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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F03G
管理番号 1138691
審判番号 不服2004-22604  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-11-04 
確定日 2006-06-22 
事件の表示 平成 6年特許願第 72043号「発電方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年10月27日出願公開、特開平 7-279827〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本件出願は、平成6年4月11日の出願であって、平成16年9月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年11月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年12月3日付けの手続補正書によって明細書を補正する手続補正がなされた。

[2]平成16年12月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成16年12月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の特許請求の範囲の記載
平成16年12月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の明細書における特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 ボイラで発生させた蒸気で蒸気タービンを駆動させて発電し、前記蒸気タービンから排出される排蒸気を海水を冷却水源とする復水器で冷却する火力発電における発電方法において、復水器の冷却水源として温度が15℃以下である深水層の低温海水を用い、復水器で沿岸域海水表面温度程度に加熱された温排水を海表面層に廃棄することを特徴とする火力発電方法。」
と補正された。
これは、補正前の、請求項2を引用する請求項3に記載した発明の構成に欠くことができない事項である「発電方法」を「火力発電における発電方法」と限定するものであり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.引用文献記載の発明
2-1.引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特公昭60-55682号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。

ア.「発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本発明は原子力又は火力発電所の復水器から出る排温水により低沸点流体サイクルを運転して、排温水の排熱を利用して動力を回収する発電所復水器排熱利用動力回収装置の運転方法に関するものである。
〔従来の技術〕
原子力又は火力発電所の復水器から出る排温水は一般に30℃前後、低沸点流体サイクルにおける冷却水温度は、海洋の深層冷水を利用したとしても7℃前後であるので、温度差は僅かほぼ22〜23℃程度であるが、この間の熱落差を利用して低沸点流体サイクルを運転してタービンをまわし、動力を得ることができる。
即ち、例えば火力発電所においては第1図に示す如く、スチームボイラ2、蒸気タービン3、発電機4、復水器5、ボイラーフイードポンプ6などより成る蒸気サイクル1からの排熱を表面海水取水ポンプ7で低沸点流体サイクル8の蒸発器9へ移し、低沸点流体サイクル8の作業流体をここで蒸発させ、この作業流体でタービン10を回転させて発電機11により動力を発生させたのち、深層冷水取水ポンプ14で汲み上げた冷水との間で凝縮器12に於いて熱交換して作業流体を凝縮させ、これを低沸点流体ポンプ13で再び前記蒸発器9に戻して低沸点流体サイクル8による熱サイクルを構成し、よってタービン10から継続的に動力を得るようになっている。
〔発明が解決しようとする問題点〕
ここで低沸点流体サイクル8は蒸気サイクル1の排熱を利用して動力を得るわけであり、従って温度レベルが低く、熱落差が小さいので、得られる出力のわりには機器の外形寸法は大きくなりがちである。これを小寸法とするためには、蒸気サイクル1からの排熱は最大限回収するように、そっくりそのまま全熱量を低沸点流体サイクル8に投入するのが好ましいと考えられ、それによって動力を最大限に回収しようとするのが従来の一般の考え方であった。
このような従来の考え方による場合には、ポンプ7によって海表面で取水された冷却用の海水が蒸気サイクル1の復水器5で受熱した温度上昇分の熱量は、その上昇分全熱量を低沸点流体サイクル8の蒸発器9で低沸点流体サイクル8の作業流体と熱交換して海水自体は温度降下し、再び元の海表面温度に戻って放水されることになる。」(第1頁左欄第19行〜第2頁左欄第9行。)

イ.「図面の簡単な説明
図面は本発明の実施例を示し、第1図はシステムのフロー図・・・である。
1……蒸気サイクル、2……スチームボイラ、3……蒸気タービン、4……発電機、5……復水器、6……ボイラーフイードポンプ、7……ポンプ、8……低沸点流体サイクル、9……蒸発器、l0……タービン、11……発電機、12……凝縮器、13……ポンプ、14……取水ポンプ。」(第5頁右欄第18行〜30行。)

