示されている状態において、疎キーが1回操作されると、それまでレベル「0」、「1」、「2」、「3」のいずれかを有する地点又はルートが表示対象とされていたのが、レベル「0」、「1」、「2」のいずれかを有する地点又はルートが表示対象とされるようになり、従つてレベル3の地点又はルートが表示対象から除外され、表示される地図が疎になる。」(3頁右下欄本文1〜9行) 甲第6号証記載の「レベル」は、表(イ)等によれば、縮尺の小さな地図ほど小さい番号の地点等だけが表示されるように定めたインデックスである。また、「走行案内のための地図」に表示されるものは、交通上必要とされる情報であるから、縮尺を小さくしても表示するものは、それだけ交通重要度が高いといってよい。したがって、甲第6号証記載の「レベル」と本件発明の「表示すべき項目の交通重要度を表すインデックス」に相違はない。 そして、甲第6号証には、表示すべきレベルを変更すること(記載ツ)が記載されており、レベル「0」、「1」、「2」、「3」の表示対象がレベル「0」、「1」、「2」の表示対象に変更されるということは、変更前にレベル「0」、「1」、「2」、「3」として選択されていた表示対象から、追加の選択をすることによりレベル「0」、「1」、「2」の表示対象に制限する(レベル「3」を除外する。)ことである。 さらに、甲第6号証記載の上記技術は、特開昭61-251889号公報及び特開昭61-251890号公報にも記載されており、甲第6号証も含めたこれら文献は本件優先日の相当程度以前に頒布された刊行物であり、しかも「自動車等の車両に走行案内のための地図を表示する」(上記記載ス)技術(本件発明及び先願発明もそれに該当する。)はこれら刊行物が頒布されてから本件優先日に至るまでに日進月歩の進歩を遂げている技術であることを考慮すれば、甲第6号証記載の上記技術は本件優先日当時には周知となっていたと認めることができる。 そうである以上、相違点に係る本件発明の構成自体は、上記周知技術にすぎず、相違点に係る本件発明の構成をなすことは先願発明に上記周知技術を付加することにほかならないから、設計事項というべきであって、本件発明と先願発明とは実質的に同一である。この点については、前判決が「特許出願に係る発明と先願発明との間の相違点が周知の手段の付加であり,その特許発明が奏する作用効果が,先願発明が奏する作用効果と前記周知の手段がもたらす作用効果との総和にすぎない場合には,前記相違点はいわゆる設計上の微差にすぎず,その特許出願に係る発明は先願発明に単なる周知の手段を付加したものであって,先願発明と「実質的に同一である」と解するのが相当である。相違点はあってもその相違点に係る両発明の差が設計上の微差にすぎず,作用効果にも顕著な差がない場合にまで,これらを別個の発明としてそれぞれに特許を認めたのでは,特許制度になじまないことになるというべきであり,このような場合には,それぞれの発明は,技術的思想の創作としては同一であると評価するのが相当である。」(請求人が提出した甲第8号証18頁14〜23行)と判示したとおりである。 被請求人は、「請求人が周知慣用技術として引用する事項は、全て平面地図の表示に関するものであり、そもそも、平面地図を表示する場合と鳥かん図のごとき画像を表示する場合とではその信号処理が異なります。」(答弁書4頁24〜26行)などと主張している。 鳥かん図のごとき画像を表示する場合には、縮尺を連続的に変化したり、座標変換したり等、平面地図表示とは異なる信号処理を必要とすることは事実であるが、いったん表示した画像をより疎な画像に変更することに限れば、変更前に表示されている地形情報(選択された地形情報)から、より疎な画像に変更した場合にどの地形情報を残す(追加の選択)かだけの処理であり、この処理が平面地図と透視図(鳥かん図)とで異なると解することはできない。したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。 (3)以上のとおり、相違点に係る本件発明の構成を採用することは設計事項にすぎず、本件発明と先願発明とは実質的に同一発明と認める。また、本件発明の発明者と先願発明の発明者が同一人でないこと、及び本件出願時点において本件の出願人と先願の出願人が同一人でないことは明らかである。 したがって、請求項9に係る特許は、特許法29条の2の規定に違反してされた特許である。 第4 むすび 以上によれば、請求項9に係る特許は、特許法123条1項2号の規定により無効とされるべき特許である。 審判に関する費用については、特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-01-12 |
結審通知日 | 2006-01-17 |
審決日 | 2006-01-31 |
出願番号 | 特願平2-3274 |
審決分類 |
P
1
123・
161-
Z
(G09B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 深田 高義、原 光明 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
長島 和子 酒井 進 |
登録日 | 1999-01-08 |
登録番号 | 特許第2869472号(P2869472) |
発明の名称 | 地図表示方法及び装置 |
代理人 | 津軽 進 |
代理人 | 宮崎 昭彦 |
代理人 | 笛田 秀仙 |