(2)ここで、上記記載事項2-1.(1)ア.イ.及び第1図から、つぎのことがわかる。
ア.上記記載事項2-1.(1)ア.における「〔従来の技術〕・・・例えば火力発電所においては第1図に示す如く、スチームボイラ2、蒸気タービン3、発電機4、復水器5、ボイラーフイードポンプ6などより成る蒸気サイクル1からの排熱を表面海水取水ポンプ7で低沸点流体サイクル8の蒸発器9へ移し、低沸点流体サイクル8の作業流体をここで蒸発させ、この作業流体でタービン10を回転させて発電機11により動力を発生させたのち、深層冷水取水ポンプ14で汲み上げた冷水との間で凝縮器12に於いて熱交換して作業流体を凝縮させ、これを低沸点流体ポンプ13で再び前記蒸発器9に戻して低沸点流体サイクル8による熱サイクルを構成し、よってタービン10から継続的に動力を得るようになっている。」から、第1図には、スチームボイラ2で発生させた蒸気で蒸気タービン3を駆動させて発電し、蒸気タービン3から排出される排蒸気を、低沸点流体サイクル8の蒸発器9で冷却する火力発電方法が記載されていることがわかる。

イ.上記記載事項2-1.(1)ア.における「ポンプ7によって海表面で取水された冷却用の海水が蒸気サイクル1の復水器5で受熱した温度上昇分の熱量は、その上昇分全熱量を低沸点流体サイクル8の蒸発器9で低沸点流体サイクル8の作業流体と熱交換して海水自体は温度降下し、再び元の海表面温度に戻って放水されることになる。」から、蒸気タービン3から排出される排蒸気は、低沸点流体サイクル8の蒸発器9で低沸点流体サイクル8の作業流体と熱交換して海水自体は温度降下し、海表面温度の排水として放水されることがわかる。

ウ.上記記載事項2-1.(1)ア.における「〔従来の技術〕・・・第1図に示す如く、・・・蒸気サイクル1からの排熱を表面海水取水ポンプ7で低沸点流体サイクル8の蒸発器9へ移し、低沸点流体サイクル8の作業流体をここで蒸発させ、この作業流体でタービン10を回転させて発電機11により動力を発生させたのち、深層冷水取水ポンプ14で汲み上げた冷水との間で凝縮器12に於いて熱交換して作業流体を凝縮させ、これを低沸点流体ポンプ13で再び前記蒸発器9に戻して低沸点流体サイクル8による熱サイクルを構成し、よってタービン10から継続的に動力を得るようになっている。」から、第1図の蒸気サイクル1は、蒸発器9で発生させた作業流体の蒸気でタービン10を駆動すること、および、タービン10から排出される作業流体の蒸気を、深層冷水ポンプ14で汲み上げた冷水との凝縮器12に於いて熱交換して作業流体を凝縮させることがわかる。

エ.上記記載事項2-1.(2)ウ.から、凝縮器12の冷却水源として深層冷水を用いていることがわかる。また、上記記載事項2-1.(1)ア.における「〔従来の技術〕・・・低沸点流体サイクルにおける冷却水温度は、海洋の深層冷水を利用したとしても7℃前後である・・・。」から、深層冷水は7℃前後であることがわかる。

オ.上記記載事項2-1.(1)イ.上記記載事項2-1.(2)ウ.および第1図から、蒸気サイクル1は、タービン10を駆動させて発電するものであることがわかる。

(3)引用文献1記載の発明
上記記載事項(2)より、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。
「スチームボイラ2で発生させた蒸気で蒸気タービン3を駆動させて発電し、前記蒸気タービン3から排出される排蒸気を海水を冷却水源とする復水器5で冷却する火力発電における発電方法において、復水器5および蒸発器9で海表面温度にされた排水を放水する火力発電方法。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

2-2.引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平1-224405号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア.「2.特許請求の範囲
(1)蒸発器、蒸気原動機、凝縮器およびポンプを直列に接続した作動流体ループ内で作動流体を循環させ、蒸気原動機により発電機を駆動するようにしたバイナリー発電装置において、
凝縮器に供給する冷却水として下層海水を使用するとともに、凝縮器から排出される海水を水車タービンに導いて海水ポンプの動力を回収するようにしたことを特徴とするバイナリー発電装置。
3.発明の詳細な説明
産業上の利用分野
この発明は、特に離島や人工島等において電源を確保するのに好適な、下層海水を利用したバイナリ-発電装置に関する。
従来の技術
例えば特開昭60-144594号公報に記載されているバイナリ-発電装置は、第2図に示すように、蒸発器(2)、蒸気原動機(4)、凝縮器(6)、およびポンプ(8)を直列に接続して閉じた作動流体ループを構成し、この作動流体ループ内で作動流体としてフロンを循環させるようにしている。しかして液相のフロンが蒸発器(2)にて熱源から熱を奪って蒸発し、発生した高温・高圧のフロン蒸気は蒸気原動機(4)に供給され、発電機(10)を駆動するのに利用される。仕事を終えて低温・低圧となったフロン蒸気は、蒸気原動機(4)から排出されると凝縮器(6)へ進み、そこで冷却水に熱を与えて凝縮する。凝縮して液相となったフロンは、ポンプ(8)で再び蒸発器(2)へ送られる。
発明が解決しようとする課題
離島等における電源としてバイナリ-発電を利用する場合、従来のバイナリ-発電装置では凝縮器に供給する冷却水の冷却熱源にクーリングタワー(12)を用いていたため、気温の高い夏期には冷却能力が低下して発電出力が少なくなり、気温の低い冬期には冷却能力が高く、したがって発電出力が最大となる。しかし、電力負荷の方は冬期よりも夏期に増大するので、発電設備としては夏期の電力負荷に対応しうる能力が必要とされ、このため設備が全体的に過大なものとならざるを得なかった。
この発明は、このような問題点に鑑み、小型で経済的なバイナリ-発電装置を提供せんとするものである。
課題を解決するための手段
この発明は、蒸発器、蒸発原動機、凝縮器およびポンプを直列に接続した作動流体ループ内で作動流体を循環させ、蒸気原動機で発電機を駆動するようにしたタイプのバイナリ-発電装置であって、凝縮器に供給する冷却水として下層海水を使用するとともに、凝縮器から排出される当該海水で水車タービンを回すようにした。
作用
下層海水は季節による温度変化が少ないため、凝縮器の冷却能力を季節に関係なくほぼ一定に維持することが可能となり、したがって、発電出力が年間を通じてほぼ一定となる。」(第1頁左下欄第4行〜第2頁右上欄第2行。)

イ.「実施例
以下、第1図に示すこの発明の実施例について説明する。
この実施例は、温熱源として地熱水を使用し、冷熱源に下層海水を使用したバイナリ-発電装置である。
作動流体ループは参照符号(L)で指してあるが、図から明らかなように、第2図に示したものと異なるところはない。すなわち、作動流体ループ(L)は、蒸発器(2)、蒸気原動機(4)、凝縮器(6)、および作動流体ポンプ(8)を直列に接続して閉ループを構成している。作動流体ループ(L)内を循環させる作動流体としては、フロンを代表例として種々知られているものの中から適宜選択することができる。・・・勿論、蒸気発電機(4)の出力軸は発電機(10)と連結する。
凝縮器(6)には、海水取水ポンプ(14)と海水供給ポンプ(16)とによって下層海水が供給される。海水取水ポンプ(14)は下層海水を取り入れるため海中に設置してある。なお、ここに下層海水とは、水温が安定しており季節等によって大きく変動することがないという程度の意である。
海水供給ポンプ(16)は陸上に設置され、海水取水ポンプ(14)から送られてくる下層海水を、所定圧力で発電装置の凝縮器(6)へ供給する。海水供給ポンプ(16)はモータ(18)で駆動される。このモータ(18)には水車タービン(20)を連結してあり、凝縮器(6)から排出される海水はこの水車タービン(20)に導かれ、水車タービン(20)を回したうえで海に放流される。」(第2頁右上欄第8行〜第2頁右下欄第6行。)

ウ.「蒸発器(6)には適当な熱源流体を供給するが、この実施例では地熱水により昇温せしめた温水を供給するようにしている。すなわち、地熱水は一旦タンク(22)に溜め、地熱水ポンプ(24)で熱交換器(26)へ送られ、温水に熱を与えた後タンクに戻される。なお、タンク(22)内の地熱水は、温泉や暖房その他の用途にも適宜利用することができる。熱交換器(26)にて地熱水から熱を受け取って昇温した温水は温水ポンプ(28)で蒸発器(2)に送られ、作動流体に熱を与えた後熱交換器(26)に還流する。
発明の効果
以上説明したように、この発明によれば、冷却熱源に温度変化の少ない下層海水を使用するので、凝縮器の冷却能力が季節等によって変動することなく年間を通じて安定する。したがって、発電能力を電力負荷の増大する夏期に対応して設定しても、従来のように冬期に冷却能力が増大して余分な発電出力を抱えることになるといったような不具合がなく、小型で経済的なバイナリ-発電装置を提供することができる。」(第2頁右下欄第14行〜第3頁左上欄第14行。)

(2)ここで、上記記載事項2-2.(1)ア.ないしウ.及び第1、2図から、次のことがわかる。
ア.上記記載事項2-2.(1)ア.における「蒸発器、蒸気原動機、凝縮器およびポンプを直列に接続した作動流体ループ内で作動流体を循環させ、蒸気原動機により発電機を駆動するようにしたバイナリー発電装置において、凝縮器に供給する冷却水として下層海水を使用する」から、蒸気原動機により発電機を駆動するようにしたバイナリー発電装置において、凝縮器に供給する冷却水として下層海水を使用するものであることがわかる。

イ.上記記載事項2-2.(1)イ.における「実施例・・・この実施例は、温熱源として地熱水を使用し、冷熱源に下層海水を使用したバイナリ-発電装置である。・・・作動流体ループ(L)は、蒸発器(2)、蒸気原動機(4)、凝縮器(6)、および作動流体ポンプ(8)を直列に接続して閉ループを構成している。・・・・・・勿論、蒸気発電機(4)の出力軸は発電機(10)と連結する。凝縮器(6)には、海水取水ポンプ(14)と海水供給ポンプ(16)とによって下層海水が供給される。海水取水ポンプ(14)は下層海水を取り入れるため海中に設置してある。なお、ここに下層海水とは、水温が安定しており季節等によって大きく変動することがないという程度の意である。海水供給ポンプ(16)は陸上に設置され、海水取水ポンプ(14)から送られてくる下層海水を、所定圧力で発電装置の凝縮器(6)へ供給する。・・・凝縮器(6)から排出される海水は・・・海に放流される。」および第1,2図から、蒸発器(2)で発生させた蒸気で蒸気原動機(4)を駆動させて発電し、蒸気原動機(4)から排出される排蒸気を海水を冷却水源とする凝縮器(6)で冷却するバイナリー発電における発電方法であること、凝縮器(6)の冷却水源として下層海水を用いること、および、凝縮器(6)から排出される海水は海に放流されることがわかる。また、冷却水源としての下層海水は凝縮器(6)にて加熱されることがわかる。

(3)引用文献2記載の発明
上記2-2.(2)より、引用文献2には次の発明が記載されていると認められる。
「蒸発器(2)で発生させた蒸気で蒸気原動機(4)を駆動させて発電し、前記蒸気原動機(4)から排出される排蒸気を海水を冷却水源とする凝縮器(6)で冷却するバイナリー発電における発電方法において、凝縮器(6)の冷却水源として下層海水を用い、凝縮器(6)で加熱された海水を海に放流するバイナリー発電方法。」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

3.対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「スチームボイラ2」、「蒸気タービン3」、「復水器5」が、本願補正発明における「ボイラ」、「蒸気タービン」、「復水器」に相当する。
また、引用文献1記載の発明の「復水器5および蒸発器9で海表面温度にされた排水を放水する」は、海表面温度程度にされた排水を海に廃棄する限りにおいて、本願補正発明の「復水器で沿岸域海水表面温度程度に加熱された温排水を海表面層に廃棄する」に相当する。

したがって、両発明は、
「ボイラで発生させた蒸気で蒸気タービンを駆動させて発電し、前記蒸気タービンから排出される排蒸気を海水を冷却水源とする復水器で冷却する火力発電における発電方法において、復水器の冷却水源として海水を用い、海表面温度程度にされた排水を海に廃棄する火力発電方法。」
である点で一致し、次の点において相違している。

(1)相違点
<相違点1>
本願補正発明においては、復水器の冷却水源として温度が15℃以下である深水層の低温海水を用いているのに対し、引用文献1記載の発明においては単に海水を用いている点。

<相違点2>
本願補正発明においては、復水器で沿岸域海水表面温度程度に加熱された温排水を海表面層に廃棄するものであるのに対し、引用文献1記載の発明においては、復水器5および蒸発器9で海表面温度にされた排水を放水するものである点。

4.判断
上記相違点1、2について検討する。
(1)相違点1について。
引用文献2記載の発明と本願補正発明とを対比すると、引用文献2記載の発明の「蒸気原動機(4)」は、本願補正発明の「蒸気タービン」に相当する。引用文献2記載の発明の「蒸発器(2)」は、蒸気を生成する機能を有するものである「蒸発器」である限りにおいて、本願補正発明の「ボイラ」に相当する。また、引用文献2記載の発明の「凝縮器(6)」は、蒸気を冷却することで液体とする機能を有するものである「凝縮器」である限りにおいて、本願補正発明の「復水器」に相当する。
したがって、引用文献2に記載の技術思想は、「蒸発器で発生させた蒸気で蒸気タービンを駆動させて発電し、前記蒸気タービンから排出される排蒸気を海水を冷却水源とする凝縮器で冷却する発電方法において、凝縮器の冷却水源として下層海水を用い、凝縮器で加熱された海水を海に放流すること」というものである。
また、引用文献1には、「温度が7℃前後である深水層の低温海水」を冷却水源として用いることも記載されていることから、引用文献2記載の技術思想を引用文献1記載の発明に適用して、復水器の冷却水源を温度が15℃以下である深水層の低温海水とすることで、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。

(2)相違点2について。
引用文献1記載の発明においても、排水は海表面温度としたものであり、また、高温の温排水を海面に廃棄すると環境に悪影響を及ぼすという問題は、本件特許出願前に周知の事項である(特公昭63-54882号公報、特開平3-3902号公報)。そして、冷却水としてより低温のものを用いれば、その温排水も低温となし得ることは自明であるから、上記相違点1に係る本願補正発明の構成を採用するにあたって、温排水の温度を海表面温度程度とし、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
また、本願補正発明を全体として検討しても、引用文献1記載の発明、上記技術思想及び本件特許出願前に周知の事項から予測される以上の格別の効果を奏するとも認めることができない。

以上から、本願補正発明は、引用文献1、2記載の発明及び本件特許出願前に周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[3]本願発明について
1.以上のとおり、平成16年12月3日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成15年11月26日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりである。

「【請求項1】 ボイラで発生させた蒸気で蒸気タービンを駆動させて発電し、前記蒸気タービンから排出される排蒸気を海水を冷却水源とする復水器で冷却する発電方法において、復水器の冷却水源として深水層の低温海水を用い、復水器で加熱された温排水を海表面層に廃棄することを特徴とする発電方法。」

2.引用文献記載の発明
引用文献1、2には、上記[2]2.のとおりのものが記載されている。

3.対比、判断
本願補正発明は、本願発明をさらに限定するものであることから、本願補正発明が、上記のとおり、引用文献1記載の発明、引用文献2記載及び本件特許出願前に周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-19 
結審通知日 2006-04-25 
審決日 2006-05-09 
出願番号 特願平6-72043
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早野 公惠  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 関 義彦
長馬 望
発明の名称 発電方法  
代理人 渡部 崇  
代理人 石川 祐子  
代理人 萩原 亮一  

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